ある日の夜、突如ダイヤに呼び出された俺は、ダイヤの寝室にて畳で
別に正座と言ってもそんな俺が悪いことをしていたわけではない。
単にダイヤの部屋に来ると自然と正座をしなければならない
これは訓練された故の反射神経ではないぞ断じて。
「――来たわね。角人、あなたに
「……なんとまぁ珍しいな、お前が俺に対して頼み事だなんて」
「わたくしだってお願いを言うことくらいあるわよ?」
「――えぇ? 本当にござるかぁ……?」
少し考え込むようなふりをして、時代劇のドラマで見るような感じに疑念の言葉を返す。
俺はすこしおどけただけだというのに、文字通り視線だけで
そんな目ばっかり人に向けてくるようじゃ、お前いつまでたってもクラスのみんなに腫れもののように扱われるぞ?
と、口が裂けても言っては成らぬことを
「ご心配なく、こんな顔を向けるのは
「それ全然嬉しくねぇんだよなぁそれさぁ!」
「このわたくしが特別扱いしているのだから、もう少し喜んでもいいんじゃない?」
なぜわかったのかわからないが俺の思考に返答をしてくるダイヤ。
俺は気まずさを抱えながら、特別扱いという名の絶対零度といっても差し支えのない視線にあてられつつも、ダイヤに話の続きを促す。
咳払いを一度しつつ、ダイヤは改めて話を切り出した。
「実は生徒会の業務としてだけど、使用されていない部室の
「それさ、俺の勘違いじゃなければもともとは
「そっそれはわかっているけど……しかし任されたからには責務を果たすのがわたくしの務めであると思うし……」
しかしダイヤはそろそろ中間のテストが近づいてきたためにそんな暇はない……
なるほど、しからば俺に代わりにやってくれと望むのもまぁ仕方がないことであるともいえる。
だがな――
「ダイヤ、使われてない部室って一部屋でいいのか?」
「そうね。どうやら学校側も
「だとしたらそれって余計に俺たちが
俺の言葉にダイヤが顔をしかめる。
しかめる……というかはなにやら
いや、言いたいことはたぶんわからんでもないが、結局そうやって掃除するのは俺だぜ?
きっとダイヤのこれまでから考えるに俺一人に一任してきやがる可能性も――
「べっ別に角人一人に掃除をさせようと、しているわけではないのだけども!」
「あっそうなの? ……てか、なんでわかった」
「貴方の顔がそういってるような気がしただけ……それよりもっ、あなたがわたくしをどのように見ているかがよくわかったわ……!」
拳を震わせながら顔を伏せるダイヤ。
これはまずいと俺は必死に、どうどうと落ち着かせながら謝り、改めてダイヤに話を継続させた。
なだめる際の代償として俺は
***
とりあえず話をまとめると、掃除にはダイヤも参加するが、生徒会役員をテスト勉強があるにもかかわらず招集するわけにもいかない。
そんな考えのダイヤは俺くらいしかほかに
……理由を纏めてみればよくわかるがいつもは綿密にそういう話を纏めてくるようなダイヤにしては
急ごしらえの話だとしても生徒会の業務であるならあいつはきっちりいろんな手順を踏んでいるだろうし――
「どう思うよ、双葉君」
「ほわっ!? それを僕に振りますか白岡センセ!」
「いや、だってこういう話するなら君にした方が
「相談しながら勝手におかず入れ替えないでください、いや嬉しいですけど!」
そんなわけで今は昼休み。今日も今日とてどこぞかに行こうとする双葉を、
今日も変わらず豪華な食べづらい弁当の中身を少々、双葉の持参した弁当の中身と
双葉は呆れつつも取り換えられた具を美味い旨いと食べる。
これに関してはメノウさんたちの手料理が気に入られているようで何よりだと思っている。
「そういいながら白岡センセは僕のお弁当から鶏のから揚げ食べていますよね!?」
「
「あ、ありがとうございます――ってそうじゃないんですよねぇ!?」
まぁまぁ。となだめながら俺は双葉君に自身の弁当箱から鶏肉の――たぶん
途端、喜と楽でコロコロと変わっていた双葉の表情が
……はて、もしかしてかもしれないが何か嫌いなのがあるのか?
