“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

13 / 99
戦王の使者Ⅱ

 絃神島は太平洋上に浮かぶ常夏の島だ。暦では秋に当たる時期だが、ここ絃神島は今日も今日とて真夏日である。吸血鬼の古城にとっては日差しが鬱陶しいことこの上ない。

 きつい日差しにうんざりしながら普段と変わらぬ学校に登校した古城は、靴箱で馴染みの顔を見つけた。

 華やかに化粧をした金髪の少女、藍羽浅葱だ。なにやら今日はバッグ一杯に手荷物を持っていて、その歩き方は少し覚束ない。段差にでも躓いたら盛大に転んでしまいそうだった。

 

「おーい、浅葱。おはようさん」

 

「ん、古城か。おはよ」

 

 ぱっと振り返って挨拶を返してくる浅葱に歩み寄り、古城は手を差し出す。

 

「持とうか、その荷物」

 

「いいの?結構重いけど……」

 

「生憎、荷物持ちぐらいしか取り柄がないんでな」

 

「それって嫌味?」

 

 ふふっと笑う浅葱。古城の軽い自虐がそれなりに受けたようだ。

 古城は浅葱から荷物を受け取る。中身は使い古したバドミントンのラケットが何本か、それとシャトルコックが数個。

 

「バドミントンのラケットか。わざわざ持ってきてくれたんだな。さすがは浅葱、気配りのできる美人女子高生様だな」

 

「ちょっとやめてよ。恥ずかしいでしょ」

 

 ほんのりと頬を朱色にしながら浅葱は古城を小突く。

 

「それで、古城はなんに出るのよ。球技大会」

 

 誤魔化すように浅葱が話を変える。古城は少し悩む素振りを見せながら、

 

「さあな、築島にはなんでもいいって言ったけど。案外、バドミントンだったりしてな」

 

 意味深げに笑みを浮かべて古城は手に持つ浅葱のバッグを掲げる。

 

「でも古城、元バスケ部よね?」

 

「元バスケ部だからってそれ以外に出てはいけないなんて規定ないだろ」

 

「それもそうね」

 

 古城と浅葱は球技大会の種目について話しながら教室に辿り着く。すると、教室内が俄かにざわついた。

 クラスメイトの視線が一斉に集中して浅葱が戸惑い、古城は黒板に書かれている内容を見て微苦笑する。

 

「よお、お二人さん。朝から仲睦まじく登校とは、それもきちっと道具も持って。これはやる気満々ってことでいいんだよな」

 

 黒板前にいた男子生徒がからかい混じりに声をかけてきた。短髪をワックスでツンツンに逆立てた軽薄そうな男子、矢瀬基樹だ。

 

「やる気?どういうことよ?」

 

 矢瀬の台詞に首を傾げる浅葱。そんな彼女の肩を叩き、古城が黒板を指差す。

 黒板には誰がどの種目に参加するか書かれていた。古城と浅葱が来る前にもう発表したらしい。勿論、古城と浅葱の参加種目も書かれている。

 浅葱は自分の名前を黒板の中から探し出して読み上げる。

 

「バドミントンの混合(ミックス)ダブルス……って、しかも古城とペア!?」

 

 浅葱は驚愕のあまり目を見開く。古城の何気ない発言が的中し、あまつさえ自分がそのペアになっていることに驚きを隠せなかった。

 ただ、あまりにも大袈裟な反応だったため、隣にいた古城は嫌なのかと軽く勘違いしてしまう。今朝の雪菜とのやり取りも少しあとを引いているのだろう。

 

「嫌だったら変えてもらおうか、浅葱」

 

「い、嫌じゃない!ちょっと驚いただけだから!」

 

「お、おぉう。分かった、分かったから落ち着こうか」

 

 物凄い剣幕で言われて古城も少したじろぐ。

 一方浅葱はムキになったとはいえクラスメイトの前で大胆なことを言ってしまったと、羞恥に顔を耳まで赤くしながら下手人であろう幼馴染を睨む。

 睨まれた幼馴染こと矢瀬はニヤリと笑みを作ってサムズアップしている。その隣では倫も頑張りなさいとばかりに手を振っていた。

 

「もう、やめてよね……」

 

