新世紀エヴァンゲリオン ~正義の味方は何を成すのか?~   作:satokun

4 / 4
大変遅くなりました!
前に投降したものは中途半端でしたので、続きを書いてもう一度投稿しなおしました。
今月中にはハイスクールD×Dも更新しようと思っています。


第3話 新たな生活

 

 

言葉などなく、彼の者は無言で漆黒の刀を振るう。

 

『化け物ッ!!』

 

ただ機械的に命を奪っていく。

 

『一体何を考えているんだ・・・。気味悪いんだよ』

 

そこに感情はなく、何も想う必要はない。

 

『救ってくれたことには感謝している・・・・・・だが、目の前から消えてくれ。

これ以上お前とは関わりたくないんだよ』

 

彼はひたすら剣を振るうのみ。

 

例え、罵倒されようとも・・・。

 

例え、傷つけられようとも・・・。

 

例え、救った者から裏切られようとも・・・。

 

決して、彼は戦うことを止めない。

襲いかかる悪意全てを背負って彼は歩き続ける。

 

その最果てが決して報われるものでなくとも・・・・・・彼は歩みを止めない。

何故なら彼は『正義の味方』なのだから・・・。

・

・

・

・

 

「・・・んっ・・・・・・・・・ここ、は?」

 

沈んでいた意識が浮上する。

最初に視界に入ったのは白い天井、そして白いカーテン。そして、鼻腔に届く薬品の独特な臭い。

 

「病室、か・・・」

 

上半身だけ起こして、辺りを確認するように頭だけを動かす。

そこで違和感を感じる。

左目に映る視界が真っ暗なのだ。そして、左腕が麻痺したように思うように動かない。

 

「・・・道理で」

 

気怠さが感じられるがまだ動かせる右手で左目付近を触ると布の感触が感じ取れた。

どうやら左目には眼帯をつけているようだ。

 

霞みかかっていた意識が段々と覚醒していき、自身の今置かれた現状を把握していく。

 

「そうか・・・。あの後、俺は―――」

 

患者が一人に対して、やけに広すぎる空間においてある純白のベットの上で上半身だけ起こした

碇シンジは自身に起きた出来事を整理し始めた。

・

・

・

・

 

照明が最低限しかない薄暗い部屋で六人の男達が席についていた。

一人はネルフの司令官である碇ゲンドウ。その彼に対面するように座っている男―――白髪を

オールバックにさせ、バイザーをつけた老人。

それを中心として、左右には彼以外の男性が二人ずつ座っていた。

 

この者達は五国、米・仏・英・露・独の代表であり、『人類補完委員会』のメンバーである。

人類補完委員会とは国連直属の極秘諮問機関であり、主にNERVの監督とその予算確保が業務である。

 

「碇君。ネルフとエヴァ。上手く使えているではないか。私達にとってこれは大変喜ばしい事だ。

零号機の起動実験の失敗での修理費はかなりの額であったが、今回の使徒の殲滅では被害は最小限に収めた事は褒めらるべき点だ」

 

バイザーをつけた老人・・・『キール・ローレンツ』がゲンドウに対してそう告げる。

 

「使徒の殲滅もいいが、肝心なことを忘れちゃ困るよ」

 

「君の仕事はそれだけではないだろ?」

 

「左様―――人類補完計画。それが我々にとって、この計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ」

 

「―――承知しております」

 

委員会の者達の言葉にゲンドウは静かに頷く。

 

「使徒再来によるスケジュールの遅延は認められない。今回の戦闘を見る限り、彼ならばこれからの使徒による被害を最小限に抑えることが出来るだろう」

 

「情報操作のほうはどうなっている?」

 

「その件はご安心を・・・。すでに対処済みです」

 

「目覚ましい仕事の出来だ。君と言い、君の息子と言い・・・君たち親子は優秀の一言だ。

それでは、これにて会議を終了とする」

 

キールの言葉と共に会議は終了となった。

・

・

・

・

 

轟音を響かせながら飛行するヘリコプター。

それは使徒が爆発した後の上空を飛んでおり、周辺を確認するかのように旋回していた。

 

「それにしても使徒があれほどの爆発を起こすとは思ってもなかったわ」

 

ヘリコプターに乗っているミサトが窓の外を覗くように見つめながら呟く。

 

「そうね。爆発威力はおよそN2地雷の約半分ってところね。出来るだけ街では起こしたくないわね。彼の判断はいい方向に事が進んで良かったわ」

 

ミサトの言葉に応えるように膝に乗せたノートパソコンのデータを見ながらリツコが告げる。

ちなみに彼女は相変わらず、白衣を纏っていた。

 

「それでもエヴァが使徒に勝てるって証拠は得たわ」

 

何時もは服の内側に隠している十字型のペンダントを取り出す。

そして、十字部分を握りしめる。何か思いを再確認するかのように・・・。エヴァに人類の未来を託すかのように・・・。強く、優しく、思いを込めて握りしめる。

 

「そう言えば、シンちゃんの容体はどうなの?」

 

ミサトはシンジの体調について、リツコに尋ねる。

 

シンジは使徒を倒した後、エントリープラグ内で一回意識を落としたが、回収班と共にミサトや

リツコがシンジの元に訪れた際に再び意識を取り戻したシンジは自身の事より、先に救助された

二人について問いかけてきたのだ。

 

『俺は後でいい! あの二人の容体はどうなんだ!? 重大な怪我はなかったか!? 女の子の方は傷が残るような怪我はなかったのか!?』

 

流石のミサトやリツコも面を喰らった表情を浮かべた。

明らかに自身の状態が重症なのにも関わらず、彼は真っ先に他人の心配をするからだ。

だが、すぐに意識を切り替えた二人は優しい笑みを浮かべながらシンジに心配はないと告げる。

 

『大丈夫よ、シンちゃん。あの二人は無事よ』

 

『ええ。重大な傷もないし、女の子にもこの先残る傷はないわ。ネルフの医療スタッフが総力を

挙げて治療しているもの。だから、心配しないで』

 

『そうよ。シンちゃんはまずは自分の心配をしましょうね。今の貴方、左目見れてないんだから』

 

二人の言葉を聞いて、シンジは安心したような表情を浮かべた。

 

『そうか・・・。俺はちゃんと護れたのか。・・・良か、った・・・・・・』

 

優しい微笑みを浮かべたシンジは安心したようで、再びその意識を落としたのだ。

その時の光景を頭に浮かべて、ミサトは笑みを浮かべる。

 

「いや、あの時は吃驚したわ。あの状況で他者を優先するなんて、中々できるもんじゃないわよ」

 

「ええ、そうね。それに、上層部だと彼に対する評価はかなりいいみたいでね。今回の戦闘で予想されたていた街の損害やエヴァの修復費を考えてもかなり予算より低かったそうよ?」

 

「へぇ~、確かに初戦闘にしてはかなり戦えた方だとは思うけど、そこまで評価がいいとは思わなかったわ」

 

「彼の行った技・・・確か龍撃衝拳だったかしら? まさか彼のイメージにエヴァの腕が持たないなんて思いもしなかったわよ・・・。それにあれほど完璧な動きと言うことは、恐らく彼はあの技を実際に使えるってことでしょうね。正直言って、彼の底が全く見えないわ・・・。いくら調べても彼の経歴には武術を習った過去はないし・・・・・・」

 

僅かに頭を抱えたような感じで喋るリツコにミサトは苦笑いだけ返す。

 

「確かにね・・・。シンちゃんには色々と謎があるわよね。ま、それはいずれ彼から話してくれるでしょ。それに話してくれなくてもあたしはシンちゃんの事を信じるわ」

 

「あら? この短期間で随分と信頼してるじゃない? 彼と二人で来る途中で何かあったのかしら?」

 

「ちょっち、ね・・・」

 

リツコの問いかけにミサトは誤魔化すように人差し指で頬を軽く掻きながら呟く。

 

言えるわけないじゃない・・・彼に抱きしめられたなんて・・・

べ、別に年下相手に照れたわけじゃないわよ

 

誰に言い訳をするわけでもないのに、ミサトは内心で言い訳を述べる。

 

「・・・・・・それは何時か追及することにするわ。それにしてもシンジ君は一体どんな鍛え方をしたのかしらね・・・」

 

手元にある資料を見ながらリツコは面白そうな表情を浮かべて呟く。

その表情は科学者としても一面も見せていた。

 

「どうしたのよ? 確かに普通じゃならないような筋肉をしてるのは分かるけど・・・」

 

「いい、ミサト? 人間には筋肉には三種類あるのよ。瞬発力はあるけど持久力がない『白筋』と

持久力はあるけど力がない『赤筋』。そして、その間にほんの少しあるとされる両方の能力を持つ

『ピンク色の筋肉』があるわ。それらのパーセンテージは一生変わらないものとされているけど、彼の筋肉のほぼ全てがこの『ピンク色の筋肉』に変(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のよ」

 

「へぇ~、それは凄いわね・・・・・・ちょっと待って、変(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ですって? ってことはまさか!?」

 

ミサトもようやくリツコが驚いた理由に辿り着いた。

 

