IS 千の冬の物語   作:smsm

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やっと主人公視点で書けました。
真ん中だけですけど。

今回、文字数が今までの3倍近くにまで膨れ上がりました。
べ、別に切る場所が見つからなかっただけなんですからね!


長かったり、表現がしつこかったりすると思いますが、温かい目で読んで下さると助かります。(土下座)


第4話

≪side千冬≫

御波が冤罪(と、本人は主張している)で逮捕されかけて早1週間。彼は私の家で夕食を作るようになった。何故か。

 

 

 

冤罪?事件の後、いつもと同じ時間に彼は私の家に来た。ただ、今回はお礼がしたいと言って手土産を持参していたのだ。彼は手土産を私に渡して、もう一度深々と頭を下げてきた。……私はもう気にしなくて良いと言ったんだぞ?別に、手土産が有名店の饅頭だったから受け取ったわけではないぞ?……とにかく、彼はまた頭を下げ、いつものように帰ろうとした。だが、いつもと違うことがもう一つあった。私服警官が様子を見張っていたのだ。私が弁護したものの、傍から見れば彼の行動は変人、の一言に尽きる。そのため、行動を監視するために警官が配備されたということだ。一応、知人として通した以上、このまま帰すとまた疑われることになるかもしれん。そこで私は、少々強引に彼を家の中に招き入れた、のだが。

 

「……………織斑さん、これは、何ですか?」

「何って、カップラーメンだが?」

「……………………………………」

 

彼は机の上に大量にあるものの名称を聞いて、黙ってしまった。何だ?何か、おかしいか?

 

「……………今日だけ、ですよね?」

「いや?ここ最近ずっとだ。」

 

彼の質問に再び答えると、彼は黙ってしまった。自慢ではないが、私は家事がほとんど出来ない。精々、洗濯物を洗えるくらいだ。

 

彼に家事が苦手だと伝えると、少し間をおいて

 

「…………………………ます。」

「何だと?」

「自分が作ります!!」

「はい?」

 

また変なことを言い出したぞ。

 

「変とは何ですかっ!変とは!」

 

思考を読まれた!?

 

「とにかく、織斑さんが家事をちゃんと出来るようになるまでは自分が面倒を見ます!」

「……ま、待て待て。話の方向がおかしい。何でお前に面倒を見られなくてはいかんのだ!?」

 

恐らく10人中10人が思うであろう疑問を、彼にぶつけた。しかし、

 

「何でって………恩返しだからです!!以上!!」

 

ダメだ、会話を切られた。

 

「片付けもその辺の棚に置いてるだけじゃないですか。今時のキャリアウーマンでも、もっとまともに家事出来ますよ!?知りませんけど。」

「知らないのではないか!わ、私が家事を出来なくとも、お前には関係ないだろう!?………って、そっちの棚は止めろぉ!」

 

 

 

……………………結局、彼はこの家に通うことになってしまった。

 

家の中にまで入るようになったからといって、男女間での何かが起きることもなかった。彼はほぼ毎晩、私の家を訪れて夕食作りや部屋の片づけをする(勿論、私も手伝っている)。夕食はわざわざ自分の家から持ってきた食器に盛り付け、世間話をしながら食事する。終われば食器を洗い、2つ3つ言葉を交わして自分の家へ帰っていく。そんな毎日が続いていた。

 

世間話と言っても、私がどんな物が好きなのか、どんな仕事をしているのか、という他愛のない話だ(IS学園で教師をしていると言ったら、給料は良いのかと聞いてきた。良いが、女性職員ばかりだと伝えると、ですよねぇ、と落胆したような返事が返ってきた。……狙っていたのか?)。

こんな会話を何度かしてきたが、彼は一度たりとも、一夏のことを…あの写真のことを聞いてくることはなかった。私も、聞かれない以上、答える必要もない。そう思い、話題に出すことはなかった。

