「本格的に廃校の話があがってきたってわけか……」
「一応Decisionではないのだけれど……撤回はImpossibleと思ってほしいの」
「そんな……!? どうにかならないのですか!?」
「どうにかしたいけれど……そんなConvenientな話はあり得ません」
ここは理事長室、小原にメールで呼び出された俺とダイヤは、彼女から廃校について明確な話を聴くこととなった。
――浦の星女学院統廃合の決定、どうやら統合先は近所に在る入江の月男子高校ともう一つ、牛臥の方面に在る共学の高校。
入江の月も生徒数の大幅な減少に悩まされていたらしく、沼津市の牛臥ならばまだ距離も近めだということでそこの共学高校が統合先に選ばれたそうだ。
「そうか……生徒のことを考えると複雑だが、親御さんや教育環境を鑑みると仕方がないな……」
「……そうね、角人の言う通り、納得をせざるを得ないのですが……」
「それで、小h――んんっ、マリー、なんでその話を校長とかではなく、俺とダイヤに?」
率直な疑問。
まずこういう話は基本校長へもっていくものだと考える。
その後で教員に回り、その後差し支えのない形で生徒に公表される――ことが正しいのではないだろうか?
「Oh、それはですネ……Hum……」
「鞠莉さん……?」
「えっと……Sorry、ちょっと、Missしました」
「鞠莉さん……」
呆れを隠せないダイヤ、いつの間にやら仲良くなっていたのか、苗字ではなく名前で呼んでいるところはご愛嬌。
――まぁ、小原がミスを働いてしまった気持ちも分からんではない。
小原はビジネス家系の跡取り娘で英才教育を積んでいるとは言えどもまだうら若き高校三年の女子生徒、そんな彼女のデビューが統廃合ほぼ決定の学校とか、やはり荷が重すぎる。
考えがあって、ではなく完全な失念を引き起こすほど衝撃的だったということに他ならない。
「それで、どうする? 生徒たちには伝えるかどうかという話にはなるが」
「……伝えなければならないでしょうね、まだ検討中という段階なので濃厚だという点には触れないほうがいいと思いますが」
「I see……では、一度校長たちにこの話を通してきます」
「かしこまりました、お願いします小原理事長」
「それと、スミト」
「……なんだ」
「……Aqoursのこと、お願いね」
***
小原とダイヤとの話から数日後、生徒へ張り紙という形ではあるが統廃合の話が公開された日に、俺はスクールアイドル部の部室に来ていた。
統廃合の話はルビィとマルちゃんにも一切伝えてないので、全員がほぼ同時に知るだろうという確信もあった。
体育館に入り、部室の前に立ったとき――
「――音ノ木坂と! 一緒だよぉぉ!!――フギャッ!」
「ああっ!? 先生が千歌ちゃんに轢かれたぁ!」
「角人お兄ちゃあぁん!?」
――横から勢いよく走ってきた高海に交通事故のごとく、吹き飛ばされた。
体育館にいたであろう生徒たちが走ってくる音が聞こえる……が、
「……もうそっとしといてくれ……今は眠りたい気分なんだ……」
「あああ角人さんがナーバスになったずらぁぁぁ!?」
「白岡先生怪我してない!? 勢いよく頭から打ち付けたように見えたけど大丈夫!?」
「誰か黒澤さん呼んできて! それとついでに保健室の先生も!」
「寧ろ生徒会長より先に保健室の先生呼びなさいよ!」
「お兄ちゃん寝ちゃダメぇぇ!」
愛しの義妹と大事な友達の呼びかけによって何とか心を持ち直した俺は、高海に一発ゲンコツを落とし、スクールアイドル部の部室に入り、空いていた椅子に座った。
「……で、俺が高海に轢かれた理由について聞こうか」
「それも大事ですけど、私としては先生があんないい距離吹き飛んでおいてどこも痛めてないことのほうが気になるのですが」
「角人さんの身体はとても丈夫だから……」
段々と俺の身体が普通の人じゃない的な話になってきたので本筋に戻したい。
それと失礼な、神居さんの護身術講座がなかったらきっとさっき轢かれた時に気絶してたぞ。
「とりあえずだ、なんで高海は走ってたんだ、俺だったからよかったものの、他の生徒にぶつかってたらどうする」
「うっ……ごめんなさい……」
「先生、統廃合って本当なんですか?」