「ええ、彼の身体は作り変わった―――全身が『ピンク色の筋肉』に・・・。日頃から行っているであろうトレーニングで偶々そうなったのか、それとも狙って肉体改造を行っていたのかまではわからないけれど。・・・これなら説明がつくでしょ?」

 

「でも、そんなことが可能なの?」

 

「可能だったから今現実に彼がそうなっているじゃない。詳しい内容は本人に聞いてみないとわからないわ。・・・ん?」

 

すると手元にあるノートパソコンに一通の知らせが届いた。

リツコは手慣れた操作でそれを開くと、優しく微笑みを浮かべた。

 

「どうやら、噂の彼が―――私達の英雄が目覚めたようね」

・

・

・

・

 

「やれやれ、大方の事は思い出したが、肝心のこの後どうすればいいのかが分からないな」

 

病室から抜け出したシンジは当てもなく病院内を歩き回っていた。

ちなみに服装は病室にクリーニングされた制服があったため、それに着替えている。

 

左目は先の戦闘で一時的に失明状態になっているため、視界が右だけと非常に不便で遠近感が乱れるのだが、シンジはそんなことも気取られることなく普通に歩いていた。

左腕は力が入らないため、だらんと下げたままだ。

 

すると、シンジは不意に動かしていた足を止めて、ある方向に視線を向ける。

視線の先には大きなテレビが柱に設置されており、そこにはちょうどニュースが流れていた。

 

『正午のニュースをお伝えします。まず先日の第3新東京市の爆発事故についてですが、政府の見解としては、山中で行われた軍の訓練の際に使われた兵器の運用で―――』

 

やはり・・・情報操作は行われているようだな

流石に、使徒のことを公にすることは出来るはずもないか・・・

しかし、ここに住む者達には薄々悟られていると思うがな

 

そんなことを考えているとシンジは見知った気配を感じ取った。

 

「こんにちは、ミサトさん」

 

振り返ると同時に背後から来ていたミサトに話しかけるシンジ。

 

「お、驚いたじゃない・・・。よくあたしって気づいたわね」

 

「まぁ、察してるとは思いますが、独学ですがある程度武術の経験がありましてね。足音や何となくその人が持つ気配には少しばかり敏感なんです」

 

「ふふふっ」

 

「ん? どうかしたんですか?」

 

「いや~、シンちゃんの敬語に違和感を感じちゃってね。だって、あの時は違う口調だったじゃない」

 

ミサトが言ったあの時とは使徒と戦闘を行っているときの事を言っているのだろう。

それも後半のあたりを・・・。

シンジ自身も出来るだけ、目上の者には敬語を使うように心がけているのだが、どうしてもああいった場面では昔から普段の口調となってしまう。

 

「・・・あの時はすいませんでした」

 

思い出したようにシンジは小さく、あーっと漏らすと、右の人差し指で頬を軽く掻いてから素直に謝罪の言葉を漏らす。

 

「いいのよ。それにあたしは全然気にしないわよ? 普段通りの口調で喋っても」

 

「そうか? それならばそうさせてもらうか」

 

「あ、あら・・・意外と順応速いのね?」

 

「どうにも堅苦しいのは苦手でね。時と場所は選ぶが、出来るだけ普段通りでいたいんだよ」

 

体をほぐすかのように軽く一度伸びをするシンジ。

 

「それで、俺に何か用事があったのだろ? 大方、ネルフからの呼び出しと思うがな。

先程のニュースを見る限りだと、俺は契約やら口合わせが必要なのだろう?」

 

「・・・貴方って本当に14歳なのかしら? ちょっち疑っちゃうわね?」

 

「さてね、実は姿だけ若い年上かもしれんし、小生意気な小僧かもしれないぞ?

まぁ、もっとも色々と経験しているのでな、精神が成熟しているのかもしれんな」

 

どこか皮肉を混じらせたような言葉にミサトはますますシンジの年齢について疑ってしまうが、彼の経歴を思い出し、それも仕方ないことかと考え、話題を変えた。

 

「ま、それについはとりあえず置いといて、シンちゃんの言う通り、ネルフ本部に来てちょうだい。

そこで詳しい話があるわ。―――貴方の今後についてもね」

 

「了解した」

 

ミサトに続くようにシンジは再び足を動かし始めた。

・

・

・

・

 

再びシンジはネルフ本部へと足を踏み入れた。

すると、二人を出迎えてくれる人物がいた。

 

「こんにちわ、シンジ君。怪我は大丈夫そうね」

 

白衣を身に纏った金髪の妙齢の女性、リツコがシンジ達を出迎えた。

 

「今回は時間に間に合ったでしょ?」

 

「はぁ・・・。得意気に言うことではないわよ、ミサト」

 

胸を張って得意気にに言うミサトにリツコは呆れたように溜め息を吐く。

 

「ん? リツコさんが色々と説明するんですか? 確かにエヴァの事なら、リツコさんが適任なのだろうけど・・・」

 

契約や口合わせの話をするためにネルフ本部に訪れたシンジにとって、リツコが出迎えたことに少なからず違和感を感じる。

その呟きを聞いて、リツコは再び呆れた視線をミサトに向ける。

 

「葛城一尉・・・貴方、また説明を忘れたわね?」

 

「あははは、ちょっち忘れてたわ」

 

笑って誤魔化そうとするミサトにリツコはジト目を向け、シンジは苦笑を浮かべる。

 

「はぁ・・・。私はエヴァ関連以外にもパイロットの体調管理も仕事として請け負っているのよ。

だから、今日はシンジ君の状態を調べるためにまず私のところに来てもらったってわけなの」

 

「なるほど・・・。確かにリツコさんの分野ならば人体の構造は把握しているから、それらの仕事を行っていても不思議ではないか」

 

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

 

シンジの言葉にリツコは面白そうな目を浮かべて問いかける。

 

「まず貴方はエヴァの事を人造人間と言った。つまり、エヴァは見た目こそは巨大なロボットであるが、その中身や原理といったものは人間のソレに近いものだと考えられる。故に、開発者であるリツコさんは人体の構造を把握していても不思議ではない・・・そう推測したのだが?」

 

「・・・本当に貴方と話していると、貴方が子供ということを忘れてしまうわね。

ええ、貴方の推測で大まかな事は合っているわよ。内容と理由も納得してもらったところで私の部屋に案内するわ。そこで軽く診察させてもらうわね。まぁ、大体の資料は病院から貰っているけど、念のためにね」

 

「了解」

 

「じゃあ、あたしはちょっちやることがあるからまた後で会いましょ、シンちゃん♪」

 

ミサトはそう言って、一度シンジにウインクをしてから歩き出す。

 

「・・・ミサト」

 

「大丈夫よ、リツコ。次は遅れないようにするから~。・・・それとも、まだ小言が言い足りてないわけ?」

 

リツコに声をかけられたミサトは、軽くて手を振って応えるが―――

 

「貴方が行こうとしてる場所はそっちの道じゃないわよ」

 

「だぁ!?」

 

「やれやれ・・・」

 

リツコの言葉を聞いて、ミサトはバランスを崩してコケそうになり、シンジは肩を竦めた。

 

「それじゃ、気を取り直して私達も行くとしましょ」

 

「了解です、リツコさん」

 

ミサトに道を教えたリツコはシンジに向き合ってそう告げて、シンジはそれに頷く。

 

「それにしても、この短い期間でミサトと大分打ち解けたみたいね?」

 

「そうですかね? それだと少しばかり嬉しいですね」

 

リツコの言葉にシンジは最初は少し驚いた表情を浮かべるが、すぐに優しい微笑みを浮かべて呟く。

 

「ッ!?」

 

不意打ち気味にシンジの微笑みを見て、思わず顔を紅くしてしまうリツコ。

幸いなことにリツコの少し後ろを歩いていシンジにはそれは見られず、彼に悟られないようにリツコは軽く言葉を返しながらも内心は僅かに高鳴る胸を平常に戻すのに必死であった。

 

・・・本当にどうしちゃったのかしら?

子供相手にここまで動揺させられるなんて・・・彼が大人のような雰囲気を纏ってるから?

それとも普通の子供と違って聡明だから?

