「「先生!!」」
「麦茶です!」「緑茶です!」
僅か20秒で司令室へと戻ってきた不知火とジェノス。それも2人同時に戻ってきた。
「貴様…先生はいつも緑茶を飲んでおられる…さっさとコップをどけろ。」
まるで死ねと言わんばかりの殺気を放ち不知火を睨むジェノス。
「残念ながら朝は麦茶をお飲みになられてたのですよねぇ…あぁ朝はいませんでしたか」
ゴミを見るような目で皮肉たっぷりに言い返す不知火。
「うん、どっちも飲むから壊れたドア直しとけよ」
「「はい!!!!」」
次の日司令室のドアはまるで職人が作ったかのような素晴らしい物になっていたという。
ーーーーーーー
次の日
「うぉすっご!これジェノスと不知火が作ったの!?」
司令室に遊びにきた鈴谷が驚きの声を上げる。
「あぁ、左側が不知火が作って、右がジェノスだってよ」
サイタマがソファに寝転がりながらそう答える。
ドアは片開きから両開きドアになり、ピカディリ色のシンプルで尚且つクラシックな出来になっていた。派手な物を好まないサイタマにはぴったりなチョイスであろう。
「しっかし、右と左で違う人が作ったとは思えないわね…
ズレやキズは一つもないし色は全く同じだし…本当に仲悪いのか疑っちゃうぐらいだね。」
ドアをペタペタ触りながら話す鈴谷。家具に特別興味もない鈴谷ですら魅入ってしまうほど完璧なドアだった。
「だよなぁ…類は友を呼ぶってやつか」
「え?」
鈴谷はキョトンとした顔になる。
「ん?」
鈴谷はサイタマの隣にあるリクライニングソファに座る。
「いや…サイタマでもことわざとか知ってるんだなぁと思って」
「いや、一応中学高校は真面目に通ってたからな?」
「でも筆記試験とか絶対赤点でしょ?」
「バカで悪かったなバカで」
学生時代どころか最近行われた筆記試験にまで落第点を取っていたので否定できない。
「まーまーそう怒らないでよ。話し戻すけど、『類は友を呼ぶ』の類語で『牛は牛連れ、馬は馬連れ」っていう言葉があるんだよ」
鈴谷の話に、ポテトチップスを開けながら気だるそうに聞き返す。
「牛連れ馬連れ?なんだそれ」
「お、いっこもらい。まぁ意味は二つともほとんど同じよ。牛と馬は歩調が合わないけど牛同士、馬同士だったら歩調が会うでしょ?」
鈴谷は話そう言いながらサイタマの横から手が伸ばしポテチを3枚かっさらっていく。
「コンソメいっぱい付いてるやつ取りやがって…まぁ同じ者同士ならうまくいくってことだよな」
「そうそう、でも不知火とジェノスって馬でも牛でもないと思うんだよね」
パリッと良い音を立てながら鈴谷はポテチを口の中に運んでいく。鈴谷の言いたいことが分からずサイタマは聞き返した。
「はぁ?言ってる意味がわかんねーよ」
「いつもジェノスと不知火は何してる?」
「なにしてるって…家事とか出撃とか?マジでお前のいってる意味がわからねーぞ…」
ポリポリポテチを食いながらサイタマは訝しめる。すると鈴谷は笑いながらピンポーンと指でジェスチャーし、こう言った
「そそ、まさにサイタマの為に仕事も戦闘もこなす忠誠を誓う忠犬!!2人とも可憐さと冷徹さを兼ね備えた完璧な弟子ってことね!」
「いやあいつらに犬耳なんてついてねーぞ。ジェノスは目的があって強くなりてーみたいだし。」
「そういう意味じゃないんですけどね〜いいお弟子さんをお持ちってことよ」
「たまにめんどくさいけどな。特にノートになんか書いてる時。」
その時、ドアが慌ただしく開いて吹雪が入ってきた。
「サ、サイタマさんと鈴谷さん!!」
「おお、どうした吹雪」
「あ、あの!!不知火さんとジェノスさんが!!」
ーーーーーーーー
鎮守府周辺の海
「驚きました。先生以外に海面に立っていることができる人間がいるとは…」
「お前…どういうつもりだ……」
「どういうつもりとは…?私は先生の『1番』弟子だからですが」
「…サイタマ先生はお前を弟子だと認めても俺は認めない。サイタマ先生の弟子は俺だけで充分だ。」
「はぁ…こんなキンカン頭の弟子抱えるなんて、サイタマ先生もさぞ大変でしょう…」
「黙れ淫乱ピンク」
「殺す」
不知火が刀を抜き、ジェノスへ詰め寄ろうとした瞬間、ジェノスの右の掌が真っ白にに光り、灼熱の火炎が放射され辺り一面が火の海になった。
「新しいパーツのテストにもならなかったか…」
その時、ジェノスの背筋が凍った。サイボーグの背筋が凍るなんて馬鹿馬鹿しいかもしれないが、この感覚は先日戦った龍クラスの化け物にも匹敵するほどだった。
ガチィィィィン!!
