【テスト】「サトミタダシ」の店員さん【お試し】 作:秋野よなか
毎回この出だしだと面白くないですが、本当の事だから仕方が無い。
申し訳ないですが、これが私の限界です。
3/19 話の流れは全く変わってませんが、少々加筆修正を行いました。
暴れていた巨漢の男、超人ハ○ク擬きも直ぐに取り押さえられおとなしくなったので、周りに居た人達もようやっと落ち着きを取り戻し、俺達を避けて新たな列を作り炊き出しを貰うべく、再び並び出していた。
えっ? 何これ? 意味が分からんのだけど、よく物語の冒頭で語る渋い声の説明おじさんPlease!
「いやはや、それにしても代表。その装いを以前見受けた際は、とてもとても不本意だと嫌そうに着込み、あの祝い事の集いに参加していたと記憶していますが。どうやら私めをも欺く偽りの態度で会ったご様子。流石我等をこの地に導きし御方、まさに悪魔的欺瞞。会長もきっと私と同じように頷く事、間違い無しでありましょうな」
何故かとても満足そうに頷き、笑みを更に深める生体エナジー協会のおっさん。
その悪魔的欺瞞って何? いったい俺はどんな人間だと思われてんだよ! 酷い風評被害だよ! 変な事をこんな人の多い場所で言いふらさないで! しかも何気にこの恰好貶めて喜んでいませんか? マスタージ○ダイだよ恰好良い筈だよね? それとも暗黒卿の方を御所望か!!
いったい何がどうなってんだ……。
昨日連絡が取れた本社からの話じゃ、確か必要な商品の輸送に関しては全て生体エナジー協会に任せて良いような話を、文章で送って着たのは確かだけど。
まだ何の商品の発送も頼んだ覚えはないし、そもそもおっさんは商品では無い!
いや、落ち着こう! 先ずどうやってこっちに着たのかも非常に気になるが、おっさんが俺に向かって言った「代表」って? それに今話に出た「
いくつもの疑問が頭に浮かび、目の前の胡散臭い笑みを浮かべるおっさんに対するツッコミを飲み込んでいたが、顔を怒りの赤から白に変え余程痛いのか、苦しそうに呻く男の声と横から伸びて肩を叩くジェシカの手の感触で我に帰る。
「があっ! くそっ、痛えっ!いいかげん、はっ、離しやがれ!」
「おっとこれは大変申し訳ない。つい嬉しさのあまり力が入り過ぎたまま話し込んでしまって、……そうですな」
そこでさも今気付き驚いたように大袈裟に肩を竦めて一言区切り、エナジー協会のおっさんは俺とジェシカの方をチラと見た後、「ふむ」と呟きパチンッと小気味良い音を立てて指を鳴らした。
そうするとそれまで炊き出しを行っている中で、列に並んでいた人々の椀へ粥らしき物をよそっていた女性達の内、反応した一人が素早く寄って来る。
近くで見ると着ている服はとても地味だが、体の線がくっきり浮かぶ肉感的な美女。ジェシカも割と出るとこ出た子だが、この女は隠しきれない淫靡さを醸し出していた。
それ以外に気が付くとすれば、近寄る際の足音が全くの無音だった事くらい。
「この方は大切な特別会員候補ですから、良く御持て成しして差し上げなさい」
と、おっさんの指示の下そのまま掴んでいたハ○クの手を渡し促す。
目の動きだけで心得たとばかりに目礼し、思わずドキッとするような流し目で巨漢の手首に、細長くしなやかな指を絡ませごく自然に体を密着させる。
(今一瞬だが、この女から魔力を感じた?)
