IS 千の冬の物語   作:smsm

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12話目で初のIS戦

難しい……。
安西先生、文章力が欲しいです。


第12話

御波 凪がISに触れて約1年が経過した。

つまり……遂に、『その日』が訪れたということだ。

 

 

 

「え、え…と、そ、それではIS学園教員採用試験を開始します。一次試験として基本教養試験は英語・数学・物理・化学・世界史の順で各60分ずつ。御波さんの場合は専門教養試験としてIS座学を60分、模擬授業による二次試験を60分となっています。それぞれの試験間の休憩時間は20分で、昼休み休憩として45分の休憩があります。その後1時間の休憩を取り、実技試験として模擬戦を行ってもらいます。……よろしいですか?」

「はい。」

 

凪は今、学園の一教室で試験官……山田 真耶の説明を聞いていた。最初に見たときはその童顔に、本当に教師なのかと疑いを持った。教壇に立つ際に、何もない所でつまずきこけたため、更にその疑惑を深めることにもなる。ただ……身体のとある部分の主張が激しかったため、大人なのだろうと思うしかなかった。

それはともかく、彼はもうすぐ試験だということだ。この1年でやるべきことは全てやり終えている。一般教養は勿論、専門知識や模擬授業に関しても千冬や芳恵、十蔵らからお墨付きをもらえるほどには上手く出来ていた。

問題は、試験会場の状況とスケジュールだろう。試験会場となっている教室には山田試験官の他に、委員会より派遣された女性(こちらは正にお役所の人間と言った雰囲気だ)がいる。それだけならば良い。

しかし、凪の行動を監視するためなのか、小さいながらもカメラが数台設置されていた。気にするべきではないのだが、全く気にするな…とはならない。スケジュールに関しても、嫌がらせのような意図を感じてしまう。普通なら一次試験と二次試験は日にちを分けるべきであるのに、模擬戦までも今日中に終わらせるつもりだ。受験者の体力を考えていないにも程がある。

 

(委員会はどうしても俺を実験材料にしたいらしい。……まあ、本来はそっちにしか価値が無いのだから当然か。)

 

愚痴を言ったところで、今さら変わりはしないだろう。そう自分に言い聞かせて気合いを入れ直す。

 

「それでは、英語の問題用紙と解答用紙を配ります。」

 

そう言って2枚の紙が机の上に置かれる。

 

(取り敢えず、今は目の前の問題に集中するか。)

「……それでは、試験開始!」

 

運命を左右する試練の幕が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はい、それでは一次試験及び二次試験を終了します。1時間後、第2アリーナにて、最終試験として模擬戦を行います。10分前には準備を完了させておいてくださいね?」

「分かりました。」

 

そのことを伝えた真耶は教室を出ていく。続いて役人気質(あくまで雰囲気が)な試験官が教室を出る。

 

(ふう……。やっと終わったか。…最後の機体チェックもあるし、早めに行くか。)

 

休憩なら、あちらでも出来るだろう。そう思い、取り敢えず第2アリーナへ向かう。

 

 

 

第2アリーナに到着した凪は自身の乗り込む『ラファール・リヴァイヴ』の整備を進めながら、千冬と話していた。

 

「それで、試験はどうだったんだ?」

「概ね大丈夫かと。ケアレスミスを考えても、合格点には届いているでしょう。」

「模擬授業は?」

「そっちのほうは……いつも通りに出来たと思うのですが……。」

「なら、大丈夫さ。」

 

未だ結果を知らされていないにも関わらず、確信したように千冬は言う。

 

「そ、その自信はいったい何処から………」

「他でもない、この『私』が教えたのだからな!」

「いやいや……。」

 

そうドヤ顔で豪語する千冬に呆れる凪。『私』と強調した辺り、もう一人の少女のことを完全に放置している。………もし水色の髪の彼女が此処にいれば「私も頑張りましたよね~凪さん♪」と言って凪の身体に抱き着くだろう。それで拳を握りしめ、悔しそうな顔をする羽目になるのは千冬だったりする。

 

「それに………お前なら大丈夫だ。私はそう確信している。」

「………。」

 

照れ臭そうにする凪。その顔は少し赤くなっている。

 

