薄暗い森の奥。本来ならば青空が広がるはずの天には樹々によって塞がれ光を通さない。視界が悪く足場も舗装されていない不安定な地面の中、一人の少女が剣を片手に握り締めたまま険しい表情で前を見据えていた。
活発だった態度は消え、頬に冷や汗が流れるのも気付かない集中力で唾を飲み込む。聴覚が伝えてくる地面を這うような耳障りな音が周囲から聞こえ、自らが囲まれているのを理解する。
決して一点に集中する事無く全体に意識を向けたまま、使える五感全てを駆使して敵の位置を把握する。達人でもない少女にとってその情報は単なる目安に過ぎないが、それでも利用できるものをしなければこの死地を生き残る事など不可能だろう。
「―――ッ!」
脚に力を込め、いつでも動ける状態のまま静止していると、暗闇の奥からズルズルと這う音を鳴らしながら何かが近づいてくるのを悟った。それこそが今彼女を狙う、敵。
僅かに開いた樹々の隙間から漏れる日差しによって、今まで隠れていた敵の姿が顕になる。そこにいたのは、まるで異世界にでもいるような生物。現実ではありえない存在が舌から涎を垂らしながら少女の眼前に立ち塞がった。
足元には根っ子がうねうねと蠢き脚の代わりとなり、身体は草枝に覆われている。両手らしき箇所には蔓で出来ており、顔面部には人一人丸呑み出来そうな口が粘液を垂らしながら開口を繰り返している。
自走捕食植物、《リトルネペント》。レベル3という現段階でレベル1の彼女から見れば格上の相手を前に緊張で溜まっていた唾をもう一度大きく飲み込んだ。
この世界は所詮偽物だ。故にいま対峙しているモンスターがただのプログラムで出来た存在だという事は先刻承知だ。だが、それを画面越しではなく実際に生で見れば誰であろうと恐怖を覚えて当然だ。
ゆえに、初めてVRMMORPGを経験した者達はここで基本二種類に別れる。前者は恐怖のあまり何も出来ずそのままいいようにやられてしまう者。後者がそれを受け入れなお挑む事ができる者。
……もっとも、例外で何の躊躇も迷いもなく嬉々と哄笑しながら突撃した輩もいたが。
それはさておき。少女が選んだのは、後者だった。
「いっくよォォおおおお―――ッ!!」
自身の恐怖を拭うが如く、叫びながら少女は敵へと猛進を開始した。敵の面攻撃を回避しやすくするために重心を下げリトルネペントの半身にも満たない高さを維持したまま地面すれすれを駆ける。
それに対し、先の咆哮でヘイトが高まった事でリトルネペントは完全に狙いを少女に定めた。植物らしからぬ唸り声をあげると、腕代わりの蔦がまるで鞭のように変幻自在な軌道を描きながら少女に襲い掛かる。
その常人ならば目で追い付けない速度であろうその一撃を前に、少女は意識を加速させる。まるで時間の流れが自分だけを覗いて緩やかになったと錯覚するような感覚。変幻自在な蔓の軌道を、集中し過ぎて感覚が麻痺しそうな勢いの中それを見切る。
「ここ、だァッ!!」
紙一重で首を逸らすことで蔓が空を穿つ。感危機一髪、されど完全に少女は回避に成功した。そのまま勢いを殺すことなく、少女の剣がリトルネペントの開いた口の喉奥に深く突き刺さる。全体重を乗せた突きの衝撃によってリトルネペントはのぞけりながら後退し、勢いのあまり少女自身も前へ体勢が崩れる。
少女のファーストアタックは確かに見事な物だった。だが彼女は忘れていた。これが1対1の戦いではなく、1対多数の集団戦だという事を。
「うわっ、わわわわッ!?」
地面へ顔面からダイブする寸前、少女の身体が彼女の意志とは関係なく宙を舞う。脚から引きずり出されたように宙ぶらりんとなる。上下反転する視界の中、右足首辺りに何かが巻き付いているのが見える。そしてその伸び先には、先ほどのぞけさせたリトルネペントではない別のリトルネペントが口を開いて笑っていた。
何とかしないとと思考を巡らせようとした瞬間、本能的な直感に促されて反射的に腹筋を駆使して上半身を起こした。直後、少女の上半身があった箇所に薄緑色の液体が通り過ぎていた。地面に飛び散った液体は白い蒸気を上げ、まるで地面を溶かしている様子だった。
