ダンジョンに周回した不死がいるのは間違っているだろうか? 作:Saturdaymidteemo
オラリオにそのニュースが駆け巡った時、オラリオに生きる人々の反応はベル・クラネルほどではなかった。
大体の冒険者が彼が『本来いるべきであろう高み』に近づいただけという認識であったからだ。
『レベル詐欺』『実はダンジョンの深層以下の階層主』『規格外』などといった声が飛び交う中、彼は今
「はいよ。じゃが丸くん。あんまり買いすぎるとまたアイズちゃんに怒られるよ」
店員のおばさんが朗らかな笑顔でじゃが丸くん小豆クリーム味、と塩味がそれぞれ入った大袋を渡す。
「食事を本来必要としない身としては適量が分からなくてな。感謝を。また来る」
そう言って彼は踵を返す。
町ですれ違う人々がギョッとしたように2度見をする。
それくらいに彼は有名になっていた。
他ファミリアがヘスティアファミリアに余程のことが無い限り表立ってアポロンのように『戦争遊戯』などを安易に仕掛けない理由とすらも言われているのだから当然ではあるが。
彼はそんなことはつゆ知らず。じゃが丸くんを取り出し、兜を消し、食べ歩く。
食べるときのみ見せるその顔はさして醜いというわけではなく、適度に切られた金髪も美しいというほどでもない。
そうして歩いている間に大袋を平らげた彼は袋を呪術の火で燃やし、兜を身に着け、自分のホームに向けて歩く。
「ああ。実に」
束の間の平和とは、いいものだ
そう彼は呟いた。
「ッフ!」
一閃。
フォモール達の身体が真っ二つに割れる。
「ッハ!」
次に地面を叩きつけるように跳ね、『栄華の大剣』を一回転勢いをつけて縦に振り下ろす。
その先にいるフォモールが真っ二つになる。
そのまま腰だめに『栄華の大剣』を構えて横薙ぎに回転する。
そうして周りの敵を全て真っ二つに一掃したあと、魔石を回収し、一息をつく。
彼は『栄華の大剣』を左手にいつでも振れるように握りながら彼はさらに奥へと歩を進めた。
そうして、敵に出会えば倒し、魔石を回収し、進む。を繰り返した後、彼は目当ての物を見つける。
「やはり、ここにもあったか」
目の前に霧がかかった洞窟が大口を開けていた。
最近『霧の扉』と命名されるようになったこの霧の出現報告をとんと聞かなかった。
そこでジャックは『普段誰もくまなく探さない、あるいは探せない場所』にあるのではないかと推測した。
そんな場所は今まさに現行トップのファミリア達がアタックを仕掛けている深層付近以外にはあり得ない―――
そこで彼が調査に足を運んだ。
ベルの『遠征』に参加しないと言ったが、予想以上にジャックに宛てられた『強制任務』が早く終わってしまった手前、今更追うわけにもいかないと思い、篝火の転移能力で深層まで飛んだあたり、少しばかり小恥ずかしさがあったのだろう。
彼は自分の装備を全て一度出し確かめると、躊躇せず、霧の中へと入っていった。
先に見えるのは、巨大な石畳の霊廊といったところだった。
奥に祭壇のようなものが見える。
ドクン、ドクンと脈打つ音がする。
そして祭壇の上部の壁から、巨大な戦士が舞い降りた。
暗がりでよく見えないが、目隠しをしているのが分かる。
ボロボロの巨大な鉱石を削り取って作ったといっても信じれそうな大剣を手にあたりを見渡しながらすり足で進み始める。
ジャックは息を殺し、静かに指輪と杖を取り出し、装備すると無言で魔術を使った。
『ソウルの結晶槍』と呼ばれたそれは盲目の『古い勇士』に突き刺さった。
『古い勇士』は左右に剣を振り雄たけびを上げ、探るように大剣を振り下ろした。
そこにはジャックの姿はない。
彼は『静かに眠る竜印の指輪』と呼ばれる、あらゆる足音を消すマジックアイテムを使い、静かに場所を変えて落ち着いたところを見計らって『ソウルの結晶槍』を放つ。
