汝、修羅で在れ   作:宇佐木時麻

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久しぶりの投稿。最近どうも書く気になれずすいません。あとブラボ面白いです。


第二章:I'm absolutely crazy about it!
異邦人の邂逅


 ――気が付けば私は其処にいた。

 

 まるで水底に居るかのような漂う感覚。吐く息が泡沫の泡となって水面へと浮かんでいき消える。本来ならば呼吸が出来ず窒息するであろうこの状況を客観的に見て、これは夢なのだと判断する。

 そうと理解すれば異様に感覚の鈍い身体と思考がはっきりしない意識にも説明が付く。恐らく今の私は明晰夢でも見ているのだろう。そうと判れば目の前に広がる幻想的をぼんやりと眺める事にした。

 果たしてそう決めてからどれほどの時間が経過したのか、時間の流れさえ曖昧な景色をしばらく眺めていると、まるで何かに引っ張られるように身体が底へ引きずり込まれる感覚に陥った。

 

 幸い恐怖は無かった。むしろ懐かしき母に抱き締められているような絶対的な安心感が身体を包み込んできてそれに抗うことなくゆっくりと沈んでいく。

 水面に浮かぶ陽射しが見る見る遠ざかり、暗闇だけが世界を包んでいく。だがそれは恐怖するものではない。言うなれば明かりの消えた寝室、眠りにつくために誰にも邪魔されることはない夜の暗闇に似た温かさを感じていた。

 沈む、消えていく。まるで声を失った人魚姫が最後泡へと消えていくように、私の身体から泡が吹き出て今やもはや見えぬ水面へと昇っていく。

 

 いったい、どれほど時間が過ぎただろうか。もはや暗闇しか見えなくなってしまった世界で、ふと闇ではない光が見えた。

 永らく闇に慣れていたからだろう。発光するその存在が眩しくて思わず顔を顰める。それでも目を細めながら凝らせば、それが人型の形をなぞっているのが分かった。

 ふと、落下が止まり発光する存在と真正面から向き合う形で静止する。まるで目前の存在と出会うために沈んできたかのように。

 

「……あなたは、何?」

 

 声が泡と共に頭上へと昇っていく。声が届くか不安になったが、どうやらそれは杞憂だったらしく目前の存在は良く通る声で返答してきた。

 

『――私はあなた。あなたは私。あなたが憧れた強さの形。あなたが望んだ姿(キャラクター)

「え……」

 

 私の、憧れた強さの形……?

 一瞬なんの事だか分からず首を傾げるが、次の瞬間鈍い痛みと共に何かが頭の中で激しく叫んだ。

 そうだ、私は強くならないといけない。強くならなくちゃ、強く、強く、強く……ああ、でも、どうしてだろう。その理由が思い出せない……!

 だが、そんなことは今は些細な事だ。眉間に走る激痛に顔を顰めながら、それでも何かを知っている目前の存在に尋ねる。

 

「私は、強くなれる……?」

『あなたがそれを、望むのなら』

 

 それは何処か機械的で、だけど仕方ないと苦笑するような優しさに満ちた解答だった。

 ならばもはや迷うことなど何も無かった。スッと差し伸べられた手を取る。その直前、手を取る寸前に光に慣れた眼が見えたのは、空色の髪と瞳をした思わず同性でも見惚れてしまうような優しい微笑を浮かべた少女だった。

 

『「(あなた)の名前は――」』

 

 手に取った瞬間、光は更なる輝きを増し視界を光に染め上げる。もはや何もかも見えなくなるほどの輝きは、まるで誰かに抱き締められているような感覚だった。

 

『「――■■■■(シノン)――」』

 

 夢の終わりを告げるように、急に身体は引っ張られるような感覚に襲われる。昇っているのか落ちているのか、それすら分からないほど意識は遠のいていき――

 

 

 

『ヴォルフぅ――! 空から女の子がァ――!』

『何だって!? 今時そんな古典的なボーイ・ミーツ・ガール的展開だとォ! 面白ぇ、唸れ我が両足ィィィいいいいいいい!!』

 