 クラスメイトたちから向けられる生温かい目に、限界に達した浅葱は両手で顔を覆うのだった。

 

 

 ▼

 

 

 授業が終わり迎えた放課後。

 参加種目がバドミントンになった古城はその練習のために体育館へ訪れていた。

 さて、このバドミントンの混合(ミックス)ダブルスであるが、出場するペアの殆どはカップルである。つまり何が言いたいかというと、体育館の彼方此方でカップルだけが持つ固有結界が展開されているのだ。

 あるカップルは仲睦まじく支柱を立て、そしてあるカップルは楽しげにラリーを交わし、またあるカップルはサーブの練習をしながら時折見つめ合っている。

 固有結界の強度はそれぞれで違うが、どこも独り身の古城が砕くには無理のある空間だ。ただし嫉妬の類が湧くかと言えばそんなこともなく、古城は子の成長を見守る親のような眼差しで彼らを眺めている。精神年齢大人の古城だけができる態度だ。

 壁際で体育館内の様子を古城が眺めながら、古城は思索に耽る。

 古城は浅葱が着替え終わるのを待っているわけだが、原作ではこの体育館の甘ったるい空気に耐えられず古城は外をふらつく。その際にある人物からの襲撃を受けることになっていた。

 しかし古城としては襲われるなんてのはごめんだ。下手して怪我を負ってしまい眷獣が暴走、学校が吹っ飛んでしまいましたなんて展開にでもなったら目も当てられない。故に古城としては若者たちの仲睦まじい姿を眺めながら穏やかに浅葱を待っていたい。

 だが、そうなると問題が発生する。

 古城を襲撃したのは式神であった。そしてその式神は古城宛の招待状を渡す役目を負っている。渡すついでに襲いかかってくるのだが。

 ともかく、このまま体育館内にいれば襲われることはない。しかしそうなると招待状が受け取れない。招待状が受け取れないとある人物とコンタクトが取れないので困った展開になる。

 さてどうするか、と原作知識を思い返しているとある閃きが湧いた。

 

「あるな、穏便に招待状を受け取る方法が……」

 

 思い立ったが吉日。古城は同じクラスの内田と棚原のペアに少し席を外す旨を伝えて体育館を出た。

 体育館内もそうだったが外は輪をかけて蒸し暑かった。時間帯的に夕暮れ時なのにこの暑さ。やはり絃神島は吸血鬼に優しくない。

 練習のために体操着になっていた古城は、西陽にじりじりと肌を焦がされるのを嫌って日陰を探す。そして見つけたベストプレイスが非常階段の踊り場。

 古城は日陰になっている非常階段の中腹に腰を下ろし、通り抜けていく涼風にその身を晒す。しばらくそうやって涼んでいると誰かが階段を下りてくる足音が聞こえてきた。

 

「先輩?」

 

 足音の正体は制服姿の雪菜だった。階段に座り込んで涼む古城の姿を見て、雪菜はぱちくりと目を瞬かせる。

 

「こんなところでなにをやってるんです?」

 

「見ての通り、涼んでる。バトミントンの練習を始めようと思ったけど、浅葱が着替えに手間取ってるらしくてな。それで涼しい場所を求めた結果がここさ」

 

「そうですか……バドミントンにしたんですね」

 

 暗にバスケではないんですね、と訊かれている気がして古城は軽く肩を竦める。

 

「したというか、決められたんだけどな」

 

「バドミントン……相方は女子ですか?」

 

「そうだな。というか、浅葱だよ」

 

「藍羽先輩ですか……」

 

 古城のペアが浅葱だと聞くと雪菜は安堵と微かな嫉妬を滲ませた表情になる。

 

「それで、姫柊はどうしてこんな所にいるんだ?」

 

「わたしは高等部のチアリーディング部を探していて……」

 

「迷ったと?」

 

「はい……」

 

 高等部のチアリーディング部の部室がある場所は地味に入り組んでいる。転校してきた姫柊に迷わず辿り着くことは難しいだろう。

 

「なら、俺が案内しようか?」

 

「いいんですか?」

 

「いいよ。ただ、ちょっと頼みがある」

 

 言って古城は真剣な表情を取り繕う。雪菜も古城の顔から真面目な話だと察し静かに耳を傾ける。

 

