網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

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輝きの夢≪後≫

高海たちとのやり取りを終えた日の夜。

俺は自室で何ともいえない気分を味わっていた。

……間違ったことは言ってないんだって思うけれど、それでも言い方はあったんじゃないかとも思える。

松浦はしっかりとみんなをフォローしてくれただろうか、高海は立ち直れただろうか……?

 

 

「角人、入るわ」

 

 

ノックと共に掛けられた言葉、言葉が終わると同時に開かれる自室のドア。

まぁ当然のごとく押し入ってきたのはダイヤだった。

 

 

「返事位聞けよ」

「返事など待っていても居留守を決め込むだけでしょうに」

「……そりゃごもっともなことで」

 

 

あいも変わらず俺の話を聞かないコイツは、俺の部屋のベッドに座り込み、コイツの私物であるカエルのぬいぐるみを無言で抱きしめた。

 

……このカエルのぬいぐるみ、淡島へ少し前の休日にまた二人で行ったときにダイヤが珍しく注目していて、『欲しい』のオーラを隠せていなかったのもあって、呆れつつもプレゼントしたもの。

買ってから一週間はコイツの自室に置いてたはずなのに、気付けばなぜか俺の部屋に放置されていて、その癖俺の部屋に来るときは必ずこれを抱いているのだからよくわからん。

 

 

「…………で」

「何?」

「お前何しに来たんだよ」

「なんだっていいじゃない」

 

 

カエルのぬいぐるみに顔をうずめながらそっけなく答えるダイヤ。

正直言うなら今はだれとも話したくない気分だから、用がないというなら帰ってくれると嬉しいんだが……

 

……そしてダイヤが無言で居座ってから早十分。

時計で確認したから間違いない。

あまりにも無言だし邪魔もしてこないから、十政から受け取った『厨二病用語大全』なんていうものを開いているが、全く内容が頭に入ってこない。

 

 

「……なぁ」

「何?」

「いつまでそうしてるんだ」

「わたくしの気が済むまでよ」

 

 

……迷惑な奴だなぁ。

そんなことを考えながら、用語大全を閉じて時計を見ると、もう三十分経っていたことに気付く。

明日も学校だし、そろそろダイヤを追い出して寝かせたほうがよさそうだ。

 

 

「ダイヤ」

「……っ、ええ、ええ、呼んだ?」

「……お前今寝てただろ」

「寝てないわ、わたくしは寝てません」

「……そーかい」

 

 

だとしても慈悲はねえ。

明日も早いんだからさっさと寝ろと告げると、ダイヤは不満そうな表情で無言の抗議を俺に送る。

 

 

「……だから何だって聞いてんだろ」

「角人、自分の顔を見ないのかしら?」

「いきなりなんだよ。鏡はあんまし使わねぇぞ」

「今の自分の顔を見なさい、だいぶやつれているように見えるわよ」

 

 

ダイヤから差し出された手鏡を言われた通りに覗いてみると、確かに気持ち弱ってるようにも見える自分の顔が映っている。

……無意識にこんな顔するほど、高海たちへの言葉で悩んでたのか俺は……

 

 

「貴方のことだから、高海さんたちにキツイ言い方をしたということで悩んでいるのでしょう?」

「……まぁな」

「わたくしからは、『貴方がああいうことでしか示せない道もある』ということを言うけれども」

「……それでしか示せない道?」

「ええ」

 

 

ダイヤはカエルをベッドに置いたまま、部屋のドアまで移動する。

そしてドアを開け、出る直前に彼女は俺の方を向いた。

 

 

「とりあえず、見苦しいから部屋で一人悩まないでちょうだい。次やったら貴方の部屋を無くすから」

 

 

……なんという暴論。

でも、ダイヤなりに俺のことを気遣ってくれたのだろうか。

部屋を無くしてまで一人で悩むことを禁止とかいうのはとんでもなく驚くが、まぁ、きっと『相談しろ』って言いたかったんだろう。

 

 

「……徹するしかねぇよなぁ」

 

 

μ’sは一度活動途中に解散危機が起こったと聞いた。

原因はリーダー、高坂穂乃果の焦りによる独走。

最初から目標をもって動き、それをすでに達していた弊害かその時のμ’sはある意味迷走状態だったのだとか。

 