その時、自身の身体からも同じような白い蒸気が漏れているのを少女は見た。背中の腰辺り、上半身を起こしてもあまり位置が変わらなかった箇所に液体が掛かったのだろう。見れば蒸気を上げている箇所は先ほどまで黒い衣服で守られていたというのに、白い蒸気の隙間から見えたのは薄肌色の肌だった。
武器耐久の大幅な低下―――それを瞬時に理解した少女は、液体が放出されてきた方角を見る。そこには蔓で彼女の脚を掴んでいるリトルネペントの同モンスターが三体もまるで嘲笑うようにニヤニヤ口端を歪めながら存在していた。
直後、大きく息を吸うように頬を膨らませる
このままでは直撃。HPは大幅に削られ、もしかすれば衣類が全て溶かされるかもしれない―――咄嗟に浮かんだ最悪な未来図に羞恥心で頬が赤く染まり、それを否定すべく暴れだす。
火事場の馬鹿力と言うべきか、少女が出鱈目に振り回した剣は彼女を捕まえていたリトルネペントの側面に存在するウツボ部分と太い茎の接合部―――即ち弱点に叩きこまれた。
『ギィイイイイ!!』
まるで悲鳴のような唸り声を上げながら、少女を掴んでいた蔓の力が緩む。握力が無ければ掴んでいることは出来ず、掴まれていなければ少女は自然法則に従い地面に落下する定めだった。
少女の身体が頭部から地面に墜落するのと同時に、彼女の上で吐瀉液が通過する。紙一重の回避に思わず一息吐きたくなるが、自身に迫り来る蔓を見て慌てて離れるのであった。
起き上がって現状を確認すれば、円陣でも組むように少女を囲みながらリトルネペントが距離と輪の大きさを縮小しながら近づいてきている。その光景に絶句して思わず後退るが、背後から聴こえてきた枝木が這う音にギリギリと冷や汗を流しながら僅かに顔を向ける。
顔を向けた先には、先ほど突きで吹き飛ばしたリトルネペントの姿が。心なしが蔓の動きが活発になって怒っているようにも見える。
前方には四体のリトルネペント、後方には退路を塞ぐように一体のリトルネペントの姿が。まさしく絶体絶命、四面楚歌。そんな光景に、思わず少女―――ユウキは恥も外聞もなく叫んだ。
「ヴォルフ、ヘルプミィィイイイイイイッ!!」
「んー? 何だってー? よく聞こえねえなぁー?」
ユウキの悲鳴に反応するように、彼女の頭上から声が聞える。上を見れば、暗闇となると知っていたのか先ほど宿屋で購入したランタンを傍の枝に引っ掛け、幹にもたれ掛かりながら口に加えた煙草から紫煙を昇らせて、ユウキがこのような状況に陥った諸悪の根源―――ヴォルフは揚々と笑みを浮かべるのであった。
◇◇◇
VRMMORPGの最もな利点は何かと聞かれれば、それは餓鬼でも煙草や酒が買える事だと思う。現実ならば自動販売機だとカードが必要で手間が掛かるし、何より仮想の肉体なのでいくら飲んでも吸っても身体に害をなさないのは素晴らしいの一言だろう。これで味が良ければ最高なのだが、どうしても安っぽい味しかしないのでそこがマイナス点となっているが。
「あーぁ、生き返るわー」
「黄昏れてないで助け――ひゃわっ!? わわわ、服溶けてる! 服溶けてるんだけどヴォルフッ!!」
甲高い悲鳴が登っている枝木の下から聞こえてくるのでおちおち休んでいる事でも出来ず、仕方なく地上の様子を見る。視線を向ければ、そこには慌ただしく動きながら囲みながら襲って来る五体のリトルネペントと攻防を繰り広げるユウキの姿があった。
「さっき言っただろうが、リトルネペントは武器耐久値を大幅に削ってくるってよ」
「そ、そうは言ってたけど普通は武器や防具の事だと思うよね!? 服が溶けるだなんてそんな恥ずかしい事になるとは思わないよ!」
「服だって立派な防具だろうが。まあ全裸になろうがバッドステータスにはなんねえから心配すんなよ。そういえば俺もベータテストの時は経験値稼ぎでここで良く狩ってたっけなぁ。途中から服溶かされんのがウザくなって全装備解除して戦ってたっけなぁー。懐かしいねえ」
今思えば『ドキッ! 男だらけの全裸祭りッ!!』とか言って野郎共が全裸で触手に巻き付かれながら高笑いして戦闘している絵面を想像すると、誰得としか言いようが無い。あの時は皆徹夜でテンションがおかしくなっていたしそういう時もあるだろう。
