セシリア暴走&IS代表と候補の自己解釈、金銀コンビについて
特にラウラの設定は大幅に変更しています
「それで、プライベートな悩みを相談したときに御波先生に押し倒された挙げ句、大泣きしてしまった‥‥と?」
「ま、まあ‥そういうことかな」
凪と刀奈の話し合いから数日後。休みの日にいつも通り、アリーナでセシリアの訓練の面倒を見ていた刀奈は、以前の様子についてセシリアから訊ねられた。十蔵から極秘とされた今回の件は、当然、外部の人間に話すわけにはいかない。そのため刀奈は詳細には語らず、部分的なことだけを話していた。
「だから、元気がなかったのですね。しかし、レディを押し倒すなんて‥。御波先生の思考回路は摩訶不思議ですわね」
「そ、そうなのよ」
その時の刀奈は罪悪感でいっぱいで、凪に抱き締められたこともそれほど意識していたわけではなかった。
だが、落ち着きを取り戻した後は、思い返して顔を真っ赤にし、自室のベッドで転げまわっていたりする。
「それで、この前ごめんね?私の朝練のせいで織斑先生に怒られたって聞いたから」
「まあ、痛かったのは確かですが、それも
「本っっ当にごめんなさい!」
全力で頭を下げる刀奈。
千冬の一撃については、凪が何度か喰らっている様を見ているため、その恐ろしさについては承知しているのだ。
「‥まあ、そんなに謝られても、ということですし、ここで手打ちとしましょうか」
「あ、ありが‥」
「そ れ よ り も」
がっしりと両手を掴まれる刀奈。掴んだ方は息も荒々しく興奮しきっていた。
「御波先生に押し倒された‥‥とおっしゃいましたわね?」
「う、うん‥。確かに言ったけど」
「‥‥ならば!要するに、にゃんにゃんなことがあったということで大人の階段を登ったということでもあり更識先輩は既にシンデレラではないという結論に達したのですがいかがでしょう!」
ボルテージマックスなテンションで刀奈に詰め寄るセシリア。(表現をぼかしているが)大声でタブーワードを叫んでいるため、他の生徒が聞き耳を立ててこちらの様子を観察している。
「ちょ、ちょっとセシリアちゃん、声が大きいって。もう少し小さく」
「いいえ、ダメですわ更識先輩!この
「何を想像しているのよ、貴女は!」
「ナニをですわ」
「少しは淑女らしくなさい!」
暴走しまくっている後輩を制止しようとする刀奈だが、対処が追い付かない。
「‥さて、冗談はここまでで‥」
「絶対、
「何のことでしょう?」
嵐のようなテンションがピタリと止んだかと思えば、今度はケロッとした表情でいる。
「私、年下の後輩と上手く付き合える気がしないわ」
「もう少し、頑張ってみてくださいな。‥‥それで、実際どうなのですか。にゃんにゃん?シンデレラ?」
「シンデレラの意味がよく分からないのだけれど‥‥って、ち、違う違う!押し倒されて、抱かれただけで他には何にも‥」
「‥いや、結構やることヤってますわよね!?もうそれ、大人の階段飛び越えてしまってますわよね!?」
真っ赤な顔で否定する刀奈。実際問題、嘘を言っているわけではないところが恐ろしい。
「やや、やってるわけないじゃない!」
「ですが、今の発言はどこをどう取っても‥」
「そんなこと‥。そ‥それに、ほら、先生にそんな甲斐性ないだろうし!」
――凪さん、重ね重ねごめんなさい
内心では、本当に女性に迫る甲斐性はないだろうと残念に思いつつ、遠回しに失礼な発言を謝罪する。悪いとも思っているのだが、これ以上追及されてしまうとこちらも苦しくなってしまうのだ。
「それもそうですわね。女性の扱いは、あまり心得ていらっしゃらないようですし」
間を置かずに即答されてしまっているのは、男として喜ぶべきか嘆くべきか。
