シンフォギア短編   作:たぬきんぐ

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調は誕生日と共に近づくバレンタインをマリア、切歌と過ごせるのを楽しみにしていた。だが突然切歌から好きな人にチョコを渡したいと聞かされる。そこから調は何かわからない負の感情に取り巻かれるようになっていく……


調のバレンタインバースデー

 街の装飾やテレビの報道で嫌というほど目にするお菓子会社の政策、バレンタイン。

 朝からニュース番組ではそれの特集がひっきりなしだ。季節に合うプレゼントの選び方だとか贈り物の渡し方はサプライズがいいだとか、どのチャンネルを変えても似たりよったり。だが調は少し楽しみでもあった。始めて何の柵もなしで迎えるこのイベント。思えばいつでも暗く切羽詰ったような気がしていて楽しいイメージがなかった。色々な人達に助けられ支えてくれている今、お返しするには絶好の機会だ。

 大好きなマリアや切歌に対し日頃の感謝を再度伝えるためにも。

 

 

 

 「どうしたデスか調、そんな鼻歌交じりに」

 学院からの帰り道、珍しく気持ちの昂ぶりを表に出している調に対して切歌はそれを知る由もなく尋ねた。

「なんでもないよ、ほら切ちゃん帰ろう」

 切歌の手を引き帰路を急ぐ。まだ肌を刺すような空気が流れている。雪も降りこそはしていないが少なくない量が路面の横に積もっている。歩くのに支障はないのだが、そこからくる冷たさというのはまだまだ厳しいもの。

 今頃、家ではマリアが一緒にチョコを作るために待ってくれているだろう。

 切ちゃんはどんな反応を示してくれるかなと、調は楽しげに道を後にするのだった。

 

 

 

 「バレンタインチョコの作り方を教えて欲しい?」

 材料を買いにスーパーへ寄った時のこと。

 調は驚いた、いつもは食べる専門に回っていた切歌が突然作る側になるとういうのだ。一体どういう風の吹き回しだと投げ返してみると意外な返事が返ってきた。

 「なんで作りたいかっていうとデスねー…その、好きな人にチョコを渡したいんデス!!」

 少し、どころではない。かなりの羞恥を持って発言したのだろう、頬がりんごのように赤くなっている。

 「好きな人って?」

 「そ、それは言えないデスっ!乙女のヒミツってやつデース」

 「そ、そうなんだ。今日マリアと一緒に作るから切ちゃんも一緒に作ろっか」

 かなり動揺したが表には出さないよう努める。てっきり調はいつものように自分に向けられた好意だと思ったが、どうやら第三者に向けられたものらしい。

 いつかはできるとわかってはいたが、いざ彼女に恋人かもしくはそれに等しい仲の人ができると、とてもめでたいことあるはずなのに心がきゅっと締め付けられるような、なぜか悲しい気持ちに浸ってしまう。

 一体誰が切ちゃんの気を引くことに成功したのだろうか、相手は一体どんな人なのか、調はいつの間にかそんなことばかりを考え、気が気でない状態になっていた。

 「本当デスか!?調ありがとうデース!!」

 いつも通りのコミュニケーション、軽めのハグ。調はこれがすごく好きだ。心が暖かくなる。だが今はどこか穴のあいたような感じが拭えないでいた。

 どこからともなく流れてくる夕暮れ時を知らせる曲も、いつもより哀愁漂っているのが調の憂鬱さに拍車をかけていった。

 

 

 「調、マリア助かったデース!!」

 「珍しいわね切歌がチョコ作りなんて、F.I.S.にいたときは率先して食べる側だったのに」 

 マリアは相変わらず家事全般を効率よくてきぱきこなす。調いつもはそれに見とれていた。

 「マリアはそのチョコ誰に上げるの?」

 調理後の片付けを嫌う者はこの中にいない、マリアと調は片付け含め好きで料理をしている(調はマリアの手伝いがほとんどであるが)し、切歌も作り終えたあとの手伝いを好んでやっている。

