ちなみに古城くんの原作知識は真祖大戦までにする予定です。
──絃神島十三号
無数の瓦礫に覆われ、未だ破壊の爪痕が消えない
「どこで戦うのかと思ったけど、よりにもよってここか……」
ナラクヴェーラとの死闘を嫌でも彷彿とさせる戦場に古城は顔を顰めた。
「フフッ、誰の横槍も入らず二人きりで雌雄を決するに相応しい戦場じゃないか。ナァニ、
「そういう問題じゃないだろ」
苦り切った顔で言う古城。
黒死皇派のテロ以降、損壊が激しく建造が中止されてしまった
とてもではないが乗り気でない様子の古城に対して、ヴァトラーは今か今かと笑みを深めて身の毛も弥立つ程の魔力を放ち始める。そうなれば古城も腹を括らざるを得ない。
轟! と荒々しい魔力の暴風が吹き荒れる。それだけで二人を取り巻く大気が軋み、戦場に散らばる瓦礫の山が震え始めた。
「嬉しいよ古城。こうして君と殺し合える日を楽しみにしていたンだ……!」
喜悦を滲ませた声音でヴァトラーは心の底から嬉しそうに言う。相対する古城は沈黙。片時たりとも目の前の男から目を離すまいと全神経を集中させている。
「さあ、心ゆくまで楽しもうじゃないカ。我が愛しい
ボルテージが最高潮まで高まった瞬間、魔力の嵐が呼水となって眷獣を呼び起こす。
轟々と燃え盛る灼熱の大蛇。ただ存在するだけで大気を焦がし、コンクリートを溶かし尽くす災厄が鎌首を擡げる。
相対するは眩い雷光の金獅子。落雷そのものと言っても過言ではない肉体から稲妻を散らし、己が主人の敵を滅ぼさんと雄々しく吼える。
激突は一瞬、いつかの船上での焼き直しのように灼光と雷光が衝突する。凄まじい衝撃の余波が
たった一度の衝突で天災並の破壊が齎される。しかし構わず二人は続けざまに己の眷獣を召喚した。
「──“
「──“
緋色の
災害級の衝撃波を浴びせられながらも耐え抜いた剣の大蛇が一転して攻性に移る。鋭い刃に覆われた蛇体を畝らせ、古城の肉体を細切れにせんと降下する。
迫り来る剣の蛇体に対し古城は臆することなく己の手札を切った。
「喰らい尽くせ──“
横合いから巨大な双頭の龍が剣の大蛇に喰らい付く。
大蛇を喰らった龍は喰い足りぬとばかりにヴァトラー目掛けて襲い掛かる。深淵よりもなお昏い闇を湛えた顎門をもって、青年貴族を次元ごと喰らい尽くさんと羽ばたいて──
「“
新たに呼び出された二体の眷獣が左右から双頭の龍を挟み込んだ。
三体の眷獣は怪獣映画もさながらの激突を繰り広げた後、互いに力尽きたように物言わぬ魔力へと還った。
苛烈な攻防が唐突に止み、静寂が場を支配する。両者ともに大したダメージもなく、一見すれば互角の戦いにも見えただろう。
しかし実際の所は違う。十全に扱える
だが、そんなことは古城とて百も承知の上だ。
元より吸血鬼として重ねた年季が違う。如何に第四真祖という仰々しい肩書きを持っていたところで、吸血鬼としては中途半端な知識を持つだけの素人と変わりない。
それでもなお、古城は諦めない。守らなければならないものがあるから。何より、暁古城ならば決して退かず、如何なる逆境をも切り抜けてみせるはずだ。
ならば──“まがいもの”に敗北など許されはしない。
ミシリと古城を取り巻く大気が軋みを上げる。代償なしで行使できる眷獣は見せ尽くした。ここから先は札の数や強さではない、
「まだまだ、此処からだろう? ボクを魅せてくれ、古城!」
ヴァトラーは古城の考える所を理解しているのか、期待に満ち満ちた表情で古城の出方を待っている。
戦闘卿の期待に応えるのは業腹だが、文句を言っていられる状況でもない。古城は己の脚を人工の大地に叩きつけた。
「
瞬間、古城たちが立つ大地が凄まじい突き上げを受けたかのように揺れ動き、彼方此方で間欠泉の如く衝撃波が噴き上がった。無数の瓦礫と夥しい塵煙が宙空へと舞い上がり、数秒もせず雨霰と降り注ぐ。
古城もヴァトラーも並大抵の吸血鬼ではない。たかが瓦礫の雨に降られようと対処など容易なことだ。現にヴァトラーは己の眷獣をもって落ちてくる瓦礫と視界を覆う塵煙を一瞬で消し飛ばした。
だがその一瞬、塵煙により視界が切れ瓦礫の対処に僅かな注意を向けた。その一瞬だけを古城は求めた。
──稲妻が瓦礫を突き破って駆け抜けた。
それは右腕に尋常ではない量の雷を蓄えた古城だった。
だが無茶をした甲斐はあった。