ボロクソに言われている当人は、残念ながら此処にはいない。
「それで、話を戻しますけど」
「え、ええ。‥私が謝罪して‥」
「その前ですわ」
「その前っていうと?」
――押し倒されて大泣きした
また同じ話をするのか、と刀奈は戦慄している。しかし、セシリアはふるふると首を振って否定する。
「これは推測なのですが‥更識先輩、それ以降、御波先生にお会いしました?」
「うぐ‥。あ、会ったわよ?‥‥廊下とかで」
「ではやはり、先生の部屋には行っていないということですわね」
「どうして、私が先生の部屋に行ってるのが当然みたいになってるのよ!?」
「お二人は『凪さん』『刀奈ちゃん』と呼び合う仲だと思っていたのですが‥」
「あれは、その‥‥」
凪も刀奈も、学校や公の場ではそのような呼び方はしていない。あくまでも教師と生徒の関係を保っている。‥‥のだが、芳恵が学園専用に配信した動画では名前で呼び合ってしまっている。‥‥そのせいか、他の生徒たちからは『俺の子猫ちゃん』という渾名が本人たちの預かり知らぬ所で付けられ、同じ名前の携帯小説――二人の教師と生徒の純愛物――が、これまた密かに流行っていた。
「謎のNHHN先生‥最新話が待ち遠しいですわ‥」
「‥何の話?」
ため息を吐いて空を見上げるセシリアを見て、キョトンとしている刀奈。
視線に気付き、こほん、と仕切り直す彼女。
「ともかく、私が言いたいのはですね‥‥今から行きますわよ」
「行くって、何処に?」
答えは分かっているのだが、もしかすると違うかもしれない。そんな淡い期待を込めて訊ねる。
「御波先生の部屋に」
あっさり打ち砕かれてしまった。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
かたな は にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!
「なんで、そんなに速いのよー!」
「淑女パワーですわ。さあ、気恥ずかしさなどかなぐり捨てて!女たるもの、殿方に御目見えするなら綺麗に着飾りませんと!」
「目が恐いのよ!」
「お洋服なら私の部屋に沢山あるので、遠慮せず。さぁて、何のキャラにいたしましょうか!?」
「それってコスプ‥‥いやー!」
腕を掴まれ、ズルズルと引き摺られていく刀奈。二人の様子を、周りの生徒たちは暖かく見守っていた。
「「「はぁ‥はぁ‥‥はぁ‥」」」
‥‥‥暖かく?
コンコンと戸を叩く。
「‥‥失礼します。学園長、お呼びですか?」
「ええ。仕事終わりに申し訳ありません。‥‥何か?」
「「‥いいえ」」
刀奈が連れ去られるのと同じ頃、千冬と凪は学園長室を訪れていた。残りの仕事を片付け、一緒に食事でも、と千冬が提案した直後に呼び出されたのだ。凪自身はいつも通りのお誘い気分だったのだが、千冬は久しぶりに二人だけで食事をしようという提案だった(普段は職員室にいるか、真耶も一緒にいる)。そういうわけで、千冬は少しだけ機嫌が悪い。
ついでに言えば、凪も今日は気が滅入っている。給料が大幅に減らされていたのだ。
何故ならば――
「どうしましたか、御波先生?」
「いえ、その‥‥減給額が少し多いような気がしないでもないような‥なんて」
「そうですか‥。ですが、ある機械を『隠蔽』とか、生徒を『押し倒し』たりされていたようですし?こちらとしては、納得して頂きたいと思っているのですが?納得頂けないというのであれば‥」
「い、いえ!納得させて頂きました!」
「あらあらあらあらあら、本当によろしいのですか?今、ここで陳情すれば、もしかすると給与アップも見込めるかも‥」
「いや、こんなに貰えて嬉しいです!‥‥すいませんでした!」
遂には半泣きで土下座し始める凪。一方の芳恵は若干、悦に入った顔をしている。