「………で、では……次の模擬戦も?」

「…………………………勿論だ。」

「今の間は?」

「さあ、そろそろ模擬戦の時間だ。準備は良いか?」

「スルーされた!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

整備を終わらせた『ラファール・リヴァイヴ』に乗り込み、カタパルトに接続する。

 

「最終チェック。…………パワーアシスト良好、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)及びハイパーセンサー、スラスター問題無し。機体コンディション、オールグリーン。……チェック終了。」

 

最終チェックを終えた直後に真耶から通信が開かれる。

 

「イーリス・コーリング選手の『ファング・クエイク』、準備完了しました。御波さん、準備はよろしいですか?」

「はい、行けます。」

 

 

 

「………頑張ってこい。凪。」

「はい。」

千冬からの最後の激励に応える。

 

 

 

「『ラファール・リヴァイヴ』発進どうぞ!……こっそり応援してますね、御波さん。」

「『ラファール・リヴァイヴ』行きます!………ん?あれ、何処か……でぇ!?」

 

随分と締まりのない声と共にカタパルトより飛び出してしまう。山田 真耶という女性と会ったのは今日が初めてのはずだが……。まあ、後で考えれば良いだろう。

目の前には……一機のISとそれを纏う女性の一組。(バイザーで顔は見えないが)彼女がアメリカ代表イーリス・コーリング選手と専用機『ファング・クエイク』だろう。

 

「おう、来た……か……?」

「よ、よろしくお願いします。……何か?」

「…………。」

 

イーリスは凪のほうをジロジロと見ている。

 

「………趣味なのか?それ。」

 

彼女が指をさす方向には……凪が着ているISスーツ。結局この一年間、ずっと着続けてきたものだ。そもそもとして、女物だったことはすっかり忘れてしまっていた。慣れてしまっていた……とも言う。

 

「……どっちだと思います?」

「教えろよ。試合中も気になるだろ。」

「なら好都合です。ずっと気にしておいてください。30分くらい。」

「ぬかせ。その間に逃げ回る気だろ?やっぱ、終わった後で聞くことにするわ。」

 

作戦失敗。自分が変態なのか、そうでないのか。気にさせて集中力を削ぐ事ができるかと思っていた彼……。…………何故か、情けなさを感じていた。

 

「あ、あのぅ…そろそろ始めたいんですけど……。」

「りょ~か~い。」

 

困った顔をする麻耶に、気の抜けた声で返事をするイーリス。

 

「で、ではカウントダウン開始します。10……9……8……」

 

「ま、アタシも仕事だからな。本気で行かせて貰うぜ?」

「加減して下さっても良いですよ。」

「やだね。」

 

「4……3……2……1……」

 

 

 

「実技試験、開始!」

その声と共に試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 

 

瞬間

 

 

 

アリーナに張られているシールドに衝撃が走る。

 

「チッ……。避けやがったか。」

 

『ファング・クエイク』の拳がアリーナのシールドを打ち付けていた。

 

(……あの機体のコンセプトって安定性と稼動効率に特化させてたはずだよな?…速過ぎる。『瞬時加速』で回避してなかったら、直撃してた。)

 

「今のに反応して避けるとはな。伊達に世界最強や専用機持ちと訓練してなかった…てことか?」

「……それはどうも。」

 

冷や汗を掻いている凪と違い、イーリスは飄々としている。

 

「……よっ…とぉ!」

 

ゴォッ!と風を切る音とともに、再び突っ込んで来た。

今度も右に回避する……が、今度はシールドにぶつかることはなく、急停止し腕を水平に振りかぶってくる。……右手にナイフを持って。

 

「………っ!!『ヴェント』!」

 

凪は後ろに飛び、アサルトライフル『ヴェント』を2丁展開し、引き金を引く。

だが、イーリスは回避せずにそのまま向かって来る。

(弾丸は……一発も当たってない!?ナイフで斬ってるのか!?)

