【テスト】「サトミタダシ」の店員さん【お試し】 作:秋野よなか
こんなの俺の思っているゼロ魔じゃない! と感じた方はごめんなさい。
書くのは遅めですが、今年もよろしくお願い致します。
日は既に沈み学院まで帰りつき部屋に戻ると、ベッドに腰掛け箱から高価そうな瓶を一本取り出し、中に入った薬液を月明かりに透かし見る。
気付けば学院の自室に戻っていたが、途中の記憶が抜け落ち半夢遊病者の態であった。廊下で誰かに呼び止められた気もするが、よく覚えて無い。
こうして貰ったポーションを手にしてみて、コレが夢で無いことを実感し漸く現実なのだと認識する。
「……あの男は、何者」
そう言えば、今になってあの男の名前さえ聞いてない事に気付く。
疲れていたからだと自分に言い聞かせ、消えてしまったピエモンの秘薬屋に関しても、本当に起きた出来事なのか不安を覚え、最初から思い出してみる。
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ガリアからの留学生として、トリステイン魔法学院へ入学し早一月。
行われる授業内容は学ぶことが少なく、学院の図書館に入浸りその蔵書の中から、治癒に使う秘薬やポーションの触媒を調べ、虚無の曜日は王都へ足を運び露店を眺め、噂に聞きつけた裏通りの秘薬屋を見つけ入ってみれば、扱っている品は様々だったが私の求める物は置いてなかった。
そう簡単に目的の物が見つかるはずがないのだと、溜息を零す。
そんな落胆した私の様子に「水精霊の涙だって揃えて見せるぜ」と豪語する店の主の話で、時間を見つけては本屋と秘薬屋に顔を出していたが、なぜか店ごと跡形も無く消えていた。
品揃えはまずまずで胡散臭さの抜けない店だったが、僅かな噂話にも上がらずこうも綺麗に消された事から見て、余程不味い事をしたのだと予測する。御禁制の惚れ薬でも調合し販売して、見つかったのだろうか?
代わりに店の跡地に居た平民は、どこかだらしない感じの印象を受けたが、皺のない清潔そうな白い服を着た珍しい黒髪の男。
近くには他に誰も居ないので仕方なしに話し掛ければ、どうもこの男はピエモンの秘薬屋の顛末を知っていたようで「亡くなった」と断言した。
……やはりピエモンの秘薬屋は相当危ない橋を渡り、失敗したようだ。
そのまま続いて語られる言葉を耳にし、知らず力の入っていた肩から力を抜き、本から視線を外して頭を上げジッと見つめ返す。
初見の人間、しかも貴族に向かって遜った様子も無く、あの怪しげな店主でさえ店ごと潰されたのに、「それなりの品を用意できる」と言い切れるのだから、相当自信があるのだろうと店内に案内されれば、そこは私の知らない何かだった。
男の後についていき最初に驚いたのは、店の入り口一面が「透明で均一な硝子」で作られてあり、魔道具を組込んでいるのか自動で開閉までする扉。
更には狭苦しく薄暗い小屋だったはずの場所に、聞いた事のない変わった曲調の楽が流れる明るく広い店内と、棚に並ぶ様々な品。
それら全てにガリア本国でも見た事も無い文字が書かれた、不可思議な物ばかりが目に映った。
最初は扉と店内の照明の魔法具で、トリステイン貴族の後を継げない次男か三男が、趣味が高じた店を立てたかと思ったが、これは明らかに違う。このような狭い空間を広くする魔法など始めて目にするし、私を試すかのように「ある飲み物」を出してきた事で、私には黒髪の男の出身にある程度の予想がついた。
それは平民の飲む水や白湯、ましてや普段学院で口にするような紅茶などでは無く「緑色をした飲み物」で、それは一定の層にならそれなりに知られている品、遥か東方ロバ・アル・カリイエで飲まれていと言う「緑茶」だったからだ。
この店に並ぶ品と始めて目にする技術から、東方から流れて来た没落したメイジ、或いは東方と確実な伝手がある、やり手の商人なのかもしれないと考察。
だがおかしなことに、どうやら話しぶりからすると自分がいる場所さえよく分かって無いくせに、ここが何処なのか場所を知りたいと、世界を示したと言う地図を持って来る始末。
この男はよほど世間に関心を向ける必要のない生まれか、かなり世間とは隔絶された秘境のような場所に住んでいたに違いない。
しかもその地図の書かれた紙は薄く滑らか且つ、彩色まで施された緻密な絵画のようで、これ一枚作るのだけの情報と技術はかなり金額が掛かったはず。
価値の高さは言うまでもないが、見ず知らずの私に見せて大丈夫なのだろうか?