………こんなものは、ただの言い訳に過ぎないのだろう。随分と自分勝手な話だ。私は、一夏の……弟の変化に気付かず、裏切ってしまった、そんな最低な女なのに。彼の優しさに甘え、過去を隠したまま過ごしている。………結局のところ、怖いのだ。彼が私の過去を知ってしまうことが。知れば、彼は私を軽蔑し、糾弾するだろう。自業自得だ。私自身、そう思っている。けれど、嫌われたくない。彼に嫌われてしまえば、また何もかも失ってしまう。恐怖と自身の甘えのために、私は、彼が通い始めてからずっと、その過去を話せずにいた。

 

明日もこのままの日々が、ずっと続けば良いのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪side凪≫

「合格しましたよ。織斑さん!」

「…………何に?」

 

俺の突然の報告に織斑さんは疑問を浮かべている。

 

「企業の採用試験に、です!」

「……本当か!?良かったではないか!」

「はいっ。」

 

俺は数日前、新たな就職先の候補であった、とある企業へ採用試験を受験しに行っていた。そして今日、合格の連絡が来たのだ。

 

「……確か、IS関連の企業だったな?」

「ええ、まあ。と言っても開発には関わりませんし、事務仕事ですけど。」

「それでも、決して悪くないところだっただろう?とりあえず、アルバイト生活脱出だな。お疲れ様。」

「ありがとうございます。」

 

織斑さんに労いの言葉をかけられる。

 

「では、せっかくだ。今日は私が料理を作ろう。」

「あ~……その、すみませんが、今回はご遠慮します。」

「…何故だ?私だって少しは上達しているのだぞ?」

 

俺に断られて、織斑さんは少し膨れっ面になっている。………ちょっと、可愛いかも。

 

「いえ、もうバイト先の人に呼ばれていまして…。織斑さんの手料理が食べたくないわけじゃないので、そう不機嫌にならないでください。」

「ふ、不機嫌になど、なっていない!……しかし、今日は私一人か。」

「たぶん、もう1人くらい増えても大丈夫だと思いますよ?大将たちはあんまり気にしないタイプですからね。」

 

今から連絡すれば、間に合うだろう。あの一家は知らない人でも、気にせず知人になろうとする人ばかりだ。少しばかり気の難しい織斑さんが相手だろうと、それは変わらないはずだ。

 

「今、何か失礼なことを考えなかったか?」

 

う、鋭い。

 

「そ、そんなことありませんヨー。」

「何故、棒読みになる?……まあ良い。先方に迷惑がかからないのであれば、ご相伴にあずからせてもらうとしようか。」

「なら、先に連絡を取りますから、準備してきてください。」

「分かった。」

 

そう言って、織斑さんは別の部屋へ入っていった。

さて、大将に電話するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………俺の(元)バイト先まではもうすぐだ。けれど、織斑さんは目的地に近づくほど、落ち着かない様子になっている。どうしたのだろう?

 

「織斑さん、どうしたんです?お身体の調子でも悪いんですか?」

「い、いや、そういうわけではないが……。」

 

なら、本当にどうしたのだろうか。明らかにいつもとは違う様子だ。…俺が織斑さんの様子を不思議に思っていると、質問を投げかけられた。

 

「な、なあ。そのバイト先はどんなところなんだ?」

「えーと、小さな食堂で店長とそのご家族が営んでいまして。店長がさっき言っていた大将で、その娘さんとお孫さんが手伝ってるって感じです。」

「……………………っ!その店の、名前は………?」

「名前?ごたん……」

 

「「御波さーん!」」

「ん?あれは、弾君と蘭ちゃんかな?」

 

五反田食堂の名前を出そうとした直後、俺を呼ぶ声が聞こえた。大将…五反田 厳さんのお孫さんである、弾君と蘭ちゃんだ。どうやら、迎えに来てくれたらしい。

 

