「す……角人……さん」
「ん、こんな時間にどうしたんだ、ルビィ」
「えっと、その……あのね?」
「まぁ、とりあえずこっち来て座れ。立ったままだと辛いだろ?」
ある日の夜、俺の部屋に訪れたのは――義妹(仮)のルビィ。
ダイヤと違っていつもはツインテールにしているつやつやとした紅い髪を、寝る前に来たからなのか解いている。
セミロングというのだろうか、そんな長さの髪をゆらゆらとさせながら視線が落ち着かないルビィを部屋に招きいれ、近くの椅子に座らせる。
「あ、ありがとう……ございます」
「どういたしまして。それで、こんな時間にどうしたんだ?」
「そっそれはね……?」
ルビィの向かいに座り直し、目線を合わせるように少しかがんで、来た理由を聞いてみる。
またしても彼女はモジモジとして、両指を自分でツンツンとしながら言葉に詰まる。
「……言いづらいのか?」
「えっとね……お姉ちゃんには……
だんだんとしりすぼみになりながら理由を説明していくルビィ。
恐らくお姉ちゃんには内緒――
「あのねっ、アニメイトに……行ってみたいなって……」
「――やっぱり、そうかぁ」
「だめ……ですか……?」
「まさか。いつ行きたいんだ?」
「……日曜日かな……?」
――
幸いにも沼津市には駅まで行けばという条件はあるが、その店は存在する。
俺が浦の星に就任する一か月前には、ライバル店なのだろうか?
どちらの店も隣市である三島にはないため、あまり俺には馴染みはなかった。
――いや、正直に言うと馴染みがないわけではない。
一応
ここしばらく行ってないが、正直アンチクショウは俺のことなぞ微塵も覚えていないであろうからこそ、行けと言われても行きたくないわけで。
よくあんな奴に
そう考えると、
「――結婚式呼ばれたときにも連れていかないようにしたほうがいいなぁ」
「……? 角人さん、どうしたの……?」
「ん? ああ悪い悪い。日曜日だっけ、俺は別に構わんぞ。先約があるわけでもないし」
「ほんと!? ……あっ、そのぉ……」
本家様のアンチクショウのせいで深く考え込み過ぎていつの間にかルビィへの返事がおろそかになっていたことに気付く。
謝りつつ、日曜日は空いていることを伝えると、ルビィは一瞬我を忘れたかのような感じで大きく喜びの声を上げた。
直後自身の声の大きさに赤面し、モジモジとしだすルビィ。
恥ずかしがり屋というのか、内気というのか、そればかりはどうにも俺に慣れてくれた今でも治りはしないというか、
「気にしなくていいさ。それで、昼とかはどうする?」
「あぅ……その、
「ポテトか……」
付近にはファストフードの店とかもある。
せっかくルビィも出かけるのだし、それなりにうまい店のポテトを食わせてやりたいものだ。
そうとなれば早速検索するしかない。
日曜日までは数日時間がある。ダイヤへの
「だめ……ですか?」
「当然良いに決まってる。どうする、二人でいくかい?」
「あ……マルちゃんも、いいですか?」
「オッケー。ああ、でもルビィのほうから誘っておいてくれると助かるかな。学校でも会うんだし」
「あ、はい。任せて、ください」
***
日曜日。俺とルビィとマルちゃんの三人はいつもの車送迎と違い、バスに乗り込んで駅まで向かった。
土曜日に学校から帰ってきたダイヤに向かって精一杯に、
翡翠さんとメノウさん? ああ、あの二人なら『角人君が一緒に行くんだろう? 花丸ちゃんもいるし、大丈夫だと信じてるよ』って
ダイヤだけは頑なに頷こうとしなかったのが予想通りだったが、神居さんの何かしらの助言によってなぜかあっさりと受け入れてくれた。
……その時に
『次は、沼津駅前。沼津駅前です』
「ん、おお。そろそろか」
「あっ、バス代くらいは……」
「気にしなくていいさ。これくらいは
「角人さんの甲斐性ってそれは
マルちゃんのジト目に心を刺されながら、彼女とルビィにそれぞれきっちりと運賃を持たせる。
三島に住んでいるときからなのだが、ICカードが楽とは言われる時代にしては、あまりにもこちらだと使う機会がない。
東京側ならばもう少し使う機会も多いのだろうが……
いや、そもそも俺は車によってどこかに行くことが多いのだからバスにも電車にもいつも乗らないのだし、ICカードなど
