後半はおまけみたいな感じです。
独立官たちは面白くないので書きません
すみません、感想はかえせたらかえします
閑散とした、夜の渋谷の町に突如として携帯の音が鳴り響いた。持ち主は、春虎、相手は京子だ。一度驚いたように声を荒げ、通話が終わると冬児に向かって言った。
「夏目が木暮って人と一緒に鵺を追ってるらしい」
どこか苦しそうに言う様子に長年付き合ってきた悪友は、春虎の考えていることがよくわかった。要するに、さっきまで霊力の安定していなかった冬児をここに置いていくのが忍びないのだ。どこまでもお人好しなやつ。こういうところは、素直に彼が「春虎」であると言い切れるところだ。そして、冬児が気に入っているところでもある。
だから、冬児は次に春虎が言うであろう言葉を先読みして言った。
「行ってこいよ。どーせここに来るときも、夏目に同じようなこと言われたんだろ?俺はもう大丈夫だ。それになりより、お前は誰の式神だよ」
「…………冬児、お前」
そう言うと、徐に携帯を弄り始めた春虎。ある程度時間が経ち、携帯を懐に仕舞った。片手間で東京中の霊力を探っていたのは、言うまでもない。一つ大きな反応が明治神宮の当たりに、そして、それに群がるようにしている何人もの反応、その中の何人かは特別強い霊力を持っている。おそらく、彼らが十二神将と呼ばれるものであり、最初に感じた大きな反応が霊災で間違いない。
と、まぁこちらは正直どうでもよかった。もう一つ、青山の方に向かっていく霊災と、それを追う二人の人間に、覚えのある上質な陰の気、もっと言えば龍の反応だ。これが間違いなく北斗であり、高速で移動する二人の人間は、何らかの方法で移動する木暮と夏目に違いない。
「天馬にここの場所を伝えておいた」
突然、春虎が口を開く。その足は、忙しなく動いているが、知識のない冬児はそれが何をしているのか分からなかった。
「今回のこと責任があるのはやっぱり俺だ。それを誤魔化す気はない。詳しくは、またちゃんと説明する。絶対にだ」
「……あぁ」
「じゃあ、行ってくる」
春虎が奇妙なステップを止めた。傍らに、コンが寄り添うように春虎に捕まっていた。
「…あぁ……………行ってこい!!」
その叱咤と春虎の姿が消えるのは同時だった。
人一人いない街灯に照らされた薄暗い道路を一人バイクに跨がって夏目は走っていた。影から見慣れない男が出てきたかと思うと、木暮が彼のもとへ向かっていってしまったのだ。そうして、私だけでもと思い一人で鵺を追いかけて来てしまっていた。バイクの免許は大丈夫なのだろうか、法律違反ではないのだろうか、といういかにも優等生らしい疑問が浮かんでこないほど、鵺のことで頭が一杯になっていた。だからだろう、突如として目の前に現れたその存在に即座に対応することはできなかった
「……うぇ?」
「な、夏目か!?」
「へ?春虎くん!?ダメ、止まって!と、止まらない!?はっ春虎くんど、退いてぇ~~~~~っ」
春虎は、動かなかった。動けなかったではなく、動かなかったで正しい。禹歩で霊脈から出た途端バイクに引かれそうになることは流石に予想外だったが、一目で見抜いた機甲式であるその存在が人間を引かないよう自ら止まることぐらいは容易に予想できた。実際、バイクは春虎からおよそ二歩ほど空間を開けたところで止まっている。しかし、その上に乗っていた少女、いや、今は少年の口は止まらなかった。
「は、春虎くん!?何で避けないんですか?」
「いや、まぁそれはーーーー」
「ーーーそれに、何で行き成り出てくるんですか!?」
どうやら、答えを聞く気すら無いらしい。問答を無駄と悟った春虎はその存在は捉えているものの、本題に入った。
「で、夏目。鵺は?」
「あ、それならあっちに」
