網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

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過去に短編として投稿した【金剛石が許嫁なんだが!?(仮)】の予告編の一部修正したものです。


そこに至るまで

環境の変化っていうのは、いつ起こるかわからないものだ。

それは、家で気ままにテレビを見ているときだったり、大学でいつも通り授業を受けているときかもしれない。

とにかく、環境の変化というのは、いつ起こるかはわからないものなんだ。

それを俺は、痛感することとなる。

 

 

 

「じゃあ角人(すみと)、後は若い二人でな」

「ダイヤ。くれぐれも、角人君に迷惑をかけないようにね」

 

 

 

大学生活も折り返しを過ぎて三年目。

なぜだかよくわからないが、俺はお見合いをすることになったのだ。

それも、歳が数年も離れた美少女と。

少女の名前は黒澤(くろさわ)ダイヤ、この土地の元網元……つまり、お金持ちの家系だ。

実はこの娘、俺の許嫁であるらしい。

 

 

 

「こほん――それでは、わたくしから自己紹介をいたしますわ。わたくしは黒澤ダイヤでございます」

「ああ、ご丁寧にどうも。白岡(しらおか)角人です」

「白岡さんも災難ですわね、わたくしも数刻前に急にお母様から伝えられたのです」

「お互い大変ですね。ああ、自分のことは角人で結構です。白岡だと両親のことだと思ってしまうので」

「それでは、角人さんと呼ばせていただきます。わたくしのことも、ダイヤで結構です」

 

 

 

最初のほうはダイヤも俺も和やかな雰囲気で、これはあたりさわりでもなく終わると思ったのだ。

しかし、現実は早々うまくいかないものだった。

彼女と俺とでは決定的に相いれないものが数個あった。

 

 

 

「ですから! なぜあなたは珈琲などといった西洋被れなものを!」

「なんだとぉ!? それを言うならそっちだって抹茶とかいう苦いだけのものが好きだとか、変じゃねぇのか!」

「抹茶を愚弄しましたわね!?」

「そっちこそ珈琲を!」

 

 

 

その一つが珈琲と抹茶の対立。

今は落ち着いて考えられるからこそこうして思い返せるが、あの当時はとても激高していた。

売り言葉に買い言葉とはこの事か。

お互いに収まる様子もなく、最後のほうはただの罵倒の応酬だった。

 

 

 

「バーカ! バーカ! お堅いあんたにはわかんねぇよバーカ!」

「バカバカバカバカうるっさいですわ! 下品ですこと! お里が知れますわね!」

「アァ!? 家族をバカにするのは許さねぇぞ! 堅物女!」

「事実を言ったまでですわ! ご両親をバカにされてると思うのはあなたにその責がありますわよ!」

「なんだとぉ……!」

「男だからって調子に乗らないこと……!」

 

 

 

……あれは何か、小学生の喧嘩だろうか。

思い返すと自分の沸点の低さに呆れが止まらない。

俺はあんなに激情しやすい質だっただろうか……

 

 

 

「親父殿! 無理だ! こんな頭でっかちしてる女と仲良くできる気がしない!」

「お父様! こんな野蛮な男とお見合いだなんてなぜお考えに!」

「なんだとお前!」

「事実でございます!」

 

 

 

喧嘩していた俺たちを諌めるために、親父殿と、ダイヤの父である翡翠(ひすい)さんはある妥協条件みたいなものを二人に用意した。

あの時の親父殿はよっぽどだったのか、今でも酒に酔うたびに俺にその話をしてくる。

ゴメンよ親父殿。今はそれをすっごい反省してる。

 

 

 

「角人、これは既に決まっていたことなのだが、お前は来年の夏から黒澤家で生活をしてもらう。丁度授業カリキュラムもほとんど終わりなのだろう?」

「はぁっ!? 親父殿、それはひどいって!」

「そういうな。半年……いや、一年くらいそっちで生活をして、それでも無理だと思ったらもう一度言ってほしいんだ」

「んぐっ……」

「相手にも、私にも面子がある。角人なら、わかってくれると信じてる」

「……わかった」

 