廃校問題による唐突な目標変更。

俺は、ただ輝きたい、ただやりたかったという彼女達を応援している。

だからこそ今回の高海の思い切りにはより反対したかった。

これが『やることは変わらないけどその中の活動で廃校問題にも立ち向かってみよう』であったなら、俺は許していたのだろうか。

小原には申し訳ない気もするけれど、それなら。と認めていたに違いない。

 

 

「……廃校が撤回不能だって言えたらいいんだけどなぁ……」

 

 

きっとそれだったら、この話はもっと別の道を辿れたに違いない。

 

 

「……寝るか」

 

 

絶対に本人の前では言わないけど、アイツのおかげで今日はよく眠れそうだ。

 

 

 

***

 

 

 

翌日の放課後、俺とダイヤは生徒会室で書類仕事をしていた。

ダイヤは途中からパソコンを開き、今年の入学希望者についての情報を確認している。

 

 

「……やはり、入学希望者そのものがはるかに少ないわ」

「仕方がねぇのかもなぁ、通学的な事情はめんどくさくなるとは言えども、結局は子供をどういう環境で勉強させたいかって話になっちまうし」

「入江の月では既に今年から牛臥の方へ転校する手続きを済ませた保護者もいるそうよ」

「仕事はえぇなぁ……うちはそんな話が出てないのか?」

「ええ、わたくしが把握している限りではそんな話ありませんわよ」

 

 

いいことか? それとも悪いことなのか。

今までその話が出てないということは、この学校が好きな生徒や保護者が多いのか、それともまだ保護者同士で期を伺っているのか……

 

 

「ちなみに、わたくしのクラスメイトの中には、『Aqoursの活動があるから最後まで転校しないつもり』だと言う者もいたわ」

「……ああそっか、それも要因に在るのか」

「ええ、生徒たちだけでなく、保護者もこの学校のことを最後まで見守ってくれるという話が出るのだから。彼女達はそういう意味でよくやっていると思うわ」

 

 

しみじみとつぶやくダイヤ。

確かに高海たちの活動がなければ、入江の月の様に生徒たちが転校することも多かったかもしれない。

彼女達の純粋な活動は、その意図がなくとも結果的に廃校からの二次被害を防いでいたのだ。

 

 

「彼女たちにはあのまま頑張ってもらいたいものね」

「そういうお前はどうするんだっつーの」

「……まだ、まだわたくしが動く時ではありません」

「それ最後まで動かないフラグじゃねぇか……」

「しっ、仕方がないでしょう! わたくしにだって仕事が山積みなのです!」

 

 

それはお前が、他の役員には部活を優先させているからじゃねぇか……

良くも悪くもほとんどすべての仕事を俺が来るまでは一人、俺が来てからも実質二人だけでやっているのだから山積みなんだ。

もっとこいつも周りを頼ればいいのに。

 

 

「角人には頼っているので無問題ですわ」

「俺以外にも頼れよ」

「……学園生活に花を添えるのは生徒会の役目でしてよ?」

 

 

まったく、お人好しと言うか責任感が強いというか……

そうして自分のやりたいこと殺してたら様ないだろうに。

 

 

「わたくしにはわたくしがするべきことがわかっているわ、やりたいことはその後」

「……そうか」

「アナタみたいに悩んでいるわけではないもの、そこは安心なさい――それと、そこの人御用は?」

「ピギッ!?」

 

 

ダイヤが苦笑いをしながら話を打ち切るとともに、ドアの向こうにいる客人へと声をかける。

特徴的な悲鳴と共に出てきたのは義妹のルビィ。

少し険しそうな表情だったダイヤがホニャリと目じりを崩す様にふと俺も笑みが零れる。

 

 

「あらルビィ、どうかしたの?」

「あの……お姉ちゃん、角人さんも……えっと、今日は帰りが遅くなるってことを言いたくて……」

「えっと……部活動か?」

「は、はい……」

「そう、わかった、お父様たちには伝えておくわ」

 

 

ルビィは苦々しい顔をする俺と、ダイヤを一度交互に見た後、頭を下げて生徒会室を出ようとする。

――なぜか、俺はそんな彼女に声をかけようとしていた。

 

 

「――ル「ルビィ、スクールアイドルの活動は、楽しい?」ッ……」

「……うん、楽しいよ? やりたいこと、いっぱいできて、とっても」

「そう、ならいいの。したいことをしてらっしゃい、夕餉までには帰るのよ」

 

 

ダイヤの言葉にうなずき、去っていくルビィ。

なんで言葉を遮ったのかと、ダイヤへ抗議の視線を向けると彼女は涼しい顔でこういった。

 