金属金属がぶつかり合う音が響く。
不知火が背後に回り込み斬りかかった所をジェノスが左の手の裏でガードした。
(本人は慢心しなどていないとでも思っているのでしょうね)
(慢心など絶対にしない…先の戦いで学習済みだ…)
そしてジェノスの蹴り上げを不知火が躱す。2人は距離を置き、ジェノスが火球を繰り出しながら不知火を追尾する形になる。
「おびき寄せる気か?ならば…」
ジェノスは止まり両腕を前に突き出し両手首を合わせる。その瞬間、両腕から大量のパーツが出てきて組み立てられ瞬く間に腕のフォルムがチェンジした。そして、周りの海水が熱により蒸発し、水蒸気を放つ。
「フルパワーまで1.5秒!!最大火力焼却!!」
轟音ととてつもない光と共に破壊熱線が放たれる。
(きたな…予想通り最大火力で撃ってきた)
(長軸半径25m短軸半径40mの楕円型…水深約15mぐらいは間違いなく
(だが
海面抉りながら突き進んでくる光線に対し、不知火は一気に全身の機関部をフル稼働させる。凄まじい熱風により吹き飛ばされはしたものの、間一髪避けることができた。
(チィ…流石に無理をしすぎました…中破といったところでしょうか…)
服は破け、両腕からは目を覆いたくなるほど血が流れており、主砲も動かなくなっていた。陸上ではs級ヒーローと言われ、軍隊一つ分の力を持つと言われる最強の戦士。以前捻り潰したA級ヒーローとは格が違う。陸上で戦っていたならどうなっていたことか…
「ですが…あちらも無事ではすまないでしょう…」
不知火が目線を移した先には巨大な水柱が立ち込めていた。
「魚雷か!?……」
ジェノスはフルパワーの焼却を撃ち、敵を完全に捉えたかと思った。しかし、敵の魚雷が焼却砲の光線の真下を通って被弾したのだ。
自分は『油断』していたのだ。
切り札の焼却砲を放った腕は跡形もなかった。魚雷の爆発と衝撃で両腕が引きちぎれたといった方が分かりやすいであろう。
高威力の焼却砲に頼りすぎてしまった。
何より艦娘は陸上ではなく海上での戦闘に長けているのだ。
いくらS級ヒーローとはいえども、海上での経験、戦術、武器は艦娘の方が圧倒的に上なのだ。
「自惚れていた…つくづく俺は学習しないな…」
だが、たかが腕の1本2本なくなるような戦闘は日常茶飯事。寧ろジェノスにとってはサイタマに言われた『精神面を強く鍛える』ための戦闘になっていたのだ。
「肝心なのは気持ちの切り替え…そして…精神を鍛える…先生、そういうことだったのですね」
ジェノスは不知火に向かって音を切るようなスピードで突進しする。刹那、金属と金属がぶつかり合うような鈍い音が響き合う。ジェノスは巧みな脚技を繰り出し、不知火は華麗な剣術をぶつけていく。不知火が大きく振りかぶった瞬間、ジェノスの目から鋭い閃光が放たれた。
「眩しい…目眩ませか!?」
辺り一面が一瞬光り、元の景色が戻ってきた瞬間、即座に辺りを見回した。
「いない…」
海には何もいなかった。
「空か!?」
空を見上げても何もいなかった。
「まさか…」
そのまさかだった。周りの波が揺れ、不知火の真下から影が出てきた。その瞬間、大量の泡と共に水中からジェノスが出てきたと思えば、不知火の鳩尾めがけて蹴り上げる。しかし、不知火は反射的に刀で防御しており、致命打には至らなかったものの、空中に吹き飛ばされた。
