『わりぃ角人、今年はどうやら俺の方がお見合い漬けになるらしい。結局そっちに行って祝うことはできねぇっぽいわ』
「気にすんなよ淳、元々今年はみんな都合かみ合わなくて無理だったんだし。それと、見合いするのはいいがアリスちゃんの機嫌だけは損ねないようにな」
『ハッハッハ、俺がそんなへまをするとでも? 見合いの方も父さんからは、とりあえず出るだけ出てくれって言われてるもんだからな。まぁ、お前のようなうっかりと運命的な出会いがありそうだがな』
「おう、喧嘩なら買うぞ? お?」
『冗談だ。それとプレゼントは送っとくから神居さんから受け取ってくれ』
「毎年ありがとうな――おっと、もうこんなに時間使っちまったのか、そろそろ切るぞ」
『じゃあな、お姫様の機嫌を損ねるなよ?』
「野郎、覚えてろ!」
笑いながら受話器を降ろす。
通話の相手は親友の一二三淳、内容はほぼ毎年行われている大晦日直前の誕生日会について。
誰の誕生日会かは言わなくてもわかるだろう? 俺、白岡角人の誕生日会だ。
大晦日が誕生日の俺は、誕生日祝いをクリスマス後且つ大晦日前に行っている。
残念ながら今年は友人全員うまい具合に予定がすれ違って流れてしまったが、毎年俺の手製ケーキと友人各々の得意料理がビュッフェっぽい形でふるまわれる。
淳の得意料理はラーメンだ、なんと出汁を一からとる本格派。
ほかに十二月の誕生日がいないことと、俺が一番誕生日が来るのが遅いのもあって、俺たちの間では一番豪華な誕生会ともなっている。
クリスマスと一緒に祝えばいいんじゃないか? と前に言われたこともあるのだが、そういうのはクリスマス的に大変ナンセンスだ。
クリスマスというのは家族で過ごすものであり、恋人と過ごすというのは日本特有。
そもそもクリスマスがどうやって生まれたどういう意味なのかということをそっちの文化専門の学生としては語ってやりたいのだが――
「角人、淳さんとの歓談は終わったの?」
「おう、今終わった」
「なら出かける準備をして頂戴。どうせ明日明後日は外に出る余裕などないのだから、今年最後のショッピングと洒落込むのもいいでしょう?」
「まぁ……そうだな、行こうか」
――お嬢様がお呼びなのでやめておこう。
俺に声をかけてきたのは、もう既に外出用意を整えていたダイヤ。
俺が暇なのは確信があったのだろうが、これでもし俺が断っていたならばどうしていたのだろう。
きっと確信ありきで支度を済ませるダイヤのことだ、恨み節を連発し、烈火の勢いで罵倒しながらプリプリ怒って部屋に籠るか、小原たちのところへ愚痴をこぼしにでも行くかだろう。
今日は12月の最終週、学校もなくホテルの手伝いをしているかもしれない小原はともかく、時期的にダイビングがあまり行われない故松浦は手が空いているだろうからありえなくはない。
「貴方が電話をしているうちに外出用の服はもう用意しておいたから、早くしなさい」
「へいへい……あんま高そうな奴だけは勘弁してくれよ?」
「あなたのその高価恐怖症をどうにかしてもらうよう、サンタクロースに願うことはできなかったのかしら」
「サンタクロースよりかは神社の神様にでも祈ってくれ、多分その方がワンチャンスあるから」
「冗談よ」
「そうであってくれてありがとう」
軽口をたたき合いながら自室へ入り、神居さんから手渡された服に着替える。
いつも着慣れた服よりかは多少贅沢そうな素材を使っているが、いうほど高いものではなさそうだ。
そういえば前に、『ダイヤが古着屋に俺の服を見繕いに行った』と津島が教えてくれたな。
津島の家の近くには古着屋があるのだろうか。
いいコーヒーを用意してくれる写真館が『黒澤家のお嬢様が、最近よく津島さんの娘さんと一緒にこの商店街に来るんですよ』とか言ってるのだからおそらくビンゴだとは思うが。
あの商店街津島の家がちょうどあるし、あそこ商店街内の繋がり濃いから連絡も早く回るっぽいし。
加えて彼女がどや顔で『この堕天使ヨハネが選ぶ店に悪いセンスなんてあるわけないじゃない! 田舎とセンスは関係がないの!』とか言ってたのだから行きつけなんだろう。
はてさて、ショッピングとは言うが何を買いに行くのだろうか、特に必要なものはないと思うのだけども。
まぁ、都合がいいタイミングではあるのだが。
丁度俺の誕生日である大晦日の翌日、新年が訪れる元日はダイヤの誕生日だ。
実をいうとまだ彼女への誕生日プレゼントは買ってない。
今日、淳との電話の後に買い物に出かけようと思ってはいたんだ。
しかしどうするか、ダイヤの目の前で誕生日プレゼントを買うわけにもいかんし……
まぁ、向こうで考えればいいだろう。まずどこに行くかも聞いてないしな。
「お待たせ」
「遅いわよ角人! 早くいかないと――いいえ、なんでもありません!」
「ほんと一人で騒々しいよなお前は……んじゃ、希望にこたえてさっさと行きますか――神居さん」
