今回は座での物語です。
第11話
「ラインハルトさん、これはどういうことですか?」
「いや、これは生まれ持ったものだから仕方が――」
「言い訳無用!」
「ぬぉっ!?」
ラインハルトは現在、メルクリウスたちのいる座において、レキに追い掛けられていた。
それをメルクリウスは少し羨ましげに、蓮は呆れ気味に、マリィは心配そうに眺めている。
こうなったのには、少し時間を遡る必要がある。
そう、あれは今朝のことであった。
――――――――――
ラインハルトが無事病院を退院してから数日後の休日。
その朝早くから、ラインハルトは軍服に身を包んで完全装備をしてレキを迎えに女子寮へと向かっていた。
朝早くということもあり、外を出歩いている人も少ない。
「全く、朝早くからとはカールも面倒なことをする。だが、そのお陰でレキの寝顔を拝見出来るかもしれないな」
真剣な顔を呟いているのにも関わらず、やはり言っていることは疚しい。
ラインハルトは足音を発てずに、しかし堂々とした態度で真っ直ぐにレキの部屋へと向かう。
階段を迅速に駆け上がり、そこから一直線にレキの部屋の前に移動する。
鍵は勿論キーピックを使用して静かに解除し、ドアを開けて中へと入る。
リビングの中へと続く扉を開けると、テーブルに天秤や分銅が置かれただけの、殺風景な部屋の中に、レキは座って眠っていた。
愛銃であるドラグノフを肩に掛けながら。
「レキ、迎えに来たぞ?」
「……スゥー……スゥー……」
ラインハルトがレキの肩を揺するも、レキは起きる気配は無い。
教えていた時間よりも早く来てしまったということもあるのだろうが、それでもレキがここまで深い眠りに入っているのは珍しい。
「――仕方ない、このままで連れて行くとしよう」
一旦ラインハルトは立ち上がり、ポケットから携帯を取り出すと、ある番号にコールする。
しばらくすると、相手が電話に出る。
「カールか?こちらの準備は出来た故、ゲートを繋げてくれないか?」
『了解した。直ぐに繋げよう』
すると、ラインハルトの目の前に座へと繋がるゲートが開かれる。
「相変わらず仕事が早いな」
『私には造作もないことなのでね』
「では、これから向かう」
『ああ、楽しみにしているよ』
ラインハルトは携帯をポケットにしまうと、未だに眠っているレキを抱き上げてゲートに向かう。
ドラグノフはラインハルトが背負い、一緒に持っていくことにする。
やがて、ラインハルトはゲートを潜ると、直ぐにそのゲートは閉じられ、残ったのは主がいない殺風景な部屋のみだった。
――――――――――
「――ゲートを潜った先が座だとは、流石は我が友だな」
「誉めても何もでないよ獣殿」
ゲートを潜った先は既に座であり、目の前にはメルクリウスが立ってお出迎えをしていた。
メルクリウスはラインハルトと軽い会話をすると、直ぐにラインハルトの腕に抱かれて眠っているレキに視線を向ける。
「そちらのご令嬢が?」
「ああ、私の女神だ」
それから二人はゆっくりと座の中を歩き、話をしながら蓮たちがいる場所に向かっていく。
「それで、私は何故赤子からスタートしたのだね?」
「私が女神の願いを聞き届けないとでも思うのかね?」
「なるほど、卿の女神の企みか」
「おや?何か気にさわるような出来事でも幼少期にありましたかな?」
マリィの企みで子供からのスタートをしたことを聞いたラインハルトは、少し顔をしかめて言ったため、メルクリウスはからかうような表情でラインハルトに言った。
「そうだな、お陰であの姿のまま固定されてしまったではないか」
「――獣殿、少し失礼するよ」
メルクリウスが何かを呟くと、その瞬間にラインハルトの体が光り出す。
やがて光が強くなっていくと、それは光の柱となり、しばらくすると止んでしまう。
そして、肝心のラインハルトはというと、どこにも姿が見えなくなってしまっていた。
