“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

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戦王の使者XI

 餌に群がる虫のようにナラクヴェーラが迫ってくる光景は悪夢以外のなにものでもない。一般的な感性を持つ人間ならば腰を抜かすか逃走するだろう。だがこの場にいるのは良くも悪くも常人の感性を捨てた者たちだ。多少気圧されながらも古城たちは背を向けることなく絶望へと挑みかかった。

 

「俺が囮になって戦う。二人はその間に連中を背後から叩いてくれ」

 

「そんな、無茶です!」

 

「馬鹿じゃないの!?死にたいの!?」

 

 無茶な提案を二人がすぐさま却下するが、古城は耳を貸さない。二人の制止も無視してナラクヴェーラの群れに駆け出していた。

 装甲車以上の巨体を有するナラクヴェーラの群れへの突貫行為。誰が聞いても見ても無謀だと、無茶だと断じるだろう。だが古城としては無茶であっても無謀だとは思っていなかった。

 ナラクヴェーラにとって現状最も脅威と認識しているのは古城だ。それは海上から狙い撃ちしたことからも分かる。逆に言えば、雪菜と紗矢華はそこまでマークされていないということ。雪菜も紗矢華もナラクヴェーラに対して直接的な攻撃を殆どしていないから、脅威度が低く見られているのだろう。

 古城のマークがきつい分、二人はかなり自由に動けるはずだ。古城がそこで更に大立ち回りをすればなおのこと。制御なき殲滅兵器の後ろを取ることも容易になるだろう。

 そして紗矢華には煌華麟がある。絶対無敵な擬似空間切断能力はそのまま攻撃に転じることが可能だ。対策されない限り彼女の剣舞を止めることは古代兵器であろうと不可能である。

 理屈的には理解できなくはない古城の作戦。だがそれは感情を抜きにした理論だ。それがどれだけ効率的だとしても、常識的に考えてナラクヴェーラの群れに単身突っ込んでいくなんて思考はできない。

 だが古城はできてしまう。死んでも復活するというのもあるが、それ以上に古城の異常な精神性がそれを可能としてしまう。

 恐怖を押し殺し、冷静かつ苛烈な精神状態で古城は雷を放つ。稲妻がナラクヴェーラの装甲を激しく叩いた。だが最初よりも雷に対する耐性がついたのか、ナラクヴェーラたちは雷光を物ともせず突っ込んでくる。

 

「こっちだ!」

 

 雷光を突き破ってくる兵器群を引き連れて、古城は増設人工島(サブフロート)を駆け回る。

 吸血鬼の身体能力をフルに発揮して走る古城は残像が後を引く程に早い。瓦礫や建物の残骸に隠れたりして撹乱し、時折雷撃を飛ばして注意を引く。ナラクヴェーラの意識は完全に古城一人に釘付けにされていた。

 古城の思惑通り。あとは雪菜と紗矢華が一体でも多く数を減らしてくれれば万事上手くいく。だがそこで任せきりにするつもりなどないのがこの古城だ。

 背後から飛んでくるレーザーの乱射と戦輪の応酬から逃れるように建物の陰に転がり込み、そこで古城は一度息を整える。そして陰から顔だけ覗かせて、ナラクヴェーラの一体がその頭部をバラバラに刻まれる光景を目にした。

 どうやら紗矢華がナラクヴェーラの背後を取って仕掛けたらしい。予想外の攻撃にそのナラクヴェーラは反応することもできぬまま頭を切り刻まれ、地へと沈んだ。恐らくあのナラクヴェーラが戦線復帰することはもうないだろう。ただし今回の攻撃で紗矢華の煌華麟も学習されてしまっただろうが。

 自らの装甲を容易く切り裂くほどの力を持つ紗矢華を、ナラクヴェーラが改めて脅威として認識した。今まで脇目も振らず古城目掛けて突っ込んできていた古代兵器たちが紗矢華を排除せんと動き出す。

 全ナラクヴェーラの注意が紗矢華に向いた瞬間、古城はその好機を逃さんと建物の陰を飛び出した。

 一番近くにいたナラクヴェーラへ一気に詰め寄り、先と同様に右腕に紫電を纏わせる。だが先と全く同じではダメだ。既にある程度の雷耐性をつけられている以上、ごり押しで穴を開けられる程に今の装甲は柔くない。