・・・・・・分からないわ。これほどまで自身の感情を制御出来ないのは初めてね

 

リツコはシンジと会話しながらも頭の片隅で冷静に思考する。

そして、今まで感じたことのない感情に戸惑いながらも、それは不思議と嫌な気はしない。

 

「あ、どうやら話してるうちに何時の間にか着いたようね。

ここが私の仕事部屋よ。少し散らかってるかもしれないけど、そこは気にしないでくれると有難いわ」

 

「リツコさんの場合、研究資料や書類などがあっても不思議ではないですしね」

 

「本当にシンジくんには敵わないわね」

 

シンジの言葉にリツコは苦笑しながら言葉を返す。

 

リツコが扉を開けるとまず視界に入るのが、面白い形をしたデスクであった。カタカナのコの形状したデスクの上にはパソコンや書類が置かれていた。部屋は少し広く、隅には食器棚が設置されている。

そして、部屋からはコーヒーの香りが充満しており、僅かに煙草の匂いも感じられた。

 

「綺麗に整頓されていて、散らかってはないと思いますよ」

 

「うふふ、お世辞でも嬉しいわ。さぁ、こっち来て座ってちょうだい」

 

「失礼します」

 

リツコに促されて、リツコと対面になるように座るシンジ。

 

「早速診断始めたいところだけど、その前に軽く説明をさせてもらうわね。エヴァは搭乗者とシンクロさせることによって、動かすことができるわ。そのため、エヴァが受けたダメージば貴方にフィードバックして貴方自身にも同じように痛みを受けるわ。

そして、シンジ君は高すぎるシンクロ率によって、貴方とエヴァの境界線が薄すぎるため、エヴァの受けたダメージがそのまま貴方に反映されてしまうのよ。

そのおかげと言っていいのかは微妙だけれども、エヴァは貴方のイメージとほぼ近い動きを再現できるわ。この前の技・・・龍撃衝拳がいい例ね」

 

「なるほど・・・」

 

リツコの簡単な説明を聞いて、シンジは納得する。

 

「これで簡単な説明は終わりね。診断に移らせてもらっていいかしら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「なら、診断を始めるわ」

 

「お願いします」

 

リツコはまず彼が左目にしている眼帯を外すと、そこにペンライトで光を当てて、瞳孔反射を確認する。

 

「・・・どうやら一時的な失明ね。時間が経てば元の視力に戻るはずよ。さて、次は左腕ね。ちょっと触らしてもらうわよ」

 

「はい」

 

シンジは頷くと、リツコはシンジの左腕を手に取り、マッサージをするかのように腕全体を触る。

リツコが腕のある部分。親指で軽く押すと、ピクリとシンジの左手が動く。

 

「こっちも一時的な麻痺ね。放置してても治ると思うけど、マッサージなどすれば早めに元に戻るわ。私自身、暇な時があればやってあげるからいらっしゃい」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

リツコの言葉に頷き、シンジは頭をさげる。

 

「いいのよ、これくらい。シンジ君の頑張りに対して、私たち大人が出来るのは軽いケアくらいですもの」

 

「そんなことはないですよ。リツコさんやミサトさん、それにオペレーターの人達や他のネルフ職員達の力があったからこそ使徒は倒せたんですよ。俺がやったことはエヴァに乗って使徒を倒しただけ・・・・・・俺一人の力では何もできなかった」

 

「そんなに自分を卑下するものではなくてよ?シンジ君は命を張って戦ったわ。もしかしたら、先の戦闘で貴方は命を落としていたかもしれないのだから・・・」

 

自嘲するように語るシンジに、リツコは彼に優しく告げる。

 

「別に命など惜しくない。・・・傲慢なのはわかっている。夢物語なのは理解している。・・・だが、やっぱり誰もが笑顔でいられる世界を夢見てしまうのは、間違いなのだろうか・・・」

 

何処か、ここではない遠くを見つめて語るシンジにリツコは思わず息を飲む。

今の彼のまとう雰囲気は、大人びた子供とかではなく、長い旅路を生きてきた老人のようなものであり、まるで深い苦悩を抱えながらも、己を道を歩き続ける旅人ではないかと錯覚させる。

 

「ッ!?・・・・・・その願いは誰もが夢見ることよ。でも・・・誰もが諦める夢でもあるわ。だって、夢は覚めるものだから・・・」

 

優しく、それでいて何処か悲しげな表情を浮かべて語るシンジを前にして、リツコは見惚れてしまい、今の彼を独りにしてはいけないと強く思った。

今すぐにでも彼を抱きしめたい衝動に駆られるが、それを必死に抑え込み、彼の右手にそっと自身の左手を重ねて、優しくながらも彼に告げる。

 

「夢は覚めるものか・・・・・・そうだな」

 

それだけ静かに呟くとシンジは少しの間瞳を閉じた。

対面に座るリツコは、今彼が何を思って、何を思い浮かべているかなどは理解できない。でも、彼女はただ彼の手に優しく己の手を重ね続けた。貴方は独りではない、と証明するかのように彼に少しでも自身の温もりが伝わるように・・・・・・ただ手を重ね続けた。

 

「・・・・・・すまない。変な空気にしてしまって」

 

それから数分ほど経つと、シンジは目を開いた。

纏う雰囲気は先ほどまでのものとは違い、今まで通りのものになっていた。

「いいのよ、これくらい。それにしても、その口調が素なのね」

 

「またやってしまったか・・・。すみません。つい何時もの口調になってしまって・・・」

 

「別にいいのよ。私は気にしないわよ。それにミサトにはその口調で話してるんでしょ?」

 

「ええ、そうですね。ミサトさんの方から普段通りでいいと言われたので。まぁ、時と場所は選びますが・・・」

 

「私もそれでいいわよ。シンジ君ならそれが分かってると思うしね。それに戦闘中に咄嗟に出たものに関しても別に気にしないから安心して」

 

「そうですか・・・いや、そうか。なら、普段通りでいかせてもらう。改めて、これからよろしく頼む」

 

「ええ、よろしくね」

 

シンジの言葉にリツコは微笑みを浮かべて返す。

今のリツコを見たら、リツコを知っている人達はきっと驚いた表情を浮かべるだろう。

それほどまでに今の彼女が浮かべる微笑みは、優しくて、慈愛に満ちていて、とても魅力的であった。

 

「さて、診断は終わったけどミサトが来るまで少し時間があるわね。良かったらここで少し休んでいきなさい。貴方は病み上がりなのだから」

 

「そうだな・・・。では、お言葉に甘えて」

 

「シンジ君はコーヒー飲めるかしら?」

 

リツコは立ち上がって食器棚に移動すると、そこから数個のお菓子を取り出しながら、シンジに問いかける。

 

「ああ、大丈夫だな。あ、俺も手伝う―――」

 

「いいのよ。貴方は怪我人なんだからゆっくりしてなさい。気遣いありがとね」

 

手伝おうと立ち上がるシンジをリツコが制止させる。

彼女は戸棚から自分用とお客用のカップを取り出すと、粉状になったコーヒーを容器から適量カップに入れて、お湯を注ぐ。

 

「リツコさんはよくコーヒー飲む人なんだな」

 

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

 

「いや、この部屋にはコーヒーの香りが充満してたからな。日頃からよく飲んでいると思ったのが一つ。そして、棚には数種類のコーヒーの粉があるのでな。それら二つからそう思っただけだ」

 

「貴方と話してると本当に楽しいわね。ええ、私は日頃から中毒と言っていいほどコーヒーを愛飲してるわ」

 

そう言って、リツコはカップの一つをシンジの前に差し出す。

そして、ミルクとシュガースティックが数個入った容器を机に置いた。

 

「はい、ミルクと砂糖よ」

 

「ありがとう。気遣いは有難いが、俺は基本ブラックで飲むんで大丈夫さ」

 

置かれたカップを動く右手で持つと、口をつける前に香りを楽しんでから一口飲む。

それは背伸びをしている子供とは違って、ごく自然な動作であった。

 

「シンジ君と話していると、貴方が子供ってことをついつい忘れちゃうわね。ブラックをそれほどまで様になって飲む中学生はそうそういないと思うからね」

 

リツコはそう言いながら、自身もコーヒーを啜る。

 

「そうだろうか? 俺自身はコーヒーはブラックで飲む方が香りがよくて好きなだけだがな。後は趣味でコーヒーを入れるからな、その影響もあるのだろう・・・」

 

そう言ったシンジはお菓子を一つ手に取り、口に含む。

 

「あら、コーヒーを入れるのが趣味なの? 今度、入れてもらおうかしら?」

 

「ああ、いいぞ。一応、すでにこっちに俺の荷物が届いていると思うから、住居とか決まれば、持ってきた手挽きミルがあるんで、豆から挽いて入れますよ」

 

「豆から挽いてやってるなんて本格的ね。これは期待してもいいかしら?」

 

笑みを浮かべて言うリツコにシンジは苦笑を浮かべて答える。

 

「それなりに自信があるが、あまり期待はしないでおいてくれ」

 

そういうシンジではあるが、前世の彼は執事を行っていた時期もあるため、コーヒーだけではなく紅茶や礼儀作法などは超一流と言っても過言ではないのだが、シンジ自身は趣味の域を出ていないと思っているのだ。

 

「楽しみにしているわ。どうせなら、私の部下にならない?」

 

「リツコさんはコーヒーが目当てだろ?」

 

「そんなことはないわよ。シンジ君自身にも魅力があるから誘っているのよ」

 

それから二人はミサトが来るまで楽しく会話を弾ませていた。

・

・

・

・

 

「さて、ここからは俺一人で行ったほうがよさそうだな・・・。ミサトさんは少しばかり待っていてくれ」

 

シンジはリツコの部屋を後にして、ミサトの案内の元、司令室の前にいた。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、世間話を少しばかりするだけさ」

 

そう言って、翔は緊張した様子も見せずに、扉をノックしてから司令室へと入って行った。

 

「失礼します」

 

「よく来たな、シンジ」

 

司令室は薄暗く広い空間であった。部屋の奥の方に置かれたデスクに座り、両肘をついて組んだ両手で口元を隠すゲンドウの姿とその後ろには両手を後ろで組んで立ってる冬月の姿があった。