「とても力強くて逞しい腕ね。頼りになる男性ってとても魅力を感じますわ」
「そ、そうか? まあ、この腕一本でオレは飯を食ってるからな。力仕事なら俺の右に出る奴はなかなか居ねえさな!」
先程までとはコロッと変わった態度になり、得意そうな顔になると腕を組まれデレデレ表情が緩ませる。巨漢はそのまま教会の敷地内の奥に在る、どうやって用意したのか被災地等でお目にかかるような、カーキ色の大きな天幕の中へと案内されて行ってしまう。
(ありゃあきっと……。普通に見た目から褒めていたが、目が合った際に軽い魅了系の術で揺さぶり、疑問を抱かせず誘導したに違いない。まあ、あの男が単に惚れっぽくて美人に弱いだけかもしれんけど――って痛っ!?)
「何なのよあいつ! さっきはあたしの事であんなに怒って突っ掛かってきた癖に! ちょっといい女に粉かけられると直ぐデレデレしちゃってー。あなたもそうなの!?」
「あの、痛いからその指離してね? そうじゃ無くて、この炊き出しに見知った顔が居て驚いただけだから!」
ちょっと前にあのハ○クに詰め寄られて困っていた割に、他の女性が横から現れ靡かれると途端に機嫌を悪くしたからと言って、腹いせに腕の肉をチネチネと毟る様に抓るのはやめて欲しい地味に痛い。
そもそも俺はあの美人に目が奪われていた訳で無く、あの男の末路を哀れに思っただけだし。
きっと色々な物を搾り取られて、特別会員とやらの待遇で入会に血判押すんだろう。
……このおっさんも、良い素材とか零していたからな。
ジェシカは何処か納得し難いようだったが、先程おっさんも俺に普通に話しかけてきた事から、一端は疑いが少しは晴れたようで漸く捻った腕の肉から指を離す。
が、次にはもっと鋭く突っ込んだ質問が飛び出した。
「で、知り合いってあなたとこのおじさんはとはどう言った御関係? 代表とかって言うくらいだから実はどこかのお偉いさんなの? それとも何かを経営している豪商の一族の一員とか? この教会の敷地内で炊き出しなんて急にできる程の立場の人が、あんな場所で迷ってただなんて言って、此処まで案内させて本当はあたしの事を騙してたの?」
「あー、それは何と言いますかー。そもそも私めにもさっぱり分から無い所存でありましてー、如何ともし難く。つきましては的確な返答を出来かねる訳でー」
実際何が起きているのか俺にもさっぱりなので、寧ろ俺の方が聞きたくらいです。
だがしかし、この煮え切らない俺の態度が余計に癇に障ったのか、ジェシカの態度からは優し気な雰囲気は消え失せ、非常に冷めた目つきになり、その表情にも怒りよりはどことなく落胆の方が窺える。
「嘘だ!!」
「ちょっ?! おっさん! 説明説明!! マジに感謝してんなら、俺に落度は無いって事を確りくっきりはっきり責任もって、ジェシカに事の経緯を教えて差し上げやがれー!!」
……前言撤回! 凄い怒ってたようだ。女性の気分は山の天気ってまさにこの事だな。
ジェシカの豹変ぶりに肝を冷やされ、ついうっかり口調が素に戻って地が出てしまった。
彼女には今日会ったばかりなのだから、せめてもう少し真面な外面を維持したいのに。
「はは、これは異な事を。私めなどが語るよりも代表が全てご承知なのは自明の理。……ですが、強いてご説明される事をお求めになるようでありますれば、くれぐれも手を煩わせる事無きよう会長より下った命に従い、このバル・バスン。如何様にも代表の質疑にお答え致しましょう」
