出撃前夜――それはIS学園に対してスコール率いるチームの全員が作戦参加の作戦を控えた深夜である。
IS学園は次開かれるイベントの内容を変更した。
その大会の名称は“トリプルマッチ・トーナメント”。
三対三の生徒対抗戦――それは亡国機業を釣り上げるための囮だ。恐らく三対三も全て専用機であり、すぐに動員させるつもりだろう。
諜報の話によると現在IS学園にはイーリス・コーリングとクラリッサ・ハルフォーフの二名を招集している。どちらも専用機と高い実力を持つ二人であり、IS学園側の本気が伺える。恐らく次で完全に決着をつけるつもりなのだろう。
「……アイン」
ホテルの一室、そこでスコールは夜の街を見下ろしていた。彼女の服装は既にISスーツを着込んでいる。スーツを体に馴染ませることで、コンディションをより絶好の状態へ近づけているのだ。スコール自らが打って出るのは、かなり久しい。
彼女に名を呼ばれた少年も同じように夜の街を見下ろしている。その手は強く握りしめられていて、彼の心が高ぶりつつあることを示していた。
「何だ」
「後悔してないの? 亡国機業に入ったコト。もし入らなかったら、貴方は自由になれてたかもしれないわよ」
あの時、焼け野原となった荒れ地で彼女と出会っていなければ彼は亡国機業へ属していなかった。彼女に手を引かれ、様々な人と出会った。
彼女と出会わなければ、彼がここに立っている事も無かったのだ。
「してないさ。もしオレがあの時アンタに救出されてなかったら、きっとオレは歪んだままだ。そしてどこかで野垂れ死んでいただろうな」
「……そうね、きっと私も貴方に出会っていなかったら歪んだままだった。男なんて皆下らない存在だと卑下したまま死んでいたでしょうね」
スコールはアインの頬に手を当てる。
彼女の手は酷く冷たかった。
「アイン、死なないでね。貴方は――私たちの大切な人なんだから」
「あぁ、生き残る」
「兄さん」
「……マドカか。どうした、眠れないのか?」
マドカに声を掛けられ、アインは銃の整備を中断して彼女に振り向いた。それと同時に、彼女が胸元へと飛び込んで来る。
彼女の背丈は彼よりも低い。故に受け止めるのは容易だった。
「もしもだ。もしも兄さんが名前を取り戻した時、どうする?」
「……」
彼女の言葉に何も返せない。その後を決めるどころか、考える事すらしていなかったから。ただ名前を取り戻すことだけを目的としていたから。
それももうすぐ叶う。ならば、その後をどうするべきか。追い求める事ばかりで、その後を全く思っていなかった。本末転倒もいい所だろう。
「今のうちに伝えておきたい。大事な事を言ってなかったから」
「……何を?」
「兄さんがいなかったら、私は間違ったままだった」
「……」
「何もかも一人で背負い込んで、姉さんに全部押し付けて。そんな日々だったと思う」
マドカが亡国機業に入ったのは、まだ物心がついたばかりだと聞く。彼女にとっては両親の顔や姉弟の事など、最早無くなっているに等しいのだ。
だがそれでも彼女は覚えていてくれていた。彼とその姉の事を、変わらずに思い続けてくれていた。
思えば、ここまでアインが歩いて来れたのも彼女の存在が大きいのかもしれない。
「俺もだ」
「えっ?」
「俺もマドカがいなかったら、千冬姉や束さんを恨んだままだった。あの人に育ててもらった恩を全て蔑ろにして復讐に手を染めるところだった」
「……兄さん」
「マドカ、あの約束は必ず守る。俺は死なない。例え何があったとしても絶対に生き残ってみせる。絶対にお前を一人にしない」
その言葉にマドカは顔を上げて、大きく笑う。そうしてもう一度、彼の胸元へ顔を埋めた。
「まだ起きてたのかよアイン。私はいいけど、アンタは明日激戦なんだぞ。さっさと寝ろ」