「‥‥意外と楽しいですね、これ」
「‥自業自得だ、馬鹿者め」
そう言って、千冬は冷めた目で土下座する凪を見ていた。が、これでは進まないだろうと思い、凪を立たせて話を促す。
「‥‥それで、何のご用ですか?」
「ああ、そうでした。‥これを」
芳恵は机の引き出しから、クリップで纏められた2つの紙の束を取り出した。それぞれの束の一番上の資料には、写真が貼り付けられている。
「‥これは?」
「今度、編入してくる新しい生徒さんの資料です」
「編入‥ってことは、代表候補生ですか?鳳さんみたいな」
「片方は一応そうです。もう片方の子は企業から」
「なるほど」
IS学園は超が付くほどの難関校である。通常の入学試験でさえ合格できる人間は、受験生の、そして合格点に達した者の中の一握りだ。そんな学校だからこそ当然ながら、編入試験も同等かそれ以上の難度を誇る。そのため、編入してくる人間となると、
「まあ、今年は御波先生と天王寺君がいますから。仕方ないと言えば仕方ないのですよ。‥それより、まずはこの子から」
片方の資料を渡され、それを千冬と眺める。
「‥ラウラ?」
「え、知り合いですか?」
写真には、仏頂面で、銀色の髪と左目に眼帯をした少女が写っている。見た目は他の生徒の誰よりも幼さを残しており、身長の低さも相まって(失礼だが)小学生くらいの年齢を思わせる。
「織斑先生は半年ほどですが、ドイツ軍で教官をしていた時期があるのですよ。彼女はその時の生徒の一人です」
「へぇ~、そうだったんですか。‥‥ん?ドイツ軍?」
軍という言葉に疑問符を浮かべる凪。ISは建前ではあるが、軍事利用の禁止が決められている。国家は研究であったり治安維持であったりという形で利用してはいるが、IS学園ではそういったことは難しい筈なのだ。
「とはいっても、軍以外では国立の研究所と大企業くらいしか、ISの保有も維持も難しいですし」
「それに、だ」
千冬が言葉を挟む。
「私や山田先生、教師部隊のメンバーなどのIS登場期の人間は皆、元軍人だ。代表も候補生も、大会に出るのにISで訓練しなければ話にならん。そういった受け皿に軍がなっていたんだ。今の代表や候補生も軍で訓練しているし、引退後そのまま軍に残る奴もいる。アメリカのイーリスは今も代表兼軍属だが、研究部のテストパイロットという形に収まっている」
「イーリが研究‥想像できないけど、この前白衣だったのはそういう‥」
「待て」
カラクリだったのか、と言おうとした凪のセリフを止める。遮られた方はポカンとしていた。
「なんだ、イーリって。何時からそんな親しそうな呼び方になった?というか白衣ってなんだ!イーリスが、どうしてお前に白衣を見せる!?」
「正確には白衣の下にスクール水着をいだだだだ!?」
更なる情報で油を注いだ凪は、千冬のアイアンクローの餌食となる。
因みに、イーリスと凪はメールでやり取りしていたのだが、その際のやり取りは
『どうだ、ナギ!白衣に日本のスクミズだぞ!エロいだろ?』
『え、あー‥うん。ゴメン、前に見たことあるんだ』
『カブっただと!?日本はもうダメか!?』
という内容であった。
それはさておき
「とにかく、織斑先生は説明の続きをお願いします」
「‥‥ごほん。そういうわけで国家にしろ学園にしろ、ISと軍とは、完全には切り離せんということだ。学園において、教師部隊での例外はお前と、生徒の専用機持ちでは‥天王寺の二人や篠ノ之、それに更識が当てはまる。最初から、白桜は倉持で、お前自身と更識は学園所属ということになってるからな。分かったか?」
「アイアンクローの痛みが酷いですけど、なんとか聞こえました。‥ということは、ラウラ‥ボーデヴィッヒさんもイーリみたいな立場ってことですか?」