身体ごと雷を帯びた右腕をヴァトラーに叩き込む。然しものヴァトラーも避けること叶わず、古城諸共凄まじい勢いで瓦礫の山に突っ込んだ。
砲弾の役目を果たした古城は全身を打ち付けながら墜落、激痛を発する右腕を庇いながら立ち上がる。叩き込んだ右腕は不自然な方向に曲がっていた。
まともに人間砲弾を受けたヴァトラーと言えば、自身を埋もれさせる瓦礫を力ずくで吹き飛ばし、血濡れた顔に満面の笑みを浮かべていた。
「やってくれたじゃないカ、古城……! 」
言葉面だけ取れば怒っているようにも聞こえるが、実際はその逆。声音には隠し切れぬ喜悦が滲み、口元は裂けんばかりに弧を描いている。
「でも、まだまだこんなものじゃ満足できない。さあ、心置きなく続けよう──!」
雷撃によって至る所を焦げさせながら哄笑を上げるヴァトラー。瞳に満たせぬ渇きと狂気を湛え、嬉々として古城に襲い掛かる。古城もまた、折れた腕を庇いながら青年貴族を迎え撃った。
▼
古城がヴァトラーとの決闘に臨む一方、残された面々もまたそれぞれの戦いを展開していた。
紗矢華とラ・フォリアは巨大な触手群を操るメイヤー姉妹と、キーストーンゲート・ビルの屋上にて交戦。今もなお、魔女の守護者を打ち破らんと奮闘している。
紗矢華たちの戦闘が長引くことはないだろう。何せ古城が前もってメイヤー姉妹の守護者の正体を、那月の考察という形で伝えておいたのだ。彼女たち自身の目で考察に確信が持てたなら即座に勝敗は決する。
問題は雪菜と優麻の戦いだった。
雪菜たちは監獄結界が現出した絃神島北端の錆びた橋付近で対峙していた。空間転移で移動した優麻を雪菜が賢生の力を借りて追跡したのだ。
「少し意外だったかな」
銀色の槍を携え油断なく見据えてくる雪菜に、優麻が首を傾げる。
「てっきり古城を追いかけるものだと思ってたんだけど、どうしてこっちに来たんだい?」
「わたしも、本心では暁先輩の助けに向かいたいです。ですが、頼まれてしまいましたから。“俺が行くまで優麻を止めてくれ”と」
遠く離れた
「……頼まれたから、か。姫柊さんは健気だね。でも、いいのかい? 下手をすれば古城はアルデアル公に喰い殺されてしまう可能性だってあるんだ。同族喰いされてしまえば最後、古城とは二度と会えない。本当に、此処に居ていいのかな?」
雪菜の心を揺さぶるように優麻が言葉を重ねる。
優麻の指摘は事実である。ヴァトラーはかつて己よりも格上の吸血鬼を文字通り喰らい、強大な力を手に入れていた。未熟で不完全ではあるが第四真祖である古城も標的にならないという保証はない。
雪菜も重々理解していた。理解しているからこそ今にも身体は古城の助太刀に駆け出しそうなっているし、押し寄せる不安を完全に留めることはできない。
不安に表情を強張らせながら、しかし雪菜が優麻に背を向けることはなかった。
「確かに、アルデアル公は強大で危険な方です。今の暁先輩では、勝ち目は薄いでしょう。それでも──」
込み上げる不安を断ち切るように槍を構え、決然とした態度で雪菜は言い放った。
「──信じていますから、暁先輩を」
心の底から信頼しているからこその行動。無茶や無謀を繰り返しながら、それでも乗り越えてきた古城ならばきっと大丈夫だ。その度に著しく傷つく道を選ぶ悪癖は矯正すべきだと思っているが。
「きみは強いな。それ程までに古城のことを信頼しているんだね。それとも、古城にたぶらかされて絆されてしまったのかな?」
「た、たぶらかされてなんていません! これはあくまで合理的に状況を判断したまでです! それに、今の優麻さんを一人にするのは危険だと、わたしも思いましたから」
監獄結界を背にして佇む優麻に、雪菜は険しい視線を送る。
「監獄結界の封印を解くには莫大な魔力が必要だと先輩は言っていました。だからアルデアル公を止める必要があるとも。ですが、改めて対峙して確信しました」
優麻さん、と雪菜は問い質す。
「あなたは監獄結界を破る手段を持っていますね?」
「…………」
雪菜の問いに優麻は答えない。ただ薄く笑みを返すだけだ。
答えは期待していなかった。返答がなくとも剣巫としての直感が教えてくれている。故に雪菜は何が何でも優麻を止めなければならない。
「獅子王機関の剣巫として、あなたを止めます。仙都木優麻さん」
「ボクにも止まれない理由があるんだ。邪魔をするなら力ずくで押し通すよ」
監獄結界を背景に剣巫と魔女が激しく火花を散らした。