 故に古城は脳裏にある物を思い描く。獅子王機関より派遣され自身の監視任務に就いている雪菜が持つ、ありとあらゆる結界障壁を切り裂く破魔の銀槍。雪霞狼の尖鋭なフォルム、それを自身が纏う雷に投影する。

 眩い雷光を散らす右腕が古城の意思を反映して形を持つ。その形はまさしく槍そのもの。古城の右手に落雷そのものを凝縮した最凶の槍が生まれた。

 

「おおおおおお──ッ!」

 

 雄叫びを引き連れてナラクヴェーラの背後から古城が飛びかかる。

 鋭い雷の矛先が甲殻にも似た外装に触れた。瞬間、雷槍と装甲が激烈な閃光を散らして拮抗する。

 

「ぐっ、くそっ……!」

 

 想定していた以上に硬い。雷への耐性だけでなく純粋な物理強度も強化されているようだ。一度目のようにやすやすと穴を開けることはできなかった。

 だが、貫けないわけではない。現に徐々にではあるが古城の槍がナラクヴェーラの装甲を、その尖った穂先を以ってして切り裂き始めている。

 ジリジリと装甲内部へ腕が沈んでいく感覚に、古城は焦燥を募らせる。

 こうしている間にも古城を排除せんと他の個体が迫っている。悠長にしていれば手痛いしっぺ返しを受ける羽目になるだろう。

 早く……!と内心で叫んでいるとようやく右腕の肘関節あたりまでが装甲内部に侵入した。それだけ腕が潜れば十分。あとは“獅子の黄金(レグルス・アウルム)”を全力解放すればいいだけだ。

 

馳せ参ぜよ(ぶちかませ)!“獅子の黄金(レグルス・アウルム)”!」

 

 右腕を砲身に見立て、今度は爆発ではなく放射。ナラクヴェーラが放つ“火を噴く槍”を意識した雷光の大奔流が、ナラクヴェーラの中枢部分を一瞬で焼き尽くした。

 中枢を完膚なきまでに消し炭にされたナラクヴェーラが糸の切れた人形のように崩れ落ちる。古城は余韻に浸る間もなく即座にその場から離脱した。

 その直後、破壊されたナラクヴェーラの機体がまるで居合切りをされたかのように綺麗に両断された。

 そして古城の体も、袈裟懸けに斬りつけられていた。

 

「は、あ……?」

 

 鮮血を噴き散らす傷を見下ろして古城は間抜けな声を洩らす。

 何が起きたのか、古城には全く理解できなかった。ただ気がついたら破壊したナラクヴェーラの機体が真っ二つになっており、自身の体に太刀傷のような裂傷が刻まれていた。

 混乱の坩堝に陥る中、それでも古城は攻撃の正体を探ろうと顔を上げる。

 真っ二つに割れたナラクヴェーラの先。重心を後ろに下げて四脚立ちしている古代兵器の姿があった。その大地から離れた前二脚はまるで血のように赤い魔力を纏っている。

 

「まさか……!」

 

 攻撃の正体に思い至り、古城は呻く。

 ナラクヴェーラの機体を両断し、古城を袈裟斬りにした攻撃の正体。それは魔力を帯びた飛ぶ斬撃だった。

 剣の達人でもない兵器が斬撃を飛ばす。ただでさえ厄介なナラクヴェーラが更に反則チート認定された瞬間だった。

 どくどくと血が流れ出す傷口を手で押さえながら古城は苦痛に表情を歪める。傷自体はそこまで深くない。間にナラクヴェーラが入ったことで斬撃の威力が減衰されていたからだ。もし威力そのままだったならば、今頃古城の体は真っ二つになっていたはずである。

 だが、たとえ深刻な傷でなくとも手傷は手傷。傷が再生するまで動きが鈍くなるのは避けられない。そしてその隙をナラクヴェーラが見逃すわけもない。

 深紅の光と戦輪、加えて魔力の斬撃が古城一人に殺到する。傷に意識を奪われていた古城にそれらを防ぐ手立てはなかった。

 

「はあっ!」

 

 束ねた茶髪を揺らして紗矢華が古城の前に飛び込み、煌華麟の能力で攻撃から古城を守る。空間断層の前では飛ぶ斬撃だろうとなんだろうと意味をなさない。虚しく魔力の残滓に解けて消えていった。

 

「大丈夫!?暁古城!?」

 