「はい、エンジンは温めております、いつでも発進できますよ」
「まぁ、車の支度を済ませているだなんてさすがは神居さんですわ、角人も見習ったらどう?」
「お言葉ですがお嬢様……坊ちゃまは普通の人間なので無理かと……」
***
駅前の商店街まで買い物に出て早々、商店街のケーキ屋でケーキとプリンを味わうこととなった俺たち。
普段行くケーキ屋はダイヤたちがスクールアイドルとして活動した弊害か、大変込み合ってしまうようになったので最近行ってないのでお店のケーキは久しぶりだ。
いやぁ、いい素材使っているぞあれは。
「そんでダイヤ、今日は何を買うんだ?」
「特に考えてないわ。Aqoursのみんなで新年は一緒に祝いましょうということになったけれども、必要なものがあるわけではないから――あら、このお店気になるわね、入りましょう角人」
「……つまりウィンドウショッピングってわけかい……ま、いいかその方が見繕いやすいし」
別に今日買わなくても、見繕ったら神居さんに注文すればいいのだろうけれども、なんというかそれはやっちゃいけないことだと思う。
自分で選んだものくらいはよっぽどの事情じゃない限り自分で買っておきたい。
今日見つけたものが明日おいてあるとは絶対に言えないし、取り置きするくらいならその場で買っちまったほうがいい。
そんな自分でもあまり理解できない変な意地があるのだ。
「しかしだ時にダイヤ、その話は翡翠さんたちにもうしたのか?」
「どの話――とは言わないわ。ええ、貴方と違ってわたくしは報・連・相を忘れない主義なの。抜かりないわ、宴会用の部屋を空けていただいたのと、親戚や近隣の皆皆様への御挨拶は一日伸ばしていただきました」
「なーにが俺と違ってd―― 「あら、つい最近あなたがゼミのクリスマス会で闇鍋をする際、貴方が任されたのにほかのOBへの報・連・相を怠った結果どうなったか忘れたの?」 ――その節は大変申し訳ありませんでした」
黒澤家に居候するようになってから生まれた俺の黒歴史は、全てダイヤにネタとして管理されているのだろうか。
大学での失敗もどこからか情報を仕入れてくるから全部筒抜けって言うね……フフフ。
子供ができ、大きくなったら俺の失敗談で人生学んじゃうんだろうか。将来の親としては、親から学んでくれるのはうれしいけれどもあまり俺の尊厳を傷つけないでほしいとも思う。
「貴方にまともな尊厳があるとは到底思えないけれども……」
「やめて、冷静に疑問を投げ入れないで。さすがに角人さんでも傷ついちゃうんだけど」
「あら……そう、ごめんあそばせ」
「おう、せめてこっち見て謝ってくれよ」
彼女の全く悪いとも思ってない謝罪を一応受け取りつつ、俺の目はふと見つけたエプロンに向かう。
デフォルメされたような、どこか緩い見た目をしたウサギの柄のそれは、なんだかダイヤに着せてみたいなとも思ったもので。
――これにしようって、気づけば手に持っていた。
ダイヤの方に目線を向けると、いつのまにかスタスタと先に進んでいて、呉服屋に入っていくのが見えた。
すかさず、きっと背後にいるであろう神居さんに声をかける。
「……神居さん、ちょっとダイヤを頼む」
「かしこまりました、なるべく早くお戻りください」
「そんなかからないよ、じゃあ買ってくる」
「ラッピングはお忘れなく」
神居さんに頼み終えた俺は、手に取ったエプロンをレジに持っていく。
ついでに近くに置いてあったダイヤマーク柄のシュシュらしきものも購入。
いや、これはだな、ダイヤ髪が長いから留められるものってほしくなると思うし。
これは誕生日プレゼントだから、俺が勝手に気遣ってるだけだから。
「ありがとうございましたー!」
「さて、ダイヤは――ほういつの間にか金物屋か、そういえば俺も新しい包丁とか鍋が欲しいんだよなぁ……」
神居さんからのメールで居場所を知ったのでとりあえず向かう。
金物屋に入ると、ダイヤは神妙な顔をして包丁を睨んでいた、俺と一緒に料理を練習し続けた影響なのだろうか。
使う道具にこだわるのは悪いことではない。
特に包丁とか同じ値段の同じ代物でも、なんでか馴染む馴染まないって普通に起こりうるものだし。
――ふむ、悩んでいるなら少し手を貸してやろうか。
「ダイヤ」
「ピギャッ!?――角人! どこに行ってたの――じゃなくて、驚かせないで!」
「あぁ、うん、それはすまんかった。で、えらく真剣に見てたんだな包丁、自分用か?」
「ちっちがいます! いえ、違わないけれども、違いますわ!」
「どっちだよ」
「どっちでもいいのです! お願いだから角人は少し外で待ってて頂戴!!」
――追い出されてしまった。
ものすごく真っ赤な顔をしていたが、怒っているわけではなさそうだからまぁいいか。
そういえば包丁で思い出したが、Aqoursで開催したクリスマスパーティー以来ルビィの包丁を見る目がやけに玄人染みていた気がする。