オータムの声が響く。彼女もまたアラクネの調子を整えていたらしく、体の骨を鳴らしていた。手先が器用であり、物分かりがいいためか自力でのメンテナンスは彼女が得意とする分野でもある。
銃の整備を終えて、アインは拳銃のスライドを引き動作を確認する。これで彼の準備は整った。残るはコンディションだけである。
「激戦はお互い様だ、オータム」
「かわいくねぇガキだな、ホント」
オータムとの会話に言葉などほとんど必要ない。彼女にとって伝達に必要なのは言葉だけでなく信頼だ。故に、喋るのは最低限の事でいい。
それだけで彼女は何が言いたいのかを分かってくれるからだ。
逆に言えばその考え方のせいで、彼女は亡国機業内でも浮いている。しかし本人が機にしていないならば、杞憂の話だ。
「生き残るぞ、オータム」
「当たり前だろ、アイン」
二人はあの時のように、もう一度拳を交える。それは彼らにとって、最高の繋がりであった。
入浴はコンディションを整える事に対して大きな効果をもたらす。アインはその言葉を信じているし、疑問を持つ事も無い。自身の戦力増強として最優先に行える事が入浴である。
最初の頃はアルカやスコールなどが―彼の意志に構わず―洗っていたが、近頃になってようやく一人での入浴を許可してくれるようになった。
この事は少なくとも彼にとって記憶から消したい事の一つである。彼とて立派な男だ。
「あら、アイン。奇遇ね」
「エヌ……」
「ナターシャ」
「何?」
「ナターシャって呼んで。今は任務の最中じゃないでしょ」
バスルームの一室で、ローブ姿のナターシャを見かける。
彼女の姿は非常に魅惑的であり、アインは視線を逸らす。ISは本人の操縦技術がダイレクトに反映されるため、操縦者の身体能力に比例してISも高くなる傾向がある。そういった確証はないが、少なくとも今までの戦闘経験からアインはそう考えていた。
白い布地のせいか、くっきりと浮かぶ体のラインはまるで挑発するかのようであった。ハニートラップと言う物があるが、彼女はある意味それに打って付けかもしれない。
頬を紅くして目を逸らす彼に、ナターシャは軽く微笑んだ。
「イーリス・コーリングがIS学園に来てる。……いいのか」
「……えぇ、イーリとは結構な仲だけど、覚悟は出来てるわ。彼女は私の大事な親友ですもの。だから私が倒さなきゃいけないの。それが私達の関係よ」
ナターシャはイーリス・コーリングと交戦するつもりである。かつて苦楽を共にした者に刃を向ける事を明確に言ってのけた。
銀の福音は以前よりも格段に強化されており、光を刀身としたブレードが両手に装着されているため、白兵戦では比べ物にならない。刀を持ったアインに対して地上戦で五分間持ちこたえられると言う事実が、その実力を示していた。
――だが、完全に覚悟を決めたと言う訳ではない。彼女にもまた少なからずの抵抗があるだろう。温もりは決断を鈍らせる。
「ねぇ、アイン一つだけ聞かせて。貴方――どこかの研究所に捕らわれた事ある?」
「……」
沈黙こそが肯定の証。彼も彼女もそう考えた。
「私はあの事件の後、夢を見た。研究所の施設で、人を殺す事を強いられていた少年の姿。彼に対して私が思ったのは、無力な自分の弱さだった。どれだけISが強くなったとしても、世界のどこかで苦しんでいる人を助ける事が出来ないのなら、そもそも強い事に意味なんてあるのかしら」
「……それは各々が探す事だ。人に言われて決めるものじゃないし、一言で済ませられるものじゃない」
「そうね。だけどまだ時間はあるわ。だから探して行きたいと思ってる。この亡国機業で、この子やスコール達、そして貴方と共に」
「……勝手にしろ」
顔を俯かせながら去っていくアインの姿をナターシャは面白そうに微笑む。
彼が早歩きでその場を歩いていく光景は、酷く新鮮だった。
「……アイン様、ご気分の方は」
「問題ない」
