「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ちゅどーん!とISが叩き落とされた音がアリーナに響きわたる。
「『打鉄』
直前の試合の結果が刀奈によって報告される。先程撃墜された機体は、凪が操る訓練用IS『打鉄』。それを墜としたのは、織斑千冬の専用機『暮桜』。
「ま、また負けた………。」
「ふむ…。これで私の戦績は267戦267勝か。しかも今回は5分ももたなかったからな。パワーアシストをオフでアリーナ内5周だ。行って来い!」
「鬼ぃぃぃぃ!」
「7周に追加な。」
「しまったぁぁぁ!」
敗北のペナルティに加え、言わなくて良いことを言ってしまい罰を増やされる凪。
彼には模擬戦で敗北もしくは教育係の提示する条件を満たせなければペナルティが与えられる方針になっており、現在までの模擬戦敗北数は刀奈戦の237戦234敗を足して501敗……つまりほぼ全敗しているのである(刀奈戦の3勝はハンデあり)。ペナルティ数は流石に敗北数より少ないが。
モンドグロッソ2連覇の世界最強とIS学園で認定された専用機持ちが相手で、勝てというほうが無茶な話でもある。
「精が出ますね。」
「……十蔵さん、帰ってきてらしたのですか。たしか、ジュネーブのIS委員会本部に居たのでは?」
そこに現れたのは、学園長の夫、轡 十蔵であった。
「ええ。少し前に帰って来たんですよ。色々と決定事項がありましたから、それをお伝えしに。」
「そうでしたか。凪、走り込みは一時中断だ。更識もこっちへ降りてこい。」
「分かりました。」
「りょ、了解…。」
一人、軽くグロッキーになっているのがいたが……見事に無視されていた。
全員が集まったところで、十蔵が話を切り出す。
「さて、委員会で決定したことをお伝えします。」
「もしかして、私に関することですか?」
期限となる1年まで、あと少しというところまで差し迫っているため、凪…男性操縦者の扱いについて議論になるのも当然と言えよう。
「ええ、その通りです。試験内容が確定しました。……試験は2ヵ月後。筆記と実技の両方が行われます。」
「……まあ、普通の試験ですね。」
「…問題は、その内容ですね?」
「はい。筆記試験は通常のIS学園の教員採用試験の難易度そのままで、試験監督に学園の教員と委員会から派遣される人間の二人。まあ、こちらは想定通り……といったところでしょうか。」
「そうですね。過去問でも、十分に狙える点数を取れていますし、凪さんの問題は寧ろ、実技のほうですね。」
余談だが2か月前から、刀奈からの呼び名が『凪さん』に変わっていることに、凪本人が気付くのにひと月かかっている。さらに本人は何も気にしておらず、親しくなった程度にしか考えていない。戦慄したのは、千冬のほうであった。
「……実技試験のほうですが、こちらは委員会より変更の申請が通されました。」
「ま、まさか織斑先生を倒せ!とか?」
「流石にそれは……と言いたいところですが、あながち間違ってもいません。模擬戦を行い、相手のSEを半分にするか制限時間まで生き残るか、です。」
「ん?逃げ切りも合格条件なんですか?なら、けっこう…」
凪は訓練と称して、千冬と刀奈に幾度となく追い回されている。その結果、『
アリーナの壁や床に激突した回数なら世界一になれる、と言えるくらいにはぶつかっており、アリーナ内なら目を瞑ったままでも飛び回れる!と自ら豪語してしまっている。
つまり相手にもよるが、逃げ切るだけなら不可能ではない。その相手が並の相手であれば……だ。
「模擬戦の相手は………イーリス・コーリング。アメリカ代表で軍属の女性です。」
「「………っ!?」」
「…代……表?」
国の代表操縦者。その言葉の意味するところは………
「織斑先生と刀奈ちゃんくらいの実力者……ってことですか…?」
「実力は私より織斑先生に近いです。」
「……情報ありがと…。」
「……イーリスか……………。」
「織斑先生、せめて何か言ってくださいよ!」
千冬の無言に冷や汗を掻き始める凪。駄目かもしれない。そんな空気が三人に漂い始めた。
空気を察して、十蔵が話を続ける。
「………一応、ハンデはありますよ?」
「内容は?」
「先程も言った通り、イーリス選手のSEを500以下にすること。それに加えて御波さんのSEを公式戦の規定値である1000の3倍…3000にすることと、武装に関しても制限なしと決定しました。」
「じゃ、じゃあ……」
「まだまだ厳しい状況だがな。さっきよりは救いがある。さて、どうするか…。」