そんなことをつらつらと思いながら目的地のバス停で下車をする。
いつ来ても沼津の駅前は割と人が多いものだ。
物珍しそうに駅周りをキョロキョロとするルビィを誘導しながら、ひとまずはマルちゃんお望みの本屋まで向かう。
今日の外出には目的が二つ――いや、
一つ目はルビィの要望通りのアニメイトへ行くこと。
二つ目がマルちゃんを連れていくにあたって、彼女からの要望で一番大きな本屋に行くこと。
そして三つめが――ルビィに美味しいポテトを食べさせることだ。
昼飯は沼津駅前のハンバーガー店で食べることにしている。あそこならば美味しいポテトと美味しいオニオンリングを提供できると知っているからだ。
三島だと一番大きいショッピングセンターまで行かないと食べられず、もともとそっちに行く用事も限られているのでレアフードなのだ。
――何気にあそこ高いし遠いし、だけどあの味を食べたいと思って神居さんに要望したこともある。
その時彼はまったく同じものを作ってくれた――と思ったら、
突如誰かに服の裾を引っ張られる感覚に気付く。
後ろを振り向くとマルちゃんが呆れたような顔で俺のことを見ていた。
「角人さん、そのまままっすぐ行ったら通り過ぎちゃいますよ?」
「――おっとしまった」
「……クスッ」
「あールビィ、笑ったなぁ?」
「ごっ、ごめんなさい……フフッ」
またしても回想にふけってしまったようで、マルちゃんに服を引かれなかったらきっと本屋を通り過ぎていたに違いない。
俺の姿がよほどに滑稽だったのか、ルビィはクスクスと笑いだし、通行人の人たちには微笑ましい感じで見られていた。
果たしてこの人たちには俺たち三人は兄妹に見えているのだろうか? 見えていたら嬉しいんだがな……
***
「おいしそう……」
「ほえぇ……ライスバーガーなんていうものがあるんだぁ……」
「え? それほんとかマルちゃん――おお、マジだ! 復刻してる、俺が最後に行ったときにはなかったのに」
「ハンバーガーって色々中身あってすごいね……?」
「オラも初めてだからびっくりだけど、角人さんが行ったことあるみたいだし、きっと大丈夫だと思う」
本屋での買い物も済ませ、目的のハンバーガー店までやってきた。
メニュー看板を見ながら、キャイキャイと店前で盛り上がる二人をしり目に、財布の中身を急いで確認する俺。
なんてことはない――マルちゃんが手持ち少なそうに本を選んでいたからちょっと
その結果手持ちに多めに入れていた気もするような財布の中身が、あっさりと少なくなってしまったのは
――まぁ、二人分の昼食を奢るのには充分すぎる手持ちか。
「それじゃあ入ろう。ここは注文してから受け取るまでは時間がかかるから、今のうちに決めておかないとね。二人は何を食べたい?」
「うーん……これ、かな……」
「マルは、ライスバーガーが食べてみたいなぁ……」
二人の要望を聞き、店内に入る。
先にテーブルを二人に確保させておき、その間に三人分の注文と会計を終える。
番号が書かれたプレートを店員から受け取り、俺は二人が待つテーブルに着席した。
「あの……お金、返さないと」
「気にしなくていいさ。今回は持ち合わせのある俺が出したほうがいいだろう?」
「改めて思い出したけど、角人さん……お金持ちでしたね……」
「俺自身でも
「角人さん……おじいちゃん……なんて」
「やめてくれルビィ。それは、俺に効く」
財布を開けてお金を返そうとするマルちゃんを止め、自分が金を持っていることをアピールしておく。
さすがに中学三年生と、家が金持ちだと常々忘れそうになる大学生の俺では基本的にどちらが金を持っているかとかは明白。
嫌味だと思われようと、中学生の子に『割り勘な』と言い切るほど俺は
「またなにか考えてどや顔してるずら……」
「でも、そんな角人お兄ちゃんもかっこいい、よね?」
「まぁ……それはオラも否定はしないけどね……」
「でしょ……?」
二人に何か言われているが気にしない。
丁度店員が注文を持ってきてくれたので昼食に舌鼓を打つことにする。
うむ、やはりハンバーガーはここに限るな。いや、そもそも家の近くには他の店がないから
ついでに言うと大学だと友達と食いに行くのは基本学食とかそんなんだったから、ハンバーガー自体
