“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

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難産、とても難産。まだ覚醒してない浅葱が戦場で扱い辛すぎる……。




焔光の夜伯 Ⅵ

 辿り着いた遺跡は密林の奥地にひっそりと佇む霊廟のような建築物であった。

 

 建物内部は薄暗く、夜目の利かない“まがいもの”はライトがなければ進むこともできない。必然的に吸血鬼で暗闇もある程度は見通すことができるヴェルディアナを先頭に進んだのだが──

 

「ひえっ!? 壁から矢がっ!?」

 

「きゃあああ!? 落とし穴! 何で落とし穴があるの!?」

 

「いやあああ!? 天井から蛇がぁ!?」

 

 盗掘者対策に施されたのだろう罠に悉く引っ掛かり続け、見ていられなくなった“まがいもの”が途中で先頭を変わることに。幸い探索用のフラッシュライトを携帯していたため、視界の確保は問題ない。

 

 張り巡らされた罠も、牙城と遺跡探索をこなした経験からある程度は看破できる。とはいえ全てを回避できるほどではないので、時折殺意の高い罠に肝を冷やしながら進んでいく。

 

「うぅ、ごめんなさい。やっぱり私が前に立つの」

 

 情けない声を上げながらもヴェルディアナは矢面に立とうとする。歳上としてのプライドもあるが、怪我をするなら自分の方が取り返しがつくという考えがあるからだ。

 

 吸血鬼ではない生身の“まがいもの”にとって遺跡の罠は致命傷に繋がりかねない。時間が経てばある程度は再生するヴェルディアナと違って、アヴローラ未覚醒状態の“まがいもの”はほぼ只人と変わらないのだ。

 

 矢一つでも危機的状況に陥りかねない以上、先頭に立つのはヴェルディアナの方が適している。適しているが、彼女に任せてはいつまで経っても先に進むことができない。

 

 とある事情からあまり悠長にもしていられない“まがいもの”は、安全よりも拙速を取った。

 

「いや、いいよ。それより先を急ごう」

 

 物言いたげなヴェルディアナを宥め、“まがいもの”は先を急いだ。

 

 張り巡らされた罠を掻い潜りながら進み、地下へと続く階段を幾つか下る。遺跡全体に漂う空気に何処となく静謐なものが混じり始めたところで、“まがいもの”とヴェルディアナは遺跡最奥に辿り着いた。

 

 そこは儀式場のような空間であった。両側の壁に火を灯す篝火が設置され、部屋の最奥には人一人がすっぽり収まるくらいの柩が鎮座している。

 

「此処に、鍵があるのか」

 

「うん。カルアナが代々受け継いできた“柩”の鍵が此処に安置されているの」

 

 此処まで来れば罠もないだろうとヴェルディアナが柩の元へと歩みを進める。“まがいもの”も周囲の警戒をしつつ後に続いた。

 

 部屋の最奥に鎮座する柩には継ぎ目が見当たらない。材質は石のようだが力任せにこじ開けたり、破壊できそうにはみえない。

 

 どのような手段をもって開けるのかと“まがいもの”が見守っていると、懐から小振りのナイフを取り出したヴェルディアナが自らの指先を浅く切った。

 

 赤い血の滲む指先を柩の上に翳し、ヴェルディアナは厳かな表情で口を開く。

 

「カルアナの血脈に連なりし者、“ヴェルディアナ・カルアナ”が、永久(とこしえ)の眠りより招び醒ます。目醒めたまえ──」

 

 何処かで聞いたことのあるような文言を唱えながら、血の雫を一滴振り落とす。赤い雫が柩に落ちると、僅かな間を置いて電子回路のような真紅の紋様が浮かび上がった。

 

 真紅の紋様は柩を中心として儀式場全体に走り、胎動するように明滅する。しばらく明滅を繰り返した紋様は、やがて落ち着きを取り戻したかのように淡い碧色の輝きを放ち始めた。恐らくは生体認証が通ったのだろう。

 

 神秘的な現象を前に“まがいもの”が言葉を失っていると、ガコンと音を立てて柩の蓋がずれ落ちた。柩内部から冷たい銀霧と微かな塵が舞い上がる。

 