「取り敢えず、逃げ切る方向性で作戦を立てるべきですね。向こうは確実に専用機で来るでしょうし。」
小さな希望が見えてきたため、安堵する凪と早速、対策を考え始める千冬と刀奈。
「そうだな。……なら、『打鉄』では厳しいな。『ラファール・リヴァイヴ』で挑むべきか…。学園長に申請を出しておかなければ。」
「それなら、私が妻に話しておきましょう。今からでも変えて下さって構いませんよ。」
「ありがとうございます。……凪、『打鉄』から『ラファール』に乗り換えろ。」
「『ラファール』に…ですか?……ああ、なるほど。」
「そういうことだ。『打鉄』は耐久や安定性に優れているが、スピードは余り出ない。逃げるなら『ラファール』のほうがいい。慣れる必要もあるしな。」
「確かに。……でも、機体ってホイホイ変えても良いんですかね?」
「問題ありませんよ。御波さんの乗っている『打鉄』は実質的に専用機みたいな扱いになっていますが、あくまで交換するだけですし。それに、数は少ないですが今月に新たなコアが配布されたことによって学園にも『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』が何機か配備される予定ですから。」
「なるほど。………あれ?」
「凪さん、どうしました?」
十蔵の言葉に疑問を持つ凪。
「ISのコアって最大個数が決まっていたはずでは?篠ノ之博士が作らなくなったからって。」
「お前はニュースくらい見ろ。………3ヵ月ほど前から、たば………篠ノ之博士が再びISコアを配り始めたと、ニュースで報道されていただろ。」
「自慢じゃないですけど、この1年間テレビや新聞なんて目を通してさえいません!そんな暇ないですし!今日が何曜日かも分かってないです。一日の大半は地下で勉強ですし、地上に出ても訓練しかやってません!」
「凪さん、それ威張ることじゃないです。」
「他の人との情報格差が恐ろしい。………どうして、また作るようになったのでしょうね、篠ノ之博士は。」
「さあな。……………アイツの考えは、私にはもう分からん。」
ボソリ…と呟いたその言葉を聞くものはいなかった。
十蔵は許可申請に行ったため、三人で作戦を考えることになった。
「さて、どうしてくれますか?」
「丸投げはダメですよ?一緒に考えましょう。」
刀奈に釘を刺される。
「と言っても、俺はイーリス選手のこと、あんまり知りませんし。」
「……専用機はアメリカの第三世代型IS『ファング・クエイク』。私の『暮桜』と同じ近接格闘型だ。本人の性格も『寄らば殴る、離れていたら寄って殴る』という感じだ。」
「な、殴るんですか……。性格もまんま織斑先生ですね。」
「どーいう意味だ?」
「殴るか斬るかの違いしかない……って頭が割れるぅぅぅぅ!?」
情け容赦ないアイアンクローが凪を襲う。自業自得である。
そんな状態の凪を放置して、刀奈は話を続ける。
「近づかれたら厄介で、操縦技術も代表に相応しいものですが、逆を言えば接近戦しかしてこないので、対処法はありますよ。あと一応、IS用ナイフも持ってます。基本はマニュピレーターでの格闘戦ですが。」
ふむ…。と解放された凪は考えて始める。
戦術は千冬と同じ、技術は刀奈と同等以上。専用機である以上、本人に合うように調整されているはず。対して、凪の機体はあくまで学園の訓練機。操縦者である凪に機体を合わせる
「……とにかく、近づかれないようにするべきだな。単純に逃げ回るだけでは、いつか追いつかれて攻撃を喰らうことになる。」
「じゃあ、迎撃するしかないわけですか。」
「そうですね。幸い、凪さんの射撃技術は平均以上ですし。」
「あくまで平均以上なだけなんだけどね…。」
「下手よりは良い。それに、イーリスのSEを500まで減らすことでも勝ちになるなら、SEを減らすほど攻めの勢いが弱まるということにもなる。」
「心理的なプレッシャーになる…と?」
「希望的観測だがな。……アイツの場合は寧ろ、突っ込んで来そうだが……そこは運任せになる。」
「わー……誰かにそっくりだぁ~。」
凪は千冬ともハンデ戦を行ったことがあるのだが、SE残量100で喜々として突撃する千冬には恐怖を覚えた。
「とにかく、訓練を始めるぞ。目標は『瞬時加速』と『後方瞬時加速』を維持した状態での命中率の安定化だ。」
「「了解っ!」」
採用試験まで、あと2か月
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