 最初の頃の余裕をかなぐり捨てて紗矢華が訊いてくる。

 古城は血塗れではない左手を挙げて答える。

 

「なん、とかな。一応、傷は治るから問題ない。それより、そっちはどうだ?」

 

「最悪よ。一基は落とせたけど、二基目には煌華麟が効かなかったわ。多分、斥力場の結界で弾かれたんだと思う」

 

「結界……そうだ、姫柊なら!」

 

 雪菜の持つ雪霞狼ならば如何なる結界障壁であろうと切り裂ける。結界さえなければ紗矢華の煌華麟はまだ通用するはずだ。

 紗矢華もその可能性に思い至り雪菜の姿を探す。

 

「雪菜!?」

 

 雪菜は一人でナラクヴェーラを一体相手取っていた。恐らく少しでも古城たちから注意を引き剥がそうと奮闘しているのだろうが、火力に乏しい槍で挑むのは無理がある。

 

「待ってて、今すぐ助けに──」

 

「待て、煌坂。迂闊に動くと……」

 

 現段階で、ナラクヴェーラが脅威と認識しているのは古城と紗矢華だ。雪菜を全く眼中に入れていないわけではないが、自身を滅ぼし得る古城と紗矢華のほうが脅威度が上であるのは間違いない。

 そして今、その脅威度上位の二人が一ヶ所に固まっている。それ即ちナラクヴェーラにとって絶好のチャンスということで──

 

「なんだ、あれ……?」

 

 女王ナラクヴェーラから射出された物体を視界の端に捉えて、古城は訝しげに天を仰ぐ。

 今まで戦輪が発射されていたハッチとは違う、別の射出口から撃ち出されたそれは、輪ではなく円盤。中心部分が大きく膨らんだ円盤は、地上ではなく上空遥か高くへと飛んでいく。

 見当外れな方向へと飛んでいく円盤に、古城は途轍もなく嫌な予感を覚えた。

 そしてその予感はやはり的中した。

 古城たちの頭上高くを通り過ぎようとした瞬間、円盤が弾けて中から拳大の球体が大量に撒き散らされた。

 上空から落下してくる大量の球体を見て、古城と紗矢華は揃って表情を凍りつかせる。

 ──集束爆弾。俗に言うクラスター爆弾だ。

 容器内に詰め込まれた大量の小型爆弾を上空から拡散させ、広範囲に多大な被害を齎す兵器。そのあまりにも酷い非人道的な殺傷能力から条約で禁止される程に、その威力は絶大だ。だが古代兵器が条約など知る由もなく、殺戮兵器が古城と紗矢華に降り注ぐ。

 

「ちっ!撃ち落とせ、“獅子の黄(レグルス・アウ)──」

 

 降り注ぐ大量の小型爆弾を撃ち落そうと構えた古城の右肩が、真紅の閃光によって抉り取られた。

 

「あぐぁ!?」

 

「暁古城!?」

 

 激痛に古城が膝を折る。そこへ情け容赦ないレーザーの一斉斉射が襲いかかった。しかしそれらは全て紗矢華が防ぐことで事なきを得た。

 

「くっ、こいつらしつこいんだけど……!」

 

 絶え間なく放たれるレーザー砲を紗矢華は辟易しながら剣を振るう。

 どうしたことか、ナラクヴェーラたちはここぞとばかりに古城と紗矢華を攻め立ててくる。おかげで紗矢華はレーザーへの対処で手一杯。古城に至っては負傷でまともに動くこともできない。

 そこへ追い打ちとばかりに落下する爆弾の雨あられ。古城と紗矢華に、それらを防ぐ手立てはなかった。

 次の瞬間、古城と紗矢華の姿は爆弾の嵐に呑まれて消えた。

 

 

 ▼

 

 

「先輩!?紗矢華さん!?」

 

 爆音と共に巻き上がる粉塵に呑まれて消えた二人に、雪菜は血相を変える。相手していたナラクヴェーラを強引に振り切り、形振り構わず爆心地へ走り出す。

 爆撃を受けた場所に辿り着いた雪菜は、目の前に広がる惨状に言葉を失った。

 人口の大地に直径三十メートルは下らない大穴が穿たれていた。

 これまでの激しい戦闘によって増設人工島(サブフロート)には尋常ではない負荷が掛かっていた。それに加えてこの島は中空構造であったため、ナラクヴェーラの爆撃に耐え切れず表層が崩壊。最下層まで直結する大穴が開いてしまったのだ。

