第1話
≪side一夏≫
どうしてこうなってしまったのだろう。
千冬姉と一緒に生きてきた。両親は俺たちを置いて蒸発し、行方が分からなくなった。両親がいなくなって1ヵ月が過ぎると、千冬姉はすぐに高校を辞めてバイトに明け暮れるようになった。俺が良かったのかと聞くと、別に構わない。あんな内容、聞くまでもなく分かっている。常人とは桁外れに文武両道だった千冬姉は、そう答えた。
両親が置いていった金で、両親が置いていった家で、俺たちは暮らしていた。だけど、生活費や俺の養育費もある。元々、金持ちだとは言えない家庭だったから、バイトの収入と合わせても、何年もこのまま暮らせる保証はない。そう考えていた俺たちに、ある転機が訪れた。
白騎士事件。
原因も分からないままに日本へ向けて発射されたミサイルを、篠ノ之束が開発したパワードスーツ、インフィニット・ストラトスが全て斬り落とした。
その後、撃墜するため、あるいは捕縛するために現れた数々の兵器を、搭乗者を脱出させた上で撃破していった。その様は世界中を震撼させ、インフィニット・ストラトス…通称ISの存在を知らしめることとなり、未曾有の危機を解決へと導いたISの名を取り、この事件は、後に白騎士事件と呼ばれるようになる。
事件後、篠ノ之束が作製した500個程の、ISの核となるコアは各国に割り当てられ、世界にISが広まった。未だに混乱が収まらない世界であったが、人の適応力とは凄まじいもので、ほぼブラックボックス状態のコアを解明し、自らの手でコアを作りだそうとする者や、軍事利用しようとする者たちがすぐに現れた。その為か、篠ノ之束は世界から姿を消した。製作者が消えたことで、前者は結局コアの中の、ブラックボックスの一部しか解明できず、後者はISの強さ故に、そして世界の軍事バランスを保つために協定を結ぶまでに至り、以降、ISはスポーツ用として世界に浸透するようになった。
千冬姉は、研究・開発がなされ、競技として発展するIS業界にすぐさま飛び込んでいった。そして、生来持っていた天武の才を発揮し、瞬く間にその名を世界に知らしめ、数年後に開かれた世界大会で優勝してしまった。優勝したことは、俺も誇らしいと思ったし、そのおかげで2人が暮らしていくのに十分な大金が手に入りもした。
けれど、そこからなのだろう。何かが狂い始めたのは…。
千冬姉は、ほとんど家に帰ってこなくなった。大会直後はどこからも引っ張りだこで、帰ってきてもすぐに眠ってしまうほどに忙しいようだった。千冬姉が帰ってこない間、食堂を経営している親友の家にお世話になっていた。少し寂しくはあったけど、親友の家族はいい人たちで、バイトもさせてもらえた。だけど、時が経つにつれて帰ってこない期間が長くなっていったのだ。1ヵ月も会わないことだってあった。
ISの浸透と大会優勝という形での力の誇示により、世界には女尊男卑の意識が広まり、被害者も現れるようになった。千冬姉の弟でありながら、比べれば雲泥の差がある俺自身も何度も標的になった。……大人に殴られたこともあった。親友は、千冬姉に相談しろ、と言ってくれた。けれど、言えるわけがなかった。ずっと迷惑をかけてきたのだから、千冬姉に迷惑をかけたくないと、そう言って黙っていてもらえるように頼んだ。
千冬姉は気付かない。当然だ。気付かれては困る。
千冬姉は気付かない。…これでいいんだ。このままで…。
千冬姉は気付かない。………………………………本当に?
千冬姉は気付かない。………………………………どうして?
千冬姉は気付かない。………………………………なら、確かめてみよう。
もし、ダメなら………………………………………その時は。
そして
「くそっ!弟を攫えば、試合放棄して探し回るんじゃなかったのかよ!」
俺を攫った男の一人が怒鳴っている。
「俺に当たるなよ。俺は奴が弟思いだって聞いただけだぞ?」
と、別の男は冷静なままだ。
俺は今、ドイツにいる。理由は簡単。『あの人』に呼ばれたから。第2回となるISの世界大会があるらしく、自分の活躍を観に来いということだろう、どうせ。
で、めでたく決勝戦まで上り詰めたわけだが……『あの人』が2連覇することが気に食わない奴がいたらしく、俺を攫って不戦敗にしてやろうという魂胆だったらしい。人をこんな廃屋に監禁しやがって。はた迷惑にも程がある。
「…で?どうするよ?」
「何が?」
「このガキ。」
「そうだなあ……。」
2人の男たちの間でそんな会話がされている。
…早く決めてくれ。
「じゃあ…とりあえず、報酬もパーになっちまったし。八つ当たりさせてもらうわ。」
そう言って怒鳴っていた男が俺に銃口を向ける。
ああ、死ぬのか。短い人生だったな。
……………………………………まだ、死にたくないな…………………
銃声が鳴り響いた
「ぐ…………ぅ………」
「……………ちっ!何処だ!?」
俺に銃口を向けていた男が倒れて数秒が経過した後、もう1人の男が銃を抜く。
しかし
「遅いっ!」
声を発した影がもう1人を吹き飛ばした。気が付けば、1人は気絶していて、腕を撃たれたのであろう男は蹲っていた。すると、さっきの影(女性だったようだ)が蹲っていた男に、踵落としを喰らわせた。完全に止め刺したな…今。
「大丈夫か?少年…………織斑一夏君?」
「……大丈夫です。あの、どうして名前を?それに、貴女は?」
「私はセレナ・ホープ。………少年、自分が誘拐されたこと忘れてない?……まあいいか。とりあえず保護して、その後、お姉さんのトコに送ってあげるよ。」
それは…………
「お断りします。」
「なんで?」
「………『あの人』は、もう俺のことなんて見ちゃいない。そんな人の所になんて、居たくない……!」
ホープさんは大きなため息をつきながら、携帯電話を取り出して通話ボタンを押した。
誰かに電話をするようだ。
「あ、もしもし社長?私だよ~。………うん、少年は救出したよ。実行犯?まだ伸びてるよ。そんなわけなんで、保護よろしく。」
やっぱり、ダメか。当たり前だよな。初対面の人に相談していいものじゃないか…。
仕方ないし、日本に帰ったら出ていくことにしよう。きっと、すぐに連れ戻されるだろうけど。
早々に帰国後の家出計画を練っていると、
「それと、お姉さんへの報告は少し遅らせて。なぜって、そりゃあ………」
ホープさんはチラッとこちらを見てから、
「社員が増えるかもしれないからさ。」
そう、言ってくれた。
俺は、思わず尋ねた。
「良いんですか?」
「とりあえず、聞くだけね。ちゃんと聞いて、ちゃんとした理由があるなら…………そのときは、歓迎するよ。」
「………………ありがとうございます。………本当に、ありがとうございます。」
俺はホープさんと共に廃屋を出て、近くに停めてあった彼女の車に乗り込み、『社長』のいる場所を目指す。
道中、『あの人』が試合をしているであろう会場が目に留まった。
俺は、そちらを見ながら小さく呟いた。
サヨウナラ。
こんな感じでやっていきます。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘よろしくお願いします。