IS 千の冬の物語   作:smsm

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今回は前回起こった事件のあれこれを。





第19話

IS学園地下施設。凪の暮らす勉強部屋もある、学園の機密が隠された施設だ。そこには学園を維持するための独自のシステムや世界有数の研究室があるほか、万が一の事態を想定して生徒たちを脱出させる海底通路まで存在している。

地下の奥深く、第3研究所で山田 真耶はある物を調べていた。眼前に置かれているのは、3つの残骸。その内2つはバラバラで多少のパーツは残っているが、そこから元の形を想像するのは難しい。もう1つは、上半身と下半身が完全に別れてしまっているが、先程の残骸と比べれば、まだ形状を残している方だ。……これらは、まさに今日、IS学園で行われたクラス対抗戦に乱入してきた、襲撃者たちのなれの果て。1機はアリーナの遮断シールドを破壊した際に、残りは生徒との戦闘で大破したものだ。

戦いが終わった後、当然ながら対抗戦は中止。先輩である千冬は生徒たちの安否確認や、直接関わった3人の生徒の事情聴取、その他、多くの要件に追われている。真耶に任されたのは、襲撃者を調べること。この3機がどういうものなのか、何処から来たのか、そして誰が送り込んできたのか。それらを調べるのに、アリーナ内の2機と、外に転がっていた1機を回収してきたのだ。

しかし――

 

「はぁ……」

 

長時間座っていたからか、体に疲れが溜まっている。時計の針は既に夜の9時を指しており、後は報告書を千冬に提出するだけとなっている。大きく伸びをしていると、冷たい何かが首筋に当てられる。

 

「ひゃあ!?」

 

驚いて後ろを振り向くと、コーヒーの缶を持った千冬が居た。

 

「そ、そんなに驚くとは…すまない。ほら、ブラックで良かったか?」

「あ、ありがとうございます」

 

プルタブを開け、中身をちびちび飲む真耶。千冬は置いてあったタブレットを操作している。

 

「あれ?……織斑先生、御波先生はどうなさったのですか?」

「1組の生徒の安全を確認した後は、学園長が聴取している。もうすぐ終わるだろうが…」

「そうですか……」

 

千冬の言葉を聞いて、うつむく真耶。鈴音たちとの通信を切った直後、いつも通りの様子に戻った凪は、自分が言った言葉を一切覚えていなかった。あの時の凪の様子は明らかに異常だった。疑うわけではないのだろうが、そういう経緯で聴取を受けることになる。

 

「それで…どうだった?あれは」

 

話題を切り替え、目の前に転がる残骸たちを見る。

 

「はい。……正直言って、私も信じられないですが…戦闘した2機も、もう1機も……ISではありません(・・・・・・・・・)

「……では…何者かが創った、全く新しい兵器だと?」

「いえ、そうとも言えません。機体そのものは寧ろ、現在の技術を発展させた物です」

「……どういうことだ?」

 

少なくとも、現在のISを除いた兵器と呼べる物は戦闘機と戦車くらいで、人型のものは存在しない。人型という条件を省いても、そもそも、ISに傷を負わせられる兵器が少ないのだ。

10年前、世界に突如として現れて世界の概念を破壊し尽くしたパワードスーツ。破壊力や防御力だけではない。使われていたあらゆる技術が規格外。だからこそ、ISは最強とさえ言われていたのだから。

 

「……なら、こいつらは何だったんだ?」

「…残骸の一部が合致しました。襲撃してきた3機は……『EOS』の発展型だと思われます」

「何だと!?」

 

『Extended Operation Seeker』……通称『EOS』。災害救助や平和維持など、様々な状況に対応できるようにと構想されたパワードスーツ。ISを模倣したそれは、ISと肩を並べる、

性別のデメリットを無くした技術として期待されている。しかし、現状では重量やバッテリーのパワー不足による活動時間の短さが問題となって、碌な実践配備もままならない。

そんな機体が、ISと渡り合ったというのか。

 

「恐らく、各機体はまだ実験段階だったと思われます。もし技術が完全なら、3機の、役割の全く異なる機体を向かわせる必要も、3機だけを此処に送る必要もありませんから」

 

ISの攻撃を受けるだけの防御力はあるが、大きさと重量故に回避が拙い機体。ISと張り合えるほどの機動力はあれど、武装と装甲に難のある機体。それらが連携して戦っていたわけでもない。

