「……東京……だぁ?」
「はい! 私たち、東京、秋葉のスクールアイドルイベントに招待されたんです!」
……どうやらPVが好評を得、スクールアイドルランキングも急上昇したAqours。
その彼女たちのPVを見たイベント運営委員会のほうから直接オファーが届いた……らしいのだが。
正直言って信頼性は低い。
スクールアイドルが世間知らずの学生集団であることに付け込んだ詐欺事件、誘拐事件、暴行事件などが起こっているのだから、これもその可能性を否定できない。
ならばどう確認する、秋葉原でイベントが行われている裏付けは――そうだ、あそこの一体仕切ってる家が親戚じゃん、利用してやろうじゃねぇか!
「えっと、先生……いきなり携帯取り出してどうしたの……?」
「……ええっと、あのくそ野郎の番号は確か前に……あった――もしもし?
「えっ、ご当主?」
「ええ、白岡の長男ですけどぉ――あっクソッ! アンチクショウ切りやがったな!?」
「ピギッ!?」
あの野郎『白岡なんて姓は聞き覚えがございません』とかのたまいやがって!
許嫁との式だって親父殿と祝いに行ったってつうのに!
親戚の姓覚えてないとかやっぱあいつむかつく!!
「ああクソッたれ! なんであんな性格破綻のアンニャロウが本家様してるんだっつーの!」
「なんだか今日の先生怖いねぇ……」
「本家様……東原……うーん、なんか聞いたことあるんだけど……」
全く、いらいらするったらありゃしない。
とりあえずどーすっか、とりあえず高海たちを練習に行かせといて……
ん? 着信だ、誰だ――あっ、この人は……
「先生?」
「……ちょっと電話出てくる。皆はいつも通り練習開始、後でそのイベントの有無は確認しておくから」
≪はい!≫
高海たちを送り出して俺は一人電話を受ける。
電話口から聞こえる声はあの人間破綻野郎を唯一思うがまま操作できる人物、伝説のスクールアイドルμ’sのメンバーだった人物――
「もしもし」
『――ごめんなさいね角人君。またあのバカが迷惑をかけちゃったみたいで……』
「あー、いや、お仕事中にすいませんね奥さん」
『フフッ、なにその呼び方、ドラマみたいね――それじゃ、要件を聞かせてちょうだい』
「えっと、すいませんね真姫さん。そちらで開催されるっていうスクールアイドルのイベントについて聞きたくて――」
――西木野真姫、現姓は東原真姫、その人である。
***
あの後、真姫さんに確認して実際にイベントがあることを調査した俺は高海たちに報告。
彼女たちは俄然意欲満々で参加する気になっていて、俺は当日中にエントリーの返信をすることとなった。
また、その際の交通費などの話にもなるのだが、部活動で実際に行われるイベントに出演するのだから経費は落ちるだろうと思い、一度話を預かったうえで小原とダイヤにこれまたその日のうちに話をすることとなった。
「――と、いうわけで東京までの交通費用を追加経費で出せないか?」
「All OKよ、むしろHotelを手配しちゃう! やるならFull powerのPerformanceをしてほしいもの!」
「わたくしもそれに関しては同意するわ、こちらから東京まで向かうということは相応の時間がかかりますもの。一晩あちらへ泊まり英気を養う暇を与えるべきです」
なるほど、小原のコネを使えば東京の旅館で一泊も経費内で収まるだろう。
ダイヤの言うことも一理あるだろう、高海たちは東京で見てみたいものもあるだろうし当日大会に出て往復だけというのもモチベーション的にはあまりいいものではない。
「Hum、では決まりデスね」
「ええ、角人? しっかり顧問としての務めを果たしなさい」
「なんだ、お前らは来ないのかよ」
てっきりダイヤとか
『わたくしを置き去りにすることは許しません、ルビィと花丸さんも心配なのでついていきます――けっ、決してわたくしが行きたいわけではありません!』
とか言って無理にでもついてきそうなのに。
「わたくしのことをどうやって認識してるのかよくわかるわ……!」
「まぁまぁダイヤ、ダイヤが甘えん坊なのはTrueなんだから怒らないの!」
「誰が甘えん坊で寂しがり屋のシスコンツンデレですか!」
「誰もそこまで言ってねぇよ」
というか自覚してるのかよ。
「まったく、わたくしたちはあくまでも生徒会長と理事長。部活動の遠征までついていくなどありえません」
「それもそうか……」
「それにぃ、ほかのClassmateだって応援しに行きたいと思うわ。それなのにマリーたちだけ行ったらFairじゃないわ」
「と、いうわけです。角人、わたくしたちは行きませんから一人で頑張りなさい」
「……おう、頑張る」
とはいうが、秋葉原近辺の土地は全然詳しくない。
ガイド代わりになる人がいてくれればいいのだが……本拠地だし本家様に連絡とってみるか。
真姫さんにでも話をすれば何とかなるだろうし。
「角人」
「……おん? どうしたダイヤ」
「……えっと、その……」
突如話しかけてきたかと思えば口ごもり、視線を浮つかせるダイヤ。
小原のほうへ視線を向けてみると、真剣そうながらもどこかニヤニヤとした笑みを浮かべている。
再びダイヤへ視線を向けたとき、彼女がガバリと顔を上げたことで――
「……Wow、このHappeningは予想外デス……」
「ぁ……ぁ……ぁぁぁ!?」
「えっと……え……ぇ?」
――どうやら、ダイヤと俺は、キスを交わしてしまったらしい。
……キス……
…………え、キス?
