新世紀エヴァンゲリオン ~正義の味方は何を成すのか?~   作:satokun

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番外編のものとは微妙に変わっています。


第1話 彼は変わらない

 

2001年6月6日・・・・・・『御剣翔()』が『碇シンジ()』となった日だ

 

・・・・・・正直言って自分自身でも信じられない

 

『最後の覇龍天翔』を使い、俺は『終焉の化け物(アルカード)』を無へと還した・・・・・・だが、絶大な力にはそれ相応の代償が必要となる。あの一撃の代償に、俺自身も無へと還る―――はずだった

 

だが、何故か意識を取り戻した俺は再び赤ん坊の姿へとなっていた

 

理由なんて全く分からない。始めは混乱したが・・・まぁ考えたところで分かるはずもなく、俺がどうして生きているとか、どうして赤子になっているか、色々と考えるのをやめた

 

どうせ、俺は変わることなどない・・・。俺が目指すのはやはり『正義の味方』なのだから・・・

 

西暦2000年、9月13日。南極に隕石が落下をした。

それにより、隕石が落下した南極大陸は消滅し、バクテリアさえ存在しない死の世界となった。さらに、それに伴う海水面上昇により、多くの沿岸都市が海中に沈み、世界の陸地は激減してしまった。

天変地異により、季節や地盤が変化を起こし、経済は崩壊され、人々の暮らしや社会は混乱した状態となった。

民族紛争や内戦が起こり戦争の一歩前へと人類は追い込まれるが、2001年に各国間で『臨時休戦条約』が締結され、紛争に決着がついた。

2月14日に調印されたことから『バレンタイン休戦臨時条約』と呼ばれている。

 

後に、この『災害』は『セカンド・インパクト』と呼ばれた。

 

それから15年、ようやく復興の兆しが見え始めた。

だが、その平和は脆く崩れ去ってしまう―――人類に再び襲いかかる脅威が目覚めた。

 

「暑いな・・・。あちらだと幾分か涼しかったんだがな」

 

そう呟く少年。

暗い茶髪・・・所謂ダークブラウンと呼ばれる色の髪。その眼は一般からしたらやや鋭いものだ。

白いシャツの裾を肘部分まで捲り、黒いズボンをはいており、世間一般で言う学生が着る制服である。その脇には黒いボストンバックを抱えている。

 

「まさか寝ているうちに電車が止まってて、そのまま取り残されるとはな・・・」

 

少年は苦笑したように呟く。

 

彼が乗ってきた電車は、彼が眠っているうちに何時の間にか止まっており、さらには目的地まで辿り着いていなかった。

そして彼以外の乗客は誰一人とおらず、何時の間にか停車していた電車に彼は一人だけ取り残されたのだ。

眠りから覚めた彼は一先ず状況を把握するために、電車から降りて辺りを散策することにしたのだが・・・・・・意外と早く状況を察した。

 

『特別非常事態宣言が発令されました。住民の皆様は、速やかにシェルターへ避難して下さい』

 

街中に響く警報とアナウンス・・・。

 

「この警報止まらないのか? いや、危険を促すものだから止まるわけないか・・・」

 

勝手に自己完結する少年。

でもな・・・、と呟いて辺りを見回す。

 

もぬけの殻となった街・・・・・・つまり、彼以外には誰もいないのだ。

それはそうだろう。煩わしいほど警報が街に響いている。それは人々に危険を促すものだ。きっと街の人々はすでに安全な場所に避難しているのだろう。

 

ならば何故彼は避難していないのか?

理由は簡単だ。

 

―――避難する場所を知らないのである。

 

「やれやれ、数年音信不通だった親父から手紙が届いたと思ったら、一言『来い』と書かれた手紙と目的地を示した簡単な地図だけとは・・・あまりにも酷過ぎるだろ」

 

やれやれ・・・と手に持つ手紙に嘆息する彼。

そして、その手紙の次にある一枚の写真に視線を落とす。

 

写っているのは美しい妙齢の女性。薄着で色っぽいポーズを決めており、その写真の脇には―――

 

『シンちゃん江。 私が迎えに行くから待っててね♪』

 

手書きでメッセージが書き加えられていた。

 

「葛城ミサトか・・・。面白い人ではあるかもな」

 

苦笑しながら呟く。

理由としては写真の左隅には彼女であろうキスマークがついているためだ。

 

「だが、何処か寂しげな光が秘められているな・・・」

 

そう呟く少年の雰囲気は、先ほどと違って、まるで長年生きてきたような老人のようであった。

 

非常事態宣言発令のため無人となった街を、一台の車が走り抜ける。

法定速度を無視した猛スピードで走る。

 

「参ったわね・・・。あの道路が通行止めになってるなんて」

 

運転席に座るサングラスを掛けた女性が、忌々しげに呟く。

 

非常事態宣言で電車が止まったのなら、恐らくあの駅ね・・・

 

運転をしながら脳裏に素早く進行ルートを浮かべ、見事なハンドル捌きで車を操る。エンジンとタイヤが限界を訴えているが、女性は更にスピードを上げていく。

 

結構ギリギリのタイミングか。不味いわね、もし間に合わなかったら・・・

 

ゾッとする想像に背筋に冷たいものが伝う。

 

「お願いだから、動かないで待っててね」

 

祈るように呟きながら、急カーブを華麗なドリフトで突破する。

すると、車内に強力な遠心力がかかり、助手席に置いてあった鞄から書類の束が零れた。

その一番上にあるファイルの表紙には、ダークブラウンの髪の少年が写っている写真がクリップで留められていた。

やや鋭い眼をしているが、その瞳にはどこから儚げで優しさが秘められていた。

写真に写る制服姿の少年・・・『碇シンジ』であった。

 

「・・・なんだ?」

 

道を歩いていたシンジが不意に足を止めた。

そして、辺りを観察するに見渡す。

 

「―――何か来る」

 

そう呟いた瞬間―――

 

ドンッ!!!!!!!!