***
「【LoveLive!】開催によるスクールアイドルピックアップフェアかぁ……」
「うわぁ……うわぁ……!」
「すごいなぁ……可愛いなぁ……」
目的のアニメイトについた俺達。
入ってすぐ目に入ったのは、スクールアイドルという学校の看板を背負ったアマチュアアイドルの少女たちのための特設コーナー。
年に1~2回、スクールアイドルの大会――野球で言う
そんなイベントが開かれていて、それの開催時期になるとこうして、今までの優勝してきたスクールアイドルや、今最も注目されているスクールアイドルの関連商品がピックアップされて並べられる――
らしいというのは俺が調べたわけではないから。大学の後輩が鼻息荒く語っていたことを
ルビィは最近スクールアイドルに強い興味があったっぽいし、ちょうどいいタイミングでここに連れてこれたぜ。
「しっかしなぁ……LoveLive! ってここ
「――あっ見て見てルビィちゃん、ルビィちゃんと同じくらい綺麗な
「恥ずかしいよマルちゃん……うわぁ、紅い……綺麗な人だねぇ……」
天井に取り付けてある小さなテレビモニターを指さしてマルちゃんがルビィを呼ぶ。
マルちゃんが注目した、ルビィと同じくらい綺麗な紅い髪――どこかで知っている気がする相手だ。
というかそれきっと
あの子がスクールアイドルやってたとか言って、本家様から嫁自慢とばかりに彼女が所属していたスクールアイドルグループについての特集雑誌とか、CDとかブロマイドとか、挙句の果てにはサインが
――まぁその送られてきた全部を。そう、全部を、そのスクールアイドル好きな後輩にばらまいてやったがなぁっ!
めっちゃ踊って喜んでたけどアイツあれからその品を何処に飾ったんだろうか。デカイ
まぁ、俺個人的にはその紅い髪の婚約者ちゃんよりも、
大和撫子っていうか、和っていうか、なんか冷厳に感じるけどどこか包容力の有りそうな……まぁこれ全部俺のイメージでしかないんだが。
その子を今の俺の周りの人で例えるなら――やっぱりそう、
着物着てる姿とか、浴衣も似合ってたし。俺はきっと和服に恋を感じるタイプなんだ、そうなんだ。
……いや違うし。ダイヤが好きってわけじゃなくて、和が好きなだけだし。好きな食べ物は洋食だけど。
いや、でも和食も好きだけどね、
「角人お兄ちゃん……さっきからなんで、ウンウンうなってるんだろうね……?」
「ルビィちゃん、角人さんはいっつもあんな感じだよ?」
「でも――あんなお兄ちゃんも、かっこいいよね」
「ルビィちゃん、恋は盲目っていうけどそれはさすがに……」
「マルちゃんは、角人お兄ちゃんに魅力がないっていうの……?」
「ちっ違うずらぁ! 角人さんはかっこいいけど、でも今の姿は
気付けばルビイがニコニコしていて、マルちゃんが顔を真っ赤にしていた。
二人は何を話していたのだろうか。声は聞こえていたが俺はまたしても回想にふけっていたのが災いして聴くことはなかったし。
……この癖はよくないな。やっぱ直していかなきゃ。
そんな思いを胸に固め、ルビィの気に入ったアイドルの雑誌などを買って、俺たちはマルちゃんを送りつつ黒澤家まで帰宅した。
***
「……ただいま、ダイヤ」
「あら角人、何に怯えているのかわからないけど、お帰りなさい」
家に帰ると、リビングで早速俺たちを出迎えたのはダイヤだった。
どこか優越というのかそんな笑みを浮かべる彼女に背筋を震わせながら、買ったものを
ルビィは内緒で趣味のアイドル関連の物を買ったことに引け目を感じたのか、俺の後ろで震えだした。
「やぁダイヤ、何をどうしてそんなご機嫌そうな笑顔を浮かべているんだい? なにかいいものでも見つけた?」
「そうね、素晴らしいものを見つけたわ。その前に――ルビィ」
「はっ、はい! たっただいま……お姉ちゃん……」
「ええ、お帰り。
ルビィはササッとダイヤの言葉通り俺の横を通りすぎ、自室へと戻っていった。
つまりこの空間にいるのは俺とダイヤの二人だけ。
……いったいどういうつもりなのか。
「角人、あなたはわたくしに内緒で、ルビィと花丸を駅前まで連れていったわね?」
「あっはぁ、ばれてーら……いやさ、これは俺が――」
「――わたくしをのけ者にして!
