網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

16 / 30
彼女達は輝きたい

なんでこうなったんだろうか。

俺の輝かしい教師人生計画ではこんなことになるはずがなかった。

そう、ダイヤのクラスの授業でダイヤばっかり当てて間違えさせて意趣返ししたり、マルちゃんやルビィと昼ご飯をワイワイと食べて、知らない生徒たちとまぁそれなりに良好な関係を築けるはずだった。

そして普通の教師として、俺の恩師のような人気のある人になりたかった。

それが――どうしてこうなったのだろう。

 

 

 

「アナタが設立するのですから! 絶対にっ! スクールアイドルは認めませんわァッ!」

「だからっ! なんでですかぁッ! イイじゃないですかァッ!」

「何度来ても同じことですッ!! お引き取りくださいまし!!!」

「諦めません! 認められるまではァ!!」

 

 

 

目の前で駄々っ子のような口喧嘩を応酬するのは、俺が教師として働くこの浦の星女学院、そこの生徒会長である我が許嫁(仮)の黒澤ダイヤと、オレンジ髪の快活少女である二年の高海千歌という生徒。

二人して、生徒会の机の上に片膝を乗っけて、身を乗り出すようにして白熱した口喧嘩を続けている。

 

 

 

「おーいダイヤー、そうやって眉間にしわ寄せてると数年後とんでもないことになるぞー」

「何か、いいまして?」

「……いいえ、なにも、いってませんよー?」

 

 

 

――ほんと、どうしてこうなったんだろう。

水で濡れた部活設立届けをボーっと眺めながら、俺はこの悲しき現実から逃避を試みる。

……だが、それもかなわぬこと。

 

 

 

「あのー、俺授業の準備あるから職員室行きたいんだけどー……」

「そこにいなさい、いなかった場合は覚えていること」

「……はい、はい」

 

 

 

気付けば俺と一緒に二人の惨状を見守っていた、二年の渡辺曜という生徒が俺のほうを見て『千歌ちゃんがごめんなさい』と謝罪を入れる。

いやいや、ウチのダイヤこそスイマセンねホント、生徒会長と言う立場ながらこんなお見苦しい姿を見せてしまいまして……

 

 

そんなやり取りを交わしながら俺は思う。

 

 

――ほんと、なんで俺が生徒会の顧問になっているんだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

事の起こりは始業式。

ここで新任教師を紹介する時間も設けられていて、俺はその例にもれず紹介されることとなっていた。

新任の挨拶も見事に決まり、無事に教師生活の幕開けも起こったのだ――が。

 

 

俺はその日のうちに校長に呼び出された。

いや、なんでなのかさっぱりわからない。

就職一日目で早速お偉いさんに呼び出されるとか、そんなんあってたまるかって話だし。

しかし教師としての俺は平社員も平社員な一般人、大人しく要求に従って、校長室に出向いた。

――そこにいたのは許嫁(仮)のダイヤと、校長だった。

 

 

 

「やぁ白岡先生、待っていましたよ」

「えっと……校長先生、私は、何故呼ばれたのでしょうか」

「わたくしがお呼びしたのです」

 

 

 

……まぁ、お前がいる時点で予想通りだったよ。

寧ろダイヤがいてくれて助かったよ。

ダイヤいなかったら就職当日にクビかもしれないって恐れがやばかっただろうし。

 

 

 

「白岡君、新任教師の君にいきなり任せるのも荷が重いのだが……」

「白岡先生にはわたくし、黒澤家との関係性を加味し、生徒会の顧問を務めていただくことになりますわ」

「……あの、全く話が見えないんですけれども」

 

 

 

――まぁ、話はこうだ。

元々生徒会運営には教師がついている必要がある。

しかし、元々生徒会顧問だった先生が他方へ異動してしまい、他の先生たちは他の顧問で既に埋まっているため、空いている教師が俺しかいない現状。

 

 

本来ならば他の部活顧問に俺を割り当て、ベテランの先生が生徒会に付くのが筋なのだが、生徒会長であるダイヤ自身が俺を推薦。

狭い内浦では黒澤家の影響力は強く、さらに加えて俺が黒澤家の許嫁だという話もあって、異論無くめでたく俺が生徒会顧問に就任する羽目になったのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「角人ッ! 貴方からも何か言ってあげて!」