「ああぁぁぁぁああ!?」
「ダイヤ!? ダイヤァァァ!?」
「えっと……キス……ダイヤと……キス……?」
「スミト! スミト!!――Shit! こっちもShortしてるわ!」
***
ダイヤとの事故から数日。
互いにぎくしゃくしてたけれども、ノーカンということで手打ちにできた俺は、高海たちを引き連れて沼津の駅前で渡辺、津島と合流。
高海たちがクラスメイトから差し入れを受け取り、俺は『女子高生と一緒だからと浮かれないでねシラカド先生』とか揶揄をいただき、改めて東京へ。
……渡辺と桜内以外は極端に主張の激しい服で行こうとしたのを見て、全力で説得したのもあって予定より遅れてしまったが、多分先方は許してくれる。
いや、許してほしいと願っている。
「ここが……東京……!」
「うわぁ……人がいっぱいず……だぁ」
「フフッ、フフフフッ、ここが……ここがあまねく魔のものが闊歩すると言い伝えられている約束の地……魔都、東京……」
「魔都って……まぁ、あながち間違いじゃないんだけど……」
「うわぁ見てみて! スクールアイドルの広告があるよ!」
そして、秋葉原に到着したとたん盛り上がって各々はしゃぎだすメンバーたち。
目立つから向こうからして見つけやすいんだろうが恥ずかしい――
頭を押さえていると、二人組の男性がこちらにいつの間にやらよって来ていた。
「おう、どうやらあんたたちが真姫ちゃんの言ってた白岡さんご一行か?」
「……そうだが、あなたたちが迎えで?」
「おう、俺は
「よろしくお願いします、僕のことは気軽にミッチと呼んでください」
ワイルドさと父性を醸し出す南さんと、幼さと強かさを醸し出したような暮島さん。
彼らは東京遠征のちょっと前に真姫さんに相談したところ、『じゃあ私の友達で暇が空いてる人を案内役に呼んでおくわ』と、手配された人たちだ。
暮島といえば暮島財閥……ということはおそらく御曹司なんだろう。
そして、南さん……うん、どんなつながりなんだろうさっぱり予想できない。
「えっと、私が白岡角人です。彼女たちはスクールアイドルAqoursの面々です」
「高海千歌です!」
「渡辺曜です、ヨーソロー!」
「桜内梨子です」
「オ……マルは国木田花丸です、こっちは黒澤ルビィちゃんず……です」
「よ……よろしく……です……」
「我が名は堕天使ヨハネ……悪魔の祝福を受けし者……」
「あ、彼女が津島善子です」
「ヨハネッ!」
「おう、よろしくな。とりあえず旅館まで行こうぜ、観光はチェックインの後だ」
各々が自己紹介を終え、旅館につき、荷物を置いた後、自由時間となった。
待ち合わせは目立つ場所ということでUTX学園校舎近辺。
夕方に待ち合わせし直し、各々がツーマンセル以上で好きな場所を回るようにと伝え、俺、南さん、暮島さんの連絡先を教え、そして解散した。
「そんじゃ、俺たちはどうするんだ?」
「僕らは彼女たちからの連絡に合わせて動くんですよ。それまでは一応自由なので――まぁ僕らも好きに回りましょう、白岡さんも秋葉原は慣れていないようなので」
「あー、すみませんお二人とも……」
「気にしないでください、僕らはもともと特に用事もなかったので。ね、ザックさん?」
「まぁ、一応な。真姫ちゃんからの頼みだし、新しいスクールアイドルにも興味があったし」
暮島さんが呼んだザックとは――おそらく南さんのことだろう。
しかし、普通ならばザックではなくガックではないだろうか?
どうでもいい悩みだろうが、ふと気になるのだから仕方がない。
「……ああ、実はですね、ザックさんは結婚済みなんですよ」
「えっ、おいくつなんですか……?」
「あー、俺は26だよ。一昨年結婚したんだよ」
「それで、旧姓の
ということは婿入りか……南か……ん?
