網元の長女と許嫁(仮)みたいなんだが!?   作:次郎鉄拳

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ダイヤの誕生日まで

十二月もすぎさりそうな冬。

現役の大学生である俺、白岡角人は今年最後の授業を終え、久々の地元の商店街をふらふらと探検していた。

あいにくと今年の、実家での寝正月目的での帰省は却下されたが、もともと黒澤家で済む前から実家近くの大学に通っていたのだ。

時間申告制で向こうから車で迎えが来る仕様で有る故に、時間猶予さえもらえれば実家周りをうろうろしたって文句は言わせない。

まぁ、今日は完全に授業が終わる時間を、あえて遅めに申告したから黒澤家からの迎えまで猶予を作ったことは確信犯なのだが。

まぁ大学の授業もこれで終わり、明日以降は黒澤家に缶詰されてしまう未来しかないので、泣く泣く今年最後の三島の風景を心に収めていこうと思う。

 

 

 

「おっちゃん! おひさ、身体はどうよ!」

「おお角人君じゃないか久しぶりだねぇ! 儂は元気だよ!」

「あっはっは! 内浦に今住んでてねぇ……! 顔出せなくてごめんなー」

「いいんだよ、久々に角人君の元気な顔を見れたからねぇ!」

 

 

 

俺が寄ったのは昔から世話になっているアクセサリーだとかそういうものを売っている店。

値段もそこそこに抑えてあるし、店主のおっちゃんも昔からの顔なじみで、調子がいい時はおまけをくれたりもする。

年始以来顔を出していないので、ここぞとばかりに顔を出しに来たのだ。

 

 

 

「それにしてもまた角人君男前になってなぁ……!」

「おっちゃんおっちゃん、その話年始も聞いたよ。まだ一年だってば」

「孫のように見てきた角人君が成長してたら一年だとしても嬉しいものさぁ!」

「アンタ! まぁた店先でお客と話し込んでェ……あら? あらあらあら!」

 

 

 

オイオイと泣き始めるおっちゃんをどうしたらいいのか困っていると、店の裏からおっちゃんの奥さん――おばちゃんが顔を出してきた。

こちらの顔を見たとたん、まさしく親戚の子供に久々に会ったような顔をし、おばちゃんも近寄ってきた。

実はおばちゃんのほうはちょっとだけ苦手だ。

ぐいぐい来る人ってなんか押されがちになってしまう。

 

 

 

「あっら角人君じゃない! いつ帰ってきたの? 久し振りねぇ!」

「お久しぶりです。帰ってきたというか、今年最後のこちらでの時間なんで」

「あらあらあら! わざわざうちに挨拶に来てくれたんだねぇ!」

「あはは……そんな感じですね」

 

 

 

ニコニコと俺の背中をたたきながらおばちゃんは店の中に俺を引っ張っていく。

内装は年始の頃来た時と全く変わらず。

しかしクリスマスを意識しているのか少しきらびやかな雰囲気があった。

内装に目を向けていたことに気付いたのか、おばちゃんはクリスマスを話題に出してきた。

 

 

 

「角人君彼女にプレゼントなんてどう? クリスマスにぴったりのアクセサリーあるわよ!」

「あー、いや……俺、彼女……いないので」

「ほんとぉ? 角人君って昔からそういう浮いた話出てこなくてちょっと心配なのよぉ」

 

 

 

相変わらず余計なお世話だなぁと思いつつ、おばちゃんをあしらい、店内を見て回る。

そんな折に、ふと思い出したことがあった。

クリスマスの先、元旦。この日は、許嫁(仮)のダイヤの誕生日であることだ。

思い出した理由は義妹(仮)のルビィが――お正月はお姉ちゃんの誕生日だから……――と、今月入ったばかりの時に念押ししていたからだと思う。

 

 

思えば前年の正月は、今年度の二月から黒澤家に厄介になるために実家にいて、その時はダイヤが誕生日だという言葉も聞いていなかった。

もしかしたらダイヤが俺に帰省を禁止した理由とは、自身の誕生日を共に過ごしてほしいと思ったから――

 

 

 

「ねえな」

 

 

 

――即座に否定する位それはないと思える。

いや、だって、あのダイヤだよ?

