今回で武偵殺し編は終わりになります。
そう、負傷者数名で無事に解決、した“はず”だった。
ズガァォンッ!
「なに!?」
バスが停車し、生徒や運転手など負傷した人たちを運ぼうとしている時、突如大きな発砲音が響き渡った。
無事な生徒たちは、また何かの事件が起こったのかと思い、それぞれ武器を構えているが、追撃は一向に来ない。
怪訝そうな顔を浮かべる生徒たちが出てくる中、悲鳴が上がる。
「ラインハルトさん!?」
「お、おい!しっかりしろラインハルト!?」
それはレキとキンジの悲鳴。
全員がその方向に目を向けると、そこには腹に血を滲ませ、仰向けに倒れているラインハルトの姿があった。
ならば、先程の発砲音は端からラインハルトに向けられたものであり、それにラインハルトは射たれたということ。
近くに犯人はいると思った何人かの生徒は、直ぐに捜索し出した。
「ラインハルトさん!?ラインハルトさんッ!?」
レキはラインハルトの体を揺すりながら必死に呼び掛けるが、ラインハルトは反応せず、ただ傷から血が溢れてくるだけだ。
「レキ、一旦揺するのをやめなさい!血が出てくるわ!」
「離してください!ラインハルトさんが!?」
アリアは直ぐにレキをラインハルトから離したが、レキは明らかに正気を失っており、普段の彼女から想像できない程に錯乱している。
それを見て驚く生徒もいる中で、キンジや同じクラスの武藤たちが救護を呼び始める。
「この中に
「おい
呼ばれた何人かの衛生科の生徒は、直ぐにラインハルトの傍に駆け寄り、応急処置を始める。
通信科の生徒は、言われた通りに学校に救護の準備をするよう連絡している。
「でも、一体どこから?」
「わかんねぇ。でも、ラインハルトがこんな簡単に射たれるなんてな」
普段のラインハルトならば、例えどんな遠距離から狙撃されようとも、その弾丸を弾き飛ばしていたはずだ。
“普通”なら。
「すみません、私のせいです」
「どうしたんだ?レキ」
「そうよ。ラインハルトが射たれたのは別にアンタのせいじゃないわよ?」
ペタンと女の子座りで座り込んだレキが、突然責任は自分にあると言うが、それをキンジとアリアは否定する。
「ラインハルトさんは、私の言葉に舞い上がっていたんです。そのせいで注意力が極端に落ちてしまいました」
「まさか、そんなことあるわけないじゃない」
「――いや、レキに一途なアイツならあり得る。現に前、一回だけ似たようなことがあったんだ」
キンジが言うこととは、レキとラインハルトが恋人同士になる切っ掛けとなったあの事件のことだ。
ラインハルトと仲の良いキンジに真っ先に報告するのは当たり前だろう。
それと似たようなことが今回も偶然起こってしまい、それを自分の責任だとレキは思っているのだ。
「アイツはどんなときでもレキを中心にして回っている。それこそ、レキがいなくなったら世界なんて簡単に滅ぼしちまうほどだろうよ」
「そ、そんなこと出来るわけないじゃない!?たった一人で世界を相手にするなんて!?Rランクの武偵でも不可能なのよ!?」
「いや出来る。これは断言できるし、何よりアイツが証言したんだからな」
「なっ!?!」
キンジのことを、何処までラインハルトは信頼しているのだろうと、アリアとレキは思った。
普通そんなことを他人に言うなどまずあり得ない。
それをキンジにのみ明かしていて、レキはまだ知らない。
「だから気に病むなよレキ。これはラインハルト自身で招いた結果なんだからな」
「――では、私は...何をすれば良いのですか?」
「ラインハルトの手を精一杯握ってやれば良いんじゃないか?レキの温もりを感じるだけで、この一途な馬鹿は完治しちまうだろ、きっと」
「――――そう、ですね」
道を見失ってしまったレキに対し、キンジは分かっているかのように助言して導く。
レキはそれに頷き、応急処置を受けているラインハルトの傍に駆け寄ってから、精一杯手を握っている。
「アンタ、何気にメンタルケア向いてるんじゃないの?」
「ああ、それ自分でも思った」
上空に到着したヘリを見ながら、アリアとキンジはそんな軽口を言い合っていた。
「でも、ラインハルトなら本当にあれだけで完治しちまいそうなんだよなぁ。そう思わせるラインハルト流石だ」
「ただのロリコンじゃない」
間違いない。
担架に乗せられて運ばれていくラインハルトに、レキは付添人としてヘリへと乗った。
それを見たキンジとアリアは、自分達もとヘリへ急ぐ。
しばらくして離陸したヘリは、真っ直ぐに武偵高へと飛び立っていった。
――――――――――
???side
「ちぇ、心臓には当たんなかったかぁー」
先程まで武偵高の生徒たちがいたレインボーブリッジ。
その高台に、一人の少女がカッパを着て、フランスの
その言動からして、この少女がラインハルトを狙撃したのだろう。
しかし、心臓には当たんなかったと言っているということは、ラインハルトは直前に位置をずらしていたというわけだ。
ならばかわせたはずなのにかわさなかったということ。
「身を捨ててでもレキュを守ったんだぁ、凄いよライライは」
ラインハルトの前にはレキがいて、ラインハルトがかわしていたなら恐らくレキに当たっていたのだろう。
小柄なレキにこの対物ライフルが直撃すれば、確実にレキは即死するだろう。
それを阻止するためにも、ラインハルトは身を
「まぁ、あの傷だし、暫くは動けないでしょ!これで心置き無く“オルメス”と戦えるっと!」
風が吹き、カッパのフードが脱げ、その素顔が現れる。
ツーサイドアップにされた金色の髪に、幼く見える童顔。
