汝、修羅で在れ   作:宇佐木時麻

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正直、詳しく書こうとしてよく分からん描写になってないか不安。


汝等、修羅で在れ

 二つの剣戟が流星の如き軌道を描いて宙を駆け抜ける。それはさながら夜空を彩る流星群のようで、決して止まる事なくただ一点に目掛けて放たれ続ける。

 

「ふは、ははは、はははは」

「くは、ははは、はははは」

 

 それを行うは、二人の剣士。大剣と片手剣を容赦無く渾身の力を籠めて振るいながら二人の剣鬼は心底楽しそうに獰猛な笑みを浮かべながら戦っていた。

 その光景に、湧き出てくる衛兵コボルドを倒しながら意識のほとんどはそちらに向けられていた。それほどまでに目前で繰り広げられている光景が凄まじかった。

 二人の攻撃は決して何か特別なものが込められている訳では無かった。だが、その攻撃内容はセオリーとはかけ離れた異常そのものだった。

 本来、モンスター一体に対し攻略方法は一対一で戦い、隙を付いて《スイッチ》と呼ばれるシステムスキル外を駆使して前衛後衛を入れ替えて回復なりタゲの変更をして戦いを有利に進めるのが常識だ。

 そうしなければならないのは、一体を相手に複数で挑むのが非効率的であるからである。複数で同時に技を繰り出せば周りのプレイヤーに当たる可能性があり、回避などでもたつき行動を阻害する恐れがあるからだ。

 故に、パーティーを組んで戦う場合はスイッチを行うのが基本だというのに、

 

「くくく、はははははははははははははははははは―――!」

「ふふふ、はははははははははははははははははは―――!」

 

 壊れたように哄笑しながら、彼らはそのセオリーを完膚なきまでに無視した。

 大剣が頭上へ振り上げた曲刀を持つ腕の肘に叩きつけられ、踏み込もうと振り上げた足の踝に片手剣が薙ぎ払われる。どの一撃もプレイヤーの数倍を誇るコボルドロードの巨体を崩すほどの強烈な一撃、即ち溜めが必要とされる一撃だった。

 その光景に誰もが目を見開いた理由は二つ。一つはコボルド王が全く攻撃に移れていない事、そしてもう一つが二人の技が抜群のコンビネーションを誇っている奇跡だった。

 初動から最速の動きが出来る動物はいない。少なくとも何か行動を実行する為にはそれを起点とする箇所が存在する。そこを抑えられれば、如何なる生物も身動きが取れなくなるものだ。故に二人が先ほどから攻撃を与えているのはその箇所で、フロアボスは何一つ出来ぬまま無様なダンスを踊っていた。

 だが、それを実行し続けるのは非常に困難な話である。攻撃の起点を突くとしても、自身よりも何倍の巨体を吹き飛ばすとすればそれ相応の力を込めなければならない。生半可な力では例えその箇所に攻撃を与える事が出来たとしてもそのまま攻撃が繰り出されるだろう。

 だからこそ、否応無く溜めの時間が必要となる。微細な身体で巨体を吹き飛ばすほどの力を込めるには、その間が必要不可欠である。そして、そんな間があれば間違いなく隙が出きコボルドロードの攻撃に対処できない。

 一人では足りない。

 

 ならば―――()()()()()()()()()()()

 

 それはシンプルだが、同時に困難でもある。人間の身体は一つしかなく、誰かの動きを百パーセント予測して動くなど不可能だ。そんな無謀な事を出来る者がいるはずがない。

 それがプレイヤー達の深層心理に存在した固定概念だった。だからこそ、目前の光景に目を奪われる。

 二人の剣士は、決して互いの動きを阻害する事なく戦っていた。否そもそも―――二人共相手の様子など眼中にすら無かったのだから。

 例え相手が自分の目前にいようと容赦無く切り捨てる。忠告も躊躇いもなく、まるで視界にも入っていないように剣を揮う。そしてその一撃は決して一度も味方に当たる事はなく敵の身体を引き裂いていく。

 それは即ち、絶対の信頼。お前がこの程度のはずがない、こんな柔な剣で斬れるほど軟な男じゃないだろ。互いを信じ尊敬し合っているからこそ成せる絆の証明だった。

 

「凄い……」

 

 その光景を呆然と眺めていたアスナが空いた口を塞ぐ事すら忘れ見惚れている。その様子にユウキだけは満面の笑みを浮かべて頷いていた。

 

「当然だよ。だってあれが、ボクの師匠なんだから」

 

 無茶苦茶で、無鉄砲で、道理を蹴っ飛ばして進むような人。デスゲームだというのに誰よりもこの世界を楽しんでいて、それでいて誰よりも輝いている。

 そんな人だから、傍に居たいと思うのだ。あの人の弟子である事が誇りで、皆に自慢したいのだ。

 凄いだろうと。ボクこそがあの人の一番弟子なんだぞ、と―――

 