「フン…水中からの攻撃に反射的に防御したということは、お前達のの敵の中には水中から攻撃を仕掛けてくる奴もいるということだな。」
「見た目は年の若い少女だが、海上戦ではS級ヒーローですらかなう奴は少ないだろう…艦娘に対しての俺の認識が甘かった。だが、今度は確実に仕留める。」
「…腕の1本2本はいつものことですか…体は折れても心は全く折れていませんね…」
不知火は体制を整えて着水する。そして、一呼吸おいて刀を鞘に収め構える。
「抜刀術か…いいだろう」
ジェノスは左足を前に突き出し、足のジェットにエネルギーを溜め込む。
波の音とかすかに低い音を発しながらジェノスのエンジン音が聞こえる。
そして何処かで飛んでいるのであろう、鴎が鳴き出した瞬間、
「フン!!!」
「ウオオオオォ!!」
波が荒れ、嵐が起こり、空気を引きちぎり、音速にも匹敵するスピードで距離を詰め合う二人。そのまま両者は今叩き出せる最大限のスピードとパワーをぶつけ合う!!!!!!…はずだった……
時が止まった。
否、周りの波や風は未だに激しく暴れている。
時が止まっていたかのように思えたのは二人の身体が動かなくなっていたからだ。
「おいおい、お前らケンカすんなよ」
「ジェノス、前にも言ったがそのパーツはケンカ用じゃねーだろ」
「不知火、その勢いだとまた鎮守府壊しかねないからやめろ」
「てかお前らどっちが一番弟子に相応しいかでケンカしてんじゃねーよ」
「あとケンカするお前らを見て明石が泣いてたぞ。後で謝れよ」
刀は豆粒を摘むように摘まれ、脚はまるで子供とキャッチボールをするかのように捕らえられていた。
「先生…」
「サイタマ先生…」
「てかお前ら腕大丈夫なの!?不知火!お前血だらけだし左腕があらぬ方向にまがってるぞ!?ジェノス!お前腕がそのものがねーじゃねーか!」
サイタマは二人の自称弟子を見て驚いた。工廠で泣きじゃくる明石から聞きつけて駆けつけてみればこのザマだ。
ジェノスは不知火を睨みつける。
「すいませんサイタマ先生…ですが。こいつです。この糞ガキから先にふっかけたのです。」
不知火が俯いて顔に手を添える。
「そんなことはありません。先生、こいつは私に淫乱ピンクと罵倒しながら暴力をふるってきました…ウ、ウゥ…酷いです…」
「お前!!嘘泣きをするな!」
ジェノスが涙を流す不知火に対して大声をあげる。
「お前ら…仲直りしないと弟子にしねーぞ」
「すいません。ジェノス、これからはお互い仲良くさせてあげましょう。」
「すまない不知火。お前を鎮守府の仲間(笑)として認めてやる」
「メンドクセーなお前ら…」
その瞬間、波から打ち上げられた海藻がサイタマの頭に乗っかるのであった。
ーーーーーーーーー
夜 食堂
「うぅ…びっくりしましたよ、二人共鬼の形相で睨み合って、ケンカして帰ってきたと思ったらボロボロですもの…」
パクリと唐揚げ口にしてそう言う明石。
「大丈夫ですよ明石さん。もう私たちは仲良しですから」
不知火はサラダをひとつまみする。体の傷は入渠して元通りになっていた。
「ああ、もう仲間だ」
姿勢を正しく白米を食べているジェノス。ちなみに腕はクセーノ博士が新しい腕を取り付けてくれた。
「この唐揚げうまいな…」
サイタマがポイポイ唐揚げを摘む。
「じゃあ二人とも握手してみてよ」
鈴谷はニヤニヤしながら二人に話しかけた。
「いいですよ」
「いいだろう」
二人はなんのためららいもなく握手をする。
