網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

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この章ではこれまでの当作品における設定をアニメ本編に混ぜ込んだ話を展開していきます。


それは彼と彼女達のモノガタリ
運命まであと―


「――まぁ、そんなわけで俺はこの春から教職に就くことになった」

「へぇ、やりましたね先輩……先輩? どうしました、例えるなら『プロのダーツプレイヤーが、たったワンセットだけとはいえ、初心者も初心者っていう感じの投げ方すらまともにできないダーツ数日目のプレイヤーに、勝ちを奪われた』ような目をしてますけど」

「おまえそのわかりづらい例えやる癖どうにかなんない? ……まぁ、その赴任先がなぁ……」

「あー、よくわかんないけどそこから先の話は私が聞いてもいいんですか? 聞いてもいいんなら話、聞きますけど」

 

 

 

ここは俺の通う大学のフリースペース。

一個下な後輩の【水月(みつき)十政(としょう)】といつも通り授業までの暇をつぶしながら、二人でだべっているいつもの光景。

――この時間もあと数日で終わるんだよなぁ。

何故なら大学生活にも終わりがあるから、俺はこの春でめでたく卒業するし。

 

 

と、言うわけで今まで報告してなかった来年度からの俺の動向を十政に連絡しているのだ。

ちなみに十政は大学院進学予定で、あと三年はこの大学で勉学に努めるらしい。

夏休みの間は短期の留学をしてたりと意欲的だからなぁ……理由が理由じゃなければ。

 

 

 

「あー、まぁお前になら話しても大丈夫だろ。外部機密とかは言われた覚えもねぇし」

「じゃあ教えてください。先輩を悩ましてるそれについて」

「……まず第一にお前は、俺に仮の許嫁がいること知ってるよな?」

「ああ、勿論です。と言うか先輩の許嫁についてこの大学で知らない人って留学生か留学から帰ってきた人、または外部学部からの編入生くらいじゃないですか?」

 

 

 

十政の言葉に思わず飲んでいた紙パックのジュースを少し噴き出す。

数刻ばかりか、ゴホゴホとせき込んだところで俺は一度冷静に考える。

えっ、なにそれ、ダイヤのことそこまで広がってるの?

 

 

 

「だって考えてみてくださいよ先輩。一昨年くらいまでは台風の日も歩いて通学してたっていうのに、去年から急に高級車に送られるようになって、時にはその高級車から見知らぬ若い女子が先輩の名を呼ぶんですよ?」

「だからってそれだけで噂になるまで――」

「ついでにですけど、先輩がこの二年、電話しているときに大体『お前は俺の嫁か! まだ許嫁の癖にこまけぇんだよ!』……とか叫んでいる様子が結構見られたらしくて」

 

 

 

――大体俺の自業自得だった件。

なんてこった、ダイヤが結構鬼嫁の勢いで色々言うもんだから電話口で怒鳴って返してたのだがその姿が広まってるとは……

 

 

 

「先輩はもう少し自分の立場ってものを知るべきかと」

「立場……? 地元金持ちの息子ってこと?」

「いや、違うんですよそれが。今だから言うんですけど先輩って結構有名人なんですよ構内では」

 

 

 

……どうやら俺が有名なのは今までの所業が原因らしい。

十政がいうには文化祭の出店でパティシエ顔負けデザートを制作販売したり、ゼミでの誕生会で使われるケーキを自作して持ってきたり、文化祭のステージで演奏をしたり、付属の高校に通っている生徒が助けられたり――などなどといろいろしていたことで結構知名度があった……らしい。

……高校生以外には心当たりがあり過ぎて納得してしまった。

俺そんな目立ってたのか……俺に視線が集まってることがあったのはうぬぼれじゃなかったのか……

 

 

 

「それで先輩、その許嫁さんがどうにかしたんですか?」

「(仮)だ、忘れるなよ。まぁそいつの通っている高校に赴任することが決まったんだがな」

「ああ、先輩コネ就職なんですね、それの何が問題で?」

 

 

 

コネいうな。

事実だけど傷つく、なんか金と家柄で全部決められてるようで腹が立つ。

 

 

 

「……浦の星女学院って聞いたことあるか?」

「いやぁ、聞いたことないですね、女子高だって言うのは名前でわかりますけど」

「まぁミッション系公立女子学校っていうのは別に重要じゃあない」

「へぇ、ではなにが大事なんです?」

「……廃校するんだってよ今年」

「赴任した年ですよね!?」

 