「つーか、お前いつまでそんな雑魚相手に時間掛けてんだよ。戦い方を教えてくれって言い出したのはそっちだろうが。その程度の相手瞬殺出来なきゃ一流のプレイヤーにはなれねえぞー」
「嘘だ! ボクこのゲーム初めたばかりだけどそれが絶対嘘なのは分かる! というかボク初心者だよ!? 鬼! 悪魔! ええと、ええと、ば、馬鹿!」
「……ユウキ」
「うひゃあ!? な、なにヴォルフ。ひょっとして助けて―――」
「最っっっっっっっっっっ高の褒め言葉だ」
「分かってたよコンチクショォォおおおおおおッ!!」
うわーん! と半泣きに成りながらも必死に逃げまわるユウキと見て悦に浸る。それと同時に自身の目が細まるのを理解した。
「初心者、ねえ……」
だとすれば、恐ろしい才能だと思わず笑みが深くなる。
ユウキが初心者プレイヤーだというのは《ホルンカの村》に来るまでの行動で理解できている。そして理解した上で彼女が破格の才能の持ち主だと言うことが予測できた。
本来VRゲームを初めて行う場合、もっとも何敵となるのが現実と仮想のギャップだ。VR空間は現実に比べ感覚が鈍く、どうしても誤差が生じる。初めて水泳を行う者が違和感を覚えるように、言わばVR慣れしていないのが原因となる。
だからこそ一際離れた《ホルンカの村》までユウキをひたすらに走らせた。身体を動かせば動かすほどVR空間に慣れ、より高度な動きが出来るようになる。そのためにわざわざ《ホルンカの村》まで移動したのだが、正直に言えばユウキは良い意味で俺を裏切ってくれた。
普通初めてモンスターと戦闘する場合、大抵の輩はパニックに陥る。人間背丈の怪物が己目掛けて襲って来るのだから無理もないだろう。だが、その調子で勝ち続けてしまうと大丈夫だと慢心してしまう。
だからこそ、初めに修羅場をくぐって置かなければならない。慢心せず注意し過ぎ程度が一番なのだと理解させるための俺からのありがたい授業料だと感謝してほしいくらいだ。
ゆえに、本当に危なくなったら助けるつもりだった。だが、
「……初めての戦闘で、リトルネペント五体相手に凌げられるとはな」
攻撃パターンとモーションを教えていたとはいえ、それを実践できるかどうかは別だ。パニックになりながらも攻撃に反応し、きちんと対処できている。度胸もあり、反射速度、身体捌きはキリトや俺より劣るとはいえ中々のものだろう。
こいつは傑物だ。鍛えればキリト並みになれるかもしれない。
「まあ、だとしても俺の方が百倍強いけどな」
「ヴォルフー! せ、せめて必殺技! えっと、そ、ソードスキルだけでも教えてよ!」
「あぁ? 阿呆こけ呆け。ど素人がんなモン使っても自滅するだけだ。大丈夫、死ぬ気でやれば何とかなるだろ」
「お、鬼ィィいいいいいいいッ!!」
またしてもユウキの悲鳴が響き渡るが、実際嘘は言っていない。
ソードスキルとは、剣道で例えるならば型のようなものだ。どう動かせばいいのか解らないからこそ手本として扱うもの。事実ゲームのアシストが掛かっている分強力にはなっている。ただし素人が発動する場合、身体を強制に動かされる違和感、敵前での強制硬直、フォームが正しくないことから発動しないストレスと、様々な問題を抱えている。あれはある程度戦闘慣れしてからではないととてもではないが扱えるものではない。
もっとも、俺の場合は単に身体を誰かに動かされるのが嫌いなだけなのだが。
「ぶ、武器が壊れたァ!? ぉ、ヴォルフ、今度こそ本気と書いてマジでヤバい! 助けてー!!」
「……まあ、初戦闘ならば頑張った方か」
恐らく武器の耐久度が尽きてしまったため無手状態でこちらに駆け寄ってくるユウキの頭上にタイミング良くランタンをぶち撒ける。空中でランタン内の油が飛び散り地面と衝突した衝撃でランタンは壊れ中の火が油に点火し炎上する。炎の壁となってモンスターと俺達を遮るが、この炎事態にダメージはない。しかし、プログラムで植物と設定されている以上、炎を忌避するのは当然の結果だった。