本格的に襲撃するのであれば、2機に連携させる戦術を採るか、多少器用貧乏になろうとも、利点を整合させた1機を量産して送り込む方が良い筈。学園を完全に壊滅させることは無理でも、甚大な被害を与えることは出来ただろう。

だが、このEOSもどき(・・・)を送り込んだ人間――あるいは組織――はそれをしなかった。この2機でも十分だと考えた可能性はあるが、実験用だったと考えるほうが妥当だ。

 

「もう1機はどうだった?」

「衛星からの映像である程度の形状は分かりました。……そちらは、そもそも人型ですらありませんでした。どちらかと言えば、ミサイルのような形です」

 

モニターに衛星から撮影された静止画が映される。多少、画像は粗いがミサイルに手足が付いたような形状。……これが最初に確認できれば、少なくとも無人機であると納得はし易かっただろう。しかし、これがアリーナ内に侵入し爆発しようものなら…最悪の結果を招いたかもしれない。

 

「……」

 

それをイメージして、血の気が引くような思いになる。……今回は、ある意味で敵に助けられたということになる。

 

「……それで、他に情報は?」

「それが……内部の電子機器は全て、完全に破壊されていて、データを取り出すことも出来ませんでした。天王寺君が倒した機体も同じで……。恐らく、自動的に消滅させるプログラムが組まれていたと思われます」

「そうか……」

 

残骸を調査して分かったことは、襲撃者に無人機を高度なプログラムで動かす技術、そしてEOSを改造してISに損傷を負わせられる兵器にする技術があるということだけだ。

 

「あの…織斑先生?」

 

おずおずと、申し訳なさそうに真耶が尋ねてくる。

 

「どうした?」

「織斑先生は不快に思われるかもしれませんが…これらを創り上げたのは、もしかして…」

「分かっている。……製作者は篠ノ之 束だと言いたいのだろう?」

「……はい」

 

篠ノ之 束。ISというオーバーテクノロジーを創り上げた頭脳を持つ彼女なら、EOSを改造し無人機として送り込むことも容易だろうというのが、真耶の考えだ。それは恐らく、大半の人間が想定する事でもあるだろう。

しかし、それは篠ノ之 束という人間の頭脳(・・)を知る者の考え方だ。篠ノ之 束という人間の中身(・・)を知る千冬は異なる考えを持っていた。

 

「私が知る束は、自分の作ったものが最上と考える人間だ。そして私と自分の妹、そして……もう1人を除いた他の人間を取るに足らない存在だと認識する程度には歪んでいる。あいつは、自分の両親にも興味が無かったからな」

「ご両親にも……ですか?」

「ああ。……いや、正確には興味が失せた(・・・)と言うべきだろうが…それはいい。とにかく、あいつは他人の作ったものを素直に利用する奴ではない。篠ノ之家にあった電気用品の大半は奴の作ったものだったしな」

「本当ですか!?……色々と費用削減できそうですね…」

 

指を折りながら、何かを数える彼女。恐らく、頭の中では電気用品の勘定しているのだろう。

それはともかく

 

「価値観が変わったという可能性もあるが、奴がわざわざISの無人機ではなくEOSもどきを創ったと、篠ノ之 束の人間性を知る者が聞けば『あり得ない』と答えるだろう」

「そこまでですか…。というか、ISの無人機って」

「奴なら創っていてもおかしくはない。もし今回の襲撃者がISの無人機であったなら、私も真っ先に束が黒幕だと考えていただろうな」

 

 

 

 

 

EOSもどきにも謎が残るが……懸念事項はもう1つある。

御波 凪という青年の存在だ。

襲撃があった直後は、動揺が見られたものの普段の彼と変わらない様子だった。だが、戦闘が始まった後、態度が激変した。話し方は子供のように、此方を気にしていない素振り。直接凪から連絡を受けた3人も、同じ反応だった。あれは、いったい何だったのか――と。

そう考えていたところに、後ろの扉が開いた。―――入ってきたのは芳恵だった。

 

「お疲れ様です。……ああ、そのままで構いません。それで、どうでしたか?調査の結果は」

「今、山田先生からの報告書を確認したところです。……どうぞ」

 