それを聞いてホッとしたのに、何故か頭の何処かで警笛が鳴ってる気がする。同時に不安感が込み上げて来るが、隣で睨むジェシカが怖いので「ここで話すには適当ではないので、先ずは此方へ」と、促されるままに先程ハ○クが連れていかれた天幕とは別の場所へと通された。
中には見覚えのあるパイプ椅子と何処の会議室にでもある様な、折り畳み式の長テーブルがあり各自が座ると同時に、何処からともなく優し気な面差しの男性が、銀製らしきティーワゴンを押し紅茶を入れて去って行く。
……初めて直に見るけど案外中は広い。
天幕の中へ来る間に、すっかり落ち着きを取り戻したジェシカは居心地悪そうだが、周りを珍しそうに見ながら隣の椅子で紅茶に口を付ける。
「代表が御連れのお嬢さんも落ち着かれた様なので、早速説明を始めたいと思いますが、少々長くなりますので其処はご了承頂きたい」
そう一言付け加えた後、バスンさんがギザギザの歯を見せ語り出す内容としては、どうも彼らは向こうのリペアガレージの連中と、悪魔の館が持つ高度な謎技術を使い、実際に此方へと渡ってみれば肝心の俺は酒をかっ食らって部屋で高鼾。
仕方なく着任の挨拶は後回しにし、この新天地とも呼べる場所で人材を広く集める為に渡ってきた全員が動きだし奔走。
その中でも己とは部署が違うが、会長の命でフルール・レティと言うとても有能な人が一緒に来たらしく、何でも昨日の深夜から今日までの短い時間の中で、一晩で沢山の仕事を片付けると言う、類稀な能力を駆使してくれたそうだ。
……もうこの人が一人居れば、他に誰も要らないんじゃなかろうかと思う。
他にもバスンさん、フルール・レティさん二人の部下であるバーティンさんが物流担当、更にパイ・モニアさんがこの地で発展した魔法を解析会得したとかで、風は偏在するとか言って八面六臂の活躍をしたそうだ。傍目には、まるで分身して居るかのように現地の各方面に、資金を持って渡りを付けたらしい。
言うなれば札束で頬をぶん殴り、金で言う事を聞かない奴はまんま「力」で制圧とか、いったい何処のマフィアだ?
兎に角そう言った特殊な面々で色々行ったそうで、いざ事が終わって俺を探してみると残念な事に、翌朝起き出した俺はそんな風に事態が進んでいるのも知らず出掛けてしまい。バスンさん達が戻った時には、既に店には不在だったと言う話だった。
だから仕方なく生体エナジーギルドと言う名前で登録、一商会として正式にトリスタニアの商人組合に一応承認させ、尚且つこのチクトンネ街の教会のスポンサーとなり、売名目的込みで炊き出しを行いながら集まった人への紹介も含め、ギルドの会員と仕事の斡旋を兼ねた人員を募る事を許可され、今こうしていると言う経緯らしい。
そして最後に飛び出た最大の爆弾が、何故かその商会の代表にいつの間にか「俺」が就任して――はぁっ!?
やる事成す事規格外で黙って聞いていたが、口に含んでいた紅茶で危うく毒霧を披露する所だった。
「いやいやいや、おかしいって! そこで何故俺が出てくるの!?」
「おやおや、変ですね。代表の勤める
そう言ってバスンさんは、懐から白い封筒を取り出し俺に手渡す。
俺は慌ててその封筒の封を破り捨て、中に入っていた便箋を広げ目にする。
そこに書かれた内容はとてもシンプルだった。
簡単にまとめるとこうだ。
『
(……あれ? 俺と同じく紛らわしい同名の社長じゃ無くて副社長の署名!? ってことは、凄腕のサマナーだって噂のあの最強嫁さんかよ!!)
