高木碧は辟易としていた。
来るたびに思うが、ひどい寂れようだ。最寄りの駅まで車で40分。周りを山に囲まれた、田舎と言ったら誰もが想像する通りの町。それが、ここだ。
「趣はあるよね。趣しかないかも」
「そこがいいんじゃない」
そう言いながら高木藍は大きな欠伸をした。長時間の運転での疲労のせいか、先程から絶えない母の欠伸はこの町での滞在の味気なさを比喩しているように思えた。
夏休みの7日間、僕は母の実家に滞在することになっていた。高校一年生の夏休みの貴重な1週間を此処で過ごすことに、少なからぬ抵抗を覚えるのは当然の事だろう。友達が皆揃いに揃ってディズニーリゾート1泊2日満喫ツアーの予定を立てて大いに盛り上がっている中、僕は一人憂鬱を背に母と北へ旅立った。此処にあるものといえば田んぼくらいで、唯一賑わいを見せているのは田んぼの真ん中に仰々しく佇んだパチンコ屋だけだ。娯楽が少ないこの町で、大人達にスリリングでリスキーな刺激を与えるこの施設を見ていると、何故かいつも苛立ってしまう。
「ギャンブルって儲かるの?」
娯楽施設を遠くに望みながら、なんとはなしに聞いてみると、
「少なくともあんたがやっても儲かんないわよ」
と一蹴される。
「母さんがやっても儲からないと思うけど」
「私はこれ以上儲ける必要もないからいいのよ」
写真家の父が行方不明になってから10年が経つ。碧を養うために母、高木藍は自ら会社を広告代理店を設立し、1年でそれなりの実績を挙げ、相応の収入を得てきた。もともとそこそこ名の知れた大学の経営学部を卒業していることもあるのだろうが、それまで主婦であったことから考えれば、随分と思い切った行動だっただろう。以前、なぜ就職しようとせずに会社を設立しようと考えたのか母に聞いたことがあった。
「人の下で働くのって、気にくわないのよね。指図されるのは嫌いだし」
にべもなく答えるところが母らしかった。
空がオレンジ色に染め上げられる中、車を走らせる。もうすぐ着く頃だろう。7日間の滞在への気怠さを溜息にして撒き散らす。
「もう一回溜息ついたらそこで降ろすわよ」
バックミラーに映る自分の顔は光の反射でよく見えなかった。碧はポケットの中から携帯電話を取り出して待ち受け画面を開いた。
「圏外か」
碧は携帯電話の電源を切った。此処では使い物にならない薄い板状のガラクタを再びポケットに入れて、碧は空を見上げた。空だけはいつ見ても綺麗だから、この町は腹立たしい。