「なーなー先輩」
「ん?どうした雪音」
ソファでもたれかかっている、というより寝そべっているふしだらな格好の雪音を見つめて返事をした。
普段の学校生活やS.O.N.G.での立ち振る舞いからは想像もできない姿だ。自分に心を許しているからなのか、それとも家では誰に対してもこうなのか、問いただしたことはなかったが翼はこのなにげない時間が好きだったりする。
「これあとちょっとだけど食べるか?」
届くはずもない距離で差し出されるビニールの包に入った菓子。
少し強引にお互いが手を伸ばせば届きそうではあるが、それをする意味もなく単純に意思表示が形になったものなのだろう。翼はそんなクリスの子供っぽいというか何も考えていなさそうな行動や言動に愛おしさを感じて、思わず笑みが溢れてしまった。
「そうだな、頂くとしよう」
静かに椅子から立ち上がりクリスのいるソファまで寄っていく。手だけこちらに向け体と顔は正面の大きなテレビモニターに夢中だ。
ん、と声にならない声で相槌を打ったクリスが状態を起こすがすでに翼が背もたれに反対側から寄りかかっているとは知る由もない。
翼の返事に対し反応するまで若干のタイムラグがあったから当然といえば当然、衝突は免れない。
「のわぁっ」
鼻息のかかる距離まで顔を近づけてから始めてそこまで接近していたことに気付く。羞恥よりも驚きの色が多かったクリスに対して少しだけ口を尖らせる。当の本人はそんな些細なことが気にならないくらい動転していた。
「まったく、少しぼーっとしすぎたぞ雪音?」
含みのある言い方だが、クリスは気づかない。
「あ、あぁすまねえ、画面の先輩がすげえ格好良かったからさ、つい」
はめ込み式の大きなモニターには翼のライブ映像が流れていた。それに見とれていたのだろう。
「またこのライブ……よくもまあ飽きずに。好きなんだなこれが」
「あぁ、なんといっても格好良さがピカイチだ。なあなあ先輩そのうちあたしもライブに呼んでくれよな」
冗談混じりにせがんでくるのもいつものことだ。クリス自身舞台に立ちたいとは思っていないし、翼も呼ぶ気はない。まあゼロと言ってしまえばそれはそれでお互い嘘になるが。ようは二人で何かがしたいということなのだろう、翼はあまり深く考えずにそう結論づけた。
「今度二人でカラオケにでもいくか」
少し昔、年下の二人に連れられて行ったあのデートは今でもはっきりと覚えている。あのおかげて翼は大きく成長できたといっても過言ではない。現に人に対する接し方が柔らかくなったと多くの人に言われている。
今後クリスにもきっとなにか新しい、大きな道が見えて選択を強いられるだろう。そんな時にほんの少しでもいい、何かキッカケのようなものを彼女に与えられたらな、翼はそう思う。
「先輩からデートの誘いか、珍しいな」
面白半分に笑い返すクリス。遊ぶ事をこうもデートと呼ぶのだろうか、翼は疑問に思いつつ本当のデートだったらどんなに良かったことだろうか、と喉まで上がってきた言葉をぐっと堪える。
この想いが届かなくてもいい先輩として彼女の前に立ち続けられればそれでいい。
「ああ、今の内からライブの練習だ。キツいぞ雪音に付いてこられるかな」
「へへっ先輩こそ追い抜かされないように気をつけな」
この気持ちに気づかれずに誰かと結ばれる時が来たのならきっとそれはクリスに追い抜かされるということなのだろう。考えてもあまり楽しくないことだ、翼は考えるのをやめクリスの頭をそっと優しくなぞった。甘くしょっぱい菓子を自分では気づかぬまま噛み締めながら。
少し連投していけたらいいなあ・・・なかなか忙しさから抜け出せない
つばクリ流行れ!つばクリ成分が欲しいんだ!!