そして再び『古い勇士』は当たると当たった方向に向けて剣を振り下ろし、衝撃波を飛ばす。
それを繰り返し、6発目の『ソウルの結晶槍』が当たるころに『古い勇士』は膝をつき、倒れた。
そして、そのソウルがその場に固まり、ジャックの大きさに合わせた彼の大剣が地面に刺さり残った。
それを引き抜くや彼は静かに頷き、『探すものの大剣』を自らのソウルにしまい込んだ。
周りに何もないことを確認した時、ダンジョンが異物を押し潰すように轟音を鳴らしながらその広間を崩壊させていく。
彼は嘆息すると来た道を早足で去った。
ホーム『竈火の館』にて、ジャックは金床で鍛冶槌を振るう。
発展アビリティ『鍛冶』が発現してからというものの、自分が持つ色々な武器を打ち直すことでさらなる強化が見込めると判明してから彼は専ら冒険から帰った後の趣味のようになっていた。
打ち直しを終えた彼は一息つき、獲物を見る。
今回手に入れた、『探すものの大剣』と命名したそれと金床をそっと『底なしの木箱』にしまい、立ち上がる。
外に出ると丁度待っていたとばかりにヘスティアがそこにいた。
「ジャックくん。一つ、尋ねたいことがあるんだ」
真剣な面持ちである主神がジャックの胸板にそっと手を置く。
「僕は、『リヴェラの町』で君の戦いの一端を見てから、ずっと思っていたことなんだ」
もったいぶるようにそう言いながら彼女はゆっくりとそれでいてはっきりと言葉を紡ぐ。
「君の身体の動かし方や、膂力、どれをとっても、『不死』故に人間のポテンシャルを全て引き出した上での身体能力だと理解はしているんだけど、どうも、人間離れしすぎている気がしていて。君は、本当に」
―人間なのかい?
そう怯えるような目で彼女は問うた。
ジャックは一瞬俯いた後、兜を取り、女神をしっかりと見据えて口を開いた。
「おそらく、違う」
びくり、と女神が跳ねた。
「私自身、不死として、幾度も世界を巡って得たこの力は、ある時点でぴったりと成長が止まった。が、その後も何度も、何度も、まるで底の無い木箱のように、人の、魔物の、ソウルを際限なく吸っていった」
一度言葉を切り、ヘスティアを見る。
「そして、この世界に来る前にはもはや1度『死んだ』ところで全く何も、欠落せずに元通りに篝火に復活した。本来、呪われた不死とは死ぬ度に記憶や、自分のソウルが擦り切れるものだ。そうして死んでいった果てには、ソウルが枯れ果て、二度と戻らないにも関わらず、空いた穴を埋めようとソウルを求める魔物になる。が、私の場合、どちらかというと全く逆、穴などという枠の存在しない、化物になってしまっていたのだろう」
そこで静かに指を立てる。
「だが、ここに来て変化が出来た。そう、貴方の神の恩恵だ」
ジャックは鎧を消し、神に背中を向ける。
「この背中に刻まれた加護は、はじめは、何の疑問もなくスキルというものが発現したことを受け入れていた。が、そもそも私はステイタス成長限界は初めから来ている状態であるというのに、スキルだけが点々と発現していくことに疑問を持った」
鎧を再び霧を終息させるように纏い、彼はヘスティアに向き直る。
一種の確信を持った目で彼は口を開く。
「まるで、他人のソウルを食み、自らの物とするように、君の加護を食い、別の何かになり果てようとしている。そう見えないかね?そう。そうだ。私はとうに」
人間ではなくなって、際限なくソウルを、人を、神を喰らうデーモンとなり果てているのだろう。
そう言って彼はヘスティアの頬に手で触れる。
「だが、これだけは、これだけは信じて欲しい」
縋るように、彼は声を絞り出す。
「私は君達をかつて失った家族のように思っている。決して、裏切ることはない。見限ることも、またないだろう」
そう言って、主神の脇を通り過ぎた。
「・・・僕も、そう思っているよ」