 

静かだった街に爆音が響き渡り、振動が伝わってきた。

 

「この爆発と振動はミサイルだな。だが、それとは別の振動も感じ取れる・・・・・・まるで巨大なものが移動しているような地響きだ」

 

シンジの視線は遠くにそびえる山々に向けられていた。

すると、その隙間から、無骨な灰色の戦闘機が無数にが姿を現した。

だが、編隊を組んだ戦闘機らは、何故か後方へ飛行を行っていた。

まるで、何かを警戒しながら距離を取ろうとするかのようにゆっくりと後退している。

 

「軍の戦闘機だな・・・。だが、何から距離を取ろうとしている・・・?」

 

その疑問はすぐに解かれることとなった。

戦闘機に続いて、山々の隙間から巨大な生物らしきものが姿を現した。

 

細い四肢と盛り上がった肩。 首は無いが胸についている仮面のようなものがあり、顔のようにも見える。 全身が緑色である。その姿はどこか人に近い何かを感じるが、全く別の存在―――『使徒』と呼ばれる存在だ。

 

シンジは、逃げることなくその場に留まり、使徒を観察するように見つめる。

数機の戦闘機が、凄まじい数のミサイルや機関銃を火を吹かせていた。

だが―――

 

「全くと言っていいほど効いていないな・・・。まるで不可視の壁でもあるかのようだな。

―――ッ!? ちくしょうがッ!!」

 

様子を眺めていると、使徒は細長い腕を振り上げると、手を広げた。すると、(てのひら)から光の槍のような棒が伸びた。

光の槍は攻撃をしていた戦闘機の一機が使徒の攻撃によって機体の一部を破壊され、墜落してしまった。

パイロットは緊急脱出装置を起動して機体から離れることに成功するが、緊急のパラシュートが展開されず、座席に固定されたまま固い地面へと落下していた。

 

それを見たシンジは近くにある小石を手に取ると、落下してくるパイロットへと小石を投擲した。シンジによって投げられた小石は見事なコントロールで緊急脱出装置を強制的に起動させるスイッチに衝突し、展開されなかったパラシュートを起動させた。

それを確認してから翔はその場からすぐに離れた。

 

翔が先程までいた付近に無人となった機体は制御を失い、地面へと墜落した。その場から離れたシンジは難を逃れたと思われたが、墜落の際に生じた風圧がシンジに襲いかかった。彼は吹き飛ばされぬように下半身に力を込めて、その場に踏ん張った。

一見細身の身体のシンジであるが、その全身の筋肉は良質な筋肉へ変わっており、無駄のなく絞り込まれており、14歳の身体とは思えないほど鍛えられていた。

 

兎に角、それにシンジは風圧に吹き飛ばされることなかったが、更なる脅威がシンジに襲いかかった。

ゆっくりと歩行していた使徒は突如跳び上がると、ゆっくりと後退していた戦闘機の一機を踏み潰した。

それにより先ほど以上の爆風の衝撃がシンジへと容赦なく襲いかかる。

 

「流石にこればかりはこのままじゃ耐えられそうにないな・・・・・・ん?」

 

そう呟いてからシンジはこの場から離れようとすると、一台の車がシンジの前へと現れ、爆風から守ってくれた。

車の運転席側のドアが開き現れたのは、サングラスを掛けた、青い髪の女性だった。

 

「ごめ~ん、お待たせ!」

 

「葛城ミサトさん・・・だな?」

 

「そうよ! 早く乗って! ここにいたら命がいくつあっても足りないわ!」

 

「それには同意するな」

 

そう言って、シンジは近くにいる使徒に視線を移す。

再び進行を始めた使徒は、シンジ達がいる近くを歩行する。

それにより、再び戦闘機らの苛烈な攻撃が開始される。

 

シンジはミサトの車へと走り出した。そして、ミサトの車に近づくと、その場から跳びあがり、車の屋根に片手で側転を行い、運転席側の反対、助手席側に移動して、すぐに扉を開けて席に座る。

いきなりの行動に、一瞬呆けた表情を浮かべるミサトであったが、すぐに意識を切り替えて操縦を行う。

 

「行くわよ!」

 

急発進した車は、猛烈な加速で危険な場所から即離脱をした。

シンジはバックミラー越しに見える光景に顔には出さないが、自然と拳に力が入る。

走り去る車の背後では次々と戦闘機が撃墜していっている。それらほとんどがすぐに爆発を起こし、搭乗していたパイロット達の命は消え去っているだろう。

 

車はそのまま速度を上げ続けて、無人の街を駆け抜けるのだった。

 

巨大なモニターが設置された室内。

 

「馬鹿な!全て直撃の筈だッ!?」

 

巨大なモニターには、あの怪物・・・『使徒』と攻撃を仕掛ける戦闘機、戦車らの姿が映し出されていた。次々と放たれるミサイルや大砲は全く効いた様子を見せずに使徒は悠然と歩き続けている。

 

「こうなれば総力戦だ! ありったけの兵力で奴を迎撃するッ!!」

 

「出し惜しみは無しだ!全て放て・・・ッ!!」

 

三人の軍服姿の高齢の男達は、必死の思いで命令を下す。

軍服姿の男達の胸には数々の勲章が掲げられており、どれほど高い地位についているかが伺えられる。

 

そんな彼らから少し離れた場所に、二人の男は落ち着いた態度でモニターを見つめている。

 

「・・・・・・ATフィールドか」

 

「ああ、使徒に対して通常攻撃では役にたたんよ」

 

白髪の老齢の男性―――『冬月コウゾウ』が静かに呟くと、それにサングラスをかけ、顎鬚を揉み上げまで繋げた中年男性―――『碇ゲンドウ』が頷く。

 

「おやおや、結構な戦力を投入するようだな」

 

「・・・・・・精々時間稼ぎをしてもらうさ」

 

机に肘をつき、組んだ手で口元を隠すゲンドウ。 隠されたその口は、ニヤリと嫌らしい笑みが浮かべていた。

 

使徒へ容赦ない攻撃が続くが・・・・・・効果はない。

そんな光景を繰り返していると、不意に軍服の男達の元に一本の電話が入った。

 

「はい・・・はい・・・・・・分かりました」

 

一人の男がそれを受け、やがて苦渋に満ちた表情で受話器を置いた。

 

「やはり、あれしか無いか?」

 

「ああ・・・許可は下りた」

 

「周辺の部隊を下がらせろ。 巻き添えをくうぞ」

 

軍服の男達は、覚悟を決めた顔でモニターを睨み付けるのだった。

 

無人の街から外れた場所・・・。

そこに車に乗ったミサトとシンジがいた。

 

「どうやらでかい一撃が来るようだな・・・」

 

「え、何か言ったかしら?」

 

静かに呟いたシンジの一言に、ミサトは聞き返す。

 

「ああ、戦闘機らが『あれ』から一気に離れていくみたいなんで、おそらく―――切り札を使うはず」

 

「なんですって!?」

 

シンジの言葉を聞いて、ミサトは急ブレーキを掛けて車を強引に停止させると、大急ぎで懐からオペラグラスを取りだし、シンジの上にのしかかるようにして窓を全開にした助手席から、食い入るように外を覗き見た。