「あんのヅラ社長。自分の嫁さんの名前出して、面倒なことは全部俺に押し付けてぶん投げて逃げやがった!!」
「ツラ? 嫁? えっとー、あたしには何だかさっぱり分から無いけど、お店を一つ任せられたって訳かな? それなら凄い事じゃないの!」
「まさにお嬢さんの仰る通りかと、代表は二つの支社が統合された商会の長であり、また我等生体エナジー協会会長のお墨付き。些末なことは我等に「是」と一言ってお任せ下されば、後は全て滞りなく」
そう答え深々と一礼したバスンさん。
ジェシカは一通りの説明を一緒になって聞き、俺の心配した不信感は晴れてくれたが、代わりにとんでもないキラーパスが回ってきた。
これ、拒否――れる訳ないですよね。今一瞬、向かいに座るバスンさんの眼が『龍の如き眼光』の鋭さを発揮したように見えたのは、絶対気のせいでは無いと思う。
こうしてわくわく異界見物は、短い期間であっさりと締めとなった。
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あれから何日経っただろう。それは偶然手に入ったポーションが切っ掛けだったが、軽く手渡された物を流石にその効能を調べる為とは言え、最初から自分で試す気にはならなかった。
ガリア本国が仕組んだ事とは考えないけど、どうしても得体の知れない薬には拒絶感を否めない。屋敷に残る母様の姿と、優しかった父様の事を思い出してしまう。
そんな思いから一度図書館通いを止め、数日授業の合間に学院の講師に相談したが、碌に調べもせずに単に「治癒の秘薬のようですね」と、真面目に取り合ってくれなかった。
訊ねた際に出所を聞かれ、チクトンネ街の秘薬屋と答えたのが不味かったのだろうか? 呆れた風に溜息を吐かれ、興味無さげに瓶を返してくる。
よくわからない妙な薬よりも、今後の授業方針にばかり頭がいっているらしく、頻りに纏めた用紙を捲っては何かを書き込んでいた。
一人だけ興味を示した先生も居たけど、あの先生は水では無く火の魔法の授業の講師で、残念だけど私が図書館で調べた以上の話は聞けず、途中で講義の時間になってしまいそれっきりだ。
色々と話しを聞いて貰う時間を作る為に、虚無の曜日は授業で使う材料の採取を手伝わされ、結局王都には行けず仕舞いだった。
下手に講師に話しを聞こうとすると、口下手な私は便利に使われそうになるので、次の手は最近噂に聞く水属性の魔法が得意で才能を見せると言う学生、驚いた事に寮内でポーションや香水を作って販売までし始めようとしていると言う話の、トリステイン出身の貴族。
実は昔会った事が在るかも知れないけど、幼かったし私の事など覚えては居ないだろう。
相手は同じ学年のモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシで、教室で顔を見る度に声を掛けようとしたが、他人との接触をなるべく最小限にしていた為、碌に面識もあまりない上に何やら忙しいらしく、中々会う事さえできないままでいた。
仕方なく面会希望の手紙を書いた後、手始めにあの変人から貰った普通の傷薬らしい物を持って、二年生が春の進級試験の時に召喚した比較的大きめの使い魔達が住む小屋へと足を運ぶ。
この小屋に居る使い魔は、あまり主人には構って貰えてないらしく学院の使用人が、最低限の世話をしていると聞いた。
その為ここにはあまり人が来る事が無く、これから試す事を見られる心配もない。
学院長の使い魔のような、元が小型の小動物の場合抵抗力が弱いので、薬を試して病気になったり死んでしまっては、個人の問題だけでは済まされず面倒な事になる。
逆に大きな体を持つ使い魔なら、その生命力も大きさに見合った強さがあるので、下手な薬くらいでは死ぬことは無いだろう。
そう考え小屋の中をゆっくり一匹ずつ見て回って、薬を使うに適した子を探す。
暫く探してみるが、早々怪我をしているような使い魔は居なかった。
そんな中使い魔では無さそうだけど、学院長のネズミよりはよほどいい動物に出会う。
「この子にしよう。足に少し怪我をしている」
