網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

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角人、口下手

「――普通の女子高生になりたいぃ?」

「は……はい、私、リア充になりたいんです!」

「……リア充……リア充ねぇ……」

 

 

春の陽気はとうに過ぎ、例年よりまた平均が上がったであろう夏の日差しと熱気に倒れそうになり、神居さんの送迎での通勤が不可避になった今日この頃。

夕暮れに染まりつつある校舎の一角にある生徒指導室、そこで俺はある生徒から相談を持ち掛けられていた――

 

 

「……ダメ、ですか?」

「ダメとかそうじゃなくてだなぁ……うーむ、津島お前は何を望んでるんだ?」

「何をって……普通の生活を……」

 

 

――そう、その相手は入学式初日、俺に華麗なダイレクトアタックをして教室からクーリングオフを決めてくれた厨二病患者の津島善子だった。

そもそも厨二病とは何か、神居さん曰く『青春の真っただ中にいるうら若き少年少女の心の病』で、『何か奇抜さ、新しさを求めるあまりついつい自分の世界に浸りこんでしまう症状』らしい。

つまり、精神病のようなものだって解釈したらいいのだろか、神居さんにはあいまいな顔をされたが、多分そんなものだと思っていいのだろう。

 

まぁそれはともかく、津島的には今まで過ごしていた厨二病によって得ていた奇抜さ、新しさを逆に『日常的に感じるようになってしまった』ということなのか。

だからこそ『普通の女子高生になりたい』という『新しさ、奇抜さ』を求めているのだろう。

これでは厨二病が改善することにはならない、なぜなら、厨二病とはさっきも述べた通り『新鮮さを求める』病気。

これで今までの彼女の振る舞いが変わったとしても、またその後新しさを求めてしまったとするなら、今度はどんな人物になってしまうか俺には想像もつかないけれど、きっとそれは良いことじゃない。

だから――

 

 

「なぁ津島、普通ってなんだ?」

「えっ、それは……みんなと同じことして、同じ芸能人に盛り上がって……一緒にお茶したり……とか」

「10点だ、100点満点中のな」

「うっそ!? なんでそんな厳しいんですか!」

 

 

そりゃあそうだろう。

津島の言う普通は普通じゃなくて【没個性】って言うのが正しい。

そもそも普通とは何か、みんなで同じことをすることが普通なわけじゃないし、みんなで同じ趣味を分かち合うことが普通なわけでもない。

 

そもそも普通という概念自体が大変あやふやで、明確に定義を課することはほぼ不可能だ。

これは【正義】にも似ていることが言える。

場所やコミュニティや生活環境、宗教関係などと言った様々な要因をもってして各々に【正義】や【普通】が生まれる。

例えば食事前に三十分祈りを捧げるのが普通だという地域もあるが、それもよしと認めるだけの地域や、頭ごなしに異常だとみなす地域もあるだろう。

つまり、津島の求める普通とは普通にあらず、それはただの『共同生活』でしかないのだ。

 

 

「――そんなこと、屁理屈ですよ!」

「屁理屈なもんか。俺の大学での主な修学は異文化共生と宗教関係、それと歴史、言語だぞ。帰国子女兼グローバル企業家系の小原ならともかく、お前たちよりかは遥かにそういう知識を持ってる」

「っ!?」

 

 

いかん、少し熱くなりすぎたのだろうか、神居さんから渡された氷嚢を軽く額に当てその冷たさで一度考えをストップする。

津島はさっきまでの話によってなのかかなり震えていて、余計に言いすぎたという罪悪感が募っていく。

 

 

「……津島」

「なんですか」

「あー、その……」

「……」

 

 

いかん、会話が続かない。

津島からの視線は警戒と言うか怯えがあって、こっちと目を合わせてやくれないのだ。

んー、そうだな、ここは率直に思ったことを伝えてやればいいのかな。

なんというか、教師って難しいもんだなぁ……

 

 

「あー、うん、津島」

「……はい」

「俺には、趣味も行動も住んでる場所も全くかみ合わない友達がいる」

「……それがなにか」

「でも、俺が今まで付き合ってきた友達の中では一番長続きしている奴らなんだ」

「……はぁ」

「……大事なのってさ、誰かに合わせることじゃなくて、自分や相手の個性を認めることじゃないかな」

「……」

「津島の刺激を求めた先にあった個性、それを棄てるなんて言うのは、絶対にもったいないぞ」

 

 