 

 

 最後に聞こえたのは、そんな夢の居心地を台無しにするような叫び声だった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「ん……ぅん……?」

 

 ぼんやりと意識が覚醒してき、頬を撫でる風の心地よさに久しぶりに気持ちのいい目覚めを憶える。野外で昼寝でもしてしまったのか、目蓋の裏越しでも分かる太陽の陽射しに眼を細めながら眼を開けて、

 

「あっ、起きた?」

 

 ――頭に紙袋を被った変質者がこちらを見下ろしていた。

 

「ヒャワッ!?」

 

 思わず変な悲鳴が口から溢れるが、それを無視して後ろへ後退る。だが無理もないだろう、目覚め直後にいきなり不審者に顔を覗きこまれていたら誰だって驚く。そうに違いない。

 いったいどうゆうことなの、とまさか誘拐されたのか、いやいやそもそもここどこよ、と思考が明後日の方向へ飛んで行く中、目の前の変質者は見た目とは裏腹に活気ある元気な声で話しかけてきた。

 

「ボクはユウキ! そして向こうで岩をひたすら殴っているのがボクの師匠のヴォルフって言うんだ」

「向こう……?」

 

 ユウキと名乗る不審者の指差す方に釣られ、視線を向けた先には、

 

 

 

『せいっ、ふんっ、セイヤッ! せいっ、ふんっ、セイヤッ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!! 俺のこの手が真っ赤に染まる! 目前の岩を砕けとこの血が叫ぶ! 穿て、ゴッドブロォォォッおおおおおおお! 俺を誰だと思ってやがる! 俺のドリルは天を創るドリルだァッ! ギガァ、ドリルゥゥ、ブレェェェええええええクゥゥゥううううううう―――!! 岩盤。テメェが砕かれるはずがねえって思ってんなら……まずは、そのふざけた幻想をブチ殺す!!』

 

 

 

 なんか、見上げるほどの巨大な岩石におかしな叫びを上げながらただひたすらぶん殴る変質者がいた。

 

「あんなんだけど、根はいい人だから安心していいよ」

「いやいやいやいや」

 

 あれの何処に安心する要素があるというのか。というか現在進行形で目の前の変質者と対峙しているため安心する要素などないのだが。

 

「あなた達はいったい――」

 

 何者なの? と訪ねたかったがそれを口にすることは出来なかった。

 

Plus(更に)――Ultra(向こうへ)――――!!」

 

 岩石を殴っていた男が声高らかに謳い上げるのと同時に、渾身の振り被った拳が岩石に突き刺さり、その箇所を中心に亀裂が広がり見上げるほどの巨大な岩石は粉々に砕け散った。

 ――あり得ない。

 何だそれは、普通に考えて不可能だろう。しかし目前の光景が現実だと告げている。信じ切れず思わず相方だと思わしき紙袋の不審者の方へ向き直って、

 

「……うそーん、ホントに壊しちゃった……」

「おい」

 

 呆然と漏らした声に思わず突っ込んでしまう。仲間なんだから信じていたんじゃないの?

 

「いやー、参った参った。まさか千発を多くぶん殴っちまうとはなー。マジで鈍ってんなぁったく。こりゃ特訓か?」

 

 一人事のように呟きながらこちらへ近づいて来る男は声から察するに私と同じくらいの年頃なのだろう。しかし正確には分からなかった。

 何故なら男は隣にいる少女のように顔を隠していたからである。彼女とは違い紙袋などという奇妙なモノではなかったが、まるで道化のように笑う仮面を被るその容姿は不気味な雰囲気を発していた。

 思わず喉に溜まった唾を飲み込む。何故気が付けば不審者達に囲まれているのか、いやそもそも―――どうして私は草原などに倒れていた?

