ツヴァイウィングの片翼として今を生きる翼とそれをさせたいと思う後輩
二人は様々な事を考えながらある休日を過ごしていく
一人暮らしには少し広めに感じられるリビングでのんびりとした時間を過ごすクリスと翼の二人。
「先輩!このままじゃ子犬が死んじまうよ!!」
ドラマのワンシーン、主人公が拾い育てていたが飼いきれなくなった子犬を置いていこうとするとこでクリスは思わず口にした。
もともと素直で優しい性格の彼女であるが、ドラマに感化されたというよりもその場の空気を濁したかったから発したものであった。
「うむ、だがハッピーエンドが謳い文句なのだ、すぐに引き返すか、別の飼い主が現わたりするのであろう」
会話こそしているもののどこか上の空というか重い雰囲気の翼。
今日クリスの自宅に来てからというもののずっとこのままで招いたクリス自身も悩んでいた。
オフだと知らされた時に遊びに行ってもいいだろうかと言ったのは翼。
先日も行われていたライブで疲れているのか、それともなにか事件にでも巻き込まれてしまったのか、普段の大人らしさと鋭さを兼ね備えた彼女からは想像できない姿にクリスの心配は絶えなかった。
様子を見てるあいだに少しだけ時間が経った。
壁に設置されている大きいモニターに流れているのは世界の歌姫と称される風鳴翼が、まさにその歌声とパフォーマンスを披露している番組。
映像に流れている主役本人がそれを遮った。
「なあ雪音よ」
「ん?なんだ先輩」
「暁と月読を救い、始めてイグナイトモジュールを起動した時の事だが」
「ああ、急ごしらえ…ではないにしろぶっつけ本番だったあの時か。まだ半年も経っていないのに懐かしく感じるな」
忘れもしない、先の事件。未だに時々思い出してむしゃくしゃするときがある。
「でも急にどうしたんだ先輩」
父親との蟠りはなくなったようだが、事情を深く知らなかったクリスはまだ翼の家庭に対する不安は抜けきっていない。できるこたなら自身の先輩の為に、悩みを聞いてあげられないかと思っていたところだ。
「雪音の歌った、詞の部分だがあれは前に私が用いた風林火山からとったものだろう?あれは四つすべてが揃って戦いの基本となるのだ。」
「はあ……」
クリスは困惑した、翼の言ってることはわかるのだが、いかんせん何を伝えたいのかがわからなかったからだ。
「つまり先輩は何が言いたいんだ?」
「なぜ雪音が三つ目四つ目を省いたのか、気になって夜も眠れんのだ」
「は?はあっ?」
先程からやけに真剣な顔つきをしていたからどんな悩みを打ち明けるのかと身構えていたのだが、予想外な上にまったくもってどうでもいいことを言われたクリスは、今まで出したこともない素っ頓狂な声を上げていた。
「先輩まさかそんなことでさっきから暗い顔をしてたなんて言わないよな?」
身日々のアーティスト活動で苦労しているであろう翼を労ってやろうと気を使って接していたが反応もそこそこ、どうしていいかわからなかった。
「そのまさかだが、どうした雪音?そんな呆れた顔をして」
「どうしたもこうしたも、今日一日アタシがどれだけ……っ。はぁ、まいいさっきの質問の答えだが、そうだな強いて言うならメンドくさかった、だな」
「なにっ!?そんな理由で大切な基礎を省いたというのか!!いやしかしシンフォギアを纏っている時の歌というのは本人の心象を描いているのだからそれもまた雪音らしいといえば雪音らしいな」
クリスにとっては戦いの作法など基本気にしない、どうやら翼にとってはそこそこ大事なことであったらしい。
ひとりでクリスの考察を進めている翼を眺めていると自然に笑みがこぼれていた。
「なんだ、元気そうじゃねえか」
「ん?何か言ったか?」
「いんや何も言ってねえよ」
翼の様子がおかしいから気が気でなかったクリスはようやく安堵し落ち着けた。
翼に言われてクリスもふと気になったところを聞いてみる。
「なあ先輩、あたしからも質問なんだが」
「なんだ?」
「剣舞う懺悔の時間と歌っていたが、何か懺悔するようなことなんかあったのか?」
翼は気苦労こそ絶えないが彼女自身が何か罪を犯してしまうような人ではないとクリスは知っている。そうなると彼女の胸の内にないはずであろう懺悔という言葉に引っかかったのだ。
「私の家族に対して、色々思うところがあるが少しそれは弱いな。」
クリスも家族絡みのことだろうとおもっていたがどうやらそれは違ったらしい。
「うん考えてみれば簡単な話であったな。あの時二人を助けたいと思ったのは当たり前だが、それ以上に雪音と共に戦場に立つということに興奮を覚え、必然雪音の歌を想像するわけだ」
「なるほど……」
クリスもあの時助けたいという気持ちに加え、翼と共に戦える事が誇らしくあり嬉しくもあった。自身の尊敬する先輩が自分と同じような事を考えていたのが妙に親近感が湧き照れくさくなった。