親友には――典型的なツンデレちゃん――とか云々言われてるけどダイヤだよ?

まさかあいつが俺に一緒に過ごしてほしいとか――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「それじゃあメリークリスマス。そして、よいお年を角人君。」

「角人君、来年も顔出しに来てね!」

「ええ、それじゃあお二人ともお体に気を付けて」

 

 

 

店を出て、大学の校門まで歩く俺の腕には、購入したアクセサリー。

――ああそうだ、買ってしまったんだ。

別にダイヤに誕生日プレゼントだからとかそういうのじゃなくて、アイツこういうキラキラしたの好きじゃなさそうだからってわけで。

別にあいつがこれつけたら似合いそうだとかそんなん思ってはない。断じてない。

なんか親友がダイヤについて考察したあと俺に向けて――似たもの同士だね――なんて言ってたが俺はツンデレなんて見苦しいものじゃない。

自問自答を続けながら歩く。そんな折、急に携帯電話が鳴る。

まだ黒澤家からのお迎えの約束まで時間がある。ならばこの電話はいったい――

 

 

――俺は、何も見なかった。

電話口に【黒澤ダイヤ】なんて書いていない。俺は何も知らない。

何も知らんとばかりに電話を無視し、校門にまた向かいだすと再び電話がかかってきた。

またダイヤかと思ったが、次に表示された名前は【黒澤ルビィ】。

ルビィが電話をかけてくるだなんて大変珍しい。きっとよっぽどのことなのかもしれない。仕方がない、出るか。

そう思い、電話に出た瞬間、鼓膜が破れる勢いの怒号が響いた。

 

 

 

『ちょっと角人ッッ!! どこをほっつき歩いてるの!? もうすでに授業は終わっているはずでしょっ!!』

「――――ァッ!」

『わたくしがわからないとでも思った!? なんのつもりなの! 迎え役にもうその時間を伝えている癖に、わたくしに一言も連絡がないなんて!』

 

 

 

ダイヤのやつは、なぜ俺のスケジュールを完全に把握しているのか。

ああ、そういえばたぶんなんか俺の手帳見てたことあったっけ。

まさかあの時以外にも俺の目を盗んでちょくちょくと見ていたんじゃあないだろうか。

なるほど、つまりはいつまでたってもスケジュールの時間通りに帰ってこないし、それについて一言も連絡がないから業を煮やして……

……だからと言ってルビィの携帯使ってでも俺にキレるか?

 

 

 

「わーった! わぁーったわぁーったから! 悪かった、俺に非があるのわかった悪かった!」

『――むっ、そうやってあなたはいつも話を反らそうとしてっ!』

「しないしない! これから帰るから! 帰ったらプリン好きなの作るから!」

『……じゃあ、バニラプリンを作ってくれる? それ以外は認めないわ!』

「あいあいさー――っと。ほんとアイツ……いつの間にかなんか家主っぽくなってない? 俺まだ姓は黒澤になってないよね……? まだ翡翠さん当主交代してないよね?」

 

 

 

さすがにこれ以上ダイヤとの会話を拗らせると今晩帰る家がなくなってしまう。

つい先日もマルちゃんの家に転がり込んだばかりなのでまた行くのも申し訳がない。

仕方がないので平謝りして穏便に済まそうということでダイヤと交渉を終え、通話を切る。

 

 

そしてふと考える。どうやら俺の外堀が、ダイヤ当人も気付かぬうちに彼女自身で埋めてしまってるようだ。ということに。

ダイヤのことだからさすがに婚姻届けに記載しろとかいうことはないだろうと思うが……

……まて。俺はいったい何を考えたんだろう。

俺が黒澤家に婿入り? ハハハそんな馬鹿な。

……そんなばかな。うん。

寧ろダイヤが白岡家に嫁入りするべきだ。そうに決まっている。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

大学が冬休みになり、それでも時は早くも過ぎ去り、俺の大学生活最後の年が始まる前日となった。

そう、大晦日だ。この日、予想通りというかなんというか、黒澤家では例年紅白以外見ることはない。

そして年が明けてすぐ、氏神様参りを行い、直後神社ではなく、マルちゃんの家であるお寺に詣でに向かう。

その後黒澤家内での挨拶を一通り終えてからみんなも就寝……という流れである。

お年玉なりおせちなりなんなりは朝起きてから。

 