炎の壁に遮られて立ち往生している間に枝から飛び降り着地すると、目前で息切れしながら肩を上下させているユウキの姿があった。腐蝕液を幾らか受けたのか所々溶けており、非常に危ない絵面となっている。正直下着姿になるまで溶かされると思っていたので予備として持ってきた灰色の外套を頭から被せた。
「し、死ぬかと思った……!」
「そうかい、まあ後はのんびり見学してけよ」
「えっ―――わぷっ!?」
本当ならケツの方が安定感が在っていいのだが、それでハラスメント警告が出て牢獄エリアに強制転移させられたら笑い話にもならないので、襟の部分を掴んで先ほどまで居た枝の箇所にぶん投げる。見事ユウキが枝の上に着地したのを確認すると、大剣を担いでモンスター達の方へ振り向いた。
既に炎の壁は消滅しており、そして先ほどの炎によって集まったのか十数体ものリトルネペントが口から涎を垂らしながらこちらに迫ってくるのが見えた。先ほどの炎の衝撃で《実つき》のリトルネペントの種が割れたのか、嫌な匂いと共に更にリトルネペントが寄ってきているのが理解できる。
その絶望的な光景を前に、
「く、はは、はははははッ」
笑みが止まらない。込み上げてくる衝動が抑えきれない。この程度が絶望だと? 笑わせる、ここからが愉しいというのに。
さあ―――始めようか。殺し合いを、戦争を、殺戮を。
「ヒャーッハハハハハハハハハハ!!」
抑えきれない衝動を喉から放ちつつ、敵前へと一気に踏み込む。十歩の距離を一歩で踏み込む移動術である縮地を駆使し距離を詰め、右薙にはらう。加速と遠心力を加えた斬撃を弱点である茎に叩き込み、悲鳴が聞える前に振り抜く。
密集しているため、攻撃を受けたリトルネペントは数体巻き込んで吹き飛んでいくが、吹き飛ばした直後に蔦を掴み強引に引き寄せる。蔦の箇所は攻撃箇所にはダメージ判定が施されているが、それ以外の箇所ならば触れても問題ない。
蔦を柄に絡ませて、問答無益でこちらに引き寄せる。迫ってくるリトルネペントを回し蹴りで背後へ叩き込み、寸前へこちらに腐蝕液を放っていたリトルネペントへ腐蝕液を被りつつ激突した。
「はははは、アーハハハハハ! ヒャーッハハハハハハハハハハ―――ッ!!」
そのまま蔦を掴み、ハンマー投げの要領で全力で振り回す。周囲のリトルネペントと何度も激突し、俺へと放たれた腐蝕液を被る。ある程度振り回すと、一度空高く持ち上げ、一気に地面へと墜落させる。二体ほど巻き込んで地面と激突したリトルネペント達に対して、地面を蹴り頭上から地面ごと貫く勢いで刺突した。
HPが尽き無数のポリゴンとなって悲鳴を上げながらリトルネペントの身体が弾け飛ぶ。地面から大剣を引き抜いて首の骨を鳴らしながら周囲を観察すると、またしても《実付き》が出現していた。
相変わらずラック値が低いなと一人ごちる。本音を言えば《リトルネペントの胚珠》をドロップする《花付き》が出て欲しいのだが、ないものをねだっても仕方が無い事だろう。それよりも目前で蠢く《実付き》を見て、
「どうせなら本気でやろうや。そっちの方が盛り上がんだろうがよォ。あはは、はははは、ヒャーッハハハハハハハハハハ―――ッッ!!」
宿屋で買っておいたピックを迷うこと無く実に当て中身をぶち撒けた。
当然実がぶち撒けられた事により匂いが周囲に拡散しリトルネペントの密度が上昇する。それに満面に笑みで答えつつ嗤う。
ああ―――殺せるものなら殺してみろよ。雑草の分際で。
「ハハッ――ヒャーッハハハハ―――!!」
縮地の一歩で間合いを詰め大剣を振るう。唐竹、袈裟斬り、逆袈裟、右薙、左薙、右切上、左切上、逆風、刺突―――目に映る全てを斬り裂きながらただ敵を葬るためだけに殲滅する。
躱し、避け、回避し、見切り、受け流し、予測し―――全ての攻撃を一撃も受ける事無く捌き続ける。
「はは、あははは、はは……はは……」
敵を掴み、投げ飛ばし、蹴り穿ち、蹴り払い、握り潰し、抉り抜き、踏み潰し―――
「…………」
敵を蹂躙し、片っ端から根こそぎ駆除し尽くして―――
「…………なんつーか、萎えたわ」
気が付けば、胸の高鳴りは完全に沈黙していた。
