網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

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それは彼と彼女のオハナシ
彼と彼女の良好?な関係


突然だが、静岡県沼津市の内浦の地区は、大変に住みづらい。

どれくらい住みづらいかというと、まず――近くに何もない。

まるで、近く……近辺に店がほとんど存在しないのだ。

一番近くの雑貨店すら、自宅から自転車を用いて十分から二十分を要する。

しかもその雑貨店は午後になったらほとんど品物がなくなっていたりするほどに何もない。

……しかも閉店も早い。

 

 

テーマパークに当たる【三津シーパラダイス】が付近にあるが、歩いても二時間を要するのだ。そこへ気軽な気持ちで行こうとする気も起きない。

その先に【淡島】という遊覧船で向かう水族館のあるパーク島があるが、自宅付近からバスで行くと金額が700円以上も取られてしまうような距離。

さらには市で最も大きい駅に行こうモノなら余裕で1000円を超える金額を片道で払う羽目になってしまう。

 

 

というかなんでパーク島で神社があって、それに参拝するのに山登りをしないといけないんだよ。と思う。

完全にあれは参道ではなくただの山道、なぜ中腹まで行けるロープウェーの運行を廃止したのかと心底あの瞬間思った。

軽い気持ちで参拝に行こうとした俺がバカだった。

アイツに呆れたような顔で見られてたのはそういうことだったのかと、あの時思い知った。

立札の内容もちょっと嫌な予感がしていたのにだ。あの時の俺は大変甘かった。

 

 

近辺に中学と小学校が各一つずつ、男子高校と女子高校が一校ずつこの市には存在する。

小学校も中学校も寄ったことなどないのでよくわからない。

だが、俺が務めることになる、女子校である【浦の星女学院】は山の上にある。そう、比喩でもなんでもなく、まごうことなき山の上に。

しかも周辺にコンビニなど買い食い御用達の店などは何もなし……あるのはみかんの収穫所とミカン農家、海岸線で釣りに来るおじさんたちだけだ。

反対に男子校である【入江の月高校】は浦の星女学院から自転車で駆け抜けて約二十分の先で、立地も山ではない。

しかしながら、そこも道が狭く入り組むことも多いため移動しづらく、生徒には通いづらい。

若き学生たちにとってこの土地どうなんだと思うレベルで有る。

あとなんで女子高と男子高だけあって共学がないのか、甚だ疑問である。

浦の星は廃校がマッハだとか色々話を聞くんだが、入江の月高校にそんな話はないのだろうか。今度通ってる生徒でもとっ捕まえて聞いてみようかと思う。

 

 

反面、隣で自分の実家がある三島市は、大学高校中学小学校が比較的密集しており、その影響か店も多く、物が比較的手に入りやすくなっている。

自転車は必要ではあることに変わりがないが、少なくとも内浦と比べて格段に住みやすいと思っている。

悩むことは電車と痒い所に手が届く店が少ないことだが、やっぱりそれでも内浦に比べて格段に環境はいいと思っているし、感じている。

 

 

そんな感じでとにかくこの内浦には不満が募っている。

其れもそのはずか、俺はもともと先ほども述べたように三島の出だ。

三島はかゆいところに手が届かずともいろいろな店がある。それを思い知ったのがこの内浦に引っ越してきてからだ。

まさかの日常的な買い物にも苦労する。そんな不便さを知ってしまえば実家への熱いホームシックが止まらない。

思い出補正だとか隣の花は赤いだとかそんなことを言われる覚悟で言うのだ。

 

 

個人的に正月の福袋とかすごい楽しみなのだ。商店街を巡ってどれがどのくらい安くてどんなものがあってとか、そういうわくわく感をこの内浦で味わうことが俺にはできない。

いつものじいちゃんとかおっちゃんおばちゃんが正月のサービスとしておまけを多めにくれたりするのも楽しみなのだ。

 

 

だから――――

 

 

 