「まぁな、検討段階ではあるがその話は出ている」
ざわめく部員たち、そんな中でただ一人、異様な雰囲気を醸し出しているのは高海――
そうか、さっき叫んでいた『音ノ木坂と同じ』……そしてこいつはμ’sに憧れている……
――場酔いしているのか、自分たちが伝説と同じ環境に置かれていることに。
「高海、変なことは考えるなよ」
「――ほえ?」
「大方、『私たちの活動で統廃合を阻止しよう』と言いたいのだろうが――そんな目的ならば部活動停止処置を生徒会に持ち込む必要がある」
一転して雰囲気は剣呑とする。
それもそうか、俺の言葉は『不条理』極まっていると認識できる。
そんな不条理、とてもじゃないが認められる話ではないだろう――
「なんでそこまでするんですか先生」
「そうよ! 幾らなんでも其れはやりすぎよ!」
「じゃあ逆に聞くが、この部活の最終目標はなんだ?」
「……ラブライブの出場ですね」
「桜内、正解だ。決してこの部活は廃校阻止の為に立ち上げられた部活動じゃない」
――だからこそ、俺は俺の道理をもって『不条理』でなくする。
小原に頼まれたこと、それは『Aqoursが廃校阻止に動きだしたらそれを阻止する』こと。
小原としては、彼女達がμ’sと同じ道を辿ろうとすることで必ず突き当たる『阻止できない事実』にくじけることを懸念している。
だが、廃校がほぼ決定であることはまだ告げることができない、それは単にほぼ確定は『確定』ではないという事情によるもの。
本来ならば小原がその役目を負うべきだろうが、あいにくと彼女もここの学生、廃校の話を俺たちに最初に持ってきてしまうような致命的ミスをいつ犯すかわからない。
――だからこそ、俺がその役目に立つしかない。
「スクールアイドル部はμ’sと違い、廃校対策を根幹として作られた部活ではない」
「それは、あの時はまだ廃校の話がなかったからで――」
「じゃあ逆に聞くが渡辺、先に廃校の話が出ていたら廃校阻止のために部活を立ち上げていたのか?」
「それは……」
「そもそもだ、この部活にいるメンバーは廃校阻止の為にこの部を作ろうとしていた場合参加したのか?」
桜内、マルちゃん、ルビィ、津島へ順に視線を向ける。
高海のひたむきで純粋な『スクールアイドルをやりたい』という気持ちに心を動かされた桜内、元々スクールアイドルが好きで自分もそんな存在の様に『輝きたい』と願ったルビィ、自分の押さえていた『やってみたい』という欲に従ったマルちゃん、退屈な日常に刺激を求めた先に得た個性を『受け入れてくれる』場所を見つけた津島。
思うところがあるのか、各々は顔を伏せている。
「……彼女達は、『輝きたい』、『スクールアイドルをやりたい』っていう、ただ単純な理由でここに集まっているじゃないか――そんな集まったきっかけを、わざわざ伝説をなぞりたいって理由に変えなくていいだろう?」
「もう一度よく考えてみろ高海。お前は何がしたい? ただ伝説を準え、伝説と同じであろうとし、伝説に溺れるのか。それとも、自分だけの伝説を作るために、伝説から逸脱するのか」
「……はい」
「……それと、見失うな。お前の下にいるのは、既に伝説とは違う理由で集った仲間だろう?」
そう言い残し、俺は部室から出る。
……やっぱりいい気分がするものではない。
水を差して、厳しく突き付けて、たたきつけて。
彼女達がこれでふさいだらどうしたらいいか、俺はなんていったらよかったのか……
「シラカド先生、自己嫌悪中?」
「……松浦か、何の用だ?」
「別に、何でもないぞ」
高海たちの様子でも見に行く途中だったっぽさそうな松浦に声をかけられた。
……てかなんで自己嫌悪だってばれてるんだ?
「んー、カドセンって生徒相手に嫌悪感全く持たないじゃん、体育のアレとか古文のアレと違って」
「アレと呼ぶな。あだ名でもいいから呼んでやりなさい――まぁ、生徒に嫌悪感とか持つ理由もないしな」
「先生今自分がどんな顔してるかわかる? すっごい何か嫌がってる顔してるし、体育館から来たってことは千歌たちに何かキツイこと言っちゃって自己嫌悪してるのかなって思って」
よく見てるものだ、この学校の三年生ってみんなこうなのか?
