IS 千の冬の物語   作:smsm

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止めどころが分からなくなった。
ので、とりあえず終わりまで書いてみました。
でも、中途半端感はあります。



第18話

「諸君らもIS基礎の理解が進んだ頃だろう。では、これよりアリーナの使用について1組と2組合同で説明する」

「「「はいっ!」」」

 

模擬戦から数週間。第2アリーナにはISスーツに袖を通した、元気な少女たちの声が響く。千冬の言葉通り、カリキュラムでの基礎中の基礎を終わらせただけだが、大半の生徒はその少し先まで理解が及んでいる。

 

「よろしい。……では御波先生、あとは」

「分かりました。今日は軽く触れるだけですが、授業でISを扱うことも、アリーナを利用することも多くなります。入学式でも説明があり、個人で、又は上級者に付き添って利用した事がある人もいるでしょう。ですが、もう一度復習という形で聞いておいてくように」

「「「は~い」」」

 

……先程と返事が若干異なっているのは気のせいだと思いたい。

 

「…こほん。この学園には複数のアリーナがあり、放課後には1年、2年、3年生用に開放されます。基本的に各学年に2ヵ所ずつ。観客席での見学自体は自由ですが、アリーナでISを使う際にはそれぞれの利用に書類の記入が必要です。クラスや名前を書く程度ですが、必要な書類ですからキチンと書くように」

「「「……」」」

「それともう1つ。アリーナは訓練用と模擬戦用に別れています。アリーナ内では流れ弾など、周りに注意するのは当然ですが、訓練用アリーナで模擬戦を行うのは論外です。各アリーナは試合が出来るように広いですが、人が多いから大きな怪我に繋がります。面倒かもしれませんが、申請をして模擬戦用のアリーナで行うこと。いいですね?」

「「「はいっ!」」」

 

注意事項だったからか、今度の返事はしっかりとしたものだった。

…うんうん、こういうやり取りが先生と生徒って感じだ。入学式から1週間は監視対象みたいな扱いだったし。今はあだ名でばっかり呼ばれて、先生と呼んでくれる生徒は少ない。

 

「織斑先生~、ナギっちが独りだけ卒業式みたいな雰囲気なんですけど…」

「本人が許可したとはいえ、せめて『先生』くらいつけろ。……おい」

 

ガッツポーズで天を仰ぐ凪に、出席簿で脳天に一撃与える。

痛い。

 

「知らん。そんなことより、準備しろ。クラス代表は他の生徒を連れて観客席へ」

「分かりました…」

 

すると、列の中から手が挙がる。オルコットさんだ。

 

「これから何をなさいますの?」

「ま、ちょっとした余興だ。10分くらいだが」

「?」

「簡単に言えば、先生同士で模擬戦だよ」

 

おおーっ!と生徒たちから歓声が上がる。

模擬戦とはいえ、元世界一の試合が見れるとあって興奮度合いが違う。

 

「やったー!」

「ひゃっほう!!」

「誰か!カメラ、カメラ!」

「任せて!親から借りてきたから!」

「あんた、それTVで使うやつじゃない!?でもGJ(グッジョブ)!」

「はい没収」

「「いやああああ!!」」

 

……本当にTVで使われるカメラだ…。重っ。

何故持ってきたのか、何処に隠し持っていたのか。色々と聞きたいことは多いが、とりあえず没収しておいた。

 

 

 

 

 

『試合終了』

 

「………ふむ。10分、逃げ切られたか」

「はぁ、はぁ…。残りSE12%しか残ってませんでしたけど…」

「だが、十分だろう。……初手で逃げる癖は直す努力をした方がいいな」

「……頑張ります」

 

相変わらず手厳しい。模擬戦では基本的に追いかけられる側だったために、『取り敢えず、相手から逃げる』ことが身に染み付いてしまっているらしい。

 

「逃げ切った?織斑先生相手に……」

「いや、まあ……ガン逃げだったけど」

「でも、凄い!」

 

一部の生徒は、瞳をキラキラさせて此方を見ている。

尊敬されているのは気分が良いものだ。が、いつまでもこのままだと、授業が進まない。

 

「では皆さん、手分けして『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』のどちらかを運んで下さい。数は決まっているので、早い者勝ちですよ」