「出迎え、ご苦労様。別に、もう近くまで来てるんだし、待ってくれててもよかったのに。」

「もう料理出来上がってしまったので、おじいちゃんが迎えに行って来いって。」

 

蘭ちゃんがそう報告してくれる。そうだったのか。……予定よりも随分早かったな。余裕をもって出掛けたつもりだったんだけど。

 

「とにかく、じーさんが酒瓶あけて待ってる。急ごうぜ!……そちらの人は?」

「何度か話したことがあっただろう?その女性だよ。」

「おおっ!マジっすか!?それじゃあ、ご尊顔を…………って、あ、あんたは!?」

「なんで、貴女が此処にいるんですか!」

「………っ!」

 

織斑さんの顔を見て、2人が驚いている。あれ、もしかして、知り合いだったのか?それにしては険悪な雰囲気だが…。

織斑さんは目を見開き、その顔は強張ったままだ。

すると、

 

「……御波、悪いが私は帰らせてもらう。」

「え、いや、でも……。」

「じゃあな。」

 

そう言うと、織斑さんは足早にこの場を去っていく。と、とにかく追いかけないと…。

と思ったところで、誰かに腕を捉まれる。……蘭ちゃんだ。

 

「何処へ行く気なんです?」

「いや、織斑さんを追いかけないと…。」

「ダメです!とにかく、家に来てください。」

 

蘭ちゃんが強引に引っ張っていく。弾君も黙ってはいるが、織斑さんを追わせる気は無いらしい。無理に振りほどいて、蘭ちゃんを怪我させるのは論外だ。

…仕方がない。大将たちには悪いけど、出来るだけ早く話を終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?お前さんは何時、何処で千冬ちゃんと知り合ったんだ?」

 

五反田食堂へ連行された俺は、大将と向かい合って座り、質問を受けている。弾君たちが言っていたように、既に料理も用意され、酒瓶もあけられている。……それらに手を付ける雰囲気には、流石になれないが。……というか、

 

「千冬ちゃんって……。」

「気にすんな。昔からの癖みてえなもんだ。それで?どうなんだ?」

 

『昔から』ということは、五反田家と千冬さんは、古くからの知り合いだったのか。

 

「3週間くらい前の此処のバイト帰りに、彼女の家の前で会ったのが初めてです。名前は伏せていましたけど、話には出していたでしょう?」

「……まあな。千冬ちゃんに関して、どれだけ知ってるんだ?」

 

何だ?大将は何が言いたいんだ?

 

「……IS学園で教師をしてるってくらいで、他はほとんど…。」

「それだと、弟がいたことも知らねえな?」

「ええ。」

「そうか。」

 

嘘だ。かつて見た写真の少年、彼が弟で、一夏という名前なのだろう。あの時の織斑さんの様子では、他人が気安く触れて良いことではない。そう思って、今まで彼女には聞いてこなかったが。

 

「……織斑さんが心配ですので、本当に申し訳ないですが、自分はそろそろ……。」

「………………何で、あの女の心配なんてするんだよ。」

「弾…君?何を言って、」

「あの女は、何もしてこなかったんすよ!家にはろくに帰らないし、一夏の誕生日にも、授業参観にも来なかった!ブリュンヒルデになっても………帰ってきても、忙しいだとか、疲れてるだとか、理由を付けて一夏を見ようともしなかったんだ!!」

 

ブリュンヒルデだったのか……。って、今はどうでもいいか。それよりも、

 

「……今、言ったことって……。」

「本当です。私も、近くにいましたから。」

 

俺の疑問に、弾君の代わりに蘭ちゃんが答え、さらに言葉を続ける。

 

「あの人は、一夏さんに起きた色んな変化に気づかなかった。呼び方を変えられても、雰囲気が変わっても。ただ一緒にいただけの、血の繋がってない私たちでも気付けたのに。」