 

「わたくしはただ、あの子が好きなことをできている部活なのかどうかを、改めて聞きたかっただけなのだけど」

「……白々しいな」

「なんのことかしら? ほら、早く仕事を切り上げて帰るわよ」

 

 

 

***

 

 

 

数日後、生徒会室に小原が押しかけてきた。

随分とプリプリ怒っていたので理由を聞いてみると――

 

 

「スミト、昨日チカッチたちが『廃校阻止を目指した』PVを作ってきたわ」

「……そうか」

 

 

……結局、作ったのかあいつらは……

最近はめっきり部活の方に顔出せなくなったから、どんなものを作ってたのかは何故か松浦に聞かされてたが、内容が全く違うぞ、どういうことだ松浦よ。

そして、マリーのその言葉に俺をかばう声をあげたのはダイヤだった。

 

 

「鞠莉さん、角人は貴方に頼まれたことをキチンと――」

「ええ、もちろんわかってる。スミトはスミトのやることをしてくれたって、どんなことを言ってくれたのかもカナンから聞いてる。少しくらいNervousになっても許せちゃうわ。だからマリーついつい叫んじゃったの『Youたちはスミトから何も学んでないのですね』って」

「鞠莉さん……」

 

 

ダイヤが呆れとも感激とも取れる色々と入り混じった感情の声をあげる。

小原がそんなことをいうなんて、結構思い切りがいい様で……

なんか、少し、ありがたいと思った。

 

 

「Sorry、ついつい我慢できなくて……」

「まぁ、鞠莉さんの言う通りならば確かにわたくしもキツく言ってしまいそうですわね……」

「でしょう!? 一応Dataは貰ってきたけど見る?」

「ええ、見ますわ。鞠莉さんがお冠になるそのPVを見てやりますわ!」

 

 

小原のUSBメモリーをひったくって自分のパソコンに差し込むダイヤ。

『ここの推しが足りない』とか『もう少し見せようがある』とかワイワイと騒ぐ二人の姿を見ながら、ふと俺は考えた。

――小原たちがここまで言ってくれるのに、俺はうじうじ逃げてどうするんだ。

 

 

 

***

 

 

 

翌朝。

朝と言うよりかはもはや深夜。

今日から海開きなのだが、そのために町中が一丸となって海岸の清掃を行うという恒例の行事がある。

一応昨年も参加したりはしたのだが、そういえばその時のメンツの中に高海たちもいたのかもしれない。

なんだ、結構世間って狭いのな。

 

 

「ふぁあ……」

「だらしないですわよ角人、黒澤家の一員としてここにいるのだからシャンとなさい」

「へいへい……」

 

 

眠気を押さえつつ、帰ったら昼寝をしようと決意しゴミを拾っていると、誰かに肩を叩かれる。

その相手は――高海だった。

 

 

「先生、あの、私あれから考えたんです」

「……はあ?」

 

 

いつも通り唐突に話をするところは注意しても治らないようだ。

 

 

「えっと、スクールアイドル活動のこと、考え直したんです」

「……そう、か」

「鞠莉さんにも言われて、みんなで話し合って――私たち、決めたんです」

 

「――廃校のことを前提に置くんじゃなくって、全力で【今】に取り組んでから廃校のことを考えようって!」

 

 

そう声をあげた高海の顔は、えらくすがすがしく見えて。

 

 

「だから先生、新しくPVを撮りなおしたいんです。嘘ついてごめんなさい、もう一度、チャンスを下さい!」

 

 

頭を下げる彼女からは、三人でライブをしたあの瞬間の真剣さを感じて。

 

 

「……どんなのを作りたいんだ?」

「内浦の人たちの、普段の生活。あとは、学校の屋上から! 綺麗な夕焼けを! この町のありのままを撮りたいんです! この町が私は好きだから、それを見てほしい!」

 

 

要望を告げる彼女からは、今までのみ込まれていた酔いから覚めていて。

 

 

「だから!」

 

 

――俺は、そんなコイツに、貸せる手を貸してやりたい。

 

 

「――わかった、勤務時間外の学校の屋上使用許可と市民の生活の撮影許可だな、撮影用の機材は俺が調達しておく。そのほかには何がほしい?」

「えっと……夜空を彩る何かがほしいです!」

「何かってオマエな……ま、いいだろう。どうせなら派手にやろうか、曲とかはあるのか?」

「まだです!!」

 

 