 

 

ほんとな、十政の言う通り赴任した年に廃校って俺の職無くなる前提なんだよな。

翡翠さんは『一応廃校を防ぐように努力はしてるけど、もし廃校したとすれば急いで君を当主にするため教育するからそのつもりで』とか笑顔で言うんだが、論点が違うんじゃないかなって思わなくもない。

ダイヤもなんか『責任はとるわ』とか言ってるけどこれもおかしいと思う。

と言うか丸ごとひっくるめて全部おかしいと思う。

 

 

 

「うわぁ……先輩って結構壮絶な人生確約されてますねぇ……」

「わかってんなら同情よりも交代してくれ」

「いやです、私にその役は正直重すぎるので」

 

 

 

『それで』と話題を変えるように何かが入った袋を取り出す十政。

袋からさらに十政が取り出したのは雑誌。

タイトルは『月刊スクールアイドルズ』、なんもひねりのないタイトルの通りスクールアイドルについての情報誌だ。

毎月どこかのスクールアイドルの特集が2~3組まれてる雑誌で、スクールアイドルオタクな十政の私物。

処分する位なら義妹であるルビィに横流しさせてもらおうと思い、毎回受け取っている。

 

 

 

「これが今回の雑誌ですね、μ’sの特集が二か月連続で組まれてます」

「まーたμ’sかぁ……あんま見たくねーんだけど……」

「先輩の親戚のお嫁さんがあの西木野真姫でしたっけ。先輩ってなんでそんな親戚と仲悪いんですか」

「仲が悪いんじゃねーよ、あのが件の嫁さん以外どうでも良いと思ってんのが気に食わねーの」

 

 

 

結婚式とか行ったりしたけどもうまじありえねーの。

こっちのこと一年前に会ったばっかなのに忘れてウェイター扱いしやがるし、フラフラどっか行くから探しに行ったらにらまれるし。

挙句の果てには『邪魔すんな』ですよこれがブッチせずにどうしろって言うんですかね。

 

 

 

「めっちゃ先輩が毛嫌いしてるじゃないですか。その人もその人で色々おかしいですけど」

「……まーそんなわけでμ’s見てるとアイツ思い出して嫌な気分になる」

「連想ゲーム極まってますねホント、トラウマみたいなもんですし克服しません?」

 

 

 

トラウマじゃねーし。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――まぁ、そんなわけでマジで廃校どうすっか考えなきゃいけねぇんだけど」

「どういうわけなのかわからないけれど、実際どうやって廃校を防ぐという案はあるの?」

「それをこれから考えるんだよ。俺は向こう数年職を失うわけにはいかないし、気合入れて考えねぇとなぁ」

 

 

 

――ここは黒澤家から少し離れたところにある海岸。

あの後何事もなく大学も卒業し、十政との会話を思い出してふと風に当たりたくなった俺は、勝手についてきたダイヤと二人で海を眺めていた。

……そう、あと数週間もなく、俺は浦の星女学院に勤務することになる。

たかが一介のコネ教師にできることなんて限界だらけだろうけど、それでもやらなきゃいけない。

 

 

 

「……そうね、わたくしとしては正直、ちっとも、なんとも、どうでも、どうなったってよいのだけれども」

 

 

 

だったら口を挟むなよ――とは言わない。

ダイヤの口ごもり方が、俺の意志を否定するための内容ではなく……

 

 

 

「そう、そうよ。角人が就職して一年で無職なんて黒澤家の恥、面汚しなんて、そんな残酷なことを強いるようなこと、わたくしにはとてもじゃないけれど出来ないわ」

 

 

 

……サクッと罵倒してくるのもいつものことだけどな。

 

 

 

「ええ、そうよ角人。わたくしは黒澤家の為に、わたくしと共に黒澤家を背負う必要のあるあなたの為に、力を貸すわ」

「……おう、頼むわ」

「ただし、ただしよ……失敗は許さないわ、日本男児ならば自身の言葉に覚悟なさい」

 

 

 

わかってる、わかってるさ。

失敗しない、絶対にやり遂げてやる。

俺の顔を見て、満足な答えを得られたのかフッとダイヤが笑みを浮かべる。

彼女の雰囲気に俺まで自然と笑顔になってしまう。

 

 

 

「ダイヤ、きっと来年は忙しすぎて辛い年になるけど、最後まで、一緒にy――」

「目指せスクールアイドル! ファイト、オー!」

「待ってよ千歌ちゃぁん!」

「二人とも怪我しないでねー」

「――っ」

 

 

 

俺、今何を言おうとした!