 

「おっ、どうやら目が覚めたのか―――って、おいユウキ。何でこんなに警戒されてんだよ、おまえ何やらかした?」

「ボクは何もしてないよ? 起きたらいきなりこんな感じだったし。というかボクよりもあんな奇声あげながら岩殴ってるヴォルフの方がよっぽど怪しまれる要因だと思うんだけど」

「あァ? 分かってねえなお前、ああいうのは気合いが大事なんだよ。それに奇声とはなんだ奇声って。ありゃ少年なら誰もが一度は通る男の通過儀礼なんだよ。まあお前さんは女だからこの気持ちは分かんねえだろうがな」

「そんな気持ち一生知りたくないよ……」

「というかそんな顔を隠した不審者に警戒するのは当たり前でしょ……」

 

 二人の馬鹿な雑談に思わずポロリと零した本音に二人は仮面越しに見つめ合い、それから納得するように左手の掌をポンっと右手の拳で叩いた。

 

「ああ、そういや付けっぱだったな。あんまりにもフィットしていたせいですっかり忘れてたぜ」

 

 男はそう言うと仮面に手を当てスルリと脱ぎ捨てた。仮面の下にあったのは飄々と笑みを浮かべた金髪茶眼の青年は、悪童という言葉が嫌というほど似合っていた。

 

「既に知ってるかもしれねえが、改めて自己紹介させて貰うぜ。俺はヴォルフ、そんでもって横にいるコイツが――」

 

 と、そこまで言ってヴォルフと名乗った男は訝しげにユウキと名乗る未だ紙袋を外さない少女を見る。

 

「ていうか、テメェはいつまでそれ被ってんだ? おら、自己紹介してんだからお前もそれ外してしろよ。失礼だろうが」

「……嫌だ」

 

 プイッと大人気なく顔を逸らすユウキに僅かにムッと苛立ちを覚えるが、ヴォルフは何か思い付いたように愉悦に顔を歪めていた。

 

「ははぁ~ん? さてはお前、顔の落書きが見られるのがそんなに恥ずかしいのか?」

「―――ッ!」

 

 ヴォルフの発現が図星だったように、ユウキの両肩がビクンッ! と震える。

 と、その隙を付いてヴォルフはあっと言う間にユウキの背後の回り込み、

 

「はいご開帳ォおおおお!!」

「え、ちょ、待って心の準備がァ――!?」

 

 慌ててユウキが紙袋を掴んで止めようとするが、時は既に遅し。

 紙袋は天高く空へ掲げられ、当然被っていたユウキの姿が顕になる。紙袋の下にあったのは、紺色の髪と瞳をした――

 

「……猫?」

 

 ――頬に猫のヒゲのように三本対に描かれた落書きが施された少女の顔だった。

 

「……―――ッ!!」

 

 ボンッ! とまるで爆発したかのようにユウキの顔が一瞬で羞恥心で赤く染まり、振り返って頭上高くに紙袋を掲げるヴォルフから紙袋を奪い返そうとするが、生憎身長が足らずピョンピョンと跳ねて手を伸ばすが無駄だった。

 

「か、返してよヴォルフ!!」

「ハッハ――! 良いじゃんか可愛いよユウにゃん♪ これで人気投票もばっちしだぞユウにゃんユウにゃん!」

「ウガアアアアアアアア――!! ヴォルフの鬼! 悪魔! ロリコン! ホモ! ヴォルフ!!」

「ハッハッハ――! そんなに嫌ならお前もとっととクエストクリアすりゃいいだろうが」

「無理に決まってるじゃん!? あの岩いくら殴ってもダメージ判定0何だけどどうなってるの絶対バグってるよ!」

「あァ? お前知らねえの? あれはクリティカルヒットしないのダメージ入らねえんだよ。クリティカルしてダメージ1入ってそれを一万回繰り返すだけ。なっ? 簡単だろ?」

「師匠ォ――! クリティカルヒット出すにはどうすればいいんですかァァァあああああああ!?」

「う~ん、気合い?」

「あんまりだァァァああああああああッ!!」

 