と、指を指す夏目。表情が引き締まっている。鵺の話と言うことで土御門家の次期当主としての振る舞いにスイッチが変わったのだろう、春虎が捉えているものと同じ方向であった。
「春虎くん、乗ってください。バイクの方が早いはずです!」
「お、おう」
夏目の勢いに押され、さらには、カーカーと鳴かないうるさいカラスたちに催促され夏目の後ろに跨がった。その際、どこにつかまればいいのか手がさまようのは仕方がないことであろう。一部の人が知るように、男子として振る舞っている目の前の美少年は、実は、美少女なのだから。
しかし、“早く鵺のもとに”という考えしか頭にない夏目の脳に後ろの春虎を気にする、待つという策は採用されなかった。
「行きますよ!」
「へ?ちょちょちょ、待ってぇぇぇ!」
夏目の掛け声に合わせたように、いや、実際合わせて走り出したバイク型機甲式。その勢いに押され、空中で漂っていた春虎の手は、夏目の男装するためにさらしを巻く必要のない胸へと飛び込まされてしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声をあげてバイクの上で暴れだす夏目、春虎は振り落とされまいとよりしっかりと力をいれ抱きつく。
「春虎くん!?どどどどどとこ触ってるんですか!?」
「は?どこっておなかじゃねぇのか!?」
風を切る音がうるさいため大きな声で叫んだ春虎、しかし、年頃の少女にはそれを、意図的に大きな声で叫んだとしか解釈できなかった。「イラッ」という音が聞こえるほど夏目の雰囲気が変わる。残念なことに長年過ごしてきた幼馴染みゆえ、春虎はその変化に気づけてしまった。理由が分からないまま。
「…………春虎くん」
「は、はいっ!!」
地獄の深淵から出てきたような暗い低い声。そんな声で名前を呼ばれては、バイクの上で背筋を伸ばすのも不思議ではなかった。手は離すとより早く命に関わるので、そこは配慮した夏目が既に本当のお腹に移させている(無理矢理)
「………………帰ったら、覚えておいて下さいね」
「はい」
なんでっ!とは聞ける雰囲気ではなかった。なぜ鵺の前に動的霊災よりも大きいプレッシャーを浴びせられなければならないのか、そんなそことは頭のすみに追いやった。そもそもなぜかわからないが声を発するのさえ難しいのだ。彼に出来たのは「はい」と一言だけ言うことのみだった。
そうこうしているうちに、莫大な呪力の塊が近づいている。カラスたちは先行してそこに向かっているようだ
「バカ虎なにしてる!」
「遊んでる場合じゃないぞバカ」
「先行ってるからナ」
「早くしろヨ」
などと不愉快なことを言って去っていったのをよく覚えている。
今回の敵は鵺。フェーズ4を迎えた動的霊災であり、その動きはますます重力、この世の物理法則を無視したものになっている。つまりは、空にたっているのだ。味方で滞空できるのは、土御門家の守護竜たる北斗とコンくらいのものである。無論、春虎は地面から空への攻撃方法を所持していないことはないが、地面にいる二次元での動きが主な人間と、三次元空間を使って戦える化物の闘いなどどちらが有利であるか語るまでもない。
「春虎くん、どうしますか?」
焦って悲観的になっている声というよりも、本気でどうしようか尋ねている声で夏目は春虎へ顔を向けた。それに対する返答は、行動によって示された。