ジャックに聞こえるようにそう言った言葉が届いたことは振り向かなくても彼女は伝わったと確信した。
「いやー。ドチビには勿体ないなぁ。あー勿体ない」
物陰からふと、ロキがひょっこりと姿を現した。
「なんで、勝手に上がってきてるのさ!」
いつもの調子でヘスティアが怒るとロキはまぁまぁと手で制す。
「ええやん、こっちも色々暇やねん。で、やっぱジャック自身も薄々思っとったんやなぁ。ドチビも、あいつが時々使う技、『うちら寄り』なんを気づいた口やろ?」
ヘラヘラとそういうロキに対してヘスティアが肩を落とし。
「うん、特に闇術、だったかい。実際見て分かったけどあれは本来、人間が扱える術じゃない。おそらく、人間が使用したら」
「使った時点で使用者の魂もどうにかなっとるやろうな」
肩を竦めてロキはジャックの後を追うようにゆっくりと踵を返す。
「まぁ、ドチビのとこのファミリアやから、あんまとやかく言わんけど、頑張りや。うわウチがドチビに頑張れとか気色悪ッ」
「帰れ!」
まるで猫のようにフシャーッと威嚇するヘスティアから逃げるようにロキはその場を去った。
「言われなくとも、僕にできることはなんだってするさ。なんだって」
一人残った廊下で、彼女は呟いた。
「
轟音と共に閃光が、目の前の巨躯を爆炎を纏った斬撃が怪物を一閃する。
次に閃光が弾ける様に視界を白く多い、遠巻きで見ているリリ達に熱波が襲う。
それを手で覆い防ぎ、解いたころには、下半身のみが残り、上半身があった場所には焼け爛れ、真っ二つにされ、消し飛んだ様子が伺える。
ベルは静かに構えを解くと同時に冒険者が雄たけびをあげる。
ダンジョンを震えさせる。大きな歓声だ。
が、その喧騒が途端に止む。
ダンジョンが、悲鳴を上げるように『揺れた』
バシャリ、と水音がする。
見やると目深に被った帽子、に口元を覆うような布、軽装でありながら大事な部分を効率的に守る鎧を着た、誰かがよろよろとベルのいる方に歩む。
そして、数歩歩いた後、バシャリと、事切れたように倒れ伏した。
「誰か介抱を!」
誰が叫んだだろう。その声に従い、リリが、ヴェルフが、ベルのいる場所に駆け寄ろうと足を踏み出そうとした時だった。
「近づいちゃだめだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大きく、ダンジョンに悲鳴に近いベルの声が木霊した。
何を言っているのか理解できない顔を一同するのを一瞥もせず、地面を触れる。
すると黄色い魔法文字のようなものが明滅する。
それと同時に、その文字から、金色の霊体が姿を現した。
両手を高らかに上げ、太陽を表現するポーズ、『太陽賛美』をしながら現れた騎士は
バケツヘルムに太陽を象った鎧を着たそれは、彼のみが知り得る人物であった。
喋れないのか、ベルに一礼し、周りを見やり、倒れ伏した謎の鎧男を見てなにかを察したように戦闘の構えを取った。
緊張が高まる中、倒れ伏した男に異変が起きた。
周りの水面から、いくつものどす黒い、血のようなものが沸き出て、アーチのようなものを作りながら、男に向かって流れ込む。
まるで、ダンジョンの生き血を啜るように、男にズルズルと流れ込むそれが、最後の一滴が、その身体に沈んだ。
すると、その鎧男は起き上がった。
身体に『罅』のようなものがはいり、その中から真っ赤な、灼熱を思わせる『残り火』が見える。
ゆっくりと、緩慢な動きでベルを見やると、それは背中に背負った大剣を正眼に据え、腰の鎌のような形状をした短剣を引き抜き、大剣を持つ二の腕に乗せた。
まるで、開戦礼のようなそれを解いた瞬間。
爆発音と、爆炎と共にそれはベルに突進した。
咄嗟に避けたベルをまるで避ける方向を予測していたように地面を蹴り、一回転し、いまにも溶けそうな赤熱の大剣を振り下ろす。
