“まがいもの”の第四真祖   作:矢野優斗

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お久しぶりでございます。
長らくお待たせした上、実はまだ書ききれていないのですが……モチベが上がってるうちに投稿していきます。


愚者の暴君
愚者の暴君 Ⅰ


 薄暗い石造りの部屋に鎖が軋む音と、年若い少女の怯えた声が響く。音と声の発生源は部屋に据え置かれた簡素なベッド。無数の鎖にその身を縛められた少女がベッドに縛り付けられていた。

 

「いや……止めて……!」

 

 全身を鎖で縛られ身動きを封じられた挙句、ベッドに繋がれた少女──煌坂紗矢華は恐怖に震えながら懇願する。普段の彼女であればここまで怯えることもないのだろうが、しかし今回は状況と相手が悪かった。

 

「助けて……雪菜ぁ……!」

 

 自身の得物たる“煌華麟”は手元になく、呪術の類はこの部屋に連れ込まれた時点で封じられた。そして極め付けは石室の壁に掛けられた拷問具の数々。矢鱈と使い込まれた感のあるそれらが、紗矢華の恐怖心をより一層掻き立てた。

 

 否、最も紗矢華を恐怖させているのはそんなものではない。ベッドの傍らに音もなく立つ、矢鱈と豪奢なゴシックドレスを纏った少女──南宮那月こそが、紗矢華を恐怖させる根源だった。

 

「わ、私に何をするつもり? まさか、拷問して獅子王機関の秘密を探る気? 何をされたって私は口を割ったりしないわ!?」

 

 気丈に振る舞い精一杯睨み返してくる紗矢華を、“空隙の魔女”こと那月は冷ややかに見下ろす。そして徐に扇子を掲げると──

 

「さっきから喧しいぞ、ポニテ娘」

 

「あいたっ!?」

 

 身動きできない紗矢華の額に扇子の一撃が振り下ろされた。

 

 絶妙な加減の一撃に紗矢華は涙目で悶絶する。扇子を振り下ろした当の那月は阿呆らしいと言わんばかりに溜め息を吐いた。

 

「ちょっと縛られたくらいで騒がしい奴だ。少しは藍羽を見習え」

 

 言って那月は紗矢華の隣を扇子で指し示す。

 

 紗矢華の隣には同じようにベッドが置かれていた。その上には鎖でベッドの柵に繋がれた浅葱がいる。

 

 那月の指摘に紗矢華は異議あり! と言わんばかりの勢いで口を開く。

 

「ちょっとどころじゃないんですけど!? 藍羽浅葱はベッドに繋がれてるだけで、私は全身縛られてるんですけど!?」

 

 紗矢華と浅葱は二人とも用意されたベッドの柵に鎖で繋がれている。そこは共通していた。

 

 しかし矢鱈滅多と縛られている紗矢華に対し、浅葱は手首と足首を鎖でベッドの柵に繋がれているだけ。その鎖も随分と余裕があり、寝返りも打てれば上体を起こすことだってできる。現に身体を起こした浅葱は紗矢華のことを残念なものを見るような目で見ていた。

 

 紗矢華の文句に対して答えたのは浅葱だった。

 

「自業自得でしょ。あれだけ那月ちゃんに噛み付いて暴れたんだから」

 

「いきなり鎖で拘束されたら抵抗するに決まってるでしょ!?」

 

 紗矢華が身動きを取れない程に拘束されたのは一重に抵抗したからであった。

 

 古城の願いを聞き入れた那月に空間制御でこの部屋に連行され、説明もほぼなくいきなり鎖で拘束されそうになった。抵抗するなという方が無理な相談である。

 

 至極尤もな紗矢華の言葉に浅葱も頷きはする。

 

「でもあの流れであたしたちが拷問される理由もないし、それに……」

 

 浅葱の目線が自らの正面の壁へと向けられる。

 

 浅葱と紗矢華のベッドが置かれた壁とは対面、何やら物々しい拷問器具が飾られた壁際に座り込むような姿勢で古城がいた。紗矢華よりも厳重に鎖で雁字搦めにされた姿で。

 