「いやぁ、僕
「あーそうなのか。それならこれ食えんか……」
「鶏肉は好きなんですけどねー……」
仕方がないと残念に思いながら、俺は黙々とそれを食べる。
――そういえば。と双葉が切り出したのは
どうしてダイヤが杜撰染みた理由を立ててしまったのかといったような感じの話。
双葉から――もしかして。という前置きとともに伝えられた言葉は正直筆舌に尽くしがたいものだった。
「ダイヤさんは片づけの時間を利用して、
「……あのダイヤが公私混同して……かぁ? ないない」
「うわぁ――これダイヤさんをそれなりにわかってるからこその確信だぁ……」
双葉の言葉を、ないない。と否定し、弁当箱を部屋にいつの間にか
神居さんから手渡された水筒から、数度中身をのむ。
すっきりした後味のお茶。おそらくこれは――麦茶かな?
「いつも思いますけど白岡センセのその執事さんは何処から出てきてるんですか……?」
「んー、神居さんは
「それってたぶんルーラ習得してたり伝説のオカリナとか持ってますよセンセ!?」
「失礼ですが双葉様、私はあくまでも
「あ、ごめんなさい――って違うんですよ! まず否定してほしいのはそこじゃないんですよ!」
神居さんは苦笑を浮かべつつ双葉をあしらいつつ
うむ、やっぱり神居さんは見てる時は
改めて双葉に向き合い、話を切り出す。
「とりあえずだ、双葉君。明後日の放課後空いてる?」
「いやいやいや、センセまずは最近のゲームでは絶対に見ることができないような退室の仕方に何か思わないんですか!?」
「ん? 神居さんは
「絶対に変なんですよねこれ。ドアを開けないで部屋を突然出るとか、あの人だけこの世界
変な双葉だ。神居さんが扉を開けないで出ていくなんて
そういうと双葉はもう何かを悟ったような、それでいて諦めているような表情を浮かべ、数度うなずいた。
その後、なにか解脱でもできそうな表情を浮かべながら一言だけ言った。
「センセ、放課後空けておきますね」
「おう、助かる」
***
時は二日後に過ぎゆき、放課後。
件の部室前で双葉を連れてダイヤと待ち合わせた。
掃除をするということも伝えてあるため、双葉の格好は入江の月指定のジャージ。
俺も久々に高校時代のジャージにそでを通したが、あんまり肩幅とか
英司とか淳なんて数年で色々成長してたっていうのに俺は……
「センセ、急に絵文字になりそうなポーズを取ってどうするんですか」
「いやぁね……
「あれ、センセってFOシリーズだとかそういったFPSだとかTPSのやったことありますっけ」
「ねーよ。FPSとかTPSとかFOシリーズってなにさ始めて聞いたんだけど。てか人体の残酷さで浮かんでくるそれって何だよ」
「うーん……世紀末世界戦争ゲーム? ですかね」
「なんだよその聴くからに大地がマッハなゲーム!?」
そんなやり取りを続けていると、体操着に着替えたダイヤが向こうから駆けてきた。
汗をかいているところも見るに、きっと
職務には真面目な奴だからな。こんな生徒会長が務めていてこの学校は幸せだと思う、たぶんだがな。
顔を上げたダイヤは双葉の顔を
「ごっ……ごめんなさい角人、待たせt――はっ?」
「あー、お邪魔していますダイヤさん。今日もその艶やかな黒髪が美しいですね!」
「……ごきげんよう双葉さん。して角――白岡先生、これはいったい
「あん? そりゃあ人手増やしたんだよ。掃除を二人だけでやるのもできなくはないだろうがさ」
「そうでしたわ……角……な……ばや……ねな……て……そうか……が……べ……した……」
俺の言葉を聴いてうつむき、なにやらぼそぼそとつぶやくダイヤ。
それを見て双葉は肘を俺に当てる。
ぼそりと彼から聞こえたのは、
とはいうが、もし双葉の言ったとおりだとしても俺には全く非がないだろう?
