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森を出て三十分程歩くと、小さな村に辿り着いた。これまでの道のりがかなり過酷だったせいか、村に入れた事にとてつもない安心感があった。だが、この村に入ってすぐに気付いたが、人の気配が全くない。今まで宿泊した街や村には、大抵の場合、数十人の人々がいた。しかし、この村には誰一人として人がいない。少し寂しい様な気もするが、正直な所、誰かに狙われる心配がないため、その方が安心して寝泊まりができる。
数分の後、俺はこの村の宿に入り、眠りにつこうと思った。迷路の様な森を数時間歩いた事や、その森で戦闘を行った事もあり、とても疲れていたのだ。
宿に入ってすぐに、俺は食事を取る事にした。眠気もあったが、それと同時に空腹感にも襲われていたのだ。
俺は部屋に入る前に、食堂に直行した。この世界にな料理人などはもちろんいない。だが、それぞれの宿には、既に調理された食べ物があり、誰でも自由に食事を取れるシステムになっている。
食堂に入った途端、俺は一人の女性が目に入った。何だ、人がいたのか。すると、その女性は俺の存在にも気付いたらしく、こちらを振り返る。直後、俺とその女性は同時に、あ、と口を開いた。俺は、その女性に見覚えがあった。背中まで真っ直ぐに伸びた長い黒髪。優しそうな女性らしい顔立ち。今朝、前の街で襲われていた、あの女性だ。俺がその場に立ち尽くしていると、女性は自分の隣にある椅子を出し、隣どうぞ。と丁寧に言ってくれた。ここまでされると、さすがに無視もできず、俺は食べたい料理をお盆に乗せ、女性の隣に座った。
それから約数分、俺達は黙り込んでいたが、その沈黙を破り、女性が口を開く。
「あの……今朝は、助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら、今頃私は死んでたわ。」
女性はこちらを向かず、下を向いてそう言った。
「あ、いや、気にしなくていいよ。俺も、必死だったし。」
俺の言葉を聞き、女性は頷く。そして、今度は俺の方を向き、優しい表情で話しかける。
「私は、美鈴。二十歳の大学生。よろしくね。」
それを聞き、俺も慌ててその女性、美鈴の方へと向き直る。
「あ、俺は、優。十七歳の高校二年だ。よろしくな。」
それを聞き、美鈴は少し驚いた表情になり、その直後に申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
「あの、ごめん……私、今朝助けてもらった時から、中学生だと思ってた。」
その理由は、自分自身よく分かっていた。俺は高校二年にしては、身長が低い。そのせいで、中学生だと度々間違われる事がある。
「あ、別にいいよ!よくある事だからさ!」
内心は少し気にしていたが、美鈴がこんなにも頭を下げて謝るので、許せざるを得なかった。
俺達は食事を済ませ、食堂を後にする事にした。俺が部屋に入ろうとした直前、美鈴が思い詰めた様な表情で俺に話しかけてきた。
「ね、ねぇ、優君」
「ん?どうしたの?」
美鈴はしばらく、俺から目を離していたが、少しずつ、その視線を俺の方へと向ける。
「人を殺すの、怖くないの?」
この質問に、俺は若干息を詰まらせた。俺は、どう答えればいいか分からず、黙り込んでいた。すると、美鈴は再び口を開いた。
「私は、とても怖い。人なんて、殺した事ないから。分かってるの!この世界では、人を殺さないと生きていけないって。でも、いざその時になると、手足が震えて、力が抜けて。この世界で、まだ一人も殺してないの……優君は、何人くらい殺したの?」
俺はしばらく目を背けていたが、勇気を出して本当の事を話した。
「俺はもう……六人は殺してるかな。」
「そっか……そうよね。それくらいの覚悟がないと、やっていけないもんね。」
美鈴は下を向く。その場に、やや長い沈黙が続いた。約一分経った後、美鈴は再び俺の方に視線を向ける。
「もちろん、人を殺すのはとても怖い。でも、私が本当に怖いのは、そこじゃないの。……もし、この世界でたくさんの人を殺しちゃったら、人殺しに慣れちゃうんじゃないかと思って……そうなるのが、一番怖いの。はぁー……私って、本当にダメね。」
美鈴の言っている事は、間違いではない。だが、このままの自分では、いつか必ず死んでしまう。それは、美鈴自身がよく分かっている。恐らく、美鈴の優しい性格が、この世界では裏目に出てしまっているのだろう。その優しさ故に、誰も殺す事ができないのだ。
とても不安な表情で下を向く美鈴に向かって、俺は口を開いた。
「美鈴さん……大丈夫だよ。」
「え?」
俺の言葉を聞き、美鈴は顔を上げる。
「この世界では、人を殺すのが当たり前なんだ。それが、生き抜くための最善策だから。大丈夫。美鈴さんの様な優しい人なら、人殺しに慣れたりはしないよ。」
美鈴はしばらく、その場に立ち尽くしていた。すると、その目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「あ、ごめん……私、涙もろくて。そうだよね、大丈夫だよね。ありがとう。優君のおかげで、少し元気が出たわ。……さぁ、今日はもう寝ようかな。何だか、急に眠くなってきたし。」
「そうだな。なら、お休み、美鈴さん」
「うん、お休み、優君。」
そう言い、俺達は別々の部屋へと入っていく。俺はベッドに潜り込み、あっという間に眠りについた。
翌朝、俺達はこの村を出る事にした。村を出ると、道は二つに分かれていた。どちらの道を行くかを言い合うと、互いに別々の道だった。
「なら、ここでお別れだな。」
「そうだね。」
俺が自分の道を行こうとすると、美鈴が俺に向かって口を開いた。
「私、勇気を持って、この世界に立ち向かうから!だから、次会う時まで、絶対に死なないでよ‼︎」
その言葉を聞き、俺は美鈴の方を振り向く。
「あぁ!美鈴さんこそ、絶対に生き残れよ‼︎」
無理に笑顔を作り、俺はそう叫んだ。そして、互いにそれぞれの道を歩き出す。これから、どんな試練が待ち構えているか分からない。だが、絶対に生きるんだ。この世界から、脱出するために。その想いを胸に秘め、俺は新たな道を行く。
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