例え文字が読めなくとも、図面を覚える事は出来るのだから。
そんな疑問を他所に語られる地名や国名は、私の知らない名ばかりが飛び出し、しかも地図の大半は未知の知識なのに、商人とは言え貴族と同等な意見を交わせる事にやはりメイジだと確信。私が一つの事を語れば、相手は自分の推察した十の言葉で返す。
ただ他に店員も居なければ、傍仕えさえ居らずたった一人の様子。
……男から感じるちぐはぐな印象に、どうしても謎ばかりが増える。
だがそんな疑問よりも、本のページを捲る様な面白さが勝るのだから仕方が無い。
一見ただの冴えない平民を装いながら、地図を持ち出し何気ない会話から相手を試しつつ、その人柄まで探ろうとするあたり、飄々とした学院長のオスマンを思わせる。
お茶と一緒に出された菓子も、初めて目にする物で一つ一つが丁寧に梱包され、向こう側が透ける硝子のような布でも紙でも無いそれは、まったく謎の素材で出来ていた。
何度目かになる未知に驚く私にも構わず、それを躊躇なく何でもない事のように袋を破り捨て中身を食べる男には、この袋さえそのくらいの価値しかないのだと気付かされたが、こっそり一袋だけポケットに入れる。
平気で茶も菓子も先に口にする事から毒の心配はしていなかったが、こうも自然にされると少し緊張していた自分が酷く間抜けに思えた。
そこからは先は一言では表せない、美味なる物が沢山出て来た至福の時。
東方産に違いない珍味に加え、その後に誘われた昼食でも惜し気も無く御馳走してくれたあの男には感謝して良いだろう。
食事を続けながら会話を重ねれば、予想道理凄まじく世間の事には疎いらしく、こちらの世情を話せば興味深そうに耳を傾け、時に深く思考の奥に沈み込み席を外したりもしたが、私は満足できる時間を過ごせた。
帰り際酷く顔色が悪かったので、食事の礼も兼ねて「ヒーリング」を掛けたところ、とても喜ばれ、店で扱っている商品らしい「きずぐすり」を貰う。
その効能を聞いて耳を疑ったが、他言しない事を約束かわりに更にポーションを五本箱に詰めて渡してきた。
ただのヒーリングで、秘薬に匹敵しそうな回復薬をくれるのも驚いたが、更に渡されたポーションの効果を説明された時は、流石におかしいと疑う。
東方から訪れたらしい事を黙るだけで、毒と石化、おまけに麻痺や病気を治すポーション? いったい何を考えている? 一瞬聞き間違えたかと、再度確認する為に掴みかかったが、キョトンとした顔でもう一度丁寧に使い方を教えてくれた。
あの男は私を一体どうしたいと言うのだろう……全く分からない。
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ピエモンの秘薬屋が消える前にあの店主から、私が調べていた水精霊の秘薬の件でも聞いていたのだろうか? 疑問は尽きないが取りあえず、このような高価な品をぽんと寄越してきたあの東方のメイジから感じた感想は、ただ一言に尽きる。あの男は変人。
ベッドの傍らに立てかけた杖を取り、魔法を唱える。
「……ディテクトマジック」
詠唱の結果、魔力があるのは確実だが、このポーションに使われた素材やその成分に関しては、さっぱり分からない事が分かる。本物なのだろうか?
このポーションは、本当に私が望む結果を生み出せる物なのだろうか?
こんなあっさりと手に入った代物で、本当に癒せると言うのだろうか?
これを渡してきたあの男を、本当に信用して良いのだろうか?
なによりもこのポーションも、実は私の事をガリアから遠ざけ監視していたあの男が、私を騙そうと全て仕組んだ罠じゃ無かろうか?
硬く握ったお父様の形見の杖を抱きしめ考える。
果たして、私はあの頃よりも強くなったのだろうか?
あの日以来感情を殺し人形となり、只管任務をこなしてきた私が、まさかこんな風に思う日が来るなんて考えもしなかった。
後から後から問いかけは生まれ、私を惑わす。
杖の先端が床に当たり、カタカタと小さく音を立て喉が張り付く。
「私は……怯えている」
掠れた声で言葉に紡ぐほどに迷いは深まり、この震えさえ疑わしく感じてしまう。
こうして怯えているのは私が人形になり切れず、本当は人を疑うのではなく信じたいから。
このポーションを使う事で、私が取り戻したいものがきっとまた返ってくる。
……そう安易に、誰かを信じきる事がとても難しい。
また裏切られるかも知れないと言う言葉が浮かび上がると、酷く怖いのだ。
それ以上に、あの日誓った私の思いが鈍ってしまうのではないかと。
「…………」
夜空を照らし私を見下ろす赤と青の双月は、何も答えてはくれない。
「……頭いてぇ。久々に飲み過ぎた」
昨日はあれ以降、特に連絡が届く事も無かったので、社長に言われたように滅多に飲まない酒の蓋を開け、適当に飲んで寝た。
しかし店を開けるにしても、販売して問題なさそうな商品を選ぶ必要はあるだろうし、需要がどれほどかも今のさっぱり分からん。