 封印を解除したヴェルディアナが柩の中を覗き込む。罠などはなく、それどころか遺体の一つも入っていない。ただ、人が入っていたのであれば丁度心臓があるだろう位置に、白銀の杭のような代物が置かれていた。

 

 一目見て複雑な模様と緻密な術式が刻まれていることが分かる。その手の術式に明るい者が見ればその希少性に目を剥くことだろう。

 

「これが、“柩”の鍵。魔力を無効化し、あらゆる結界障壁を打ち破る、真祖すら滅ぼし得る聖槍」

 

 白銀の杭、その正体は神格振動波の術式を刻まれた天部の遺産。この世に三本しかない貴重な品である。

 

 この杭があれば“妖精の柩”にて眠る十二番目の“焔光の夜伯(カレイドブラッド)”──アヴローラ・フロレスティーナを目醒めさせることができる。アヴローラが目覚めれば選帝者として“焔光の宴”に参加し、上手くいけば奪われた領地と領民を取り返すことができる──

 

「これがあればみんなを取り返せる。あいつを、殺してやれるの……!」

 

 無意識の呟きだったのだろう。思い詰めた表情で白銀の杭を握り締めるヴェルディアナに、“まがいもの”は一歩離れた場所で苦々しげに口端を歪めていた。

 

 ヴェルディアナの思惑は見当外れも甚だしい。彼女がアヴローラを目醒めさせたところで、選帝者として“焔光の宴”に参加することはできないのだ。前提条件から履き違えてしまっている。

 

 宴に参加するには資格が要る。その一つに一定以上の規模を有する領地を所有することが挙げられる。旧カルアナ伯爵領は資格としては十二分な規模を誇るが、既にヴェルディアナの手にはない。

 

 カルアナ伯爵領は死の兵器商たるバルタザール・ザハリアスの支援を受けた匈鬼によって占領された。今となってはネラプシ暫定自治領と呼ばれてしまっている。

 

 ヴェルディアナには賭けの舞台に上がるための元手がなかった。故に“焔光の宴”に参加することは認められない。領地と領民を取り返すことも、できない。

 

 他にもヴェルディアナの目論見が達せられない要因はあっても、叶う要素はほぼない。唯一叶えられるかもしれないのが、ザハリアスへの復讐だけなあたり、本当に救われない。

 

 ヴェルディアナの末路を知っている“まがいもの”は、しかし何も言えない。諦めろと、無駄だと指摘したところでヴェルディアナが受け入れられるはずがないからだ。

 

 何より、ヴェルディアナがいなければ、聖槍がなければアヴローラを覚醒させることができない。延いては確実な筋道で凪沙を救うことができなくなる。

 

 “まがいもの”の目的は凪沙を救うこと。情に流されて優先順位を誤る訳にはいかない。

 

 胸中で湧き上がる罪悪感に蓋をしたところで──遺跡を微かな振動が襲った。

 

「え、なに? なんなの……?」

 

 地震にしては弱い揺れにヴェルディアナは首を傾げる。一方の“まがいもの”は懸念事項が的中したことで表情を強張らせた。

 

「入り口に仕掛けたトラップに誰かが引っ掛かったんだよ」

 

 遺跡に踏み込む前に“まがいもの”は入り口付近に牙城仕込みのブービートラップを仕込んでいた。それが作動したのだ。

 

「あぁ、古城が仕掛けてたやつ。でも、誰が?」

 

「…………」

 

「古城? どうしたの?」

 

 伝えるべきか迷う“まがいもの”に対してヴェルディアナが問う。トラップが作動した以上、侵入者たちとは遠からず接敵することになる。その正体が割れるのも時間の問題だろう。

 

 悩んでいる時間も惜しい。“まがいもの”は牙城から渡されたジェラルミンケースを開きつつ、ヴェルディアナの疑問に答える。

 

「ネラプシ暫定自治領が抱える匈鬼の部隊だ。牙城が引き付けてくれていたはずだけど、陽動がバレたらしい」

 

「ネラプシ……匈鬼って、まさか……!」

 

 侵入者の正体を悟ったヴェルディアナの瞳に激しい憎悪の光が宿る。“まがいもの”はケースの中から取り出した短機関銃にマガジンを装填しつつ、追跡者たちの正体を明かす。

 