 ……なに、この絵面。思わず意識が遠のく。いや、確かに顔を隠していたから不審者と警戒したが、だからといってこんな状況に陥るとは誰だって思わないだろう。

 恐らくユウキと呼ばれる紙袋仮面が顔を隠していたのは顔に描かれた落書きを隠すためだったのだろう。そこから察するに道化仮面をヴォルフが被っていたのはそのためか。あっ、いや、どうだろう。なんだか愉快犯な気もしてきた。

 と、何故知り合って数分の相手にここまで予測できているのかと現実逃避していると、泣き崩れる猫ユウキを無視してヴォルフが近づいてきて、

 

「――そんで、お前さんいったい何者だ?」

 

 まるで全てを見通すように、吐息が頬に触れ合うほどの至近距離で眼の奥を覗き込んできた。

 

「お前、覚えてねえかもしれねえが空から突然現れて降って来たんだよ。普通に考えればありえねえ。からといってNPCかと疑ったがここまでのやりとりでお前がどう見ても俺らと同じプレイヤーなのは一目瞭然だ。だからこそ疑問が残る。あり得ない出現をした存在……もう一度だけ聞く。何者だ、お前?」

「…………、!」

 

 その目に射抜かれた瞬間、まるで蛇に睨まれたカエルのように身体が硬直した。

 吐いた吐息が熱を帯びる。鼓動が正常に働かない。何処かで似たような経験があった気がしたが、冷や汗が流れる背中に寒気を感じながらも何とか言おうと口を開いて、

 

「……あ、れ?」

 

 ――ああ、そもそも、()()()()()()()()

 

 思い出せない。右や左、国の名前や一般常識などは分かる。だけど、自分に関わる記憶がまるで頭に霧が掛かっているように思い出せない……!」

 

「私の、名前……なん、だっけ?」

「はぁ?」

 

 思わず零した言葉にヴォルフはキョトンと瞬きを繰り返し、それから考える素振りのように顎に手を当てながら思考に浸りだす。

 

「……ストレスによる現実逃避、じゃねえな。からといってNPCでもない。……接続不良による基本情報伝達の損失?……だとしても、例外(イレギュラー)なのか変わりないか」

 

 ブツブツと私にはよく分からない事をしばらく呟くと、意を決するように顔を上げてこちらの顔を見つめてくる。

 

「おい、ちょっとウインドウ画面を開いてみろ」

「ウインドウ、画面?」

「こう、右手を下に振ってみて」

 

 ある程度羞恥心から復活したのか、猫落書きを描かれたユウキが説明してくれる。それに従い右手を振ってみると、無機質なプレートのようなモノが目前に浮かび上がり思わず驚いてしまった。

 

「きゃっ!?」

「出たな? なら下の方へスライドして一番下から二番目のコマンドボタンを押して、その中に《ログアウト》という名前が無いか探してみろ」

「わ、分かったわ」

 

 ヴォルフの指示に大人しく従いウインドウ画面を操作する。謂われた通りに画面を操作してみたが、いくら探しても彼の言う《ログアウト》というコマンドは見つけられなかった。

 

「……無い、わね」

「そうか。となると完全に俺らと同じ、か。ったく、面倒になったなぁ」

 

 やれやれと、態度では面倒臭そうに言うが愉快そうに口端を吊り上げながらヴォルフはこちらを見据えてきた。

 

「一応訊いておくが、《ソードアート・オンライン》って言葉に聞き覚えはあるか?」

「ソードアート……オンライン……ごめんなさい。何処かで訊いた気もするけど、詳しいことは何も思い出せないわ」

「なるほど。じゃあ前提として軽く説明してやる。ソードアート・オンラインってのは魔法や銃が存在しない、剣が中心の接近戦が主なMMORPGだ。階層は全部で百層、各層にフロアボスが存在し、百層のボスを倒せばゲームクリアとなる」

「話を聞く限り、いたって普通のRPGだと思うけど、それがどうしたのよ」

「まあ話は最後まで聞け。それだけなら死にゲーで敵の配置やら罠の場所を覚えて攻略すればよかったんだが、そうとも言っていられなくなった。ゲームの製作者、茅場晶彦がデスゲームに変更してたんだよ」

「えっ……」

 

 デス、ゲーム?