気性の荒い使い魔に関しては、もっと厳重に隔離していると聞いたので不安はない。
間違っても幻獣の類では無いだろうし、偶々紛れ込んだのか座り方がおかしく、前足を舐めているかなり体格の良い太った猫が居た。
「手を見せて、薬を塗るだけ」
近寄っても此方を警戒する事も無く、逃げるそぶりも見せないので、声を掛けて怪我の具合を診る。普通ならここで威嚇されたりしそうだけど、随分と人に慣れているようで、おとなしくしたまま、こちらを見つめるその真ん丸な瞳には私の姿が映っていた。
もしかすると、この子は寮内で学生と住む誰かの使い魔かもしれない。
そんな風に改めて思いながらにゃーと鳴く猫へ、簡単な手当てをしてきずぐすりを塗る私。
「……これでよ――!?」
出血は止まっていたが、小さくとも切り傷だったので薬を塗った後布を巻こうとしたら、次の瞬間には傷口は塞がり、先程まであった傷跡は跡形も無く消えていた。
これで驚かない人が居れば、その人物はきっと感情そのものが無いだろう。
治癒の呪文と併用していたなら話は別だが、そもそもその場合呪文の効果を高めるための秘薬の筈、つまり別の言いかたをすれば、このきずぐすりは補助薬では無く聞いた説明の内容だと、ただの塗り薬に過ぎない。
この事実に思考が辿り着いた時、思わず手に力が入り過ぎていた事に、猫にふぎゃっと鳴かれて気が付いた。
あの変人は、何て物を初対面の人間に渡したのだろうか? 余りの自覚の無さと迂闊さに怒りと眩暈を覚える。
不意に肌に感じるざらざらとした感触を受け、一つ深呼吸をした。
「ありがとう。この事は、私とあなたとの秘密」
ただの大きな猫なのか、それとも使い魔なのかは分から無かったが、確かに猫はにゃーと鳴いて返事をする。何故かそれで大丈夫だと思った。
もう一度あの店へ赴き、あの変人と絶対に会う必要が出来たと心の中で呟く。
謎のきずぐすりのあまりにも凄まじい効果を確認した後で、下手に学院の講師に触れられ無くて良かったと身震いした。
出所の怪しいたった一つのきずぐすりで、今また不穏な空気があるガリアを含めた各国を、再び戦乱の渦に巻き込むような原因として広まっては堪らない。
ほんのひと塗りで、怪我を治す薬なんて出回れては困る。
人は純粋な善意だけで動くほど上等な生き物では無く、寧ろ良くも悪くも何かと欲に絡め加速する生き物なのだ。
絶望に向かって走る速度はいつだってとても速く、それを制止しようとする声は悲しいほどに儚く小さい。
だけど私は諦めない。何故ならそこにたった一つの希望を見つけたのだから。
最近物事が上手く行かず少しだけ気持ちが沈んでいたけど、今は薄暗い雲間からこれから進むべき道を示す光明が差したかのような気分だ。
そんな浮かれた雰囲気で寮へと戻る最中、気が付かぬうちに
寮に向かう途中アウストリの広場を歩いていると、早朝に洗濯し乾いた沢山の洗濯物を纏め歩いているメイドと、見覚えのある生徒がぶつかるのを目撃する。
当然ながら、避けるのはメイドの方だと思っていた生徒としては、メイドの方に非があり無礼だと考えたようだ。
けどどう見ても、洗濯物で前が見えないメイドの方は生徒には気付いて無かった。
謝罪を待っていた生徒は、焦って謝るよりも先に落ちた洗濯物を拾うメイドに、典型的なトリステイン貴族らしく振る舞い、自尊心ばかりが高くただでさえ短い堪忍袋の緒が即切れたらしい。
怒りの為かフルフルと震えるその手には、あろうことか杖が握られていた。
「許ないぞ! この躾のなっていないメイドが! そんな洗濯物より僕に謝るのが先に決まっているだろう!」
「はわぁーー!? 貴族様! もっ、申し訳ありません。前が見えなくて「チッ、言い訳までするなんて何てメイドだ! 恥を知れ! ……ウィンド・ブレイク!!」ひがっ!?」
あわあわと両手を振って顔を引き攣らせて謝るメイドに、生徒は呪文詠唱と共に杖を振りその魔法の効果が現れ、短い悲鳴を上げ吹き飛ばされるメイド。
近くに居た他の生徒がそれを見ていたらしく、慌てて走って来る。