「‥‥一応、ラウラの所属は災害対処が主な仕事で、代表や候補生とは所属が違う。代表候補の殆どが
『幼い頃から』というのは、どういう意味かと凪は訊ねる。‥しかし、千冬は口をつぐんでしまう。千冬からすれば、話したくないということではなく、話してもよいのかという思いがあったからだ。
代わりに、芳恵が口を開いた。
「その件については、御波先生にも知っておいて頂きたいことです。が‥これは個人に関わる情報で、特に秘匿性の高いものですから、くれぐれも他人に洩らさぬよう注意してくださいね?」
「わ、分かりました」
芳恵に釘を刺され、改めて姿勢を正す。それを見た芳恵は話を続けた。
「アドヴァンスド計画‥という言葉を知っていますか?」
まったく聞き覚えのない言葉に、凪は首を左右に振る。
「極秘事項ですし、それが当然なのですが。‥アドヴァンスドというのは、遺伝子強化素体とも呼ばれます。簡単に言えば、試験管から誕生した、軍事利用を目的とした子供たちのことを指します。‥遺伝子操作によって、完全な兵士を作り出すという目的で」
「‥‥は?」
『試験管から』というのは、そもそも昔から不妊治療の一つとして存在していることだ。そのため、近年では不思議なことでは無くなっている。しかし、『軍事利用』というのであれば別だ。
「それでは、ドイツ軍は‥」
「間違えて頂きたくないのは、ドイツ軍の行ったことではないということ。‥ボーデヴィッヒさんを始めとする、アドヴァンスドの子供たちは、旧ドイツの思想の一部を汲む一派によって産み出されました。それに対してドイツ軍が行ったのは鎮圧と組織の壊滅であり、子供たちの保護でしたから」
ニュースでそのような話題を見たこともないということは、ドイツ内で処理され、あくまでも裏の事件として解決したということなのだろう。
「産み出された子供たちの数は十数人ほどで、研究が本格的に乗り出す前でした。しかしそれでも、リストの約半分の子供は実験と訓練の最中に死亡。生き残り、保護された子もなまじ知識や肉体の強さ、社会交流が年齢に不釣り合いなために学校へ通わせるのも難しかったと聞いています」
アドヴァンスドの子供たちは、なにも実験と戦闘訓練だけをしてきたわけではない。(道徳や一般知識を除き)基本的かつ高水準な教育を受けている。しかし、そこに加えて銃器や戦闘機、ISの扱い方、人の殺し方までも教えられている。そういった施設であるため、当然ながら娯楽というものはまったくない。生まれを偽装し、普通の学校へ通わせたとしても、生活に
「現在のところ、軍を離れて軍人の養子になって自宅で学習する子供が殆ど。‥その内、唯一の例外がボーデヴィッヒさんです」
ラウラだけは現役軍人の養子であり‥現在も軍に所属している子供なのだ。それには、彼女が普通の生活に馴染めないという理由があり、何よりもラウラ・ボーデヴィッヒ自身が軍に残ることを強く希望したからであった。
「これはクラリッサ――ラウラの後見人に聞いた話だが」
今まで口を閉ざしていた千冬が口を開いた。
「ラウラは、施設では特に優秀な成績だったらしくてな。そんな自分に誇りを持っていたと聞く。だが、最後に受けた実験で問題が発生したんだ。‥『
「ええ、まあ。でも、あれは危険性はないとか‥」
「人間のやることだ。絶対はないさ。‥事実、ラウラの手術は失敗したからな」
しかしそのため、成績は大幅に落ち、『出来損ない』と呼ばれるようになったという。
「ラウラが軍に残りたがるのも、『自分が優秀である』ということを証明したいと思っているからだろう。‥私が教えた期間で、かなり調子は戻ったようだが」
