6
あれから一年が経過した。
俺は美鈴と別れた後も、様々な場所を転々としながら、過酷な戦闘を続けていた。その間にも、様々な出会いと別れを経験した。その経験は、俺にとって良い物もあれば、辛い思いをした事もある。そういう経験をしているのは、もちろん俺だけではない。恐らく、この世界にいるほとんどの人が、同じ様な経験を繰り返しているはずだ。現実世界へ帰るため、今日もどこかで、人間同士の戦闘が繰り広げられている。
朝になり、俺はベッドから起き上がる。時刻は午前八時三十分。朝食を取りに、一階の食堂へと向かう事にした。
好きなメニューを選び、お盆に乗せ、俺はテーブルへと腰掛けた。この宿でも評判のパンを頬張っていると、一人の男性に声をかけられる。
「おっす!おはよう、優!」
「お!太一、おはよう!」
太一という男性と腕を組み、俺は再びパンを頬張る。この太一という男性とは、一年前、美鈴と別れた二日後に出会った。俺達は出会うなり、すぐに意気投合し、共に戦った事もある。この裏切りの世界の中で、俺にとって、心を開き合える数少ない人物の一人だ。
「隣、座ってもいいか?」
「あぁ、いいよ。」
俺の隣で、太一も俺と同じパンを頬張っている。ふと、俺は腕時計を見て、目を細める。それを見て、太一も同じ事を考えていたらしい。
「この世界で生き残ってる人の数、もう百人を切ったな。」
「あぁ。あと六十二人か。この一年で大分減ったな。」
俺はそう言い、窓から空を見上げる。もう既に、九百人以上もの人が死んでいる。このデスゲームも、そろそろ大詰めに差し掛かっているのだ。
「なぁ、優。あの話、知ってるか?ほら、このデスゲームの優勝候補って言われてる、あの……」
「あぁ。《殺人鬼勝也》だろ?知ってるよ。」
太一の言葉に続けて、俺が口を開いた。殺人鬼勝也。本名は勝也だ。その勝也という男性は、一人で五百人近くの人を殺したと言われている。この一年で一気に人の数が減ったのは、その勝也の仕業とも言われてる。
「でも、馬鹿馬鹿しい話だよな。こんな殺人が当たり前の世界で、《殺人鬼》なんて二つ名を付けられるなんてな。」
太一は鼻で笑い、そう言った。正直、俺も同感だった。この世界では、誰もが殺人鬼のはず。それなのに、なぜそんな名前が付けられているのだろうか。
「さて、朝飯も食ったし、そろそろ行くか!」
「おう、そうだな!」
俺達は準備を済ませ、宿を出ることにした。行くといっても、人を殺しに行くのではない。俺達は、新しい地域へと旅に出るのだ。その中で誰かに襲われたら、戦えばいい。それが俺達の考えだった。
街を出ると、そこにはいつもの様に草原が広がっている。この一年の間に、俺と太一は度々別れていて、昨日再会したばかりだ。
「なぁ、優。やっぱりまた、迷路みたいな森があんのかな?」
「あぁ、多分な。」
俺もそうだが、やはり太一も森は苦手らしい。この世界の森はどれも複雑で、一度迷えば大幅に体力を削られる。おまけに、その森で他の人に襲われる事も稀ではないので、恐らく森を好んで訪れる人はいないだろう。
だが、幸運にも、俺達は一つも森に入る事なく次の街へと辿り着いた。おまけに、時間も一時間程しか歩いていない。
「よっしゃ!もう次の街に着いたぞ!優、今日はもう、ここで休まねぇか?昨日までは、丸一日歩いてたし、疲れも大分溜まってるだろ。」
「何が昨日まではだよ。俺と太一は、昨日再会したばかりじゃないか。」
「って、あれ?そうだっけ?」
きょとんとする太一を、俺は頭を掻きながら、呆れた様な表情で見る。
「……でもまぁ、一日くらいそんな日があってもいいか。よし、今日はここで休もう!」
「よっし!決まりだな‼︎なら、俺早速部屋探そ‼︎」
太一は、まるで子供の様にはしゃいでいる。俺は、そんな太一を、目を細めて見る。その後、一回大きく溜め息を吐くと、俺も部屋を探す事にした。
この宿……いや、この街全体は、他の街の宿に比べて大きい。恐らく、この世界の首都、とも言える街なのだろう。
俺が部屋でくつろいでいると、突然、一階の方から叫び声が聞こえてきた。
「な、何だ⁉︎」
俺と太一は顔を見合わせ、大急ぎで階段を駆け下りる。一階に着いた直後、目の前の光景に、俺達は息を飲んだ。そこには、身体のあちこちを剣で貫かれたあと。脚、腹部、胸部、腕。さらに、顔の正面からも、剣で貫かれていた。
「ひ、ひでぇなこりゃ……」
太一は呆然とそれを見つめ、静かに呟いた。俺は言葉を失い、声もでなかった。恐らく、先程の悲鳴はこの男性で間違いはないだろうが、こんな短時間で、一体誰が?俺達が辺りを見回すが、誰もいない。直後、今度は外から、女性の金切り声が聞こえた。俺達は大急ぎで外に出る。そこには、女性を襲っていた一人の男性の姿があった。
それを見ていた見物人達は、その男性を見るなり、こう叫ぶ。
「で、出たぁ!《殺人鬼勝也》だ‼︎」
こいつが、殺人鬼勝也……。俺はその様子を、ただ見つめるしかなかった。この世界では、誰かを殺して当たり前だ。しかし、問題はその殺し方だった。まず、相手を地面に倒し、仰向けにさせる。そして、上からのしかかり、身体を抑える。ここまではまだ許せる。しかし、問題はその後だ。何と、仰向けになったその身体を、何度も何度も剣で突き刺すのだ。突き刺しては抜き、突き刺しては抜き、その動作を繰り返している内に、女性の身体は血だらけになる。その後、脚や首を、乱暴に突き刺す。そして最後に、《DEATH》というアルファベットを身体に刻む。
その殺し方を見て、こいつが殺人鬼と呼ばれている理由がようやく分かった。奴の殺し方その物が、《殺人鬼》だったのだ。
すると、勝也はこちらを振り向く。次の瞬間、俺達はとてつもないプレッシャーを感じ取った。身体が動かない。まるで金縛りにあったいるかの様に、完全に凍り付いている。勝也の表情は、正に冷酷そのものだった。獲物を見つけ、それを凝視する様な目。今まで、何百人もの人を、平気で殺してきた目だ。この男は、殺人を楽しんでいるーー。俺には、それが一目で分かった。
「フフフ……よし、いいだろう。」
勝也は突然、口を開く。そして、俺達を指差し、こう言った。
「次の獲物はお前らだ。さぁ、一人ずつ、順番にかかってきな!」
一人ずつ?こいつは、一対一を望む奴なのか。俺はふと、横を向く。太一は少々冷や汗をかき、下を向いている。やはり、怖いのだろうか。もちろん、俺も怖い。あんな殺され方はしたくないからだ。だが、《怖い事》から逃げた先には、《臆病》しか残らない。俺は、一歩前に出て、刀を抜く。そして、勝也に刀の矛先を向ける。
「いいぜ!俺が相手だ‼︎」
その言葉を聞き、勝也はニヤリと笑みを浮かべる。
「ほぉ……その余裕そうな顔。余程自信がある様だな。いいだろう。まず貴様から、その身体をズタズタに引き裂いてやる!」
勝也もまた、剣を抜く。この世界で生き抜くために、この戦いは負けられない。俺はより一層、気を引き締める。
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