 

「頭に被っているナーヴギアには脳を焼き切る電磁波を発生させる機能が搭載されていた。一度でも死ねばそれが発動し現実世界のプレイヤーの脳も焼ききる、つまり殺すっていう訳だ。ゲームの死イコール現実の死っていうわけ。まあここまで前提が長くなっちまったが、」

 

 大事な事を言うかのように彼は一度そこで区切り、

 

「この世界こそが、その《ソードアート・オンライン》ってなわけ」

 

 そんな、爆弾発言をかましてきた。

 

「まっ、待って。それってつまり、私もつまり、」

「ああ、記憶喪失でテンパる気持ちは分かるが、そういうことだ」

 

 ガツンッ、と直接頭を叩かれた気分になる。いきなり大量の情報を流し込まれて整理しようにも頭が混乱して白紙のまま動けない。

 どうすればいい。どうにかしなくちゃ、どうにか、どうすれば、どう――

 

「それで、お前には三つの選択肢がある」

 

 そんな私の混乱を悟るように、ヴォルフは私の目前に三本の立てた指を向けながら告げる。

 まず薬指を曲げて、

 

「一つ、第一層の《はじまりの街》に閉じこもって救助が来るのを待つこと。これは一番安全かつ生還できる方法だ。これは他の連中も結構やってるしな」

 

 次に中指を曲げ、

 

「二つ、一層でモンスターと戦って適度にコルを溜めてほどほどの生活を送る。これはモンスターと戦う分危険が増すがきちんとした場所と装備、そして仲間がいればそれほど危険じゃない。それなりに旨いもんも食えるしな」

 

 そして最後にと、残る人差し指を曲げて、

 

「三つ、これは正直オススメしないが、お前が望むなら仕方ない。ゲームクリアを自力で目指す、つまり最も危険な最前線で戦うことだ。勿論死亡率は一番高いし危険だが、お前がそれを望むなら俺らがお前に戦い方を教えてやるよ」

 

 さあ、どうする? と尋ねられた問いに混乱していた思考に一筋の光が走る。

 正直、何が正しいのか分からない。自分の正体が分からない不安。死への恐怖。何故私がこの世界に現れたのか、様々な感情が胸の中をかき乱すが、それでも一際激しく吼える声がある。

 

「……私は、どうすればいいのか分からない。でも、一つだけ分かることがある」

 

 視線を上げれば飄々と笑っているが目だけは真剣にこちらを見るヴォルフの瞳が。その瞳の奥に宿る何かに共鳴するかのように、気付けば声を発していた。

 

「私は、強くならないといけない。だから――お願い、私に戦い方を教えて」

 

 愚かかもしれない。

 愚者だと嗤われても仕方がないかもしれない。

 それでも私は――戦うことを選んだ。

 

「……ったく、どいつもこいつもイイ女すぎるだろうが」

「ヴォルフ?」

 

 まるで何かを噛み締めるように頭上を見上げながら呟いたヴォルフの声を聞き取る事ができず、ユウキが不思議そうに彼の横顔を眺めている。

 

「ああ、そういやまだ大事な事訊いてなかったな。お前、名前は?」

「な、名前?」

 

 私の名前、なんだろう。思い出せずふと疑問に思うが、視界の右上に浮かぶ緑のバーの上に書かれた字こそが私の名前なのだと本能的に察する。

 そうだ、この世界の私の名前は――

 

「―――シノン。それが、私の名前」

 

 まるで何かに宣告するように告げた名前を彼らは噛み締めるように頷いて、それぞれ掌を伸ばして同胞を歓迎するかのように告げた。

 

 

 

「「―――Welcome to The World、シノン」」

 

 

 

 この出会いこそが、私にとって人生の分岐点とも呼べる運命の邂逅なのだと当時の私は知るはずもなかった。

 

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