「──バルタザール・ザハリアス。追手を差し向けてきた相手だ」

 

「ザハリアス……!」

 

 カルアナ伯爵を戦死させ、カルアナ家衰退の原因を生み出した死の兵器商ことバルタザール・ザハリアス。今はネラプシ暫定自治領の議長の座に就いている、ヴェルディアナが憎悪を募らせる男だ。

 

「どうして、あいつが此処に……」

 

「狙いはそれだよ」

 

 慣れた手付きで短機関銃の準備を整えつつ、“まがいもの”は目線でヴェルディアナの持つ白銀の杭を指した。

 

「世界に三本しかない真祖殺しの槍。兵器商のザハリアスが狙うには十分過ぎる代物だ」

 

 それ以上に、第四真祖を狙うザハリアスにとってアヴローラを──“十二番目(ドゥデカトス)”を覚醒させることができる槍はそれだけで価値のある代物だ。狙う機会があるのならば狙わない理由はない。

 

「一族と領民を奪っただけじゃなく、カルアナの秘宝まで狙うつもり……! 絶対に許さない……!」

 

「落ち着いてくれ、ヴェルディアナさん。そんな有様じゃ、此処から生きて出られないぞ」

 

「……そうね、ごめんなさい」

 

 見た目中学生の“まがいもの”に宥められては然しものヴェルディアナも頭を冷やす。胸中で燻る憎悪の炎は消えないものの、表面上は冷静さを取り繕ってみせた。

 

「でも、大丈夫よ。匈鬼如きが何人集まろうと、私の眷獣で全員蹴散らしてしまえばいいの」

 

「此処が遺跡の中でなかったら、それでよかったんだけどな……」

 

「あ……」

 

 “まがいもの”の指摘で問題点を理解したのだろう。ヴェルディアナは目に見えて動揺した。

 

 ヴェルディアナは吸血鬼としては若いものの、血筋としては“貴族(ノーブル)”にあたる吸血鬼だ。保有する眷獣の能力は強力であり、眷獣を持たない下等な吸血鬼である匈鬼程度ならば、消耗して接近戦にでも持ち込まれない限りは負けないだろう。

 

 しかし此処は遺跡という閉塞空間。真祖の眷獣には遠く及ばずとも、強力かつ体躯の大きい眷獣が暴れようものなら、崩壊して生き埋めになること間違いない。

 

 匈鬼の部隊はそれを理解した上で遺跡内部へと踏み込んできた。眷獣はなくとも異常なまでに発達した身体能力とザハリアスから与えられた兵器があれば、素人同然の女吸血鬼と子供の一人くらい容易く処理できると踏んだのだろう。

 

「ど、どうすれば……」

 

「どうにかするしかないさ。幸い、色々と利用できるものはあるしな」

 

「利用できるもの?」

 

「盗掘者対策の罠。あれを上手く利用できれば、撤退させるか牙城が来るまでの時間稼ぎくらいはできると思う」

 

 最大火力であるヴェルディアナの眷獣が使えないのは痛いが、遺跡の罠を利用できる強みは大きい。罠の中には吸血鬼であっても冷や汗が出る程のものもあったので、匈鬼の部隊相手でも十二分に打撃を与えてくれるだろう。

 

 加えて牙城から手渡された餞別もある。それらを活用すればこの状況を切り抜けることも不可能ではないはずだ。

 

 短機関銃と他にも物騒な携行品で身を固め準備を終えた“まがいもの”は、何をすればいいか分からず所在なさげにしているヴェルディアナに向き直った。

 

「ヴェルディアナさんにも力を貸してほしい。流石に俺一人じゃ、どうしようもないからな」

 

「……! もちろん、なんでも任せなさい!」

 

「頼もしいよ」

 

 心強い良い返事に笑みを溢して“まがいもの”は戯けたように口を開く。

 

「さて、礼儀のなってない客人にはさっさとお帰り頂こうか」

 

 場の緊張をほぐすように言って、“まがいもの”は追手を迎え撃つべく動き出した。

 

 

 ▼

 

 

 MAR附属の医療施設、病院の中庭が激しい爆撃にでも見舞われたかのような惨状を晒していた。

 