「きッ、きみは何て事をするんだッ! だいたい幾ら平民だからとは言え相手は麗しい女性、それに対し魔法まで使うなんて、少しやり過ぎだとは思わないのかい? ぼくなら言葉でやさしく言ったね」
何故かその生徒は薔薇を持って諭す様に言っているが、偶に先程まで居た場所に残してきた女性をチラチラと見ては、気取った態度を見せていた。
あの女性徒は見覚えがある。あの赤い髪が特徴的で直ぐに思い出せた。
この間私の読んでいた本を取り上げ私の名前を馬鹿にした嫌な人。確か名前はキュルケ。
その時は途中でこの国の大貴族、公爵家のヴァリエール嬢が口を挟んできて有耶無耶になったけど、勿論本は直ぐに取り返したので問題はない。
「誰かと思えば君か、グラモンの家ではどうか知らないが、これくらい我がロレーヌ家じゃ優しい程度の躾だよ。下らない事で口を挟まないで貰おうか!」
「くだらないだって! きさまーッ! この世の全ての女性に対しあやまれッ!」
あれ以上魔法を使うようなら途中で割って入ろうとしたけど、放って置いても大丈夫だと思い、吹き飛ばされたメイドを探すと真っ青な顔で目を見開き、そこへ駆けだすキュルケの姿。
視線の先を追ってみれば、件のメイドが倒れたままぐったりとして頭から結構な血の量を流している。どうやら吹き飛ばされた際に、受け身が取れずに落下地点にあった石で切ったらしい。
(あんなに沢山血が流れて、きっとヒットポイントが減ってるに違いな――っ!? 今私は何を考えた? きずぐすりは分かるけど、ほうぎょく? いったい私は……)
「ちょっと! あんた達そんな事してる場合じゃ無いわよ! 誰か治癒魔法を使える人を呼んできなさい! 急いで早く! さっさと駆け足ー!!」
「はええーッ!? ってこりゃ大変だぁーッ! モ、モンモランシー!」
「ぼっ、僕は悪くないぞ! ちょっと風で押しただけで大袈裟に転んで、自分から怪我をして同情を引いて逃れようなんて、こっ、これだから躾のなってない平民は!」
キュルケはロレーヌは話にならないと口を閉じた。代わりにメイドの流れる血を必死に止めようと、辺りに散らばっていたシーツを千切り頭を押さえ助けを呼んで来いと怒鳴り、グラモンの薔薇男は心当たりがあるのかモンモランシーの名を叫んで走り出す。
そもそもの原因を作り出した風男のロレーヌは、口では酷い事を言っていたが一番取り乱している。逃げるでもなくただ震え、冷汗を流して歯をカチカチと鳴らしていた。
(私も傷を塞ぐほどは無理だけど、簡単なヒーリングくらいなら出来る。だけどそれよりも効果的な――)
「そこのあなた! そう、確か――タバサ! 黙って見てないで、手伝って先ずは止血しないと不味いのよこっちに着て一緒に押さえ「ヒットポイント回復するならきずぐすりと♪」……え?」
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そこからの事はあまり思い出したくない。
兎に角言えるのは、あの「きずぐすり」は大いに役立ってくれたと言う事だ。
時が止まったようにも思えたけど、直ぐにモンモランシーを連れてきたグラモンの薔薇男は、傷の塞がったメイドの姿を見て安堵と同時にとても驚き、モンモランシーは容態を確認した後持っていた気付け薬によって意識の回復を行う。
一部始終を見ていたキュルケには「変な子って思っていたけど、タバサって歌が上手いのね」と言われ、メイドの無事な様子を見て地面にへたり込んだロレーヌは、何故か顔を赤くしたままボソッと呟くように「あ、ありがとう」と言って何度も確かめるように顔を見て振り返りながら、男子寮へと帰って行った。
そして件のメイド(シエスタと言う名前らしい)は、怪我を治療したのが私だと周りの三人から告げられ、とても感謝された。
こうしてなるべく他人との関わりを持たない様にしていた私の生活は、この日から一変する事になる。
そう強いていうならとても賑やかな――
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あの後の事を多く語るとすれば、ブリミル教会で見かけた数人の司祭らしき人達は、多額の寄付金に驚き王宮から急遽来訪されたそうで、同時にその挨拶にバスンさん等が出る予定だったが、後援者代表の一人として俺まで顔合わせの挨拶をする破目になる。