 「S.O.N.G.のみんなによ、あそこの人たちにはお世話になりっぱなしだからこういう時にちょっとでも返してあげないとね」

 「違うこっち」

 調はひとつだけちょこんと小さい、けれどしっかりと包装された小包を指差した。

 「こっ、これは翼にあげるのよ、彼女チョコ渡す当日いないみたいだから、ひとつだけ別にしてあるの」

 「ふうん」

 どうしてマリアが少し慌てたのかをなんとなくだが察した二人は、それ以上聞くことはなかった。

 「切ちゃんはそのチョコ誰に…って秘密なんだっけ」

 「そうデース、いくら調とはいえこれはヒミツなのデス」

 切歌はどこか得意げにふんぞり返っていたが頬についたチョコを調が拭ってあげるとえへへと情けない笑いを見せた。

 

 

 

 「切歌のチョコを渡す相手を調べて欲しいだと?」

 切歌の隠し事に対し、いてもたってもいられなかった調はクリスに相談を持ち込んでいた。確かめたところでどうというわけではないがどうしても知りたかった。

 こういう時頼るのは先輩と相場が決まっている。

 「うん、贈る相手をなかなか私に教えてくれなくって」

 「あいつが調に教えないって相当のことだな、確かに気になる」

 調はクリスのことをとても信頼しているし、とても頼りがいのある人だと思っている。

 今回の件に関しても自分に対し協力的だと確信していた。

 「だから今はまだ警戒されてないクリス先輩に」

 「だが協力はできないな」

 「えっ」

 遮るような返答に調は驚いた。

 「これが局の任務に関わることだったら調べても良かったが、流石に切歌が隠したがっているプライベートを無理やり探るのは好かねえ」

 自分の助けになると信じて疑わなかった相手に裏切られた時の衝撃というのは凄まじい。 だがそれよりも大切な人たちからこうも連続でいい返事を貰えなかったことに一つの思いが芽生え始めた。

「確かに・・・」

 自分は周りを愛し、そしてそれ以上に、過度に愛されたいと思っているのではないかと。

 当然切歌にしろ目の前のクリスにしろ愛されているという自覚は調自身持っているし、実際に間違いではない。だが自分は自分の気づかぬ間にそれ以上を求めてしまっていたのではないか、そしてそれが得られないから今こうして不満感を感じているのではないか。

 「というわけでこの話はここでおしまいだ。あたしは用事があるからもう行くぜ。お前もあんまりあいつのこと余計に詮索してやるなよ」

 「うん、話を聞いてくれててありがとう」

 にかっっと気持ちのいい笑顔を見せて去っていくクリス。

 不思議と、モヤモヤしていたものがなくなった訳でないが薄れていった、どうして自分の中に嫌な感情が生まれてきたのかを少し理解できたからか。

 調はその日から少しだけ周りとの距離、というものを考えるようになっていった。

 

 

 

 「ううぅ寒いデース、どうして今日は手袋を付けてこなかったんデスかあたしのばかばかばか~」

 学院からの帰り道、調と切歌はいつもとかわらぬ帰路についていた。

 「切ちゃん、手貸して」

 「おぉ~調の手すごく暖かいデス!どうして夏はあんなにひんやりしてるのに冬はこんなにあったかいんデスか?」

「さあどうしてだろうね、ほら早く帰ろう?今日はお鍋なんだから」

 「そうでした!今日は鍋パデース!早く帰るデス調!」

 「パーティーってそんな規模でもないよ」

 調の言葉を話半分に切歌は調の差し出した手を引いてそそくさと歩いて行く。

 ついこの前切歌を始め周りとの距離感を考えると決めたのに調は以前と変わらず、いやそれ以上に接していた。

 今日は十四日バレンタイン、お菓子会社の政策で作られた偽物の記念日。調はとうとう切歌に自分の考え、想いは打ち明けずに彼女の動向を観察することにしたのだった。

 だがもう夕方、晩の材料を買いに近所のスーパーに来ている。

 (今日渡すとは限らないもんね…それとももう学院の友達にあげちゃったのかな。なんだかこれじゃ切ちゃんのストーカーしてるみたい)

