新世紀エヴァンゲリオン ~正義の味方は何を成すのか?~   作:satokun

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今年最後の投稿となります。



第2話 未来のために・・・

 

暗闇が支配する夜・・・。

その中で二体の巨人が対峙していた。

 

紫の金属で包まれた鬼のような角がある巨人―――エヴァンゲリオン初号機。

黒く緑が混じり胸に紅く光る水晶のような玉を持ち二つの顔を持つ巨人―――使徒。

 

どちらも沈黙を保っており、第3新東京市で互いに睨み合うだけ・・・。

 

『良いわね、シンジ君!』

 

「何時でも・・・」

 

『最終安全装置解除。エヴァンゲリオン初号機・・・リフト・オフ』

 

ミサトの静かに、だが力強い号令により、初号機の肩の装甲を支えていた輸送台兼拘束具がレール解除された。

固定されていた肩と腕のパーツが外されて、自由になった初号機はやや猫背気味に自立する。

 

少なからずアクションを起こした初号機に対して、目の前の敵が何かしら動きがあると思い、身構えていたシンジであったが、使徒は微動だにせず、相変わらず沈黙を貫いている。

 

動きはないか・・・・・・何を待っている・・・? いや、観察しているのか・・・?

よく分からないが、とにかく今のうちに最低限の事はやっておくか

 

そう思考したシンジは目の前にいる使徒を警戒しながらも通信機越しにリツコに問いかける。

 

「リツコさん、こいつの動かしたは搭乗者のイメージで動くのですよね?」

 

『ええ、エヴァはパイロットの思考・・・即ち、シンジ君の考えた通りに動いてくれるわ。

取り付けられているレバーはあくまでもパイロットの思考との補助なの。意識を集中して行動を考えるだけでエヴァは動かせるわ』

 

勿論、操縦技術は必要ではあるが、エヴァの操縦でもっとも必要なのは、より鮮明なイメージである。

搭乗者とエヴァをシンクロさせることにより、エヴァは搭乗者の思いのままに動くことが可能となる。そのため、搭乗者のイメージがあやふやだとエヴァの動きも不安定なものとなり、歩行すらままならない。

 

「ふぅ・・・」

 

息を吐き出しながら翔は瞳を閉じた。

すると、瞳を閉じているというのに、翔には外の景色が鮮明に映る。

 

これはエヴァの眼を通して、俺の頭に直接その景色を『見ている』と認識しているのか・・・違和感があるな

 

本来ならばエントリープラグの前方部分にエヴァが見た景色が映し出されるのだが、シンジはそのシンクロ率の高さ故、それだけではなく、シンジ自身にもエヴァの見るものが全て見えてしまうのだ。

普段は気にならない程度だが、こうして意識を落ち着かせ、目を閉じていると、エヴァの見る景色が見えてしまう。

 

まぁ、なるようになるだろ・・・

まずは動かすことだな

 

そう思い、シンジは頭の中で己の姿をイメージし、そのイメージの中で体を動かす。

右手を胸ののところまで持っていき軽く拳を握りしめる。

 

すると、エヴァもシンジがイメージした通り動き出す。

 

『やった!』

 

『動いてる!・・・行けるわ!』

 

エントリープラグ内でミサトやリツコ達の声が聞こえるが、シンジはエヴァの操縦に集中する。

 

基本、体を動かすのは無意識の場合が多いが、こいつを動かすにはイメージが必要であり、より鮮明なイメージは精密な動きをできるようになるってわけだな

 

シンジが目を閉じて、思考していると今まで沈黙を保っていた使徒が突如片腕を上げて(てのひら)を初号機に向ける。

そして、掌から光の槍が飛び出してきた。

 

『シンジ君! 避けて!』

 

ミサトの慌てた声が響くが、シンジは動揺することもなく、瞳を閉じたまま・・・。

誰もがやられる!?と思っていたが、それはいい意味で裏切られた。

 