数枚の呪符をケースから取り出したかと思うと、それに呪力を術式へ注ぎ込む。春虎自らによって作られたそれは、木気を帯びていた。ある程度呪力が入ると、春虎は、それを辺りにーーーつまりは、鵺の真下から同心円上に撒き散らした。途端、それぞれの呪符から呪術の木々が生え始める。一本一本ならそれほど太くないそれらも、大量に集まっていると雑木林程度には見えてくる。しかし、春虎がただこの光景を見ているだけでなにもしない訳はなかった。呪符を撒き散らしてすぐ、彼は別の呪符を取り出していた。すぐさま呪力を流し込み、生え始めた木々に投擲する。当然、そこからは大量の水気が溢れる。水気をふんだんに吸った木々は、通常ではあり得ないほど成長していく。5メートル、10メートル、どんどん伸びていく。遂には、鵺がいる高さまで。
鵺がそれに気づき、行動を起こしたのと、呪術の木々の動きに異変が生じたのは同時だった。
それまで鵺の回りを囲っていくように真っ直ぐに伸びていた木々は、鵺の高さを少し越えた辺りで、突然中心ーーー鵺のいる方に向かって角度を変えた。まるで誰かに操られているように。しゃべるカラスや本物の龍、狐の娘によって注意をそらされていた鵺が上空に逃げようとしたときは既に遅かった。それは木による「籠」。周りは幾本もの木に囲まれ、内側はそれから生じた枝葉によってぐちゃぐちゃになっている。触れると絡み付いてくるというおまけ付き。カラスたちをもって賢いと言わせたその鵺は、一度巻き込まれかけただけで、その危険を見抜いていた。その中で自由に動き得るのは、春虎が味方と認識するものたちのみ。敵は動けず此方から総攻撃を仕掛けるまるで無敵の技…………に見えるこの術も戦闘背景が深く関わってくる使いどころの難しいものだった。
まるで操られたように動く呪術の木、それらは実際に操られていた。既にその規模を大木以上へと成長させているそれらの根元、呪術によるもののため根っこは存在しないが、言ってみれば根っこである呪符の元に春虎は印を結んでいた。
そう、この呪術は春虎が常に操る必要があるのだ。それに加え木を大きくさせる過程や曲げる過程で莫大な呪力を消費する。さらには、その派手な演出にも思える様子は籠が完成するまでに敵にバレて事前に避けられる可能性が高すぎる、まぁ大量の呪力を消費しながら隠形も併用するという超絶技巧を使えるなら話は変わってくるが。
まとめると、この術は、規格外の呪力を持ち、敵一体に対し、味方が敵を撹乱しうる人数がいるという状況のみで使えるのだ。
だだ、決まると強いのは言うまでもない。「籠」を小さくしていきながら、敵をからめとって一斉攻撃するのもいい。木相火、火を放ってしまえば温厚そうに見える木の囲いは、突然火の檻へと変貌する。
そう、それはまさに春虎が今そうしたように。加えて、小さくなっていくというサービスつき。
「ギュワァァァァァァァァァァァ!!」
小さくなっていく檻から逃げるようにしかし、十分に動くことすらままならないという歯痒さを表したような叫び声を上げる鵺。それは、籠だけでなく、そのほかにもう一つ呪力の高まりを感じたからでもあった。
「ーーーー奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方ごほうちょうなんーーーー」
見れば春虎の作った『籠』ごと囲うようにして光り輝く呪符が鵺を中心に円を描くようにして並んでいる。虹色の光跡が美しい環をなす。
夏目だ。
バイクから腰を下ろし、『籠』を操るために集中しているそのまさに隣、そこで、春虎と同じように両目を閉ざし、全神経を集中させて呪文を唱えている。
「ーーーたちまちきゅうせんを貫き、玄都に達し、太一真言に感ず、奇一奇一たちまち感通ーーー!!」
夏目の発する霊気が神々しく可視化して、彩るように夏目を囲う。右手に持った呪符の束から一枚、また一枚と光の環の中に加わっていく。その光景の美しさにカラスたちだけでなく、世界までもが驚嘆しているように静かになり、辺りに夏目の呪文がよく響いていく。