「…………。それで、その一夏君は?」

「……あの人を見限って、他の人の家に引き取られました。でも、あの人、話を終わらせるときに何て言ったと思います?『明日も仕事がありますから』ですよ!?おかしいでしょう?家族と別れるっていうのに、何で平然と、そんなことが言えるんですか!簡単に諦められるんですか!」

「…………………そうだね。その通りだ。」

 

俺は心から、そう思っていた。

 

弾君が俺に言葉をかけてくる。

 

「分かったでしょう?あの女がどういう奴なのか。……凪さんにどんな事情があるかは知らないっすけど、もうあの家に通うのは止めてください。」

 

こんな話を聞かされれば、もう行きたいと思う奴は普通いないだろう。

……………………………………………………………………………………けれど、

 

「もう、こんな時間になってしまいましたね。………お料理、食べなくて申し訳ありません。けど、そろそろ戻らないと。………織斑さんが心配なので。」

「……………………今、なんて、」

 

大将たちが驚いている。さっき、自分たちの意見に賛同した人間がこんなことを言ったのだ。当然だろう。

 

「織斑さんが心配だから、帰る。そう言ったんだよ。」

「何でそうなるんですか!私たちの言ったこと、聞いてたでしょう?あの人は、」

「弟の、決して小さくない変化にすら気付けなかった、最低の姉?」

「分かっているじゃないですか!なら、何で、」

 

蘭ちゃんがもう一度聞いてくる。弾君や大将、娘の蓮さんも納得できないという顔をしている。

 

「それは、………言わない。」

「意味が分かりません!そんな、そんなことで納得なんか、出来ません!」

「………。」

 

………それでも、言わない。いや、言うわけにはいかない。赤の他人である俺の前で体裁も構わず泣いていた織斑さんが、家族との別れであっても泣かなかった。弟を、どうでもいい存在だと思っているなら、あんなに大事そうに写真を抱えて涙を流すはずがない。何故なのかは、分からない。けれど、そこには理由があるはずだ。

 

「………言ってくれよ、理由を。それまで、ここから出すわけには、」

「…………黙ってろ、弾。」

 

なおも追求する弾君を、大将が遮る。

そして、こう聞いてきた。

 

「……凪、その理由ってのは、俺たちが納得できるものか?」

「…………たぶん、出来ないと思います。」

 

そうだ。少なくとも、今の織斑さんの周囲に、この俺の心に共感する人間はいないだろう。そもそも、誰もいないんだ。今の彼女には。

 

「……そうか。なら、お前さんは本当にそれで良いんだな?」

「はい。彼女の下に行くのに十分だと思います。……俺にとっては。」

 

ほんの少しの、静寂が訪れ、

 

「…分かった。もう、行っていいぞ。」

 

…………………へ?

 

「ちょ、ちょっとおじいちゃん!?」

「じーさん、何勝手なことを、」

「うっせえ!男が決めたことに、口を出すんじゃねえ!!凪も、さっさと行きやがれっ!」

 

弾君たちの抗議を聞き入れず、大将はそう言って、酒をコップに注ぎ始めた。……どうやら、行って良いらしい。

俺がそそくさと引き戸を開いたところで、大将が何かを投げてきた。

…危なっ!って、酒瓶?

 

「就職祝いだ。持っていきな。……それと、何時でも店に来い。料金2倍で提供してやるからよ。」

「………それ、ぼったくりですよ?」

「お前さんだから、良いんだよ。……じゃあな。」

「…………はい。では、また。」

 

俺は大将に別れを告げ、戸を閉めて歩き出した。

 

さて、織斑さんは何処に居るのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪side千冬≫

…………………私は、自宅の近くの公園でベンチに座っていた。もう夜遅くのため、周りには誰もいない。

どうしてこんなところに居るのかというと……単純に、家に居たくなかったからだ。

けれど、

 

「こんなところに居たんですね。家に居ると思ってたのに…。探しましたよ?」

「………………………。」

 