状況を察したのか、ミサトはオペラグラスを持つ手が震え、表情もみるみる青ざめていく。

 

「まさか、N2地雷を使うわけ・・・!?」

 

「N2地雷?・・・様子を見る限りだと、相当な威力のようだな」

 

「相当ってもんじゃないわよ!? 街一つ消え去るほどの爆発よッ!?」

 

「それは随分と物騒だな・・・。だが、今からじゃ逃げ切れないな。少なくとも余波はここまで襲ってくるだろう」

 

「何冷静に判断してるのよ!」

 

やけに冷静なシンジにミサトが語尾を強くして返す。

 

「いや、この状況ではどうすることも出来ないだろ」

 

「シンちゃん!ふ―――」

 

伏せて!とミサトが言いながらシンジの上に覆い被さろうとするよりもシンジの行動の方が早かった。

自身の体を固定しているシートベルトを素早く外すと、隣にいるミサトの体を抱き寄せ、彼女の頭を片腕で優しく覆う。

いきなりの出来事にミサトは驚きで身を固まらせてしまう。

それもそうだろ。子供であるシンジを護ろうとしたミサトよりも早く行動し、逆に護られてしまったのだから驚かない方が可笑しい。

 

「目と口を閉じろ! 舌を噛むぞ!」

 

僅かに声を荒らげたシンジの言葉を聞いて、ミサトが彼の指示に反射的に従った瞬間―――

 

ドォオオオオオオオオンッ!!!!

 

鼓膜が破れるんじゃないかと言うほど爆発音が響き渡った。使徒がいる無人の街から離れてたシンジ達の乗った車にも爆風が襲いかかった。

 

地獄・・・。正にそんな言葉が相応しい光景だった。

先程まで使徒が居た場所には巨大なクレーターが形成され、爆煙と共に凄まじい熱が充満している。

 

「ふははは、勝った!」

 

「N2地雷にはあの化け物も耐えられなかったな」

 

爆発の余波の影響で映像が途絶えたスクリーンを見て、軍服の男性達は勝利を確信した様子を見せる。

 

「残念ながら、君達の出番は無かったようだよ」

 

軍服の一人が、離れて見ていたゲンドウと冬月に向けて、嫌みの籠もった台詞を突きつける。

 

―――だが、軍服達の予想はいとも簡単に崩れ去った。

 

「映像回復します!」

 

オペレーターの報告と共に、再び映像が映し出された巨大スクリーンを見て、彼らは絶句した。

 

真っ赤に燃えるクレーターの中心に、使徒は立っていた。

胸にあった仮面が少しずれると、その裏側から新たな仮面が出現する。だが、それ以外に変化はなく。多少、体表面にのダメージはあった様子だが、致命傷にはほど遠い・・・・・・払った犠牲に対して釣り合わぬ結果だった。

 

「化け物め・・・」

 

「街一つ犠牲にしたんだぞ!」

 

忌々しげに拳を机に叩き付ける軍服の男性。

多大な犠牲を払い、投じた切り札が使徒には通用しなかった。

もはや彼らに打つ手は無かった。 

 

「・・・はい、分かりました」

 

軍服の一人が受話器を置くと離れていたゲンドウ達に向き直る。

 

「現時刻を持って、本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを拝見させて貰おう」

 

「了解です」

 

ゲンドウがスッと立ち上がる。

 

「碇君。我々の兵器が奴に通用しないのは認めよう。だが、君達なら勝てるのかね?」

 

「ご安心下さい。―――その為のネルフです」

 

男の問いかけにスッと立ち上がったゲンドウはサングラスを軽くかけ直すと、自信に満ちた声で答えた。

 

「ふっ」

 

小さく息を吐くと共にシンジはひっくり返ったミサトの車を横に転がして、元の状態を戻す。

先程のN2地雷の爆風により、シンジ達は止めていた場所から30メートルほど離れた場所まで吹き飛ばされていた。

 

「いや~、シンちゃんてば力持ちなのね。結構細身なのに」

 

ミサトは一人で車を戻したシンジを見て、軽く驚きの声のあげる。

 

「これでも一応鍛えてるんで・・・。それに重心さえ捉えていれば、それほど力を入れなくてもこういったものは簡単に動かせますよ」

 

軽く汚れた手をはたきながら何でもないように答えるシンジ。

実際のところシンジ自身が言ったようにそれほど力は入れていない。

それでも―――

 

ふーん。腕の筋肉つきをパッと見ると軽く鍛えてますって感じだけど、よく見るとちょっち普通のとは違う感じがするわね・・・

なんて言うか絞り込まれてるって感じかしら?

 

そんなことを考えながらミサトはあらかじめ渡されていたシンジのプロフィールの書類を思い出す。

 

特にこれといって部活に所属していたわけでも武道を習っていたわけでもない。

それはつまり―――

 

自分で体を鍛えてたわけか・・・

それにしては結構ちゃんとしてるわね

 

探るような視線を向けてくるミサトにシンジは内心で苦笑する。

ミサトもこの場で考えても仕方ないと思い、気を取り直して、何時も通りの明るい表情を浮かべて話す。

 

「まぁ、これで本部に行けるわ。自己紹介がまだだったわね・・・。私は葛城ミサトよ。今はこれくらいでいいでしょ、時間も無いことだしね。それと車ありがとね」

 

「いいですよ、この程度。力仕事は男の役目なので、それに葛城さんのような綺麗な女性を汚すわけにはいかないですから」

 

優しい微笑みを浮かべてそう告げるシンジに、ミサトは軽く頬を染める。

 

「く、口が上手いわね、シンちゃん。そんなに煽てても何も出ないわよ~」

 

照れを隠すためにミサトは軽い口調で喋る。

そして、先ほどの出来事を思い出す。

 

爆風によって吹き飛ばされそうになったとき、ミサトは隣に座るシンジを護るために、彼に覆い被さろうとしたが、それよりも早くシンジがミサトのことを抱きしめて優しく腕で頭を包み込んだ。

頭から感じ取れる優しくもしっかりとした胸板。そこから伝わる暖かな温もりと心が落ち着いてしまうような力強い心音・・・。

年下に抱き締められてたと言うのに、正直ホッとしてしまった自分がいた。

 

それに、あれは反則よね・・・

 

爆風が収まり、転がっていた車も完全に停止した。

そして、しばらくしてから安全だと思ったミサトは閉じていた瞳を開くと、そこには優しく抱きしめながら、優しそうに、それでいて心配する表情でこちら見つめるシンジ。そして、言われた一言・・・。

 

『怪我はないか?』

 