南ってそういえば……あれ、μ’sのメンバーに南って人がいた……
「お気づきのようですね、そう、ザックさんは音ノ木坂学院理事長の南さんとご結婚しているんです」
「南ことりは俺の義娘なんだ。自慢の義娘なんだぜ!」
まじか、真姫さんあなたの友人ってなかなかすごい人がそろっているようですね。
年の差婚かぁ、いろいろとすごい人なんだな南さん……
「まぁ、俺自身は言うて大した奴じゃないから気楽に頼むぜ」
「そうですね、ザックさんはヘタレオブヘタレですからね」
「そうそう!」
「奥さんに交際を迫るどころか動転しすぎてプロポーズしちゃうほどですからねぇ」
「そうそ――ってさっきからミッチテメェ!?」
「だって本当のことじゃ――あああ!」
ザクザクと南さんの心をえぐる言葉をブン投げていく暮島さんと、そんな彼に笑顔でアイアンクローを決める南さん。
なんつーか、信頼しあってるんだなぁということがよくわかる。
……敦と英司にも久々に会いたいものだなぁ。
「――あ、そうだ、折角角人がスクールアイドルの顧問してるんだから、今ほかにも注目されてるスクールアイドルの紹介してやるよ!」
「あ、それは名案ですね。Aqoursのライバルにはどんな人たちがいるか、それを知っておくだけでだいぶ変わると思います」
「えっと……じゃあ、お願いしようかな……」
「――あ、すいません。これから彼女が来るので、四人になってもいいですか?」
えっ、それって俺と南さんが空気いづらくない?
でも南さんなんか納得したような顔してるし、『あー』って言いながらうなずいてる……なんでだ?
「あーまぁいいんじゃね? これからする話にはツバサちゃんいたほうがいい感じに回りそうだし」
「えっ、えっ?」
「あ、ミッチ説明説明」
「あー、そうですね――僕の彼女、綺羅ツバサって名前なんですよ」
綺羅ツバサって今トップアイドルユニットとして有名な【T-E-A】の綺羅ツバサ……だよな?
――あ、ほんとだ、本物の綺羅ツバサ――ってなんでだ!?
***
合流後、南さんと暮島さん、そして変装した綺羅さんの三人と別れ、旅館で俺は高海たちから一つのユニットの話を聞いた。
――その名はSaint Snow。
南さんたちがいま最も『上がっている』と認識したユニット。
姉妹二人で息ぴったりのパフォーマンスなどが注目を浴びていて、今年のラブライブ優勝候補とまで認識されているらしい。
当然明日のイベントには参加するらしく、プログラム最初という順番を生かしてインパクトを残していくのだろうともいわれている。
高海たちはそんなユニットと神田明神で出会ったらしく、なんだか説明できない圧、凄みを感じたらしい。
――こりゃあ、明日のイベント終わった後が大変そうだな。
「まぁ……お前たちにできることは結局自分たちにとってベターなパフォーマンスをすることだ」
「ベストじゃないんですか……?」
「お前たちのベストなパフォーマンスは内浦の地域全体が協力してこそ発揮される。ならできるのはベターだろう? 最高ではなくともよくできたと少しでも思えるように頑張ればいい」
それに、初の大舞台だ。きっとベストを追求しようとしたらその分だけコケの反動が大きくなる。
失敗から人は成長するのだ、高海たちに凄みを与えたというSaint Snowにも、同級生たちの期待を背負った高海たちにも悪いが――今回のイベントは俺から見れば踏み台であるべきものだ。
思う存分力の差を感じて、悩んでほしい。それがこいつらの『ラブライブ優勝』という目標に一歩ずつ近づける方法だから。
「でも……」
「まぁ、緊張もプレッシャーもなにもかも感じてこい。お前たちのするべきことはライバルたちがいる場所の空気を知ることだ」
「……はい」
……荒療治かもしれないが、時間がない以上ここで空気を感じ取って、自分たちの壁が高いことを自覚させるしか、ない。
・東原家
白岡家の本家血筋に当たる家。
秋葉原から音ノ木坂一帯は東原家の領土のようなもので、スクールアイドルイベントなどもすべてスポンサーは東原家である。
・西木野真姫
ツンデレ系ピアノ少女。
後述の二名と合わせて作者の完結済み作品からのゲスト出演でもある。
旦那があまりにも他人に対して塩対応すさまじいので一番苦労する。
・南岳・暮島満実
元ネタは仮面ライダー鎧武より。
南岳は南ことりの母親通称親鳥とゴールインしていて、暮島満実は元A-RISEリーダー綺羅ツバサと絶賛交際中――どころか婚約中である。
・綺羅ツバサ・T-E-A
当作品ではA-RISEを世襲名と考えており、ツバサ達の卒業後は後輩たちにこの名が受け継がれているとしている。
ゆえにアイドルとしては別の名義が必要となったので、各員の頭文字から一文字ずつもらってTubasa、Erena、AnjuのT-E-Aとなった。
・角人
ダイヤとキス事故を起こしたMVP。
女子高生とお泊り?残念別部屋さ!
やっぱり導く方としては今回の特別講習で割り切る必要もあったらしく、少しばかり意地悪になった。