「古城と比べればましでしょ」

 

「……まあ、そうだけど」

 

 思わず納得してしまう紗矢華。それほどまでに古城はガチガチに拘束されていた。

 

 古城は壁に背を預け腕をやや持ち上げた体勢で拘束されていた。指先程度は動かせそうだが、その場から立つことも姿勢を変えることもできない。まるで凶悪な囚人の如く鎖で縛められている。

 

 この部屋へ案内されて最初に拘束されたのは浅葱でも紗矢華でもなく古城だ。その古城が文句を言うこともなく粛々と拘束を受け入れた以上、浅葱も抗うことなく受け入れた。古城に比べて殆ど拘束されなかったというのもあるが。

 

 対して紗矢華は拘束を嫌い、抗った結果全身を拘束される羽目になった。自業自得とも言えるが、何の説明も受けずに拘束を受け入れる古城の方が少数派であるのも間違いない。

 

「あなたは文句とかないわけ、暁古城?」

 

「……あぁ、うん。そうだな」

 

 文句の一つも言わず、何故か紗矢華と浅葱の方を見ないように明後日の方角を見つめながら、古城は歯切れの悪い返事をする。

 

「これはあくまで善意の忠告なんだが、縛られてる状態で暴れるのは止めたほうがいいぞ。その、服とか色々大変なことになるから」

 

「へ…………っ!?」

 

 古城の発言の意図を理解して一瞬で首元から耳筋まで真っ赤になる紗矢華。隣の浅葱も僅かに頬を赤らめつつスカートの裾を手で抑えた。

 

 紗矢華と浅葱は古城に足を向けるような形でベッドに乗せられていた。そして二人とも揃ってスカートを履いている。それはつまり、古城の位置からだとスカートの中身が見えてしまうということだ。

 

 加えて紗矢華は割ときつめに拘束された状態で暴れ回ったため、スカートどころかシャツやら何やらまで捲れてしまっており、目の毒を体現したような有様になっていた。

 

「こ、この変態吸血鬼! こっち見たら殺すわよ!?」

 

「見てないから。誰でもいいから煌坂の服を直してやってくれ」

 

 幸いにも古城は浅葱の下着も、紗矢華のあられもない姿も視界に収めていない。正面にベッドが二つ用意された時点で嫌な予感を覚え、浅葱と紗矢華が拘束され始めるや否や既に顔を背けていたからだ。

 

「わたしが直しますね、紗矢華さん」

 

「雪菜……!」

 

 鎖で拘束されて動けない紗矢華の乱れた衣服を、何故か拘束されていない雪菜がテキパキと直す。愛しい妹分の登場にそれだけで紗矢華は荒んだ心が癒やされていった。

 

 そんな雪菜と紗矢華のやり取りを何処かしらけた目で見つつ、浅葱は疑問を投げ掛けた。

 

「ねえ、どうして姫柊さんは拘束されてないわけ?」

 

「はあ? 雪菜を拘束とか絶対にさせないんですけど? あ、でも囚われた雪菜を私が颯爽と救出するみたいなのはしてみたいかも」

 

「……煌坂さんって、姫柊さんが絡むと色々とヤバいわね」

 

「普段は割としっかりしてて頼れるんだよ……」

 

 ドン引きする浅葱に古城が苦し紛れのフォローを入れるが限度がある。紗矢華の重篤なシスコン振りを払拭することはもはや不可能だろう。

 

 医療施設の待合室で古城を鼓舞し、ジャーダから命懸けで浅葱を守り通した紗矢華は何処へ行ってしまったのか。しみじみと古城は胸中で嘆いた。

 

 そんな少年少女たちのコント染みた様相を見物していた那月。いい加減飽きてきたのか、扇子をピシャリと鳴らすといつもの傲岸不遜な態度で口を開いた。

 

「転校生を拘束していない理由も、これから何をするかも説明する。分かったら静かに、大人しく、私の話を聞け」

 

 ──小学校の集会か何かか? 