ガクッと脱力してしまう。

なるほど、お得意の『思い付き』なのだろう。

いつもの感じのようで何よりだと、笑みが零れる。

 

 

「だから待っててください! 今なら作れるから!」

「……おう、じゃあ出来たら今度こそちゃんと見せてくれよ?」

「はい!!」

 

 

元気よく返事をして、渡辺と桜内の下へと走って行く高海と入れ替わりに寄ってきたのは小原と松浦、そしてダイヤの三人だった。

……俺はホッと一息ついた反動か、一気に眠気が襲ってきて辛い。

 

 

「Hi、GoodなOpening of sea seasonねスミト」

「I’m very sleepy. I want to back home.」

「カドセン、すっごい眠そうだねー……」

「まったく、本当にだらしないんだから……」

 

 

仕方がない、眠いものは眠いんだ。

 

 

「それで、チカッチたちとは仲直りできそう?」

「たぶん大丈夫だとは思うけどね、さっきの様子を見る限り千歌もカドセンの言ったことがちゃんと伝わってるっぽいし」

「そもそも果南さん、角人に嘘の報告をしていたことについての弁解は?」

「あー、それはー……ほら、ありのまま報告してたらカドセン本当に活動停止しそうだったし……」

 

 

なんでもいいんだが、俺を挟んで喧嘩はしないでくれ、ダイヤ。

それと、気が抜けたからかすごく眠い。

神居さんに掃除任せて、俺は少し端っこで寝ていようかな……

ああ、こういう時に静かな曲が聞こえたらいいな。

あ、星があったらまた風情があるなぁ……

 

――あ、そうだ。

 

 

「スカイランタンとか、夜空に飛ばしたら星っぽくていいな」

 

 

明後日の部活とかで、高海たちに持ち込んでみるか。

 




六話後半部分です。

・入江の月高校
当作品を読んでくれる読者様には通じるこの学校。
当作品では廃校問題は浦の星女学院と同じようにほぼ決定事項とし、進められている。
スクールアイドルがこの学校にはいないという設定でもある。

・カエルのぬいぐるみ
淡島で実際に売っている茶色の丸っこいカエルのぬいぐるみがモチーフ。
角人の部屋で彼からプレゼントされたぬいぐるみを彼と一緒の時に抱きしめるのがもっぱら最近のダイヤの家での空き時間の過ごし方。

・手鏡
実はこのぬいぐるみの腹部分はポケットになっていて、ダイヤはここに小さな鏡を入れている。
なんで鏡なのか、そっぽ向いたときでも鏡使えば彼の姿見れるからね。

・果南
あくどい果南ちゃん。角人にPVのことはあまり言わなかったご様子。
その真意は千歌の幼馴染特有の『走らせてみればその時彼女自身でわかる』という理解によるもの。
鞠莉&角人とスクールアイドル部の実質的パイプ役だがまだAqoursに加入はしてない。

・鞠莉
思わず激おこマリーちゃん。
角人の『廃校阻止はメインにしないで、活動自体における過程の中に置け』という複雑な意訳を理解したが故のおこである。
アニメでも最初作ったPVはどうも不評だったからね、仕方がない。

・ダイヤ
ツンデレというよりももうデレデレじゃねぇかというお言葉を貰いそうなデレっぷり。
意地張ってAqoursに参加してないけれど参加したい意欲自体は持っているご様子。
そしてシスコン、アニメでのルビィへの気遣いは素晴らしい。

・角人
やっぱり問題児。
あんな啖呵いいながらナーバスに自室で籠るあたりまだまだ未熟。
この後掃除中に居眠りこいてダイヤに叱られたのはまた別の話。
彼は『輝きたいAqours』が好きであって『μ'sに憧れるAqours』が好きなわけではないというのが、今回前後編通した彼の想いである。

・スカイランタン
2011年、ディズニーの『塔の上のラプンツェル』で一躍話題になったらしい道具。
中国やタイでの行事で使う気球の原理を応用した空中ランタンで、別名はチャイニーズランタン。伝承的に孔明灯とも呼ばれるもので、通信手段だったり、祈祷行事の道具になっている。
ポーランドでは洗礼者ヨハネ生誕の行事で使われているらしいが、いろいろ調べても沼津に関係性は特にない。むしろ日本だと北日本に縁が深い。
なんでチョイスしたのかについては本作Originalで『星っぽさそう』という角人の思いつきである。


次回東京、あの男が満を持して登場?
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