「さっきから妙な視線を感じててな。敵意というか殺気というか。とにかく誰かに見られてる気がするんだわ」

 

「ほんとですか?」

 

「ああ。それで、どうにかそいつを誘き出したいんだが、いざ襲われると眷獣が暴走しかねないから、姫柊も一緒にいてくれないか」

 

「そういうことなら、分かりました。すぐに雪霞狼を取ってくるので、ここで待っていてください」

 

 そう言って雪菜は颯爽と駆け出した。

 足速いなぁ、などと遠ざかっていく雪菜の背を唖然としながら見つめる古城。古城にもあれくらいの速度は出せなくないが、やはりしなやかさが違う。古城がバイクなら雪菜は女豹のようだ。

 俺ももう少し鍛えるべきか……、などと考えつつ待つこと数分。戻ってきた雪菜は雪霞狼入りの黒いギターケースを背負っていた。

 

「お待たせしました。では、行きましょう」

 

「おう。とりあえず、適当にぶらついてみるか」

 

 階段から立ち上がり、古城は雪菜と共に敷地内をうろつき回る。中庭から渡り廊下、途中自販機コーナーに寄ったりしつつ歩き回ること十五分。自販機近くのベンチを通りかかった所で、それは現れた。

 古城と雪菜の前方。鈍色の体を持つ獣が二人をじっと見つめていた。

 

「先輩、下がってください」

 

「分かってる」

 

 言われるがまま古城は少し後ろに下がり、雪菜が槍をいつでも引き抜けるよう身構える。

 鈍色の獣は雪菜が前に出ると、それを待っていたかのように歩き出す。まるで敵意の欠片も感じない、無防備な歩き姿だ。

 そんな相手の様子に雪菜は少し肩透かしを食らった気分になる。それでも構えは解かないが。

 雪菜と鈍色の獣の距離がおよそ十歩程になったところで、雪菜は目の前の獣の正体を看破する。

 

「これは、式神?それにこの術式は……」

 

 呟く雪菜の目の前で鈍色の獣の体が解けていく。風にはためくカーテンのようにひらひらと舞い上がり、そのままどこかへと飛んで行ってしまう。後に残されたのは首を傾げる雪菜と、式神が消えた地面を見つめる古城だけだった。

 

「なんだったんだ、あれは」

 

「今のは式神です。術式からして遠方に書状を送り届けたりするタイプのものでしたが」

 

「なるほど。それじゃあ、こいつは俺宛か」

 

 地面の上に無造作に置かれた一通の手紙を拾い上げる古城。金色の箔押しが施され、銀の封蝋がされている。

 手紙に刻まれた印璽を目にして、雪菜が顔色を変えた。

 

「その刻印は……まさか」

 

「貴族か……また厄介なことになりそうだな」

 

 動揺する雪菜を他所に、中身を知っている古城は平然とその場で封を開けようとする。だがそれも、不意に誰かから名前を呼ばれて中断せざるを得なくなった。

 

「こんな所でなにしてんのさ、古城?」

 

 ヒラヒラの短いスコートに、丈の短いノースリーブのポロシャツという格好の浅葱が、古城と雪菜の前に現れた。

 浅葱は古城を見て、それからその隣に立つ雪菜を視界に収める。そして最後に古城の手にある妙に豪奢な手紙を認識して状況を察した。

 

「あ……もしかして、邪魔しちゃった?」

 

 酷く不安げな表情で言う浅葱。恐らく古城の持つ手紙をラブレターの類と勘違いしたのだろう。青春の甘酸っぱい一ページに水を差してしまったという罪悪感と、正体不明の胸の痛みに襲われて浅葱は思わずその場から逃げ出そうとするが、

 

「違う違う。これはラブレターとかじゃないからな。むしろ、ラブレターのほうがどれだけマシだったか……」

 

 疲れを滲ませた表情で手紙を見下ろす古城に、浅葱は逃げ出そうとした足を踏み止めた。

 

「どういうことよ?」

 

「さあな、まだ読んでないから分からない。まあ、碌なものじゃないだろうから、またあとでいいさ」

 

 言って古城はポケットに仕舞う振りをして雪菜に手紙を預ける。

 

「またあとで、な」

 

「はい……」

 