 

部屋の中央の床にはセフィロートの樹が描かれていた。

 

セフィロートの樹とは、旧約聖書において出てくるエデンの園の中央に植えられた木の事を指し、生命の樹とも呼ばれている。

この樹の実を食べると、神に等しき永遠の命を得るとされている。

アダムとエヴァをエデンの園から追放した理由は、知恵の樹の実を食べた人間が、生命の樹の実までも食べて永遠の生命を得て、唯一絶対の神である自身の地位が脅かされる事を恐れたためであるとされている。

 

「改めて、久しぶりだな。親父。それにしても、この無駄に広い司令室に意味があるのか?」

 

「余計なことを喋るのではない。それに私はこのネルフの司令だ。言葉遣いは気を付けろ」

 

「やれやれ、今の俺はまだ正式にネルフに所属しているわけではない。ただ単に俺は自身の親に対して接しているだけだ」

 

「ふん。相変わらずのようだな」

 

親子とは思えない会話を繰り広げる二人だが、タイミングを見計らって冬月が翔に話しかける。

 

「久しぶりだね、シンジ君。以前に会って以来だね。元気にしていたかい?」

 

「ええ、お久しぶりです。冬月さん。元気にしていましたよ」

 

冬月に対しては、敬語で話すシンジ。

そこから朗らかに会話をする二人にゲンドウは僅かに驚きを示した様子で問いかける。

すると―――

 

「ああ、以前に一度会ってな。そこから主に手紙で連絡を取り合っていたのだがな」

 

「冬月さんの連絡先を見つけたのは偶然だな」

 

その問いかけに冬月は何でもないように答える。

それに補足するようにシンジが言葉を繋げると、そうか・・・と一言呟いてゲンドウは納得する。

 

ユイがわざと残しておいたのか・・・それとも碇家が処分しきれなかったのか・・・

そこは定かではないが、仕方がない

この程度でシナリオは崩れない

 

会話をする二人をサングラス越しに見つめながらゲンドウは内心でそう考えていた。

すると、ある程度で冬月との会話をやめて、シンジはゲンドウに問いを投げかける。

 

「それで俺が呼び出された理由は何だ?」

 

「お前にはこれからエヴァのパイロットとしてネルフに所属してもらう」

 

「中学生の俺がか?・・・冗談ではないようだな」

 

「ああ、わざわざお前をここにまで呼んで冗談を言う暇などない」

 

シンジの言葉にゲンドウは何の感情も籠っていないような声で返す。

すると、補足するように冬月がシンジに話し出す。

 

「シンジ君の疑問も尤もだが、ネルフには超法規的な権限が与えられているので、問題ないよ。

無論、学業を優先出来るよう、勤務に関しては最大限に配慮するつもりだから安心してほしい」

 

その言葉を聞いて、シンジは少しの間考えるそぶりを見せてからその口を開いた。

 

「所属するのはエヴァに乗った時点で覚悟していたから問題はないが、少し条件をつけさせてもらっていいだろうか?」

 

「構わん、言ってみろ」

 

「なら遠慮なく・・・。俺の階級はミサトさん、葛城ミサトの下の階級にしてくれ。

作戦部長である彼女より階級が上では周りに示しがつかない。それと給料に関しては生活が出来る必要最低限があればいい。その分はエヴァと使徒の戦闘によって破壊される街の修復にでも当ててくれ。・・・ああ、後は有事の際には司令もしくは副司令である二人に匹敵する権利が欲しい」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

中学生の考えとは思えない発言をしたシンジにゲンドウと冬月は目を見開いて驚きを示したが、

すぐに動揺を抑えて、普段通りに話しかける。

 

「ああ、その条件を受け入れよう」

 

「とても中学生とは思えないね」

 

「了解した。それにしてもまさか最後の条件がそう簡単に受け入れられるとは思ってなかったな」

 

「ああ、お前なら無茶な使い方をしないだろう」

 

「信用してくれている、という解釈でいいようだな」

 

「ああ、何かあった場合、俺と冬月で責任は取るから安心しろ」

 

「まぁ、シンジ君は大丈夫だと思うけどね」

 

ゲンドウと冬月の言葉にシンジは頷いて答える。

 

「なら、今日のとこはこれで終わりか?」

 

「ああ、あとは好きにしろ」

 

ゲンドウの言葉に頷き、二人に一礼してからシンジは司令室を後にする。

たが、扉を開け出る直前に―――

 

「ああ、それと言い忘れたことが1つ。諜報部はもう一度鍛えなおした方がいいと思うぞ? 今のままでは気配がバレバレだ。一般人なら気付かんと思うが、勘の良い者やその手のプロには気付かれるぞ」

 

それだけ言って、シンジは今度こそ司令室を後にした。

・

・

・

・

 

シンジが出て行った指令室はいつも以上に静寂を保っていた。

 

「・・・碇、シンジ君は早い段階でお前の計画に気付くかもしれんな」

 

不意に沈黙を保っていた冬月がゲンドウに向けて言葉を放った。

 

「・・・そんなことは計画を考えた段階で百も承知だ。あいつは幼い頃から何かと察しが良かった。

あいつと目を合わすと全てを見透かされてしまうような錯覚さえあった」

 

組んでいた手をほどき、ゲンドウは疲れたように深く椅子に座るとサングラス越しに天井を眺めながら静かに語った。

 

「あいつが普通ではないことはすぐにわかった。だが、それでもユイはあいつを愛した。

それこそ、俺が嫉妬するほどにな。・・・ユイはよく言っていた」

 

―――この子の心は深く傷ついている。あらゆる業をその身に背負い独り戦っている・・・

 

「とな・・・。俺には正直言って何が何だかさっぱりだ。でも、あいつが只ならぬものを生まれながらに背負っていることは何となく察したよ・・・」

 

眼を閉じて思い浮かべるのは過去の記憶。

まだ自身の妻が生きており、その腕には幼子を慈しむように優しく抱いていた。

 

「俺はあいつが嫌いだった。俺に愛をくれた、温もりをくれたユイを独り占めするあいつが・・・。

だがな、黒い心に支配されそうになると、何時もあいつは俺の傍に寄ってきた。そして俺に抱っこを求めるんだ。俺が仕方なく抱っこをするとユイも傍によってきて笑うんだよ、抱き方が下手だって・・・。

何時もそうだった・・・。あいつと共にいるとユイも一緒にいた。いつの間にか俺はその空間が居心地よくなっていたんだ」

 

独白を続けていたゲンドウは不意に言葉を止め、再び手を組んで座る。

 

「―――だから、何があろうと俺はあの頃を取り戻すと決めたのだ。

それが、ユイの意思を踏みにじろうとも・・・あいつと敵対することとなってもだ」

 

只ならぬ気迫をもって告げたその言葉に冬月は何も言わずに瞑目した。

・

・

・

・

 

「さて、どうしたものか・・・」

 

指令室を後にしたシンジは自分のうっかりさを軽く嘆きながら歩いていた。

 

色々と条件を受け入れてもらったが、肝心なこれからの住居について聞いてなかったな・・・

まぁ、ミサトさんと合流してから考えるか・・・

 

「シンちゃん~。ここよ!」

 

前方で元気よく手を振るミサトの姿が映った。

それにシンジは無事な右腕を上げて応え、ミサトがいるところまで足を進めた。

 

「ミサトさんも用が終わったようだな」

 

「ええ、それでシンちゃんに聞きたいことがあったのよ」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「あら、私に聞きたい事?」

 

シンジの言葉に疑問符を浮かべるミサトであったが、すぐにそれを決してからかうような表情を浮かべる。

 

「は~ん、さては私のスリーサイズでも知りたいんでしょ?

やっぱりシンちゃんも男の子だねぇ~」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべてシンジの脇腹を軽く小突いてくるミサト。

それに対して、シンジはあからさまに深い溜息を吐いてから答える。

 

「からかうのはよしてくれ。俺が知りたかったのは俺が住むネルフの男性寮の場所だ。

俺はそこに住む予定になっていたはずだが、部屋の場所を知らなくてな。

知っていたら教えてもらおうと思っていたんだ」

 

「そういえば、そうだったわね。私もそれについて聞きたいことがあったから」

 

「ん? 何か問題でもあったのか?」

 

ミサトの言葉に怪訝な表情を浮かべるシンジ。

すると、先ほどまでの軽い雰囲気はなりを潜めて、ミサトは真面目な表情でシンジの事を見つめながら問いかける。

 

「貴方本当に一人で寮に住むつもりなの? お父さん・・・碇指令とは一緒に住もうとは思わないの?」

 

その問いかけに関してシンジは、ふむ・・・と小さく呟いてから少し沈黙した後に答えを返した。

 

「その考えは全く思い浮かばなかった」

 

「だぁ・・・・・・。シンちゃん、変なところでぬけているのね」

 

シンジの回答に思いっきり脱力するミサト。

 

「まぁ、別に問題ないだろう。一人で住むといっても、ネルフ本部内でだし、生活に必要なものはそろっているのだろ?」

 

「確かにそうだけれど・・・。貴方はまだ中学生なのよ?保護者が必要な場面は必ずあるわ」

 

ミサトの言葉にシンジは考える仕草をする。

 

別に父親と話すのが嫌だ、とかの理由ではないのだが、いかんせんゲンドウの忙しさはネルフの司令なだけあって他を抜いている。

最初は冬月にでも有事の際のみ頼もうと思っていたが、ゲンドウと同じくらいの忙しさだ。

 

さて、どうしたものか・・・

 

シンジは色々と考えるが、あまりいい案が浮かばなかった。

すると、そんな彼の様子を見てミサトはポン!と手を叩く。

その音を聞いたシンジは目の前にいるミサトへと視線を向ける。

そこには満面の笑みを浮かべて、名案が浮かびました!と言いたげな表情を浮かべるミサトの顔が映った。

 

「じゃあ、シンちゃん!私と一緒に住みましょう!