――私は包丁になる、私は包丁。とか寿司。とか色々変なことを口走っていたのだが、斜め四十五度でチョップを入れたら何とか治ってくれた。
タイミング悪く、俺は大学のゼミのクリスマスパーティーにOB枠で呼ばれていたので様子を見ることは叶わなかったのだが、なんか渡辺と桜内からの連絡を見る限り、クリスマスパーティーはとんでもなかったらしい。
ダイヤが夜に任侠姿で俺の部屋に聖書を持ってきて『角人……クリスマスについて……一からおしえてちょうだい……』と弱弱しく来たもんだから仮装パーティーとクリスマスをとっちがえたのかと……ほんと何事かと思ったわ。
ブラッククリスマスがあるかとか色々聞かれたんだが、あんな経験は二度としたくない、あんな血走った目でグルグルと錯乱した質問をするダイヤはもう見たくない……
「……あ、大晦日は作り損ねたレープクーヘンでも作ってふるまうかな……」
「角人、なに空を見上げて色々とあきらめたような目をしているの」
「おーダイヤ、色々と思い出してな……明後日の大晦日用にスイーツ作っとこうかなぁとも思ってな……」
「貴方……自分の誕生日にもかかわらず一番働くのね……」
「こういうのはできるやつが作るもんだ、安心しろプリンも作る」
「約束よ!」
「……相変わらずプリンには目がないよなお前……」
――そういえば、津島はコーヒーが嫌いだったっけ。
コーヒー好きになってもらうためにコーヒープリンも作るかな。
コーヒーか……そういえば、ダイヤと初めて会った時コーヒーバカにされて喧嘩したんだっけな……
「どうしたの角人、わたくしの方をじっと見て……わたくしと貴方の間柄なのにいまさら見惚れたとかやめて頂戴な?」
「いや……あー……なぁ、ダイヤ」
「どうしたの、今日はいたく歯切れの悪い話し方が多いなんて」
「うるせぇ。おまえさ……コーヒーは……好きか?」
頭の後ろをガリガリとかきながらダイヤへと質問を投げる。
まだコーヒーが嫌いならば、きっと俺は彼女をわかっていなかったのかもしれない。
でももし――
「そんなこと、決まっていますわ」
「……?」
「あんな洋風かぶれのもの、好きではありません」
「……そっk―― 「でも!」 」
ダイヤは俺の方を向き、微笑む。
「貴方が作るコーヒーのお菓子だけは、大好きよ?」
「ッ!?」
「フフッ、貴方の聞きたいことなんてお見通し――角人? なんで貴方泣いてるの?」
ああ――――
「ちょっと、日本男児なら人前で涙を流さない! ああもう! じっとなさい!」
この、目の前の少女が許嫁で――――
「ほら、鼻咬みよ。もう、こんなに真っ赤になって……」
「――本当に……よかった……」
「はぁ……? …………そう、ごめんなさい角人。少し意地悪が過ぎたわ。そろそろ帰りましょう、スイーツの仕込み、手伝ってあげるわ」
「……ああ」
色々あって、スクールアイドルの顧問することになって、色んな事に追われてた一年だけど。
なんか、全部許せるような――そんな瞬間だった。
・一二三アリス
淳の義妹。北欧だか西欧だかのハーフらしい。
特につらくないけど口癖は「しんどい」らしい。
・高価恐怖症
角人特有のお高い物苦手症候群。
使うのに支障がないなら安物でも――とかいうスタンスだが、なんだかんだで高いものが手になじむ人間なので現実と理想の違いに苦労している。
・善子の家近くの商店街
『上土商店街』のこと。
10月末の当商店街イベント後、ファンだけで中の人の誕生日祝いがここで行われたが、当商店街の人たちが協力したとのことで一部ファンの間では有名である。
角人の言う「いいコーヒーを用意してくれる写真館」とは当商店街でファンの交流場となっている『つじ写真館』のことで、当店はオリジナルコーヒーを販売していることでもファンの間では有名。
金物屋、呉服屋もちゃんとある。
・闇鍋
スクフェス、μ'sストーリーを見たことがあるあなたならきっとわかる――あの悲劇と同じ。
・ウサギ
ダイヤの中の人のサインにはウサギらしき生物がよく見られることから。
・Aqoursクリスマスパーティ
Aqoursのスクフェスコラボシングル『ジングルベルが止まらない』のドラマパートから。
ちなみにだが冬休み明けのHRにて、角人に与えられる時間で行う講義が『クリスマスについて』で決定した瞬間でもある。
・ブラッククリスマス
という物自体は存在しないが、ドイツのクリスマスではなまはげのごとく『悪い子供には黒い(ブラック)サンタがお仕置に来る』と言われている。
この黒いサンタはサンタクロースの元ネタである聖ニコラウスの神聖さと対比させるために生まれたものだとされており、ある意味では善子のブラッククリスマス主張は有りと言える。
ちなみに、角人がつぶやいた「レープクーヘン」はドイツのクリスマスでよく食べられるお菓子である。
・許嫁発言
もう結婚しろお前ら