「こらヴォルフゥゥ! お前いまワザと俺の方狙って来ただろ!?」

「知らねえな―? 自意識過剰なんじゃねえのってうおッ!? テメェなにしやがる!」

「記憶にございませーん。そっちの不注意を俺のせいにしないで下さーい」

「上等だ、そこになおりやがれ。テメェごとぶった斬ってやらァッ!!」

「そいつはこっちのセリフだァあああああああああ!!」

 

 いつものような軽口を叩き合いながら、二人一体の剣戟を揮う。その姿に自慢気に胸を張り―――どうして、そこにいるのがボクじゃなくてキリトなんだろうと僅かに胸の奥がチリチリ痛むが―――それでも笑って誰もが呆然としている中、一人声援を掛けた。

 

「行っけぇえ、ヴォルフ―――!!」

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ハッ―――。当たり前だろ、誰に言ってやがる」

 

 聞こえてきた歓声に笑みを浮かべる。手前を見れば、そこには疲れたように肩を上下させて片膝を付くコボルドロードの姿が。一度に大量のダメージを蓄積させた事によるスタン、HPバーを見れば残りあと僅かしか残っていない。

 

「そろそろ終演(フィナーレ)か」

「そう見たいだな」

 

 もう終わったかのように軽口を叩くが、その瞳に慢心の色はない。手負いの獣が一番厄介なのは重々承知の上だ。

 軽く呼吸を整え、いざ全てを終わらせようと足を踏み出そうとして、ふとコボルドロードの持つ武器に目が映る。

 ………いいな、あれ。

 

「なあキリト、一つ提案があるんだが」

「なんだよ。つってもお前がこういうタイミングで言う提案ってのは大抵碌な事じゃないんだけどな」

 

 まあ、お前の悪ふざけに付き合えるのは俺くらいかとキリトはやれやれと嘆息し続きを促す。

 

「LAはお前さんに譲ってやるよ。だからその代わり―――あの刀、俺が貰うわ」

「……一応聞くが、どうやってだ」

「あれはボスの武器扱い、なら《放置状態》にして俺が奪い取って、その後にあのボス倒しちまえばその所有権は俺に移るだろ」

「つまり、そのアシストを手伝えと?」

「そういうこと」

 

 やっぱ面倒事じゃないか、とキリトは額に手を当てて天を仰ぐが、ギブアンドテイクという事で納得したのだろう。剣を構えると、静かに告げる。

 

「貸一だぞ」

「了―解、ならアルゴに売る予定だったキリトちゃん情報は無かった事にしといてやるよ」

「貴様ァ―――!」

 

 笑い合って、意識を切り替える。コボルドロードは最後に王の風格を見せつける為か、今までに無いほど神経を研ぎ澄まして重苦しい重圧を発しながら曲刀を構える。

 腰元に身体で隠すように構えられた刀は、居合のようで。一目で理解する。あれはコボルドロードにとって必殺の構え。あれをまともに喰らえば即死は免れまい。

 故に、迷うことなど何一つなく、

 

「さあ―――最後の祭りをおっぱじめようじゃねえかぁああああああ!!」

 

 俺はただ直線にその足を駈け出した。

 瞬間、コボルドロードの背後で青いエフェクトが光り輝くのが視界に映る。それは正しくソードスキル発動の前兆。だからこそ、俺は敢て前に突き進む。

 居合相手に最もしてはならないのは、中途半端に距離を取ること。居合の間合いとは予想より遥かに長いものだ。だからこそ、間合いに入ってしまった時の対処は後方へ下がるよりも、刀が伸びきっていない懐へ潜り込むべきなのである。

 だが、それは敵の攻撃範囲に入るという事。コボルドロードの居合の構えから、今までの斬撃とは比べ物にならない速度の剣戟が解放された。

 それはまさに電光石火と呼ぶに相応しい抜刀。死神の鎌を連想させる刃が俺の喉元へ死を告げようとして、

 

「ぉ―――らァァあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 下から切り上げた大剣が曲刀の腹と激突した。

 必殺の抜刀を回避できるとも、受け止められるとも思ってもいなかった。嘗て十層で出逢った刀遣いのモンスターが相手で、今より優れた武器を持っていたのにも関わらず断ち切られた経験がある。

 ならば、出来ることなど一つだけ。向こうの剣戟に合わせて受け流すのみ。

 ギチギチギチギチ! と振り上げた大剣と曲刀がぶつかり合って火花を散らす。衝突した衝撃で内蔵がシャッフルされたような奇妙な感覚に襲われ、大剣を握り締めた腕がその衝撃に痺れてまるでヤク中のようにガタガタと震えだす。