 

「この……出鱈目な!」

 

『ファング・クエイク』を引き離すため、『ヴェント』を放ちながら後退する。

(……くそ、まぐれ当たりくらいか。SEは殆ど減ってない。何とか一定の距離を保つだけで精一杯だ。)

 

「おいおい、よく狙えよ!(あの速度で逃げ回りながら、なんつー命中精度だよ!?追いかけなきゃならん以上、弾くことはできても、躱せねえ!)」

「そっちが弾いてるだけだろ!」

 

逃げる『ラファール・リヴァイヴ』を追う『ファング・クエイク』。一方はただ滅茶苦茶に撃っているわけではなく、『後方瞬時加速』を使って逃げ回りながらも、弾丸を節約するために出来るだけ正確に狙いをつけて引き金を引く。もう一方は向かって来る弾丸全てに対応せず、直撃するもののみを瞬時に判断し弾いていく。

どちらも生半可な訓練で身に付くようなものではない。それはつまり、二人の技量レベルの高さを示していた。

 

 

 

 

逃走と追跡を続けていた二人だが、戦況に変化が現れる。

 

「…くっ!弾切れ!?…弾倉を、」

 

いくら節約しようと、一つの弾倉にある弾丸には限りがある。右手に持つ『ヴェント』が弾切れを起こす。拡張領域(パススロット)内にもまだいくつもの弾倉があるが……その交換には多少の時間がかかる。

そして、その隙を逃さないイーリスではない。

 

「っし!隙ありぃぃぃぃ!」

 

『瞬時加速』で一気に距離を詰めるイーリス。凪は向かって来る彼女に対し物理シールドを構える。

しかし、

 

「なっ!?」

「馬鹿正直に突っ込むだけだと思ったか?」

 

イーリスは物理シールドにぶつかる直前で方向を変え、凪の後ろに回り込みナイフで斬りかかる。一瞬反応が遅れたものの、ギリギリでナイフを銃身で防ぐ。

 

「…くっ…」

「甘ぇ!」

「がっ!?」

 

しかし銃身は切り裂かれ、右手の『ヴェント』を失う。さらに腹部に拳が何発か叩き込まれる。

 

「もう一発!」

「ぐっ……この、『レイン・オブ・サタディ』!」

 

ショットガンの銃口を『ファング・クエイク』の胸部装甲に突きつけて放つ。……が、『瞬時加速』で躱されてしまう。

距離が開いたことを利用し、尽きかけていた左手の『ヴェント』の弾倉を交換する。

 

(アサルトライフルは1丁潰せたか。音声認識で武装を展開してる辺り、『高速切替(ラピットスイッチ)』は使えねぇみたいだな。弾倉はともかくとして…銃器の種類はそんなに多くねえはずだ。取り敢えず、出てきたやつ全部ぶっ壊すか。さて、残りSEは……800と少し…。まだ、無茶できるな。残り時間は…もう12分も経ったのか。早いとこ終わらせねぇと、マジで逃げ切られるかもな……。)

 

(…『ヴェント』を1丁潰された。迂闊に弾薬の補給もできない。……訓練で何回もやられてたから対応出来たが…。武装一つ潰されただけでも、結構キツくなる。近接ブレードはあるけど、接近戦で勝てる気はしないし……。残りSE2000……残り時間は、まだ18分もある。……何とか持たせないと!)

 

攻防を続けながらも次の手を思案する二人。

戦いは、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わ、また接近されました。でも今度は回避してショットガン命中!…あぅー、ショットガン壊されちゃってます……。」

 

第2アリーナのピットにある観察室で、山田 麻耶が二人の試合をモニターで見ながら独り言のように呟いていた。凪が攻勢に出れば「いけいけー!」と拳を突き上げ応援し、不利になればハラハラとした様子でモニターを見つめる。……彼女なりに、この試合を楽しんでいるのだろう。

しかし、当然ながら部屋にいるのは彼女だけではない。

筆記試験に続きこちらでも監視をしている委員会の女性と、凪と話し終えた後に観察室を訪れた千冬も居た。

千冬はときどき話しかけてくる麻耶に応えているが、女性のほうは、我関せずといったところだ。

 

「いやーすごいですね、御波さん。イーリス選手を相手に、ここまで善戦するなんて。」

「ああ。疲労も溜まっているだろうが、よくやっている。」

「本当ですねぇ。距離が短くなる代わりに『後方瞬時加速』の間隔を短くして、確実にイーリス選手の攻撃に対応できるようにしています。」

「飛ばし過ぎれば、加速中に軌道変更出来ないところを狙われる。……開始早々、急停止して強引に軌道を変えた(イーリス)もいるがな。」

「あれ、骨とか大丈夫なんですかね?何回かは『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニション・ブースト)』で軌道変更をしていますけど。」

「イーリスは頑丈だから大丈夫だろ。」

 