「‥‥と、そういった事情があるので、ボーデヴィッヒさんを通常の代表候補生の扱いとして、1組に任せようと思います。ドイツ側の‥クラリッサ少佐の要望でもありますから」
「分かりました」
そう答えた千冬の顔は綻んでいた。
「な、何だ?」
「嬉しそうですね、織斑先生」
「そうか?‥‥そうだな」
「それではもう一人の生徒の話に行きましょうか。学園としては、こちらの方がよほど重大なので‥。どうぞ」
芳恵はそう言って、もう片方の資料を渡す。こちらは、金髪に紫ががった瞳をしており、ぱっと見、女の子にも見える中性的な
「‥ええええええええ!?おっおお男の子じゃないですか、この子!?」
「‥‥学園長、これは‥」
「織斑先生は気づいたようですね。‥御波先生は、予想通りの反応をしてくれました」
慌てふためく凪に対して、眉をひそめる千冬といつも通りの芳恵。
「もう一度、御波先生にお聞きしましょうか。この子はどう見えますか?」
「どうって‥‥。何処をどう見ても可愛い男の子じゃないですか!」
「「女子だぞ(です)」」
「え?‥‥あれ?ん?」
ピシャリと言い切られる。
思っていたことと事実が大きく異なり、凪の思考は混乱する。
「この写真に写っているのは、間違いなく女だ」
「資料には男と書いていますが、ちゃんと女性ですよ」
「‥‥お、男が女で女が男?それとも女イコール男で男イコール女?男は女であって女は男?‥‥痛い!」
思考がぐるぐると巡って定まらない。心なしか目眩までしてきていた。
そこに、千冬が手刀を打ち込む。
「混乱し過ぎだろう。というか、『可愛い男の子』ってなんだ。‥‥まさかソッチの趣味があるのではないだろうな?」
「予想より‥‥随分と斜め上だったのが想定外ですが‥。恋愛観は人それぞれですから、ね」
何故か生暖かい目で見られてしまったので、反論だけでも、と口を開く。
「い、言っておきますが、そんな趣味は‥」
「で、話を戻しますと」
「せめて弁明くらいさせてくださいよ!」
「何故、彼女が男性と偽って入学しようとしているか‥ですね?」
「‥‥もういいです」
シャルル・デュノア
金色の髪を後ろで束ね、真新しい制服(男性用)に身を包む姿は美少女かと見間違うほど‥‥‥ではなく、本当に美少女である。デュノア社――量産型ISのシェア第3位を誇る大企業――の御曹司であるからか、上品さと品行方正である様子が写真からでも見てとれる。
「本名はシャルロット・デュノア。デュノア社社長ウィリアム・デュノア氏のお子さんであることには変わりませんが、共に暮らしたことはなく、お母様が亡くなってからはずっと母方の祖父母の下で暮らしていたようですね」
「親子なのに‥ですか?」
「正確にはデュノア氏の愛人との間に生まれた子のようで‥デュノア社に入ったのはつい最近とか」
大企業の社長が別に女を作り、子供ができる。それ自体はあり得ない話ではないし、呼び寄せたのも罪悪感があってのことなのかもしれない。
「社長と奥様の間に子供がいるという話は聞いたことがありませんから、後継者として呼んだのかもしれません」
「しかし、それだと今回、わざわざ男と偽って入学させる意図が不明でしょう。いくらフランスが『イグニッション・プラン』で遅れをとったとはいえ‥企業スパイとして送り込むのはリスクの方が大きい」
「そういえば、フランスの第3世代機はまだ、発表もされていませんものね。第2世代のラファールが扱いやすいのもありますけど」
学園では2種のISが配備されており、倉持技研の打鉄かデュノア社のラファール・リヴァイブである。当然、他国も第2世代は開発しているのだが、初心者にはピーキー過ぎる性能を持つ。対して、この2機はそれぞれ防御、スピードに秀でるという特徴があるものの、扱いやすさでは群を抜いている。そんな機体だからこそ、各国も訓練用にはどちらかの機体を1機は配備している。追加装備も豊富で、長距離射撃用の『撃鉄』や火力増加の『クァッド・ファランクス』のようなものまで存在する。
