「先生!!書類が終わりました」
「おうサンキュー、そこ置いといて」
「先生!!コーラをお持ちしました。」
「おー仕事疲れに冷たく甘いコーラはしみるな……」
「先生、午後からの予定はありますか?」
「午後は暇だからツタヤに寄ってパトロールでもやるか」
「先生!それならお供させてください!」
ーーRJ市、とある街ーー
鎮守府はRJ市に移転した。
世間では「鎮守府は災害レベル龍の襲撃を受けて崩壊した」とマスコミに取り上げられている。
災害レベル龍の事件から丸1週間経つが、もう朝のニュース番組や新聞では取り上げられなくなってきている。それだけ怪人による被害が日常的なものになってきており、市民達の感覚がマヒしているからである。
あの宇宙海賊によるA市の被害ですら今じゃ全く話題にされない。
ーーーーーー
平和な街、美しい太陽、せっせと仕事に励む人々、そして平和を守るハゲ。
いつもならその横に金髪の美少年がいるのだが、今日は鮮やかなピンク色の髪と透き通った蒼色の目を持つ可憐な少女がハゲの隣を歩いていた。
「不知火、ちょっとコンビニでも寄ろうぜ。」
コンビニを見つけたサイタマが不知火に話しかける。
「はい!行きましょう。」
「今日は俺がおごt……」
所持金78円
一瞬サイタマの身体が凍る。
「…………」
「ポンタカードは貸してやるよ。ポイントは好きに使っていいぞ」
「はい!ありがとうございます。」
「ありがとうございました!!またお越しくださいませ!!」
とても美人な銀髪の女性店員に挨拶されて店を後にする二人。
「はぁー……それにしても平和なだな」
ガムを噛みながら背伸びしてあくびをするサイタマ。
「そうですね。」
歩幅を乱さず歩く不知火。
パトロールというよりも街をぶらつき歩いているだけである。
すると不知火が口を開いた。
「あの……先生が前仰られていた強くなる方法とは…本当に筋トレなのですか?」
サイタマがまたかと言わんばかりの顔をする。
「だから俺は筋トレしかしてねーっつーの!!」
「ですが、筋トレだけであの力が手に入るとは思えません。サイタマ先生以上にトレーニングを重ねる人間はたくさんいますよ。」
純粋な蒼色の瞳で言い返されと流石のサイタマもたじろいでしまう。
「そんなこと言われても特になんもしてねーぞ。」
幾ら不知火が真面目に質問してもこれしか言えないのである。本当に筋トレしかしていないのだから。
ハッ!!突如不知火の頭の中に電撃が走る。そしてすぐさまノートとシャーペンを取りだした。
「それは、『強くなる方法は先生からではなく己が探し求める物だ』と仰っているのですね!!勉強になります!!」
「いや何してんだお前……」
目の前で自称弟子が高速でノートに何かを書いている…
もう一人の自称弟子もこんなことしてた気がする…
不知火を見ながらサイタマは頭を掻く
そういえば不知火と街を歩いていて全く違和感を感じない。なんというか、いつも一緒にいたみたいな……そんな感じがした。まだ不知火と出会って1週間である。何故だろうか。
「まあいいや。いくぞ不知火。」
「…?はい!後はツタヤですね。」
その後はツタヤに寄り、何事もなく鎮守府に戻ってきた。
新たに新築された鎮守府は庭に噴水が無くなっただけで特に外観や内装は変わっていない。
「あー腹減った。ただいまー」
玄関のドアを開くサイタマ、その後ろに不知火が続く。
シーン
玄関が静かだ。いつもみたいに階段をドタドタ駆け下り、土産はないかとねだってくる鈴谷とピクミンの姿を見かけない。
それどころかいつも笑顔で迎えてくれる吹雪の姿もいないのである。
「ん?出かけてんのかアイツら」
「今日は出撃や演習の予定はありませんね。」
まあいいやと階段を登り司令室に向かう二人。
司令室に近ずくにつれ鈴谷と明石の声が聞こえてきた。二人ともやけにハイテンションで喋っているようである。
「お前ら、帰ったぞ」
サイタマがドアを開ける
司令室の中には鈴谷や明石、ピクミンだけでなく吹雪や間宮まで顔を揃えていた。ポチは吹雪にだっこされている。
そして男子が羨ましがるような人だかりの中心に誰かが立っていた。