どっからか聞こえた元気な声達によって一瞬でハッとなる。

まてまてまて、違うぞ、今のはノーカウント、なかったことにする!

 

 

 

「……二…海千……さ…わよ……!」

「ど、どうしたダイヤ、なんか……あれだぞ」

「何でもございませんわ、さぁ、帰りますわよ角人」

 

 

 

ニコニコと笑うダイヤ、しかしその裏にははっきりと夜叉が見えていて、見ず知らずの声の持ち主には合掌しか送ることができない……

 

 

 

「ああ角人、廃校を防ぐにあたり一つだけ認めない手段がありますわ」

「……なんだよ」

「すくーるあいどる、これだけは決してわたくしは認めることをいたしません」

「ハァッ?」

 

 

 

なんでスクールアイドルなんだ……?

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「私、絶対にスクールアイドルやるよ!」

「千歌ってばほんと猪突猛進っていうか……」

「変わらないよね千歌ちゃん……」

 

 

 

旅館【高海屋】、ここは浦の星女学院一年の少女【高海千歌】の家。

ここでは彼女を含めた三人が一堂に介していた。

千歌の幼馴染の【渡辺曜】と【松浦果南】は千歌のスクールアイドル宣言に苦笑いを隠せない。

 

 

 

「廃校を防ぐために、協力してよ曜ちゃん、果南ちゃん!」

「んー……確かに廃校になったら泳げなくなって困るからいいけど……」

「私は様子見するよ、進路も考えなきゃいけないからね」

「ああ、果南ちゃん三年生だもんねぇ」

 

 

 

果南の一歩引いたような冷静な対応に曜は納得する。

しかし言い出しっぺの千歌はあまり納得がいかないらしく、頬を膨らませる。

果南は軽く謝罪を入れつつ、二人にアドバイスを送る。

 

 

 

「もし部活を作るなら、生徒会に話を通さなくちゃね」

「生徒会というと黒澤会長に?」

「そ、生徒会長黒澤ダイヤ。彼女の許可なしだと部活として認めてもらえないから気を付けてね」

 

 

 

生徒会長の黒澤ダイヤと言えば学内だけでなく、彼女たちの住んでいるこの地域で知らぬ人のいない才女。

それと共に堅物、厳格、生真面目ということも有名。

そんな人物にこの話は通るのだろうかと、楽天的な千歌に代わって曜が不安に思う。

 

 

 

「まぁ大丈夫だとは思うよ。ダイヤって噂と違って結構抜けてるし、公私混同しないタイプだからちゃんと説明できれば許可出してくれそうだし」

「果南ちゃんと黒澤会長って同い年だったね……」

「そそ、ダイヤってば揶揄うと面白いんだぁ」

 

 

 

ニコニコと語る幼馴染の笑顔に冷や汗がつたうのを感じながら、曜は頭の片隅にメモをしておく。

――黒澤会長と果南ちゃんはきっと仲が良くない。

 

 

果南には一つ大きな誤算があった。

ダイヤが『公私混同をしないタイプ』というのは大きな間違い。

正しくは『普段の案件が公私混同されるきっかけがないだけ』。

 

 

千歌と曜の二人が、ダイヤと相対し、果南のアドバイス通りに行かないことを知るまで――

 

 

 

――あと一か月。

 




・プロのダーツプレイヤー~
実は作者が似た経験をしている。
プロではないがダーツ中級者の友人とやった時に作者の投げ方で友人は白目をむいていた。

・水月十政
スクールアイドルオタクの角人の後輩。
彼によって角人のスクールアイドル知識は賄われた。
実は大学内の交友関係で唯一角人の元カノについて知っている。

・角人の評判
どこぞの坊ちゃんアンチクショウと違っていい評価が多い。
それにお金持ち故かの気前の良さと、金銭感覚の庶民さと周りの人への人当たりの良さが主な要因。
あとお祭り好きなのも要因。

・μ's
今まで具体的言及を避けていた真姫とアンチクショウの関係。
アニメ公開に先駆けて吹っ切れたともいう。

・千歌
ダイヤににらまれた子。
仕方がないね、角人の告白(仮)を邪魔したのだから。

・果南
腹黒。
ダイヤを弄って遊ぶ恐ろしい子。
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