「しかし今思い返してもあの時の高揚感は凄まじいものがあった、雪音もよくあそこまで私に合わせてくれたものだ。我ながら誇らしい後輩を持てて嬉しいよ」
ここ最近自分が先輩として上に立つような環境だった為か翼の包み込むような言動に心を打たれた。
「お、おう!先輩の考えることなんてお見通しだったからな」
いつも以上に照れ隠しが見え見えなクリスを見てなんだか無邪気な子供を相手しているかのような錯覚に翼は陥った。
「でも本当のこというとあたし自身なんであんなに先輩に合わせられたのか不思議に感じてたんだ。てっきり先輩がそういうふうに立ち回ってくれてるのかと思っていたが」
「思っている以上に私達は相性が良いのかも」
「相性かあ、なあじゃあさ。あの時他に誰のことを想って歌っていたのか同時に言ってみないか?」
「雪音にしては珍しい提案だな」
普段なら、ましてや二人きりの時にこういう遊び的な事はあまりしないクリスだったが気分が舞い上がっていたのと、翼の言った相性が良い、というのを確かめそれを確固たるものとして自分の中に残したかったのだろう。
「うーんそうだな、よし準備できたぞ」
「それじゃあいくぜ、せーのっ」
「立花」
「バカ」
一瞬の静寂のあと小さな笑いが部屋を包む。クリスは翼と同じ事を考えていたのが嬉しく、しかし翼はまた別のことで笑っていた。
「む、何がおかしいんだよ」
「いやなに、雪音の立花に対する呼び方がだな……。はあ、だがやはり考えていることは一緒だったようだな」
「丁度改修が始まっていたとはいえあいつもあたしたちと一緒でギアを壊された身だ。おまけにちょっと前までは纏えないっつって落ち込んでたみたいだし、なんとか元気になって欲しい、そう思ってあの時は戦っていたな」
「だがあのあとすぐにイグナイトシステムを先陣切って発動させる様はその心配をかき消す様であったな」
「はは、抜剣の衝撃であいつを見てる余裕なんかなかったって。てか先輩はあの衝撃に対して結構慣れている感じだったよな?一回目の抜剣でもあたしを救い上げてくれたし」
いまでもクリスは忘れない。ギアの暴走を引き出し制御する工程に生まれる自身への精神的なバックファイヤを。あの時先輩に手を引かれなかったらあのまま暗い悪夢に取り残され続けていたのだろうか、それとも自力で脱出していたのだろうか、と考えれば考えるほどゾッとするシステムであると再確認をする。
「普段から我が身を剣と鍛えていたからな、あのくらいなんてことはないさ」
の割には随分とキツそうだったじゃねえか、とは口が裂けても言えない。そっくりそのまま返されればぐうの音もでないから。
「いまでこそ平気でいられるけどあのバカは今まで、制御装置なしであんなのを扱っていたんだよな……すごいというかなんというか」
はじめて出会ってからある程度経って共闘したときもっと自分は苦しんでいる彼女に手を差し伸べられたのではないか、クリスは響にたいして後悔の念が増えつつあった。
「自分が立花の支えになるにはどうしたらいいか考えているんじゃないか?」
「な、なんでわかったんだよ!?いやそんなこと思っちゃいねえって」
「案ずることはないぞ雪音、もう十分支えになっている」
「そう、かな?」
「そうだとも。それよりあれか、フィーネと戦っている時になにかしてやれることはなかったなどと考えてはいるまいな?」
「げっ」
なんでわかるんだよ、と言わんばかりの反応を見せる。
「まったくお前というやつは本当に優しすぎるというか真面目すぎるぞ、お人好しにも程がある」
「そうかあ?でもあいつに始めて手を差し出された時に拒絶しないで受け入れていれば少しは楽に気負わずやらせてやれたんじゃないかって考えるとどうしてもなあ」
「大体よく考えてみろ当時の雪音の境遇を。とても他人に構ってやれるほどの状況ではなかったはず、それに私から言わせてもらえばあの時から既に今の優しさが滲み出ていたようにも思うが」
たまにみせる翼のいたずらめいた笑顔がクリスは苦手だった。だが彼女の言うことには確かに一理あるなと納得した。
「やっぱり先輩はあたしの誇れる先輩だな、くよくよ悩んでたのが一気に解決したぜ」
満面の笑みで返すクリス。その表情の裏にはまだ不安が残されている。響に対しては整理がついた、だが目の前にいる人、翼のことで頭がいっぱいいっぱいになっている。私はこの人に対してなにかできているのだろうか。 いまこうして笑って会話できているのが奇跡なくらい、初めての出会いは酷かった。決して掘り返すことはないが記憶からなくなることもないであろう。
