IS 千の冬の物語   作:smsm

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久々の投稿&唐突な第2章突入

ガンダムブレイカー3が悪い(言い訳)


第2章 Teacher's life
第15話


「――――――それでは、これにてIS学園入学式を閉会します。生徒の皆さんは、電子掲示板で自分の名前が書かれた教室を確認し、待機をお願いします」

 

 

 

 

 

「……………ふぅ…緊張した」

「まぁ、分からんでもない。壇上に立って、あれだけの視線が集まるというのは、身が引き締まる思いになるからな」

 

学園で初の行事を終えた凪と千冬は教室へ向かう廊下を歩きながら話していた。

 

 

 

4月

新入生を迎えた今日、IS学園では入学式が行われた。そこで、凪は新任の教師として挨拶することになったのだ。

内容は「頑張ります」など、ありきたりな物だったのだが……意外と拍手は多かった。一年生はともかく二、三年生を見た限りでは殆どの生徒が拍手を送っていたのだ。

 

「なんだ、そんなことか。学園長も仰っていたように、生徒たちがお前の努力を見て正当に評価した結果だ。この学園には男だ女だので差別する生徒はあまり居ない。今更、気にする必要はないんだぞ?」

「俺が男だっていうのも、勿論です。けど、一番の問題は………アレ(・・)を全校生徒の三分の二に見られたのが…」

 

女性用・ISスーツ・着用・男という言葉だけで色々と不味い。最近では、首輪付きという言葉も加わってしまった。賽はとっくの昔に投げられてしまっているので、ジタバタしても仕方がないのかもしれない。

 

「そこは、生徒に任せるしかないな。もしかしたら、生徒たちは別の話題で……いや、何でもない」

 

何かを言いかけて、千冬は話を止める。「別の話題」が何であるかは、凪にも察しがついていた。

 

 

 

それは、半月前に公表される。1年ほど前に世界に衝撃を与えた事件と同じ物であった。

『新たなる男性操縦者、今度は15歳の少年!?』

そう題した新聞やテレビは、再び連日連夜、有識者を招いて報道を行う。だが、意外にも解剖等の話が挙がることはなかった。それはメディアだけでなく、国や委員会も同様だった。世界的大企業の息子という立場が主な理由と言える。手を出すことは百害あって一利なし……ということだ。唯一の例外は、女性権利団体くらいだろう。

同時に、IS学園への入学も決まってしまったため、学園も慌ただしくなる。寮制の為、個室を用意することになり、教員寮の一室(凪が住む予定だった)をあてがうことで決着が着いた。他にも、アリーナの更衣室を男性用として開放すること等々の問題を解決しなければならなくなる。中でも特に問題だったのは、どのクラスに入れるかということであった。結果的に、麻耶の受け持つ4組に入ることになった。

その際に、当然の如く千冬に任せようという意見もあったが、凪は新任の教師であり、千冬面倒を見ることになっている。その為、千冬の受け持つ1組に所属することは回避された。それに安堵したのは凪一人。なぜなら………

 

 

 

バタバタと廊下を走り、急いで教室に向かっているのは二人の女生徒と一人の男子生徒(・・・・)

 

「――――ほら見ろ。もう皆、教室に入っているではないか!」

「仕方ないだろ、腹が痛かったんだから!」

「……そもそも、『たぶん、こっちだろ』って言って適当な方向に進んで迷ったのは誰だった?」

「…………誰だっけ?」

「恍けるな!お前だ、――――――夏人(・・)!」

 

 

「………っ!」

 

水色の髪で眼鏡を掛けた少女は天王寺 簪。黒髪をポニーテールで纏めているのが篠ノ之 箒。そして、男子生徒の名は―――――天王寺 夏人。

三人は目の前に教師(凪と千冬)を見つけ、速度を落として早歩きになる。凪たちに向かって軽く会釈をしながら教室へと入っていった。

 

「…………織斑先生……」

「………ま…全く、急いでいたのは分かるが、廊下は走るなと書いてあるだろうに」

「…………」

「入学早々に困った生徒もいたものだな。み、御波先生もそう思うだろう?」

 

夏人から何の反応も無かったことが余程のショックだったのだろう。千冬本人は気にしていないという風に振る舞っているが、出席簿を持つその手が震えていることに、凪はすぐに気付いた。