サイタマに気が付いた鈴谷が話しかけようとする。
「チィース!!!s…『先生!!!!!!!』」
「鎮守府着任早々戦線から離脱してしまい申し訳ありません!!!」
「深海棲艦は俺が全て排除します!!!任せてください!!!」
青年の声だった。
綺麗な金髪に白目の部分が黒になった目、勇ましい鋼のボディ、少年達が憧れるような焼却砲を持ち、女子のハートを一瞬で燃やすような美少年。
「あ、ジェノス、帰ってたの」
「はい!遅くなってすいません!!!おい鈴谷!!腕から離れろ!明石!俺の胸に触るな!!吹雪、間宮!突っ立ってないでコイツらを離してくれ!!」
するとそれに反応して叫び声が返ってくる。
「キャァァァァァァ!!ジェノスが私の名前呼んでくれたぁ〜」
ジェノスの腕にぶら下がりながら鈴谷が顔を真っ赤にしている。
「ねぇねぇこの胸の中には何が入っているの?ほんのり暖かいし顔もちょーイケメンだし最高ね〜」
ジェノスの胸に頬ずりしながら顔を真っ赤ににする明石。
「うわぁぁ…すごくかっこいい…」
顔を真っ赤にしてジェノスに見惚れている吹雪。純粋な乙女そのものである。
間宮は困惑するジェノスを見てクスクス笑っている。
「お前…こいつら見てなんも思わないの?」
「?ただ鬱陶しいだけですが?」
サイタマの質問に即答するジェノス。
「あぁ…そう」
サイタマはげんなりして答える。
これだけ艦娘達に人気なのだからファンクラブもできるわけだ。
ヒーローを趣味でやってるとはいえ、サイタマは自分の人気の無さを少し気にしていた。
ジェノスは若干強引に鈴谷と明石を引き離した後、サイタマに近づいた。後ろでは二人がキャーキャー騒いでいる。
「先生そいつは誰ですか?」
「ああコイツ、不知火」
「陽炎型2番艦不知火です。先生の弟子でもあります。」
不知火はサイタマの一歩前へ出て挨拶する。
「弟子?」
ジェノスが眉をひそめ、不愉快そうに答える。
「なぜ貴様が弟子と名乗っている?貴様がサイタマ先生の弟子などおこがましい…さっさっと失せろ糞ガキ。」
その発言で場の雰囲気が一気に変わる。
不知火は目を細めてジェノスを煽るように言い放つ。
「はあ?あなたからは『腐』の匂いがプンプンしますね。先生に近寄るなポンコツパツ金」
すると今度はジェノスが不知火に詰め寄りドスを聞かせるように言い放つ。」
「なんだと…!?淫乱ピンクが…ぶちのめすぞ」
「やってみろ、ただのお茶汲みロボットが艦娘に勝てると思うなよ」
「おいおい、やめろよ」
殺気を滲み出し睨み合う2人を横目にツタヤで借りたDVDを棚に仕舞うサイタマ。先程までキャーキャー騒いでいた2人もピタリと静かになっていた。
「先生!!いつからこいつを弟子にしたのですか!?」
ジェノスが納得いかないような顔で質問してきた。
「え?1週間前ぐらいだっけ?」
頭を掻きながら答えるサイタマ。
「そうです。私は正式に先生の弟子になったのですよ。」
不知火が勝ち誇った顔でジェノスを見下す。当然身長はジェノスの方が高いので見下せてないのだが。
「ならば、いいだろう…俺とお前、どちらが先生の弟子に相応しいか決めようじゃないか」
シューーー… そう言うと、強化された自分の肉体を確かめるように手を握り締めるジェノス。手には灼熱の炎が滾っていた。
「望むところです、先生の弟子は私だけで十分です。」
不知火は白の手袋をはめ込み、目が獲物を狙う猛禽な鷹のようになった。昼間の可愛らしい駆逐艦の面影はもうない。
殺気と狂気が漂う2人を露知らず、サイタマが輪の空にこう言った。
「しっかし、外に出てたから喉乾いたな。下にお茶でも取ってくるか…」
「あ!!、そ、それなら私が取ってきます!!」
場の状況をサイタマ以上に察している吹雪が取りに行こうとした。
「おお、それなr…」
吹雪のスカートが捲れるぐらいの風が起こり、二人の弟子は争うように下へ降りていった。
続く
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お気に入り854件…まさかここまで伸びるとは思いませんでした。この小説を読んでくれている方々、本当にありがとうございます。