冷静に凪の動きを評価する二人。麻耶も最初から興奮気味ではあったが、試験官としての仕事は忘れていないようだ。

 

「……今のところ、訓練通りの動きが出来ていますね。」

「いや、『個別連続瞬時加速』にもある程度は対応できている点では訓練以上の……待て。何故、山田先生が訓練内容を?」

「え?だって学園長が…」

 

そう言葉を続けようとした麻耶だが、突然口を開いた委員会の女性に阻まれる。

 

「山田試験官、今は試験中です。……少々、喋り過ぎではありませんか?織斑先生も、特別に此処に居ることをお忘れなく。」

「す、すみません…。あ!また武器壊されて…」

「ですから、お静かに。」

「はい……。」

 

怒られて、しゅん…となる麻耶。

大人同士の会話というより、はしゃぐ子供と叱る大人の会話のようにも聞こえてしまう。

 

「……試合時間、残り5分。『ファング・クエイク』のSE、残り658。『ラファール・リヴァイヴ』残りSE268です。」

 

開幕当初はSE量に3倍もの差があったが、今では逆転され劣勢に陥っている凪。火器もかなりの数が破壊されている。

 

(だが…あと少しだ。あと少し、持ち堪えることが出来れば……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(『ヴェント』3丁とも大破。アサルトカノン『ガルム』も全部潰された。残りの武装は……右手の『レイン・オブ・サタディ』と近接ブレード、ハンドガン……それと、『奥の手』だけか。残り時間は5分を切った。なら……後は迎撃せずに逃げ切る!!)

 

イーリスに背を向け、『瞬時加速』で距離を離そうと考える凪。

そこに、イーリスからの通信が入る。

 

「凄ぇな、お前。」

「……。」

 

凪は突然の賛辞に驚くも、返事は無い。返事をする余裕がないだけでもあるが。

 

「たぶん、ハンデ有りでもお前と同じように出来る奴なんてアメリカにだっていない。筆記試験に合格だろうが不合格だろうが、ISをこれだけ動かせてるんだ。こんな試験、もう終わりでもいいんじゃないかって思ってる。ま、この試合自体はアタシが楽しめてるから最後までやるんだけどさ。」

「……何が言いたいんです?」

「思った以上に楽しめたってことさ。ナタルとやりあったくらいにな。」

 

凪を追いかけながらも、余裕をもって語りかけるイーリス。その物言いは、自らの勝ちを確信しているようだ。

 

「……余裕そうにしてますけど、残り時間はあと少し。……このまま、逃げ切らせてもらいますよ。」

「悪いが、そうはいかねえ。言ったろ?仕事だって。……この勝負、アタシが勝つ!」

 

イーリスが『瞬時加速』の動作に入る。

……恐らく、開始時にアリーナのシールドを殴ったときの速度で向かって来る。そう判断した凪は反転し、『レイン・オブ・サタディ』を構え……

 

「させる……なっ!?」

 

『レイン・オブ・サタディ』から弾丸が発射されない。

……見ると、イーリスが持っていたはずのナイフがに突き刺さっていた。

『瞬時加速』で向かうイーリスを迎撃するために反転する。それを読まれていたのだろう。

ショットガンが破壊されたことに気を取られ、一瞬光った『それ』に、凪は気付くことが出来なかった。

 

…………『ファング・クエイク』。そして、イーリス・コーリングは既に凪の眼前にいた。

 

「しまっ……」

「おぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『ラファール・リヴァイヴ』を殴りつける『ファング・クエイク』。だが、猛撃は終わらない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐっ……『ブレッ」

「遅ぇ!」

 

近接ブレードを展開するも、蹴り飛ばされ、落としてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……負ける。)

ハンドガンを展開したところで、先程の二の舞になることは明白だ。『奥の手』も一時的に猛攻を凌ぐ程度だろう。

(まあ、よく頑張ったほうかな?)

ただの一サラリーマンでしかなかった自分が、ISに乗り国家代表と戦う。そのために、世界最強や専用機持ちのエリートから手ほどきを受ける。そんなことになるなんて、思いもよらなかった。大変な毎日だったが、それなりに充実していたと思う。

 

努力が実らないことなんて、社会ではよくあることだ。あの難関校に合格した自分もいれば……不合格になって涙を流す受験生もいた。今回は、自分が泣く側になった。それだけの話。

寧ろ、あれだけの訓練をやり遂げることが出来たのだ。誇らしく思う。

自分の努力は実らなかった。その事実は受け入れるべきだ。

 

 

 

 

 

(なら……)

なら、彼女たちの努力はどうなる?