『あだ名があってみんなから陰でもワイワイ呼ばれてるのは先生位だよ』と笑う松浦は、なんというかとても大人びている。
高海たちの面倒を見ていたからか、洞察力も自然と鍛えられるのだろう。
「まぁ、ちょっとな……」
「廃校関係でしょ、千歌って『μ’sと同じだ』って喜んでそうだったし」
「……なぜわかる?」
「先生がわかりやすいから――というわけじゃなく、実はマリーから聞いてるんだよね」
……なるほど、小原と松浦は確か家が同じ淡島方面だったな。
最近知ったのだが、淡島で見る職員のダイビンググッズは松浦の家が用意してるのだとか……
まぁ、小原と松浦はそれだけ仲がいいのだから、ふと溢した話でもあるのだろう。
「マリーね、先生に辛いことさせちゃったなって落ち込んでたよ」
「……まぁ、それが俺の仕事だからな」
「じゃあ、千歌たちのアフターケアは私の役目だね」
松浦は微笑みながら体育館へと再び向かう。
「先生、きっと先生のいうことは伝わるから、任せて」
「……ああ、よろしく……」
「うん、任されました。後先生、もう少し伝わる言葉選んだほうがいいよ」
「……ゴフッ」
***
「先生ってなんであんなこと言ったんだろう……」
「きっと、角人さんにも思うところがあるんだと思います……」
「でも、だからと言って活動停止まで考えてるってそんな、応援するって嘘ばっかり!」
角人が去った後のスクールアイドル部室では、先ほどの角人の態度について主に曜から不満が噴出していた。
曜から見れば、角人の言い草は癪に障る。
幼馴染の千歌がやろうとしたことを先読みされ、それも理屈という名の暴論で叩き伏せられ、挙句の果てには『考え直せ』。
正直むかっ腹が収まる気配があるわけもない、他のメンバーがいなかったら一発ぶん殴っていそうな形相である、生徒会長の婿だとか生徒会顧問だとかそんなことは知ったことじゃない。
「確かに白岡先生はキツイ言い方したけど……」
「だけど、納得できるのよね……」
「梨子ちゃんも善子ちゃんも白岡先生の肩を持つの?」
「肩を持つっていうより……言いたいことがなんとなく伝わったかなって……」
Aqoursの中でもセンス型筆頭の二人は、角人の絶妙に間違えたセンスの言葉の中に隠された彼の想いをなんとなく感じていた。
それは曜の言うような厳しさではなく、伝えたいことを伝えられないジレンマ。
廃校阻止のために動くこと自体を窘めたいのではなく、何かもっと、大事なことを伝えたいのではないかと、なんとなくではあるものの感じ取っていた。
そしてそれは、彼と言う人と成りを知っている花丸とルビィにも言えることだった。
二人は彼がプライベートで千歌たちにどういう感情を持っているかということを知っている。
故に今日の角人の言に驚きはしたものの……ここ数日のダイヤ、鞠莉の雰囲気も相まって、角人が統廃合賛成派だとか、そういう話ではないということも気付いていた。
「角人さん、きっとこの統廃合について大事なことを知ってるんだと思うずら」
「ずら丸、その大事なことって?」
「……統廃合の検討だって言うけれど、もしかしたら……」
「おはよーみんな! 松浦果南、遊びに来ちゃいました!」
剣呑な雰囲気は果南の登場によって突如打ち破られる。
独り机に突っ伏し、うなだれていた千歌がガバリと起き上がり、果南へと抱き着いたからだ。
「果南ちゃぁぁぁぁん!」
「はいはい、カドセンから『高海にキツイことを言ってしまって、落ち込んでいると思う』ってお願いされたから来たんだけど、どうやら千歌よりもみんなの方が深刻だねー」
「角人さんが……?」
「えっと……この人は……?」
「あ、ゴメンネ。私は松浦果南、三年生。趣味はダイビングと天体観測、千歌と曜の幼馴染で、生徒会長と理事長のクラスメイトなんだ」
角人の名前に反応した一同をサラリと流し、Aqoursのメンバーの中でほぼ唯一と言っていいほど面識がない善子に果南は自己紹介をする。
そんな彼女の手にビデオカメラがあることを確認し、曜は問いを投げかけた。
「果南ちゃん、そのカメラは……なに?」
「なにって、スクールアイドルならPVの撮影じゃない? ライブからまだ一曲も撮ってないしね」
「っ、そうだよ果南ちゃん! 活動のことなんだけどn――「とりあえずさ、難しいこと考えないで、今出来ることやっていったら何とかなるよ?」――そう、かな?」
角人の言葉の真意を果南に問おうとする千歌を、彼女は制止した。
『やっていけばわかる』、思慮深い彼女にしては珍しい、大変アバウトなお誘い。
だが、千歌はそれに乗る。少なくとも、角人の『お願い』を聞いてここに来たと語る彼女が『やればいい』と言うのだから、角人の真意は間違いなく言葉通りではないという確証を感じた。
だから彼女は考えることをやめる。思考停止じゃなく、一度ガムシャラに走った後でもう一度考え直すための、愚直な選択をする。
「やりたいことをまずはやってみよっか。大丈夫、カドセンには私からちょろまかしとくから!」
「うわぁ……果南ちゃんかなりあくどい顔してる……」
「よーし、それじゃあ早速、PVを作るぞー!」
今回は六話前半より。
・廃校事情
活動報告にも書いたことがあるが、この作品ではアニメと同じ協議段階であるものの、結末はG's側と同じく【決定】になる。
故に廃校は阻止できず、アニメAqoursの活動は今作では全く意を成さない。
それに伴い、μ'sを再現させるかただの憧れで終わらせるかの差異をこの作品は描く必要があるというアニメ回使用上の難点も…
・鞠莉
アニメではなぜその話をダイヤにわざわざしていたのか疑問に思ったのもあり今回はこのような形に。
動揺していたという弱さを見せる形で彼女を理事長と言う立場よりも生徒としての立場に、角人の精神上で置かせたいという作者の考え方もあったり。
・角人
今回曜からヘイトをガンガン集めた男。
言葉の真意はまた次回詳しく。
ちなみに彼の千歌への言葉の一部は、作者からサンシャインと言う作品に対しての声の代弁である。