その中でも俺がメシア教信者みたいと思った人物、特にマザリーニ枢機卿と言う眼光の鋭い人は、驚く事に王が不在のままの王宮で他の王族とも話をする等、政治方面でも結構な力を持つ有名な方だったらしい。
どうも資金面で相当四苦八苦していたそうだが、そちらにもたっぷり献金したらしく非常に感謝され怖い人かと思えば挨拶の後は始終笑顔だった。尤もこの地の通貨であるエキュー金貨では足り無くて、魔っ貨や宝石払いだったらしいけど。
俺ってそっち方面は基本ノータッチだったが、バスンさんは隣で「全て代表のお考えあっての事です」と言われてしまい、黙って笑顔を貼り付かせ頷く事で何とかその場を凌いだ。
帰り際に「お蔭でかなり自由に動けるようになりました」と、バスンさんが呟いていたのが印象に残っている。
そうして翌日から異界化にとり込まれた支店改め、サトミタダシ三十六号店支社は、生体エナジー協会と一緒に経営するには流石に狭い為(空間拡張は知られるに少々不味いらしい)、店舗内の簡易な改装を行い、見かけだけはこの地域での普通の店らしく整えた後、生体エナジー協会はチクトンネ街よりも、より外壁に近い貧民区の土地を大きく借り、新たに教会と協会の建物を混在させた、現代技術と魔法を組み合わせたイカサマ建築を開始。
その施工には地霊ドワーフ等を大量に引き連れて来て、一夜城ならぬ一週間教会を建て王都に暮らす人々を大いに驚かせ、その名をかなり広める事になる。
基本うちは薬局がメインなのに、建物を見た貴族に勘違いされ建築依頼が来たりしてバーティンさんや、ドワーフ達を総動員で大活躍(?)した。
その代わり後でパイ・モニアさんが、業務を引継ぎ多重分身なる技を披露して見せる。
まあなんやかんやあって、結局その後も御偉いさんとの顔合わせや夜会、様々なパーティーの席等に参加を求められたが、一月もしない内に貴族との付き合いに胃を痛めウンザリした俺は、些末な事はお任せ下さいと言った事を持ち出し、顔と名だけをバスンさんに貸して、庶民派な俺は普通の一見ただに木造に見える、チクトンネ街薬局サトミタダシ支社の一店長に再び納まった。
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漸く簡単な字も覚え(複雑なのはCOMPの解読ソフトで済ます)店内の商品にもPCを使った書式を入力し終わり、シールに文章を印刷し張りかえ作業も進み、久々の虚無の曜日の開店だ。
チクトンネ街ではそれなりに有名になりつつある我が店だが、客足はそれに反してあまり多くは無い(いくら魔法が主流とは言え、流石に特殊な薬は人を選んで販売する心算)。
理由としては扱う商品が割かし高価な事と、菓子類や食料品に関しては貧民区に建った生体エナジー協会の方が広く知れ渡っているので、直接購入するのは勿論配達の注文も多く受け付けている為、食料品を扱う商会とも思われている。
だから会員も働き手もそちらでは沢山募り、その分こっちの店舗はひっそりしていて利用者は少なく限られると言う訳だ。
俺としては忙し過ぎないから、相に合うのは断然こちら。
そんな風に呑気にカウンターで店番をしていると、この地に着て最も最初期に知己となった顔を久々に見つけ嬉しくなる。
「久しぶりだねタバサさん。ようこそサトミタダシへ。それでえっと……今日は随分と変わったお友達も一緒みたいだけど、何をお求めで?」
改築し木造に見える風に様変わりした店内を見回し、あまりの違いに少々驚きの表情を浮かべるタバサさん。
その後ろにはタバサさんと似たような学生服を着た、背の高い赤い髪の随分と大人びた容姿の女の子と、金髪の見事な巻髪と言うかドリルヘアーの女の子に加え、何故か薔薇を口に咥え袖や前立て部分にフリルをふんだんに使ったシャツを着た、お洒落(?)男子が気障なポーズをして立っている。
どうもこの異界に住む人達は、妙に容姿が整っている気がするのは、単に俺の僻根性故の感情だろうか?