 

 

いつも頼むときは俺の頭をなでながらだった親父殿が、あの時は珍しく頭を下げてお願いをしてきた。

そんな真面目にお願いをしてくれたというのに、息子である俺がそれを無下にしたくはない。

俺が親父殿に頭を下げられたのと同じころ、ダイヤのほうも同じような条件を出されていたらしい。

なんとか互いに妥協をすることで、一年後の同居生活が決まったのだ。

そしてついでに、なんか俺の就職先も勝手に決まってしまったのである。

 

 

 

「初めまして、今日よりこちらで生活することになりました白岡角人です。よろしく」

「ヒゥッ……!」

「……ええと、君の……名前は?」

「ふえっ! くっ、くろっ、くろろさささ」

「あーいいやいいや。無理にあいさつしなくていいよ」

「ごっごめない!」

 

 

 

翌年、黒澤家に訪れた俺を待っていたのは、化物か亡霊かを見るような恐怖表情でテンパる少女――ダイヤの妹である黒澤ルビィとの出会い。

直後に知ったが、極度の箱入り娘みたいな子で、男性も父親である翡翠さん以外接したことがないんだとか。

軽度の男性恐怖症というか、単に男性を知らないだけか。

正直どっちに転んでてもこの家でやっていける自信が丸々無くなった瞬間である。

 

 

 

「角人さん、今日のお夕飯は腕によりをかけておつくりいたしました、肉じゃがでございます」

「……えっ」

「……あら? 何かダメなものでも?」

「…………いえ、ありがたくイタダキマス」

 

 

 

さらには定期的な頻度で俺の苦手な肉じゃがが食卓に並ぶ……

翡翠さんの奥さんである、黒澤メノウさんの得意料理なのだろうか。

メノウさんは俺の事情については知るはずもないし、俺が話してもいないために悪意があって作っているわけでもないのは知っている。

だからこそ肉じゃがを食べたくないとは言えない。

だって苦手だけど美味いし。

だって俺はあくまでも黒澤家への居候だし。

 

 

 

「気付いていない様子ですので教えて差し上げますわ。角人、聞いていないんですの?」

「は? 何をだよ?」

「このままですとあなたの就職先がつぶれてしまいますわよ?」

「はぁっ!?」

 

 

 

急遽告げられた自身の未来の就職先における危機。

勝手に決められてるからぶっちゃけなくなるんならば、今すぐにでも就職を撤回して別の仕事就きたい。

そう思っている時期があったがそれは叶わないと気付いた。

なぜならば、それは親父殿が禁止しているからだ。

……もしかして、俺の人生詰んだのでは?

 

 

 

「んで、ダイヤは自分の学校が潰れちまうことに何も思わねぇの?」

「はぁ? わたくしが自分の母校に何の感傷も抱かないと思われていますの? 心外ですわ」

「そんなこといってねぇよ。何だよお前、なんでそんな喧嘩腰なの?」

「はぁ? 角人こそ何を言っているんですの? あなたの態度がそうではありませんか」

「アァ?」

「はぁ?」

 

 

 

ダイヤとは当然ながら上手く話もできないし、親父殿に直訴なんてもってのほかだし。

だけどなぜか、俺はこの家での生活が、すこしだけ楽しくなっていたんだ。

 

 

 

「あっあの……」

「おはようルビィ」

「あああの……すみっ角人さんは……」

「朝ごはん。今日は俺が作るよ、簡素なものだけど。洋食は嫌い?」

 

 

 

ルビィはまだうまく話せていないけど、それでもなんとか仲良くできている気がしている。

深夜に彼女がこっそり音楽番組を見ていたから、大学の友人にもらった音楽雑誌を横流ししたのがよかったんだろうか。

どもりながらも、話しかけてくれるようになって、笑顔も見せてくれるようになった。

 

 

 