先程まで居たであろう場所には、むくりと起き上がっているレキと固まっているメルクリウス。
そして、銀髪に白銀の瞳を持った“少女”がペタンと座り込んでいるだけだ。
「おい!なんだよ今の光!」
「何かあったの?」
光を見たのだろう蓮とマリィが駆けつけて来て、それで固まっていたメルクリウスは再起動する。
「ん?おいメルクリウス、この女の子たちは誰だ?」
「なんかこの女の子、雰囲気がラインハルトみたい」
「流石、私の女神。感が鋭いね」
メルクリウスがようやく振り絞った言葉に、蓮とマリィは愕然としてしまった。
何故ならばそう、この銀髪銀眼の少女こそがラインハルトらしいのだ。
「マ、マジか!?マジなのか!?」
「可愛いねぇ」
「な、何をする!?離したまえ!?」
少女といっても、どう見ても少女には満たないであろう外見は、どちらかと言わなくても幼女だろう。
それがマリィに抱き付かれてバタバタ暴れながら言葉を言うが、生憎にも可愛い姉妹のような光景にしかならない。
「あの、スミマセン」
「ん?なんだね、ハイドリヒの女神よ?」
「私は女神ではありません。とりあえず、此処は何処で、貴方たちは誰で、ラインハルトさんは?」
眠りから覚めたらいきなり知らない場所にいて、知らない人たちに囲まれて、ラインハルトもいないため、レキは少し不安になっていた。
「ああ、紹介がまだだったね。私はメルクリウスという。彼処にいるのが藤井蓮、横にいるのがマルグリットだ。そして此処は、座と呼ばれる特殊なところだと思ってくれて構わないよ」
「――そうですか、大体は分かりました。では、ラインハルトさんは何処にいるんですか?」
「ハイドリヒならばほら、そこでマルグリットに抱き付かれているじゃないか」
メルクリウスが指を指す方向にいるのは、マルグリットに抱き付かれて逃れようとしている銀髪幼女。
レキはそれを鼻で笑い飛ばし、メルクリウスに向き直る。
「冗談はその髪だけにしてください。ラインハルトさんはあんなに小さくありません。第一男です」
「今軽くバカにしなかったかな?まぁ、それは置いておくとして、彼女は本当にラインハルトその人だよ」
「まさか、そんなはずは――」
「レ、レキ!助けてくれ!」
レキとメルクリウスが会話をしていると、ロリハルトから助けてと声がかかってくる。
レキは直ぐ様動き、マルグリットからラインハルトを逆に抱き上げることで助け出す。
「少し自重してください、ラインハルトさんが困っています」
「あぅ、ごめんなさい」
「あぁー、だから言っただろ?」
注意をされてへこむマリィに、蓮がそれとなく励ましていると、メルクリウスが近付いてくる。
「それで、ハイドリヒこれはどういうことだね?」
「それは何とも言えないな。生まれたら固定されていたとしか言えない」
「つまり、これは偶然の産物ということだと考えてもよろしいのだな?」
「ああ、全く困ったものだ。小学生あたりで成長は止まるし、襲われかけるしな。仕方無く変身の魔術を使って誤魔化していたのだよ――これも“アイツ”の影響だろうな」
ラインハルトの告白に驚いたのはメルクリウスだけではなく、蓮もマリィも、そしてレキもだ。
――――――――――
ということで、ここから先は冒頭に戻るということになる。
「そうですか、ラインハルトさん。私との愛は遊びだったんですね」
「ち、違うぞレキ!体がこうなってしまっただけであって、性格は男のままだからな!」
ドラグノフを構えながら、ジリジリと詰め寄って行くレキに、メルクリウスたちは一種の恐怖を感じていた。
仮にも神と呼ばれるに値する彼らが恐怖するなんて、レキはどれだけなのだろうか。
しかも、レキの目標はラインハルトとはいえ見た目は幼い女の子。
どう見てもレキが犯罪者にしか見えない。
