IS 千の冬の物語   作:smsm

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本日は2話連続投稿しました。
まだ読んでない方は第9話へどうぞ。


第10話

既に日は落ち、時刻は夜の7時くらいだろうか。

キキィィッ!とブレーキがかかる音が響いて、車が停止する。

停止したのは、一軒の家の門の前。古き良き日本の、名家の家という印象を抱かせる。

バタンッ!と勢いよく扉が閉められ、車を降りたのは二人の少女。更識 刀奈とその従者である布仏 虚だった。

 

(大きい家ね……。更識の家よりも大きいんじゃないかしら?)

 

その大きさを見て、思わず自分の家と比べてしまう刀奈。

 

(………いえ、今はどうでもいいか。ともかく、此処に簪ちゃんがいるはず。)

 

運転手を車に待たせ、自らの従者と共に門の目の前まで進む。名家に相応しいような表札にははっきりと『天王寺』と彫られていた。

刀奈は備え付けられたインターホンに手を伸ばす。

 

「お嬢様、私が……」

「いいわ、私が話す。」

 

従者を制止しインターホンのボタンを押す刀奈。

ピンポーン…とこちらは巨大な門や家に似合わない、どこにでもある普通の音であった。

数秒待つと、『……はい』と女性の声が聞こえてきた。この家の従者の人間だろうか。

 

『どちら様で、何の御用でしょう?少なくともこのような時間に来るとは、あまり良い教育を受けていない方のようですが?』

 

誰が来ているのか、モニターを見て分かっているはずの上でこの言い方だ。どっちが『良い教育』を受けてないのか…と言いたくなる気持ちを抑え、刀奈はあくまで冷静に話す。

 

「夜分遅くにお伺いしてしまい、大変申し訳ございません。先程、ご連絡いたしました、私、更識 刀奈と申します。こちらは従者の布仏 虚です。」

『……なるほど。それで?その更識様は何用でこの天王寺家へお越しに?』

「……更識 簪。こちらに居ると聞きましたが?」

『…ええ。確かに『簪様』はいらっしゃいますが?』

(やっぱり…ね。それに……)

 

自分の妹が既に、他人の家の『家族』として迎え入れられている。そんな事実に、刀奈は思わず苦虫を噛み潰したような思いをする。

 

「彼女と話がしたいのです。会わせてください。」

『……。』

 

従者らしき女は黙っている。

 

『……少々お待ちください。今、確認を取ります。』

 

女の声が途絶えた数分後、門が開かれ現れたのは……

 

「ふむ…。一応、初めまして…と挨拶するべきかの?」

「……ご足労をおかけしてしまい、申し訳ございません。天王寺 縁様。」

 

天王寺 縁。世界有数の大富豪にして大企業にまで発展した天王寺グループの創設者兼会長を務める人間。既に高齢なれど、その力は各国の政治にも影響を及ぼす程で、IS学園にも多大な援助をしている。そんな男がわざわざ玄関まで足を運んだのだ。

しかし、刀奈の目的は彼ではなく、簪ただ一人。

 

「いやいや、偶には身体を動かさんとのう。……ま、そんなことはお主にはどうでも良いことじゃったな。」

「お話が早くて助かります。……それで、更識 簪は何処に?」

「更識 簪という名の少女は此処には居らん。人違いではないか?」

「そんな詭弁は通用しません。」

「とは言ってもの…。既に更識の頭首とは話がついておる。」

「私は、まだ納得していません。」

「何故、お主の納得がいる?これは娘とその親の問題じゃ。関係ない者は下がっておれ。」

「関係ないのは、そちらでしょう!?私は、あの子の姉です!」

「……ふう。やれやれ…。」

 

まるで、駄々をこねる子供のように扱われている。そう感じた刀奈は激昂する。

 

「……だ、そうだが?『簪』。」

「………えっ!?」

「……。」

 

意識の外、門の陰から現れたのは……簪だった。

 

「簪ちゃ…」

「何しに来たの?」

「何って…」

「更識の家とは話はついた。……もう、貴女とは何の関係もない。だから帰って。」

「なんで、」

 

簪の、あくまで淡々とした態度に困惑を隠せない刀奈と、そんなことはお構いなしに言葉を続ける簪。「それに、」と言葉を続ける。

 

「良かったでしょ?私が居なくなって。……これで、更識のトップは問題なく貴女になる。」

「そのために、私が何かしたとでも?」

「違う。更識の名を捨てたのは、紛れもなく私の意思。でも、貴女は言ったでしょう?『無能なままでいなさいな』って。」

「それは…」

「ふざけるな!私は、私は無能なんかじゃない!」

「か……簪ちゃん……。」

 

怒りを露わにしながらも、その目には涙が浮かんでいる。

刀奈は彼女に向かって手を伸ばす。しかし……誰かにその腕を掴まれる。

 

「……そこまでだ。」

 

縁とは違う、若い男…簪と同じくらいの年齢だろうか。そして、その男の顔に刀奈は見覚えがあった。

 

「貴方……『織斑一夏』!?」

(織斑一夏……織斑先生の弟だった少年。1年ほど前、彼女の下を離れ天王寺家に引き取られたことは知っていたけど……写真で見たのと雰囲気が違う……!?)