かぁっと紅く染まるミサトの顔。

シンジに抱きしめられたことを思い出して、ミサトは年甲斐もなく、まるで恋する少女のように顔に熱を宿した。

浮ついた気分を落ち着かせるために、一度深呼吸をして、紅くなった顔を元に戻すように努める。

 

私を庇った時といい、言う言葉といい・・・

中身と外見がとても14歳には見えないわね・・・

精神が成熟しているわ・・・・・・ま、この子の過去にことを考えれば、それも無理ないか

 

ようやく落ち着きを取り戻したミサトは考えながら、運転席に座りエンジンをかけようとする。

だが―――

 

プスン・・・

 

そんな気の抜けた音が車体から鳴り響いた。

 

「え゛!? ちょっと!? いや、マジで勘弁してほしいんだけど!! エンジンかからないじゃないの・・・ッ!?」

 

エンジンがかからないことに、ミサトは若干涙目になりながら慌てふためく。

それを見たシンジは苦笑しながらも、一度車体の状態を確認し始めた。

 

パッと見たところ車体はボロボロなだけで重要な破損個所は見当たらない・・・

中身の破損だな・・・・・・この程度なら何とかなりそうだな

 

考えをまとめたシンジは白いシャツを脱ぎ去り、中に着ていた黒いインナー姿へとなり、動きやすい格好となる。

そして辺りを見回し、あるものを探し始める。

 

「どうしよう、どうしよう・・・・・・これじゃあ、シンちゃんを本部まで送れないじゃない。

リツコに頼むしか・・・・・・いやでも、これじゃあ命令違反になるし、ボーナスカットされることも考えらるわね・・・。まだ買ったばかりのこのルノーの33回のローンも修理費もあるし、しかも今日おろしたばかりの服も高かったのに。あぁ~、なんでこんな事に・・・・・・」

 

ミサトはルノーの運転席で呪詛を唱えるようにぶつぶつと呟く。

誰が見ても落ち込んでいる状態なのは確かだ。そのため周りで行動を開始していたシンジの動きに気づいていなかった。

 

ミサトの車同様に爆風によって吹き飛ばされた車は他にもたくさんあり、それにより修復不可能な廃車が斧近辺には存在していた。

シンジは持ち主たちに謝りながら、それらから使えるパーツを抜き取り始めた。

その迷いない動作は熟練の動きを感じさせるものであった。

 

「ホントどうしようかしら・・・。冗談抜きに早く本部に行かなくちゃいけないのに!!」

 

頭を抱えながら今どうするかを考えるミサト。

だが、よほどショックが大きかったようで、まともに思考がまとまらない。

すると―――

 

「葛城さん」

 

思考の波に呑まれていたミサトの耳にシンジの声が届く。

意気消沈している雰囲気を全身から滲みだしながら運転席から降りるミサト。

 

「どうしたの? 悪いんだけど、今はこの状況の打開策を考えているのよ? だから―――」

 

少しじっとしていて、と言おうとしたミサトであったが、それはシンジの方に視線を向けて驚愕する。

 

シンジは両肩にバッテリーを抱え、足元には他に車の部品やケーブルが置かれていた。

 

「今から軽く修理するから、少し離れていてくれないか?」

 

両肩に抱えていたバッテリーを降ろしながらそう告げるシンジ。

顔を上げた瞬間―――

 

「シンちゃん!貴方天才よ!これで本部に行けるわ!」

 

「いや、その前に離れてくれないと何も始められないんだが・・・」

 

あまりの感激にミサトは我を忘れたようにシンジの頭を胸のところに思いっきり抱きしめる。

それにシンジは冷静に返す。

それから数分後、シンジの言葉により冷静になったミサトは誤魔化すように笑いながら離れていった。それ軽く溜め息を吐いてからシンジはルノーの修理を行い始めた。

 

「いや~、色々ありながら此処までこれて良かったわね~。あははは!!」

 

誤魔化すように大きく笑い声をあげるミサトだが、その笑顔は引き攣っていた。

その隣でシンジは軽く嘆息したように溜め息を吐く。

色々とありながらも二人は無事に目的地であった『第3新東京市』に辿り着いた。

ルノーはトンネルを潜ると、中にあった停止位置に止まる。

 

「いや~、ごめんね。つい嬉しくって」

 

「別に構いませんよ、対して気にしてませんから。それに不可抗力とはいえ、女性の胸に触れてしまったのだから」

 

「その割に結構平然としているわね・・・」

 

「まぁ、俺自身そういったものに関心が薄いから」

 

ミサトの言葉にシンジは苦笑しながら返す。

ルノーは施設の機械により運ばれており、後は着くのを待つだけ。

すると、ミサトは思い出したように、バックからパンフレットを取り出しシンジに渡す。

 

「はい、これ。読んどいてね」

 

「特務機関ネルフ・・・ドイツ語で『神経』だったな」

 

「あら、博学なのね? そう、国連直属の非公開組織・・・。私もそこに所属してるの。

ま、国際公務員てやつね。貴方のお父さんと同じよ・・・」

 

「そうですか・・・」

 

「随分と冷めた反応ね・・・。気にならないの、お父さんの仕事は?」

 

「気にならないって言えば嘘になるでしょう・・・。でも、これからそれが知れるだろうし、今ここで葛城さんに問いても無駄ですから」

 

「ミサトでいいわよ、碇シンジ君」

 

「こっちこそ、シンジでいいですよ、ミサトさん。・・・って最初からシンちゃんって呼んでたか」

 

「そうね」

 

朗らかに会話を続けていると、ルノーはモノレールで運ばれてトンネルから抜けた。

そこに広がる光景に流石のシンジも目を見開いて驚きを示した。

 

「ジオフロント・・・」

 

「そう、これが私達の秘密基地。ネルフ本部よ。―――人類の砦となるところ」

 

ドーム型の地下施設があり、天井にはビルが生えており下には自然豊かと思わせるほどに緑が生い茂っていた。中央には、ピラミッドの形をした建造物が立っており上の方にロゴマークが書かれていた。シンボルマークの意匠に取り入れられているイチジクの葉を半分にして『NERV』とかかれていた。

 

「イチジクの葉か・・・。それも半分にして描かれているな」

 

「よくあれがイチジクの葉って分かったわね・・・。普通の子は気づかなわよ」

 

感心した言葉を漏らすミサトに何でもないように話すシンジであったが、何故かそのロゴマークを見て、何処か引っ掛かりを感じていた。

 

ロゴには何かしらの意味が含まれている・・・

無意味にイチジクの葉を使うとは思えないのだが、それもわざわざ半分にして描くとは・・・何かしらの意図が隠されいるのか?