 雪菜にだけ聞こえるように呟いて、古城は浅葱に向き直る。

 

「それより、勝手に出歩いて悪かったな。俺を探してたんだろ?」

 

「そうよ、それよ!あんな桃色空間に一人で待たせるなんて拷問じゃない!?」

 

「俺も最初はそこで待たされていたわけだが?」

 

「うっ……それは……」

 

 至極真っ当な事実を指摘されて浅葱が言葉に詰まる。自分が実際に体験しただけに、あの空間が独り身にとってどれだけ辛いかは身に染みて分かっている。そこへ最初に待たせたのが浅葱である以上、古城を強く非難はできない。古城本人はあの空間を特別苦にしていたわけでもないのだが。

 

「まあ、これでおあいこってことでいいんじゃないか」

 

「……そうね」

 

 古城の言葉に一応の納得をして、浅葱は怒りの矛を収める。そして代わりに古城の隣に立つ雪菜へ目を向けた。

 

「でも、どうして姫柊さんが高等部にいるの?」

 

「それは……」

 

 まさか古城を護衛するために張り付いていた、なんてことは言えない。どう答えるべきか迷う雪菜の代わりに口を開いたのは古城だ。

 

「高等部のチア部の部室に呼ばれているらしくてな。でもあそこらへん、入り組んでるから迷ったんだとさ」

 

「そっか。確かにあそこらへんは転校生の姫柊さんじゃ迷うかもね」

 

 うんうんと浅葱は頷く。迷子扱いされた雪菜は少し不服げだが、事実迷っていたことは間違いないので口を噤む。

 

「だから、俺は姫柊を部室まで案内しようとおもうんだが」

 

「なら、あたしも行くわよ。体育館で待つのは懲り懲りだし」

 

「姫柊はそれでいいか?」

 

「はい、助かります」

 

 折り目正しく頭を下げる雪菜に、古城も浅葱も気にするなと手を振る。後輩が困っていたら助けるのは、学園の紳士と気遣いのできる美人女子高生にとって当然の話だ。

 そのあと、雪菜を部室まで送り届けてから、古城と浅葱はバドミントンの練習に体育館に戻ったのだった。

 

 

 ▼

 

 

 東の空が群青色に侵食されつつある日没の時間帯。

 古城と雪菜は買い物袋を手に提げて家路についていた。部活で遅くなる凪沙の代わりに夕飯用の食材を買って帰るのが最近の古城たちの日課であった。今は買い物を終えたあとである。

 

「差出人は、アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー。戦王領域の貴族か……」

 

 雪菜から手紙を返してもらい、封を開けて中身を読み進める古城。内容は今夜開催される船上パーティーへの招待状だった。絃神港に停泊中のクルーズ船で開催されるパーティーだ。

 

「お知り合いですか?」

 

 隣を歩く雪菜が何気なく尋ねる。古城は首を横に振った。

 

「俺は一応ただの学生なんだ。東欧の夜の帝国(ドミニオン)の貴族と繋がりなんてないさ」

 

 アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー。戦王領域を構成する自治領の一つ、アルデアル公国の君主だ。そんな生粋の貴族様と古城に交流があるはずなどない。

 

「なら、やっぱりアルデアル公は先輩が第四真祖と知った上で招待状を出したのですね」

 

「だろうな。相手も吸血鬼なわけだし、むしろそれ以外には考えられないな。まったく、俺も人気者になったもんだよ……」

 

 欠片も喜色のない笑みを浮かべて古城は嘆息を洩らす。そんな彼を気遣って雪菜が声をかける。

 

「いきなり戦闘になったりとかはないと思いますから、大丈夫だと思いますよ。招待状も、第四真祖である先輩に挨拶をするためのものだと思いますし」

 

「どうだろうな……まあ、どの道応じる他ないだろうな」

 

 諦めたように息を吐きつつ、古城は手紙のある一文に目を留めた。

 

「パートナー同伴か……俺、独り身なんだけどなぁ……」

 

「パートナーですか。確か、欧米のパーティーでは夫婦や恋人を同伴するのが基本なんですよね」

 

「ここは日本ってことで、一人で参加するのはありだろうか」

 

「それはちょっと……この場合、知り合いに代役を頼むのではないでしょうか」

 