 

正直家族そろって思い思いの時間に寝て、初詣は新年二日目以降となっている我が家と比べてしまうと『しきたりコワイ』の一言である。

いったいどこに家主が直々にお年玉の由来だとか、お正月の食べ物の意味を細かく享受する家があるだろうか。あ、黒澤家か。

ちなみにその時に念押しで翡翠さんに告げられたのは【三が日は喧嘩せずに笑顔でいること】だった。

いや、まぁ確かにダイヤと喧嘩してますけど、俺だってやりたくて喧嘩してるわけじゃあなく……

 

 

そんなことをぶつぶつ考えていると肩を揺さぶられた。

やけにビクビクした感じでこわごわとゆすってくる感じ、うん、間違いなくルビィだ。

ダイヤだったら俺に対して遠慮なしに力入れてゆすってくる。こんなに優しくない。

 

 

 

「どーしたルビィ、今日くらいはゆっくりしていいって言われてたが……」

「お姉ちゃんの……誕生日プレゼント……をね?」

「……ああ、そういえばそうだったそうだったわ」

 

 

 

ルビィの言葉に俺は自室へ急いで戻る。

日付が変わった直後から寝るまでの間に自室へ戻る暇など与えられない。

今取りに戻らねば、ダイヤの誕生日プレゼントは朝に渡すこととなる。

 

 

実はルビィの計画で、新年のマルちゃんのお寺での詣でが終わり次第、三人からダイヤにそれぞれ誕生日プレゼントを渡すという話だったのだ。

別に俺は朝に渡してもいいと思うんだけどといったのだが、昨年までもダイヤは誕生日当日は近隣への挨拶に揉まれて、ろくに祝える時間がなかったのだとか。

……網元の長女っていうのもなかなかに大変なものだなぁ。

うちはなんでなのか親父殿一人でさばいてた記憶しかない。すごいよ親父殿、今までその苦労知らなくて本当にごめんよ。

というか思えばダイヤって新年と誕生日が一緒に祝われていたのか……?

だとすると涙が隠せない。

 

 

 

「……角人、あなたなぜトイレの前で泣いているの……?」

「……あっ」

 

 

 

どうやら歩きながら、ダイヤの悲しい事情に涙を流していたところ、トイレの前で立ち止まっていたらしく、付近を通りかかったダイヤに呆れられていた。

前々からこうやって思案にふけった結果変なところで立ち止まることもあるため、とりあえず来年からの目標でそれを減らしていこうと思っている。

というか、ダイヤとかに指摘されてようやく分かった癖だが……

 

 

 

「あなたはもともと変な癖ばかりなんだから、一度に治そうとしないほうがいいと思うけど」

「なんで俺の考えていることがよまれてるんですかねぇ!?」

「顔に出やすいんだもの、そういうことよ。貴方と違ってわたくしは相手の気持ちは読めるのだから」

「気持ちが読めるんなら是非とも、今の発言は胸の中にしまってほしいものだ……!」

「貴方相手に言葉を閉まってしまえば、いつまでたっても言葉が伝わらないと思うのだけれど」

「なんっだとぉぉぉ……?」

「事実じゃない……!」

 

 

 

どれくらいダイヤとメンチを斬り合っていたかわからないが、気付いたときには翡翠さんが間に入って俺たちのメンチの斬り合いを止めていた。

曰くもうすぐ新年が明けるから準備をしてほしいだとか。

ダイヤも同じことを告げられていたのか、顔を真っ赤にし、不満そうな顔を残しながらも居間へ向かって行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あけましておめでとうマルちゃん」

「おめでとうございます角人さん。今年もよろしくお願いします」

「いやぁまさかこっちで年を越すとは思いもしなかったわ……」

「角人さんもこれで正式に黒澤家入りずら」

「待って待って待って。俺が黒澤家に入るんじゃないの。ダイヤが白岡家に入るの」

 

 

 