「お兄さん! お兄さんは私の言ってることわかってくれるよね!」

「ちょっと高海さん、角人はわたくしの許嫁ですわよ!?」

「そんなこと関係ありませーん!」

「「グヌヌヌヌ!!」」

 

 

 

なんてこった。現実逃避してもまだ喧嘩が終わっていないとは。

それどころかこっちに飛び火してやがるぞ、どういうことだ。

渡辺からの視線はもはや同情を超えたナニカになってきているし、俺の教師生活こんなんで大丈夫なんだろうか……

 

 

 

「あー、そのだな、とりあえずだ……二人ともいったん冷静になれ。な?」

「充分冷静よ!」

「すっごく冷静だよ!」

「……冷静な奴って自分のこと冷静って判断しないんだぜ?」

 

 

 

というかだ、高海は俺のことを知らないのだろうか?

……知らなさそうだよな、なんてったって昨年からこの学校にいるダイヤのこと知らないんだもんな。

きっと始業式での挨拶聞いてなかったんだよ。

 

 

 

「……なぁ、渡辺」

「はい、どうしました?」

「……俺が誰だか、わかる?」

 

 

 

少しばかり不安になってきたので隣でさっきから合掌している渡辺に聞いてみる。

渡辺はきっと知ってるはず、知らなかったら退職届出してもいい。

 

 

 

「えっと、今年から教師になった白岡角人先生……で間違ってないですよね?」

「よかった、渡辺は良い子だ、本当によかった」

「えっ、えっ、なんで泣いてるんですか先生」

「始業式の挨拶……みんな聞いてないのかなって……」

「……本当に、千歌ちゃんがスイマセンでした……」

 

 

 

はてさて、本当にどうしてこうなったのだろうか。

目の前でダイヤと喧嘩しているのはいつぞやだったか、『スクールアイドル目指す』とか言っていた子。

割と猪突猛進で、元気いっぱいなのはいいのだが、子供っぽいというかなんというか……

いや、それに乗っかって同じ土俵に立ってるダイヤもなかなかにポンコツ染みているというか……

 

 

 

「角人?」

「いーえ、なーんにも、かんがえてませんよー」

 

 

 

……思い返してみる。

この高海とダイヤのしょうもない争いの発端と言うやつを――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

時は遡り入学式。

マルちゃんやルビィの記念すべき晴れ姿ということで、両家の両親は遠足かとばかりにはしゃぎながらカメラとかの手入れを黒澤家で行っていた。

俺はと言うと、普通に出勤し、ダイヤの手伝いをしつつ、翌日から行われる通常授業のための準備などをこなすことになっていた。

そんな時だ、義妹であるルビィの叫び声が聞こえたのは。

 

 

 

「――ピギィィィィィィィィッ!」

「!? あの特徴的な悲鳴はルビィか!?」

「あの子に何か起こったの!?」

 

 

 

ルビィの声が響いたのは校門前、彼女は犬が苦手だから、そこから考えると誰かがペットでも連れてきたのだろうか。

あいにくと浦の星女学院は特殊な事情がない限りは動物の入校を禁じている、丁重にお引き取り願わねば。

そうしてダイヤと二人で走って駆け付けると、そこでは何やら愉快な光景が繰り広げられていた。

 

 

 

「そのチョキ! やっぱり善子ちゃんだぁ! 覚えてる? オラ、花丸だよ! 幼稚園で一緒だった!」

「アワワワ――お姉ちゃぁぁぁぁん!!」

「善子じゃなくてヨハネよっ!」

「君もッ! スクールアイドルにッ! ならないかぁぁぁ!」

「千歌ちゃん……流石に声が大きすぎるよ……」

 

 

 

――そこは混沌としていた。

なぁにぃこれぇ……

動物はいなかったけど動物っぽいっ子は居たよ……

チラリと隣のダイヤを見ると、何とも言えない苦虫をかみつぶした表情で騒動を眺めている。

 

 

 

「よっ……善子ゆーなぁぁぁぁぁ!」

「待ってよ善子ちゃぁん!」

「待ってマルちゃぁぁぁん!」

 

 

 

……行っちまったな、マルちゃんとルビィ。

結局ルビィが何に対して悲鳴を挙げていたのかはわかって無いけど、とりあえずそこで騒いでた【ちかちゃん】と、苦労してそうな子がまだいるので話を聞いておこう。

――とか思っていたら、ダイヤが彼女たちの方へ向かってすでに歩いていた。

 

 

 

「……」

「何見てんだダイヤ?」

 

 

 

ダイヤは何やらチラシのようなものを手にしていた。

そこに書いてあったのは、【スクールアイドル部】という文字。

……なるほど、振興部活のチラシだったのか、それで彼女たちはこれの部員だったのかな?