光の槍が衝突しようとした瞬間、初号機が体を逸らして、半身となって一撃を躱した。

そして、体を逸らした際に使徒の腕を左手で掴んで、自身の方向へと引き寄せる。

突如襲いかかった力に逆らえず、使徒はバランスを崩しながら、初号機の方へと引っ張られた。

初号機は近づかせた使徒の顔面に右肘を喰らわせ、使徒を吹き飛ばした。

その際に、辺りの建物が破壊されないように、計算して何もないところに使徒を吹き飛ばす配慮もしてある。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

唖然とした表情を浮かべる発令所。

その中でゲンドウだけが何時も通りの態度で見ていたが、その口元は笑っていた。

 

「彼って、空手の有段者か何かしら・・・?」

 

「いや、それはないわよ。書類には武道の経験も部活していたなんて書かれてなかったもの・・・」

 

リツコは信じられないと言った表情を浮かべており、ミサトはシンジが独自に鍛えていたと感づいていたが、まさかこれほどとは思っていなかったため、口を開いて驚きを示していた。

 

「いくら想像力が高いと言っても初搭乗であれほどエヴァを操れるなんて信じられないわ」

 

ありえない、といった表情を浮かべるリツコに対して、ミサトは口元に手を当てて考える仕草を行いながら思考する。

 

シンちゃんが只者じゃないってのは何となく理解してたけど、ちょっちこれは想像以上ね・・・。独自に鍛えてた割には戦うことに慣れている・・・書類には書かれてないだけで、実は格闘経験者だったりしてね・・・

まぁでも、嬉しい誤算だわ

これでより使徒を殲滅しやすくなったのは確かね・・・

 

『ミサトさん。街から離れた場所で何も無い場所はないのか?』

 

ミサトが考えの渦に陥っていると、シンジの声が発令所に響いた。

 

「あるにはあるけど、どうして? 別にその場で戦っていいのよ。使徒を無理やりこの場所から離す必要もないし、そこならばダメージは然程与えられないけど、援護射撃も出来るわ」

 

『その前に街が壊れるだろ?』

 

「貴方が気にすることじゃないわ。建物の事なら気にしないでいいわ」

 

シンジの問いかけにミサトが答える。

ミサトはこれでようやくシンジが使徒に集中できるだろうと思ったが、その考えは次の瞬間、打ち砕かれた。

 

『いいわけないだろ!』

 

『ッ!?』

 

突如、発令所に響く怒号。

誰もがその声にビクッ!?と体を震わす。

 

声を発したのはシンジだ。

これまでのものとは考えられないほど、感情を剥きだした大きな声を上げた。

 

『人々の命を救うからと言って、人々が住む町を破壊してもいい道理など存在しないッ!!』

 

「は、はい!」

 

思わず背を伸ばして返事をしてしまうミサト。

咄嗟に辺りを見渡せば、自分自身だけではなく、隣にいるリツコや座っているオペレーター達も背筋を伸ばしてシンジの言葉を聞いていた。

 

『それで何もない場所は?』

 

「今からプラグ内のモニターに場所を示すわ!」

 

「ここか・・・」

 

シンジはプラグ内のモニターに示された地点を見て、思考を進める。

 

街を壊さないように使徒を引きずっていくのは厳しいな

一気に投げ飛ばすか

 

周りの風景を見ながら考えをまとめて、行動に移そうとした時―――

 

「ッ!?」

 

視界の端にあるものが映った。

 

「逃げ遅れた人がいるぞ!?」

 

シンジの視界に二つの人影が入り込んだ。

中年の男性一人とその子供であろう少女が一人。

 

『なんですって!?』

 

シンジの言葉を聞いて、ミサトも驚きの声を上げる。

発令所側でも慌てて逃げ遅れた二人を確認する。

 

モニターに映された二人は丁度、初号機の右足元の近くにいた。

男性の方は頭から血を流しており、意識が混濁している様子でとても動ける状態ではない。少女の方も足を怪我しているようで動けないようだ。そして、何より二人ともあまりの恐怖でその場から動けずにいた。