御波は…また、私の前に現れた。

 

「何故……来たんだ?」

「………何故って?」

「聞いたのだろう?私の過去を。」

「……はい。」

「なら……。」

「いやあ、驚きましたよ。まさか織斑さんがブリュンヒルデだったなんて。」

 

……………………。

 

「教えてくれたって良かったのに。……織斑さん?」

「……誤魔化すな。五反田さんから聞いたはずだ。」

「う……。むう…。」

 

いきなり話を誤魔化そうとする彼を止める。

けれど、

 

「どうなんだ?」

「聞きました。……たぶん、全部。」

「……そうか。なら、」

「はい。……帰りましょうか。お腹も空いてるでしょう?」

「……………………………どうして、そうなる。」

「?」

 

彼は、どこまでも惚けようとしていた。

 

「聞いたのだろう!?私の過去を、行いを!なら、どうして、そんな態度が取れる!?」

「………貴女に、悪気があったとは思えませんけど?」

「……っ!……ああ。悪気なんて無かったさ!だが、そんなものは言い訳にもならない!一夏は、私を見限った。私自身がそうさせたんだ!その事実は変わらない!」

「……。」

 

彼は、今度は何も言わずに、ただ私の言葉を聞いていた。

 

「今でも、私にはどうすれば良かったのか分からない。代表候補生、ブリュンヒルデ、教師……私には色んな役割が、仕事があった。その為に、一夏の面倒を見ることが出来なかった。それは確かだ。けれど、なら、私は……仕事を辞めれば良かったのか!?出来るわけがない。両親はいなくなった。厚意で面倒を見てくれていた五反田さんに、負担を強いるわけにもいかなかったから。青春なんて知らない。恋なんて知らない!私は、働いて、働いて、働いてっ。そうすることでしか、一夏を幸せに出来ない。そう思って、ずっと生きてきたんだ!」

「そこまでしていたなら…どうして、諦めたんですか?」

「一夏が……一夏が、私と居ても幸せになれないと言ったんだ!天王寺の家のほうが良いって!……なら、私が諦めるしかないじゃないかっ!私は、姉さんだからっ。一夏の、『千冬姉』だからっ!」

「……っ!」

 

それは、かつて母と交わした約束。一夏を任された、織斑千冬の義務。私は、それを果たすために生きてきたのだから。

……だから、

 

 

 

「……ありがとう。」

「…………?」

 

私の突然の感謝に、彼は疑問を浮かべている。

 

「君との日々は、とても楽しい、かけがえのない思い出だ。君は、壊れかけていた私の心を癒してくれた。本当に、ありがとう。」

「…………………。」

 

彼は、何も言わなかった。

 

「君はきっと、どんな人にも優しいのだろう。けれど、私は本当に大切なはずのものを、簡単に手放してしまえるような愚かな女だ。君の優しさを受け入れる資格なんて無いんだ。だから、もう無理して私に構わなくても良いんだ。」

 

…言ってしまった。本当は、言いたくなかったけれど。言わないわけにはいかない。これ以上、彼の時間を私のために無駄にさせてほしくなかったから。これで、お別れだ。そう思っていた。

 

 

 

けれど、彼は

 

「……で、話は終わりですか?」

 

……………………………………え?

 

「長いです。凄く長いです。もう、肌寒くなる季節ですよ?ていうか寒いです。今日は夜遅くなっても、家は近いから薄着で来たのに。今の、家の中でも出来ましたよね?話、終わったのなら早く帰りましょう。それで、ホットコーヒーでも淹れてください。」

 

彼は…………………何を……言っているんだ?