俺は仕事だって思ったんだし、何よりダイヤが仕事だって言ってたしなぁ……
「……いいですわ、わかりました。予定道理掃除を行いましょう」
「うん、そうだな。具体的に片づけるところを知りたいんだが」
「主に備品の整理ですわ。掃き拭きと言った掃除に関してはひとまず置いておきます」
「つまり人一人で持ってける類の奴だけ外に出せばいいのか?」
ダイヤはうなずいてマスクを付ける。
今回掃除するのは昨年卒業した生徒が半分以上を占めていたという元公式部活。
残った生徒も現二年と現三年が一人ずつで、彼女達からは既に廃部する承認は貰っているとのこと。
彼女達と卒業生たちが持って帰るものはあらかた持って帰ったらしいので、あと残ったやつは生徒会の好きにしてもよいというのは聞いている。
割と昨年から掃除もされていないらしいので大掃除のような感覚である。
「あと白岡先生には言い含めておきますが、あなたは決して
「あん? なんd――
「いい返事です。それでは始めましょう」
俺の疑問に、――質問するな――とばかりの視線を向けてきたダイヤに逆らうこともできず。
泣く泣く了承しながら俺もマスクをつけ、元部室へと入った。
「うわぁ……埃っぽいな……」
「そうですね、思った以上にものもあるようですし……」
「これは由々しきことですわね……今年度からは部室の掃除も定期的に行わせるべきでしょうか……」
パッと見綺麗に片づけられたような部室。
しかしよくよく見ると学校から与えられたエアコン、机と椅子、ロッカーとホワイトボード以外にも、生徒が持ち込んだようなラックや置物などが置きっぱなし。
配置だけは綺麗だが、片づけるものは多そうだという現実に少しげんなりする。
隣の双葉に目をやると物珍しそうにキョロキョロしているが――たぶん女子校の部室に入ること自体がもう
――あっ少し泣いてる。感極まって泣いちゃってる。
「グスッ……生きててよかった……ウウッ」
「……ほれ、ハンカチ」
「ありがとうございます……センセ……」
ハンカチで目元をぬぐい、改めて部屋に向き直る双葉。
さて、掃除を開始しよう。
***
結論を言おう。
俺は部室の掃除から
聴こうと思ったが思ったよりも双葉もダイヤも忙しそうだったため、俺の自己判断で物を仕分け始めていた。
しかし仕分け始め、三つめの物に取り掛かった時に、俺に向かってダイヤから声をかけられた。
後ろを向けば怒髪天を貫くような様子のダイヤ。
何が問題かと思って尋ねてみたところ、次の言葉とともに慈悲もなく追い出されたのだ。
「角人、あなたがその三つめの仕分けに取り掛かっている間わたくしたちは
なるほど、つまり遅すぎるということなのか。
だからと言って、仕事だといったのはお前なのに追い出すのはよろしくないと思うんだ。
その癖勝手に帰ったら説教だなんて無情すぎる。
「ダイヤの鬼っ! 悪魔! ちひろっ!」
「ビークワイエットッ!」
「センセってデレマスやったことないって聞いたんだけどなー」
怒られた。解せぬ思いのまま、大人しくじっと二人が掃除を終えるまで待っていることにした。
・ダイヤ
作戦大失敗の許嫁(仮)。
角人が変なところで真面目なのはよくわかっていたが、まさか助っ人として神居ではなく半部外者である心継を連れてくるとは思わず。
しかしよくよく考えればあの方法は生徒会長の自覚としてどうなのだと、自問自答のラビリンス行きしてしまった不憫な乙女でもある。
・角人
デリカシーだとか乙女心だとかそんなものは投げ捨てていくやつ。
普段から学校内の活動についてダイヤと家にて話すことも多く、故にそういうのと同じだと思い、掃除の件を真面目に考えていた。
神居への認識が一番歪んでいる人。神居ならば海外旅行に行ってても自分の下に来れそうだとか真剣に捉えている。
・神居
人外のようで人間の人。
所業の数々は人間ではなく、しかし本人的には人間感覚というこれまたずれた人。
できるようになったのは坊ちゃんである角人のため。
出来る執事は主人の為に常識を生きることを、やめてしまうのであろうか。
・心継
トマト嫌いの鶏肉好き。鶏肉のトマト煮は好きなものと嫌いなものが混在しているせいで存在を許しがたい感じになっている。
角人の貧乏性には慣れつつあるが、やはり昼飯毎に自分の弁当の中身を勝手に彼のモノと入れ替えられる瞬間だけは慣れない。
最近の角人のお弁当でお気に入りなのは焼き鳥。タレと肉のうまみが絶妙らしい。
・FOシリーズ
ゲーム、フォールアウトシリーズのこと。
人体の残酷さ云々で言えば海外ゲーム故か私的トップランクの表現力。
最新作4の某人の実況は作者の楽しみでもある。
・ちひろ
ゲームに精通している心継君であればわかるネタ。
しかし角人はゲームを知らず周りの発言だけでそれを知った節があるので言葉だけしか知らないのもいつものこと。
ダイヤも慣れたのか、一言で返すだけのようである。