「……はぁ?」
ダイヤの言葉に思わず耳を疑った。
……ずるいっていったよね、今。
――あのダイヤが、そんなことを?
「ええ、ええ。
「ああ、うん、そうだな」
「でもわたくしだって
「んー、なるほど、なるほど」
これはいいことだ。今までのダイヤはそういうものに興味もないどころか嫌煙していたところがあった。
元々最近は欧米文化が当たり前のようにあるのだから、興味を持たないというのは大変勿体ないと思う。
だからこれは素直にうれしい。そう思う。
「ルビィの趣味にも寛容であるべき、わたくしはそう最近考えているの。だからこそ、今回置いて行かれたことには憤慨しているわ」
「……おう、それは……すまん」
「そうね。わかったなら、今度の日曜日
「わかったわかった……って、ええっ!?」
「なっ、何を驚いているの!」
うなずいてから何を要求されたのかに驚く俺。
いや、驚かずにはいられないだろう。
だってあのダイヤから、
……もしかして、ダイヤはデートだと思ってない?
なるほどなるほど、そうかそうか。仲間外れにされて拗ねるなんて案外寂しがり屋なんだなダイヤの奴も。
そうやって思考を纏めてうなずき、俺は改めて日曜の予定を空けることにした。
「日曜だな、わかった。空けておくぜ」
「えっええ、お願いね」
……さて、付近に抹茶ケーキがある店ってあるかな。
・アニメイト・ゲーマーズ
当作品ではアニメゲームなどの商品のほかにスクールアイドル商品も取り扱っているという扱い。
ちなみにだが、沼津駅前には実際にアニメイトがあり、今年三月にはゲーマーズが開店するのも事実である。
・バス
沼津駅からサンシャインの主な舞台と言われているところまでは片道800~1000位普通に取られる距離である。
一日ですべてを周るのは大変厳しいため注意を。
アニメではどれくらいの距離になっているのかも楽しみなポイント。
・ハンバーガー店
今回出したハンバーガー店は実際に沼津駅前に有る○○バーガー。
当作品は黒澤ダイヤプロモーション二次創作であるとともに聖地巡礼を目指す皆様の味方です。
・本家様のアンチクショウ・婚約者のあの子
私作品【近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?】より主人公のアイツのこと。
これまで何度か存在を出しているが、角人は毎度例にもれずコイツのことが嫌いである。
・神居さん
困った時のなんとやら。
料理スキルはそれなりに高いが有名店の味を再現できるほど料理がすごいわけではないのでそこはご愛嬌。
・LoveLive!
御馴染みスクールアイドル甲子園。
みんな大好きなμ’sの時にはすでに二回も短期間で開催されているのできっと年1~2回何だろうと思う。
きっとスクールアイドル商品ピックアップしている店なら時期が近いとフェアをやっているとも考える。
・綺麗な紅い髪・婚約者のあの子
西木野真姫のこと。上記にある本家様のアンチクショウが重度の真姫コンを拗らせているので分家でも親同士が一番親しい白岡の家にこういう贈り物(というなの嫁自慢)が届く。
・大学の後輩
スクールアイドル大好きな後輩。μ's一番の推しは海未だが、最近は過去のライブ映像をみてことりもいいなという悩みに置かれ始めている。
だが真姫のこともファンとして好きなので角人にグッズをもらったことは素直にうれしくて仕方がない。
壁やラックを使って律儀に飾ったりしているらしい。
・角人
最近黒澤家での生活に慣れ始めた人。
なぜかルビィと花丸以外の異性をダイヤ基準で考えそうになってしまうのが最近の悩み。
今はダイヤに外見も少し似ているということで海未ちゃんがμ'sで一番気に入っているが、もともとの推しは絵里だった。ただしどっちのことも名前を知らない。
昔から気の強い女性に惹かれやすいのかもしれない。
肉じゃがは元カノの味。
・ダイヤ
今回めでたく角人をデートに誘った完全勝利許嫁(仮)UC。
デートに誘う計画は説得された際に、神居による入れ知恵によって完成されていた。
・ルビィ
恋は盲目なお義兄ちゃん大好き娘。
角人が来てから家族がにぎやかになったことを一番喜んでいる子でもある。
・花丸
ルビィによってだんだんと外堀を埋められつつある子。
今回のおごりで貸しを作ってしまい、どうやって返したらいいかと悩む日々である。