 周囲一体には無人の警備ポッドと建物の外壁が無惨な有様で転がっている。幸いなのは人死がまだ出ていないこと。時間が時間なために、警備員たちの到着が遅れているのが原因だ。

 

 とはいえ警備員が何人束になって掛かろうと、この惨状を防ぐことは不可能であったが。

 

 戦場跡の如き有様の中庭に佇む影が一つ。美しい金糸の如き髪を靡かせ、焔光の如き瞳を輝かせる少女だ。

 

 揺らめく焔のような瞳で少女は眼前の建物を睥睨する。MARが有する医療棟のビル、その一角へと細い指先を向けた。

 

 ぞっとするほどの莫大な魔力が蠢き、絃神島上空が稲妻を帯びた雷雲に覆い尽くされる。島一つを飲み込んでしまいかねない程の天変地異、そこから巨大な雷球が指先の示す建物へと降り注ぎ──

 

 ──巨大な雷光の獅子が雷球を一つ残らず喰らい尽くした。

 

「ほう……」

 

 微かに愉しげな声を洩らして少女は中庭へ現れた少年少女を見やった。

 

 数にして四人。槍と剣を構える少女──雪菜と紗矢華は襲撃犯の容姿に目を見開き身を強張らせている。ノートパソコンを携えたほぼ一般人同然の浅葱は、少女が放つ異様な魔力の圧に少なからず臆していた。

 

 医療棟への攻撃を防いだ少年──古城が矢面に立つように一歩前に出る。険しい顔付きで対峙する古城に少女は口端を吊り上げて笑みを深めた。

 

「昼間ぶりだな、暁古城。いや、“まがいもの”よ。少しは見れる顔付きになったか?」

 

「……なんで、あんたが知ってるんだよ」

 

 少女の発言に面食らう古城。己が“まがいもの”であることを、何故目の前の少女が知っているのか。古城には理解できなかった。

 

「あの日の記憶を失っている故、覚えがないのも仕方なかろう。宴の夜の貴様は実に小気味の良い男であったが……果たして今の貴様はどうかな?」

 

 挑発的な笑みを浮かべて鬼気を漲らせる少女。釣られるように古城も応戦するべく魔力を滲ませ、その前に震えそうな身体を叱咤して雪菜が毅然と歩み出た。

 

「待ってください。あなたはいったい、何者ですか? それに、その姿は……」

 

 問わずにはいられなかった。何せ少女の容姿はつい先日、古城たちが死闘を繰り広げた“原初”と全く同じであったからだ。

 

 大人古城の助力があってやっとのこと撃退できた怪物が、さも当然のように立っている。悪夢のような光景に、実際に槍を交えた雪菜と紗矢華は無意識のうちに強張る身体を抑えるのに精一杯だった。

 

「獅子王機関の剣巫か。後ろのは舞威媛だな」

 

 雪菜と紗矢華を視界に認め、少女は観察するような眼差しを向ける。値踏みするような視線に雪菜と紗矢華は僅かに身動ぎした。

 

(ワタシ)の正体を知りたくば力尽くで聞くがよい……と、言うところだが、“まがいもの”は見当が付いていそうだな」

 

 少女の言葉に雪菜たちの視線が古城に集中する。あからさまな誘導に古城は顔を顰めながら、微かな諦観を交えつつ口を開いた。

 

「“原初”じゃない。あいつが現世に戻ってくることはよほどの異常事態(イレギュラー)が起きない限りはあり得ないからだ」

 

 “原初”は“まがいもの”の、厳密には第四真祖の記憶に巣食った(プログラム)の残滓。本来であれば現実世界に現界することなど不可能な存在。それができたのは闇誓書の能力と、様々な要因が複雑に絡み合ったからに過ぎない。

 

「アヴローラでもない。アヴローラはもういない。俺が、犠牲にして見殺しにしたからだ……」

 

「先輩……」

 

 血を吐きそうな表情の古城を雪菜が案じる。紗矢華と浅葱も痛ましげにその姿を見守っていた。

 

 ただ一人、対峙する少女だけは酷く詰まらなさそうな、不愉快そうな表情を浮かべていた。

 