いやーこれで解決したわね!」

 

「・・・すまないが、少しばかり理解不能な言葉だったんだが・・・。

ミサトさん。貴女は今一緒に住もうと言ったのか?」

 

少しの沈黙の後にそう問いかけたシンジに満面の笑みを浮かべて頷くミサト。

 

「ええ、そうよ。私も別に住人が一人増えたくらい全然平気だし。それにシンちゃんは保護者が出来るし、いい案でしょ?」

 

その言葉にシンジは頭痛を耐えるかのように額に手を当ててからミサトに話しかける。

 

「いくら中学生と言っても、俺は男だぞ?

こう言ってはあれだが、ついこないだまで俺達は赤の他人だ。

そんな男女がいきなり一緒に暮らすのは何かとまずいのでは?」

 

「あら〜シンちゃん。私のこと襲う気?」

 

からかうようにミサトは自身の体を守るように抱きしめてニヤニヤした表情をシンジに向ける。

それに対してシンジは―――

 

「いや、確かにミサトさんは魅力的な女性であるし、貴女のやうな女性と知り合えた時点で俺は随分と幸運な人間なのだろうが・・・」

 

そう告げる。

平然とそんなことを言ってきたシンジにミサトは面を食らった表情を浮かべるが、すぐに軽く頬を紅く染める。

 

「シンちゃん、そんなセリフよく真顔で言えるわね?」

 

軽くジト目を向けてくるミサトにシンジは何のことか分からず疑問符を浮かべる。

 

「まぁいいわ。それじゃあ早く私の家に行きましょうか」

 

「なにがそれじゃあ、なのか全く理解ができないのだが・・・」

 

まだ難色するシンジにミサトは目をすわらせてある一言を言い放つ。

 

「上司の言うことが聞けないのかしら?」

 

「・・・・・・やれやれ」

 

その一言に僅かに体を硬直させたシンジだが、すぐに諦めたように肩を竦めた。

それを了承と取ったミサトはシンジの無事な手を握って歩き出す。

その際にポケットから支給されている携帯を取り出すと、ある人物に連絡を入れる。

 

「あ、もしもしリツコ?」

 

『何よ?くだらない用件なら後にしてくれる?』

 

携帯から聞こえてくるリツコは若干苛立った声色で用件を聞いてくる。

リツコは今破損した初号機の修理で忙しいのだ。

そんな時にミサトのような陽気の声を聞けば若干苛立つのも仕方がないと言えるだろう。

 

「たいした用件じゃないんだけど、シンちゃん私と一緒に住むことになったから、彼の荷物を私のマンションに送っておくように手配しといてくれる?そういう担当リツコだったでしょ?」

 

『ちょっと貴女なに言ってるのよ!?』

 

「まぁそういうわけだからよろしくねー」

 

『ミサト!抜け駆けは許さないわよ!だいたい司令や副司令から許可がおりないと―――』

 

「ああ、それならさっき連絡入れて許可もらったから大丈夫よ〜。それに流石にまだ中学生のシンちゃんを襲うわけないじゃない」

 

何と無駄に根回しがいいのだろう。

それにいつの間にそんな許可を取っていたのだろう、と思うシンジ。彼の記憶ではこの話になってからミサトはリツコ以外に連絡を入れていない。

ということはシンジと会う前から既に許可を貰っていたのだろう。

色々と考えるシンジであるが、これ以上考えていたら身が持たないと思い考えるのをやめた。

 

ミサトはリツコに強引にリツコとの会話を終わらせて、通話を切る。

 

「さて、今日は新しい同居人の歓迎会をしないとね!」

 

「もう好きにしてくれ・・・」

・

・

・

・

 

「シンちゃん、少しだけ寄り道するわよ」

 

上機嫌でルノーを走らせているミサトが唐突にそう言って町から離れた山へとルノーを進めた。

 

山中にルノーを止めたミサトはシンジの手を繋いで移動する。

ミサトの案内のもと来た場所は第3新東京市の街が見下ろせる場所であった。

そこから見える街は殺風景な感じを思わせるほど何も無かった。

 

「・・・何もないんだな」

 

小さく呟いたシンジにミサトは悪戯をするのような笑みを浮かべる。

 

「まぁ、これから面白いものが見れるから」

 

そう言ってミサトは腕時計を見る。

 

「そろそろ時間ね」

 

その呟きに怪訝な表情を浮かべるシンジであったが、突如、警報機が鳴り響く。

それに反応したシンジは隣にいるミサトに向けていた視線を街へと戻す。

 

第3新東京市の街に音が鳴り響いてると地面の各所が開き、そこから次々とビルがはえていった。

 

「すごいな・・・」

 

小さく感嘆の声を漏らすシンジ。

 

全てのビルがはえ終わると誰が見ても栄えた街並みが広がった。

 

「対使徒迎撃要塞都市、第3新東京市。これが私達の街よ。

―――そして貴方が守った街でもあるわ」

 

すると、隣に立っていたミサトが優しい笑みを浮かべてシンジにそう語りかける。

それに対して、シンジは無事な右手で顔を隠しながら静かに言葉を返す。

 

「・・・いいや、護れなかったさ。俺が・・・ネルフが動き出すまで多くの軍人達が命を落としていた。俺は何もやっていない」

 

「そんなことないわ。貴方がいたから使徒は倒せたのよ。それに彼らだって死ぬのは覚悟の上で軍にいるのよ。彼らの死までシンちゃんが背負う必要はないわ」

 

「・・・そうかもしれないな」

 

それだけ言って憂いを帯びた表情で街を眺める彼はとても中学生には見えなかった。

ミサトは彼に対してどう言葉を投げかけていいのか分からず、ただ黙って隣にいる立っていることしかできなかった。

・

・

・

・

 

「さて、今日はパーティーよ!」

 

テンション高めでそう言いながらミサトはポケットから自身の家の鍵を取り出して玄関を開ける。

ミサトが住んでいるのはネルフ本部から少し離れたマンションだ。

 

「シンちゃんの荷物はリツコに言ってたからもう届いてあると思うから・・・。

今日から私の家でありシンちゃんの家になるわ。実を言うと私もこの街に引っ越してきたばっかなのよね」

 

「了解だ。まぁ明日から必要なものといえば、制服くらいだからな。あと、着替えさえ届いていれば困るものはあまりないと思うが・・・」

 

「さ〜、はいってぇ。ち(・)ょ(・)っ(・)ち(・)散らかってるけどね」

 

ミサトは先に入り、シンジは追いかけるように家の中に入る。

 

「お邪魔します」

 

それを聞いたミサトは振り向いて少し怒った顔をシンジに向ける。

 

「違うでしょ? 今日からここはシンちゃんの家でもあるのよ?」

 

その言葉に驚いたシンジであったが、すぐに優しい微笑みを浮かべてある言葉をミサトに送る。

 

「ああ、そうだな。―――ただいま、ミサトさん」

 

「ッ!?」

 

その表情を真っ正面から見たミサトは思いっきりその頬を紅く染める。

 

そ、それは反則よ!?