そう言い残し、俺は半ば逃げるような感じに進路指導室から出た。

なんというか、簡単な話じゃないのだろうけど、でもそれだけは言わなきゃいけない気がした。

言わなかったら、きっと津島に対して不誠実な態度で終わっただろうし、教師として何かが最低なんじゃないかって思ったからなのか。

それともただ――周りと比べて少しばかり癖の強かった数年前の十政のことを思い出したからなのかは、俺にもわからない。

 

 

 

***

 

 

 

そんな話をしてからしばらく。

俺とスクールアイドル部一同はダイヤによって生徒会室に呼び出された。

まぁ用件はだいたい察しがついている。

スクールアイドル部のメンツの中に津島がいることが何よりも証拠なのだから。

……しかし津島、お前も高海の強引な勧誘の被害者なのか? だとしたら大変同情するよ。

 

 

「なんッッですのこれはァッ!」

「Ohダイヤ、SisterはすっごくPrettyだけど?」

「プリティー? こういうのはハレンチっていうのですわ!」

 

 

――そう、ダイヤがお怒り心頭な理由はただ一つ。

スクールアイドル部が撮影していたプロモーション用ビデオの件だ。

内容は津島を中心とし、津島のキャラに合わせた他の五人が津島風の自己紹介を行う物。

それがダイヤにとっては逆鱗だったらしい。

十政風に言うならば『信じてスクールアイドル部へ送り出した妹がよくわからないゴスロリでスクールアイドル関係ないキャラ付けを行われていた』なのだろうか。

 

 

「角人! アナタ顧問の癖になぜしっかりと見ていなかったの! ルビィにならもっと似合う衣装があるはずよ!」

「え、そこ? 具体的に何があるか聞きたい気もするけどそこ怒るとこなの?」

「ほかにもあるけれど、まずはここを叱るのです! アナタは顧問として各々にアドバイスをする立場なのよ!」

「そうね、スミトはSchool Idolの顧問兼Managerなのだから、しっかりとWorkしてほしいわ!」

 

 

なんてこった、俺に味方はいないのか。

恨むような視線を高海に向けると、彼女は大変申し訳なさそうに目をそらす。

実はこのプロモーション、俺は今日まで一回もその話を聴いていない。

いや、報告してこなかったのだ、部長の高海が。『忘れてた』と舌を出しててへぺろしてた時には思わず頭をぐりぐり虐めてしまったのだから、俺は悪くない。

 

 

「とにかく、キャラが立ってない、個性が足りないなどという理由でこういう行いをするのは認められませんわ」

「でも――一応順位は……」

「いや、一時的なものだな」

「えっ?」

 

 

渡辺の言葉にさっと出てきた俺の返事に、ダイヤが満足そうな顔でうなずいている。

ダイヤもルビィとマルちゃんがスクールアイドルを始めるようになってから、かなり勉強を積み始めたからな、結構知識はバカにならないと思う。

 

今や日本では5000ものスクールアイドルが存在している。

Aqoursのようにそれこそ『キャラ付けが、個性が』と言った悩みを抱えているグループが数多くいるはずだ。

そういったスクールアイドルが向かう方向と言うのは一時的なキャラ付け――今回のAqoursの試みのような活動に偏りがち。

 

ただそれは本当に正しい売り方なのか、それは間違いなく否だろう。

確かに一時的な話題にはなる、しかしその一点だけに絞って売ってしまえば、その一点の価値を失ったとたんに全体の価値まで無くなってしまう。

早い話がテレビに出てはすぐ消えていく一発屋の芸人達だろう。

その一発のネタにしか価値を示せず、故にネタに価値を求められなくなった途端に存在も消えていく。

ということはだ、基本的にはテレビよりも狭い世界で主に活動するスクールアイドルなんてことになれば――

 

 

「角人の言う通り、試しに今ランキングを見てみればいいですわ!」

「はぁ……」

 

 

ダイヤと俺の言葉に納得がいかない表情の渡辺は、しぶしぶとパソコンを開く。

――直後、俺とダイヤの読みは当たっていたようで、渡辺は目を大きく開いて俺とダイヤを交互に見た。

 

 

「わかったでしょう? これが現実――本気でラブライブを目指すのであれば、伝説に追いつこうと望むのであらば、もう一度在り方を考え直しなさい」

《っ……》

「失礼……しました」

「それと、角人は残りなさい」

「……おう」

 

 