意気消沈した隙を狙ってリトルネペントが蔦で攻撃してくる。変幻自在と軌道を変える蔓の軌道―――その軌道に既知感を覚え、見ずとも攻撃判定のされていない箇所を掴んで受け止めた。
強引に引っ張って体勢が崩れたリトルネペントの口に大剣をねじ伏せる。唾液が腕に付いて気色悪いが、そのまま内側から斬り上げて一刀両断する。それだけでリトルネペントのHPは尽きてしまった。
「ベータ版の27通りに、新規のモーションが23個……たった50通りしかねえのかよ」
だからこそ詰まらない。だからこそ燃え上がらない。
これはプログラムだ。だからこそ決められた動きしかしない。当然といえば当然、当たり前の事だ。ゆえに心底惜しいと思う。
これが本当に生きている相手なら。
自分で考え、生きるため、殺すためにありとあらゆる手段を選ぶ怪物だったなら。
そうだったなら、どれほどよかっただろう―――
「やっぱりよォ、戦いってのはそういうもんだろうが。思いを込めて、想いをぶつけ合って、魂を燃やす。それが戦いだよなぁ」
一歩ずつ脚を進める。残りの七体が同時に蔦で攻撃してくるが、その全ての攻撃を俺は既に知ってしまっている。そんな分かりきった攻撃を躱す事など造作もない。
「負けたくないっていう敵対心、憎いっていう殺意、羨ましいっていう嫉妬。どれもこれも醜いだのなんだの言われているがよぉ、実際その気持ちが人間を強くしているじゃねえか。要するに、心がねえと人は強くなれねえんだよ」
誰かと向き合うから想いは生まれる。
思いがあるから人は強くなれる。
人間の本質はそういうものだ。人間とはそういう”意志”で出来ている。
「だからよう、雑草。俺の言いたい事が分かるか?」
俺の『思い』に対し、リトルネペント達は何の反応も返さない。口から腐蝕液を放つモーションを起こし、それに対して大剣を握り締め、
「魂ってのはな―――本気でぶつかり合うからこそ輝くんだろうがァァ―――!!」
―――俺を殺せるのは人間だけだ。
咆哮と共に大地を駆ける。縮地を駆使して一気にリトルネペント達の背後に周り、胴体と頭部の接続部を断頭する。渾身の勢いを込めた大剣は容赦無く斬り裂いた。
頭部が消滅し、放出しかけていた腐蝕液が頭上へと噴出される。雨の如く降り注ぐ腐蝕液を大剣で受け止めつつ、頭上から落ちてきたアイテムを手に取る。
それは先程倒したリトルネペントの《花付き》が落としたドロップアイテム。
「……ったく、せめて吸い終わるまで耐えろっての」
煙草の昇る紫煙を忌々しげに吐きつつ、《リトルネペントの胚珠》を手に入れて大剣を背中に背負いユウキの所へ戻るのだった。
◇◇◇
「……ボク、絶対師事する人間違えた」
「はあ? 何いってんのお前。俺ほど教えの旨えベータ経験者はいねえぜ。むしろここは五体投地で感謝を言うシーンだろ」
「何処が!?」
文句を言うユウキをからかいつつ森を抜けて宿屋へ向かう。クエストが完了した訳だし、ユウキの溶けた衣服や武器も買わなければならない。面倒事が増えたが、これも不肖な弟子の為には仕方が無いだろう。
「あっ、やっと村が見えてきたよ! ねえヴォルフ、夕焼けが凄く綺麗だね!」
「おぉー、確かにこりゃあ絶景だな」
薄暗い森を抜けると、周囲はすっかり夕方となっていた。現実では見られない地平線に浮かぶ夕焼けに見とれていると、まるで現実に引き戻すかのように鐘の音が響きだした。
「? なんの合図だろ、これ」
「……夕方に鳴る鐘……そうか、これが―――」
「ヴォルフ?」
すっかり忘れていた。この鐘こそあの人が言っていた開始の合図。予測通り、突如俺とユウキの身体が光り出して浮遊感に襲われる。
突然のテレポートに隣でユウキは尻もちを付き、周囲を見渡す。ここは《始まりの街》。俺達だけでなくほとんどのプレイヤーがこの街に呼び出されていた。
誰もが謎の現象に戸惑う中、頭上から声が堕ちてきた。
『―――プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
全ての始まりが、幕を開けるのだった。
チンピラは好きだけど書きにくいんだよなぁ……