世界を股に掛けるアーティスト生活に返り咲いていった風鳴翼と、彼女に会えなくて徐々に寂しさを募らせていく雪音クリス。
そして時はクリスマスの季節へと流れてゆく。少し前まではずっと一緒だったのに、急にセンパイと離れ離れになってしまったクリスちゃんはどんな気持ちを抱えているのだろう・・・そんな事を思いつき文字を並べてみました。短いですが、どうかお付き合いください。
クリスマスがどんなものなのかは知っていた。
しばらく前、ネフシュタンを纏い孤独と共に自分の信じた、しかし間違っていたモノ達を撃とうとしていた時に遠くから眺めていたからだ。
ただその境遇のおかげ、と言ってしまうのはおかしいかもしれないけど、世の人が寂しいなどと言っている最中、その行事に対する羨ましい感情や劣等感などを特に抱くことがない。
一人で過ごすには少し広く感じられる部屋、テーブルの上にはひと切れのショートケーキが入った洒落た小箱。
「ま、あたしにゃ縁のないモノだがせっかくだし雰囲気ぐらいは味わっとかねえとな」
誰に発するわけでもない言葉を口にする。
寂しい、という気持ちはないと思う。ついさっきまでいつものメンバー全員、とはいかないが自分をあったかい場所に引き戻してくれた人達。みんなとクリスマスパーティーという名の食事会をしてきたばかりだ。
いつも元気で一言目にはごはん、二言目にもごはんしか言わないアイツ。そんな眩しくて危なっかしいアイツをいつもそばで支え続けているアタシの恩人。命を取り合うような出会いから始まった優しくて強いセンパイ。自分と同じように間違った道を信じて進んでしまいながらもしっかりと自分を正せた後輩達。その後輩を自分が苦しみながらも見守っている彼女。アタシの進む道が間違っていると体を張って知らせてくれたおっさん。まだまだ数え切れないほどの人が救ってくれてそばにいてくれる。
決して淋しくはない。はずなのになぜだろう、窓の外に広がる暗い街で美しく輝くイルミネーションを眺めていると少し胸が締め付けられる。
ネフシュタンを纏っていたときはこんな気持ち微塵も抱かなかったのに。
「ハハッあまったるい生活に毒されすぎたかな、またおっさんのとこで修行でもさせてもらうか」
なんとか自分をごまかそうとする独り言、ここまでくると確信が持てる。
「柄にもなく寂しがっているのかアタシは」
口にするとさらに気持ちが沈んでいくような、体がずぅっと重くなっていくのを感じる。
原因はまあわかっている。
「せっかくS.O.N.Gのみんなでパーティしようって決めたのに、なんで来なかったんだよセンパイ・・・」
キャロルとの戦いが終わり、みなが元の平穏な生活に戻っていったように風鳴翼、彼女もまた世界を股に掛けるアーティストに戻っていった。季節がクリスマスということもあり、メディアがいま売れている彼女をこの時期にほったらかすわけもなく、オフの時間がまったくないという事態。
いやそれだけみなに求められているということなのだからいいことなのだ。無理やり自分にそう言い聞かせ、センパイと会えなかった事をいつまでも引きずるのはやめにする。
ケーキを小皿の上へ盛り付け、椅子に思いっきりもたれかかる。
ふぅとため息をつき、このまま寝てしまおうか、なんて思った矢先、眠気を吹き飛ばすような大きめのチャイムが鳴り響いた。
「誰だぁ、こんな時間に」
日付はまだしばらく変わらない。が、もう夜遅い時間はた迷惑なヤツがいるもんだ、と全くアテのない客人を迎えに玄関を開ける。
「すまないな雪音、こんな夜遅くに」
思わぬ訪問者だった。
「セ、センパイっ!?」
そんないま彼女は日本にはいないはず、開いた口がしばらくそのままになり雪音クリスの中では今起きていることが信じられなかった。
「急ですまないが上がってもいいだろうか?」
数秒ほど間を作ってしまうものの、情けない姿を周りに見せたくない性分の彼女、すぐに平静を取り繕う。
「あ、ああ!勿論だ、入ってくれ」
そこでようやく風鳴翼本人が目の前にいるのだと自覚し、それと同時に手荷物に気づく。