 

「……そうですね。…………織斑先生、俺が先に教室に入りますから、後から来てくださいね」

「……何故だ?」

「ほら、サプライズですよ。『なんだ、男の先生か…』ってなってる時に、織斑先生が入ってきたら皆ビックリしますよ、きっと」

 

そう言って凪は微笑む。……そんなことをする必要はないと感じていた千冬だが、

 

「――――それに、そんな顔で生徒たちと会うつもりですか?」

「………それは…」

 

図星だった。現に千冬は、動揺していた。名前を変えた弟に会ってしまい、他人行儀な接し方をされた。仕方がないのかもしれない。しかし、その事実は千冬の心に影を落としていた。

 

「……少しだけ、任せてもいいか?」

「勿論です」

 

話を終え、凪は教室の前に立つ。何人かの生徒の話し声が聞こえる。

 

「ふう…」

 

息を吐き、気を落ち着かせる凪。一歩前に進み、扉が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。ようこそ、IS学園へ。……初めまして、御波 凪と言います」

 

…………。

 

「……え、えーと…私はこのクラスでは副担任で、授業ではISの座学と実技を担当の先生と一緒にお教えします。これから3年間、一緒に頑張りましょうね」

 

…………。

 

 

返事がない。生徒の誰一人として、うんともすんとも言わなかった。

聞いていないのではないが、「なんで此処に居るんだ」と言いたげな目をしながら、生徒はただ黙って凪を見ている。

 

「(………凄く見られてる。特に首輪。)………ちなみにこの首輪はISの待機状態であって、先生が変な人だということではありませんよ?」

 

そう言うと、ホッ……と安堵したような声が聞こえてきた。

 

「(やっぱり変態だと思われてたのか……。)で、では出席番号1番の…こちらの席から順番に自己紹介をお願いしようかな?」

 

手を使い、一番右端の生徒に促す。その生徒は椅子を引いて立ち上がり、

 

「……相川 清香です。よろしくお願いします」

 

とだけ言って座ってしまった。

 

「えー……っと、以上ですか?」

「はい」

「そ、そうですか…。いえ、気にしなくても良いですよ。こういうのは人それぞれですからね。………さて、次の方いってみましょう!」

 

 

 

 

 

(………おかしい。自己紹介ってこんなに簡素な物だったか?趣味とか、色々あるだろうに)

 

あれから、数人の生徒に回ってきたが…全員が名前を言うだけで終わってしまっている。教壇に立つ凪の方をじっと見てばかりだ。

 

(………不味い。このままだと、このクラスの子たちとは誰とも話さないで終わるかもしれない。原因は俺なのかもしれないが)

 

とにかく、誰かが流れを変えないと。そう思い凪は生徒に話題を振ろうとする。

その時………扉が開いた。

 

「遅れてすまない、御波先生。挨拶を任せてしまい………何だ、この空気は?」

 

救世主(織斑千冬)登場。……………どうやら、調子は戻ったらしい。

 

「いえ、気になさらないで下さい。今は自己紹介の真っ最中で……」

「そうか。……なら、先に私の自己紹介を済ませても良いか?」

「はい、どうぞ」

 

そう言った千冬は教壇に立つ。

 

「……諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たちにはISの座学と実技を、此方の御波先生と共に教えていくことになる。基本的には私に従うこと。だが、不満や意見があれば何時でも遠慮なく言ってきて欲しい。…以上だ」

 

凛々しく、堂々たる物言いだ。生徒の注目が千冬に集まり………

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」」

 

鼓膜が破れると思うほどの歓声が響く。

 

「千冬様、生の千冬様よぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来ました!あ、これ地元の名産品の国産の牛肉です。食べて下さい!」

「きゃぁぁぁぁ!きゃぁぁぁぁぁぁ!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!きゃ…ゲホゴホ!」

 

生徒たちからは多種多様な反応があった。………中には土産物を持参する生徒や言葉にならず、ずっと声を張り上げたせいで、むせている生徒までいるのだが。

その人気っぷりに、当然のこととは思いながらも、軽く凹んでしまう凪。

 

(………俺のときとは、えらい違いだ。……これが人望の差か)

 