凪も打鉄やラファールの乗り心地は幾度となく経験しており、 無理して新しいのを開発しなくても良いのでは、とすら思っていた。だが倉持から渡された白桜にしろ、デュノア社のまだ見ぬ次世代機にしろ、クライアント(この場合は国家)の要望には応えざるを得ないのだろう。
「デュノア氏が何を考えているかは分かりませんが、家庭内でのシャルル君‥いえ、シャルロットさんへの当たりも強いと聞きますし、無理矢理やらされた可能性もあります」
「‥それに関しては、社長が悪い気もしますけど」
たとえ夫の子であったとしても、自分の子ではない。それどころか、愛人の子の面倒を見ろ、とでも言われてしまえば、婦人がその子に不満を持つのも仕方がない。シャルロットにしても、そんな環境で過ごしたいとは思わないだろう。双方苦しまないなら、祖父母の家に居させた方が‥
「御波先生、それは『社長がデュノアさんを利用するつもりで呼び寄せた』という推測が前提です。そこまでにしておきなさい」
険しい表情をしていた凪の心を読んだのか、諌める芳恵。
小さく謝罪した凪の様子に、千冬は驚いていた。
「‥珍しいな、お前が誰かにそこまで言うなど。‥自分と似ているからか?」
「‥それもありますけど、その前の話です」
どういうことか、と訊ねようとした千冬だが、こほん、と芳恵の咳払いに遮られた。
「学園は一応、『シャルロットさんが被害者である』というつもりで動く方針です。あちらは同じ男子生徒同士で、ということで4組にするよう希望してきましたが、シャルロットさんに関しても1組‥正確には御波先生に
「……は?」
「私が‥ですか?」
「はい。企業スパイの疑惑もあるため、天王寺君と一緒の部屋にするわけには行きません。ですが、空きがあるのにもう一つ部屋を用意するのも怪しまれます。‥ので、『学園に慣れやすいよう、担当の男性教師と同じ部屋にする』という名目で、監視と囮の両方をやってもらいたいのです」
向こうの目的が最新鋭機の情報か男性操縦者ならば、両方を満たすのは凪か夏人である。学園内においては狙いやすいのは教師である凪より、同じ生徒で二人きりにもなりやすい夏人だろう。だからこそ、出来るだけ凪と一緒に居させようという作戦なのだ。
「囮は‥出来なくはないでしょうけど、他の仕事もありますし‥」
さすがに仕事を放置して監視は出来ないし、トイレに張り付くなどは逆に通報されかねない。
「もちろん、隠しカメラと盗聴、更識家の人間が
「分かりました、そういうことなら‥」
「ま、待て!」
了承しようとした凪を制止し、千冬は大声をあげる。
「ど、どうしたんですか、織斑先生?」
「言っておきますが、男装している女子生徒と一緒は不健全だ‥などという主張は認めませんよ?」
「うぐ‥」
芳恵の指摘が図星だったのか、たじろぐ千冬。しかし、彼女はそこで止まらなかった。
「だ、だいたい、先ほど女子だと分かった時など、慌てていたではありませんか。御波先生が平常で居られるとは思えません。それにデュノアが風呂に入っている間に、こいつが知らずに
入って‥いや、転んで風呂場に突っ込む可能性だって‥」
「ないですよ!?どんな奇跡を起こす予定なんですか!」
「‥私も、そこが不安要素なのです」
「学園長!?」
不名誉なやり取りが繰り広げられる。凪のツッコミを無視し、芳恵は凪の肩をガッシリと掴む。
「‥‥約束してください、御波先生」
「‥何をですか」
神妙な面持ちで凪の目をじっと見つめる。それは隣の千冬も同じだった。
「一つ。互いに入浴時間を決め、守ること。