「センパイ荷物持とうか?」
「いや、大丈夫だ。というよりこれは雪音へのお土産、いやクリスマスプレゼントだからな」
ワンクッション会話を挟んだおかげでだんだんと冷静になってきた雪音クリスは少し声を荒げて疑問をぶつけた。
「そうだ、それよりどうしてここに?日本にはいないんじゃなかったのか?」
「ああ、さっきまでは日本にいなかった、仕事が終わったあとに急いで帰ってきたのだ緒川さんに少しばかり無理を言ってな」
そうなのか、と嬉しいような悲しいようなちいさな納得。会えた嬉しさとパーティに間に合わなかった悲しさの混ざったもの。会えない時間が長かっただけに、風鳴翼が今日のパーティに参加できなかったのが雪音クリスにはとても大きなショックを与えていたのだ。
「まあゆっくりしていってくれよセンパイ」
彼女が連日忙しいというのは知っている。すぐにこの家を去っていってしまうのも、だが今は少しでも一緒にいたい。そんな感情から、考えるより先に言葉が出てしまっていた。
「そうさせてもらう、他のみんなにはもう挨拶を済ませてきたし、もう寄るところもないからな」
その言葉を聞いて、少しムッとしてしまう。アタシのところは最後かよ、なんて柄にもないセリフが喉から出てしまうのをギリギリ理性が食い止める。おかしいなんでこんな心がぐちゃぐちゃになっているのだろうか、と雪音クリスはいままで抱いたことのない感情を胸に秘め始めていた。
「そうだ、正月とかはどうなんだ?一緒に初詣にいこうぜセンパイ」
どす黒いものは決して表には出さずに、でもどこかひきつっていたかもしれない。そんな空気を察したのかはわからないが、風鳴翼は苦渋をかんだように落ち着きを保ったまま、
「すまないな、そこも予定が決まってしまっているんだ」
笑ってはいるがどこか切なそうに呟いた。
「そうか、それなら・・・しかたねえよな」
もはや最後の方は聞き取れないくらいの小さな声。
少しだけ沈黙が続く、この人相手に気まずいと思ったのはいつぶりだろうか。
会ってしまった所為で今まで溜め込んでいたものが爆発したのかもしれない、心が沈みきり、なかなか口が開かない。
(なにかしゃべらないと、そうだセンパイのもってきたお土産の話でもするか、メールや電話で聞けなかったライブの話でもいい)
彼女をつなぎ止めておかないとまたすぐどこか遠くへ去っていってしまいそうなそよ風のような想いが体を駆け抜けていく。
重たい口を開こうとしたその時だ、
「ふむ、そんなに寂しがっているとは知らなかったな、来年からは
「なっ、アタシは別に寂しくなんか・・・まあ他のみんなの為にそうするのもいいんじゃねえか?」
少しだけ意地の悪い笑みを浮かべながらそう言われ、雪音クリスは真っ赤になった顔を見せまいとそっぽを向いた。
完全に拭いきれたわけではないが気持ちが落ち着いてきたのか、抑揚のついた声ではぐらかす。だが自分の願望を隠しきれていなかったのを風鳴翼は見逃さなかった。
「ひゃっ、おいっ、いきなりなにすんだ!」
横目を見ていた雪音クリスの首を両の腕で優しく包み込んだ。
「雪音の顔を見て気がついたよ。こんなにも求められて、寂しい思いをさせてしまっていたなんて。すまなかったな」
後ろからトクントクンと微かに伝わってくる。
「おまっ、こういうことは家でっ!」
言いながらここは自分の家だと気がついた。
突然のことで頭が真っ白になっていたのだろう。羞恥心を最大限全面に出しつつも、これが心から自分の求めていたものだったと気づき雪音クリスは今起きていることを受け入れた。
「わっ、わかりゃいいんだよ・・・」
決して気温は暖かくない真冬の晩、冷たい街を優しく暖かく彩るイルミネーションのように、気持ちはとても幸せな色に包まれていった。
ハーメルン初投稿です、忙しいこの時期につばクリ妄想してたらいてもたってもいられなくなり、思い立って書き綴ってしまった・・・少し遅れてのクリスマスですがメリークリスちゃん!!誕生日おめでとう!!