「……間違えるな。俺は『天王寺 夏人』だ。あのブリュンヒルデ様とは何の関係もない。」

 

そう吐き捨てる夏人の顔は、ひどく不愉快そうにしていた。

彼は掴んでいた手を離し、簪の肩に手を置いた。そして、縁のほうを向き話しかける。

 

「親父、もういいだろう?お客さんには帰ってもらおう。」

「……そうじゃな。」

「話はまだ、」

「いいや、終わりだ。帰ってくれ。」

 

抗議しようとする刀奈の言葉を、夏人が遮り、門が閉じられようとしている。

 

「待って!簪ちゃ……」

「帰って!二度と…二度と会いに来ないで!」

「……そんな…。そんなのって…。」

 

バタンッ!と門の戸が無情にも閉められ、開くことはなかった。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋にノートに文字が書き込まれる音が響きわたる。時刻は午後11時。今日の授業を終えた凪は、学んだことの復習をしていた。

 

(今日のは難しかった…。千冬さんが早めに来てくれて助かった。)

 

そう、今日のIS座学は応用の中でも特に難しい範囲だった。本来なら教育係の一人、更識 刀奈が急な用事のため来ることができなくなってしまい、途中まで千冬と連絡を取りながら、ほぼ自力で問題を解いていたのだ。

 

(しかし、本当にどうしたんだ?いつもなら、前日には連絡を入れるのに。)

 

思い返されるのは、昼に電話をしてきた、彼女の落ち着きのない声。何があったのかは分からない。しかし、大変なことだったのだろう。そう思いながら、ノートに解法を書いていく。

すると、コンコン…と部屋のドアを叩く音がした。

 

「はい、どちら様?」

「……更識です。今、大丈夫ですか?」

 

聞こえてきた声の主は刀奈だった。

 

「刀奈ちゃん?うん、大丈夫だよ。」

「失礼します。」

 

部屋に入ってくる刀奈。しかし、その顔は……。

 

「今日は、こちらに来れなくて本当にすみませんでした。」

 

開口一番、頭を下げ、謝罪してきた。

 

「…いや、気にしなくてもいいよ。何とかなったしね。そんなことより…大丈夫かい?」

「……何が、ですか?私はいつも通りですよ。」

「……本当に?」

「はいっ!」

「……そっか。じゃあ、来たついでにこの問題を教えてくれるかい?」

 

刀奈は元気よく答え、説明を加えながら解法をノートに書いていく。

 

「……。」

「み、御波さん、聞いています?」

「ん、大丈夫だよ。ありがとう。」

「そ、そうですか…。」

 

凪は再びノートに目を落とし、問題を解いていく。しかし、今度はチラチラと刀奈の顔を見ながらではあるが。

 

「………。」

「………。」

「………。」

「…………………あの、どうしたんですか?」

「やっぱり、何かあったんだろ?」

 

刀奈は再び口を閉じる。だが、

 

「家族のことかな?」

「……っ!ど、どうしてそう思うんですか?」

「今の刀奈ちゃんと似たような目をしてた人を、二人くらい知っているからね。っと、ここの解き方は……ああ、これか。」

「………。」

 

そう指摘され、ドキリとする刀奈。しかし、凪の視線はあくまで下を向いている。

 

「……何も、聞かないんですか?」

「聞いて欲しいのかい?」

「そうでは、ないですけど……。」

「プライベートなことだろう?俺が何とかできるとは、思えないし。」

「……正直なんですね。」

「そうでもないさ。嘘だって吐くよ、俺は。」

 

そう軽口を叩く凪。「俺なんて」と謙遜した言い方で話を続ける。

 

「できることと言ったら…そうだな、もう少し此処に居て、教えてくれないか?今日の復習、結構難儀しててさ。」

「……え?」

「刀奈ちゃんが良ければ……だよ。もしかしたら、気は紛れるかもしれない。」

「…………良いんですか?」

「勿論。あ、飲み物は緑茶しかないけどね。」

「そんなこと、気にしません。」

「そうかい?じゃ、ここ教えてくれる?」

 

そう言って手招きし、刀奈を目の前に座らせる。

 

「…………あの、これは?」

「気にしない、気にしない。」

 

彼女の頭に手を乗せ、左右に動かしながらノートに書いていく凪。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。………………凪さん。」

 




約8話ぶりの一夏登場&初登場、一夏の引き取り手



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