 「こんなもんデスかね」

 一人考えにふけっていると切歌がとても三人で食べ切るには難しい料の具材をカゴに入れていた。

 「切ちゃん、これ多くない?」

 「デェス!これでいいデース食べ盛りの私達にはこれくらいが丁度いいデース」

 明らかになにか隠しごとをしているのは明白。こういう時でも切歌は素直なので苦労しない。

 「切ちゃんまた私に何か隠しごと?」

 少し頬を膨らませ決して真に怒っているのではないと主張する。

 「ええと、あのですねははは」

 調は切歌の扱いには慣れている。そしてその逆もまた然り。切歌も頑固な調はよく知っている。

 「黙っててごめんなさい…デス。実は今日響さんとかクリス先輩がうちに来るんデス」

 「それでさっき…もう言ってくれれば良かったのに」

 切歌がパーティと言っていたことに納得する。

 「まあそうしょげるな、みんなで調の誕生パーティーを開こうって言いだしたのは切歌なんだぜ」

 突然後ろからクリス先輩の声、と同時に抱きつかれた。声の主ではない、クリスに同伴していた響だ。

 「クリス先輩に響さん」

 「よっ二人共、スーパー入るところ見かけたからついてきちまった」

 「アハハごめん調ちゃん、なんだか隠しごとしてるみたいになっちゃって。もう切歌ちゃんってばもうちょっとうまく隠さなきゃ」

 「えへへ、失敗デース」

 「もう切ちゃんってば……、普通に言ってくれてたほうが嬉しかったよ?」

 ふいっと調は顔を背けかごを持ってレジに向かう。切歌とクリス、響の三人は調の顔が緩んでいたのを見逃さなかったのか調の後ろで笑顔を見せ合っていた。

 

 

 

 

 

 日も沈みきってしばらくが経った。

 いつもはマリア、切歌、調の三人しかいない家にS.O.N.Gの面々が集まっている。

 少し呼びすぎなのでは、と思いつつも調は今までにない満足感というか幸福感を味わっていた。こんな風に大勢に祝われたことなどなかったからだ。

 「さて我々はそろそろお暇させてもうとしよう。改めて調君、誕生日おめでとう。ひとつ年を重ねたとは言えそれはあくまでデータ上の数字でしかない。成長しているとは言え君はまだまだ子供だ存分に我々大人を頼ってくれたまえ」

 今日はありがとうございました、と酔いつつも自我を保った弦十郎に続き朔也が重ね、参加していたみなが帰った。部屋にはいつもの三人が残り少し早めの誕生日パーティーが終わりを告げた。