「「「はい、御波先生!」」」

 

大きく返事をした少女たちは、素早く準備に取り掛かる。走って機体を取りに行った。

後ろで見守っていた千冬は、静かに凪に話しかける。

 

「良かったじゃないか。教師である以上、敬意を持たれるべきだろう?……どうした?」

「……ナギっちと呼ばれなくなる…?」

「…気に入ってたのか?」

「…………少し」

 

 

 

 

 

もうすぐ陽が落ちそうな放課後。授業を全て終え、別の用事も終わらせた凪は職員室に向かっていた。

 

「御波先生~」

「ん?」

 

ぶんぶんと手を振り凪に向かってくるのは、小柄な少女、凰 鈴音。中国からの転校生で代表候補生。

ついつい、彼女の背丈に合わせて、少しだけ前屈みで応対する。

 

「どうしたの?」

「いや、その体勢………。ま、いいや。アリーナからの帰りですか?何してたんです?」

「ああ、これの調整でね」

 

トントンと首にある、待機状態のISを指さす。少女は?マークを浮かべている。

 

「機体じゃなくて武装の方。正確には、銃火器だけどね」

「ふ~ん、先生の機体、レーザーと雪片しかなかったんじゃ?」

「まだ作られてなかっただけで、色々とプランはあるんだよ。まあ、今回はハンドガンとライフルだけなんだけど」

「良いなあ…。あたしの『甲龍(シェンロン)』って、〈龍砲〉だけで容量が半分くらい埋まってるんですよ?」

 

凪の隣で、手を頭の後ろで組み、あーあ、と愚痴る鈴音。しかし、武器の性能だけで言えば〈龍砲〉は圧倒的に凶悪な武器だろう。

中国で創られた第3世代型IS『甲龍』。アメリカのファング・クエイクと同じく、燃費と安定性の向上をコンセプトに設計されており、武装は2基の大型青龍刀と非固定浮遊部位の第3世代兵器の龍砲のみとなっている。

 

「良いじゃないか。刀は投げても返ってくるし、龍砲は弾丸が見えないし」

「そうですけど……。やっぱり手数っていうか、攻撃手段は多い方が戦い易いじゃないですか。それに弾が見えないって言っても、空間圧縮を感知されたり、視線で見切られたりもするし…。夏人に至っては弾を斬ってくる始末…」

「色々と規格外だねぇ」

 

全くですよ、と怒りというより呆れを見せる彼女。だが、それもどこか誇らし気な様子だ。

そう言えば、と凪は話題を変える。

 

「そっちはどうだい?今度のクラス対抗戦は」

「う~ん、そうねぇ…。夏人がいるからなあ…。生徒会長と特訓してるオルコットさんもネックだし…優勝は難しいかも」

「随分、気弱だね?」

「別に敗けるつもりで挑んだりはしませんよ。少なくとも、箒には勝つつもりですし」

「篠ノ之さん相手は自信あるんだ……」

 

当然!とガッツポーズを取る鈴音。

……まあ、仲は悪くないらしい。転入初日に一悶着はあったようだが。……天王寺君を巡って。

 

「つまり……恋のライバルに敗けてたまるか!て感じなのかな?」

「にゃ!?……あ、あちゃしは、べちゅに、しょんなつもりで……」

「近年稀に見る噛みっぷりだ」

「ぐぬぬ……」

 

クスリと笑うと、顔を真っ赤にする鈴音。今度は何故か心底悔しそうだ。

 

「御波先生なんかに、この話題でからかわれるなんて……。一生の不覚」

「なんか、凄い失礼なことを言われた気がする…。なんか(・・・)って何さ」

「全世界の、あたしと同じ境遇の人が思いますよ、きっと」

「そこまで!?」

 

あっはっはっは、と今度は鈴音が大きく笑い声を上げた。……そんなに面白いのだろうか。流石に言い過ぎたと思ったのか、ごめんねと軽く頭を下げる。

 

「いいよ、気にしないで」

「……ていうか、先生が先にからかわなかったら、あたしも反撃しなかったんだけど?」

「…すいませんでした」

「よろしい。………そうだ、先生って五反田食堂でアルバイトしてたのよね?」

 