「――――俺はっ! この正月ッ! 実家にッ!! 帰ってッッ!! 寝正月を過ごすんだよォォッ!!」

「何がどうしてどうなってその宣言をしたのかわからないけどっ! 勝手にしなさい! それをなぜわたくしに宣言するの!?」

「翡翠さんに話したら『それはダイヤが決めることであって私に言われてもねぇ?』って返ってきてなぁ!」

「ちょっと待ちなさい! お父様は私に一言も告げずに決定権の譲渡を!?」

「そんなの俺が聞きたいんだよなぁっ!!」

 

 

 

ダイヤの父である翡翠さんの言葉通り、声高に自身の望みをダイヤに伝えてみたところ、当のダイヤはまるで状況を読み込めていないらしく、珍しいテンパり姿を見せた。

正直レアな姿なので、是非動画に収めて今後の対ダイヤとの切り札にしてやりたいのだが、あいにくと撮影道具を持っていないのでそれは断念する。

ダイヤはしばらく頭を抱えたり、早足で俺の周囲をすたすたと歩きまわったりと落ち着きのない姿を見せていたが、しばらくして落ち着いたのか、深いため息とともに肩を落とした。

 

 

 

「おお? 溜息をつくと幸せが逃げるって言われてるが……?」

「誰のせいだとおもっているの……やっぱりあなたは、相手の気持ちを察することが出来ないという欠陥を抱えているのね!!」

「欠陥はいいすぎだろ!? 俺はただ実家に帰って寝正月したいって思いを翡翠さんに伝えただけだし、悪くねーしっ」

「あらかじめ一言わたくしにその話を通してくれてもよかったじゃない!」

「家主はおまえじゃねーじゃん!?」

「あなたの許嫁はわたくしなのよ!?」

「そういう話じゃねーよ!? お前実はまだ状況がわかって無いだろ!」

「言うに事欠いて……っ!」

 

 

 

ぎゃーすかぎゃーすかと、言葉の応酬を続けることどれくらいが経ったのか。

状況をようやく理解したダイヤに告げられた言葉はただ一つだった。

 

 

 

「――角人、今年の帰省は禁止よ!」

「お前最初に『勝手にしろ』って言わなかったっけ!?」

「無効よ無効、そんなの無効! いいから働きなさい!」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

ダイヤ曰く――寝正月ならばうちでもできるのだから大掃除の片付けや新年のご近所への挨拶を手伝え――ということらしく、今年の正月は実家で親父殿達とおせちをつつきながら炬燵でだらける。という素敵なプランが露に消え、幕を閉じた。

やはりダイヤの夫になるやつはあいつの尻に敷かれたままで、自由な外出ができないんじゃないかとか思う。

……俺じゃん。それ、俺じゃん。

なんかもう許嫁(仮)だけど、そのはずなんだけど、いつの間にか許嫁(真)に扱われている気がする。

というかもう手遅れに思える。親父殿と翡翠さんが喜々として結婚式の日取りを決めているイメージが見えてくる。

なんかまんざらでもないなと思ってしまうあたり自分もだいぶ毒されたと思っている。

 

 

 

「す……角人さん、そんなに頭を抱えて……どうしたの?」

「ああ……ルビィ……いや……現実の非情さに心が痛くてな……」

「そっ……そうなんだ……辛かったら休んでも……」

「良い子だなぁ……ダイヤもルビィくらい可愛げがあればなぁ……」

 

 

 

ダイヤに押し付けられた掃除の最中に、頭を抱えていると、義妹(仮)のルビィが声をかけてきた。

軽度の男性恐怖症も、どうやらしばらく付き合っていくうちに改善の方向へ向かっているようで、今ではこうして普通の会話ができるほどにはなっている。

会話をしていると、気遣いの出来る可愛い女の子だということもよくわかるので、なんで自分の許嫁(仮)はあんなにカリカリしてカッカしてるんだろうかと嘆きたくもなる。

 

 

 

「おっ……お姉ちゃんのほうが……可愛い……よ?」

「まつんだルビィ、いいか、ダイヤは修羅だ。鬼だ。悪鬼羅刹の鬼嫁なんだ」

「すっ角人さん……その辺で……」

「あいつのお小言は長い。それこそアニメばりの二、三時間も説教を言えるくらいに口うるさい……!」

「あぁぁぁ……」

 

 

 

日ごろから抱えるダイヤへの不満をここぞとばかりに吐露する。

ルビィは良い子だから『そういうのはよくないよ』と止めてくれるんだろうが知るか。

言いたいことが俺には山ほどあるんだ!