 正確な深さは知れないが、人間が落ちて無事に済む高さでないことは確かだろう。いや、下手をすれば命を落としてもおかしくない。

 血の海に横たわる古城と紗矢華を思わず想像してしまい、雪菜が表情を蒼白にさせる。

 

「早く助けに……」

 

「待て、転校生」

 

 今にも穴の中へと飛び込まんとしていた雪菜を、少し舌足らずな声が止めた。

 雪菜のすぐ隣。なにもない虚空を揺らして黒いドレス姿の少女が歩み出る。特区警備隊(アイランド・ガード)の避難に当たっていた南宮那月が戻ってきたのだ。

 那月はぽっかりと開いた大穴を一瞥すると僅かに顔を顰める。

 

特区警備隊(アイランド・ガード)の避難を終わらせて来てみれば、今度は奈落の底へ真っ逆さまか。あいつもつくづく運がない」

 

「そんなことを言ってる場合ではありません。早く助けにいかないと二人が……」

 

「落ち着け、姫柊雪菜。あいつがそう簡単にくたばるわけがない。舞威媛のほうも、どうせあの馬鹿が庇っているだろうさ。自分の身を呈してでも」

 

 そう言う那月の表情は形容し難い複雑な感情を浮かべていた。だがそれもすぐに引っ込み、いつもの傲岸な態度が表に出てくる。

 

「連中はその内自力で這い上がってくる。それよりも、私たちはガラクタどもの相手だ」

 

 那月の目が捉えるのはナラクヴェーラたち。最も脅威度の高い二人をロストした殲滅兵器は、次の目標を探さんと触角のようなセンサーを頻りに動かしている。このまま放置していれば古代兵器の目標が絃神島にされるのも時間の問題だ。

 それは非常に不味い。なんの関係もない市民を巻き込むことだけは避けなければならない。

 雪菜は古城と紗矢華を助けたいという思いを堪えて、自らの銀槍を構える。そこへまるで散歩でもしているかのような気軽さで青年貴族が現れた。

 

「ふむ、あれの相手をするというのならボクも混ぜてもらおうかな。古城もいないことだしね」

 

「アルデアル公!?」

 

 古城がいなくなった途端に嬉々として舞台へ上がってきたのは戦闘狂(バトルマニア)ディミトリエ・ヴァトラーだった。

 ヴァトラーはまるで最高の料理を前にしたかのように艶やかに舌舐めずりをする。そんな青年貴族を冷ややかに睨みつけて、しかしやがて嘆息を洩らす。

 

「勝手にしろ。だが、本島のほうには一切手を出すな」

 

「南宮先生!?」

 

 まさか許可を出すとは思ってもみなかった雪菜が驚愕の声を上げる。那月は心底忌々しげに片眉を吊り上げると、

 

「どうせ言ったところでこいつは勝手に暴れるに決まってる。なら目の届く範囲に置いておいたほうがマシだ」

 

「よく分かっているじゃないカ」

 

 くふふっ、と邪悪に笑うヴァトラー。彼にとっては絃神島も市民も二の次三の次。強者との死闘こそが彼にとっての至高だ。

 そんなヴァトラーの異常さに軽く戦慄を覚えながらも、雪菜はナラクヴェーラと対峙する。

 

「私があのデカブツを相手する」

 

「ならボクはあそこで固まっている二つをもらおうかな」

 

「わたしはあそこの一基を止めます」

 

 それぞれが己の敵を見繕い、戦意を滾らせる。

 扇子を構える那月。魔力を漲らせるヴァトラー。そして雪霞狼に呪力を流し込む雪菜。異色とも言える組み合わせの三人が、若干目的は違えどナラクヴェーラを敵と認めて今ここに立った。

 アクシデントで舞台から落ちた主役(古城)の代わりに、代役にしてはあまりにも強すぎる助っ人が参戦するのだった。

 

 

 

 




“空隙の魔女”参戦。
“傍迷惑貴族”参戦。
ナラク「無理ゲー」
絃神島「沈むって」

原作屈指の実力者二人が参戦したら、正直その時点で終わりだと思います。ただ那月は立場やらで本気出せないのでそこまでですが。ヴァトラー?お察しください笑。
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