――結局、高海とダイヤの応酬を華麗なステップで躱すことになった俺は、教育主任にしこたま怒られ、教室で自己紹介をやっているであろう一年生の教室に向かうように命令された。
一年生と言えば、今年からこの学校には友達のマルちゃんと義妹のルビィが通うようになる。
彼女達の教室がどんな生徒で彩られるのか見ることも、きっと大事なことに違いない。
そんなわけで期待と夢に胸を膨らませながら一年生の教室の前に着いた瞬間――
「ピーンチッ!!」
「えっ……?」
「ヒギャッ!!」
――俺は、知らない女子生徒にぶつかり、教室の外にはじき出された。
……拝啓親父殿、偉大な貴方様の息子であるわたくし白岡角人は、どうやら教師としての立場を許されていないようです……もう実家に帰ってよろしいでしょうか……
「坊ちゃま、お気を確かに。先輩の方が心配しておられますよ」
「ああ、神居さんありがとう……」
「えっ、えっ、白岡先生、その執事服の方はどちらから……!?」
俺の為にわざわざ出てきてくれた神居さんの手を取って立ち上がる。
そうだ白岡角人よ、お前はこんなとこで折れるべき男じゃない。
今一度自信を持て、きっと何とかなるさ!
「すいません、遅れました」
「いや、あの……だから、さっきの人は……」
「俺にぶつかった生徒は大丈夫ですか?」
「あぁっ! 津島さん大丈夫!?」
先輩が慌てて寄って行った先にいたのは、先ほどチラリと見えた紺色の団子――の髪型の女子生徒。
黒板を見る限り、自己紹介タイムだったのだろうか。
事情がわからないので、生徒たちの方に目を向けると、マルちゃんを見つけたのでアイコンタクト。
――マルちゃん、これってどんな状況?――
――ゴメンね角人さん、オラテレパシー使えないから――
……今間違いなく通じ合った気がしたのに交信を拒否られるとはこれいかに。
ならばと、マルちゃんの後ろにいたルビィに向けてアイコンタクトで交信を試みたのだが……
――ルビィ、ヘルプ!――
――角人さん、ルビィは困っちゃいます――
ちがうんだルビィ、今絶対通じ合ったと思ったのにその返しはないよ。
てかもしかしてそもそも俺のアイコンタクトは二人に通じていないって事案かな?
ダイヤだったらアイコンタクトで会話できるのに、おかしいぞ、まだ修行足りないなこの二人は仕方がないなぁ!
「坊ちゃま、これを」
「ありがとう神居さん、やっぱり一家に一人神居さんだな」
「流石にお戯れを、それでは失礼します」
「ねぇ白岡先生、ほんとにあの人誰なのか説明して?」
「わーアニメみたいな執事さんだー!」
神居さんに手渡された用紙には、俺が事前に受け取っていた名簿と違って各生徒の顔写真と名前が載っていた。
一言追加で差し支えない程度のデータが書いてあって、生徒の特長を把握するのには一切困らなさそうだ。
えっと、そこでピヨピヨ目を回している生徒は――津島善子、厨二病患者……厨二病?
何だかよくわからないが、厨二病……後でマルちゃんに聞いておこう。
「……えっと、白岡先生、一年生にむけて自己紹介をお願いします」
「え、あ、ああ、はい。わかりました――神居さん」
「かしこまりました」
神居さんによって黒板に俺の名前が書きこまれる。
うむ、相変わらず達筆だなぁ、流石は神居さん。
神居さんが名前を書き終えたことを確認した俺は再び前を見て、先ほど高海とダイヤとのいざこざで緩まされたネクタイを締めなおす。
さぁ、今ここからが俺の教師生活の本当のスタート――
「白岡角人、今年からこの浦の星女学院で教師を勤めることになりました。一年目なので各教室でみなさんの授業を共に受ける立場ですので、気軽に接してもらえると嬉しいです。よろしくお願いします!」
「ねえ白岡先生、さっき名前を書いてた人のことそろそろ話してくれない? 私そろそろ怒っちゃうよ?」
「はいはい先生! 先生ってどこの大学なの!?」
「先生っ! 趣味は! すきなものはなんですか!」
――あの、女子高生の元気って、想像以上なんですね……
まだ実質一日目だっていうのに、もう心が折れそうです。
***
「おだまらっしゃぁぁぁい!!」
「いや、なんでお前が怒ってんだよ……」
数日後、高海が渡辺と共に再三の部活申請を持ってきた時のこと。
高海は俺の話を聴いていなかったのか、それとも聞いていたうえであえてまた持ってきたのか……
隣で苦笑いをする渡辺は俺に手を合わせ、謝罪しているかのように見えた――ドンマイ、苦労してるんだな、渡辺も。
「μ’sの九人が最初に歌った曲は答えられますこと?」
「えっと――そのぉ……」
「ブーッ! ですわ!」
そんなことより、今はこっちのバカとバカの争いについてだ。
何だかよくわからんが、高海がμ’sのことを『ユーズ』と呼んでたことに過剰反応したダイヤが、μ’sについてすっごく偉そうに解説し始めたのだが――
「……全部ルビィの知識なんだよなぁ……」