頭を下げて退室しようとする高海たちに合わせ、俺も退室を考えていたら、ダイヤに呼び止められた。

なので渡辺を軽く呼び止める、ただ一言、この先悩む問題に俺は深入りできない故のアドバイスを告げるために。

 

 

「渡辺、俺からは一つだけ」

「……はい」

「食い合わせって外れも多いけど、たまに変な組み合わせ程当たりが大きい時ってあるよな」

「……はい?」

「ちなみに俺はウナギの出汁とサトウキビと蕎麦つかって作ったスイーツが好評だったことがあるぞ」

「……はぁ……じゃあ、失礼します」

 

 

渡辺は怪訝そうな顔のまま生徒会室を出ていった。

――まぁ、絶妙にわかりづらく、それでいて要点は抑えたアドバイスじゃないかって自分で思うから、すぐわかるに違いない。

 

 

「角人、そのアドバイスは流石にないわよ」

「スミトって時々IncomprehensibleなAdviceを送るけど、誰も分からないと思うわ」

「なんでさ」

 

 

 

***

 

 

 

その後、結局津島は一度『普通』になろうと望んだものの、Aqoursのメンバーが彼女の『個性』を受け入れようとしたことで正式にスクールアイドル部へと所属することになった。

それと同時に高海たちは、Aqoursが本気で勝ち上がるためには何が必要なのかの一端を知ることができたらしく、俺たちに喜々として『もう大丈夫です!』と宣言していた。

 

……しかし、俺のアドバイスは役に立たなかったのだろうか。

高海に去り際に『先生の言いたいことがよくわからなかったです!』とか笑顔で言われ、なんか崩れ落ちそうになったし。

なぜだ、あんなに頑張って頭使って絶妙にわからないものを作ったはずだったのに……

 

『その変に色々織り交ぜようとする頭が間違いなく原因ずら』

『角人さんって……頭をひねると……残念だから』

『変に趣向を凝らさず真っすぐに伝えたほうがよくてよ』

『角人君って時々何言ってるかわからなくなるよねぇ』

『先輩の悪い癖と言えば俺は最初にそれが出ますからね?』

『角人の言葉難しくてわかんないー! もっと簡単に話してよー!』

『角人、昔から俺たちに比喩表現伝えるの得意じゃなかったよな』

『無理に言葉を変えないほうがきっと気持ちも伝わるって!』

『白岡君、言葉っていうのは、わかりやすく伝える技術が一番大事なんですよ?』

『うわ、全然ダメじゃん、真姫の表現方法見習ったら?』

 

――だめだ、今まで慰めにかけられた言葉の数々だと思ってたものは普通に全部罵倒だった。

鬱だ、もうマジ無理、御菓子作ろう。

 

そんなときだ、俺の携帯にメールが届いた。

差出人は小原――そう、理事長だ。

 

 

「角人! 今鞠莉さんからメールが届いた!?」

「お、おう、届いたけど……」

「ならば行きましょう! 今すぐ、鞠莉さんから大事な話があるそうですわ!」

 

 

……色々と唐突過ぎてわけわかんないんだが、ダイヤが慌てるってことは相当なんだろう――多分。

はてさて、嫌な予感もひしひしし始めたが、どうなるものかね……

 






・角人への罵倒
上から順番に、花丸、ルビィ、ダイヤ、翡翠、十政、元カノ、淳、英司、恩師、アンチクショウである。
とにかく共通して言えるのは、角人の言葉は何かに例えないほうが上手くいくということだ。

・角人のスイーツ
一応他にも素材は使っているのだが、この三つが主な素材。
果たしてどんなスイーツ作ったんだコイツ。よく食べられるものにしたな。

・角人のアドバイス
『いろんな個性がごっちゃになっても全部が奇跡的に噛みあうグループもあるから個性を殺すな』と言いたかった。
だから変に表現弄るなとあれほど。

・ゴスロルビィ
ダイヤはああいったものの黒澤家――主に翡翠と角人には大人気。
ダイヤが少しだけゴスロリへ興味を持つことになる。
あとルビィちゃんに堕天させられたい。

・角人の大学生活
割と多宗教や多文化に囲まれやすい環境だったので時々こうしてよくわからない境地に至る。
ちなみに角人は【自分に押し付けられなければ別に気にしない派】ではある。

・厨二病
コラボ章とアニメ章は全く異なる解釈をしている。
つまり神居さんはやっぱり有能だった。
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