 

今、初号機が迂闊に動けば最悪の事態になる。

だというのに、その状況を嘲笑うかのように、二人の近くのビルが崩れ落ちて、瓦礫が二人の頭上にへと降り注いだ。

 

「ッ!?」

 

シンジは咄嗟に初号機をしゃがませて、右手を二人を護るように被せ、最悪の事態は免れたが、吹き飛ばした使徒が初号機の元へと戻ってきた。

 

「タイミングの悪いことで・・・」

 

思わず悪態をつくシンジ。

今の現状、初号機は迂闊には動けない上に、右腕は二人を護るために使えない。

 

使徒は好機とでも思ったようで動けない初号機に近づくと、初号機の頭を掴もうと掌を広げながら腕を伸ばしてきた。

シンジは咄嗟にその手を空いている左手で迫ってきた手を掴む。

だが、そこの使徒は掌から先ほど出した光の槍が初号機の左手から肘あたりまで突き刺さった。

 

「これがフィードバックされた痛みか・・・」

 

僅かに顔を顰めた程度でシンジは大して痛い様子を見せずにいた。

だが、使徒にはもう片方の腕がある。

空いてる手で初号機の頭を掴む。

 

「これは所謂、万事休すというやつか」

 

このような状況においても、シンジは特に慌てることなく呑気な言葉を漏らす。

 

『シンちゃん!避けて!』

 

ミサトの叫び声が響く。

だが、使徒は容赦なく初号機の左目に光の槍を打ち込む。

 

「ッ!? 流石にこれは痛いな・・・」

 

口ではあまり痛そうに感じられないが、シンジは苦悶の表情を浮かべていた。

 

場所は変わり発令所では使徒の光の槍が初号機の左目に光の槍が何度も打ち付けられている映像が巨大なモニターに映し出されていた。

 

「左腕損傷! 回路断線!」

 

「頭蓋前部に亀裂発生!」

 

「リツコ! 何とかならないの!?」

 

「そんなはずないわ・・・。これほどのフィードバックありえない!」

 

リツコはミサトの叫び声を無視して、オペレーターの一人であり、自身の右腕とも呼べる『伊吹マヤ』に近づいて指示を出す。

 

「マヤ! 神経回路のフィードバック側のレギュレーターのレベルを一桁下げられる!?」

 

「はい! やってみます!」

 

指示を受けたマヤはキーボードを凄まじい勢いで打ち込む。

だが、そんな行動を嘲笑うかのように使徒は執拗に初号機の左目に光の槍を打ち込む続け、やがて槍は左目を貫き、そのまま頭部を貫通させた。

 

『がっ!?』

 

襲いかかる激痛に苦悶の声を上げるシンジであるが、人を庇っている右手だけは微動だにせずにいた。

 

ビービービー!

 

「頭部破損! 損害不明!」

 

初号機の損傷により、発令所には警告音が鳴り響く。

 

『はや、く・・・。ふ、たり・・・の、救・・・助を・・・・・・』

 

発令所には途絶え途絶えになりながらも話すシンジの声が響く。

自身が酷い状態にも関わらず、誰かを優先するシンジに、発令所の者達は自分の無力さを噛み締めていた。自分達より幼い、まだ青年とも呼べないと頃の少年を戦場に立たせ、命がけの戦いに臨ませていることに・・・。

 

「救助隊はまだなの!? このままじゃ、彼がどんどん傷ついていくじゃない!!」

 

ミサトが苛立ちを隠さずに叫ぶと―――

 

「救助が完了しました!!」

 

オペレーターの一人である眼鏡をかけた男性、『日向マコト』がシンジが庇っていた二人が救出されたことを伝える。

 

「シンジ君! 二人は救助されたわ!」

 

『それは、良かった・・・。後は・・・こい、つを・・・倒すだ、けだな・・・』

 