立ち止まり、思い出したように尋ねる。五反田食堂と言えば去年の逃走劇以前、弾君や蘭ちゃんがいない時にこっそりと飲みに行って以来、一度も訪れていない。正確には立場が立場なだけに、行けないというのが正しいのだが。

その名前を知っているということは、知り合いなのだろうか?しかし、短いアルバイト期間の間に、凰さんを見た記憶はない。

 

「日本には中2の夏休み前くらいまでいたから、入れ違いになったのかも。先生は8月の終わりくらいからバイトしてたんでしょ?」

「……弾君たちから聞いたのかい?」

「この前、電話したときに…ね。それで、その…」

「……『どうして千冬さんの味方をするのか』……かな?」

「…うん。先生は一夏(・・)のこと、厳さんたちから聞いたのよね?だったら……」

「いくら説得されても、()の答えは絶対に変わらない」

「………」

 

黙り込んでしまった彼女。しかし、これは譲るわけにはいかない。あの夜に言った言葉を無かったことにするつもりはないし、それは彼女への裏切りに他ならないのだから。

 

「……なら、どうして凰さんは夏人(・・)君の味方をするんだい?」

 

仕返し…というつもりはないが、偶には聞いてみても良いだろう。

鈴音は顎に手を当てて少しの間、目を閉じる。

 

「…理由なんて……考えたことないです。強いて言うなら、小学校のときに、いじめられてたあたしを、あいつが助けてくれたから。……でも、友達を助けるのに、理由なんて必要ないはずだもの」

 

顔を上げて真っ直ぐに此方の目を見据える鈴音。

打算的に考えず、損得も考慮せずに誰かを助ける。『友達だから』。その理由だけで動ける彼女は、とても優しい女の子なのだろう。

 

「……そう難しい話じゃないさ。君にとっての夏人君が、先生にとっての織斑先生だった。それだけのことだよ」

「…そっか」

 

「正直に言えば……千冬さんのことは、やっぱり嫌いよ。あの人は、一夏が苦しんでいるのに気付かなかったから」

「………」

「でも、御波先生のことは……嫌いじゃない…かな」

「ん、ありがとう」

 

職員室がある校舎が見えてくる。

 

「……じゃ、あたしティナの様子見てくるわ。バイバイ、先生」

「はい、さようなら。ハミルトンさんによろしく」

「は~い。今度、模擬戦でもしましょ」

「土日くらいしか、空けられないけどね」

 

それで十分よ。そう言って、下駄箱の方へ走っていく彼女。それを見送った後、凪もまた職員室へ足を向ける。

…ふと、視界の端に影を捉える。

どこかへ急ぐ、水色髪の少女の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第4アリーナの放送室からこんにちは!さあ、遂に始まりました、クラス対抗戦。実況は新聞部の黛 薫子と」

「解説に織斑先生を呼びたかったのに仕事だと断られた。その矢先に、どうして新聞部がここにいるのかと疑問に思っております。同じく実況、放送部の(みなもと)でーす!」

「それはさておき、どうですか源さん。今年の対抗戦は?」

「そうですねー、全然さておいて良いことではないと思います。新聞部は最近、放送部の領分にまで手を伸ばしすぎじゃないかと…あ、対抗戦ですか?今年は何と言っても、専用機持ちが多いですからねー。1組代表 セシリア・オルコットさんの『ブルー・ティアーズ』に、2組代表 凰 鈴音さんの『甲龍』、4組代表 篠ノ之 箒さんの『紅椿』。一説では大人の事情での参戦と噂されている、2人目の男性操縦者、4組の天王寺 夏人君の『黒百合』!!天王寺 簪さんの『緋菫』の戦いも見たかったのですが、流石に4組から3人も出場させるのは控えたようです」

「優勝賞品は学食デザートの半年フリーパスですからね。公平性を欠かないよう、天王寺君が優勝した際には賞品は、2位のクラスにあてられるそうですから、最低でも2位を目指せばワンチャンありです」