 

 古城たちの内心がシンクロしたが、それを口にする勇者はいなかった。那月の冷たく鋭い眼差しが、口答えするなと雄弁に語っていたからだ。

 

 静かになった古城たちを見回し、那月は虚空から一冊の魔導書を取り出す。つい先日、那月と古城を子供にした元凶たる固有堆積時間(パーソナルヒストリー)操作の魔導書だ。

 

「今からこの魔導書を使って暁の記憶を復元する。厳密には、暁が過ごした時間の追体験と共有だな」

 

 古城の記憶は“焔光の宴”における記憶搾取によって著しく欠損している。尋常の手段ではそれを復元することは出来得ないが、古城が体験した時間そのものを追体験するという形であれば記憶の復元が可能となる。

 

「だが、魔術耐性の高い真祖にはこの手の呪いや魔導書が通り辛い。だからこの場にお前たちを招いた。私の庭である、この監獄結界にな」

 

 監獄結界は那月の夢の中の世界。数多くの凶悪犯罪者を閉じ込める監獄は、収監した者の能力を著しく制限することができる。それは真祖であっても例外ではない。

 

 自分たちが連行された場所が判明し、紗矢華と浅葱はきょろきょろと周囲を見回し始める。監獄の一室と言われれば、なるほど確かにと頷ける内装だった。

 

 因みに古城と雪菜は空間転移した時点で気付いていた。古城は原作知識で、雪菜は以前に優麻と共に踏み込んだ経験から察した。

 

「そしてお前たちを拘束したのは下手に動かれると危険だからだ」

 

「危険ってどういうこと?」

 

 此処が那月の夢の中、監獄結界であるのならば囚人たちが脱獄でもしない限り危険な要素などないはず。浅葱には那月が何を指して危険と言ったのか理解できなかった。

 

 首を傾げる浅葱と紗矢華にも分かるように那月は古城へと扇子を向けた。

 

「あそこの馬鹿者は曲がりなりにも第四真祖だ。意識がない状態で魔力の暴走など引き起こして巻き込まれてみろ。大怪我では済まないぞ」

 

「ベッドの下に敷かれた防御結界はそういうこと。だったら最初からそう説明しなさいよ」

 

 無駄に抵抗したせいで無駄に縛り上げられた紗矢華が不服そうにぼやいた。

 

 紗矢華と浅葱がベッドに縛り付けられた理由。それは単純に二人の身を守るためだった。古城が縛られているのは暴走を防ぐため、万一暴走しても被害を最小限に留めるためだ。

 

 しかし、それでは一つ説明できないことがある。雪菜だけが拘束されず自由にしている点だ。

 

 紗矢華と浅葱の疑問の気配を察したのだろう。那月がちらと雪菜を一瞥する。

 

「転校生は保険だ。暁の暴走に対する抑止力と、暁の記憶に巣食う怪物への切り札として働いてもらう」

 

「記憶に巣食う……それって、まさか」

 

 紗矢華の顔色がさっと青褪める。当事者として戦ったからこそ怪物の正体にいち早く察しが付いたのだ。

 

「お前たちが討滅した“原初(ルート)”。あれが出てきた時に、転校生には七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)で応戦してもらう。心配するな、監獄結界内であれば私と転校生だけで事足りる」

 

 監獄結界による弱体化と雪菜の“雪霞狼”があれば、如何な“原初”といえど勝機はない。記憶の追体験で無防備になる紗矢華と浅葱、古城に被害が及ぶこともないだろう。

 

「でも、それじゃあ雪菜は記憶の共有ができないんじゃない?」

 

 古城の暴走と“原初”の出現に備えるということは、雪菜は古城の記憶の追体験ができなくなる。自分と浅葱は共有するというのに、雪菜一人だけ除け者というのはあまりにも不公平ではないか。

 

「その役目、私が代わることはできない?」

 

「お前が“雪霞狼”とかいう槍を使えるのなら構わんが?」

 

「それは、できないけど……」

 