モニターに映るシンジは多く見積もってもあまりいい状態ではないと言えるが、彼が浮かべる不敵な笑みに誰もが『勝てる』と確信してしまうような頼もしさが感じ取れた。

 

「ふぅ・・・」

 

小さく息を吐くシンジ。

そして、庇う者達がいなくなったことで自由になった右手を使い、今もなお頭部に突き刺さっている光の槍を掴みながら立ち上げると、片足で使徒の身体を蹴り飛ばし、その勢いを利用して頭部と左腕に突き刺さった槍を抜き放つ。

 

「くっ!?」

 

光の槍が抜けた際に僅かに苦悶の声を漏らすシンジ。

だが、それもつかの間―――

 

「はぁあああああ!!」

 

自由に動けるようになった初号機は素早く使徒に近づくと、使徒を右手で掴み、そして体全身のバネを利用して、プラグ内に示されたポイントに向かって投げ飛ばす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

荒い呼吸を繰り返すシンジだが、休んでいる暇はない。

僅かな時間で呼吸を整えて、意識を集中させると共に自身の状態を確認する。

 

左腕は僅かに動くがほとんど使い物にならない、と考えた方がいいな・・・

それと左目は先ほどの使徒の攻撃の影響により、今は見えていない

 

シンジは右手で己の左目の付近を軽く触れると、そこからはLCLとは違った感触が感じられた。

今現在、シンジの左目は初号機が左目にダメージを受けた影響で左目からは赤い血が流れており、一時的に失明に近い状態になっていた。

 

それに初号機の頭部が貫かれた影響で気を抜けば意識が飛ぶ可能性が大・・・

速めにケリをつけなければ、こちらが先に自滅する・・・なら―――

 

「―――短期決戦で決めるしかない」

 

完全に思考をまとめたシンジ。

 

「すぅ・・・はぁ・・・すぅ・・・はぁ・・・」

 

静かに呼吸を整えていると、己の中で何かが変わる―――戻り始めたのを感じ取った。

 

―――『碇シンジ』ではなく『御剣翔』という『魂』に刻まれた記憶が蘇る・・・。

 

別に記憶を失っていたわけではない、自身の前世での記憶を忘れたことなどなかった。

そして、自身が目指すものはその頃から変わっていないし、変えるつもりなど微塵もない。

だが、前世ではその人生の大半は戦に身を置いていた。

この世界に来てから彼は戦うことはなかった。

本格に鍛え始められたのは中学に上がるころからだが、幼い頃から毎日、鍛錬を続けた。

その性質もあり、ガラの悪い連中と軽い喧嘩のような小競り合いこそ何度かあったが、それは彼にとって大した出来事ではない。

 

―――故に、彼は『戦い』という記憶が薄れていったのだ。

 

だが、命のやり取り・・・そして何より誰かを護るという強い意志により『魂』に刻まれた『戦い』の記憶が蘇ったのだ。

 

―――変わった。

 

別に姿形が変わったわけではないが、そう思わせるほど、今のシンジは『何か』が劇的なまでに変化していた。

まるで極限までに研ぎ澄まされた刀身のような鋭い雰囲気だ。

 

「使徒の動きは?」

 

『ッ!?・・・使徒は今現在、ポイントされた地点のほぼ近くにいるわ。ただ、投げられてショックから今すぐ動き出す様子は見せないわ』

 

「了解。今、そちらに向かう」

 

先程までとは雰囲気も口調も変化したシンジに、ミサトは僅かに息を呑むが、今はそれについて指摘する必要もないため、すぐに頭を切り替えて、問いに答える。

 

初号機は一旦その場で軽くしゃがむと勢いよくジャンプを行う。

そして、目指す場所は投げ飛ばした使徒がいるところ・・・。

 

使徒のところに到着すると、そこには投げられたままで地面に寝っ転がっている使徒の姿が見えた。

シンジは、一瞬どうしてそんな余裕でいられるのだ?と考えたが、今は即時決着を決めるのが優先のため、それを無視して、使徒に今までで一番強烈な一撃を放とうとする。

落下を利用して使徒に踵落としを決めようとするが、それは突如使徒の目の前に出現した光の壁に防がれてしまった。

 