 

 

 

「――いつから、この浦の星女学院にはスクールアイドル部と言う部活が設立されたのです?」

 

 

 

……あ、その部活非公認なの?

ダイヤに限って部活の確認忘れなんてないはずだし、生徒会に連絡通さないで勝手に部活始めちゃった奴なんだろうなぁ。

しかし、スクールアイドルねえ……ルビィもスクールアイドル好きだったな、そういえばつい最近グッズ一緒に見に行ったばかりだもんなぁ……

……そういえば、教師生活数日前に浜辺で聞いた声もスクールアイドルって言ってたっけなぁ……

 

 

 

「角人、何をボーっとしていますの、生徒会室に行きますわよ」

「……ん? どういうことだ?」

「どういうことって、話を聞いていないの? この者たちは生徒会を通さずに部活を設立したので、これから事情聴取をするのです」

 

 

 

――ああ、なるほど、生徒会顧問なら働けってことですね、わかりました。

 

 

そして、ダイヤが部活設立の校則を事細かにちかちゃんこと高海に享受。

高海はリベンジを誓って撤退をするのだが、ダイヤはその日一日中不機嫌で、大好物のプリンを食べても膨れた頬がしぼむことが無かった。

 

 

 

***

 

 

 

そしてだ、その高海はまさか翌日に部員を一人だけ増やして再申請してきた。

その増えた部員が苦労してそうな子である渡辺曜。

話を聞くと、幼馴染の力になってあげたいのだとか。

良い子だよなぁ……でも、ルールはそこらへん守らなきゃならんからなぁ……

 

 

でも……どうにかしてやりたいよなぁ、高海も結構迫真だし……

――そうだ、アレがあるじゃん。

 

 

 

「なぁ、ダイヤ」

「だからッ! あなたはどちらの味方ですのッ!!――アイタッ!」

「どっちもそっちもねーよ、少し落ち着け」

 

 

 

とりあえず話をするうえで一番障害になる『暴走したダイヤ』を排除するためにチョップを加える。

額へ与えた衝撃で正気に戻ったのか、釣りあがりきっていた目尻が元の位置に戻った。

 

 

 

「なぁダイヤ、非公認部活のまま活動させることはできないのか?」

「「「――非公認部活?」」」

 

 

 

三人は顔を突き合わせて俺の言葉に疑問を抱く。

いや、仲いいなお前等、さっきまで争ってましたよね?

 

 

 

「そう、部室も予算も出さないけど、条件を満たせば公認部活として昇格するチャンスを持った部活だよ。部室替わりとして使いたい教室は毎週申請を受ければいいし、期間内に条件を満たせなかったら即座に話を打ち切ればいいだろ?」

「おおー! お兄さん考えてるぅ!」

「むむ……そうね、考慮してもいい話かもしれないけど……」

 

 

 

俺が高校生で生徒会長だったとき、高海のような部活を申請したい生徒が後を絶たなかった。

だけれども、一部条件を満たせず公認の部活として認められないものが当然あった。

しかし、そんな中でもその足りない条件を『○○までには達して見せます』と、約束して泣きの保留を願う生徒もいたのだ。

そこで俺が用意したのが『非公認部活制度』。ある程度学生の自治を任されていたうちの高校だからできたのかもしれないけれど、この制度は効果抜群だった。

本当に熱意があるものは提示した期間以内に仕事をしてくるのだから、今でもあれは会心の政策だって思ってる。

 

 

 

「二日連続で直談判して訴えてくるほど熱意があるんだ、きっと本気でスクールアイドルとして活動するために条件を満たしに来るさ」

「だけど……」

「だけどもナゲットもない。ダイヤ、お前の仕事は教えることで、下級生の夢をつぶすことじゃないだろう?」

 

 

 