「角人はわかってないわ! プリンを珈琲で味付けだなんて邪道よ邪道!」

「食ってねぇヤツに言われる筋合いはないね! まずは食ってみろ食ってから文句いいな!」

「ええ、受けて立つわ! わたくしの舌にかかれば――美味しいじゃない!?」

「どうだ! これが俺の自家製プリンだ! 親父殿にも絶賛されるんだからな間違いない!」

「悔しい……! もう一つよこしなさい!!」

 

 

 

俺のことを洋風被れとか言ってたダイヤが実は唯一プリンが好物だということを知った。

初めて珈琲の良さを彼女に認知させた瞬間で、俺は今でもほくそ笑んでしまう。

 

 

 

「不純よ、不純! ルビィの教育に悪いわ!」

「何がだよ! ただのバラエティー番組じゃねぇか!」

「この男のやっていることが不純じゃないと言うの!?」

「……ワリィ、これは確かに教育悪いわ」

「……わたくしこそ言いすぎ……ました……」

 

 

 

ダイヤと顔を合わせるたびに一回は喧嘩をしている気がするが、なぜか、楽しいのだ。

この時間が心地よくて。

でも気に食わなくて。

でも、静かになると落ち着かなくて。

 

 

 

「角人、あけましておめでとう。半年向こうで過ごしたが、どうだい?」

「あけましておめでとう親父殿……俺は――」

「さすがは私の息子だ。仕事については……こっちも手を尽くしてみるよ」

 

 

 

だから選んだ。帰らないことを。もう少しこのままでいたいから。

だから目下の目標は……就職先をどうにかすること。

ルビィが高校一年になって入学した。

ダイヤがこれからの生徒たちを見守る世代になった。

そして俺は――

 

 

 

「今年度から、この浦の星女学院で教師を務めることになりました。白岡角人です。みなさん、よろしくお願いいたします!」

 

 

 

――新人の教師として、とりあえずできそうなことで、この生活を続けていきます。

白岡角人、22歳。浦の星女学院の教師になりました。

そして――

 

 

 

「0点ね角人。まず姿勢に品が足りない、あごの横側に髭が残ってるわ。服もお母様が仕立ててくれたものを見事台無しにしたわね。タイの結び方もまるでなってない、あと――」

「始業式は終わったんだから、少しくらい大目に見て評価してくれてもいいだろうがダイヤァァァァ!」

「そんなんだからあなたはいつまでたってもぐーたらしているのよ! ルビィの生活に影響を与える気なの!? この木偶の坊!」

「そんなに背は高くねぇっていつも言ってるだろうが! あとルビィの前では気を使ってますー! あの子が悪い影響を受けないように配慮していますー!」

「その気づかいの心を少しくらいわたくしに向ける努力をしなさいよ!!」

「断りますー! 堅物にはこれくらいのほうがいいんですぅー!」

「なによっ!」

「やるかぁ!?」

「二人とも恥ずかしいから道端で喧嘩しないでぇぇ!」

 

 

 

――浦の星女学院三年、生徒会長である黒澤ダイヤの、現役で許嫁(仮)でもあります。

 

 

 

「ルビィちゃん、お姉さんとお兄さん今日も楽しそうずら」

「でも……やっぱり……恥ずかしいよ」

「あはは……オラもあんなお兄さん欲しかったずら……」

「ダメっ! すっ角人お兄ちゃんはダメっ!」

「マルはお兄さんを下さいって言ってないずら……」

 

 

 

――あと、ついでにではあるけれども、一応黒澤ルビィの義兄もしております。




・白岡角人
22歳、浦の星女学院新任教師。担当科目は日本史。
誕生日12/31。
血液型はB型。
身長177cm
趣味はニュース以外のテレビ視聴、家で誰かと読書をすること。
特技は洋菓子作り、キーボード、ハーモニカ。
好きな食べ物はコーヒー味のお菓子、大福。
嫌いな食べ物は紫蘇の天ぷら、肉じゃが。
※もったいない症候群、ラストエリクサー病を患う貧乏性のお金持ちである。
これは彼の親友の影響によるものらしい。


・白岡家
静岡県三島市にある、地主や網元と呼ばれる家系。
厳密には違うのだが、土地でも有名なお金持ちなので黒澤家との見合い話が回ってきた。
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