そう言って、報告書を手渡す。

 

「では、後で改めて確認しますね。山田先生、織斑先生もお疲れ様でした」

「いえ。……それで学園長、凪…御波先生はどうでしたか?」

 

彼女が此処にいるということは、凪の聴取が終わったということになる。だが、彼は此処にはいない。

 

「彼なら、今は引っ越し作業です。いつまでも、地下施設で暮らさせるわけにもいきませんから」

「引っ越し…ですか?」

「ええ。彼も最低限の荷物を取り出したら此方に来るでしょう。あ、ちゃんと織斑先生の隣の部屋にしておきましたから、安心して下さい」

「そ、そうですか…。って、そういう事が聞きたいのではなく…」

 

正直に言えば、頬を赤く染めるくらいには喜んだ千冬。だが、今は重要な事ではない、と顔の緩みを正す。

 

「結構、時間がかかりましたね?」

「今回の件についての聴取もそうですが、他にも色々と頼み事などがあったので…」

 

真耶の質問に言葉を濁しながらも答えた芳恵に、千冬は疑問を持つ。しかし、関係ないならと、流すことにした

 

「御波先生の証言は変わっていません。当時の事は憶えていないと。念のため、精神科医にも診せましたが…いたって正常との事です」

「なら……」

 

あの時の、異常な様子は何だったのか。そう真耶が尋ねる。

しかし、芳恵は首を横に振る。分からないということだろう。」

 

「それと彼の過去や交友関係も、もう一度更識家に洗い直してもらいました」

「それはつまり…」

 

凪が嘘を吐き、しかも今回の件に深く関わっているのではないかと疑っているということ。もしかすると、反社会的組織やテロリストと関わりがあるのではないか。芳恵はそう疑っているのだ。

 

「勘違いしてもらいたくないのは、あくまでも一応、とういことです。それでは、あの時の様子に説明がつきません」

「そうですか…」

 

ほっと胸をなでおろす千冬と真耶。しかし、芳恵の表情は固いままだ。

 

「日本で普通に暮らしているなら、大半の人間に、テロと関わりを持つことは稀…全く無いとも言えるでしょう。しかし、彼の場合は一切の関係がないとも言い切れません」

「どういうことですか?」

 

真耶が尋ねる。

 

「その前に、この間の新聞部のインタビューで、御波先生に幼馴染がいた事を憶えていますか?」

「…ええ」

 

確か、10年ほど前に海外に引っ越した後から連絡を取っていないとの事だった筈。黛が昼ドラ展開を期待していたと言っていた。

……別に、嫉妬しているような事はない。

 

「では、10年前にトルコで起きた暴動を憶えていますか?」

「…?」

 

記憶にない。当時は色々と大変な時期だったから、そこまで気が回らなかったのもある。

――と、真耶がポンッと手を叩いた。

 

「当時は中学生でしたけど私、覚えてます。…、日本でも起こるんじゃないかって言われてましたね」

 

そうです、とキーボードを操作して学園のデータベースにアクセス。何枚かの写真を映しだした。

そこに映っていたのは、怒り狂い、鉄パイプなどを振るう男たちの姿。それを鎮圧しようとする機動隊。

 

「……これ、確かテロリストが裏で手を引いていたとか…」

「おや、思い出しましたか。……ええ、その通りです」

 

事件の概要はこうだ。

ISが発表された数ヵ月後、トルコの当時の大統領が新たな政策を打ち出した。『女性優遇政策』。政治や経済、軍事に至るまで女性に高い地位を与えるというもの。強引に押し通そうとした、当時の政権は写真のような激しい暴動で国民・外国人関わらず数多くの死傷者を出した末、倒れることとなる。しかし、そこで話は終わらない。政権が倒れ、一時的に政治が崩壊してしまった国で新たにトップに立ったのが暴動の首謀者だ。その男は、政治を建て直し英雄のように扱われた。…一部の人間、それも男性にのみだが。その男は酷く男尊女卑主義的な思考の持ち主であり、逆に男性優遇社会に仕立て上げた。これに怒りを表したのは女性たち。政府側は鎮圧に戦車まで持ち出す始末で、泥沼化していくことになる。そんな折、首謀者の男が政治資金の一部を反社会的過激派組織に横流ししていたことが判明、国連の調査まで入るようになった。最終的に男は投獄され、トルコは国連軍の監視のもと、再び民主主義政策を取るようになっていく。それでも、未だに小規模な事件は起こっている。この事件で同じく女性優遇の政策を提案した各国の党の殆ど(・・)は鳴りを潜めた。同時に、女尊主義者と男尊主義者の間に深い溝を作ることにもなる。