 

年甲斐もなく内心で慌てふためくミサト。

様子の可笑しいミサトに怪訝な表情を浮かべるシンジであるが、視界に玄関の様子を見て、その表情が僅かに引き攣る。

シンジの視界に映ったのは脱いだままで片づけられていない靴の数々・・・。まさに足の踏み場がない状態だ。

 

「ふぅ・・・」

 

一度深くため息を吐いて、シンジは湧き上がる気持ちを抑え込む。

 

いいか、ミサトさんはネルフの作戦部長なんだ・・・

きっと忙しくて散らかっているだけに過ぎない。それに彼女も言っていただろ、引っ越したばかりだと

おそらくまだ荷物の整理とかが終わっていないのだろう・・・

ここは冷静に対処するんだ

 

自身に言い聞かせるように内心で呟くシンジ。

 

「こ、こっちがリビングでこっちがシンちゃんの部屋よ~」

 

動揺を隠すようにミサトは部屋の紹介を始めた。

リビングへと続く廊下には溜まりに溜まったっているごみ袋の数々を横目で見ながらシンジは黙ってついていく。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

シンジは再び湧き上がる気持ちを抑えながら、足の踏み場を無理やり作ってミサトについていったが―――

 

「ここがリビングでーす! ちょっち散らかってるけど気にしないでね♪」

 

リビングに広がっている惨劇にシンジは無事な右手で顔を覆った。

 

「ああ・・・これはもう遠慮しないほうがよさそうだな・・・」

 

「えっ、シンちゃん何か言った?」

 

リビングの入り口で立ち止まっていたシンジを不思議に思ったミサトは一端を動きを止めてシンジへと視線を向けた。

すると、シンジが小さく呟いたが残念ながらミサトの耳には届かなかったようだ。

彼女はシンジに聞き返すが返ってきた言葉は先程シンジが言った言葉とは違った。

 

「―――ミサトさん。少し正座でもしてもらおうか」

 

「えっと・・・シンちゃん?」

 

俯かせた顔からはその表情がどんなものを浮かべているかはわからなかったが、ミサトは本能的に悟った。あ、何かやばい・・・と。

冷や汗を浮かべたミサトはシンジに言葉を投げかける。

すると、俯かせていた顔を上げたシンジ。

シンジの表情は満面の笑みであった。

だが、その瞳は笑っておらず、まさに貼り付けられたような笑みであった。

笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である、と依然誰かから聞いたことを思い出したミサト。

 

「聞こえなかったのか? ああ、なるほどな。どうやら俺の声が少しばかり小さすぎたようだな。もう一度言う。少し正座でもしてもらおうか、と言ったんだ」

 

「は、はい!」

 

シンジの言葉を聞いて、ミサトはまさに神ががった速度で正座をする。

 

「さて、俺が言いたいことは分かるかな?」

 

「ちょ、ちょっち、わかんないな・・・なんて」

 

愛想笑いを浮かべて誤魔化そうとするミサトにシンジはますます笑みを深めていく。

その表情を見て、ミサトは背中から冷や汗が止まらない。

 

「ほう・・・随分と戯言をのたまうのだな・・・。俺が言いたいことはたった一つ

―――散らかりすぎだろ、この部屋」

 

「それは仕事が忙しくて・・・」

 

「ふむ、確かに一理あるな」

 

ミサトの言い訳に僅かに頷くシンジを見て、ミサトは活路を見出したような表情を浮かべたが、それは儚く切り捨てられた。

 

「だがまぁ、あまりにも忙しいといっても、ネルフとて鬼ではないんだ。週に一回か二回は休みがあるはずだが?」

 

「えっと・・・はい、あります」

 

「ならば、その日にごみを捨てるくらい、テーブルの上の缶ビールの山を片づけるくらいは出来たんじゃないのか? まぁ、確かに普段忙しくて休みの日には日々の疲れを癒したい気持ちも分からないでもないが、流石にこれほど散らかっているのは見過ごせないな。別に完全に綺麗にしろとは言わないが、せめて小奇麗にはしておいたほうがいいんじゃないのか?これほど散らかっていては衛生的にもよくないのはそうだが、仮に怪我するものを放置して、それで傷ついたら化膿してしまうだろ?」

 

「はい、仰る通りです」

 

シンジの言葉にただただ頷くミサト。

そこから数十分ほどお説教をしたシンジは満足したのかようやく口を閉じた。

 

「さて、少しばかり長くなってしまったが、片づけをしてから夕食にしよう。幸いなことに明日は燃えるゴミの日だ。大抵のものは捨てられるだろう」

 

「や、やっと解放された・・・」

 

ようやくお説教から解放されたミサトは足を崩して、脱力する。

 

「ミサトさん、ゴミ袋と掃除道具はどこにあるんだ?」

 

「えっと、シンちゃん~。ミサトさんお腹が減ったなぁ~。お掃除は後でにして、先に夕食にしない?」

 

空腹を訴えるようにお腹をさすりながらそう告げるミサトにシンジは深くため息を吐いてから頷く。

 

「それじゃ、俺がある程度片づけておくんで、ミサトさんはこのメモに書いてある物を買いに行ってくれ。そしたら、俺が軽く晩飯を作るんで」

 

「あら、レトルトなら余ってるわよ」

 

シンジが料理をしてくれるとは思っていなかったミサトは驚きながらも、簡単に済ませられるレトルト食品があることを告げた。

そのことにシンジは苦笑しながら首を横に振る。

 

「確かにレトルト料理なら簡単に手早く済ませられるが、俺とミサトさんが一緒に暮らすようになる記念すべき日だ。どうせなら少し豪華な夕食にしても悪くはないだろ? こう見えてそれなりに料理には自信がある。同居人となる人に振舞いたいという本音もあるのさ」

 

そう笑みを浮かべながら告げたシンジにミサトも同じように笑みを浮かべて頷く。

 

「それじゃ、食材の調達任せて!」

 

そう言ってミサトは渡されたメモ片手に家から出ていき、ルノーに乗って近くのスーパーへと行った。

 

「さてと、ミサトさんが帰ってくるまで約40分ほどはかかるな・・・。とりあえず、キッチンとリビングに玄関とかは片づけれるな」

 

シンジはシャツの袖をまくって片づけを始めた。

・

・

・

・

 

トントントン、と小刻みに響く包丁の音。

 

シンジのお説教から約一時間経った頃、シンジは自身の数少ない荷物の中から自前のエプロンを取り出して、ミサトに頼んで買ってもらった食材らを使って本日の夕食の支度をしていた。

 

リビングにあるテーブルに山のように積んであったビール缶は綺麗に片づけられており、洗われていないで流しに溜まっていた食器や使いっぱなしの調理器具は綺麗に洗われ、きちんと片づけられていた。

玄関は脱ぎっぱなしの靴は備え付けられていた棚にしまわれ、そこからリビングに繋がる廊下にたまっていたゴミ袋の数々は綺麗に分別されており、すでに燃えるごみは回収場所に捨てられている。

 

「ふむ、そろそろだな」

 

シンジがそう呟くと、それに応えるようにある扉が開いた。

 

「いやぁ! 久々にすっきりした!」

 

そう言いながらタオルで頭をふきながら現れたミサト。

彼女は非常にラフな格好をしていた。

それを見たシンジはあからさまに深い溜息を吐いた。

 

「ミサトさん、いくら何でも楽な格好しすぎだろ。今までと違って俺という同居人が増えたんだから少しは身嗜みにも注意してほしいのだが・・・」

 

「あらあら、シンちゃん。そんなこと言ってこんな美女のあられもない姿を見て、照れてるんでしょ」

 

ニヤニヤした表情でそう言ってくるミサトに再び溜息を吐いたシンジは相手にせずに料理の続きをする。

 

「ちょ、ちょっと無視しなくてもいいじゃない」

 

「やれやれ、今は料理中だ。誤って怪我でもしたらどうするつもりだ」

 

「あら、そしたらあたしが甲斐甲斐しく看病してあげるわ♪」

 

「まったく・・・。ほら、ちゃんと髪を乾かさないと風邪をひくぞ」

 

そう言って、シンジは一端料理をやめて、ミサトを椅子に座らせるとドライヤーを持ってきて丁寧に彼女の髪を乾かしていく。その手際の良さは美容室でも働いては謙遜がないほど巧みであった。

 

「ほんと、シンちゃんって多芸よね~」

 

感心したように呟くミサトにシンジは苦笑して呟く。

 

「何、何事も経験さ。ある程度こなせば凡人でも並みにはこなせるようになるさ」

 

髪の長いミサトであるがシンジは素早く綺麗にドライヤーで髪を乾かすと料理の続きに戻った。

それから数分もしないうちに料理を完成させたシンジはリビングのテーブルに作った料理を配膳する。

 

「・・・・・・あの短時間でこれだけ作ったの? しかも右手だけで?」

 

呆然とした表情で呟くミサトにシンジはまたもや苦笑で返す。

 

「慣れれば誰でもこれくらいできるようになるさ。それに右手だけだがそこまで苦ではないさ」

 

食卓に並べられた料理の数々。

白く光り輝く白米に、ジューシーな香りを放つ唐揚げとその付け合わせである千切りキャベツなどが食卓に並べられていた。

 

「シンちゃん、この卵そぼろはふりかけかしら?」

 

「ああ、それは炊き立てのご飯にかけて食べてくれ。それには一工夫いれてるから」

 

ミサトは食卓に並べられた料理の中に底の深い小さい皿に入っていたものに気が付き、シンジに問いかける。

それは卵そぼろであり、簡単にできるふりかけといったところだが、それに一工夫を入れたというシンジの言葉に首を傾げながらも、ご飯にそれをかけると卵そぼろ以外にもプルプルとした四角い何かもご飯の上にかかり、ご飯の熱で溶けていった。

 

「卵そぼろに隠れていた薄い金色のがご飯の熱で溶けて卵にコーティングされていくわ!」

 

驚いた表情を浮かべるミサトにシンジは苦笑しながら食べるように促す。

 

「いただきます・・・んっ!? この濃厚な鶏肉の旨味は!?」

 

一口食べたミサトの口から驚きの声が上がる。

 