初めてみる女の子二人と変わった男子は、棚に並んでいる商品を手に取りそれぞれ興味深そうに眺めていた。
タバサさんはあまり表情を変えた事は無いけど、前回と違って妙に気合が入っているように見える彼女は、意を決したかのようにカウンターの前に着て口を開く。
「……特別な薬、それが本当にこの店には在るのか。それを確かめに」
「キュルケ! このお店本当に凄いわ。棚にある物全て薬効や成分が丁寧に示されてる! 普通は効果だけを口頭で説明して終わりなのに、どう言った店なのここは!?」
「そりゃあ普段無口のタバサが、思わず歌い出すほどの効果がある薬を扱う店だもの、当然よね。この今流れている曲って確かに頭に残るわね。……けど、いったい誰が歌っているのかしら?」
「モンモランシーほら見てご覧よ。この器はきみの作る香水を入れるのに相応しいと思わないかい? 形も斬新だけど初めてみる素材だ。 ぼくは土メイジとして色々な鉱物に触れた事が在るけど、そのどれにも当てはまらない軽さと肌触りだよ!」
皆それぞれ思う事が在るようだが、ちょっと聞き捨てならない台詞があった。
赤毛の子の話によればタバサさんがこの店内CMソングを歌ったらしい。真に恐るべき洗脳効果だ! 流石一度聞けば脳に限りなくリフレインされ、知らず口遊む破目になる訳だ。彼女の声でハミングか、一度聞いてみたいと思うのは当然だよね?
今回は此処まで。楽しんで頂ければ幸いです。
誤字脱字、感想、ツッコミ等お待ちしておりますが、余り心臓が強くないのでどうぞお手柔らかに……。
作中の初登場な面々の中にいたロレーヌ君は、原作ではタバサさんと決闘騒ぎを起こしていますが、この作品ではそんな暇のなかったタバサさんはそもそも授業よりも、謎のポーションで頭がいっぱいで碌に対応してません。
そのせいで、優秀な風使いと言うより今回メイドを救って見せた事から、水属性が得意なメイジと思われています。
他、変更点としてまだ出会う事のなかったモンモランシー嬢と、グラモンの薔薇男たるギーシュ君とは、今回の事で早い段階で仲良くなった次第です。
リペアガレージ:真・女神転生の世界にある何でも治す修理屋、無論人だろうが悪魔だろうが、お金さえ払えば謎の技術で修理してくれます。
悪魔の館:別にホラー映画的な要素のある洋館の事では無く、仲魔になった悪魔どうしを掛け合わせ、新たな悪魔に作り変えてしまう罰当たりな場所。その技術力があれば何でも出来そうだが、館の主人は悪魔の合体研究に係わる事柄以外はあまり興味がないご様子。平穏ってイイネ。
3/19修正。サトミタダシ十二号店→サトミタダシ三十六号店へ
設定変更前のまま投稿、本分の修正し忘れです。