「2位じゃダメなんでしょうか!?いいえ、良いんです!」

「はい、政治関係は止めておきましょうね~、源さん。なお、専用機持ちが一般生徒と対決する際には幾つかの制限が掛かるルールになってます」

「ただ、3組のクラス代表は天王寺 簪さんから直々にレクチャーを受けたそうで、決して侮れない感じになっているようです。もしかしたら大番狂わせが期待できるかも!?」

「そうですね……おっと、そろそろ時間のようです。では、張り切って登場してもらいましょう!」

「第1試合!2組クラス代表、凰 鈴音さん VS 4組クラス代表、篠ノ之 箒さん!!」

「…ISファイトォォォォ、レディィ……」

「「ゴオォォォォ!!」」

 

 

 

 

 

≪side鈴音≫

「はああああ!!」

「うわ!?」

 

猛スピードで迫る2刀の(やいば)を躱し、上空へ飛び上がる。

 

「いきなり、やってくれるじゃない!」

「お前の龍砲は厄介だからな。速攻だ!」

「そんな上手く行くわけないでしょ」

 

今度は2本の青龍刀〈双天牙月〉で防ぐ。

 

「ぐぅ……」

「悪いけど、射程はバッチリなのよね!」

 

刀で箒を抑えたまま、背後に浮かぶ球体に意識を送る。

瞬間――箒を透明な『何か』が襲い、吹き飛ばす。真っ逆さまに墜ちていき、危うく地面に激突するという寸前、紅椿が(・・・)反転しブレーキをかける。

 

「今のはジャブよ。……機体に助けられたみたいね?」

「…全くだ。お陰で、衝突せずに済んだからな」

 

同じ高度まで上昇してきた箒は、小さく深呼吸をする。

…紅椿に搭載された〈操縦者支援システム〉は、先程のように激突したり、空中でバランスを崩した際に自動で姿勢を安定させることができる。その他、戦闘における反動制御や相対距離の算出、高機動におけるハイパーセンサーのサポートなど、一般のISよりも1段階上の支援を受けられる優れものだ。

 

「でも機械頼りの動きで、あたしに勝てると思わないことね!」

「そのつもりはない!」

 

双天牙月を連結させ、グルグルと回転させる。対して、箒は日本刀の1本――確か、雨月だったはず――を量子化させ、ハンドガンを左手に持つ。

 

「それで龍砲に対抗するつもり?」

「けん制程度だ。先ずは近づいて、龍砲を破壊させてもらう」

「そうは行くもんですか!…来なさい、箒!」

「行くぞ!」

 

 

 

 

 

「いやぁ、初戦から大盛りあがりですね」

「……そうだな」

 

第4アリーナの管制室では千冬と、凪と真耶は椅子に座りアリーナの遮断シールドのチェックをしながら、大型モニターで試合を見守っていた。

ここまでの試合の流れは、鈴音にある。……が、箒が一方的に攻め込まれているのかと言えば、そうではない。(一発も当っていないが)ハンドガンでのけん制。生まれた小さな隙を突くための戦い方を、代表候補生相手にやってのけている。

 

「篠ノ之さん、今日のために頑張ってましたから。天王寺君と模擬戦、何回もやってたんで

すよ」

 

えへん!と我が事のように、大きな……それはもう大きな胸を張る真耶。ぶるんっ!と効果音でも付きそうな胸の弾みを真っ正面から捉えた凪は、顔を赤くして背ける。

その様子を、そこはかとなく悔しさを滲ませながら見ている千冬。握り拳だけで抑えているのは、その表れだろうか。

―――と、戦況に変化が訪れる。

箒が距離を取り始めた。龍砲からの攻撃を、なるべく的を絞らせないように動き回りながら。これは、恐らく……

 

「瞬時加速…ですか?」

「そうだろうな。虚を突いて、一気に仕掛ける魂胆だろう。だが、凰が相手では通用するのは一度だけだな」

 

箒が攻勢に出る瞬間を、ワクワクしながら見ていた真耶。だが、小型モニターに何かが表示される。

 

一方、大型モニターには箒が瞬時加速を成功させ、鈴音に迫る瞬間が映し出されていた。

「おおっ!これは完全に―――」

 

 

 

「――――織斑先生、アリーナ上空に熱源が3つ!内1つが遮断シールドに衝突します!!」

「――何だと!?」

「え?…うわああああ!?」

 

アリーナ全体を、爆音と衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

数秒の間、暗闇だった管制室に再び光が灯る。

 