 七式突撃降魔機槍こと“雪霞狼”は遣い手を選ぶ特殊兵装だ。紗矢華に雪菜の代わりを務めることは出来得ない。

 

「暁古城の監視役は私じゃなくて雪菜なのよ。それなのに……」

 

「いいんです、紗矢華さん。これはわたしにしかできないことですから」

 

 気遣う紗矢華に雪菜は小さく首を横に振り、柔らかく微笑んだ。

 

「それに、先輩が後顧の憂いなくご自分の過去と向き合えるようにするのも、わたしの役目の一つですから。気にしないでください」

 

「……ありがとう、姫柊」

 

 身動きが取れない体勢で古城は可能な限り雪菜に頭を下げた。雪菜のおかげで古城は何の心配もなく、自身の過去()と向き合うことに集中できる。

 

「話は纏ったな。早速だが始めさせてもらう……前に、最後の確認だ」

 

 紗矢華と浅葱、そして古城の順で視線を巡らせ那月は厳かな口調で問う。

 

「記憶の追体験は、謂わばもう一度過去を繰り返すようなものだ。そこのポニテ娘は他人の記憶を覗き見る程度の感覚で済むだろうが、暁と藍羽は違う。肉体的な苦痛はないが、精神的な苦痛はそのままもう一度味わうことになる」

 

 那月の言葉に古城と浅葱は緊張から表情を固くする。忘れ去られた過去に何があったかは不明だが、つらく苦しい何かがあっただろうことは想像に難くない。

 

「まず間違いなく、つらい体験になる。それでも、お前たちは記憶を取り戻したいか?」

 

「…………」

 

 那月の最終確認に古城は静かに瞑目する。覚悟は既に受け取った。恐れがないと言えば嘘になるが、もう逃げ続けるのは止めたのだ。

 

 決然とした表情で古城は頷きを返す。浅葱も緊張は抜けないままだがしっかりと頷いて意思を表明した。

 

 教え子たちの意思を確認した那月は古びた魔導書を開く。那月の魔力を吸い上げて魔導書が稼働し、複雑な魔術式が組み上げられた。

 

 魔術式の効果が古城たちに作用し始める。記憶の追体験と共有にあたり、意識が薄れ失われた記憶の底へと沈んでいく。

 

 深い眠りに落ちた少年少女たちを見届け、那月は口の中で小さく呟く。

 

「折れてくれるなよ、お前たち」

 

 那月の隣で雪菜が祈るように“雪霞狼”の柄を握り締めた。

 

 

 ▼

 

 

 夕暮れを過ぎた黄昏時。窓から差し込む赤い日差しに照らされながら、“まがいもの”はソファに浅く腰掛け思索に耽っていた。

 

 ヴェルディアナと共に“柩”の鍵こと真祖殺しの聖槍を回収してから一年以上が経過していた。その間、“まがいもの”は暁古城として振る舞いつつ、来る日に備えて準備を進めてきた。

 

 そして数日前、ヴェルディアナが絃神島入りしたことを牙城から伝え聞いた。昨日には裏ルートで持ち込んだ聖槍を狙われ、五番目(ペンプトス)に襲撃されたことも把握している。

 

 今頃は再びの襲撃を警戒して身を潜め、明日にMAR主任研究者としての深森と会合。表向きでの協力は断られつつ、MARにて保管されている“柩”を開ける手引きが秘密裏に行われる。

 

 “柩”が開けば、全てが動き出す。“焔光の宴”がこの絃神島を舞台に始まるのだ。

 

 あと少し、明日には全てが始まる。“まがいもの”も明日に向けて準備を進めていた。

 

 明日は、というかここ数日は毎日、入院している凪沙の見舞いに足を運んでいた。明日も凪沙の見舞いに向かい、そこで“まがいもの”も宴の流れに巻き込まれる。否、自ら身を投じるのだ。

 

 全ては凪沙を救うために──

 

 明日の見舞いに備えて凪沙の着替えなどを用意しようとソファを立ったところで、インターホンの呼び出し音が鳴った。

 