 そう言って雪菜は隣の古城を見上げる。なんとなく期待を込められた眼差しを向けられて、古城は苦笑いを浮かべた。

 

「俺が第四真祖であることを知っていて、年齢も近くて、有事の時に対処できる人材だしな。頼めるか、姫柊?」

 

「はい。わたしの任務は先輩の監視ですから、むしろ好都合です」

 

 少し嬉しそうに雪菜が頷いた。古城に頼られたことが素直に嬉しいらしい。だが、なにか重要なことに思い至ったのか不意に顔を曇らす。

 

「でもわたし、パーティーに着ていく服がありません……」

 

 しゅんと肩を落とす雪菜に古城は優しく笑いかける。

 

「別に気にしなくていいんじゃないか。急に招待してきたのはあっちだし、最悪こっちはブレザーでいいと思うぞ」

 

 一応、学生の身分である古城たちはブレザーや制服が礼服として認められる。問題ないというわけではないが、余計な突っ掛かりは受けないだろう。

 古城のフォローに雪菜も納得し、パートナー代役は雪菜が務めることに落ち着いた。

 パーティーが始まる時間まであと三時間程度。古城と雪菜は少し足を早めて帰宅を急ぐ。やがて二人はマンションに辿り着き、

 

「ん?この荷物は?」

 

 今朝はなかった郵便受けの伝票に気づいて、古城は荷物の内容を読む。差出人は獅子王機関、内容物は衣服と記載されていた。

 そうか、と古城は荷物の中身を思い出してロッカーから平たい長方形の段ボールを取り出す。そしてそれをそのまま雪菜に差し出した。

 

「姫柊、確認してみてくれ」

 

「分かりました」

 

 緊張感を滲ませて荷物を受け取り、雪菜が段ボール箱を慎重な手つきで開封する。獅子王機関からの荷物、それも古城宛ということで無駄に気を尖らせているようだ。中身を知っている古城からすれば無用な警戒であるのだが、それを指摘することもしない。

 そっと段ボールの蓋が開かれると、中には光沢のある薄い布地が、丁寧に折り畳まれて詰められていた。見た目だけでも高級な生地であることが分かる。

 雪菜は少し首を傾げつつ箱の隅に明細書を見つけて事務的に読み上げる。

 

「オーダーメイドのパーティードレス一式。身長百五十六センチ、B七六・W五五ーー」

 

「待て、姫柊!読むな!?」

 

 古城が慌てて止めるがもう遅い。雪菜は羅列する数字に妙な既視感を覚えながらも最後まで読み上げてしまう。

 

「H七八、C六〇……姫柊雪菜様……は?え?これって……」

 

 あちゃー、と古城が天を仰ぐ。こうならないようにするために雪菜に荷物を開けさせたのに、まさか当の本人が自爆するとは考えもしなかった。だがこればかりは予想できないだろう。

 数字の意味を理解し、自分が猛烈な暴露をしてしまったことに気づいた雪菜は顔真っ赤。心なしか頭から湯気が出ているようにすら見える。

 明細書を握り締め雪菜がゆっくりと振り返る。彼女の背後には居た堪れない表情をした古城が頭を抱えていた。

 

「き、聞きましたか……?」

 

「あーうん……ごめん」

 

 弁解することもなく古城は大人しく頭を下げた。不可抗力とはいえ聞いてしまったことに変わりはない。ここはあれこれ言い訳を並べ立てるより、誠実に向き合うほうが得策だと考えたのだ。

 雪菜は羞恥とやりようのない怒りに身を震わせていたが、さすがに古城に当たることはなかった。今回ばかりは古城に非がないことを理解していたからこそだ。その分、やり場のない感情の処理に唸っているのだが。

 

「し、失礼します……!」

 

 感情を持て余した雪菜は、段ボール箱を抱え上げると物凄い勢いで自分の部屋へ消えていった。

 

「あ、姫柊。それ、中にまだ俺の服も入って……」

 

 バタン!と閉じられたドアに手を伸ばす古城だが、その声は雪菜に届いていないだろう。

 参ったなぁ、と古城は頭を掻きながら、

 

「またあとで謝ろう……」

 

 とりあえず目の前の自宅に上がるのだった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。