アルカから点検されていた銃を受け取り、再び自身の中に圧縮する。これで完全に準備は整った。体調も良好で、この調子ならば不足は無い。後は明日になるのを待つだけである。
彼は何度か右手を握る。そこに何か無いかを確かめるように何度も拳を開閉させた。
「……アイン様、まさか」
「あぁ、使う。容赦はしない」
「……分かりました。止めはしません。……どうかご無事で」
「アルカ?」
ふと彼女の声が震えた。今までそんな声音を聞いた事が無い。淡々として、だが時には温かくて。それが彼女だった。
しかし、今は震えている。何かを恐れている。
「私は……私は、人の心と言う物がよく理解できません。何故人は泣いているのか、何故人は悲しんでいるのか、何故人は喜ぶのか」
「……」
「本を読んで知ろうとしても、私にはその内容は断片的にしか分かりません。様々な感情を持つ人の心は、私にとってとても羨ましい物でした」
アルカは人ではない。
初めて彼女と出会いその経緯を言われた時、アインとて最初は驚いたものだ。人を超越し凌駕した存在。アインやスコールですら適わぬ領域にいる者。それが彼女だ。
だが今、彼女はアインに忠誠を誓っている。不変かつ永遠の忠義を、彼へ向け抱いている。初めて会った時、彼女は彼に言ったのだ。
彼を不幸に追いやったのは自分であると。彼をこんな事に合わせてしまったのは自分なのだと。だから――どこまでも貴方のお供として傍にいます。
その罪がアルカの心を蝕んでいるのだと、アインは信じて疑わなかった。それが彼女を縛り続けている。彼女の居場所を潰してしまっていると。
彼女は彼の傍にいると言った。だがもしも――。もしも彼女が彼女らしくいられるのなら。
「アルカ、お前は自由になれ」
そう告げていた。
「……アイン様?」
「もうオレに従う必要も無い。お前がお前の生きたいように生きろ。マドカを連れて、千冬姉の下で匿って貰えば何とかなるはずだ。だからもうオレに――」
「――それは違います。私は贖罪のために貴方に忠誠を誓ったのではありません。私が肉体を得た時、私は初めて自分だけで世界を見ました。それは酷く殺伐としたもので、天と地はこんなにも差があるのだと自分の無知を知ったのです。
もっと世界を知りたい。貴方の傍で、共に歩み続けたい」
被せるような声に、思わず閉口する。それは彼女が感情を見せたからだった。普段は玲瓏な彼女が、珍しくその心を露わにした。
「……私は、アイン様を尊敬しています。己を歪だと、間違っていると思える人間は少ないでしょう。もしそう思えるのなら、世界は少なからず静かになっているはずですから」
「それが……オレに忠誠を誓った理由?」
「かつてはそうでした。ですが今は違います。私は……ただ一人の存在として、貴方を愛しています」
アルカの言葉に、アインは少しだけ目を閉じた。彼女の言葉に、ふとした何かが蘇る。それが何であるのかに気づく事は出来なかったが、それでも心が少し温かくなった。
「……そうか、じゃあ約束してくれ」
「約束……ですか?」
握りしめた拳から小指を一本、前へ出す。彼はそれをアルカへと向けた。
何故そうしたかは分からない。だけど、体が自然と動いた。
「オレの傍にいて欲しい。オレがもし、一人になっても。世界から流されて、時間に置いて行かれたとしても」
僅かに口ごもる。恥ずかしさよりも戸惑いが心に生まれた。整えたはずの調子が解けていく。
さらに混乱していくその心を、感触が遮った。小指同士が重なり合っている感覚が、彼に落ち着きを与えていく。
「はい、傍にいます。私達はずっと、貴方の傍にいます」
「……あぁ、ありがとう。アルカ」
アインは携帯電話に残っているデータの履歴を見ていた。別段、何か目的があった訳でもなく、明確な理由もあった訳ではない。ただ何となくと言うだけである。履歴にはほとんど同じ人物ばかりしか載っていない。