「硬いな・・・」

 

初号機を通して伝わる感触にシンジはそれだけ漏らす。

光の壁を足場代わりとして、バク転をする要領で光の壁を蹴ってその場から一旦離脱する。

 

『A.T.フィールド!?』

 

『やはり、使徒も持っていたのね』

 

『あれがある限り、使徒には近づけないわ』

 

ミサトとリツコがそんな会話を広げる。

 

「今のは?」

 

『Absolute Terror FIELD、通称『A.T.フィールド』。使徒の持つ強力なバリアーのようなものと考えていいわ』

 

「破壊は可能なのか?」

 

『ええ、理論上では強力な攻撃でもってA.T.フィールドを突破する方法はあるけれど・・・』

 

リツコは言葉を途中で止める。

 

「それは現在では不可能ってわけか・・・・・・他に突破口はあるのか?」

 

『・・・ええ、こちらも理論上での話になるけど、エヴァもA.T.フィールドの展開が可能なはずよ。それによってA.T.フィールドを中和するしかないわ』

 

「展開方法は?」

 

『同乗者の強い拒絶の心で展開が可能なはずよ』

 

はず・・・ってことは確証はないわけか

意味的には絶対恐怖領域となるから間違いではないんだろうが・・・・・・果たして俺に強い拒絶の心を持てるのだろうか・・・?

 

シンジは一瞬で思考を行う。

そして、冷静に己のことを見つめる。

 

いや、無理だろうな・・・俺にそんなことはできるとは思えない

ならば、如何する?

このまま何の抵抗もせずにやられるか?・・・・・・それはできない

奴が何の目的を持って、現れたかは知らないが誰か涙するというのなら俺はただ戦うだけだ・・・

 

そんなことを考えているとシンジの頭にある言葉が浮かぶ。

 

『とりあえず、一撃加えてから考えろ』

 

前の世界でお世話になった一人である空手の師匠の言葉が思い浮かぶ。

 

・・・そうだな。とりあえず―――

 

「―――この一撃に全身全霊を持って臨む」

 

起き上がった使徒を見据えながら、シンジは不敵な笑みを浮かべて呟く。

使徒は今もなお、A.T.フィールドを展開しており、攻撃を加えることは愚か、近づくことも出来ない。

 

「リツコさん、これから放つ一撃はかなりの無茶をするんで、もしかしたら初号機が耐えられないかもしれませんが、構いませんか?」

 

『・・・余程の事がない限りエヴァが搭乗者の動きに堪えられないということはないのだろうけど、貴方が言うのならそうなのかもしれないわね・・・・・・大丈夫よ、貴方は目の前の敵を倒すことを考えるだけでいいの。後の事は私達に任せなさい!』

 

『そうよ、シンちゃん! 今までの礼をまとめて奴に返しちゃいなさい!』

 

リトコとミサトの声援がシンジの耳に届く。

 

「了解した。・・・・・・貴方達二人は本当にイイ女だな」

 

小さく呟いたそれはばっちりと通信機が拾っており、発令所に響き渡って、リツコとミサトが顔を紅くさせたのだが、そんなことは知らずに、シンジは使徒にある一撃を放つために準備をする。

 

初号機・・・俺のせいで散々、お前に痛みを与えてしまい、そしてこれからお前に無理をさせるだろう・・・・・・だが、こんな俺に力を貸してくれるか?