そして、最後の1枚の呪符が飛び立ち光環に加わるとほぼ同時に閉ざしていた目を見開き、刀印を結んで頭上高くに掲げた。
「天御中主神の威を以て、これなる邪気、瘴気を一掃せん!急々如律令!」
掲げていた刀印を勢いよく振り下ろす。
夏目の習得している呪術の中で最も強力な修祓呪術「太一真言の呪法」
環を作る一枚一枚がより輝きを増したと思うと直後、一斉に内側に向けて迸った。
光の爆発。
春虎もカラスたちーーー木暮の式神たる烏天狗たちも、さらには、コンや北斗でさえその光量に目を閉ざした。夏目の呪力が呪術となって辺りを浄化していく。春虎も隣で僅か10代でこれほどの技を習得している少女に感心する。故に、その努力が詰まったこの術の美しさに見惚れていた。
一時の空白。
術が発動してどれくらい経っただろうか。
辺りが爽やかな呪力に覆われている中、それぞれがゆっくりと閉じていた目を開け始める。
「………うぅ…」
そこには、春虎の作った「籠」はおろか鵺の姿さえも見当たらなかった。春虎は一応視覚以外の方法でも、周りを探知してみる。あまりにも綺麗に消えているため、また双角会の仕業か何かと少し疑ったのだ。結果は白。紛れもなく自分たちの勝利で、夏目の呪術の勝利だ。ここはむしろ、呪術が凄すぎて跡形もなく消し飛んだ、というような認識をすべきなのだろう。学生の身による、鵺の修祓が行われたのだ。
「……うぅ、春虎ぁ?」
最後の呪術に全てをかけたのか、夏目は、半ば意識が飛んでいる状態で隣にいた春虎に寄りかかっている。その証拠に、いつの間にか北斗の実体化がとけていて、姿が見えない。未だに修祓したという実感がないらしい。こっそりと治癒の術をかけてあげながら、夏目の背中から手を通し、肩を組むようにして起こしながら聞こえるように囁いた。
「……夏目、お前が修祓したんだぞ」
「ほぇ?」
「カァ!お見事!」
「鵺、討ち取ったり!」
夏目とは、正反対に烏天狗たちのテンションはうなぎ上りであった。その辺りをカァカァとうるさく鳴きながら飛び回っている。
「うぅ……あれ?春虎くん?」
「おう、夏目」
「……あ!!そういえば、鵺、鵺はどうなりましたが!?」
さっきは本当に気を失っているも同然だったらしい。ちゃんと聞こえるようにいったはずが全く覚えてないとは。
「お前が修祓したんだよ、夏目」
一端は、目を丸くしたものの、状況と春虎の声で真実だと判断したようだった。体力も限界だったのか、またふらっと体が揺らぐ。春虎は、上手く拾うように優しく受け止めた。だが、そこで夏目は気づいた。
(うぅ、顔が近い…抱きしめられてるし……はっ!!)
抱きしめる、という単語に反応して、脳裏に少し前の記憶が蘇る。それは、もう鮮明に。突然に夏目の顔が真っ赤に染まる。それは、恥ずかしさ故か、はたまた、怒り故か。春虎が不思議そうにその様子をのぞいている。
「だ、大丈夫なのか?夏目」
「………」
夏目からの返答はない。さらには、ゆっくりとその両手を胸筋のあたりにへと伸ばし、何かを確かめるように指の筋肉を動かしている。ますます、春虎の顔が不思議色に染まっていく。
(……………あるもん、おなかじゃないもん)
心の中でそうつぶやいているとは春虎でさえ分からず、表に出てきた、うんうん、とうなずく様子からしかなにも判断できない。いや、判断できないことはないのだが、状況的に外している。そして、急に、春虎の方に顔を向けた。そこにあったのは、聖女の微笑みとしか言いようのないほどの暖かな笑顔。それは、全てを和やかにしてしまいそうなほどの
「…………春虎くん」
しかし、そこから発せられる声は、顔とは全くもって結びつかないものだった。殺気、邪気、怒気などありとあらゆる悪い気をごちゃ混ぜにして無理やり一つにしたものをトッピングしたような声。