 歯を食い縛って衝撃に耐える。踏ん張る足が威力に耐え切れず後退しかけるが、足の指で地面を掴んで何とか堪える。苦悶に歪む表情で前を見てみれば、そこには勝利を確信し笑みを浮かべるコボルドロードの姿が。

 そんなコボルドの王に倣うように、俺も笑みを浮かべて言ってやった。

 

「―――ぶちかませ、キリト」

「―――言われるまでもない」

 

 直後、コボルドロードの持つ刀の軌道がズレる。驚愕した雰囲気を隠し切れないコボルドロードの足元では、かの王の足元を崩すように剣を振りぬいたキリトの姿があった。

 これは目で意思疎通を交わして咄嗟に思いついた作戦。俺がコボルドロードの一撃を抑え、その隙にキリトが足元を崩してバランスを崩すという在り来りな内容。

 だが、重心となっていた足場が崩れ突然の事態にコボルドロードの意識に一瞬空白が生まれ、対する俺は最初から分かっているからこそ一瞬の間もなく行動を実行することが出来る。

 手元が緩んだ瞬間、剣道の巻き技のように手首を回し一気に斬り上げる。巻き込まれた二つの剣はまるで引き合うように互いの所持者の手元から離れ天へと飛んでいく。

 コボルドロードは必死に手を伸ばすが、足元を崩され空中に浮遊していたボスでは空に浮かぶ星を掴むが如く無意味な行いであり、

 

「いい刀だな、おまえには勿体無ぇよ」

 

 事前に解っていた俺は手を伸ばすコボルドロードの目前でその曲刀を手に取った。その時、コボルドロードの目が蛮族に宝を奪われたような感情を宿しているように見えたのは目の錯覚か。

 幾ら良い刀とはいえ、コボルドロードの掌に収まる大きさは人間サイズで言えば丸太のようなものだが、空中でただ振り下ろすだけならば何も問題はない。俺は巨大な曲刀を抱きかかえて振り上げると、空中でこちらに向かって手を伸ばすコボルドロード目掛けて全力で振り下ろした。

 地上ならまだしも、空中に浮遊している状態では為す術もなくコボルドロードは曲刀に直撃し、衝撃で地上へ落下する。

 そして地上に佇むは、黒の剣士。

 

「お……おおおおおおおッ!!」

 

 キリトは溜めに溜めた力を吐き出すように咆哮を轟かせながら頭上へ剣を振り抜く。青い閃光のようなエフェクトが奔り抜け、コボルドロードの頭から爪先まで一刀両断する。

 キリトのソードスキル、そして重力落下足す俺の斬撃で加速した衝撃がそのままダメージ補正が掛かり、過去最大の威力となった一撃を受けコボルドロードのHPバーは赤から黒に染まり―――

 

『ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

まるで死の断末魔のような雄叫びを最後に震わせてコボルドロードの姿は跡形もなく砕け散った。

 その光景に、一瞬だけもが目を疑う。目の前の光景が現実なのか悩み、そして自身のウインドウ覧に獲得経験値と分配されたコルを見て、要約現実を受け入れた。

 

「「「う……うォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」

 

 誰もが近くの者と抱き合い、肩を組み交わし、笑顔で勝利を歓喜している中、俺は腕に抱いていた曲刀が獲得アイテムとして収納されるのを見てウインドウを操作しそれを取り出す。獲得した曲刀は亜人サイズから人間サイズに変更されており、俺の身丈ほどの真紅の野太刀へと姿を変えていた。

 武器の名前は、《阿朱羅(あしゅら)》。

 ああ、この武器名付けたの絶対あの人だと、白衣を着てこの元凶となった人物の姿を思い描きながら苦笑する。

 

「とりあえず、だ」

 

 野太刀を鞘がないので刀身剥き出しのまま背中に担ぎ、右手を床に尻ついて腰抜かしている男に差し出す。それは立たせる為ではなく、拳として向けられており、それを見て何を求めているのか理解したのか同様に拳を向ける。

 

「第一層―――」

「―――攻略完了だな」

 

 コツンと、お祭り騒ぎしている騒音の中でも拳がぶつかり合う音が鳴り響いたのだった。

 




というワケで第一層攻略完了。本来ならこの後ビーター騒ぎ起こしてヴォルフ君に「お前ら人生平等とか思ってんなら義務教育もういっぺんやり直せよ」みたいな事言わせようか悩んだのですが、なんかもうこのままお祭り騒ぎで良いんじゃないかと思って省略。

次回は恐らく宴会になると思う。

あと今後加入されるとする修羅候補。

「あなたの考えは全て私の掌の中―――」
 さとり妖怪改めさとりカーディナル、ストレア。

「私は一発の弾丸―――」
 狙った獲物は百発百中、シノン。
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