幼馴染のマルちゃん――国木田花丸ちゃん――と新年のあいさつを交わしながら、さらりと告げられたことを全力で否定する。

否定したところでマルちゃんの顔が文字通り苦笑いになっていく。

だからなぜそんな顔で微笑ましそうな目を俺に向けるんだマルちゃん。

 

 

そんなやり取りをしているうちにいつの間にかルビィがダイヤに誕生日プレゼントを渡し終わっていたらしい。

マルちゃんを引っ張っていき、その際に俺もダイヤに渡すように言ってきた。

というかさ、ダイヤのやつすっごい顔がほころんでるの。

いつもより厳しそうなこと言ってるのに頬が緩んでやがるの。

 

 

 

「――すっげぇにやけてんな。そんなにルビィたちからプレゼントもらえたのがうれしいのか?」

「すっ角人!?」

「ほれ、鏡。みてみ?」

「わっわたくしがこんな……」

 

 

 

にやにやしっぱなしのダイヤに鏡で見せて恥ずかしがらせる。

こんな感じでいつも表情を明るくしていれば可愛いと思うんだがな……

と思っていると、俺の視線に気付いたのか顔を隠し、表情を直した後、こちらをにらんできた。

――渡すなら、今だな。

 

 

 

「ダイヤ、俺からはこれな」

「――はっ!? 角人……ドッキリではないの?」

「ばっかこの流れでドッキリとか人間としてどうなんだよ」

「でっでも……角人……わたくしの誕生日は……」

「ルビィから聞いたよ。ほんとは買うつもりなんてなかったけどよ……気まぐれだ、気まぐれ」

 

 

 

相手がダイヤだとしても、女性にプレゼントを渡すというのが未知の体験で気恥ずかしい。

顔をそらしながら手に持った袋を渡すと、ダイヤはクスクスと声を上げながらそれを開ける。

中に入っていたのは――

 

 

 

「あら……これは……フフッ、わたくしに似合いそうね」

「ばーか、お前どうせ似合わないものなんてないとか言うんだろうに」

「あら? わたくしにだって似合わないものくらいあるわ。いいセンスよ角人。精進しているようね」

「……だからなんで偉そうなんだよ……」

「貴方だってまんざらでもない顔をしているじゃない……?」

 

 

 

ああ、いやだ。恥ずかしい。

言い訳をしながら買った、カーバンクルのネックレス。

紅い濃さがダイヤに良さそうだと思ってしまって手に取った物。

今まで見たことないくらい優しい笑みを浮かべながら、ダイヤはそのネックレスを首にかける。

 

 

 

「着け心地も、ちょうどいいわ。ありがとう、角人」

「……おう、誕生日おめでとう」

「わたくしは祝ってもらったのに、昨日はあなたの誕生日を祝うのを忘れていたわね」

「……別に、気にしてねぇよ」

「それなら、今年こそ祝ってあげる」

 

 

 

そう俺に宣言するダイヤの笑顔は、間違いなく、誰だって見惚れるようなもので――

 

 

 

「……楽しみにしてる」

 

 

 

――婿入りも、別に良いかもしれないって、俺は思った。

 




・角人の地元
白岡家のある静岡県三島市。角人は地元にいるという理由だけで大学も某私立大学へ進学。
きっと就活も三島市の働き口だけ探していたに違いない。


・ツンデレ
本心を素直に言えない照れ隠しなキャラクタータイプ。
言い訳して買い物をするあたり似たもの同士なのは違いない。


・ダイヤ
着々と正妻の道を歩む許嫁(仮)。
角人のスケジュールを把握し、連絡がなければこちらから連絡するといった感じのちょっと重たい愛?を見せる


・マルちゃん
お寺、角人の避難所となっているそこの一人娘。
角人と黒澤姉妹の話を聴く機会があり、【もう早く結婚したらいいのに】と考えている。


・誕生日
角人は大晦日に誕生日、新年で新年会などとしっかり分けて祝ってもらっていたなどというのもあって、まとめてでのプレゼントをもらう人たちに同情を禁じ得ない。


・婿入り嫁入り
すでに結婚自体を否定する様子がないので時間の問題である。


・カーバンクル
一月の誕生石であるガーネットの別名。
角人は直感で購入した。
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