 

「き、君は私の話をちゃんと聞いていたのか!?私は、」

「仕事と弟に人生の約三分の一を捧げてきたくせに、『簡単に手放してしまえるような愚かな女』なんでしょ?」

「……っ!…そうだ。」

「ほら、ちゃんと聞いていたでしょう。さ、帰りましょう。」

「だから、話を終わらせようとするな!」

 

……何なんだ、一体。

 

「私の行為に、何か思うことがあるだろう!?」

「……まあ、そりゃあね。ほとんどの行事に来られないってどんだけ忙しいんだとか、知らない相手に弟を預けるとか何考えてんだとか、完全に姉失格だとか思いましたよ。」

「そこまで考えているなら、何故私の傍に居ようとする!?どうして、どうして君は…。」

 

私を、酷い人間だと思っているのに、傍に居ようとする。……意味が分からない。はっきり言って異常だ。

私は何時の間にか、彼の行動の理由が知りたくて、質問ばかりしていた。

 

「織斑さん…貴女は言いましたよね?一夏君に対して、自分ではどうすることも出来なかったと。だから、幸せになってもらいたくて諦めた、と。」

「ああ。確かに、そう言ったさ。……けれど、」

「それが理由です。貴女は、大切な人のために何でも出来る、優しい人です。そして、自分では出来なかったということを、心の底から後悔出来る人なんだ。俺は、そう思ったんです。……ああ、それと、」

 

そのまま、彼は言葉を続ける。

 

「貴女は一つ、勘違いしています。俺は、誰にでも優しいわけじゃない。貴女と接していたのも、優しさではありません。俺はただ、同情していただけです。貴女と俺の境遇が、少しだけ似ていたから。」

「……え?」

 

私と似ている?……そんな話……。

 

「わざわざ話すほど、大した話でもありませんから。中学のときに両親が事故死して、親戚中をたらい回しにされて、全寮制の高校に入れられて、卒業後は就職したってだけの話ですから。」

「……自分の話だろう?どうして、人ごとのように話せるのだ!?」

「これでも一応、当時は相当堪えてたんですよ?ただ、時間の流れだとかで落ち着いてきただけですし。……って、もう!本題はそんなことじゃなくてですね。…こほん。…………………ねえ、織斑さん。」

 

自らの過去を『そんなこと』と呼んだ彼は、咳払いを一つして、優しい声で私に語りかけてきた。

 

「………『独りぼっち』は、寂しかったですか?」

「………………こうなったのは、私の自業自得だ。だから、」

「原因なんて聞いてません。俺は、貴方の気持ちを聞いてるんですよ。」

「…………………。」

 

彼は、私の目をじっと見ている。その瞳は、私の心を、本心を見せて欲しいと、そう語りかけていた。

……私は…………

 

「………寂しかったさ。両親も弟も皆、私の前から去ってしまった。どう生きていけば良いのかも、分からなくなってしまった。生きる意味も、失くしてしまった。私は…」

「……なら、とりあえず御自分の家に帰るところから始めましょう。勿論、」

「………勿論?」

「勿論、俺と一緒に。『二人ぼっち』で帰りましょう。」

 

彼は、少し照れ臭そうに、そう言った。

 

 

 

 

…………どうしてだろう?彼の姿が、ぼやけてしまって良く見えない。

 

「………泣いてるんですか?」

「ば、馬鹿者っ!泣いてなどいない!…目にゴミが入って、………あっ…」

 

精一杯強がろうとする私の身体を、抱き寄せ、彼はギュッと抱きしめた。

 

「……そうですね。泣いてなんかいませんもんね。」

 

そう言って、彼は私を抱きしめたまま、頭を撫で始めた。

まるで子供の扱いだ。……けれど、彼はとても温かくて、

 

 

「………………なあ。」

「何ですか?」

「……もう少し、ほんの少しでいいから、このままでいてくれるか?………『凪』?」

「……ええ。貴方が満足するまで、ずっとこうしておきますよ。………『千冬』」

 

 

 

 

 

結局、私が眠ってしまうまで、彼は私を抱きしめてくれていた。

 




主人公の一人称や千冬の二人称がコロコロ変わっているのは、仕様です。

誤字脱字等がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。

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