それに割って入るように、黄金の騎士が滑り込み、盾で受け、後ろに大きく吹き飛ぶ。
体制を整えたベルはすぐさま自分の獲物『白幻』を振るう。
それを火を纏う男は短剣を使い、難なく弾き、返す手で首を刈り取りに行く。
間一髪で避けると同時に、ベルは横に飛んだ。
そしてベルがいた後方から、槍を象った雷が鎧を貫いた。
黄金の騎士はすかさず二撃目を放つ。が、滑るようにそれを避ける。
その滑った後から火柱が立つ。
そしてまた獣のように飛び上がり、ベルへ肉薄する。
赤熱の軌跡がベルを襲うたびに、ギリギリで避けるベルの鎧が、身体がじりじりと焦がされる。
取り巻きは何が起きているのか理解できていなかった。
ある者はダンジョンが死体を使って魔物を作ったのかと悍ましい考えを振り払うように首を横に振り
ある者は大剣を軽々と振り回し、かつ、その剣技の技巧に驚愕してもいた。
「リリスケ、あれは、『似てないか』」
不意にヴェルフがリリに声をかけた。
リリも同じことを思っていたらしく静かに頷いた。
「ジャック様ほどじゃないですが、あれは、間違いなくジャック様と同じ」
決して、リリはその先を言わなかった。
自分の家族を決して、『化物』と言いたくなかった。
二人が見守る最中も、戦闘が激化する。
大剣を引きずるように横薙ぎに薙ぎ払いながら短剣を地面に突き刺し、それを中心として自分の身体ごと大剣を振りぬく。
まるで蛇のように床を這う斬撃にベルは紙一重で避ける。
最後に飛びあがり、地面を叩きつけると同時に小爆発が起きる。
ベルは、その中に『飛び込んだ』
爆炎に皮膚を、鎧を焼かれながら、ベルは短剣を一閃する。
それは綺麗に雷の槍に撃ち抜かれた場所を切り裂いた。
そしてさらにそこから剣の先端が飛び出した。
見やると、黄金の騎士が背面から深々とロングソードを突き刺していた。
騎士が男を蹴り飛ばすと同時に
「ファイアボルト」
小さく唱えたそれを短剣に込め、スキル『英雄願望』によるチャージを行う。
先ほどの威力は自分の精神力を考えても出そうにないが、渾身の一撃を準備する。
それを察したのか黄金の騎士は、太陽を象ったタリスマンを握りしめ拳を振り上げた。
その瞬間太陽の光のようなものがタリスマンから溢れ、ベルは自身の身体能力が飛躍的に向上するのを感じた。
ベルはすぐさまそれを無駄にすまいと、燻り続ける男へ肉薄する。
男も地面を蹴り、捨て身の一撃を繰り出す。
赤熱の一閃と白熱の一閃が交差した時、先ほどと同等の熱波がその場を包んだ。
視界が明けるとそこにはベルと、
身体が徐々に炭化を通り越して灰となりつつあるそれが残心の姿勢でそこにいた。
ベルが玉の汗を吹き出しながら地面に膝つき、振り向く。
敵の身体は灰のように崩れ落ち、その灰も白い霧となり、霧散する。
そして、白い霧が一筋ベルに向かいその指に纏わりついて霧散した。
見やると、指輪が中指に嵌められていた。まるで最初からそこにあったように。
パチパチパチ
と、手を叩く音がしたので見やると黄金の騎士がその四肢が薄れながらも賛美を送っていた。
ベルは立ち上がり、いつぞやか、ジャックに教わった『太陽賛美』のポーズを取ったあと、
静かに、静かに拳を握りしめて、ガッツポーズを取った。
そして答えるようにポーズを取った黄金色の騎士はそのままゆっくり霧散した。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
奇跡のような光景を二度見た冒険者たちは雪崩のようにベルに押し寄せた、
それに押しつぶされそうになる直前、視線の先に投げキッスをして手を振る人魚が視界の隅に移った。
フォン
『ファランの指輪』
Y Y
暇があればじゃが丸くんを買い占めるクソ野郎がいるらしい