 「ふう、こんな騒がしい夜は久しぶり」

 マリアは色々仕切っていたのもあってか、かなり疲れを見せている。

 「でもとっても楽しかったデース!」

 「うん、こんな風に祝えてもらったのは初めてだったからすごく嬉しい」

 「よかったデスね調」

 そうだ相手の事をすべて知り尽くさなくてもこんなに素敵な思いができるんだ、調は妙に納得できる答えにたどり着いた。たとえそれがその場だけのものだったとしても。

 だが彼女はもう彼女自身の考えが気にならなくなっていた。解消し難い目に見えぬもやは晴れたように感じる。

 「さて二人共、残りの片付けを」

 急にマリアの携帯がメロディを奏でた。誰かからの着信のようだ。

 「翼からだわ、一体何のようかしらこんな時間に」

 「どうしたんデスかね」

 「事件とかじゃなさそうだけど」

 声のトーンから大事ではなさそうだが二人にはどういう要件なのか検討がつかなかった。

 「次の仕事に向かう途中この辺りを通るみたい。電話変わるわね」

 まだ日付が変わるまでには少しあるがそこまでスケジュールが詰まっていることに驚きを隠せない二人、手渡された携帯から聴きなれた声が聞こえる。

 「おぉ月読か、目出度い日に直接顔を合わせることができなくてすまなかったな。まだ誕生日ではないがみなが今日祝ったのだから私もそれに肖ろうと思う。おめでとう」

 「ありがとう、翼さんもお仕事頑張って」

 「頑張るデース!」

 律儀というか真面目というか、調は翼のそんなところが好きだった。

 「そうデス!、アリア、翼さんがこの辺りまで来てるんだったらチョコを渡してくるといいデス」

 唐突に切歌が提案を持ち出す。ここぞというばかりに調も乗っかる。

 「せっかくのバレンタインデーなんだしいいんじゃないかな。片付けは私達だけでやっておくから」

 二人共マリアが、今日来れないから翼の分だけチョコを分けていたのではない事に気づいている。愛情なのか友情なのかはたまた別のものか、そこまでは分からないが。

 「そ、そうね。確かに一年に一度の日、大事にしなくちゃね。ありがとう切歌、調。少し出てくるわ」

 「いってらっしゃい」

 「いってらっしゃいデス」

 しばしの間沈黙が訪れる。気まずいものでは決してない。

 「そういえば切ちゃんこの前はごめんね」

 「何がデスか?」

 「切ちゃんは私の為にサプライズとして隠してくれていたのに怒っちゃったから」

 「何言ってるデスか調、本気で怒ってなかったくせに。それよりもこっちがごめんなさいデスよ。最初から伝えておけばよかったデス」

 でも楽しかったよありがとう、デス!と食器を拭きながら二人してスキンシップを取る。

 幸せとしか呼べない空気に二人共満足していた。

 そこで調は思った。今なら切歌が大事に大事に作ったチョコを誰に渡したのか教えてくれるのではないか、と。それに今ならどんな答えでも受け止めて受け入れられる気がした。もし言いたくないというのであればそれでもいいだろう。

 「ねえ切ちゃん」

 「なんデスか?」

 「切ちゃんが作ってたチョコの事だけど」

 「デッ、デデデデェース!そうだ調、マリアが作ったチョコデスけどあれは」

 「切ちゃんってば、言いたくないなら別にそれはそれで構わないよ」

 まさかここまで反応すると思っていなかった調はクスリと笑いを堪えずにはいられなかった。なぜこうも目の前の彼女が愛おしく感じるのだろうか。調のこの高揚感はさらにいい方向へ進むことになる。

 「ええとデスね、ちょっと待ってて欲しいデス」

 あらかた片付け終えた後、そそくさと切歌は自室に戻っていった。と思えばすぐ戻ってきて何やら後ろ手に隠し持っている。

 「調!ちょっと早いけどお誕生日おめでとう!大好きな調の為に丹精込めて作ったチョコデス」

 「切ちゃんこれ……」

 「ああもうさっさと受け取るデスよ!いつも支えてくれてありがとう……デス」

 最後の方はゴニョゴニョと何を言っているのかわからない上に、半ば強引にその手にある物押し付けてくる切歌。対し調は呆れ返っていた。

 もちろん自分自身に対してだ。一体ここ最近何を考え込んでしまっていたのだろうと。

 「はははおかしいデスね、フロンティア事変で調と戦ったときはもっとこうスッと言えたのに。とにかくこれもサプライズデス!テレビで最後の最後まで隠していたほうが喜びが倍増するって言ってたデス。でもまあそれも調に隠さない方が良かったと言われ言い出しづらくなっちゃったデスが、ってどうしたんデスか調!」

 「ううんなんでもないよ切ちゃん。ありがとう…大好き」

 気がつくと調は切歌の胸に顔を埋めていた。流した涙を見られないようにするためにはこうするしかないと思ったから。 

 自分はこんなにも愛されているのに、どうして余計なことを考えてしまったのだろうか、切ちゃんが誰を好きになっても自分への愛情は変わることはないだろうにどうしてそれがわからなかったんだろうか、調は解決したと思い込んでいただけのことにようやく決着を付けられた。彼女はバレンタインがこんなにも素晴らしい日だと生まれて始めて知り同時に誕生日が近かったことにも感謝した。

 「人生で一番の誕生日だ」




バレンタイン当日に投稿できなかったのが残念ですがまあ二月中に書ききれてよかったかな??なんというかきりしらお互いの愛を確認したかった、いやできてよかった!感無量です・・・次はGX後のエルフナインでも書きたいところ
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