 

その問いかけに答えるようにLCL内に暖かな雰囲気が満たされる。

別にLCLの温度が上がったわけでもないが、シンジにはそう感じられた。

 

この感覚・・・昔にどこかで・・・・・・いや、今は余計なことは考えるな

目の前の使徒だけに集中しろ

 

「ふぅ・・・」

 

シンジは小さく息を吐いて初号機を動かすためにイメージを浮かべる。

 

初号機は右足を前に出して、後ろの左足に重心を乗せる。

未だに力の入らない左腕は無理に動かさずに、だらんと下ろしたままで、右手を自身の腰に引き込み、軽く拳を握る。

 

相対する使徒に動きはないが、依然とA.Tフィールドは展開したままである。

 

「往くぞ―――」

 

初号機は右拳を小指から人差し指の順に力を込めて、親指で蓋をして拳をきつく握りしめる。

初号機は重心を前方に移して、使徒に肉迫する。

その瞬間、使徒の胸にある二つ目の仮面の両目部分が妖しく光る。

 

『目標仮面付近からエネルギー反応!』

 

『いけない! シンジ君避けなさい!!』

 

オペレーターの一人から発した言葉にかぶせるようなタイミングでリツコの叫び声が響く。

 

カッ!

 

と、より一層輝いたと思った瞬間、使徒の両目から光線が放たれる。

 

この角度、避けたら街に被害がいく!

チッ! すまない、初号機・・・左腕を犠牲にする!

 

一瞬でそう思考したシンジは、殆ど動かせない左腕を無理やり振り上げて、使徒の光線を左腕を犠牲にして弾こうとしたが―――

 

「ッ!?」

 

シンジは驚きの表情を浮かべた。

何故なら最悪左腕がなくなる覚悟で光線を防ごうとしたが、光線は振り上げた左腕によって上空へと弾き飛ばされたのだ。

だか、それも一瞬。シンジは瞬時に意識を切り替えて、光線を外して隙が出来た使徒の懐に迫った。

だが、使徒は相変わらずA.T.フィールドを展開しているため、それ以上の接近はできない。

そのためシンジは―――

 

「五連―――」

 

シンジの呟きと共に、腰に構えた右腕が僅かに膨張したように見えた。

 

「―――龍撃衝拳」

 

その言葉と共に初号機は右拳を放つ。

 

ドンッ!!

 

空気が振動するほどの強烈な一撃が放たれた。

 

『これなら!』

 

ミサトの喜びの声が響くが、続いて言葉を紡いだリツコがそれを否定する。

 

『駄目ね。確かに強烈な一撃だったけれど、使徒のA.T.フィールドを破壊するまでには至ってないわ』

 

「一撃じゃないさ」

 

『え・・・? それは―――』

 

どういうこと?と続けようとしたリツコであったが、その言葉は次に起きた衝撃音で掻き消された。

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!!!

 

連続で響く衝撃音。

それは最初のを合わせて、計5回響いた。

衝撃の回数分、使徒は後ろへと後退していった。

 

「一秒未満で出せる限りの突きを連続で繰り出し、時間差で追加ダメージを与える技だ」

 

『なんて・・・出鱈目な技なの・・・。イメージとしては釘を打ちつけかのように威力はより奥へと浸透していく・・・』

 

『いけるわ!』

 

「いや、どうやら破壊するまでには至らなかったようだ・・・」

 

『え・・・?』

 

ミサトの言葉をシンジ自身が否定する。

 

初号機は前方を見据えると、そこには悠然と立つ使徒の姿が見えた。

衝撃により後退した使徒であったが、使徒の目の前には未だにA.T.フィールドが展開されていた。

拳を放った箇所には、僅かに罅のようなものが見えるが、破壊するまでには至っていないようだ。

 

『一回で駄目なら、もう一度今のをやればいいわ!』

 

「残念ながら・・・」

 

『それは無理よ』

 

ミサトの言葉に否定するシンジとリツコ。

 

『今ので、初号機の右腕はちょうど筋肉断裂が起きた状態に近いわ・・・。とてもじゃないけど、今のをもう一度やるのは不可能よ』

 

エヴァの開発者であるリツコが断言するのだ。

 

すでに搭乗者であるシンジはリツコが言っていたことは理解できているため、次の行動を思考する。

 