その時、俺の背後から冷たい声がかかった。

 

 

 

「誰が、修羅で、鬼で、悪鬼羅刹……?」

「――――っ!?」

「あわわわわわわ!」

「元気が有り余ってるようね角人……そんなあなたにいい仕事があるの……」

「ダッ――ダイヤ!?」

 

 

 

俺がその声の持ち主の名前を呼ぶと同時に、俺の襟は強い力で引っ掴まれる。

一体その細い体のどこにその力があるのやら、ろくに抵抗もできずに体が引きずられていく。

助けを求めようにも周りの使用人などは微笑ましくこっちを見てくるし、ルビィは涙目になりおろおろするばかり――俺は悟った。

ああ、これが……ドナドナか。と。

 

 

 

「離せダイヤ! 話せばわかる! 人間には対話が大事だ!」

「あら――悪鬼羅刹と人間の間には話し合いは不要よね?」

「がっでむ! この世界に神はいない!?」

「あなたの信じるような都合のいい神、そんなものはいないわ、ええ。」

 

 

 

現実は無情。俺の自業自得な面も否定できないが、しかしやっぱりダイヤは鬼だ。

対話ができたどこぞのマイスターさえいればこの状況は改善できたかもしれない。

せめてもの抵抗で声高にダイヤを罵る。

 

 

 

「――ダイヤの鬼っ! 悪魔っ! ちひろぉ!」

「先ほどからわたくしのことを鬼扱いしすぎよ! やかましい! あとちひろって誰のこと! いつの女なの!?」

「ちげぇよ関係ねぇよ、あっまって首が締まる締まる締ま――クェッ」

 

 

 

 

 

 

いつの間に俺は昼寝をしていたのか、目が覚めた時には黒澤家での自室のベッドに寝ていた。

そばではなぜかダイヤが小さくなってションボリとしていたが、いったい俺は彼女に何をされたんだろうか。

あとその日、珍しくダイヤがルビィに怯えていたのだが、一体ルビィは何をしたのだろうか……?

 





・淡島
神社とは【淡島神社】のこと。参道が階段ではなく、山登りだというのは行ったものならたぶん伝わる。
ロープウェーは運行停止だが、往復する船があり、某雑誌で小原鞠莉が船の上にいるイラストはこれがイメージだといわれている。


・黒澤ダイヤ
本作主人公白岡角人の許嫁(仮)だが、もう本人的には(仮)が取れている感じの振る舞いに。
当然本人に自覚がないので、そこがルビィ曰く『可愛い』だとか。


・黒澤ルビィ
本作では実はかなり強かな子。
角人本人の前だけでは未だに『おにいちゃん』と呼べないのが目下の悩み。


・どこぞのマイスター
世界の歪みを見つけるマイスターでさえもきっとこの二人の喧嘩に手をださないだろう。
なんちゃら喧嘩は犬も食わないというのと同じなのだ。


・鬼、悪魔、ちひろ
角人がちひろと知り合いなわけでも、某灰姫マスをやってるわけでもない。
ただ単に、その定型文だけを知っているのだ。



・入江の月高校(スペシャルサンクス)
ラブライブ!二次創作である、【再び男子の園に戻るために】と【オタク女子と九人の女神の奮闘記】
の作者である【鍵のすけ】氏がハーメルンにて公開している
ラブライブ!サンシャイン!!二次創作【君たちのこころは輝いているかい?】
という作品において主人公【双葉心継】が在籍している男子校の名前。
本作には当学校の名前のみの登場である。
鍵のすけ氏、ありがとうございました。
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