「ブッブッブーッ! ですわっ!!」
「うわわわわ!」
高海がダイヤに詰め寄られ、生徒会室の端にある台の奥まで体を反らす――あれ、確かそこって……
「おい二人とも、いったんストップだ」
「なんですの角人!」
「先生! たすかったー!」
俺だって生徒会顧問。生徒会室に何があるかの把握はできている。
ダイヤと高海を台から離れさせ、神居さんと一緒に確認すると――
「ああ、やっぱりスイッチ入ってるじゃねぇか」
「……スイッチ?」
「そこは……そういえば、放送機材の場所でしたわね……」
「ねぇみんな、突っ込むところがあると思うんだ」
そう、生徒会室は放送室も兼ねており、普段は端っこのほうに放送機材が置いてあるのだ。
そこに高海がぶつかったことでスイッチが誤作動。
そうなるとこの二人のやり取りは全校放送されてしまうという結果が待ち受けており、下手すりゃダイヤのドヤ顔で語るスクールアイドル知識が全校生徒に広まっているところだったのだ。
なんとしても其れは避けなければならない、何故なら――
「ダイヤ、必死に勉強したその姿勢は素晴らしいが、結局それ全部ルビィの受け売りなんだから、あんまり自慢げに語るのはいかがなもんかと思うぞ?」
「お嬢様は勉強熱心ですから、致し方ないかと」
「なっなななななな――」
「会長……?」
「へぇ……いや、だからみんな気付こう?」
と言うかお前、ついしばらく前までスクールアイドル事態に興味持たなかったろうに。
ルビィがラブライブ見てて、それに興味持ってからやけに見るようになったなと思ったら、気付いたらめっちゃ詳しくなってるのはまぁ良いことなんだけどさ。
それでも大体ルビィに教わりながら見たんだろ?
というかお前等もμ’sか、俺あまり好きじゃないんだよ、憎いアンチクショウが頭によぎるから――ってこれは全然関係ないか。
「すっ角人! 余計なことを言わないで!!」
「そうは言うがな、お前も同じような呼び方してたんだから、あんまり咎めてやるなって話だぞ?」
「ぐっ……それは……」
「それと高海」
「はいっ!」
俺は高海に向きなおる。
とりあえずコイツに言わなければならないのは――
「結果か活動材料を持ってこい、俺は前回なんていったか覚えてるか?」
「――あっ」
「……その様子だと忘れてたみたいだな……」
「えへへ……ごめんなさい」
しょうがないやつだ……そんな呆れの気持ちに少しだけ蓋をして、先ほどから胃の痛そうな顔をしている渡辺に目配せを送る。
最近身内にはとことんアイコンタクトが通じてくれないが、きっと通じてくれるような素晴らしい生徒もいるのだと俺は信じている。
――渡辺、しっかり高海の手綱を握ってくれ。頼んだぞ――
――先生、生徒会長という将来を誓い合った人がいるのに、生徒に手を付けるなんて不潔ですよ?――
――ちがう、そうじゃない、そうじゃないよ渡辺。
なぜこうも俺の意志は伝わってくれないのか。
そろそろ心が折れる音が聞こえそうだ。
それと、渡辺は何処からそれを聞いた、松浦か? 松浦なのか?
「坊ちゃま、そろそろお昼休みが終わりになります。ご準備を」
「ああ、ありがとう神居さん――それじゃあ三人とも、授業に遅れるなよ」
「アナタに言われなくてもわかってるわ」
「あの、先生、その人誰……?」
「先生に付き添う謎の執事さんかぁ、アニメみたい!」
神居さんの助言のおかげで、時間に無事間に合った俺は、午後の授業を乗り切ることに成功した。
そういえばだが、入学式の日に教室からエスケープしそうになっていたらしい津島も、休むことなくしっかり登校している。
マルちゃんやルビィが率先して彼女と仲良くやれているみたいなのでよかったと思っている。
――しかし、厨二病という病気についてはよくわからないままなので今度十政に奴にでも聞きに行ってみようと思う。
・サブタイトル
残念、ヨハネは角人にぶつかったことで不登校になれませんでした!
なんというかある意味こっちの結果も残酷ではないだろうかと思わなくもない。
・角人
アイコンタクト出来ないマン。
なぜか相手のアイコンタクトを読み解くことができる技能を持っている変な優秀さを発揮。
あと困った時には神居さん大体呼んでるという。
・ダイヤ
ポンコツマッハなお嬢様。
アニメ設定と異なるので『ルビィに影響されてスクールアイドルを知った』という形で二話のこのシーンはできた。
角人の尽力によって全校放送は免れた模様。
・千歌
三願の礼。なお三願してもダイヤさんは許してくれない。
・曜
苦労人。そろそろ胃薬の支給が求められる。
・神居
もうこの人だけでいいんじゃないかな。
万能執事――いやSHITSUZI。
何処からか現れて角人を助けまたどっかに消えるミステリアスなお方。
この人がいれば角人は困らないしくじけない。
人間なのか怪しく思うだろうがれっきとした人間である。