その中に一つ、アインはまだ話していない人物の名前を見つけた。
気がつけば、指が勝手に動き出していて、耳に電話を当てれば、彼女の声が聞こえた。
『――何だ、作戦直前にもなって安全装置の外し方でも忘れたのか? 馬鹿弟子』
「違う、そんなのじゃない。ただ貴方に礼を言いたくなった」
『は? ……悪いけどもう一回言ってくれないかい。どうも最近、耳の調子がイマイチなんだ』
「礼を言いたくなった」
声はいつもと変わらない。自身でもその声を冷たいと感じていたし、まるで自分ではない様に思っていた。いつも気持ち悪いと感じていた。
だがこの時だけは――それを忘れられる。誰かと話す時は、孤独ではない時は、ありのままでいられることが嬉しかった。
『……調子狂うねぇ。アンタみたいなガキを捻くれてるって言うんだろうよ。ったく』
「そうか……。だけど、貴方はオレにコイツの扱い方を教えてくれた。オレを甘やかさずに鍛え上げてくれた。有りのままのオレを受け止めてくれる人がいるって事が……嬉しかった」
『……アンタはアレかい。人がいなくなると饒舌になるタイプだな。まぁ……実は言うと、アタシも嬉しかったさ。自分に子供がいたらこんな感じかもしれないなとか思うのが楽しかったしね。けど、その分辛かった。アンタみたいなガキが、人を殺す重みをその年で背負っていくのはね、見ている側も中々辛いモンだよ』
彼女もまたアインを一切手加減せずに仕込んでくれた。その事実を、彼は誇りに思っている。今こうして戦えているのは、彼女から学んだ技術があるからこそだ。
魂を継ぎ、心を習い、技を得る。彼のほとんどは彼女によって作られていると言っても過言ではない。
「あぁ、辛かったけど……それも明日でようやく終わる。だからこうして、貴方に礼を言うために連絡した」
『おいおい、まさかこれで関係が終わりとかつまらん冗談はやめておきな』
「……」
『アタシはアンタの師だ。なら弟子の行く先を見届けるのが師の役目ってモンだろうに』
「……そうだな。オレもまだまだ貴方に教わっていない事がある」
『だからお前はいつまで経っても馬鹿弟子なんだ。そこから先は自分で探せ。憧れにするのはいいが、それを目的にするな』
「……分かった。ならいつか必ず見つける。そう近くないうちに」
『……そうか、だったら悪いけど長話に付き合ってくれ。どっかの馬鹿がこんな時間に連絡するせいで、心が落ち着かない』
カレンの昔話など聞いたこともなかった。
微かな好奇心がアインを刺激する。
「構わない」
『アタシは、ここに来る前に軍にいた……というよりは軍に生まれたと言った方がいいか。国の誇りだとか尊厳だとか、今思えば下らない物のために命を賭けてた。
戦いなんてほとんどない。あるのはいつも同じ訓練ばかり。模擬戦なんてモンもなかった。ただ同じ日々が目まぐるしく過ぎてただけ。
まぁ、軍なんてあるだけで十分な抑止力なんだだが、それを国は良しとはしなかった。さらに強い兵士を作り上げようとしたんだ。歴史上二度も敗戦を経験してたからね。満足できなかったんだろうよ。
だけどそれでもアタシはその国が好きだった。その国で幸せに暮らす人たちを守るのが自分の誇りだと思ってた。……だから自分の体を躊躇なく差し出した。遺伝子強化試験体、それを産むための代理母に志願した』
「……それが」
『あぁ、アタシの娘“ラウラ・ボーデヴィッヒ”だ。だけど一つだけ違うとすれば、父親なんていない』
「……」
『簡単だよ。強い兵士を産むには屈強な肉体が必要なのさ。並の人間じゃまず陣痛で死んじまう。そこでアタシに話が舞い込んで来た。その話を持ち込まれた時は何の疑いもせず嬉々として飛び込んだよ。国のために尽くせるなんて、幻想をほざいてね。