1年という決して短くない時間を、自分なんかのために費やした…黒髪の女性と水色の髪をした少女。彼女たちの頑張りも、全て無駄だったのか?

 

 

 

……認められるものか。

自分のことは、この際どうでもいい。けれど、二人の努力に報いる義務がある。

 

だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………けて………………るか………。」

「…何を、」

「負けて、たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

迫る拳を蹴り上げ、イーリスの体勢を崩す。

それと同時に、左腕に装着されている物理シールドの装甲が弾け飛び……『奥の手』が露わになる。

 

「『盾殺し(シールド・ピアース)』か!」

 

イーリスが『盾殺し』と呼んだそれは、杭とリボルバーを合わせたような武器だった。正式には『灰色の鱗殻(グレースケール)』と呼ばれる杭打ち機(パイルバンカー)で、破壊力は第二世代最強とさえ言われている代物だ。

 

「そんなもん、使わせるか!……何!?」

 

先程の凪と同じように、『ラファール・リヴァイヴ』の左腕を蹴り弾くため右足を動かそうとするイーリス。

しかし、右脚部が動かない。

その装甲には『ラファール・リヴァイヴ』の基本装備である近接ブレード『ブレッド・スライサー』が突き刺さっていた。

 

(くそっ!さっきのアタシの真似事かよ!?蹴り落したのを粒子化させて回収して……待て、コイツ今、どうやって(・・・・・)展開した!?)

 

勝利を確信した矢先に、次々と起こる変化に思考が追いついていない。イーリスは文字通り、混乱していた。

 

凪はその隙を突き、加速したままパイルバンカーを『ファング・クエイク』の腹部装甲に突き立てる。

ズガンッ!と一撃が叩き込まれ、イーリスは苦悶の表情を浮かべる。『灰色の鱗殻』は連射可能だ。これ以上喰らえば、SEはあっという間に500を下回るだろう。

 

しかし、リボルバーからはガキンッ…と音が鳴るだけだ。

 

(故障か…!?)

 

物理シールドに与えてきた衝撃が、その中に隠されていたパイルバンカーにも伝わっていたのだろう。機能不全が発生していた。

それでも、凪は止まらなかった。

 

(コイツ、このまま削り切るつもりか!?)

 

『ファング・クエイク』のSEは残り568。今も減り続けている。パイルバンカーの重い一撃がなくなったとはいえ、このままでは確実に敗北する。

 

「こ……のぉ!」

 

抵抗し、加速から逃れようとするイーリス。けれど、凪は逃さない。

 

 

 

『ファング・クエイク』のSEが510を切る。

そのとき、

 

 

 

ガクンッ!

突如として勢いが消え、凪の『ラファール・リヴァイヴ』が地面に向かって落下していく。

ブースターの残量0

それが原因だった。

 

 

 

……運も実力のうち…日本にはそんな言葉があるというのは、イーリスも聞いたことがある。

恐らく、地面に激突するだけで『ラファール・リヴァイヴ』のSEは0になるだろう。逃走を選ばず、あれほどの攻勢に出てきたということはSE残量が心もとなかったからであろう。イーリスの抵抗により、さらに減っていたはずだ。

 

(けど、こんな終わり方は……ねえよな。)

 

そう思い、追撃の構えをとるイーリス。自分にここまで喰らいついてきた好敵手が、地面にぶつかる前に一撃を入れて終わらせようという、彼女なりの敬意の示し方だった。

 

 

 

 

 

だが、彼女は勘違いしていた。

凪がただ落下しているだけだと思っていたこと。

 

 

 

 

 

そして、凪が武装を全て使い切っていた(・・・・・・・・・)と思っていたことだ。

 

 

 

 

 

一発の銃声がアリーナに響きわたる。

同時に、試合終了を知らせるブザーも。

 

 

 

 

「…………………あー……くっそぉ………。誰も思わねぇだろ、普通……。落下中に(・・・・)反転して銃ぶっ放すなんてよ。」

 

 

 

「イーリス選手のSE残り496!よって、実技試験……合格です!!」

 




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