「ならば何か証明してみせなさい。そうすれば場合によっては信じましょう」
「確実に信じる手は無いのかね!?」
「ほう、いいごたえするということは、やはり私との愛は遊びということなのですか、そうですか――なら」
今までにない気迫に腰を抜かしながらも、なんとか後退りしていたラインハルトに、レキはドラグノフを額に突き付けると、病んでいるかのような表情で言う。
「ここで私と一緒に死んでください。せめて、まだ私の中に恋心が残っている間に」
「ちょっ!?早まることは無いぞレキ!」
ラインハルトは何とか声を出して止めようとするが、レキは引き金に力を込めていく。
恐らく今回ばかりは全て本気なのだろう。
蓮は最悪の場合を避けようと、既に神の姿になっており、いつでも時間を止められるようにしている。
「――――ッ」
「ッ!?」
何か決意したようなラインハルトは、体に力を入れて起き上がり、レキにキスをすると、レキは驚いて固まってしまった。
周りの蓮たちは、突然のことに固まるも、様子を見守っている。
ラインハルトはしばらくして唇を離すと、レキの眼をしっかりと見て言葉を吐く。
「性別を偽っていたのは謝る。しかし、私がレキを想う気持ちは本物だ。性別以外に今まで嘘を付いたことはない!」
ラインハルトは旧友たちがいる前で、それを堂々と宣言する。
ラインハルトの気持ち、それに嘘偽りは本当に無いのだろう。
「――スミマセン、だいぶ取り乱してしまいました」
「気にするな、悪いのは私のほうだったからな」
レキは正気に戻ると、ドラグノフを下ろして俯いてしまう。
それをラインハルトはフォローする。
「そうですね。ラインハルトさんが嘘を付くはず、無いですよね」
「レキだけにはな!」
無い胸をフンスと張って威張るラインハルト。
そんな二人に、メルクリウスたちが近付いてくる。
「いやはや、中々良いものを見させてもらったよ」
「良かったよ二人とも」
「ハラハラしたぜ」
蓮は安心したのか、神の姿から普通の姿に戻っている。
「皆さん、お見苦しいところをお見せしました」
「い、いや気にするなって!」
レキが頭を下げて謝るが、蓮がそれを慌てて止める。
「ふむ。さて、そろそろ時間か」
「ん?もう行くのか?」
何かを感じ取ったラインハルトが呟くと、蓮がそれに反応する。
「ああ、もうそろそろ帰らないと、彼方は夜なのでな」
「なんだ?明日は学校なのか?」
「そうなのだ。しかも行事がある分、少し忙しくなる」
「ああ、そりゃあ早く帰らないとな」
ラインハルトの言う行事とは、武偵高校で行われるアドシアードのことだ。
それに向けての準備が明日から始まるため、早くの内に帰らないといけないのだろう。
「また遊びに来てね?」
「はい」
「ラインハルトはバカだから、サポート頼んだ」
「分かっています」
レキは蓮とマリィに別れの挨拶をしており、それをラインハルトとメルクリウスは眺めている。
「しかし、お前がその姿で生まれるとはな」
「ああ、体型も体型なために、自分の体に欲情してしまうから、変身していたのだが、な」
「ブレないなお前は」
「卿ほどではない」
そんなことを話しつつも、メルクリウスはちゃっかりゲートを開いているあたり、やはり優秀というか天才なのだろう。
レキがラインハルトに駆け寄ってきて、二人はゲートの前に立つ。
「二人とも、また来てね」
「次はちゃんと連絡しろよな!」
「ではレキ殿、ハイドリヒをよろしく頼むよ」
ラインハルトはレキの手を取り、ゲートへと向かっていくと、レキが振り替えって頭を下げ、そしてゲートを通っていき、閉じた。
残された3人は、お互いに顔を合わせると、一言だけ口にする。
「「「ラインハルト可愛い」」」
この座の連中も、だいぶラインハルトに毒されていたようだ。
ラインハルト女体化です。
許せないという方は、ごめんなさい。