「はははははは、はい!!」
意図してではなく、無意識に声が震えてしまっている。さっきまでは、立っているのもやっとだったはずなのに、いつの間にか両足で踏みしめ、というか、踏み割り、その背後に鬼を侍らせている。鬼気が体力を回復させたのだろうか?などとアホみたいなことを考える春虎だが、夏目を回復させたのが自分の術だということなど、とっくに忘れているらしい。
「私は、怒っています」
「は、はい。存じております」
「なぜか、分かりますか?」
「い、いえ…………」
「では、時間を上げます。思い出して下さい」
…………
「すみません、分かりません」
「だろうと思いました。なので構いません」
「は、はい!!」(よ、よかったぁ)
「今、春虎くんが自分にかけているあらゆる呪的防御を全て解いて、何にも無い状態にしてくれたら許します」
拒否権なしの無条件降伏。さらには、処刑を受けろというかの、死刑宣告。呪術師が無意識に己の体に敷いている呪的防御に加え、春虎は、他にも色々とかけているが、それは今あまり関係が無い。いや、なかったらめちゃめちゃ痛いし苦しいし………訂正。それも無かったらしヤバいが、気になる点がもう一つ。「あらゆる」という言葉。今、春虎は陰陽塾の制服を着ているが、学生といえども陰陽師の端くれ。当然ながらその服には、少なからず呪術がかけられている。脱げということなのだ、つまりは。
が、とりあえず、春虎がかけているものだけを解いて夏目の顔を伺う。
「ん?どうしたんだい?春虎。早くしなよ」
という始末。やはり脱げということらしい。加えて、その手には春虎のところからくすねたであろう呪符が握られていた。そのうち1枚を右手に持ち、木気から生じさせたのか、木のツルのようなものを持っていた。夏目から、抑えきれないほどの呪力が流れ込んでいるせいでとてつもなくラグっていたが。それで地面を叩いてべちんっとならしていたのは、見間違いに違いない。
「………はい。ただちに」
都会の真ん中に、一人の少年の叫び声が響いた。鵺にやられているのかと勘違いして、陰陽師たちが駆けつけてしまったのは、笑い話に(夏目が無理やり)した。
ーーーーーーーーーーーーーー
そんなやりとりを、そこからそう離れていない歩道橋に一人、額にバッテンのタトゥーを刻んだサングラスを掛けた男が見ていた。
「ケッ。間に合わなかったか」
春虎にボコボコにされてから、直ちに体力の回復に努め、お陰で討伐に駆り出されなかったために、逃げ出したという鵺をこっそりと追いかけに来ていたのだ。悔しそうなその口調とは裏腹に、目は獰猛さの一言である。目線の先には春虎の姿が。握っている歩道橋の手すりがギシギシといいはじめている。
「春虎ぁ、テメェだけは……」
その後は、言えなかった。
後ろで音が聞こえたのだ。カツン、と。コンクリートと何かしら金属製のものがぶつかった音。そして、バッテンの男ーーー鏡に問いかけるように話し出した。
「春虎クンがなんやて?」
さらに、一呼吸置いて
「………ホンマ、君は相変わらずやなあ」
独立祓魔官たる鏡ですら気づけない隠形に、このいかにも人を食ったような物言い。正直、話し掛けられる前に既に彼が誰であるか、気づいていた。
「いつ、どんなときであっても、常に周囲に気を配れ。初日におしえてやったろ?やっぱり君は、呪捜官には向かん。祓魔官に鞍替えしたんはせいかいやったなあ」
大友陣がそこにいた。
右手に持った杖の先は、鏡の背中にくっつけられている。
「これはこれは、大友先輩じゃないっすか」
「ご無沙汰しとるな、鏡クン」
「どうしたんです?こんなところで、現役退いたって聞いてましたけど、霊災修祓を高みの見物ですか?」
「まさかーーーー」