「ほらなんともないぞ」「いたって普通です。」と、真顔でいいながらも握られた手はミシミシと音を立てており、よほどの天然な性格でなければ相当な力が入っていると認識できる。不知火の腕は注射が下手な医者でも一発でわかるぐらい血管が浮き出ており、もう片方の手からはモーターみたいな機械音が聞こえてきた。
「あらあら、昼とは違って仲良しになったのね二人とも」
笑顔でそういいながら間宮が肉じゃがを持ってきた。吹雪はそんな二人を見て苦笑いし、鈴谷とピクミンは腹をかかえて爆笑する。するとサイタマが今何かを思い出したようにこう言った。
「そういや明日は仲間が増えることになるぞ」
「ぬい!?本当ですか!?」
不知火が突然の朗報に驚きの声を上げた。
「ああ、えーと…どんな奴だっけ?」
「サイタマ先生、明日配属される艦娘は現在服役中です。明日釈放されてた後、我々の艦隊に配属される予定です」
「え!?服役ってことは牢屋にいるんですか!?」
吹雪が驚きの声を上げる。すると不知火は味噌汁を飲んだ後に、こう言った。
「人を殺めてしまったのでしょうか?無理もありません…海軍にいる人間なんて犬の糞に匹敵するゴミ屑ですから」
「いや、違う。寧ろその逆かもしれない…とにかく吹雪、お前は気をつけておけ…そこにいるピンクはともかく、お前は危険な身になるかもしれない」
「ヒィ…どんな人なんですかぁ…」
「ま、どうにかなるんじゃね?飯食ったらキングから借りたゲームしようぜ」
続く
ーーーー臭蓋獄ーーーー
「ふぅ…最近はイキのいい男子が少ないわね。また街に出て見つけに行こうからしら…アラ?」
ここはA級賞金首や殺人や性的暴行などを犯した罪人やギャングやヤクザが収監される最凶最悪の監獄。しかし、この監獄にはS級ヒーロー『プリプリプリズナー』が収監されており、プリズナーに刃向かう男子は容赦なく抜け殻にされ愛人にされてしまう。それを恐れた囚人達は皆、プリズナーに怯えながら仲良く暮らしていた。
「あら、貴方は何を読んでいるのか?」
監獄のボス、プリズナーは薄暗い牢屋の中で本を読んでいる一人の囚人に話しかけた。
「プリズナーか…」
凛とした美しい声…女性の声だった。
「これはな…
プリズナーは女の読んでいる本を覗き込んでみた。
「イッソプ物語ね…なかなかいいセンスだ。これなら子供達が喜びそうだ。」
「ふふ…そうだろう。私は楽しみで仕方がない。だから今日まで大人しくしてたんだからな」
本のページをめくりながらそう優しく答える女は、艦娘である。プリズナーは極秘でヒーロー協会と海軍からこの艦娘の監視を依頼されていた。
「貴方とは特殊な性癖を持ち合わせ、悩みを相談できる友人だった。童帝君の話ですごく盛り上がれて楽しかった。どうだろ…海での戦いが終わった後はヒーロー協会にも入ってみないか?」
「どうだろうな…ヒーロー協会や海軍は私をあまり好きではないらしい。だからあなたがここにいるのだろう。まぁ、あなたがいたからここは暇にはならなかったが」
艦娘は立ち上がり、本を丁寧に本棚に片ずけて自分の牢屋へと帰っていった。
「俺のように性癖には異常があるが、明らかに実力はS級トップレベル…ジェノスちゃん達の鎮守府に加わればかなり戦力になるだろう」
プリズナーは壁を殴って穴を開け、夜の街へと消えていった。
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