一応発注は出来ても、本当にエネ協(生体エナジー協会)から商品が届くかどうかも定かではない。動く事も大事だが、時にはどっしりと構え考える事も大事だろう。
まあ動かなければ疲れないし腹も大して減らし、考える事は幾らでもある。
とは言えここが異界なのは確実なのだから、己の周囲の把握するのも大切で、最悪の事態を想定し逃走経路の確保は急務だろう。
それにこの地に居る悪魔の強さや、タバサさんから教えて貰った通貨単位、確かエキューとか言ったこの国で流通する金も無いのが現状だ。
これじゃあ悪魔に遭遇しても、物品かMAG(生体マグネタイト)でしか交渉できない。
手っ取り早く宝石でも換金できれば良いが、ツテがないので足元をみられ安く買い叩かれるか、官憲でも呼ばれ犯罪者扱いでもされたら単なる墓穴。
だが念のため小粒の物を数個だけ懐に仕舞う。悪魔って奴には光物が案外効くからだ。
「はぁ、円は当然こっちじゃ相手にされないだろうし、この地域だと魔貨(悪魔が使う魔界の通貨)はどうなんだろ? 使えんのかな? MAGも肝心のエネ協がこっちに無いそうだから換金は絶望。金が無いのは首が無いと同じって、昔の人は上手い事言ったもんだ。俺って本当にこっちでやっていけるのか?」
(二日酔いのせいか、思考がどうもネガティブになっていかんな)
思わずそんな愚痴を零し痛む頭を抱えながら、まずは今居る地域チクトンネ街とか言う近場から、あちこち顔を出してみようと考える。
それにエネ協が来られるなら、このやたらと広いらしい異界化した場所から出る事だって直ぐだろうと、気楽に行こうと思いなおし着替えを手に取り、頭から熱いシャワーを浴びてさっぱりする為に風呂場へと直行した。
居間のTVの電源を付ければ繋がったままなので、日常の延長が画面に映り昨日の野球結果が流れると、特に異界に飲み込まれたと言う感覚がどうしても薄い。
朝食を腹に詰め込むと地下の射撃場兼異界探索用の装備品を置いた倉庫へ降りる。ただ普段使う防具や武器はかなり目立つので、隠し持てるサイズの銃とナイフを忍ばせ、鋼板を仕込んだケプラー・ベストを着込もうとしたところで手を止めた。
これだと街を歩く人と比べ、服装に違和感があり過ぎてかなり目立つと感じ、何かないかとクローゼットをあさり、渋々参加している社員強制ハロウィンパーティーで使った、某暗黒卿の黒装束セットを退け奥に在ったジェ○イ・ローブセットを引っ張り出して羽織ってみる。
「……おかしな恰好をしているのに、外じゃこの服装がそうおかしくない事に対する脳味噌の拒否感が半端ない。早く戻れるように手配して貰わんと」
鏡に映る自分の姿を見て、この格好で外を歩くのかと思うと変な汗を掻く。まるで罰ゲームを受けてる気分だ。
店の正面はシャッターを下ろしたままなので、裏口から外に出れば昨日目にした表の通りよりも、尚狭い日当たりの悪いぬかるんだ道が続いていた。
表通りに出る前に、念のためCOMPの中に入っているソフトを起動させ、問題なく使えるかの確認も行う。
「エネミーソナーと百太郎、両方とも問題なく使えるけど、タイム・ガールは通信エラーか……。ここじゃ有線以外、ネットは繋がらないようだな」
(ネオ・クリアは使えないし、ケチらずハニー・ビーも購入しときゃ良かった)
そんな風に考えながらCOMP内に納まっている仲魔の状態も調べ、いつでも悪魔召喚プログラムが使用でき、異常もない事が分かると帰る目途が立つ暫くの間は、この異界と付き合う事になるのかと思った所で今更だと気付く。
「俺って、こんなに臆病だったのか?」
意外に気負っていたことを自己確認してしまったが、今度こそ表通りの雑踏の中へと一歩足を踏み出した。
諄い文章かも知れませんが、今回は此処まで。
誤字脱字、感想、ツッコミ等お待ちしておりますが、余り心臓が強くないので、エレベーターの扉近くで「開く」を押しながら待ってあげるくらいの優しさで、どうぞお手柔らかに……。
生体マグネタイト:悪魔が人の世で実体を保ち維持するのに必要なエネルギー。生物全てが保有し、多かれ少なかれこれを体内で生成し蓄えているが、吸収できる量は個体によって差と限界があり、それ以上は空気中に溶けるので貯めるには、何らかの機材で収拾する必要である。主な例はCOMP等他様々である。
生体エナジー協会は、このMAGの取引を安全に行いながら、通貨との交換レートを決めて取り扱う営利団体。
作中で使用されるのCOMP内の専用ソフトの簡単な説明
「エネミーソナー」:近くの悪魔の発生をシグナルやCOMP画面に点滅で知らせる。
「百太郎」:後方監視ができ、悪魔のバックアタックを回避。
「タイム・ガール」:通信ソフトで、予定時刻に他のソフトウェアを起動させる事などが出来る。
「ネオ・クリア」:衛星式MAPナビゲーションが可能。
「ハニー・ビー」:偵察用超小型ドローンを打ちだし、ビデオカメラで偵察が可能。ドローンが破壊された場合再購入が必要。