A市ヒーロー協会本部
「皆、忙しい中朝早くから良く来てくれた。」
時刻は午前8時半
会議を取りまとめるシッチが会議に集まったメンバーに声をかける。
「会議といっても今日はいつにも増してメンバーが少ないな。怪人退治のための会議ではないということか?」
S級ヒーローゾンビマンが口を挟む。
「そうなんじゃないの?今日はメンバーが大人しい人ばかりだからさ」
同じくS級ヒーロー童帝がペロペロキャンディを舐めながら答えている。
「そのようじゃな、今日はどのような要件じゃ?」
お茶をすすりながらS級ヒーローシルバーファングがシッチに視線を向ける。
「その通りだ。今日は先日海軍から要請のあった艦娘についてだ。」
「艦娘?たしか深海棲艦が出現した時期と同じ時期に出現した謎の生命体のことだよね?たしか…昔の軍艦を名乗る少女らしいね。」
「その通りだ童帝君。実は海軍が回収した艦娘を我々ヒーロー協会が引き取ることになってしまってね。どうやら海軍では艦娘達を扱いきれなかったようだ。艦娘を戦力にして我々が今最も手を焼いている深海棲艦に戦ってもらいたいと思っている。その方がヒーローにとっても負担が減るだろうからな。海上で戦えるヒーローも数少ない。」
深海棲艦…最近ヒーロー協会近海に現れる謎の怪人である。この怪人のおかげで漁業は妨害され、油田基地が破壊されてしまったりと、その経済損失は日に日に増えていくばかりである。そして何より厄介なのが現代兵器が深海棲艦にはいっさい効果がないということだ。これでは海軍もお手上げである。
そんな時に海から突如出現したのが艦娘なのである。
深海棲艦を撃破することができる「艤装」を持ち、深海棲艦と対をなす存在。なぜか彼女達は昔の軍艦の名前を名乗っている不思議な生命体である。
「それでだ、今回はその艦娘を取りまとめ、艦隊の指揮をとり、深海棲艦討伐のための前線基地、鎮守府を運営するための提督を決めるために諸君達に来てもらった。」
「なるほどな、だが海軍にも提督になれるような奴なんて山程いるんじゃないのか?何故ヒーロー協会に艦娘を押し付けた?」
ゾンビマンが質問する。
めちゃくちゃまともなメンバーだと会議がかなりスムーズに進むことにシッチは感動する。いかんいかん、これが世間だと普通なのだ、と心に刻み、咳払いをしてこう答える。
「実は海軍でも鎮守府を作ってみたものの、あまりにも艦娘の管理と艦隊の指揮が悪かったらしくてな、1人の艦娘に謀反をおこされて鎮守府は壊滅、提督は全身の骨を折られて意識不明の重体。謀反をおこした艦娘は未だ行方不明だという。他にも鎮守府があったのだが未知の敵相手には艦隊の指揮がめちゃくちゃで艦娘達のポテンシャルを引き出せなかったそうだ。そこで毎日怪人と戦っている我々に助けを求めてきたのだ。」
「裏切り…か、さぞ無能な提督だったんだろうな」
ゾンビマンが提督を哀れむ。彼自身ある組織を裏切った身であるため、境遇は違えど艦娘にある程度共感できるものがあった。
「まぁとりあえず今日は提督を決めるために協調性のあるS級ヒーローを会議に出席させたって訳だね!」
童帝がジュースを飲みながら喋る。
「そういうことだ。いつものメンバーだとこんな会議には乗る気にならないし、S級は協調性が低いメンバーばかりだからな…新築したばかりの協会で暴れられても困る。A級以下は正直頼りにならないしなぁ…」
はぁとため息をつくシッチ。
バァン!!
「ちょーとちょっと!何私を無視してこっそりS級ヒーロー会議なんてしてんのよ!!いい度胸じゃない!!」
(あぁ…ドアが…)
(このガキャ…)
(一番協調性がない奴が来たな)
(やれやれじゃのぅ…)
扉が吹っ飛び、そこから現れたのは緑色の髪の癖っ毛の強い生意気な態度をとった少女、戦慄のタツマキ(28)であった。
「提督!?深海棲艦!?そんなもの全部私が倒せばいいのよ!!艦娘!?協会はそんな良く分からないものに頼っちゃう訳!!!?」
キーキーうるさい少女だ。しかし彼女はS級ヒーロー2位の実力を誇り協会の切り札でもある。あとはもう少し協調性があれば良いのだが…
今まで黙っていたファングがため息をついて話しかける。
「タツマキ、最近は特に怪人発生率も多く、ただでさえ陸上の怪人を退治することに精一杯なんじゃ。それにいつまでも深海棲艦を野放しにしておいたら陸に上陸してくるかもしれん。一刻も早く前線基地を作り防衛線を張らなければいけんのじゃ。これはヒーロー協会のため…いや、人類存続のための大事な会議なんじゃ。分かってくれんかタツマキ。」
「その通りだ!」と同感する童帝。ゾンビマンも無言で頷いている。
「な、何よ!もう勝手にすればいいわ!!」
「フンッ!」とソッポを向きつつも、いつも座っている席に座るタツマキ。実は会議に参加したかっただけなのかもしれない。
「とりあえず、誰か提督になってみたいという人はいないか?別に君たちじゃなくて推薦でもでもいい。超まともなS級ヒーローの推薦なら信頼できる。」
「何よ!私はまともじゃないっていうの!?」
「ドア吹っ飛ばす人のどこがまともだよ…僕は年齢的に無理だし。周りで頼れる人はいないからなぁ…。ゾンビマンさんは?」
「…暇なら引き受けたかもしれんが今は生憎調べなきゃいけないことがある。推薦できる奴は特にいないな…」
「儂も道場持ってるから無理じゃな。だが1人だけ提督にぴったりな奴知ってるわ。」
「おお!どんな名前の人だ?」
シッチの目が輝く。やっぱりまともな人は最高だ!!もうS級の会議はこの人たち(タツマキを除く)だけで充分じゃないか!!
「A級39位のサイタマ君じゃよ。」
「はぁ!?なんであのハゲなのよ!?あんた頭でも狂ったの!!?」
タツマキが椅子を倒してテーブルに身を乗り出す。
シッチがヒーロー名簿に目を向ける。
「ハゲマントか、身体能力は高いが筆記試験は最悪だったと聞くが大丈夫なのか?」
「強くて誰にも優しい。それだけの理由じゃ。サイタマくんは誰であろうとを分け隔てなく接することができる。指揮をとるということは艦娘と提督の強い信頼関係がないと成り立たない。頭は悪いが難しい仕事はジェノス君が手伝ってくるじゃろう。」
満足そうにファングが答える。
「はぁ!?どうみたって私の方が強いわよ!!私は絶対反対よ!!」
ムキになってタツマキが反論する。自分の方が強いと言っているが実際タツマキの超能力はサイタマに傷一つ負わせることができなかった。
「よし!決定だ!!ファングがそう言うならそうしよう!」
シッチが歓喜に満ちた声で叫ぶ!
「まぁ鬼サイボーグもいれば安心だね。」
童帝も賛成する。
「まぁ現状任せられる奴はいないからな。」
「え…なんなよのあんた達…私を馬鹿にしてるの!?」
(ふぅ、あとはサイタマ君次第じゃな。強くて優しい、人のためなら自己犠牲も構わない。いろんな人と仲良くなれる。十分提督の素質がある奴じゃ。儂は期待しておるぞ………断られたら儂の道場にでも誘ってみようかのぅ)
バンクは静かにほくそ笑んでいた。
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次回から鎮守府編スタートです。