二つ。自分の時間が来ても、すぐには浴室に入らず中に誰かいないか確認すること。
三つ。デュノアさんがお風呂やお手洗いにいる際、近くにバナナの皮など滑りやすいものがないかを確認し、万全の注意を払うこと」
――ベタ過ぎませんか、学園長
そう思ったが、ツッコむと何か言われそうなので止めた。
「‥四つ。絶対に‥絶対に、シャルロットさんに欲情しないこと!」
「や、やったら海に捨てるからなっ!」
‥‥‥。
「やってたまりますかぁぁぁ!?」
「あー‥‥喉が痛い」
アホみたいな誓約を誓わされ、億劫な凪は帰路についていた。千冬は編入生2人の諸々の処理があると芳恵に伝えられて職員室に戻った。そのため、凪は一人だった。
「だいたい、バナナの皮なんか普段から落ちてないし。それに‥」
ぶつぶつと先ほどのやり取りへの愚痴を、周りに気をつけながら呟く。ギャグならともかく、芳恵も千冬も本気で言っていたものだからたちが悪い。
すると―
「‥‥ほら、来ましたわよ」
「‥ほ、ホントに行くの?この格好で?」
「‥‥大丈夫ですわ、先生ならイチコロです」
「「「頑張れ、会長!」」」
「‥なんでこんなに居るのよ‥‥」
ボソボソと近くの茂みから、何人かの小声が聞こえる。
‥‥訂正しよう。何人かどころか、 十数人は居るのが分かる。半分以上は丸見えなのだ。
「‥‥!こちらに気づきそうですわ、さあ!」
「気づきそうというか、気づいて‥‥きゃあ!?」
ガサガサと蠢いている茂みから、見覚えのある、水色の髪の少女が飛び出す。
あたふたと真っ赤な顔で右往左往していた彼女だが、視線に気づいて髪を整える。
青を基調とした、着物のようなのだが、普通のものと少し異なっている。袖と胴の部分が完全に別れており、肩や二の腕、胸の上部分が見えてしまう。さらに素足が見えるように考えられたのであろう袴のような何か。
「‥‥‥」
「‥‥あぅ‥‥」
それだけならまだしも、狐らしき動物の耳と尻尾がぴこぴこと動き、可愛らしい様子だ。
「‥ぶふぉっ!?」
「「「「セシリアー!?」」」」
「‥‥‥」
「よ、よし…!……み‥みこーん!ご、ごごごご主人!お、お風呂にします?食事にします?そ、それともわ、わ・た・し?だワン!」
ポーズは招き猫、見た目は狐で語尾はワン。ややこしい。
「か、刀奈先輩!混ざってますわ、凄くややこしい感じに!狐とキャットと犬要素が!」
「だ、だってセシリアちゃんが色々要求するから!」
刀奈の混乱っぷりに焦ったのか、同じく茂みから飛び出した、銀色のウィッグを被り茶色の軍服姿のセシリア(鼻から血がでている)が間に入る。
だが――
「‥‥‥あう?」
凪はセシリアの腕を掴む。そしてニッコリと笑い――
「生徒指導室‥行こうか」
「あわわ‥」
ガタガタと震えるセシリア。茂みに残った生徒が逃亡しようと踵を返した。
「もちろん、後ろの皆もね」
「「「「ばれた!?」」」」
「『ばれた』ってなんだ!そんな丸見えでバレないとでも思ってたのか!先生のことバカにしてるだろ!」
溜まったストレスを吐き出すように怒る凪。全員を連行しようと歩き出す。
「お、お待ちくださいな、せめてこれだけは‥‥か、彼女は最高‥いやぁぁぁ!」
最後に決め台詞で終わらせようとする彼女を問答無用で引きずる凪。他の生徒は大人しく彼の後ろを付いていった。
「私、もしかして恥ずかしい目に遭っただけじゃ‥‥」
後日、刀奈は制服で普通に凪の部屋を訪れた。
戦場ヶ原(化物語)、ほむら(まどマギ)を見てからの、
玉藻の前(extra)で「声優ってすげー!」となったのはきっと私だけではないはず。
私が声優を知らないだけかもしれませんが
次回、金銀コンビ出るかなー?
誤字脱字やご感想があれば、感想欄まで。
よろしくお願いします。