右腕は左腕に比べれば、随分とマシといえるが、それだけだ・・・動かせるには動かせるが、それほど無理は出来ないと言ったところか・・・

・・・ないものねだりは理解してるが、こんな時に魔力が使えたらな

 

シンジは使徒を見据えながらも、頭の隅でそんなことを思い浮かべる。

 

魔力。

神秘の力であるそれをシンジはこの世界でも使うことは出来た。

だが、この世界では存在しない力のため、使うことによりシンジに世界の修正力が働き、使えばシンジ自身の身体にとてつもない負担が襲いかかる。

シンジ自身はそれしか手がない限り、迷わずその力を行使するが幼い頃に交わした『ある人』との約束により、自己犠牲的な行動は最後の最後まで行わないようしている。

 

打開策はないか思考を進めていると―――

 

「・・・今のは?」

 

不意に初号機の右腕に何か薄い光のようなものが出現したように感じられた。

 

今俺は何をした?・・・いや、何を考えていた?

・・・・・・魔力を右腕に纏わすイメージをしていた

だが、明らかにエヴァの右腕に魔力とは別の力が発現しかけた

これがA.T.フィールドなら一撃で決められる・・・・・・だが、違った場合は俺の負け・・・

 

ここでシンジが負ければ、それ即ち人類の敗北となるのだ。

故に、この使徒との戦いは絶対に負けてはならない。

 

「ふぅ・・・」

 

現状では打つ手はなし・・・

そして、やれることも極僅か・・・・・・いや、後の事は考えるな

今出来る全てを全力を以って、行うだけだ

 

「使徒・・・これが俺の最後の攻めだ。覚悟して来るがいい! こちらも全身全霊、死力を尽くして応えよう!!」

 

シンジの言葉に反応したのかは定かではないが、シンジがそう言うと、使徒は二つ目の仮面にある両目が輝く。

シンジは即座に初号機を動かす。

 

初号機は一歩、力強く踏み出して、その力を利用して空へと跳び上がる。

それにつられ、使徒の照準も初号機の動きに合わせる。

街ではなく空へと放たれた光線を初号機は空中で身を捻らせることによって回避するが、背中にあるアンビリカルケーブルに光線が掠る。

 

『アンビリカルケーブに損傷あり!』

 

『このままでは外部電源の供給が出来なくなります!』

 

「ケーブルをパージさせる!」

 

『いい、シンジ君。外部からので供給がなくなれば、エヴァンゲリオンは内部電源で動くことになるわ。本来の活動限界は5分間だけれど、高機動は1分ほどしか持たないわよ!』

 

「何とかする。ケーブルパージ!」

 

ミサトの言葉に返しながら、シンジは叫ぶようにケーブルをパージさせる。

 

初号機の背中に接続されたケーブルが勢いよく外れる。

エヴァの命ともいえる電源の供給がなくなり、予め充電されていた内部電源に切り替わることにより、プラグ内にエヴァの活動限界を示すカウントダウンが表示された。

 

【活動限界まで、後4分58秒】

 

それを気にすることなく、シンジはすでに次の行動を起こしていた、

 

使徒の攻撃を躱した初号機はそのまま重力加速度を利用して、踵落としを放つ。

それに使徒は嘲るように再びA.T.フィールドを展開して、数分前に行ったように初号機の踵落としを防ごうとする。

だが、その一撃は先程とは違う。

 

イメージしろッ!

初号機の足に魔力を纏わせるようなイメージをッ!!あの壁を切り裂くようなイメージをッ!!