「く……真耶、凪、状況は!?」

「システム破損!……何者かがアリーナに侵入してきたようです!数は2!」

 

真耶の報告を聞いた千冬は、すぐさま管制室に備えられた通信機を手に取る。

 

「試合は中止だ。凰と篠ノ之は直ちにアリーナ内から退避!他の生徒たちも外へ誘導、教師部隊を向かわせろ!」

 

万が一に備えていた、マニュアル通りに千冬は指示を送る。

だが―――

 

「だ、ダメです!遮断シールドのレベル4、観客席や此処の出入り口を含む全ての扉がロック!…アリーナの緊急用の隔壁も下ろされてます!こ、このままでは…」

「お前は先ず、落ち着いて行動しろ!」

「は、はい!」

(…あのISのせいか!?)

 

悲鳴のように報告した凪を落ち着かせ、千冬は復帰したモニターを睨みながら、思考をフル回転させる。モニターには2機の全身装甲(フルスキン)の機体が映っていた。

所属不明機の強襲。更に脱出も救援も不可能になってしまっている状況だ。レベル4の遮断シールドと隔壁は特に頑丈で、教員のISでは破壊は難しい。武器は殆どが実弾兵器なことに加え、隔壁自体にも対エネルギーコーティングまで施されている。現状では、アリーナ内外でのクラッキングくらいしか手がない。

最悪なのは、強襲してきた何者かが遮断シールドを破ってきたことだ。シールドを破壊した1機が衝突で大破したと考えても、残りの2機も同等の破壊力を持っている可能性は高い。仮に、鈴音と箒が絶対防御に守られるとしても、観客席の生徒の9割は生身だ。そんなものが一発でも観客席に当たれば…それこそ命はないだろう。

 

「真耶、凰と篠ノ之に通信を。凪は観客席の専用機持ちに出入り口を破壊させろ!このまま観客席にいるよりはマシだ!」

「はい!」

「わ、分かりました!」

 

 

 

 

 

≪Side鈴音≫

「けほっ…箒、大丈夫?」

「あ、ああ。だが、いったい何が…」

 

まさか、箒が瞬時加速を使ってくるとは思わなかったあたしは、完全に隙を突かれて紅椿の接近を許してしまっていた。空裂の刃が直撃する――そう直感した瞬間に、何かが遮断シールドを破壊し、アリーナに侵入してきた。

ピピッと警告音が響き――アンノウンにロックされていると表示される。何者かが落ちてきた衝撃で舞った土煙が晴れ、中心にいた2つの存在の姿が露わになった。……どうやら自分は、片方に狙われているらしい。

 

「箒、あれ、あんたの知り合い?」

「私の知り合いに、あんな物騒な奴はいない」

 

軽口を叩くも、箒の声は少し震えているように聞こえる。…恐らく、箒も分かっているのだろうけど。

現れたのは2機のIS。どちらも全身装甲――文字通り、全身がすっぽりと装甲に覆われているISのことだ――で、1機は通常の1.5倍ほどの大きさで、灰色の機体。背中には大きなスラスターが、肩には大型の、その巨体を囲えてしまうほどの羽のような装甲が取り付けられていて、大きな手のひらから砲口がちらっと見える。もう片方は逆に、IS相応の大きさで紺色の機体。背中だけでなく足や肩にも大きなスラスターが取り付けられている。足は膝から下辺りがスラスターになっており、あれでは歩きにくい筈だ。他にも両手と膝にあたるであろう位置にガトリング砲が存在している。此方は違った意味でISらしくない。

それはともかく

オープンチャンネルで2機のISに呼び掛ける。

 

「あんたたち、何者?何が目的なの?」

「「………」」

 

返事はない。返ってきたのは、腕の砲口を此方に向ける、明らかな敵対行動だった。

 

「箒、回避!」

「分かっている!」

 

急上昇し、2機の攻撃を回避する。

小さい方は普通のガトリング。大きい方は…び、ビーム兵器!?