カッパから透けて見えるのはヒラヒラしているフリルが使われた改造された武偵高の制服。
「待ってろよオルメス。この『峰・理子・リュパン4世』が、お前をぶち殺してやる!」
それは、2年Aクラスに所属している、探偵科Aランクの峰理子その人だった。
――――――――――
「グッ!....うん?」
まず視界に入ったのは白い無機質な天井。
次に感じたのは左腕を包んでいる柔らかい何か。
最後に吐いたのは歓喜の喜び。
「ああ、私は今、生きているッ!」
「此処は病院なので静かにしてください」
ラインハルトが声を荒げると、直ぐにレキの注意が飛んできた。
レキが左腕から離れ、ラインハルトは体を起こす。
「私は、どのくらい眠っていたのだ?」
「だいたい3日ですね。医者も驚いていましたよ?あまりにも治りが早いと」
「一番の取り柄なのでね」
他愛の無い、どこにでもありそうな会話。
しかし、その中でレキは安心していた。
いかに傷の治りが早く、ただ眠っているだけだとは言え、その期間がレキには何年にも感じられたからだ。
「――すまないなレキ、心配を掛けてしまったようだ」
「全くです。この3日間の私の時間をどうしてくれるんですか」
「ははは、それは退院後に埋め合わせをしよう。飛びっきりの物をな」
「――でも、目覚めてくれて良かったです」
レキはそう言いながら、フワリとラインハルトに抱き付いた。
余程心配だったのか、体は未だにプルプルと震えている。
「バカな人、私を庇うために射たれるなんて」
「――おや、バレていたか」
「当たり前です。狙撃者の姿も捉えましたしね」
「そうか、それならば何も言うまい――理子はどうなったのかね?」
どうやら、ラインハルトは武偵殺しが理子だと言うことを知っていたらしい。
それを聞いたレキは、驚くことはなく、普通に返した。
「理子さんは、ラインハルトさんが眠っている間に起きたハイジャック事件以降、姿を見せていません。表向きには海外出張ということになっていますが、恐らくは」
「逃げられた、か――計画に失敗した理子は、確実に元いた組織を脱退させられる。行き先を失った理子は、直ぐにこの武偵高校へ帰ってくるさ」
「まるで予言のような発言ですね」
「推理から導いた答えと、経験上からの予測を踏まえたものだ」
ラインハルトの予言めいた発言を軽く流しつつレキは言うが、ラインハルトはそれを否定する。
前世で大将にまで上り詰めた恩恵とでも言っておこう。
「どれ、意識も回復したことだし、さっさと退院してしまおうか。この入院服も落ち着かん」
「私の前で脱がないでくださいね」
「私は別に構わないのだがね」
「私が気にするんですよ!」
それからラインハルトはナースコールを押して医者を呼び、軽い検査を受けた後に無事退院が決まった。
レキが然り気無く部屋から出たので、ラインハルトは制服にササッと着替えて部屋を出る。
「では行こうか」
「はい」
レキは差し出されたラインハルトの手を取り、病院を後にした。
「ふむ、少し体が鈍っているな」
「3日も動かなければ多少は鈍りますね」
「これはリハビリが必要だな」
「そうですね」
「そういうわけで失礼する」
「ひゃっ!?」
トントン拍子で進んでいく会話の末に、ラインハルトはレキをお姫様抱っこをする。
突然抱かれたレキは、戸惑ってしまい恥ずかしい声を出してしまった。
「ちょっ!?何するんですか!?」
「リハビリ」
「だからって私を抱かないでください!恥ずかしいですから!」
「私はむしろ見せつけたい!!」
レキは持っていたドラグノフでラインハルトをド突くが、ラインハルトは対してダメージを受けていない。
「しかし軽いな。私が眠っている間に食事を取っていたのか?」
「――いえ」
「ならば今日は退院祝いとキンジたちへの祝福も含めてパーティーといこう」
「なんでそうなるんですか」
レキはツッコムが、ラインハルトは既にデパートに向かっている。
レキはデパートに行けば余計に人目に付くと思い、ラインハルトから逃れようともがくも、痛くない程度に力を入れられ、ラインハルトの逃がさないという意志が伝わってくる。
「やっぱり離してください!」
「拒否する!」
「ならば下ろしなさい!」
「断固拒否する!」
「撃ちますよ!」
「ならばこうする!」
ラインハルトは巧みにレキを動かすと、お姫様抱っこからおんぶに変わる。
「だから何でこういう形になるんですか!?」
「レキの感触を全身で味わうためにだ!」
事実、おんぶをすることで、お姫様抱っこの時よりも触れられる面積は圧倒的に増す。
胸やお腹は勿論、太ももや腕に至るまで、体の大部分の触感を満喫しているラインハルト。
「もう少し体を密着してくれると股か――」
「もう一回入院しますか?」
「レキが看病してくれるのならば是非とも。あとナース服も見てみたいな」
「~~~ッ!」
レキは顔を真っ赤にしてラインハルトの背中に顔を埋めてしまう。
既に人の多い道を歩いている二人は、それはもう注目の的だ。
中には写真を撮ろうとしている者もいるが、ラインハルトの鋭い眼光に臆されてしまい撮る人はいない。
ようやく退院したラインハルトは、退院直後から平常運転であり、フルスロットルであった。
この次の日、学校に復帰したラインハルトが全校のレキのファンたちに追いかけ回されたのは余談である。
ついでに言うならば、その日のパーティーは大いに盛り上がったらしい。
ラインハルトはハイジャックに絡ませるには大変ですので、スミマセン。
次回は予告通りに、メルクリウスたちの座にレキとともに行きます。