「静かに!校内では私のことは『織斑先生』と呼ぶように!……では、自己紹介の続きを…御波先生?」

「え、あ、はい。えーと…次はオルコットさんですね。……お願いします」

「………………」

 

凪に促され無言のまま立ち上がる、オルコットと呼ばれた金髪の少女。

 

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。趣味……とは違うかもしれませんが、紅茶を嗜んでおります。皆さん、ISで分からないことがあれば遠慮なく質問なさってください。よろしくお願いします」

 

パチパチと大きな拍手が鳴り響く。さすがは代表候補生といったところだろう。

 

「流石だな、オルコット。では、次は……」

「織斑先生、少しだけよろしいでしょうか?」

 

立ったままのセシリアが手を挙げて発言する。

 

「何だ?」

「質問があります。………そちらの男性について」

「へ?」

 

突然の指名に凪は驚く。まさか、自分に話題が振られるとは思わなかったからだ。だが、セシリアの視線はあくまでも千冬に向けられていた。

 

「質問は構わない。……だが『そちらの男性』ではなく『御波先生』だ」

「申し訳ありません。………先程、織斑先生は『御波先生と共に教えていく』と仰っておりましたが……御波先生はどの程度、授業に参加するのでしょう?」

「……基本的には座学の全てを担当してもらうつもりだ。勿論、私も居るが…それがどうした?」

 

二人の間に不穏な空気が漂い始める。

 

「…………その方に、私たちを教える資格があるのでしょうか?」

「意味が分からないな。御波先生は学園から認められた上で此処にいる。それ以外に何が必要だ?」

「まあまあ。織斑先生…もうそこらへんで、」

「たった1年しか勉強なさっていらっしゃらないのでしょう?此処に居る生徒は何年も努力し、合格しました。それに見合う方なのでしょうか……と思いまして」

 

凪の制止を無視し、話を進める二人。他の生徒は何も言わない。言えないだけなのか、それともセシリアの言葉を肯定しているのか。

 

「…………まさかとは思うが、御波先生が男性だから(・・・・・)反対しているのではないだろうな?」

「いや、織斑先生?そろそろ………」

「そうです………と言ったら?」

「何でオルコットさんは、マグマにガソリンをぶちまけようとするの!?」

「誰がマグマだ。………他もオルコットと同意見か?」

 

千冬の質問にも、生徒は答えない。見れば、困惑している生徒も居るようだ。不安そうな顔をして周りをきょろきょろと見渡している。

 

「………そうか。なら、私から一つ提案がある」

「何でしょう?」

「え、あの、織斑先生?なんか私、当事者なのに蚊帳の外じゃないですか?」

 

不安そうな凪に対して、千冬とセシリアは堂々とした姿勢を崩さなかった。

 

「一週間、御波先生の授業を観察して合否を判断しろ。君らが合格だと思ったのなら、御波先生にはそのまま続けてもらう。不合格なら、どちらの授業も私が受け持つ。」

「分かりましたわ。他の方はどうですか?賛成なら手を挙げて下さい」

 

セシリアの言葉に、手を挙げて賛成の意を示す生徒が半数以上だった。逆に、手を挙げていないのは……先程の困惑していた生徒だ。

 

「………決まりだな。質問も受け付けるので、私だけでなく御波先生にも聞いてみるといい。それと、オルコット……御波先生と模擬戦をしてみる気はあるか?」

「可能なら、是非とも」

「なら、土曜日にでもアリーナの使用許可を取っておく。………さて、そろそろ休み時間だな」

「いやいやいや、展開が早すぎて呆然としていましたけど、当事者は納得して『キーンコーンカーンコーン』…………はい、ホームルームを終わります。次の時間は授業になりますから、各自で自己紹介を済ませて下さい」

 

凪の抗議の声は届かず、チャイムが鳴ってしまう。凪は肩を落として、すごすごと千冬の後に続き教室を出る。

 

 

 

「織斑先生…なんで、あんなこと言ったんですかぁぁ……。絶対に敵視されましたって…特にオルコットさんに」

 

休み時間の職員室で、凪は涙目で千冬に迫っていた。

 

「か、顔が近………ご、ごほん!お…遅かれ早かれ、こうなっていた可能性は高かった上、余り長引かせていい問題でもない。分かっているだろう?」

「うぐっ……」

 