それとも俺の考えすぎか?

 

色々と思考を巡らすが、その僅かな違和感をいつまでも気にしても仕方ない、と思ったシンジはその違和感を頭の片隅へと追いやる。

 

二人を乗せたルノーは、ネルフ本部まで続くレールに導かれるように運ばれていた。

 

場所は変わり、ネルフ本部にある発令所。

先程までいた軍服の男達はいなくなっており、この場での指揮権は現在はゲンドウにある。

 

「国連軍はご退散か・・・」

 

「ああ」

 

冬月の静かに呟いた一言に言動は頷くだけ。

 

「碇司令、どうなさるおつもりです?」

 

金髪の左頬にはホクロがあり、白衣を着たいかにも科学者という風貌のと女性がゲンドウに問う。

ゲンドウは立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「初号機を起動させる」

 

その言葉を聞いて、白衣の女性は驚愕の声を漏らす。

 

「そんな!? 無理です、パイロットがいません!」

 

「問題ない」

 

ゲンドウは、手元にあるモニターに視線を向けながら告げる。

そこには施設の廊下を歩くシンジとミサトの姿が映っていた。

 

「たった今、あいつが来た」

 

「ああ、彼が来たのか・・・・・・乗れるのか?」

 

「問題ない。あいつならば訓練無しでも、実戦可能なレベルまでシンクロする筈だ」

 

モニターに映るシンジの姿を見て、ゲンドウは小さく笑みを浮かべる。

 

「ミサトさん」

 

「なーに?」

 

シンジはミサトの追う形で歩いている。

ミサトは本部の地図を見ながら返事を返す。

 

「迷ったんじゃないのか?」

 

ビクッ!?と肩を震わすミサト。

どうやら図星のようだ。随分と分かりやすい反応をするミサト。

 

「それなら次の曲がり角を右に曲がった方がいいですよ」

 

「えっ?」

 

「さっきチラッと見せてもらった時に確認したんですが、その地図についてる印に行くんだったら、もうとっくに通り過ぎてますよ」

 

その言葉を聞いて、ミサトは歩みを止める。

それに伴い、彼女の後ろを歩いていたシンジも止まる。

 

「ごめん!そこまで教えて!」

 

「やれやれ・・・」

 

振り返ったミサトは両手を合わせて頭を下ろす。

それに肩を竦めるシンジ。

大の大人が始めてくる子供に道を教えてもらうなど、客観的に見てもとても残念な光景だろう。

 

それから数分、シンジを先頭に歩いていると、前から金髪の白衣を着た女性が歩いて来た。

 

「葛城一尉、何故貴方が案内されてるのよ・・・」

 

「リ、リツコ・・・」

 

呆れた顔を浮かべてリツコと呼ばれた女性は、シンジに視線を向ける。

 

「その子ね、例の三人目の適任者(サードチルドレン)って・・・」

 

サード・・・三番目ってことは俺の他に後二人は存在するってことだな・・

まぁ何なのかはこれから自ずとわかるだろう

 

そんなことを考えながらもシンジは目の前にいる女性に礼儀正しく頭を下げると挨拶をする。

 

「始めまして、碇シンジと言います。これからよろしくお願いします」

 

流れるような綺麗な動作で一礼をするシンジにリツコは僅かに目を見開く。

 

「・・・なんかもの凄く好印象な子ね」

 

「そうよ、あの髭とは違うわよ」

 

何故かミサトが胸を張りシンジを褒める。

 

「何でミサトが威張るのよ、あと今の言葉は聞かなかった事にするわ。シンジ君、私は技術一課E 計画担当博士。赤木リツコよ、よろしく」

 

とても14歳には見えないわね・・・

それにあの二人の息子ってわりには面影が感じられないわ

・・・いや、彼から放たれる雰囲気は彼女に似ているかもしれない

 

そんなことを考えるリツコ。

元々、彼女は子供があまり好きではないのだが礼儀正しい態度と子供とは思えない雰囲気を纏うシンジはとても好印象であった。

 

「いらっしゃい、シンジ君。お父さんに会わせる前に見せたいものがあるの・・・」

 

「見せたいもの、ね・・・」

 

僅かに目を細めたシンジにリツコとミサトは気づくことはなかった。

 

リツコに案内の元、シンジとミサトは再び歩き出した。

 

巨大なモニターが、使徒が山の中を悠々と歩く姿が映していた。

 

「司令! 使徒の前進を確認! 強羅最終防衛戦を突破! 進行ベクトル5度修正、なおも進行中!

予想目的地、第3新東京市です!!」

 

女性のオペレーターが、ゲンドウに現状報告を知らせていた。それを聞いたゲンドウは静かに、だが威厳の籠った声で指示を飛ばす。

 

「よし、総員第一種戦闘配置だ」

 

『はい!』

 

ゲンドウの指示に発令所にいるスタッフ全員が力強い返事で頷く。

 

「冬月・・・後を頼む」

 

「ああ」

 

ゲンドウは後ろにある降下リフトに乗ると、ある場所へと向かった。

 

「三年ぶりの息子との対面か・・・。どれ、無事に生き延びれたら私も彼のところに顔を出しに行くか・・・」

 

冬月はそう呟きながら一人の少年を思い浮かべる。

母親と似た雰囲気を身に纏いながらも、達観したような瞳でここではないどこか遠くを見つめており、その瞳の奥には計り知れない覚悟と想いが秘められているように感じられた。

 

「さて、彼がどう成長したのだろうな」

 

周りには気づかれないように少しだけ笑みを浮かべて冬月は小さく呟いた。

 

『総員第一種戦闘配置。繰り返す、総員第一種戦闘 配置』

 

警報機がなり、そう放送が流れている最中、シンジとミサト、リツコを乗せたモータボートは水の上を走っていた。赤い水の上を・・・。

 

この赤い水・・・一見、ただの水に赤い色がついたように見えるが、どこか血のような臭いに似ている

 

紅い水を怪訝な表情を浮かべて見つめるシンジ。

 

『対地迎撃戦、初号機起動用意!』

 

それを聞いたミサトは驚いた様子でリツコに問いかける。

 

「ちょっと、どういうこと?」

 

リツコはモーターボートを操縦しながら答える。

 

「初号機はB型装備のまま、現在冷却中よ、いつでも起動できるわ」

 

「本当に動くんでしょうね?」

 

「起動確率は0.000000001%・・・オーナインシステムとはよく言ったものね・・・」

 

「それってほぼゼロじゃない」

 

「あら、ゼロではなくってよ?」

 

「数値上の話をしているわけじゃないのよ」

 