 

「オルコットさんのライフルより高出力じゃない!?あんなの、直撃したら…」

「ただでは済まないか…。それに、観客席にいる皆も危険だ」

「分かってるわよ。……箒、あんたは」

 

下がりなさい。そう言おうとしたときに、通信が入る。

 

『2人とも、大丈夫ですか!?』

「「山田先生!」」

 

通信を開いてきたのは、山田先生だった。表情と声色から、現状がどれほどの異常事態かが思い知らされる。

 

『良かった…。とにかく、直ぐにアリーナから脱出して下さい!』

「そう言われても…」

 

先程確認したところ、アリーナの遮断シールドはレベル4。隔壁も下ろされている。紅椿にしろ、甲龍にしろ、それらを破壊できる威力はない。

 

「そうだ、他の先生たちは!?」

『そ、それが………』

「もしかして…アリーナ全体が封鎖されているのですか!?」

 

箒の問いに、黙ったまま首を縦に振る山田先生が居た。

………しょうがない、か。

 

「なら、あたしが()るしかない訳ね。箒、カタパルトハッチくらいなら、あんたでも壊せるはずよ。だから、せめてそこまで下がってなさい」

「断る。相手は2人だ。…なら、此方も2人の方が良いだろう?」

「……危険よ?」

「その危険な場所に、友人1人を置いて行けるか」

「………ありがと」

 

自分が真っ先に外されることが不満だったのか、箒は仏頂面になりながら雨月を取り出す。………どうやら、戦る気は十分らしい。龍砲のエネルギーをチェック……よし、まだ行ける!

だが、山田先生からの制止が入る。

 

『だ、ダメですよ、2人共!危険です!』

「他の生徒もいるんです、逃げるわけには…にゃあ!?」

 

会話の最中にも、容赦なく攻撃が加えられる。今、ビームがちょっとだけ掠ってしまった。

 

『だからって、2人だけでは……』

「―――なら、3人(・・)ならどうです?」

「「『……へ?』」」

 

後方で爆発。カタパルトハッチが吹き飛んだ。

 

「箒、鈴……無事か?」

「「『夏人(君)!?』」」

 

黒い装甲に身を包み込み、2本の刀を携えたIS『黒百合』。……天王寺 夏人がそこにいた。

 

「な、なんで、そこにいるのよ!?観客席に居たんじゃ……」

「次は俺の試合だったからな。精神統一していたんだ」

「そ…そうか……」

「そういうことなので……俺も参加します。よろしいですね?」

『で…ですが……。織斑先生!?』

『構わん。…どちらにしても、脱出できない以上、停止させるしかない』

 

通信に割って入ったのは、織斑先生。どうやら、交戦の許可をくれるらしい。

 

『だが、無茶はするな。いいな?』

「…了解」

 

織斑先生の勧告に応える夏人。しかし、その瞳は冷たい。

通信が切れ、夏人も臨戦態勢を取る。

 

「俺はデカい方に行く。2人は小さいのを頼む」

「分かった。…行くぞ、鈴!」

「……ええ!」

 

6本の刃が、物言わぬ侵入者へ向かう。

 

 

 

 

 

「真耶、状況はどうなっている!?」

「現在、専用機持ちが観客席の扉を破壊、一番近い隔壁のところまで生徒が避難しています!ですが、やはり隔壁の破壊は難しいらしく、緋菫の荷電粒子砲は威力がありすぎて他の生徒がかえって危険だと」

「教師部隊は!?」

「現在のシステムへの侵入率、22%!まだ時間が掛かるそうです!」

「――ちっ!」

 

真耶からの報告に、思わず舌打ちをしてしまう千冬。

隔壁の破壊に、緋菫に搭載された荷電粒子砲を使うことを考えたまでは良かっただろう。だが、真耶の報告通り、元々の威力が高すぎる上に出力を絞れば破壊出来ないという事態に陥ってしまっている。さらに、アリーナ内部も深刻だ。

アリーナでは夏人と箒、鈴音が侵入者と対峙している。…だが、箒と鈴音は攻めあぐねていた。敵のスピードが速いということもあるが、一番の理由は別の所にある。

モニターには、羽――盾としての役割を持っていた――に2本の刀が突き刺さった大型機と、龍砲を受けて右手がひしゃげた小型機の姿があった。

―――侵入者の機体は、シールドエネルギーが機能していない。モニターから見て、そして鈴音たちが感じているであろう事実。あの様子では恐らく、絶対防御も働いていないのだろう。仮に、戦っているのが千冬や真耶、教師部隊の人間であれば、多少鈍ることはあっても生徒を守るために躊躇はしない。