「“原初”でもアヴローラでもない。その上で真祖に匹敵、あるいはそれ以上の魔力と鬼気を有する吸血鬼。加えて他者への変身能力まで有する。そんな怪物の正体はわざわざ議論する余地もない──」

 

 “原初”の姿、アヴローラに酷似した容姿を騙る女吸血鬼を睨み付け古城はその正体を白日の下に晒す。

 

「──第三真祖、ジャーダ・ククルカン。中央アメリカの夜の帝国(ドミニオン)“混沌界域”を治める世界最強の一角だ」

 

「変わらぬ慧眼だな、“まがいもの”。まるで先を見通しているかのようだ」

 

 くふっ、と嗤う少女の姿が見る間に移り変わる。年恰好は大して変わらないが儚げな妖精のような雰囲気は消え去り、現れたのは肉食獣を思わせる獰猛さを纏った翠髪の少女だ。

 

 対峙する少女の正体が夜の帝国を治める領主だと判明し、雪菜たちに先程までとは別種の緊張が走る。

 

 世界の軍事バランスを容易く崩しかねない真祖が二人、この場に集ってしまったのだ。下手に争えば国際問題どころか、ジャーダがこの場にいる事情次第では戦争になりかねない。その危険性を少女たちはよく理解していた。

 

「嘘でしょ。第三真祖が“魔族特区”に乗り込んで、戦争でもおっ始めようっていうわけ……!?」

 

 震える声で浅葱が呟くのも無理はない。“魔族特区”育ちで大抵のことは許容できる、流せるといっても限度がある。いきなり戦争、それも宣戦布告もなく開戦となれば尋常ではない混乱が絃神島を襲うことになるだろう。

 

「ふむ、貴様らが望むのならば戦争も吝かではないが、生憎と(ワタシ)も忙しくてな。先に目的を果たさせてもらおう」

 

「させると思うか?」

 

 ジャーダの狼藉を防がんと古城が立ちはだかる。対するジャーダは怪訝そうに片眉を上げた。

 

「致し方ないとはいえ、貴様が(ワタシ)の行手を阻むか……まあ、よい。“まがいもの”の器も測りたいと考えていたところだ。遊んでやろう」

 

 ズンッ、とジャーダから放たれる重圧が増す。今この瞬間、絃神島全域が第三真祖の放つ魔力の圧で軋みを上げた。吸血鬼の真祖とはそれ程までに理不尽な存在なのだ。

 

 対峙する雪菜たちが受ける重圧は凄まじいもの。心身共に鍛え上げられた雪菜と紗矢華ですら膝を屈しそうな圧力である。度胸は人一倍でも肉体は一般人と大差ない浅葱はその場に膝をついてしまった。

 

 此処にいたら足手纏いになる。情けなさと不甲斐なさに浅葱は涙が溢れそうになって、ふっと伸し掛かる重圧が軽くなった。古城が応じるように魔力を解き放ち、ジャーダの圧から浅葱を庇ったのだ。

 

「心配するな、浅葱。絶対に守り抜くから」

 

 肩越しにちらりと振り返って古城は安心させるように微笑みを零した。

 

 古城の本音を語れば、浅葱には安全圏に引いてほしかった。しかし今の絃神島において、浅葱が絶対に安全な場所はない。この場から離脱させても浅葱の身を狙う、接触を図ろうとする輩がいるからだ。

 

 浅葱本人はまだ知らない、気付いていないこと。原作知識で知っている古城は、浅葱を一人で後方に残す選択が取れなかった。浅葱自身が古城たちについていくことを選んだのも大きいが。

 

 絶大な電子戦能力を有するとはいえ肉体は何処にでもいる女子高生に過ぎない。そんな浅葱を守りながら、明確な格上であるジャーダに太刀打ちできるのか。

 

 

 ──できる、できないじゃない。やるしかないんだ……! 

 

 

 器を試す、遊ぶなどと宣っているが期待外れと断じれば容赦なく切り捨てるだろう。対峙するジャーダから滲み出る圧力が雄弁に語っている。

 

 彼我の実力差は歴然。未だ己の過去に向き合う覚悟はないまま、それでも“まがいもの”は挑まざるを得ない。

 

「さあ、宴の続きを始めよう──」

 

 目を背け続けた過去が“まがいもの”に牙を剥いた。

 

 

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