フロンティア事変でも、翼は裏切られたのにクリスを信じていた。あの時に手の繋ぎ方を教わっていなかったら、今の翼を含める人間関係は築けていなかっただろうと、クリスは彼女から叱責を受けたファミレスのことを思い出した。
「そうだこんど奏者のみんなで飯でも食い行こうぜ、あたしがおごってやる」
「いいアイデアだ私も半分だしてやろう」
「お?本当っすか、さすが先輩だぜ」
喜びを示したのか、四足チェアの背もたれに体の正面を向け軽くカタカタ前後を上下させる。
「ああ、私も日頃の感謝をみなに伝えたかったところだ。そうだあとこれも言っておかねばな」
ひと呼吸翼が置き、クリスは首をかしげる。 「私も雪音にはたくさん支えられているし、そんな雪音が大好きだ。いつも楽しい時間をありがとう」
「はあっ!?」
今日何度目かわからない驚きの声、いやクリス自身翼といるときはいつも驚かせれることの連続であるとわかってはいる。
「お前面と向かってそんなっ、言うことかあ!!」
「面と向かっているからこそ言わねばならないのだ、まあそういう反応を見るのがまた楽しくもあるのだがな」
赤面を少しでも見られないように顔を逸らすが、心内はとても冷静だった。
(先輩が悩み事で困っているかと思ったらじつはあたしが困ってて、しかもそれが先輩によって助けられるなんて)
「あ、あたしもっ先輩のこと……嫌いじゃないからよ」
台詞の最後の方は聞き取れないほどの小さな声量。これが羞恥に耐えながらの最大であろう。
「ふふっありがとう、だがな雪音こういう時はマイナスイメージの言葉よりもプラスのほうが相手に喜ばれるのだぞ?」
「う、うるせえ!!相手に伝わってりゃそれで十分なんだよっ」
芸能活動や奏者としての活動があり、なかなかこういった意地悪のできる気心の知れた相手が居なかった為か翼にとってこの時間が新鮮でありとても心地良いものだった。
じっと視線を向け、催促する。
「うっ、そんなこっち見んなよ……。あたしも先輩が好きだから、その安心してくれよな」
なんとも歯切れの悪い言い方だったが、翼は十二分に満足していた。
恥ずかしさで顔を埋めているクリスの頭をそっと撫でる。
「感謝しているよ雪音、それじゃそろそろ私は帰るとしよう」
「えっ」
思わず翼は少し笑みがこぼれてしまった。
クリスのあげた顔が、まさに今にも捨てられそうな子犬のそれだったからだ。
「案ずるな、また仕事がオフの時に来てやるさ。いくら世界で歌うといっても帰ってこないわけではないからな」
クリスは翼のステージに対する思いを知っている。行ってしまうのは確かに寂しいがそれを言い始めるとキリがないのをよくわかっている。
「まあ確かに。うんそうだよな先輩がやっと掴んだ道、離れていてもずっと応援しててるぞ!!」
ああ、と相槌をうち帰り支度を始めながら翼は考える。
初めての出会いからは考えられない関係になったクリスとこうして笑っていられるのは、やはり響のおかげだと、もちろん現S.O.N.G.の人達による力もあるが彼女の存在が大きいのは間違いない。みんなには感謝しても感謝しきれないのだな、と改めて認識した。
「じゃあな先輩、今度どっかのライブに駆けつけてってやるよ」
「雪音が来てくれるなら心強いな、ふむ飛び入りのゲスト参加というのも悪くないな」
「おいおい変なこと考えてんじゃねえぞ?」
「ふふっ冗談だ」
「あんたが言うと冗談に聞こえねえんだよ……」
クリスとステージに立つというのもなかなか悪くないなと翼は決して表には出さぬように思う。
「今日は楽しい時間を過ごせたよありがとう。また遊びにくるよ」
「おう先輩も気をつけて帰れよ」
迎えの車を待たせているからあまり長く別れを引き伸ばさないよう簡単にあいさつを済ませる二人、だが名残惜しさや寂しさなどは一切ない。
帰りの中、ガラス越しの夜空を見上げ感傷に浸る。海外のステージを回ることはとても嬉しいし楽しく誇らしさもある、だが一日で帰ってくるということはなく必然的に長期的な滞在が必要になってくる。やはり大切な友人たちに会えなくなるというのは少し物寂しい。だが孤独ではない。
(雪音とステージに立つのは我ながら面白い案だな、あとで緒川さんに伝えてみようか)
いつの間にか翼の中でクリスは今まで以上に愛おしく大切な存在になっていた。
ネフシュタンを纏ったクリスとの出会いから、フロンティア事変での悶着、魔法少女事変での共闘、色々な苦難を多く共にしてきた。
これからもずっと彼女と様々な道を歩んでいくのだろう。
「奏、あなたの描いてた私になれているかわからないけど、一生懸命頑張って羽ばたいているよ」
自分の中大きな大きな彼女に語りかけ、優しく目を閉じた。
絶ステいきたかった・・・いけないかわりにつばクリ成分を補充がてら仕事があるのに深夜テンションで楽しくなって書いてしまったひとつ。つばクリ尊い