 

「はぁああああああああ!!」

 

気合の声と共に振り下ろされる右踵落とし。

それは先程とは違って、容易に使徒のA.T.フィールドを切り裂いた。

そして、その一撃は相手のA.T.フィールドを切り裂くだけでは終わらず、使徒の身体に袈裟切りのような切り傷を残した。

そして、初号機は倒れ込む使徒の上に馬乗りになって、動きを制限する。

 

『残り30秒!』

 

「次で決めるッ!」

 

初号機は無理すれば動かせる右腕を動かす。右手で手刀を作り出し、貫き手の構えをする。

すると、使徒は最後の足掻きと言わんばかりに、初号機が見えない左側の攻撃を加えようとした。右手を振りあげて、肘から伸びている光の槍が一層輝く。

 

「いけない! シンジ君、避けて!」

 

「駄目よ! 今の彼には見えてないわ!」

 

誰もが、やられる!という考えに支配されたが、それは裏切られた。

 

初号機の頭部に向けた使徒の右掌から光の槍が伸び、頭部を貫こうとするが、それは―――

 

『悪いが、これ以上は初号機(こいつ)を傷つけるわけにはいかないんだ』

 

その呟きと共に、初号機は僅かに顔を動かして、襲いかかる光の槍を躱す。

 

「―――ねじり貫手」

 

使徒の胸にある赤い球体にめがけて、A.T.フィールドを纏わせながら、回転させた右貫き手を放つ。

赤い球体は何の抵抗もなく、初号機の放った貫き手により乾いた音と共に崩れ去る。

その瞬間―――

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!

 

凄まじい爆発音と共に使徒の身体が爆発を起こした。

その爆発は天まで奔り、その形を十字架となした。それはまるで使徒の墓標のようにも見えた。

だだ、それも一瞬。発令所にある大きなモニターに映るのは砂嵐で、ノイズ音が空しく響く。

 

「・・・ッ!? シンジ君!?」

 

いち早く正気に戻ったミサトは間近で爆発を受けた初号機に搭乗しているシンジの心配をして、通信機越しに話しかけるが、プラグ内の映像も通信機の機能も先ほどの爆発の影響で一時的に麻痺していた。

 

「マヤ! パイロットの状態を確認して!!」

 

「はい!」

 

続いてリツコが自身の部下であるマヤに指示を飛ばす。

それに頷いたマヤは素早くキーボードを打ち込む。

誰もがシンジの安否を心配する最中―――

 

『やれやれ・・・』

 

ノイズ音に混じりながらで聞き取り辛いものであったが、確かに小さな呟きが発令所に響いた。

 

「シンジ君! 聞こえてるんなら返事をしなさい!!」

 

『聞こえてますよ、ミサトさん。どうやらまだ生きてたようだ・・・』

 

ミサトの言葉にシンジは疲れたような声で返す。

 

「映像回復します!」

 

爆発の影響で映像が映らなかったが、それも回復し現地の様子が確認できるようになった。

モニターに映るのは爆発の影響で地形が変わった山中で力なく座り込む初号機の姿であった。

だが、爆発を間近で受けたというのに、大きな損傷は見えなかった。

 

「どうやら爆発の瞬間、A.T.フィールドを展開したようね」

 

リツコが冷静に推測する。

 

「何はともあれ、使徒は殲滅したわ!」

 

ミサトの喜びの声を始めとし、そこから次々と歓喜の声が発令所に響く、

 

この勝利を経て、これからの戦いに人類の希望が見えた。

 

「久々の戦闘とはいっても、流石に鈍り過ぎているな・・・」

 

電源の切れたプラグ内で苦笑しながらシンジは呟く。

 

「お疲れさま、初号機・・・」

 

そう言って、シンジは目を閉じる。

すると、段々と遠のいていく意識・・・。

その最中、シンジの耳には確かにある声が届いた。

 

『『これから頑張りなさい』』

 

どこかで聞いたことがある優しく、慈しむような女性の声色が聞こえた。

 

 

 




【予告】

使徒は倒すことに成功したシンジ。

それにより彼の生活は一変する。新しい学校に、新しい住居・・・。

彼はそこで一人の少女と出会う。

その出会いが何を意味するのか、彼は知らない。

だが、これにより動き出してしまった物語はさらに加速していく・・・。

様々な思惑が飛び交うこの世界で彼は何を起こすのだろう。

だが、彼はきっと誰かのために戦い続けることだけは変わらない。


次回『新たな生活』


この次もサービスしちゃうわよ♪

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