だが……

 

「それと御波先生に何の関係が?」

 

凪は千冬や刀奈、他の女性に対しても分け隔てなく接する人間だ。少なくとも、過激な言動に出る事はこれまで一度もなかった。

 

「直接的な接点はありませんが、間接的なものは幾つか…」

「……もしかして…その幼馴染が?」

 

首を縦に振る芳恵。

 

「海外に引っ越したという少女は、家族共々トルコに行き…暴動に巻き込まれて死亡。本人は亡骸すら帰って来なかったそうです」

「そんな……」

「更に、彼の会社…倒産した方の、ですが。その元上司は日本において反社会組織に所属していて、つい最近逮捕されたそうです。その組織も、トルコの男尊主義の主張を取り入れた組織でした」

 

それなりに長い付き合いのある千冬ですら知らなかった事実。それらを芳恵から聞かされた千冬たちは愕然とする。

 

「それともう1つ。一昨年……つまり学園に来る1年前には個人でトルコに行っています。旅行という理由で、ですが」

「…………」

 

押し黙る2人。あの恋愛事に鈍感なクセに妙に気配りの利く好青年は仮面を被っているだけで、自分たちの知らない貌があるのではないかと疑ってしまう。

もしかすると、本当の姿は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、本人に全部問いただしたところ、『概ね正解』という返事が返ってきましたが」

 

…………。

 

「「はい?」」

「勿論、馬鹿正直に質問したわけではなく、わざとぼかして、粗があれば問い詰めるつもりでした。しかし、彼は正直に、間違いないと話しまして…」

 

………。

 

「幼馴染の件は事実で、トルコ旅行は彼女の行方を探すための旅行だったそうです。彼自身、報道で少女の死亡が伝えられた以降もずっと気にしていたらしく、両親の事故などに整理がつき、生活も安定したということで行ってみた…と。結局は成果が得られないまま帰国したと言っていました」

 

……。

 

「元上司に関しても勧誘自体はされたらしく、丁重に断ろうとしたら口論になってしまったそうです。此方は、御波先生の元同僚にも確認が取れました」

 

…じゃあ…。

 

「さっきまでの話は……?」

「ですから、最初に申し上げた通り、あくまで一応だと…」

「「何ですか、そのオチはぁぁぁ!?」」

 

2人は激怒した。それはもう、相手が上司であることなどお構いなしに。

流石の芳恵も、冷や汗を掻いている。

 

「は、話を聞いて分かっていると思いますが、あくまで御波先生の異変とは関係ないというだけで、彼が組織に関わっていないという証明はされていないわけでして……」

「でも酷いです、学園長!私、もう少しで人間不信になるところでしたよ!?」

 

真耶は涙目で訴えかける。芳恵の考えにも一理あるとは思う千冬だが、それにしては勿体ぶった話し方で、混乱するのは当然だ。つまり、自分も被害者なので擁護する気はさらさら無かった。

 

 

 

 

 

多少脱線してしまったが、話を戻す。

今は凪も合流し、管制室の監視カメラの映像と通信記録の音声をもう一度再生しているところだ。映像はEOSもどきがアリーナに侵入してきた直後だ。

 

「……計器をよく見れば、確かに生体反応やISの反応がないですね…」

 

映像の中のモニターに目を向ける。確かに、一切の反応がなく表示されていない。

 

「本当だな…。まさか、こんな初歩的なことを見逃していたとは」

「仕方ないでしょう。無人機で、しかもISですらないとは誰も想定しなかったのですから」

「で、ですよね!?」

「今回は見逃します。…次は給料を下げますので」

 

自分の失敗を悔やむ千冬と、仕方ないからセーフと思う真耶。しかし真耶の甘えは、芳恵の一言で両断されてしまう。

 

「では、御波先生はどうだ?何か気が付いたことは?」

 

隣で見ていた凪に話し掛ける。暫く唸っていた彼は、そう言えば、と話し始める。

 