まるで、仲の良い友人同士の会話のようにすらすらと言葉を交わしていく。しかし、場の緊張感は高まる一方であった。その、いつまでも続くかと思われた会話も大友のほうから終わりを切り出し、そのまますんなり終わるかに思われた。が、最後に大友が爆弾を落とした。
「全く、鏡クン、うかつやったなあ。今、この状態で、ボクがなんぼの呪詛送り込んだ思てんねん」
「…………ハッタリだ。そーゆーの、あんたの十八番だろ?大友先輩」
「せやな………でも、9割ハッタリやと確信していても、キミは最後の1割を放置でけへん」
「クッ……」
「ほなな、解呪がんばりやー」
その言葉に対する返事は、返ってこなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
鵺討伐が行われた夜、春虎は、角行鬼に連絡を取っていた。メールはツカイカタガ分からないらしいので、方法は電話である。スマートフォンやSNSの話をしたら、鬼気全開で殴りかかってきたことがあった。鬼は鬼。歴史を感じさせるものであった。なにはともあれ、欲しかった情報は手に入った。角行鬼は、長い年月生きている分、その伝手は計り知れないほど多い。それこそ、呪捜部の上層部でも追いつかないほどに。夜光時代も随分と助けられていた側面がある。
春虎は、宿舎の部屋にある封印を解いて、烏羽織を取り出し纏うと、飛車丸を伴って隠形しながら、窓から飛び出した。
コツコツコツコツ、年季が入りすぎてボロボロになっているビルの廊下に足音が響く。意図的に、迷うように呪的に仕掛けられている廊下を三人は迷う様子なく歩き続けている。一人は、黒衣をまとった高校生くらいの少年。一人は、白髪の美女。一人はガタイのいい、少し彫りの深い強面の男性。どことなく只者でない雰囲気を醸し出す三人は、何を隠そう、春虎、飛車丸、角行鬼の三人である。そして、ある部屋の前で三人とも立ち止まる。ここが目的地らしい。すると、突然に中から声がかかる。
「ホッホ、そこにはないもないぞ。ここまで来るものなどほとんどおらんからのぉ」
中にいたのは、白髪頭の老人、窓に背を向けて何かを書いている。
「道満、あれはお前の仕業だろう」
春虎がいきなりそう問うた。
「ホ、流石に誤魔化せんか。そうじゃ、あれは儂が用意したものじゃ」
「あれ」とは、双角会が用いたであろう何かしらである。それがなんなのかは、春虎も把握していない。だが、そうだとしても、言い切れることはあった。
「やっぱりか。霊脈に干渉するのは並の技量じゃままならない。ましてや、今回意図的に何回も同じような事が起こった。流石に辛かったよ」
内容とは裏腹に少し戯けた様子で話す春虎。しかし、その目は全く異なり悠然と道満に問いかけている、約束はどうしたのか、と。
「ホッホッホ、恐ろしい目じゃ。じゃが、今回は、お主が思っているようなことはないぞ?」
「それは、なんでだ?」
「あれを渡したのが、お主と会う前だったからじゃ。流石の儂でも、お主ら3人を相手にしようなどとは………思わんでもないが」
否定の仕方も道満らしいものだった。それ以上春虎が道満に何かを問いかけるというのは無かった。それゆえ、話が終わったと思った道満が、今度は質問を持ちかけた。
「実は、主のことが気になって仕方がないという、自称弟子がおるんじゃが……」
「まだ、駄目だな。内緒にしておいてくれ」
「ホッホ、了解じゃ。ついでに言うと、また術比べをしてほしいんじゃが……」
「学生に挑んでどうするよ」
少し戯けた顔で春虎は答えた。しかし、それが拒否の言葉であることは道満にもきちんと伝わったらしい。
「あぁ、でも、将棋なら受けてやってもいいぜ」
春虎は、そう言い残して、その場を後にした。
ありがとうございます