学園の二、三年生や教師陣は凪の1年間を知っている。全員ではないが、特にこれといった問題が起きたわけでもないため、凪のことを認めていると言っても良いだろう。

だが、新入生はそれを知らない。学園のデータベースには凪らの訓練映像が保存されており、その殆どが誰でも視聴可能となっている。しかし、ニュースでは詳しい報道はされず、『世界初の男性操縦者を対象とした検査が中止となり、学園の保護下に置かれることになった』という情報しか出回っていない。

新入生の間では既に、『御波 凪は人道的立場を取るIS学園のお情けで教師となった』という噂が広まっているのだろう。確かに、千冬の個人的な理由もあれど、学園の立場としては間違ってはいない。ただ、少しの誤解があるだけに過ぎない。

その誤解を解くには、千冬の提案は最適だと言える。千冬から提案された以上、生徒たちは否が応でも凪に注目する。その上、代表候補生との模擬戦もある。これならば1組だけでなく興味を持った他のクラスの生徒も見学に来るだろう。後は、そこで結果を出せば良いだけのこと。実にシンプルで、分かりやすい提案だった。

 

「そういうことだ。どうだ、身が入るだろう?………さて、私は少し…」

「ん、何処行くんですか?」

「き、聞くな。女には色々とあるんだ」

「色々…ああ、トイ……花摘み!花を摘みに行くんですよね!ええ、分かっていますよ?だからアイアンクローは……いだだだだ!」

「わざわざ、言わんでいい!」

 

 

 

じー……

 

「――――というわけで、ISの使用には様々な規則があり、違反すれば刑法によって罰せられ―――」

 

じー……

 

「国ごとに多少の違いはありますが、基本的には国連やIS委員会の定めた国際法に則って作られています。このIS学園でも、ISを用いた傷害には相応の罰則が存在し―――」

 

じー……

 

(や、やりにくい……)

 

教室には凪の声だけが響く。生徒たちの私語はなく、良好な授業環境を保てていた。それは、良いことだ。しかし、少しばかり凪に目を向け過ぎではないだろうか。

しかも、

 

「織斑先生、今のところなんですけど……」

 

質問は全て千冬に向けられていた。観察とは何だったのか……と愚痴を言いたくなっている凪だが、それは心の中にしまい込んでいた。

 

まあ、凪も手を挙げた生徒に対して「ヘイ、カモン!」と積極的すぎる姿勢で待ち構えていたために、ドン引きされていた。その事実には(何故か)気付けていない。

こんな調子で、凪の教師生活の初日が終わってしまった。

 

 

 

 

 

「………で、やっちゃったわけね?」

「や、やってしまったというのは誤解がありますわ。……やってやったので…いひゃい、いひゃいでふわ、ふぇうきんしぇんぱい!」

「Shut up!口答えしない!」

 

放課後、セシリアは自室で、先輩であるサラ・ウェルキンに頬を引っ張られていた。サラ本人は叱りつけるつもりでしていたのだが、予想以上のムニムニとした触り心地だったため、手を上下に動かしたりして思う存分堪能していた。

 

「全く……初日から先生たちに喧嘩を売るなんて、いい度胸してるわ」

「そんな恍惚とした顔で叱られましても……。それに、元はと言えばあの方が」

「御波先生は悪くないでしょう?貴女も、『男だから』って理由で人のこと悪く言ったり、ただの噂をおいそれと鵜呑みにするような人じゃなかった筈よ?」

「そ…それは…」

 

サラに問い詰められ、セシリアは言い澱む。

 

「どうして?」

「……別に、大した理由ではありませんわ。…………わたくしの都合と…………あの方を見ていると、昔を思い出すからですわ」

「………そっか。顔はともかく、何処か似ているものね、亡くなった貴女のお父様に」

 

 

 

 

母は強い女性(ひと)だった。古くからの名家だったオルコット家を継ぎ、自分の会社の経営も行う、いわゆるエリートだった。自分にも他人にも厳しい女性で、セシリア自身、何度も母に叱られてきた。けれどセシリアは、そんな母の姿を見て育った。「いつか、母のような女性になる」……それが幼き頃からの夢であったし、それは今も変わっていない。