「それはな。手羽先の煮凝りだ。煮凝りってのはゼラチン質の多い魚や肉の煮汁が冷えてゼリー状になったものだな。今回は手羽先を鰹だしなどで煮込んで、手羽先のゼラチン質と旨味を抽出して作った煮凝りを細かく切って卵そぼろに混ぜたってわけだ。細かく切った煮凝りはご飯の熱で溶けて卵そぼろに絡みついて、卵の美味しさを格段に上げたってわけだ。そして、これがその時使った手羽先だ」

 

シンジがミサトの前に出した皿の中には細かく刻まれた手羽先であった。

 

「骨を取り除いて、細かく刻んだ手羽先だ。これも一緒に混ぜて食べるとよりおいしく食べられるだろう」

 

シンジに言われた通りに皿から細かく切られた手羽先を少しご飯の上にかけ、煮凝りがコーティングされた卵そぼろと一緒に食べるとより一層美味しかった。

 

「シンちゃん! 貴方本当に中学生・・・ッ!? これは店に出してもいい品よ!!」

 

興奮した様に告げるミサトにシンジは苦笑しながら首を横に振るう。

 

「俺は別に料理人になりたいわけではないからな。料理はあくまでも趣味の範囲だ。さて、冷めないうちに食べようか」

 

「それもそうね!」

 

満面の笑みで頷くミサト。

それから二人は他愛のない話をしながら食事を進めていった。

・

・

・

・

 

「・・・もう朝か」

 

ゆっくりと瞼を開けたシンジは近くにおいてある時計を見て時間を確認する。

 

「今は5時か・・・少し寝すぎたな」

 

欠伸を噛み殺しながら起き上がったシンジ。

 

「ふむ・・・。左腕は大分マシになったな。それに左目の視力も元に戻ったようだな」

 

左腕に巻かれていた包帯を外して軽く動かしてみる。

違和感が残るが、動かせないことはないため、包帯をつける必要はないだろう。

それと一時的に失明していた左目の視力も元に戻り、完全復帰とはまでは言えないがある程度回復した。

 

「いつも通りとまではいかないがある程度の鍛錬を熟しても大丈夫だろう」

 

自身のカバンから動きやすい格好の服に着替えて、炊飯器に米をセットしてからそっと玄関から出ていくのであった。

 

シンジは幼い頃から朝に体を動かしており、最近では体もある程度成長してきたので、本格的に鍛え始めている。早朝にはランニングと筋トレを熟している。

 

時間にして約一時間ほど外で体を動かしたシンジは家に戻ると、シャワーで汗を流し、コメが炊きあがるまえに朝食の準備をするのだが―――

 

「しまったな・・・。昨日の晩飯のことしか考えてなかったから食材があまりないぞ」

 

開けた冷蔵庫には見事に食材がなかった。というより入る隙間がないといったほうが適切なのかもしれない・・・。

 

「それにしても見事にビールしか入ってないな・・・」

 

呆れたように溜め息を吐くシンジ。

その理由は冷蔵庫の中に8割を占めるモノ―――缶ビールであった。

ちなみの残りの2割はお酒のつまみや僅かな調味料である。

とても一人暮らしの女性が飲む量ではないのだが、昨日のミサトの食事風景を見ているシンジとしては納得してしまう光景ではある。

昨日の夕食の時にミサトはお酒を飲んいた。それ自体は成人している女性なので普通な光景なのだが、その飲む量が異常であった。一時間で10本ほどは飲んでいたな、と思うシンジ。しかも飲み方が中年のおっさんのようでシンジは内心で深い溜息を吐いていたのはミサトに内緒である。

 

「ふむ・・・。みそ汁は作れないことはないが、具材が少なくて寂しいしな。卵スープでいいか。出汁はミサトさんのつまみのスルメを使わせてもらおう。それとあとこれを使かうか」

 

シンジは現在ある食材を使って朝食の準備を始めた。

 

ある程度食事も出来た頃にシンジは何か動く気配を察して、視線を動かす。

その先には一人暮らしの女性が置くにはちょっと不自然な大きな冷蔵庫があった。

実は昨日の掃除の時から気づいてはいたが、中に生き物の気配がいることからミサトが飼っているペットだろうと予想をしてたシンジはあまり気にしなかったし、今の今まで動く気配がなかったため放置していたのだ。

 

ゆっくりと開かれた冷蔵庫から出てきたのは―――

 

「くぇ!」

 

元気な鳴き声を発するペンギンであった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

流石のシンジもペンギンが出て来るとは思っておらず、呆然とした表情を浮かべたがすぐに意識を取り戻してペンギンに近づく。その際、相手を怖がらせないように膝をつけて姿勢を低くし、目線の高さを合わせるようにする。

 

「俺は昨日からここで暮らすことになった碇シンジだ。これからよろしく頼むよ。それでお前の名前は?」

 

「ギャウギャウ!」

 

シンジの問いかけにペンギンは首輪にあるネームプレートを見せる。

そこには『PEN2』と書かれており、どうやらそれが名前らしい。

 

「俺の言っていることを認識しているな。どうやら知能が高いほうだ。それに『PEN2』か・・・。そのまま読むとペンツーだが・・・。2が指数になっているからPENの二乗でペンペンなのか?」

 

「ギャウ!」

 

どうやらシンジの考えが正解だったらしくペンギン、改めペンペンは肯定するかのように鳴く。

 

「それにしても困ったな・・・。ペンギンは確か小魚を食べるはずだが、今は手元に餌になるものがないぞ。・・・一応、作った品は食べられないこともない気がするが、大丈夫なんだろうか。試しに少し食べてみるか?」

 

「ギャウ!」

 

シンジは作っていたある品の一部をペンペンに食べさせてみる。

すると―――

 

「ギャッギャッ!」

 

ペンペンは両腕をバタバタとさせて興奮した様子を見せた。

どうやら美味しいと言っているようだ。

 

「じゃあ、ペンペンの分もすぐに作るから待ってろよ」

 

そう言ってシンジは朝ごはんの支度を終わらせるべく、調理に戻った。

・

・

・

・

 

ピピピピッ!

 

「・・・・・・ん。・・・あれ? もう朝ー?」

 

事前にセットしていた目覚まし時計の音で目を覚ますミサト。

まだ完全に目覚めてないため、眠そうな声で呟きながら目覚ましを止める。

 

「ふぁああ~。久々に気持ちよく寝れたわね~」

 

上半身だけ体を起こしたミサトは大きな欠伸をしながら伸びをする。

ちなみに今彼女の服装はタンクトップにショートパンツといった非常にラフな格好だ。

そのためそんな服装で伸びをすれば色々と見えてしまうのだが、当の本人は気にしていない。

仮にも中学生の男子と同居している身なのにあまりにも無防備だ。

もっともシンジが彼女を襲うということは皆無なのだが・・・。

 

「ん! リビングからいい匂いがするわね」

 

ミサトは漂ってきた匂いに反応する。

そして、シンジが作ってくれた昨日の夕食を思い出し、思わずよだれが出そうになる。

 

「さて、今日はどんな美味しいものが食べられうのかしら」

 

男にしかもまだ中学生の男子に家事を任せているという罪悪感は彼女の中には無いようだ。

朝食の内容を考えて、ウキウキとした様子でリビングに顔を出すミサト。

 

「おっはよー!」

 

「ああ、おはよう。ミサトさん。もう朝食ができるからゆっくり座っておいてくれ」

 

シンジにそう言われて席に着くミサト。

すると、テーブルの上にシンジが朝食を置いていくと、そこで違和感を感じたミサト。

 

「あれ・・・? そういえばシンちゃん、左腕の包帯はどうしたの?って普通に左手動かしてるし」

 

違和感の正体はシンジが普通に左手を使っていることだ。

先日の使徒との戦いで負傷した左腕はそう簡単に完治するとは思えない。それに左目の視力もそう簡単には戻らないと思っていたのだが・・・。

 

「ああ、ある程度は動かせるようになったんでな。リツコさんには悪いが包帯を外させてもらった。まぁ、そこまで重症ってわけじゃないしな。左目は完全に視力が取り戻したから大丈夫さ」

 

「・・・・・・そう簡単に治るものなのかしら? でも、零号機の事故で傷を負ったレイはいまだに癒えてないのに」

 

あまりの回復の速さに驚きを隠せないミサトは小さく呟く。

 

「まぁ前から傷の治りは早かったほうだからな。それも関係しているだろ。それにネルフの医療機関は最新鋭だったからな。それも関係しているのだろう」

 

「うーん。考えても仕方ないしね! それじゃ、朝ごはんにしましょう!