ダイヤの瞳が困惑で揺れる。

一体なぜ彼女はスクールアイドルをこの学校で興すことに拒絶感を抱いてるのかわからない。

それでも、ここで高海の夢を、願いをつぶすわけにはいかないのだから、退いてはいけない。

俺は教師なのだ、ダイヤは許嫁である以前に俺の生徒なのだから、ダイヤのことも導いてやるのが教師としての正しい姿だろう。

 

 

 

「ダイヤの生徒会長としての使命とか業務とか、そういうのは立派だし大事だよ」

「角人……?」

「だからこそ、少し落ち着いて、俺に任せてほしいんだ。ダイヤだけが決めてたら、ダイヤが全部背負っちまうだろ」

「でも……」

「いいんだよ、俺は生徒会顧問だ。大人っていうか教師には責任を負うという仕事がある。それまで取られたら、俺は何すればいいんだ?」

 

 

 

ダイヤはしばし考え込む。

その最中にふと高海たちのほうを見ると、渡辺が顔を真っ赤にして口に手を当てていた。

高海は……なんか目を輝かせてるな。

再びダイヤに目を向けると、彼女は顔を上げ、何かを決めた表情で高海に話しかけた。

 

 

 

「高海千歌さん!」

「はっ、はい!」

「――五月の終わりまでに、この学校のスクールアイドルとしてふさわしいものを一つ作ってきてください」

「……! それじゃあ!?」

「ええ……もし、作ってくることができたのであれば……わたくしは公式部活動としての申請を受理いたします」

 

 

 

ダイヤの言葉に笑顔を浮かべる高海と渡辺。

うむうむ、ダイヤも出会ったころに比べるとだいぶ柔軟なことを言えるようになってきた気がする。

 

 

――だが高海たちよ、そこで喜ぶには早いぞ。

まだ挑戦資格を与えられただけなのだから、ここからは君達の実力勝負、俺たちにはどうしようもないものだ。

だから、頑張ってほしい……まぁ、こんなことは言わないでやる方が応援になるんだけどさ。

 

 

 

「さぁ、そろそろ時間だ、教室に行きなさい」

「――待ってお兄さん!」

「千歌ちゃん……授業遅れちゃうよ?」

 

 

 

高海が俺のことを呼び止める。

――いや、あのさ、いい加減気付かないかな、俺が先生だってこと。

後ほんと授業遅れちゃいますよ? 授業開始日から遅刻はよくないよ?

 

 

 

「お兄さんに、スクールアイドル部の顧問をしてほしいんだ!」

「……はぁ」

「……千歌ちゃん……」

 

 

 

……ダイヤのほうをチラリと見る。

――ああ、なんかプルプル震えてる、これは爆発直前かなぁ……

 

 

 

「あのな高海、俺は生徒k――「高海さん、あなたに角人は渡しませんわよ!」――ああもう、めんどくさいことになった」

 

 

 

――この日から、高海から校内で会うたびに、スクールアイドル部の顧問に勧誘されるようになる。

そんな俺の教師生活始まりの話だった。

 




・角人
茶々を入れるたびにダイヤににらまれる弱い許嫁。
しかしながら教師としてのスタンスを自己完結するのだから、存外メンタルは強いのかもしれない。
この日の後、ダイヤのご機嫌取りにデートを計画する羽目にもなる苦労人。

・ピギィ
ルビィの悲鳴。スクフェスAqoursストーリー序章をやってもらえればわかるのだが、ルビィは一言目に大体この悲鳴を叫んでいる。
ちなみに当作品では叫んだ理由が『いきなり善子が降ってきたから』という事実に改変されており、アニメ内容とは順番が逆である。

・渡辺曜
角人に若干同類認定された、高海千歌のお母さん的ポジション。
ある意味低レベルな喧嘩を繰り広げる幼馴染と生徒会長を見た時の心境は如何に。

・ヨハネのチョキ
指がつることを覚悟して一度やってみるといい。なかなかに手に来るものだ。

・非公認部活
オリジナル制度。
角人さんの経験から基づいた案で、割と条件部分は芸術職志望の人間にも流用できるのでお薦め。

・ダイヤ
本編では色々と過去背景がありそうな人。
残念ながら当作品では私怨に私怨を重ねた理由でスクールアイドル部を――と言うよりも、高海千歌を目の敵にする。
だからと言って別に千歌へのアンチ・ヘイト作品になるわけでもないのでご安心を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。