勿論、副作用は出た。まずは髪と目の変色、そして身体能力の異常的な増加と自然治癒速度の異常上昇だ。生身で武装を乱射できるのもそのおかげさ。出なきゃ任務の度に病院行きさ。元々アタシは軍人としては、かなり優秀だったらしい。生まれも育ちも軍だからそりゃ当然だけどね。しかも自然治癒の影響は外見にまで響く。おかげで周りの女どもからは恨まれ放題だ』
「……」
『そしていざ蓋を開けてみりゃこのザマってワケ。娘は取り上げられ、私は国に裏切られた。母の愛情なんて兵士には不要。増してや母親がいて父親がいないなら、その兵器は何らかの心の欠陥を抱える事が予測され、アタシは左遷された。
そいつに真っ当な理由をつけるためかは知らんが、売春とか売国とか裏切りとか身に覚えの無い事ばかりが来歴に積み上がって行き、挙句の果てには刑務所行きの命令まで出ちまった。結局軍から逃亡して、欲に目が眩んだ同胞を大量にぶち抜いて彷徨い続けて……そんなところでスコールに出会ったってコト。どうだい? 中々滑稽な話だろ』
「あぁ、そうだな。貴方がそう思ってるならそうなんだろう」
『言ってくれる。下手なら下手なりに励ましてはくれないのか?』
「……それは今悩んでいる人にする事だ。過去を乗り越えた人にする事じゃない」
『くくっ、違いない』
ちなみにその言葉はアインがカレンから教わった事でもある。
試そうとしていたのか分からないが、彼女なりに話の空気を和ませようとしたのだろう。
電話越しに息をつく声が聞こえた。
『極端な話、別にアタシはお前が名前を取り戻そうがどうでもいいんだ。結局のところ赤の他人だしね、まったく関係ない。……でも、家族が死ぬのは本当に御免なんだ。だから――絶対に生きて帰って来い、アイン』
「……ありがとう、カレン」
『……まだだ。それもう一つ、師匠からの激励をしてやるよ。面倒臭がりのアタシがするんだ。聞いてなかったら、銃弾ぶち込んでやる』
意外にも彼女は話好きだ。以前、スコールが愚痴につき合わされたとぼやいていたが、確かに酒の入った彼女の饒舌っぷりは凄まじい。
『アタシの言葉、覚えてるか。アンタと初めて出会った夜に、教えた言葉だ』
亡国機業に入ってまもない頃、深夜の訓練場で声を掛けてくれた女性。それが彼女との出会いだった。
「己が魂の信じるがままに撃て」
『あぁ、よく覚えてる。それでいい。アンタはまだガキだ。前だけ見てろ、後の事はアタシらが何とかしてやる。
だから――忘れるな。例えこれから先、アタシ達の手を離れても。お前がお前じゃなくなってしまったとしても。いつか、自分自身にケリを付ける時が来たとしても。その魂を、絶対に忘れるな』
「……分かった」
その言葉が、強く胸に残った。
――そうして、運命は激突する。
「……カレン様? どうされましたか」
『あぁ、一つ頼みたい事がある』
「何でしょうか?」
『アインの事なんだが、アイツ――負けるぞ』
「……信頼しておられないと?」
『違う、そういう意味じゃない。多分アイツは戦いの中で冷静さを見失うはずだ。まだアイツは十五のガキだぞ? 願いを前にして抑えられるようなヤツじゃない』
「それは……そうですが」
『それにね、敗北はアイツにとっていい経験になる。こんな年になっちまって初めて気づくんだがガキの頃に自分で気づいた物は絶対に忘れる事は無い。だったら――今のうちに気づかせておかないと、アイツは一生あのままだ』
「……」
『それに気づいているんだろう? アルカ。アインの時間は、スコール達に救出された時から一時も動いてないって事。ずっと、縛りつけられたままだって』
「……はい」
『だから、頼みたい。アイツを、守ってやってほしい。別に手助けしろとか言ってる訳じゃない。ただ、アイツの傍にいてやってほしい。アタシが言いたいのはそれだけだ』
「……分かりました」
『あぁ、ありがとな』