それにしても朝からハンバーグって結構手が込んでるわね・・・」

 

白米と卵のスープとハンバーグは出来立てを示す湯気を放つ。

 

「まぁ、このハンバーグ自体はそこまで難しくないさ。食べてみればわかると思うが。とりあえず、いただきます」

 

「ええ、いただきます」

 

シンジはエプロンを外すと、ミサトの対面の席について両手を合わせてから食事を始めた。

ミサトもそれに倣うように両手を合わせ、メインであるハンバーグに手を付ける。

箸を使って一口サイズに切り分けたそれを口に運ぶ。

 

「美味しい! すごい肉厚感でふわりとした焼き上がり!」

 

絶賛しながらミサトは箸を進める。

それを見ているシンジは微笑みながらハンバーグの秘密を告げる。

 

「実はそれ鯖缶で作ったものなんだ」

 

「えっ!? これ鯖なの!?」

 

ハンバーグの正体を知ったミサトは眼を見開いて驚きを示した。

とても鯖缶から作られたとは思えない品である。

 

「ああ、ひき肉がなかったから家にあったつまみ用の鯖缶と玉ねぎ、パン粉、卵で鯖のハンバーグを作ったわけだ。ちなみにペンペンも気に入ってくれたみたいだな」

 

そう言ってシンジは足元にいるペンペンの頭を撫でる。

目を閉じて気持ちよさそうに撫でられているペンペン。その近くにはペンペン用の皿に鯖のハンバーグが置いてあった。

 

「いつの間にかペンペンとも仲良くなってるし、限られた食材でこれだけの料理ができる上に、家事も完璧・・・・・・シンちゃん、私と結婚しましょう」

 

「寝言は寝てから言ってくれ」

 

真剣な表情で求婚してきたミサトに呆れたように言葉を返すシンジであった。

・

・

・

・

 

ミサトと朝食を済ませたシンジは今日から転校した学校で授業を受けている。

 

「・・・・・・と言うわけで。人類は科学の発達と、ともに爛熟した文明を謳歌してきたわけですが…。全てが灰燼に帰す時がやってきたのであります」

 

教師が歴史について語っている。

シンジは第3新東京市の第壱中学校に転校をした。疎開の影響でシンジがここに来る前に通っていた学校よりも学生が少ない。

 

シンジは2年A組の生徒となり、本日が登校初日であった。

そのため朝のHRで自己紹介を行ったのだが、その時が色々と大変であった。

 

鍛えられているため、中学生とは思えないほどしっかりとした体格に大人のような雰囲気を放つシンジの魅力は中学生女子にはドストライクであり、彼が登場した瞬間、女子から黄色い声が上がったのは仕方がないことだろう。

それを見た男子は面白くなさそうな表情を浮かべていたが、話してみるとシンジの人柄に触れ、今ではクラスの全員からシンジは受け入れられた。

 

「20世紀最後の年、巨大隕石が南極に衝突したのは皆さんもご存知だと思いますが・・・これにより氷の大陸は一瞬にして溶解し、海洋の水位は20mも上昇したわけであります」

 

教師の話を聞きながらノートを書くシンジであるが、彼はいま語られている歴史が違うと考えていた。

 

・・・確かに地球の環境は昔に比べて大幅に悪いほうへと変化したが、南極に巨大隕石が衝突したってのは違うな

きっと使徒関連の出来事が起きたのだろう・・・

だが、こればかりは調べられようがないな。裏で情報を操作している組織はネルフ・・・いや、もっと深い存在だ

今は考えることではないな・・・とりあえず、使徒に対して意識を傾けよう

 

そう結論付けるとシンジは視線をずらして窓側の席に座る女子を視界に収める。

色白で青髪と赤い瞳を持つ細身の少女・・・綾波レイである。

シンジと同じエヴァのパイロットであり、ファーストチルドレンと呼ばれる存在。

彼女は授業に興味がないようでずっと視線を窓から見える外の景色に向けていた。

 

過去の経歴は全て抹消済みか・・・

 

シンジはリツコとミサトから聞いた綾波レイについての情報。

 

それに俺の記憶が正しければ、綾波レイは俺の母親である碇ユイと容姿が酷似している・・・

 

幼い頃の記憶を頼りに自身の母親である碇ユイを思い出す。

 

実際のところシンジには幼い頃の記憶はかなり曖昧である。

『御剣翔』としての生が終わって、『碇シンジ』となった彼であるが、彼がこの世界に生まれ落ちた時の最初の記憶は赤ん坊のころであり、母親と思われる人物が自身を抱いていた時のことだ。

それから彼の意識は深く封じ込められたのだ。

きっとそれは一種の防衛本能とも言える。『御剣翔』としての培ってきた知識や経験、そしてその身に宿す力はあまりにも大きすぎた。それは赤ん坊の体では受けきれないほどのものだ。

だから『御剣翔』を『碇シンジ』に代わるための期間が必要であり、ゆっくりと『碇シンジ』の体に馴染ましていったのだ。それ故に、シンジには幼い頃の記憶がかなり曖昧である。

彼が完全に意識を取り戻したのは碇ユイが亡くなった後のことだ。そのため自身の母親の顔をよく思い出せないのだ。

 

綾波レイという存在に怪訝な思いを抱くシンジであるが、考えたところで仕方ないと決める。

 

まぁ同じパイロットして接する機会が多いだろうから、ある程度の友好は深めておこうか・・・

 

そんなことを考えながらシンジは授業を受けていたのであった。

・

・

・

・

 

「ねぇ、碇君。疎開が始まってるのにこんな時期にこの学校に転校って何でなの?」

 

「やっぱり噂は本当なの?」

 

授業が終わり休み時間となったシンジの元に二人の女子生徒が話しかけていた。

 

「噂・・・?」

 

彼女らの問いかけに首を傾げるシンジ。

周りの生徒達も話の内容が言葉が気になるようで、みんなが耳を傾けていた。

 

「あのロボットのパイロットっていう噂よ!」

 

「そうなんでしょ」

 

「そんな噂が出回っているのか・・・」

 

噂の内容を聞いたシンジはちらっと視線をクラス全体に向けた。

 

綾波レイが言ったわけではなさそうだな。そもそも興味がなさそうだしな

それなら・・・・・・彼か?

 

視界のうちに一人の男子生徒を視界に収めた。

茶髪で頬にそばかすがあり眼鏡を掛けた少年がこちらをじっと眺めていた。

確証がないが彼が噂の発生源でと思うシンジ。

 

「いや、俺がこっちに来たにはたまたまだ。親父の仕事の関係上な。そもそもロボットって何の話なのか分からないんだが・・・」

 

「そうなんだ・・・。確かに転校のタイミングが重なっているって言ってもたまたまだよね」

 

「でも、相田君は結構確信をもっていってたんだけどな。それに彼のお父さんってあのネルフの職員だし」

 

「そうなのか・・・。確かにそれなら信憑性もあるのだろうが、俺は何も知らないな」

 

「そっかー。ごめんね、変なこと聞いて」

 

「いや、いいさ。俺でよければまた話しかけてくれ」

 

微笑みを浮かべてそう告げたシンジに赤く頬を染めて見とれる女子生徒二人。

それから意識がぼうっとした様子でシンジから離れていった。

・

・

・

・

 

特にあれから何事もなく学校を終えたシンジは遊びに誘ってくるクラスメイト達の誘いをやんわりと断って自宅に帰った。

 

「ただいま」

 

「ギャウギャウ!」

 

カードキーを差し込んで鍵を開けたシンジを出迎えたのはペンペンであった。

 

「ただいま、ペンペン。ミサトさんは出ていったのか?」

 

出迎えたペンペンにお礼を言いながら彼の頭を撫でながら部屋の中から気配を感じなかったミサトについて尋ねる。

すると、ペンペンは手に持っていたメモを渡す。

 

『シンちゃんへ♪

本当は昨日のうちに渡しとけばよかったんだけど、少し忘れてて支給の携帯を渡してなかったのよ。テーブルの上に置いとくから使ってちょうだい。私の電話番号登録しといたわよ♪

それで悪いんだけど、本部に来てくれる? 病み上がりで悪いんだけど、軽くエヴァ関連で訓練をしてほしいのよ。体を動かすわけじゃないから大丈夫なはずよ。駄目そうならすぐに中断するから安心して。それじゃよろしくね!』

 

「ふむ。俺は徒歩で行くのか? それから監査官達が手配でもしてくれるのか・・・。まぁ徒歩でいけないことはないから構わないが・・・。とりあえず、行くか」

 

シンジは学校用のカバンを自室に置くと、夕食をすぐ作れるように軽く下ごしらえだけ終わらせてから、テーブルに置いてある黒い携帯と財布をポケットにしまう。

 

「ペンペン。俺も出てくるから。もしかしたら俺とミサトさんが遅くなるかもしれないから夕食が遅くなるが構わないか?」

 

「くぇ!」

 

シンジの言葉に頷くペンペンにシンジはお礼を言いながら頭を撫でる。

 

「それじゃ行ってきます」

 

ペンペンに挨拶をしてシンジは家から出ていった。

 

 

 

【次回予告】

 

幼い頃の微かな記憶にある母親の相貌と重なる綾波レイ。

 

同じパイロットとして友好を深めるために綾波レイに関わりを持とうとするシンジ。

 

碇ゲンドウ以外とは関わりを持とうとしない彼女はシンジと関わることで何かが変わる。

 

自身が知らない使徒殲滅とは別の目的があることに僅かに気づくシンジ。

 

だが、今の彼にはどうすることもできない。

 

そして休息も束の間、新たに襲いかかる使徒。

 

シンジは目の前に襲いかかる脅威に立ち向かう。

 

 

次回『少女との出会い』

 

 

この次もサービス、サービス♪

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。