二人の会話を聞きながらシンジは考える。

 

完全には把握は出来ないが・・・どうやら俺が呼ばれた理由が何となくだが分かってきた・・・

その初号機ってので、あの巨大生物と戦うようだな―――俺が・・・

 

やれやれ・・・、とシンジが溜め息を内心で吐いている最中、ミサトとリツコは会話を続ける。

 

「それで、N2地雷は使徒に聞かなかったの?」

 

「ええ・・・。表層部にしかダメージないわ、目標は依然進行中よ」

 

「やはりATフィールドをもってるみたいね」

 

「おまけに学習能力もちゃんとあって外部からの遠隔操作ではなく、プログラムによって動作する 一種の知的巨大生命体とMAGIシステムは分析してるわ」

 

二人の会話は知らない単語ばかりで会話のほとんどが理解できないシンジであったが、聞いておいて損はないだろ・・・と二人の会話に耳を傾けながらも、周りに視線を向ける。

すると、壁を貫いた巨大な手が視界に入った。

 

随分と大きな手だな、巨大ロボットか何かか・・・?

 

そんなことを考えていると、リツコはモーターボードの速度を緩めはじめ、やがて停止させた。

どうやら目的地に到着したようだ。

 

「着いたわ。ここよ」

 

リツコに案内され、ボートから降りたシンジは階段を上ったところにあった扉を潜った。

 

「暗いから、気をつけて」

 

ある程度シンジが暗い空間に進んでいるのを見て リツコは光をつける。

シンジは暗闇から、突然の光に目が眩むが慣れてくると目の前には巨大な顔があった。

 

「・・・随分と大きな顔だな。巨大ロボットか何かか?」

 

鬼の様な角があり、鋭い目があり、紫でコーティングされているロボットのような顔が視界に入る。

 

「厳密に言うならロボットじゃないわ、人の作り出した究極の汎用決戦兵器―――人造人間エヴァンゲリオン。我々人類、最後の切り札。これはその初号機よ・・・」

 

始めて見たはずなんだが・・・・・・どこか既視感があるな

 

僅かな違和感を抱えながらも、シンジは巨大なロボット・・・エヴァンゲリオン初号機の顔の上にあるガラス張りの部屋にいる人物に視線を向けた。

 

「よく来たな」

 

ゲンドウの声が響く。数年ぶりの親子の対面。

シンジの父親であるゲンドウが、高い場所でシンジを見下ろすように立っていた。

 

「久しぶりだな、シンジ」

 

「ああ、久しぶりだな・・・親父。思ったより元気そうで良かった。親父は全然連絡返さないしな。送った手紙とかは読んでいるのか?」

 

「ああ、読んでいるさ。ただ、返す暇などないのだよ」

 

「なるほどね・・・」

 

とても数年ぶりに再会した親子の会話ではない。

会話が終わったのを見計らって、ゲンドウが小さく告げる。

 

「・・・出撃」

 

「出撃って、零号機は凍結中でしょ?」

 

驚くミサトは隣にいたリツコに慌てながら声をかける。

 

「まさか・・・初号機を使う気・・・ッ!?」

 

「他に道はないわ」

 

感情を荒らげるミサトにリツコは冷静に返す。

 

「でもパイロットが居ないじゃない。レイは安静にしなければいけないし…」

 

「ここにいるわ」

 

リツコはシンジの方を見る。その視線を感じてシンジもリツコと目を合わせる。

 

「碇シンジ君」

 

「はい」

 

「貴方に、この初号機に乗ってもらいたいの」

 

リツコは真剣な眼差しを向けながらシンジに言葉をかける。

それを聞いたシンジは、小さく息を吐くと瞳を閉じて、何か考える仕草をする。

すると、隣で聞いていたミサトが口を挟む。

 

「ちょっと待って。幾らなんでも無理よ! あの綾波レイでさえ、エヴァとのシンクロに7ヶ月かかったんでしょ? この子は今日来て、エヴァを初めて今知ったのよ?」

 

「座っていれば良いわ、それ以上は望みません」

 

「だからって・・・」

 

ミサトはリツコに冷静に言われ言葉を詰まらせる。

今日初めて来たばっかりの少年を戦場に出させる。それは命を落とす行為だ。

それにミサトはここに来るまでシンジと少なからず関わりを持った。心優しい少年・・・それがミサトがシンジに対して抱いたものだ。

そんな彼を戦場に送り出さなければならない。現状はそれしか手段が無くエヴァに乗せて戦わせなければならないという気持ちとそれを否定する気持ちとの間で揺れていた。

 

そんな中、シンジが静かにその(まなこ)を開く。

すると、彼の纏う空気が一変する。

 

『ッ!?』

 

ミサトやリツコ、そして作業をしていたスタッフまでもが息を飲む。

何の動揺を見せていないのはゲンドウだけだ。

 

シンジの纏う雰囲気は鋭く、まるで刀身の如く研ぎ澄まされていた。

 

「状況は全くと言っていいほど理解できないが、やるしかないのはよく分かった。

ならば、やるしかないだろ」

 

そういうシンジ。

その姿はとてもじゃないが14歳には見えない。まるで歴戦の戦士のように堂々としている。

それを見てゲンドウは小さく笑みをこぼす。

 

相変わらずの気迫だな・・・お前は

 

変わらぬ息子に喜びを覚えるが、決してそれを表には出さない。

すると初号機のゲージ内が地震が起きた様に揺れる。

 

「奴め、ここに気づいたか・・・」

 

上を見ながらゲンドウは呟く。

 

使徒は山中歩き続け、国連軍の攻撃を受けながら第3新東京市に到達した。

目の前に街が見えた使徒は、仮面と思わせる顔の目から怪光線を放つ。

街の真ん中に着弾した瞬間、十字架立たせる爆発が起きる。 使徒はこれでもかと何発も目を光らせ怪光線打ち続けた。幾度も攻撃を食らった第3新東京市の下に存在するジオフロントまで爆発の振動が届く。ジオフロントの天井に生えていたビルは爆発により崩れ、ネルフ本部の近くに落ちた。

 

ビルがネルフ本部に落ちた為に衝撃が、ゲージまで届き、ケージ全体が凄い勢いで揺れる。

 

リツコとミサトは揺れに耐えきれずに倒れそうになるが、近くに立っていたシンジが二人を優しく腰に手を添えて支える。

軽く抱きしめられた状態となった二人は思わず、頬を紅く染めてしまう。

回された腕は成長しきっていないながらも頼り甲斐のあるものだと感じてしまう。

 

すると、ゲージの天井の大型の蛍光灯が、揺れにより外れ落下点がシンジ達のいる場所だった。

シンジは、二人を支えながら揺れに微動出せずに立っていると、蛍光灯が外れた音に反応して、視線を頭上へと向けた。

蛍光灯が降り注いでくるのを微動だにせずに眺めていた。

 

「シンちゃん! 貴方だけでも逃げて!」

 

そう言ったミサトと諦めたような表情を浮かべてリツコにシンジは優しく言葉をかけた。

 

「―――大丈夫だ」

 

そのたった一言に体を強張らせていた二人は、安心してしまった。

何故か?と理由を問われたら返すことは出来ないが、強いていいうのなら、シンジの声を聞いて、彼の腕に抱かれて、心の底から安心してしまったからだろう。

 

シンジが迫りくる蛍光灯を見据えながら、二人の腰に回した腕で二人の身体を固定し、両足に力を籠めようとした瞬間―――

 

ザッバァ!