だが、実際に戦っているのは成人にも満たない少年少女たち。敵であっても、搭乗者を殺してしまえば、心に重くのしかかることは避けられない。

 

「せめて、教師部隊が到着するか…」

「あのISの1機でも、動きを止められたら……」

 

真耶と共に打開策を練るも、良い案は一向に出てこない。

――ふと、凪の方を見る。……凪は、大型モニターに映る映像を、呆然と見つめていた。

 

「凪、作業を」

「―――違うよ(・・・)?」

 

進めろ、と注意しようとして阻まれた。

 

「あれは、インフィニットストラトスじゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・)。だって、全然違うものだもん」

「み、御波先生?」

 

いつもと違う、子供のような話し方。困惑する千冬たちをよそに、凪は戦っている3人に通信を開いた。

 

 

 

 

 

≪Side鈴音≫

『……聞こえる?』

「…御波先生?」

 

急な通信に驚くも、落ち着いて応対する。……だが、普段と様子が違うようにも見える。

 

「ど、どうしたんで…」

『あれは、生きてない。命のないガラクタ。だから引きちぎっても、ぐちゃぐちゃにしても何の問題もない』

「え…えっと」

『分かった?』

「……」

『……はぁ…』

 

全く分からない。いきなり過ぎるし、前半は抽象的で、後半は猟奇的だ。箒も同じ感想らしく、困惑している。分かったことは、いつもの先生ではないということだ。あと「なんで分からないんだ」とでも言いたそうなため息に、イラッときた。

夏人が、御波先生?に質問する。

 

「つまり…あの2機は人が乗っていないISだと?」

「いやいや、夏人…ISは人間が乗らないと…」

『違う、ガラクタ』

「…質問を変えます。……あの2機は無人機ですか?」

『うん、そうだよ』

 

…正解らしい。流石に、夏人もイラッときたことだろう。

ISが、搭乗者なしに動いている。その事実をいまいち許容できないあたしは、とりあえず龍砲の出力を上げてから、御波先生?に質問する。

 

「……ホントに、人は乗ってないのよね?」

『最初からそう言ってる』

 

絶対に言ってない。言ってたとしても、此方はちんぷんかんぷんだ。

 

「箒は龍砲の後に突っ込んで。……い、行くわよ?」

「あ、ああ…」

『早く』

 

…………。

 

『早』

「ああもう、やれば良いんでしょ!」

 

2度目の催促を遮り、最大出力で龍砲を放つ。

小さい方の肩のスラスターに掠め、バランスを崩した。

 

「箒、今よ!」

「おおおおおおっ!」

 

その瞬間に箒が瞬時加速で突撃し、2本の刀を突き立てた。

小型機は大きな音と共に爆散。…少し爆発も大きかった気がするが…あとは―――

 

 

 

「人は乗っていない……か。ならば――」

 

夏人の眼前には灰色の大型機。肩にある羽のような盾も、装甲そのものも堅牢だ。3枚の羽には今までに使用した剣が突き刺さっている。

 

「仕掛けは十分。あとは、これで―――」

 

取り出したのは、1本の大剣。だが、ただの剣ではない。よく見れば刀身には無数の、小さな刃が見える。

名を〈連牙剣〉。――所謂、チェーンソーだ。

 

構え、瞬時加速で突っ込む。当然ながら、大型機は巨大な腕、つまりビーム兵器の砲口を此方に向ける。エネルギーを充填しているのだろう。砲口の奥に光が見える。

 

「――バースト!」

 

その声と同時に、突き刺さっていた剣が爆発した。大型機は衝撃でバランスを崩し、盾は使い物にならなくなる。

――今!

 

「はぁっ!」

 

横っ腹に剣を突き立て、横に薙ぎ払う。残っていた盾ごと、その巨体を真っ二つに切り裂いた。

ゴトンと地に墜ちた上半身は、―――そのまま動かなくなった。

 




原作の無人機とは設定を変更してます。


誤字脱字等のご指摘やご感想、お待ちしております。


設定に天王寺 夏人・黒百合・天王寺 簪・緋菫・篠ノ之 箒・紅椿を追加
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