父は弱い男性(ひと)だった。実家も平凡な一般家庭で、オルコット家に釣り合うような出の人ではなかった。母の会社の一社員で、ISの出現以前…女尊男卑の風潮が広がる前から、父の立場は弱く、それは更に悪化することになる。父の姿といえば、母に怒鳴られて何も言えず黙っているか、母方の祖父母に陰口を言われてただ苦笑している姿ばかりだ。セシリア自身、今も昔も男性に対して差別意識があるわけではない。寧ろ、代表候補生となってから男性スタッフに助けられることも多かったから、男というだけで下に見る一部の女性にはウンザリするほどだ。

けれど、父は嫌いなタイプの人間だった。自分より強い相手には、黙るか笑って誤魔化すかしか出来ない父を、セシリアは情けない人だと心底思っていた。御波 凪という男性も、そんな父と同じだ。織斑千冬やセシリアに言われるばかりで、言いたいことも言えず流されるばかりの彼に、セシリアは情けない父の姿を思い返した。(授業中の、あの顔はよく分からない。質問を待っているだけなのかもしれないが、その様子は変人そのものだった。)

しかし、同時に不思議に思っていた。何故、全く違う性格の母と父が結ばれたのか。政略結婚だろうか。しかし、母にはデメリットしかない筈だ。

だから、母に聞いてみたのだ。「どうしてお母様は、あんな男性とご結婚なされたのですか?」と。母からの答えはなく、代わりに頬を叩かれた。どうして、ともう一度尋ねても答えは返って来なかった。「二度と、お父様のことを悪く言ってはいけません。」そう言ったきり、母は黙ってしまった。そして結局、二人が何故結ばれたのか。それは聞けないままになってしまう。

三年前に起きた列車事故。大量の死者を出したその列車に、母と父は乗っていた。セシリアがオルコットの家に預けられていた時に伝えられた訃報だった。しかし、意外だったのは、セシリア自身が母と父、二人の亡骸から離れたくないと思っていたことだろうか。母はまだしも、嫌っていた筈の、父の亡骸にまで寄り添って泣いていたことはセシリアにとっても、何故かは分からない。もしかすると、父のことをセシリアはそこまで嫌っていなかったのかもしれない。

結婚した理由。そして、傍からみて関係が良好だったとは、お世辞にも言えなかった二人が事故の当日に何故一緒にいたのか。折れ曲がり、ひしゃげてしまった母の手に握りしめられた、見たことがないペンダント。そして、救助隊から聞いた、母を守るかのように覆い被さっていたという父。今でも、セシリアの心に残ったままだ。

両親はもういない。あるのは、両親が残した家と巨額の遺産。加えて、それらを狙う汚い大人たちの企てくらいだった。両親が死んだ直後も、セシリアが家と遺産を継いだときも、大人は幾度となくセシリアを騙そうと策略を練ってきた。彼らから思い出を守るため、セシリアはあらゆる努力をした。現在では代表候補生という地位を勝ち取り、大人たちを退けるようになった。

しかし、まだ足りない。代表候補生程度では駄目だ。代表………いや、世界最強クラスにまで上り詰めなければ、守れない。世界最強(織斑千冬)から学ぶことはきっと多いだろう。IS操縦者なら誰もが目指す頂点。そんな人物から直接教わる機会を逃すわけにはいかない。御波先生には悪いが……彼に相応の能力があるならば、それで良し。そうでないなら、諦めてもらう。…………最低な女だ、とは自分でも思っている。しかし、頂点を目指す以上、妥協をする気はない。

 

 

 

「―――――――っと、もうこんな時間か。私は部屋に戻るよ……じゃあね~」

「はい、次は紅茶を仕入れておきますわ」

「じゃあ、私はクッキーでも持ってくるとするわ」

 

そうだ、と扉に手をかけたサラは思い出したように告げる。

 

「後で、パソコンのデータファイルを覗いてみたら?」

「何故です?」

「御波先生と模擬戦するんでしょ?なら、絶対に役に立つよ。ファイル名は……『実録!御波 凪365日』ってタイトル」

「何ですの、そのドキュメンタリーみたいなタイトルは……?」

 

だよねぇ…と苦笑しながらも、サラは部屋を出た。

 

 

 

 

 

「………何ですの、これは」

 




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