 

ゲージの赤い液体のプールから紫の巨大な手が現れる。

そして、その巨大な手はシンジを護る様に落ちる蛍光灯を手の甲で受ける。

 

『どう言うことだ 拘束具を引きちぎっています!!』

 

作業員達は驚きゲンドウは初号機の手によって弾かれた蛍光灯が自分の方に飛んで来てゲンドウの前にある強化ガラスにぶつかっても余裕の笑みを崩さないでいた。

 

「エントリープラグも挿入してもいないのに、エヴァが動くはずないわ!?」

 

「インターフェイスも無しに反応した?と言うかエヴァが彼を護った・・・?・・・・・・いける!!」

 

リツコは、ややヒステリックを起こした様に計算上あり得ない事が目の前で起きた事に声を荒げ、ミサトは希望が見えたのかのように拳を強く握る。

 

俺を護ったのか・・・? ってことは、俺に関係があるかもしれないな

今は分からないが、いずれ分かることになるだろう・・・

 

シンジは覆いかぶさるように停止した初号機の手を見上げ後、初号機の顔を見ながら考える。

 

「さて、時間もない。さっさと行動を開始しろ」

 

「ああ、了解した。何もせずに死ぬのは御免だからな」

 

冷たく言うゲンドウにシンジは何時も通りの微笑みではなく、不敵な笑みを浮かべてそう告げる。

それを間近でみたミサトとリツコはまたもや頬を紅く染めて、頼もしいシンジの姿に見惚れる。

 

「大丈夫ですか?」

 

すると、二人の腰に腕を回していたシンジは不意にその力を緩めて問いかける。

 

「え、ええ。あ、ありがとうね。シンジ君」

 

「た、助かったわ、シンちゃん」

 

必死に動揺を隠して、大人の余裕を見せて何でもないようにいう二人。

二人の様子が変なのは分かったが、二人が大丈夫だと言うのでシンジは特に何も言わなかった。

ミサトとリツコを支えていた腕を離すと、シンジは二人から離れた。

二人は離れたシンジに悟られないように、必死に早くなった鼓動を落ち着かせる。

そして、気を紛らわすようにシンジについて再び考える。

 

本当に出来た子ね・・・、司令とは正反対の性格ね。紳士的な対応・・・本当に14歳かしら?

 

シンちゃんは何時か女泣かせの子に成長するわね・・・、あの髭親父とは違った意味で・・・

 

リツコはシンジの年齢を軽く疑い、ミサトはシンジの未来を軽く想像する。

 

「さてと、リツコさんは確かE計画担当博士って言っていましたね、それってことはこいつの操作も貴方に聞けばいいんですよね?」

 

「ええ、そうなるわ。今から軽い準備と説明をしたいので私についてきて」

 

「了解した」

 

そう言って歩き出すリツコについていこうとするシンジであったが、その歩みは誰かに掴まれた腕によって止めた。

シンジが後ろを振り返ると、そこには真剣な表情を浮かべるミサトがいた。

 

「シンジ君、貴方これからやる意味が分かっているの? さっきの怪物と戦うのよ!

もしかしたら死んでしまうのかもしれないのよ!?」

 

シンジのことを『シンちゃん』ではなく、ちゃんと名で呼ぶミサト。

それほどまでに今の彼女は真剣で、シンジのことを本気で心配しているのだ。

それにシンジは軽く苦笑しながら答える。

 

「心配してくれるのはありがたいが・・・大丈夫だよ、ミサトさん」

 

「だけど、シンジ君・・・」

 

「出来る出来ないじゃない、やるかやらないかだろ? 男ならな。だったら俺は後悔しない選択をする。ここで俺が戦わないで誰かが涙し、命を落とすというのなら、俺は誰かを護るためにこの手に剣を執る。それが俺の覚悟であり、誓いだ」

 

静かに放たれた言葉。

けれども、その言葉には言い表せないほどの“重み”が感じられた。

『覚悟』。口にするのは簡単な言葉であるが、それに“重み”を持たせるのはそうそう出来ない。

だが、シンジからそれが感じられた。

そして、『誓い』という言葉。決して折れることのない言葉ということで『誓い』と書く。

つまり、今のシンジは何を言われようが、決して折れないということだ。

 

「・・・・・・ふぅ~、恥ずかしいところを見せちゃったわね。流石は男の子、カッコいいこと言うわね~」

 

シンジの言葉を聞いたミサトは一度顔を俯かせたが、すぐに顔を上げた。

その表情は先ほどまでの不安や心配したものではなく、何時もの笑みを浮かべていた。

そして、軽口を交えながら、シンジに絡む。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「行ってらしゃい、シンちゃん」

 

ミサトは笑みを浮かべてシンジの言葉にそう返す。

シンジは立ち止まってこちらを見ていたリツコの元へと歩き、軽く頭を下げる。

 

「お待たせしました」

 

「いえ、いいのよ。いいものが見れたしね」

 

軽く微笑みながら言うリツコにシンジは照れたように自身の頬を指で掻く。

そして、もう一度ゲンドウがいる場所に視線を向ける。

 

「じゃあ、また後でな、親父」

 

シンジは、ゲンドウにそう言い残して、リツコと共にゲージを後にした。

口元に笑みを浮かべゲンドウはゲージから離れるシンジの後姿を見つめた後、後ろに振り返って、発令上に戻ろうと歩き出した際に、小さく呟いた。

 

「シナリオ通りだ・・・。―――頑張れ、シンジ」

 

その言葉は誰にも届かなかった―――と思われたが・・・

 

「―――ああ、やって見せるさ」

 

そう呟いた呟いた声がゲンドウの耳に届いた。

ゲンドウは僅かに驚いたように振り返ってシンジの方へと再び視線を向けたが、すでにそこにはシンジの姿はなく、その場にいたスタッフは誰も反応せずに作業に取りかかっていた。