「この映像を見て…ではなく、この機体を見たときに『ISじゃない』って不意に思ったんです」

「……なら何故、報告しなかった?」

「すいません…。自分でも動揺していたのが分かっていたので、気のせいだと勝手に思ってたんです。その後の記憶もありませんし……」

「そうか……」

 

ならば、私が凪の方を見たときには既に異変は起きていた…という事か。

 

 

 

映像を切り替え、今度は凪の様子がおかしくなったと認識された場面と、鈴音たちと通信した場面だ。

 

「『生きていない』『命のないガラクタ』……最初は思春期の子の病気的な言葉だと思っていましたけど、この状態の御波先生は、2機が無人機でないと完全に知ってたみたいですね。」

「そうらしい。……この生意気な態度や言動は、正直痛いがな」

「そうですね。小中学生が言っているならまだしも、大の男の見た目で言っていますから……」

 

それぞれ、真耶・千冬・芳恵の言葉だ。様子の異常さよりも、言動のおかしさや見た目とのミスマッチ感に焦点が当てられているが、誰も気にしていない。

凪にしても、自分の意識がない間の言動の数々が心に深く突き刺さっていた。

 

「うぐぅ……。なんでこんな、小っちゃい女の子(・・・)みたいな感じに……」

「……む?御波先生、何か言ったか?」

「何でもないです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に日を跨いでしまった深夜。調査を終えた3人は帰路に着く。この日は凪も同じ道だ。

 

「結局、詳しいことは分からないままでしたね。どちらも」

「そうだな…。また、改めて調査する事になるだろうな」

「ですね。明日……というか今日はお昼までお休みですから、ゆっくりさせてもらいましょう」

 

襲撃があった以上、生徒たちを落ち着かせるという目的で休暇が言い渡されている。千冬ら3人のように、深夜まで作業だった者は昼までの短い休暇が与えられた。

 

「では、私は此処で。織斑先生、御波先生、おやすみなさい」

「ああ、お疲れ」

「お疲れ様でした」

 

真耶と教員棟の廊下で別れ、自分たちの部屋に向かう。1階の一番端。そこが凪の新しい自室で、その隣が千冬の部屋となっている。

 

「今日はお疲れ様でした」

「ああ。……そうだ、凪」

 

鍵を差し込み、回そうとした凪を呼び止める。凪は立ち止まった。

 

「どうしました?」

「……最近、お前の周りで更識を見ていないが…何かあったのか?」

 

無言のまま、ロックを解除。鍵を引き抜いてドアを開け、答える。

 

「――何もありませんでしたよ。もしかすると、『恥ずかしい』と思ってくれるようになったのかもしれません。けっこう、からかいも過激になってましたから」

「……そうか」

 

つまり、『何かあったのだ』。そう解釈して、千冬も部屋に入っていった。

 

 

 

 

 

「はぁ…誤魔化せただろうか…」

 

先程のやり取り、千冬が何かを感じ取ったのは明白だ。

実を言えば、彼女とはセシリアのコーチを頼みに行ったきり話していない。セシリアのコーチはずっと続けているようで、安心はしている。

以前は地下施設まで毎日来て一通り自分をからかった後に世間話や学校での出来事を話して帰っていく。そんな日々を送っていた。

だがセシリアとの一戦の後、生徒会室での件で会ってからは一度も来ていない。単純に向こうから来なくなったこともそうだが、休みの日に訪問しても居ないことが殆どだった。避けられているのだろうか――そう思った矢先に、とある現場に遭遇してしまう。

 

教員の部屋に設置された椅子に座り、鍵付きの引き出しをそっと開く。中には小さな機械が2つ。自分の物ではない。これは、天王寺 夏人の部屋で見つけた物だ。コンセントのカバーの裏に見つからないよう、巧妙に隠されたそれは、盗聴器と呼ばれる物だった。

 

―――設置した人物の名を、凪は知っている。

人をからかうのが好きで、扇子を開く姿が不思議と似合う、水色の綺麗な髪をした少女。

 

 

 

 

 

 

 

――更識 刀奈。それが、その人物の名前だった。

 




(最初から考えていたとは言え)オリ主の過去が重くなっていくのが、ひしひしと実感できます。
やり過ぎ……いえ、このまま突っ走って行きましょう!(逃避)


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