 来客の予定はなかったはず。牙城と深森が帰ってくることもほぼない。ならば宅配か郵便だろうか。首を傾げつつ“まがいもの”は玄関へと向かう。

 

 家主を急かすように鳴る二度目のチャイムに背中を押され、“まがいもの”は玄関扉を開いて来客者を確認して──艶やかなブルネットの髪を靡かせる少女の姿に、言葉を失って立ち尽くした。

 

 去年の夏に会った時と変わらない容姿。表情に若干の疲労を滲ませながら、少女──ヴェルディアナ・カルアナは“まがいもの”の顔を見て安堵の微笑を零す。

 

「久しぶりなの、古城。元気にしてた?」

 

「……ああ、元気にやってるよ」

 

 不意打ち気味の邂逅に胸中で驚愕しつつ、精一杯の笑顔を取り繕って答える。

 

「ヴェルディアナこそ、どうしたんだ? 絃神島に来るなら言ってくれればよかったのに」

 

 内心で自身の白々しさに悪態を吐きながら、“まがいもの”は分かり切ったことを尋ねた。

 

 “まがいもの”の問い掛けにヴェルディアナは僅かに逡巡するように目を逸らし、やがて意を決したように“まがいもの”を真正面から見据えた。

 

「古城。急な話で本当に申し訳ないのだけど、力を貸して欲しいの」

 

 事情も何も言わないまま、ただ力を貸して欲しいとヴェルディアナは頭を下げた。

 

 普通ならばまず事情を訊くところから始めるべきだろう。しかし“まがいもの”はヴェルディアナを取り巻く事情を知っており、協力してほしい事柄にも察しが付いていた。

 

 故に──

 

「──分かった。俺でよければ協力する」

 

 なんの躊躇いもなく了承の旨を伝えた。

 

 “まがいもの”の返答にヴェルディアナは驚きつつ、安心したように息を吐く。断られる可能性も考えていたのだろう。目に見えてほっと安堵していた。

 

「ありがとう、古城」

 

「気にしなくていいさ。それより、立ち話もなんだから上がってくれ。詳しい事情も聞きたいしな」

 

「いいの? 暁凪沙がいるんじゃないの?」

 

 名前も顔も知らない女が家に上がってきたら警戒するだろう。加えてヴェルディアナは牙城から凪沙の事情を少なからず聞き及んでいる。吸血鬼である自分が迂闊に近付けば、凪沙がパニックになりかねないことを危惧しているのだ。

 

 気遣うヴェルディアナに“まがいもの”は気にするなと首を横に振る。

 

「いや、凪沙は先週末から入院してるから、今は俺一人だよ。退院も明日以降になる予定だから、鉢合わせる心配もない」

 

「そ、そうなの……」

 

 それはそれでちょっと緊張すると言わんばかりのヴェルディアナの態度に“まがいもの”は思わず苦笑を零してしまう。

 

「あれなら外に出るか?」

 

「大丈夫よ、何も問題ないわ」

 

 威勢よく答えつつ、借りてきた猫みたいな挙動でヴェルディアナは暁宅に上がる。その様子に、鍵は閉めない方が良さそうだと“まがいもの”は内心で呟いた。

 

 リビングへと向かうヴェルディアナの背を眺めつつ、“まがいもの”はこの後の展開を推測する。

 

 ヴェルディアナの頼みの内容は十中八九、“柩”の解放に関連する。原作では済し崩し、成り行きで巻き込まれることになったが、去年の時点で面識を持ったことで筋書きにズレが生じたようだ。

 

 ズレ自体は問題ない。既に牙城と深森に情報を渡して協力関係を結んでいるのだ。原作の流れからズレることは諸々承知している。

 

 重要なのは目的を違わないこと。暁凪沙を救うために絶対に必要な条件を必ず達すること。そこだけに気を払えば、後はどうとでもなる。

 

 だから、この場でヴェルディアナの手を取るのも何も問題はない。そう自分に言い聞かせて、廊下のど真ん中で挙動不審に陥っているヴェルディアナの元へと足早に向かった。

 

 

 

 

 

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