少しの間、軽く呆然としたゲンドウであったが、再び口元に笑みを浮かべると、今度こそ発令所へと戻って行った。

 

エヴァは、パイロットが乗る為のコックピットが『エントリープラグ』と呼ばれる円柱状である物に乗ってエヴァに乗り込める。エントリープラグはエヴァの首の後ろから挿入され、脊髄として役目を果たす。

シンジはリツコから簡単な説明を受けエントリープラグの細く狭い中にあるマッサージチェアの様な椅子に座り、備え付けられていたレバーを両手で握って、シンジは作業が終わるのを待っていた。

 

『パイロット搭乗確認』

 

『エントリープラグ挿入準備』

 

プラグ内に響く声には、気にも留めず静かに呼吸を整えていた。

 

「随分と落ち着いているわね」

 

「シンちゃんは普通の14歳とは比較にならないほど、成熟しているみたいだしね」

 

「確かにそうよね。言動といい行動といい・・・」

 

シンジのこれまでを軽く思い出すリツコ。

その際に、シンジの年不相応な不敵な笑みや腰を抱きしめられた時を思い出してしまい、かぁ!っと紅く染まる頬。

それを振り払うように軽く頭を振るうと、何時もの凛とした表情を浮かべる。

だが、内心では未だに鼓動は乱れたままだ。

 

そんな間も周りは作業を進んでいた。

エヴァンゲリオン初号機はスタンバイ完了すると、シンジを乗せたエントリープラグはエヴァの首の後ろまで運ばれる。

 

『エントリープラグ固定完了』

 

アナウンスと共に、シンジが入ったエントリープラグはエヴァの首筋に挿入されエントリープラグが全て挿入されると開いていた装甲が閉じた。

 

「エントリープラグ挿入完了、LCL注水開始」

 

リツコの近くにいる短髪の女性、伊吹マヤはキーボードを操作するとシンジの入ったエントリープラグ内に黄色の液体が流れ込まれ、足元から液体に満たされていく。

だというのに焦った様子を見せずにシンジは静かにリツコに問いかける。

 

「リツコさん。これは?」

 

「その液体は、LCLと言って肺に入ると自動で酸素が血液に供給されるわ。最初は慣れないでしょうけど我慢してね」

 

リツコに言われた通りに、シンジは何の戸惑いもなく液体を飲みこむ。

だが、飲みこんだ瞬間に僅かにその表情を顰める。

 

生臭い・・・まるで血の池に落とされたようだ

 

懐かしい臭いにシンジの頭の片隅にある光景が思い出される。

 

・・・・・・いや、今思い出すことじゃないだろ

 

思い出した記憶を頭の奥へと追いやって、精神を統一させる。

 

LCLがプラグ内を満たしたのを確認したリツコは、エヴァの起動プロセスを開始させる。

 

エヴァンゲリオンは他の兵器とは異なる。人が自分の意志で体を動かして、操作するのではなく、エヴァンゲリオンの場合は中身が人工肉で作られた人造人間であり、パイロットと神経をシンクロをさせて始めて動かせる。

 

「第2次コンタクト開始」

 

「インターフェイス接続開始」

 

「A10神経接続問題無し」

 

「LCL電化状態正常」

 

「初期コンタクト全て問題無し」

 

次々に起動プロセスを終えて初号機の目に光が灯る。

それと同時にシンジの身体には言いようのない何か感じ取れた。

 

「コミュニケーション回線開きます。シンクロ率・・・・・・ッ!?」

 

「どうしたの、マヤ?」

 

突然マヤが黙ってしまった所を、リツコが聞くとマヤはリツコの方を向き驚愕した顔をしていた。

 

「シンクロ率・・・86.6%です」

 

「なんですって!?」

 

リツコはマヤの言葉を聞いて、モニターを確認する。

そこには確かに『86.6%』と示されていた。

 

エヴァンゲリオンはパイロットとシンクロさせて動かす兵器である。

エヴァとパイロットのシンクロ率が高ければ高いほど、より滑らかで正確な動きを可能とする。

逆に、シンクロ率が低ければ、エヴァの動作は鈍いものへとなってしまう。30%以下のシンクロ率になるとエヴァは動かない。

 

二人は驚いたのは今日初めて来て、エヴァに初めて搭乗する少年が90%近い数値を出したのだ。

 

「あり得ないわ、プラグスーツの補助無しで。この数字は・・・」

 

「でも、使徒を倒せる勝率は高くなるわ。リツコ、これは喜ぶ所よ」

 

「・・・そうね、大事なのは使徒殲滅だったわ」

 

初号機は射出カタパルトに運ばれる。

カタパルトがレールに嵌まると、ピッと機械音がなり 出撃の準備が整った。

ミサトは振り返りゲンドウの方を見る。

 

「碇司令、宜しいですね?」

 

「勿論だ、使徒を倒さぬ限り我々の未来はない」

 

威厳に満ちたゲンドウの後ろに立つ冬月が尋ねる。

 

「本当にいいんだな?」

 

「・・・ああ」

 

少しの沈黙の後にゲンドウは静かに頷く。

冬月は少しの間があったことに気づいていたが、あえてそれには何も言わなかった。

 

「エヴァ初号機、発進!」

 

ミサトは力強く発進命令を下す。

エヴァ初号機はカタパルトに固定されたまま、地上に向かうレールに運ばれた。

 

レールを移動する初号機には凄まじいGが襲いかかる。

勿論、初号機とシンクロしているシンジにも同じようにGがかかっているのだが、シンジは平然とした様子で静かに座っていた。

レールは終点の地上に着き、エヴァ初号機は開かれた射出口から姿を表した。

 

「さてと・・・」

 

一度深く深呼吸をして、目の前にいる存在―――使徒を見据える。

 

「行くぞ、使徒」

 

暗闇が支配する夜中で対峙するエヴァと使徒。

 

 

―――人類の存亡をかけた戦いの幕が上がった。

 

 




【予告】

大地に立ったエヴァンゲリオン初号機!

遂に使徒と対峙する碇シンジこと御剣翔。

己を犠牲にして世界や人々を救った『正義の味方(御剣翔)』はこの世界で何を成すのか?

でも、ただ一つ言えることは、彼はどこにいようと何をしていようとも
誰かのためにしか生きてはいけない。

彼は傷つきながらもその歩みを止めることはない。

誓いのために・・・そして理想のために、彼は人々の願いや悲しみを背負いながらも歩き続ける。


次回『未来のために・・・』


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